弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人両名をそれぞれ禁錮1年2月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人Aは,岐阜市(省略)に本店を置き解体工事業等を営む株式会社甲の専務
取締役として同社の工事及び営業の各部門を統括していたもの,被告人Bは,同社
の従業員として勤務し同社が請け負う建物等解体工事に職長兼重機オペレーターと
して従事していたものであるが,平成22年9月14日,株式会社甲が株式会社乙
を介して株式会社丙から請け負った同市(省略)等所在の同社工場の建物解体工事
(以下「本件解体工事」という。)について,被告人Aは,主任技術者として公衆
災害や労働災害の発生を防止するための安全管理を含め本件解体工事の施工につい
てこれに従事する株式会社甲の従業員に対して技術上の指導監督を行う職務に従事
し,被告人Bは,職長として本件解体工事に従事する同社の作業員を指揮監督する
一方で自ら重機オペレーターとして同工事に従事していたところ,前記工場の建物
が存在する敷地の周囲は同建物を構成する壁で囲まれており,解体する同壁のうち,
特に同工場敷地内北東に位置する鉄骨2階建て建物(以下「本件建物」という。)
を構成する北側壁(以下「本件壁」という。)は,その高さが最大約11.2メー
トル,横幅が約17.5メートルで,鉄骨の骨組みの北側面にモルタルが吹き付け
られ,同壁を支える2本の鉄骨柱はいずれも半球形の基礎部分に各4本のアンカー
ボルトで固定されただけの不安定な構造であり,同壁の北側は東西に走る幅員約7.
8メートルの市道に面していたので,解体作業中に同壁が北側の市道側に倒壊した
場合には人身事故が発生する危険性が極めて大きかったところ
1被告人Aは,平成22年10月上旬頃,被告人Bらが前記工場敷地内南東に位
置する鉄骨造陸屋根平屋建て建物を構成する,鉄骨の骨組みに軽量コンクリート
が吹き付けられた高さ約7メートルの東側壁について,適切な倒壊防止措置を講
じないまま,同壁の側壁を取り払って,平面的な構造とし,壁一枚だけを自立さ
せて不安定な状態とする,いわゆる「一枚壁」の状態にして解体作業を行ってい
るのを現認したが,被告人Aにおいては,解体工事施工技士の資格を有し,一枚
壁の状態にしたまま解体作業を継続すれば同壁が倒壊する危険性があることを熟
知していたのであるから,その後に予定されていた本件壁の解体作業を被告人B
らに行わせるに当たっては,職長である同被告人に対し,同壁の側壁を残したま
ま解体作業を行うよう,あるいは同壁に倒壊防止用のワイヤーロープを張るなど
して解体作業を行うよう指示し,同被告人をして同壁が北側の前記市道側に倒壊
するのを防止する措置を講じさせ,もって人身事故の発生を防止すべき業務上の
注意義務があるのにこれを怠り,倒壊防止措置を講じるよう何ら指示をしなかっ
た過失
2被告人Bは,同年10月14日,本件壁の解体作業をするに当たり,前記のと
おり,本件壁が不安定な構造であり,適切な倒壊防止措置を講じることなく一枚
壁の状態にして解体作業を行えば,同壁が前記市道側に倒壊する危険性があるこ
とを熟知していたのであるから,同壁の側壁を残したまま解体作業を行うか,あ
るいは同壁に倒壊防止用のワイヤーロープを張るなどして解体作業を行い,同壁
が北側の前記市道側に倒壊するのを防止する措置を講じ,もって人身事故の発生
を防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,短時間であれば倒壊防止
措置を講じなくても同壁が倒壊することはないなどと軽信し,同壁の倒壊防止措
置を何ら講じなかった過失
の競合により,同日午後3時30分頃,被告人Bらにおいて,本件壁の倒壊防止措
置を何ら講じないまま重機を使用して同壁の解体作業を開始し,まず,同壁の東西
にあった側壁を切り離し,倒壊防止用のワイヤーロープを張るなどの倒壊防止措置
を講じないまま同壁の南側に溶接され同壁を支えていた階段及びリフトの接合部分
を溶断して,同壁を一枚壁として前記アンカーボルト合計8本だけで支える状態と
したため,同壁の自重により同アンカーボルトを変形又は破断させて同壁等を北側
に接する前記市道上に倒壊させ,折から同市道を東方向から西方向に向かい自転車
で通行中のC(当時17歳)を同壁の下敷きにし,よって,その頃,同所において,
同人を外傷性血気胸により死亡させた。
(証拠の標目)略
(法令の適用)
被告人両名について
罰条いずれも刑法211条1項前段
刑種の選択いずれも禁錮刑を選択
