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裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
一 本件事案及び原審の適法に確定した事実関係の概要
 本件は、恐喝未遂容疑で警察署付属の留置場に勾留中の被疑者に接見しようとし
た弁護人が、留置係の警察官に接見を拒否され、又は検察官に接見指定書の受領及
び持参を要求されて、前後九回にわたり接見を妨害されたとして、福島県と国に対
し、国家賠償を求める事件である。原審の適法に確定した事実関係の概要は、次の
とおりである。
 1 本件被疑者は、昭和六二年一二月四日、恐喝未遂容疑で逮捕され、同月五日、
福島県警察郡山警察署の留置場に勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止
決定を受けた。右勾留の期間は、同月一四日に同月二四日まで延長された。
 2 D(承継前の上告人、以下「D弁護士」という。)と上告人Aは、いずれも
弁護士であり、それぞれ同月四日と同月一七日に本件被疑者と接見して弁護人に選
任された。D弁護士の事務所は福島地方検察庁郡山支部(以下「地検郡山支部」と
いう。)から約一二五〇メートル、郡山警察署は地検郡山支部から約三一〇〇メー
トルの距離にあり、それぞれの間の所要時間は、自動車で一〇分内外である。
 3 当時福島県においては、福島地方検察庁次席検事が福島県警察本部に対し、
接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人から監獄の長に対する接見申出があった場合
には、検察官に接見の日時、場所及び時間の指定の要件の存否について判断する機
会を得させるため、右申出があった旨を捜査担当の検察官等に事前連絡するよう通
知していた。
 4 D弁護士は、同月九日午後一時ころ、郡山警察署に赴き、留置副主任官であ
るE(以下「E留置官」という。)に対し、同日午後四時以降の本件被疑者との接
見を申し出た(以下「本件接見申出(1)」という。)。E留置官は、接見の日時
等の指定をする権限がなかったため、D弁護士に対し、右権限のある検察官に連絡
して接見の日時等の指定を受けるよう求めた。そこで、D弁護士が、同日午後一時
五分ころ、地検郡山支部のF検察官に電話し、同日午後四時以降の接見を申し出た
(以下「本件接見申出(2)」という。)ところ、同検察官から同日午後四時以降
は取調べ予定であると言われたため、D弁護士は、翌一〇日午前の接見を希望する
旨述べた。これに対し、F検察官が接見指定書によって指定したい旨述べたところ、
D弁護士は、接見指定書をファクシミリでD弁護士の事務所に送付することを要請
し、同検察官は、検討すると返事した。本件接見申出(2)がされた時点において、
D弁護士が接見を希望した当日午後四時以降には、本件被疑者に対する確実な取調
べの予定があって、右希望どおりの接見を認めると、右取調べを予定どおり開始す
ることができなくなるおそれがあった。
 5 D弁護士は、同月一〇日午前九時ころ、F検察官に電話して接見の申出をし
た(以下「本件接見申出(3)」という。)。F検察官は、同日午前九時三〇分こ
ろ、折り返しD弁護士に電話し、「午後四時からの接見を認める。接見指定書をフ
ァクシミリで送付しようとしたが弁護士事務所へは送付不可能であったので、検察
庁に取りに来てほしい。事務員に来てもらってもかまわない。」旨述べた。これに
対し、D弁護士は、接見指定書を郡山警察署へ送付するよう要請したが、F検察官
は来庁を希望した。D弁護士は、F検察官が接見指定書の受領及び持参に固執する
ので、同日正午ころ準抗告を申し立てたところ、福島地方裁判所郡山支部(以下「
地裁郡山支部」という。)は、同日午後五時ころ、接見指定書により接見指定をす
るまでは接見を一般的に禁止する旨の一般的指定処分がされているものとして、「
F検察官がD弁護士に対しなした地検郡山支部で検察官の接見指定書を受け取り、
これを持参しない限り本件被疑者との接見を拒否するとの処分はこれを取り消す。」
旨の決定(以下「第一次準抗告決定」という。)をした。本件接見申出(3)がさ
れた同日午前には、本件被疑者に対する確実な取調べの予定があって、直ちに接見
を認めると、右取調べを予定どおり開始することができなくなるおそれがあった。
 6 同月一一日午前九時三〇分ころ、出張中であったD弁護士は、事務所の事務
員を介して、F検察官に対し、翌一二日(土曜日)の午前又は午後の一時間程度の
接見を申し出た(以下「本件接見申出(4)」という。)。F検察官は、同月一一
日午後一時四〇分ころ、D弁護士の事務所に電話し、事務員に対し、接見の日時等
の打合せのためD弁護士が翌一二日午前九時三〇分に地検郡山支部に来庁するよう
求め、接見指定書で接見の日時等を指定する意向である旨を伝えた。本件接見申出
(4)がされた時点において、D弁護士が接見を希望した同日午前には、本件被疑
者に対する確実な取調べの予定があって、右希望どおりの接見を認めると、右取調
べを予定どおり開始することができなくなるおそれがあった。また、同日午後は、
留置場の執務時間外であったところ、D弁護士が本件被疑者との執務時間外の接見
を必要とするまでの緊急の事情はなかった。
 7 D弁護士は、同日午前九時ころ、郡山警察署に赴き、E留置官に対して現に
取調べ中の本件被疑者との接見の申出をしたが(以下「本件接見申出(5)」とい
う。)、E留置官から検察官に無断では接見させられないと言われたため、同日午
前九時三〇分ころ、地裁郡山支部に再度準抗告の申立てをした。地裁郡山支部の裁
判官がD弁護士とF検察官を裁判所に呼んで事情聴取をした際、同検察官が「警察
と連絡を取り、D弁護士の希望時間に沿って接見できるように努力する。接見が可
能となれば、決まったことを接見指定書に記入するので、この指定書を警察署に持
参して接見してもらいたい。」旨述べたのに対し、D弁護士が接見指定書の受領及
び持参を拒否したため、接見の日時等の指定の方法について協議が整わなかった。
 8 地裁郡山支部は、同日午後六時ころ、「F検察官が昭和六二年一二月一一日
D弁護士に対しなした、地検郡山支部で検察官の接見指定書を受け取り、これを持
参しない限り、本件被疑者との接見を拒否するとの処分を取り消す。F検察官は、
D弁護士に対し、同人と本件被疑者との接見につき、刑訴法三九条三項の指定を電
話等口頭で行い、かつD弁護士が指定書を持参しなくとも指定された日時に本件被
疑者と接見させることをしない限り、D弁護士に対し、接見を拒否してはならない。」
旨の決定(以下「第二次準抗告決定」という。)をした。
 9 D弁護士は、同月一二日午後六時過ぎころ、F検察官に電話して本件被疑者
との接見の申出をし(以下「本件接見申出(6)」という。)、口頭によって接見
の日時等を指定することを求めた。これに対し、F検察官は、接見指定書で指定す
るとし、地検郡山支部に来庁して接見指定書を受領するよう求めたので、D弁護士
は、同日午後七時ころ、地検郡山支部に赴き、接見の日時及び時間を翌一三日(日
曜日)午前一〇時から同一一時五〇分までの間の一時間とする接見指定書を受領し、
同日午前一一時一八分から午後零時三〇分まで接見した。
 10 D弁護士は、同月一六日午前、F検察官に代わって担当となったG検察官
に対し、同日午後一時から同六時まで又は翌一七日午前若しくは午後のうちの一時
間の接見の申出をした(以下「本件接見申出(7)」という。)。G検察官は、同
月一六日午前九時一五分ころ、D弁護士に電話し、打合せのため来庁するよう求め
た。これに対し、D弁護士は、口頭による指定を求めたが、G検察官から来庁を強
く要請されたので、同日午後六時三〇分過ぎころ、上告人Aと共に、地検郡山支部
に赴き、G検察官に対して口頭での接見指定を要請し、一時間近い交渉の末、接見
の日時及び時間を同月一七日午前九時から同一〇時までの間の四五分間とする接見
指定書を受領した。D弁護士と上告人Aは、同日午前九時五分から同一〇時二分こ
ろまで接見した。本件接見申出(7)がされた時点において、D弁護士が接見を希
望した同月一六日午後と翌一七日午前及び午後には、本件被疑者に対する確実な取
調べの予定があって、右希望どおりの接見を認めると、右取調べを予定どおり開始
することができなくなるおそれがあった。
 11 上告人Aは、同月一九日(土曜日)午前九時一五分ころ、郡山警察署に赴
き、E留置官に対し、午前九時一〇分から昼までの予定で取調べ中の本件被疑者と
の接見の申出をした(以下「本件接見申出(8)」という。)。E留置官が、検察
官の了解なしに接見させることはできないとして、G検察官に電話したところ、G
検察官は、電話を替わった上告人Aに対し、協議のため地検郡山支部に来庁するよ
う要請し、同上告人の口頭での指定の要請に応じなかった。上告人Aは、郡山警察
署から地検郡山支部に赴き、同日午前の接見を強く希望したため、G検察官は、取