(量刑の理由)
本件解体工事は,通行量の多い市道に面した工場建物を解体するというものであ
り,同市道に面した本件壁の形状及び高さからして,本件壁が倒壊すれば,通行人
を巻き込む重大事故が発生する危険性があることは誰の目から見ても明らかであっ
た。また,一枚壁の状態にした上で解体するという方法は,それ自体倒壊の危険を
有する方法であり,本件のような解体方法をとった場合には本件壁が市道側に倒壊
する危険性が極めて大きいこと,本件解体工事の際,本件壁を一枚壁の状態にせず
側壁を残したまま解体作業をするか,あるいは,本件壁を一枚壁の状態にして解体
する場合でも,本件壁にワイヤーロープを張って支えたり,壁を重機でつかむなど
すれば本件壁の倒壊を容易に防止できたことは,被告人両名の会社における地位及
び解体工事に関する知識経験からして容易に認識できたもので,被告人両名が適切
な倒壊防止措置を講じてさえいれば本件事故を回避することができた。
しかるに,被告人Bは,本件以前から漫然と一枚壁の状態にして解体作業を行っ
ており,安全対策に対する意識が極めて薄かったところ,本件壁が不安定な構造で
あることを認識していたのであるから,なおさら同壁が倒壊しないよう細心の注意
を払うべきであったにもかかわらず,短時間であれば倒壊することはないと軽信し,
安全対策を講じることなく本件壁の解体作業を続け,本件事故を直接生ぜしめたも
のであるから,被告人Bの過失は重大というべきである。
この点,被告人Bは,職長と重機オペレーターを兼務させられていたことから,
工事全体に対する目配りが必ずしも十分にできなかったこと,また,本件解体工事
の工期が短く,本件事故当日も工事の進行が遅れていたという事情があったことな
どが認められるが,前記のとおり,本件壁の解体方法が極めて危険であり,壁が倒
壊した場合には通行人も巻き込む重大事故が発生する危険があることなどは被告人
Bにとって容易に認識できたことや,被告人Bの安全に対する意識が極めて薄かっ
たことに加え,本件壁を解体するに当たり,少なくとも重機で本件壁をつかむ方法
による倒壊防止措置を講ずることは工期への影響もほとんどなく容易にできたので
あり,被告人Bの下で作業を行っていた重機オペレーターも,同被告人から当然そ
のような指示を受けるものと考えていたことからすると,前記の事情が認められる
からといって,量刑上大きく考慮することはできない。
また,被告人Aも,本件事故を直接生ぜしめたものではないが,解体工事等を統
括する専務取締役及び主任技術者として安全対策を講じるべき立場であったにもか
かわらず,安全対策に対する意識が極めて薄く,営業利益を上げるために作業効率
を優先させ,壁の倒壊を防止するための適切な作業手順書を作成するなどして被告
人Bを含む従業員に周知徹底させることなく,安易に被告人Bら現場従業員の判断
に任せており,以前から解体工事現場で一枚壁の状態にして解体する作業方法がと
られていることを現認していたにもかかわらず放置し,本件解体工事においても,
判示のとおり,被告人Bが一枚壁の状態にして解体作業を行っていることを現認し
ながら安易に容認し,本件壁の倒壊を防止するための措置を講じるよう何ら指示し
なかったことが本件事故を招いたのであるから,被告人Aの過失も被告人Bの過失
と同様に重大というべきであり,被告人Aの刑事責任は被告人Bと同等というべき
である。
被告人両名の重大な過失により,本件壁に面した市道を自転車で通行中の女子高
校生が死亡するという悲惨な結果が生じており,最愛の我が子を突然失った遺族の
悲しみは今なお深く,被告人の両親が心情に関する意見陳述でその苦しい心情を吐
露しており,被告人に対する処罰感情は厳しい。
以上によれば,被告人両名の刑事責任は重く,被告人両名が捜査段階から罪を認
めて反省の態度を示し,被害者の冥福を祈るなどしていること,被告人両名が事故
後安全対策に積極的に取り組んでいること,会社が加入する保険等により今後一定
程度の補償が見込まれること,被告人Aには前科がなく,被告人Bにも相当古い罰
金前科があるだけであることなど,被告人両名のために酌むことのできる事情を十
分に考慮しても,本件は執行猶予が相当な事案ではなく,被告人両名は主文の刑を
免れない。
(求刑被告人Bにつき禁錮2年,被告人Aにつき禁錮1年6月)
平成25年7月10日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官室橋雅仁
裁判官山下博司
裁判官山田一哉

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