調べを中断させることとして、接見の日時及び時間を同日午前一〇時四〇分から同
一一時二〇分までの間の三〇分間とする接見指定書を同上告人に交付した。上告人
Aは、同日午前一〇時五八分から同一一時三三分まで本件被疑者と接見した。
 12 D弁護士は、同月二二日午後五時三〇分ころ、G検察官に電話し、翌二三
日の朝か夕方に三〇分間本件被疑者と接見したい旨申し出た(以下「本件接見申出
(9)」という。)。G検察官は、同月二二日午後六時ころ接見指定書を受け取り
に来るよう求めた。これに対し、D弁護士は、口頭での指定を求めたが、G検察官
が来庁の要請を変えなかったので、同日午後六時ころ、地検郡山支部に赴き、同検
察官と協議した結果、接見の日時及び時間を翌二三日午前九時から三〇分間とする
接見指定書を受領した。本件接見申出(9)がされた時点において、D弁護士が接
見を希望した同月二三日朝又は夕方には、本件被疑者に対する確実な取調べの予定
があって、右希望どおりの接見を認めると、右取調べを予定どおり開始することが
できなくなるおそれがあった。
 二 上告代理人大堀有介の上告理由第一点について
 1 検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)は、弁
護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(
以下「弁護人等」という。)から被疑者との接見又は書類若しくは物の授受(以下
「接見等」という。)の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を
与えなければならないのであり、刑訴法三九条三項本文にいう「捜査のため必要が
あるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生
ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等を指定する場合には、捜査
機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、
被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければなら
ないものと解すべきである。そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜
査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている
場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に
沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等を予定どおり開始することができなくな
るおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著
な支障が生ずる場合に当たると解すべきである(最高裁平成五年(オ)第一一八九
号同一一年三月二四日大法廷判決・民集五三巻三号五一四頁)。
 そして、弁護人等から接見等の申出を受けた者が接見等の日時等の指定につき権
限のある捜査機関(以下「権限のある捜査機関」という。)でないときは、右申出
を受けた者が権限のある捜査機関に連絡しその措置について指示を受けるなどの手
続を採る必要があるから、こうした手続を採る間、弁護人等が待機させられ又はそ
の間接見ができなかったとしても、それが合理的な範囲内にとどまる限り、そのこ
とは、許容されているものと解するのが相当である(最高裁昭和六一年(オ)第八
五一号平成三年五月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一六三号四七頁)。
 2 所論は、要するに、刑訴法三九条三項本文にいう「捜査のため必要があると
き」とは、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち
会わせている場合など、現に被疑者の身柄を必要とする場合に限られるべきである
との見解に立ち、本件接見申出(1)、(5)及び(8)を受けたE留置官として
は、本件被疑者が在監中である場合には、捜査の必要性がないから、直ちに接見を
認める義務があったというべきものとした上、E留置官の採った措置に違法がない
とした原審の判断には、同項の規定の解釈適用を誤った違法があるというのである。
 3 しかしながら、「捜査のため必要があるとき」には、捜査機関が弁護人等か
ら被疑者との接見の申出を受けた時に、間近い時に被疑者を取り調べたり、実況見
分、検証等に立ち会わせたりするなどの確実な予定があって、弁護人等の必要とす
る接見を認めたのでは右取調べ等を予定どおり開始することができなくなるおそれ
がある場合も含まれると解すべきことは、前記のとおりであり、E留置官は、権限
のある捜査機関ではなかったのであるから、右各接見申出を受けたE留置官が、D
弁護士と上告人Aに対して権限のある捜査機関である検察官に連絡して接見の日時
等の指定を受けるよう求め、又は自ら右検察官に連絡してその指示を受けるために
地検郡山支部に電話し、その間D弁護士及び上告人Aを本件被疑者と接見させなか
ったことをもってこれを違法ということはできない。これと同旨の原審の判断は、
正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見
解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 三 同第四点ないし第八点について
 1 所論は、要するに、F検察官及びG検察官が、本件接見申出(2)ないし(
9)について、接見の日時等を指定し、接見指定書の受領及び持参を要求した措置
は違法であるのに、右措置に違法がないとした原審の判断には、刑訴法三九条三項
の規定の解釈適用を誤った違法があるというのである。
 2 しかしながら、原審の確定した前記事実関係によれば、本件接見申出(4)
については、F検察官が、D弁護士から事務員を通じて翌日の接見の予告があった
のに対し、同弁護士と協議して接見の日時等の指定をしようと考え、同弁護士に翌
朝地検郡山支部に来庁するよう求めたにすぎず、接見を拒否する処分をしたものと
はいえない。また、本件接見申出(2)ないし(9)がされた時点において、本件
被疑者は現に取調べ中であったか、D弁護士又は上告人Aが希望した日時には本件
被疑者に対する確実な取調べ予定があって、右希望に沿った接見を認めると、右取
調べを予定どおり開始することができなくなるおそれがあったか、又は希望の日時
が留置場の執務時間外であったところ、執務時間外の接見を必要とするまでの緊急
の事情はなかった。さらに、本件接見申出(7)ないし(9)については、G検察
官は、D弁護士及び上告人Aの希望にほぼ沿って接見の日時等を指定している。し
たがって、本件接見申出(2)ないし(9)について、F検察官及びG検察官が接
見の日時等の指定をし又はしようとしたことが、D弁護士及び上告人Aと本件被疑
者との接見を違法に妨害したものとはいえない。
 3 捜査機関が弁護人等と被疑者との接見の日時等を指定する場合、その方法は、
捜査機関の合理的裁量にゆだねられていると解すべきであり、電話などの口頭によ
る指定をすることはもちろん、弁護人等に対する書面(接見指定書)の交付による
方法も許されるものというべきであるが、その方法が著しく合理性を欠き、弁護人
等と被疑者との迅速かつ円滑な接見交通が害される結果になるようなときには、そ
れは違法なものとして許されないものというべきである(最高裁昭和五八年(オ)
第三七九号、第三八一号平成三年五月一〇日第三小法廷判決・民集四五巻五号九一
九頁)。
 これを本件についてみると、【要旨】原審の確定した前記事実関係によれば、D
弁護士の事務所と地検郡山支部との距離及び地検郡山支部と郡山警察署との距離は
それぞれ約一二五〇メートル及び約三一〇〇メートルであり、それぞれの間の所要
時間は自動車で一〇分内外であったことに加え、F検察官は、接見指定書の受領に
来るのは事務員でも差し支えないとの意向を示したり、第二次準抗告を審理する地
裁郡山支部の裁判官から事情聴取を受けた際には、その場でD弁護士に接見指定書
を交付する旨提案するなどしたというのであるから、接見指定書を受領し、これを
郡山警察署に持参することがD弁護士及び上告人Aにとって過重な負担となるもの
であったとまではいえない。また、前記のとおり、本件接見申出(2)ないし(9)
については、申出の時から接見を希望する日時までに相当の時間があるか、又は接
見の日時等を指定する要件があり、若しくは執務時間外の接見申出であるために、
D弁護士及び上告人Aが本件被疑者と直ちに接見をすることはできなかったのであ
るから、地検郡山支部まで接見指定書を受け取りに行くことによって接見の開始が
遅れたともいえない。そして、当時は地検郡山支部からD弁護士の事務所に対して
ファクシミリで接見指定書を送付することができなかったなどの事情も考慮すると、
F検察官及びG検察官が、右各接見申出について接見指定書によって接見の日時等
を指定しようとして、D弁護士と上告人Aにその受領及び持参を求め、その間右指
定をしなかったことが、著しく合理性を欠き、右両名と本件被疑者との迅速かつ円
滑な接見交通を害するものであったとまではいえず、これを違法ということはでき
ない。
 そして、第一次準抗告決定は、検察官によって一般的指定処分がされているもの
として、これを取り消したものであるところ、前記一3の通知が捜査機関の内部的
な事務連絡であって、それ自体は弁護人であるD弁護士及び上告人A又は本件被疑
者に何ら法的な拘束力を及ぼすものではなく、本件において一般的指定処分がされ
たとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。そうする
と、第一次準抗告決定は、その対象を欠くもので、検察官を拘束する効力を生じな
いものというべきである。第二次準抗告決定は、F検察官が本件接見申出(4)に
対して接見指定書で接見の日時等を指定する意向である旨伝えたことが接見を拒否
する処分に当たるとした上、これを取り消したものと解されるところ、右処分がさ
れたといえないことは前記2のとおりであり、右決定もその対象を欠くものという
べきである。また、右決定は、その後にされる別の接見申出に対する接見の日時等
の指定の方法についてまでも検察官を拘束する効力を有するものとは解されない。
したがって、F検察官及びG検察官が接見指定書によって接見の日時等を指定した
ことの適否についての前記判断は、右各準抗告決定が存在すること自体によって左
右されるものではないというべきである。
 4 以上と同旨に帰する原審の判断は是認するに足り、その過程に所論の違法は
ない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点
を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用すること
ができない。
 四 その余の上告理由(同第二点を除く。)について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所
論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採
用することができない。
 五 なお、上告代理人大堀有介の上告理由第二点の論旨の理由がないことは、前
記大法廷判決の判断したところである。
 よって、判示三につき裁判官元原利文の反対意見があるほか、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官元原利文の反対意見は、次のとおりである。
 私は、法廷意見のうち、判示三の判断部分の中で、本件接見申出(4)(6)に
ついてF検察官、同じく(7)(8)(9)についてG検察官がなした各措置に違
法がないとした部分並びに第一次準抗告決定及び第二次準抗告決定の各効力につい
て判示する部分には同調することができない。その理由は、次のとおりである。
 一 憲法三四条前段は、何人も直ちに弁護人を依頼する権利を与えられなければ
抑留又は拘禁されることがないと規定し、刑訴法三九条一項は、この趣旨にのっと
り、身体の拘束を受けている被疑者、被告人は、弁護人又は弁護人となろうとする
者(以下「弁護人等」という。)と立会人なしに接見し、書類や物の授受をするこ
とができると規定する。この弁護人等との接見交通権は、身体を拘束された被疑者
が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属
するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つで
あることはいうまでもない。身体を拘束された被疑者の取調べについては時間的制
約があるから、弁護人等と被疑者との接見交通権と捜査の必要との調整を図るため、
刑訴法三九条三項は、捜査のため必要があるときは、右の接見等に関してその日時、
場所及び時間を指定することができると規定するが、弁護人等の接見交通権が前記
のように憲法の保障に由来するものであることにかんがみれば、捜査機関のする右
接見等の日時等の指定は、飽くまで必要やむを得ない例外的措置であって、それに
よって被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されるべきではな
い(同項ただし書)。捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったと
きは、原則としていつでも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑
者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中
断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のた
めの日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるよ
うな措置を採らなければならないのである(前掲平成一一年三月二四日大法廷判決)。
 二 右に述べたとおり、捜査機関のする接見等の日時、場所及び時間の指定は、
原則的に自由であるべき弁護人等と被疑者の接見交通権に対する例外的措置である
から、その措置が刑訴法三九条三項の定める条件に反し、接見交通権を阻害する場
合には、弁護人等や被疑者は、刑訴法四三〇条により裁判所に準抗告を申し立て、
捜査機関のした処分の取消し又は変更を求めることができるものとして、迅速な救
済が得られる道が用意されているのである。
 捜査機関が接見に関してなす処分には、弁護人等からされた特定の接見申出の機
会にその接見に限定してなされるもの(以下「個別処分」という。)と、特定の接
見申出の機会になされる処分ではあるが、処分の内容は、その申出に対するもので
あるのみならず、同一被疑者が同一被疑事実について留置されている期間、処分の
効力が持続すると解されるもの(以下「包括処分」という。)とがある。後者の例
としては、検察官が監獄の長に、弁護人等から接見等の申出があるときには、日時、
場所及び時間を指定するため接見指定書を発行するから、直ちに連絡されたいとの
内容の書面を送付しておき、弁護人等が留置場所に直接出向いて接見を申し出た際
に、留置担当官から接見指定書の受領と持参の必要性を告知させる場合がある。も
ちろん、右のような連絡書面が監獄の長に届いているのみでは、いまだ内部的連絡
文書にすぎないといえようが、この文書の趣旨が担当官から弁護人等に伝達された
ときは、接見指定書を検察官から受領して持参しない限り接見が不可能となる効果
を生ずるのであるから、捜査機関によって刑訴法三九条三項の処分がなされたとい
うことができる。
 右のうち、個別処分につき準抗告が申し立てられこれに理由があるときは、裁判
所は、捜査機関のなした処分を取り消すか、あるいは取消しと共に、裁判所自ら適
切な処分をなすべきこととなり、包括処分につき準抗告が申し立てられこれに理由
があるときは、裁判所は、捜査機関のなした包括処分を取り消し、あるいは取消し
と共に、将来同様な処分をなすことを禁ずる旨を命ずることができると解すべきで
ある。
 三 次に、このような準抗告決定の効力について考えると、かかる決定に対して
は再び抗告をすることは許されず(刑訴法四三二条、四二七条)、特別抗告が唯一
の不服申立方法であるが、特別抗告には執行停止の効力がないから(同法四三四条、
四二四条一項)、準抗告決定が関係者に告知されて外部的に成立すると、直ちにそ
の決定内容の実現が図られなければならない。さらに、特別抗告の提起期間である
五日の経過により準抗告決定が形式的に確定すると、その内容も確定し、内容的確
定力が生ずることになる。
 原処分が本件のように検察官等の捜査機関によるものであり、これに対し刑訴法
四三〇条の準抗告が申し立てられ、原処分が取消し又は変更されたときの効力につ
いては、これを明確に定めた規定がないが、法の趣旨に照らして、行政事件訴訟法
三三条一項の規定を類推し、原処分をした捜査機関も、準抗告裁判所の判断に拘束
されると解すべきである。
 四 以上の見地に立って、本件につき検察官がなした接見指定に関する処分を検
討した結果、私が法廷意見に同調できないと考える部分とその理由は、以下のとお
りである。
 1 本件接見申出(4)について
 D弁護士は、昭和六二年一二月一〇日、地裁郡山支部に、同月九日F検察官に申
し出た接見に対し、同検察官から接見指定書を受け取りこれを持参しない限り認め
ない旨の通告(刑訴法四三〇条一項の処分)を受けたと主張して、「一、F検察官
がD弁護士に対しなした、地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これを持
参しない限り被疑者Hとの接見を拒否する、との処分を取消す。二、F検察官はD
弁護士と被疑者Hとの接見を接見指定書の有無を理由として拒否してはならない。」
との申立ての趣旨で準抗告を申し立て、地裁郡山支部はこれを受けて、即日、「F
検察官がD弁護士に対してした地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これ
を持参しない限り被疑者Hとの接見を拒否するとの処分はこれを取消す。」旨の決
定をした(第一次準抗告決定)。この決定は、その理由中に、D弁護士が、昭和六
二年一二月九日その主張のとおり接見申出をしたところ、その主張のような理由で
接見を拒否されたこと、したがって、準抗告の申立ての趣旨第一項は理由があり、
本件の接見に関する指定は取り消されるべきであることが記載されており、また、
申立ての趣旨第二項は、右の取消しによって所期の目的を達するので必要がないと
しているのである。そうだとすると、この準抗告決定は、二で述べた個別処分に対
してのみならず、以後も効力が持続する包括処分に対してもなされたものと解する
ことができる。また、この準抗告決定は、決定日である一二月一〇日のうちには、
F検察官に告知されていたと考えられる。
 そこでD弁護士は、同月一一日午前九時三〇分ころ、事務所の事務員を介して、
F検察官に対し本件接見申出(4)をなした。これに対しF検察官は、接見の日時
等の打合せのためD弁護士の来庁を求め、接見指定書で接見の日時等を指定する意
向を伝えた。
 F検察官の本件接見申出(4)に対するこのような対応は、地裁郡山支部がなし
た第一次準抗告決定の趣旨に明らかに反するものである。よしんば同検察官におい
て接見指定の方法について異なった見解を有していたとしても、この点に関する当
審の考え方はまだ示されていなかったのであるから(前掲平成三年五月一〇日第三
小法廷判決参照)、いったん準抗告裁判所の判断が示された以上、さきに述べた理
由により、本件については、準抗告決定のみが同検察官の従うべき準縄であったの
である。
 この点について、法廷意見は、当時福島地方検察庁次席検事から福島県警察本部
に対し出されていた、接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人から監獄の長に対する
接見申出があった場合には、検察官に接見の日時、場所及び時間の指定の要件の存
否について判断する機会を得させるため、右申出があった旨を捜査担当の検察官等
に事前連絡をするように求めた通知は、捜査機関内の内部的な事務連絡であって、
それ自体は弁護人であるD弁護士及び上告人A又は本件被疑者に何ら法的な拘束力
を及ぼすものではなく、本件において一般的指定処分がされたとはいえないから違
法ではないとした原審の判断を正当として是認し、準抗告審の右決定はその対象を
欠き検察官を拘束する効力を生じないというのである。
 しかしながら、右第一次準抗告決定は、単に捜査機関内の内部的事務連絡の取消
しを命じたものではなく、さきに述べたごとく、D弁護士の本件接見申出(2)に
対してF検察官がなした、接見指定書を受け取り持参しない限り接見を拒否すると
の個別処分と、以後も同様に扱う旨の包括処分とを併せて取り消したとみるべきも
のであるから、賛同することができない。
 2 本件接見申出(6)について
 D弁護士が電話でF検察官に接見の申出をし、かつ接見指定は口頭ですることを
求めたのに対し、F検察官は、従前と同様接見指定書をもって指定するとし、地検
の次席検事も、D弁護士からの電話に対し、接見指定書をもって指定するので来庁
して受領するように求めた。これらの行為も、接見指定書を受け取り持参しない限
り接見を拒否するとの処分をしたものと解されるから、右第一次準抗告決定の趣旨
に反する行為と認められる。また、本件接見申出(4)についてのF検察官の対応
が違法であるとしてD弁護士が昭和六二年一二月一二日地裁郡山支部に申し立てた
準抗告に対し、同裁判所は、「福島地方検察庁郡山支部検察官Fが、昭和六二年一
二月一一日申立人になした、同地検郡山支部で検察官発行の接見指定書を受け取り、
これを持参して郡山警察署係官に交付しない限り、申立人と被疑者との接見を拒否
するとの処分を取り消す。福島地方検察庁郡山支部検察官Fは、申立人に対し、申
立人と被疑者との接見につき、刑事訴訟法三九条三項の指定を電話等口頭で行い、
かつ申立人が、接見指定書を持参しなくとも指定された日時に被疑者と接見させる
こととしない限り、検察官は申立人に対し、被疑者との接見を拒否してはならない。」
との決定を出し(第二次準抗告決定)、これが本件接見申出(6)がなされるまで
にF検察官に告知されていたのであるから、同検察官の行為は、第一次準抗告決定
の拘束力のみならず、本決定の効力にも反するものであり、本決定が形式的に確定
した後は、その拘束力にも反する結果となることが確実に予測できた行為であった
のである。
 この点について法廷意見は、本件接見申出(4)については、F検察官が、D弁
護士から事務員を通じて翌日の接見の予告があったのに対し、同弁護士と協議して
接見の日時等の指定をしようと考え、同弁護士に翌朝地検郡山支部に来庁するよう
に求めたにすぎず、接見を拒否する処分をしたものとはいえないというのである。
しかし、F検察官が同時に指定は接見指定書で行う意向である旨を伝えたことは、
法廷意見も認めるところであるが、D弁護士が準抗告の対象としたのは正にこの通
告であったとみるべきことは、申立て前の経過から明らかである。地裁郡山支部の
裁判官が、右申立てを受けて右のような決定をなしたのも、F検察官が第一次準抗
告決定の告知を受けながら、いまだに接見指定書の受領と提示に固執していること
を接見の拒否とみて、口頭で指定をなすべきことを繰り返し示す目的に出たもので
あることは、決定の理由を読めばおのずから明らかである。
 3 本件接見申出(7)について
 D弁護士が電話で接見の申出をし、口頭での指定を要求したのに対し、F検察官
から本件被疑事件の担当を引き継いだG検察官は、打合せのための来庁を求め、D
弁護士と上告人Aが検察庁で重ねて口頭での指定を求めたのにこれに応じなかった。
  同検察官は、F検察官の担当を引き継いだのであるから、本件接見申出(2)
と(4)に関し地裁郡山支部がなしたF検察官あての二度にわたる準抗告決定に基
づく行為義務も承継していたとみるべきであり、この義務に違反したということが
できる。
 4 本件接見申出(8)について
 上告人Aが直接警察署に赴き接見を申し出たところ、G検察官は協議のための来
庁を要請し、接見指定書を受領させた。
 同検察官のこの行為は、二度にわたる準抗告決定に基づく行為義務に反するもの
である。
 5 本件接見申出(9)について
 D弁護士がG検察官に電話で接見の申出をし、口頭での指定を要求したが、同検
察官は来庁要請を変更せず、かつ検察庁に出向いた同弁護士に接見指定書を受領さ
せた。
 同検察官のこの行為も、二度にわたる準抗告決定に基づく行為義務に反するもの
である。
 五 接見交通権の行使の要件を定めた刑訴法三九条三項は、本来自由であるべき
被疑者と弁護人等との間の接見交通に対し、捜査機関が制限を加えることができる
要件を規定したものであり、捜査機関が法の許容する範囲を超えて被疑者と弁護人
等との接見交通権を制限することのないようにするために遵守すべき行為規範をも
定めたものとみるべきものである。したがって、接見交通権の制限が同条項の関係
で違法と判断されれば、国家賠償法一条一項の関係においても、法の許容しない行
為ということができる。
 本件接見申出(4)(6)についてF検察官がなした接見に関する処分及び本件
接見申出(7)(8)(9)についてG検察官がなした接見に関する処分が、いず
れも地裁郡山支部裁判官のなした準抗告決定に従って行動すべき義務に反していた
ことは既に述べたとおりであるから、両検察官の行為は、準抗告決定の効力につい
ての認識を欠いた点において、少なくとも過失があったということができ、これを
否定するに足る格別の事情も認められないから、被上告人国は国家賠償法一条一項
による責任を免れない。
 論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は、本件接見申出(4)(
6)(7)(8)(9)に関する部分につき破棄を免れない。そして、右部分に関
する上告人ら主張の損害額については更に審理を尽くす必要があるから、本件を原
審に差し戻すべきである。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田
昌道)

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