弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人両名を各懲役三月に処する。
     但し、本裁判確定の日から一年間、右各刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用中、証人A1、A2、A3、A4、A5、A6、
A7、A8、A9(二回共)、A10、A11、A12、A13、A14、A1
5、A16、A17、A18、A19、A20、A21、A22、A23、A2
4、A25、A26(二回共)、A27、A28(昭和三〇年六月七日出頭の分)
に各支給した分は、被告人両名の連
     負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に編綴されている福岡地方検察庁検察官検事白土八郎名
義控訴趣意書記載のとおりで、これに対する答弁は、被告人両名の弁護人岸星一竝
びに清原敏孝連名で提出の答弁書載記とおりであるから、いずれもこれを引用す
る。
 同控訴趣意第一点(法律解釈適用の誤り)について、
 刑法第二三三条竝びに第二三四条の「業務」には公務を包含しないとの見地か
ら、原判決が本件公訴事実に対し無罪の判決を言渡していることは、検察官所論の
とおりである。そこで当裁判所は、次のような理由によつて刑法第二三三条竝びに
第二三四条の業務中には公務も包含されるものと解する。
 原判決は、右法条にいう「業務」とは公務を除くほか、精神的なると経済的なる
とを問わず、汎く職業その他継続して従事することを要する事務又は事業を総称す
るとの大審院判例(大正一〇年一〇月二四日判決)を引用し、所謂業務妨害罪の対
象となるべき業務中には公務を包含しないとしている。しかし、一方現業傭人たる
集配人は郵便電信及び電話官署現業傭人規程により公務に従事する者であるが、職
員でないからこれに対し暴行を為し以てその公務の執行を妨害したるときは、刑法
第二三四条より業務妨害罪を構成するが、同法第九五条の公務執行妨害罪は構成し
ないとする大審院判例(大正八年四月二日判決二五輯三七五頁)もあり、非公務員
による公務の執行に際しては、威力業務妨害罪の成立を是認している。従つて一概
に業務妨害罪にいう「業務」中に公務は包含されないということはできない。更に
公務員の公務の執行に対し、かりに暴行又は脅迫に達しない程度の威力を用いたか
らといつて、業務妨害罪が成立するものではないとする最高裁判所判例(昭和二六
年七月一八日大法廷判決集五巻八号一、四九一頁以下のあることも原判示のとおり
であるけれども、該事案は検挙に向つた警察官等に対し、スクラムを組み労働歌を
高唱して気勢を挙げた労働者等の行為が威力業務妨害罪を構成しないことを示した
もので、その他の公務員の公務執行全般に妥当するか否か甚だ疑問であり、該判例
のあることによつて直ちに業務妨害罪の「業務」中には非権力関係の公務までも包
含しないと結論することは躊躇せざるを得ない。蓋し、業務妨害罪に関する規定
は、個人又は団体の経済的精神的生活活動の保護を目的として制定されたものであ
るが、警察は国民の生命身体及び財産の保護に任じ、犯罪の捜査、被疑者の逮捕及
び公安の維持に当ることを以てその責務とし(警察法第一条)、警察官等は犯人の
逮捕もしくは逃走の防止、自己もしくは他人に対する防護又は公務執行に対なる抵
抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に
応じ合理的に必要と判断される限度において、武器使用の権限すら認められている
(警察官等職務執行法第七条)のであるから、経済的生活活動を営むものというこ
とはできないのみならず、公務執行妨害罪の規定により保護せられるのは格別、威
力業務妨害罪の規定によりこれを保護すること自体まことに奇異の感を免れないと
ころで、前記最高裁判所判例は右趣旨に解せられるからである。
 加之、その後の最高裁判所判例によれば、日本国有鉄道(以下国鉄と略称する)
の新交番制による電車運行業務の妨害を認めた原判決を支持認容していること(昭
和二八年一一月一六日最高裁判所第二小法廷判決、昭和二九年一二月二三日同裁判
所第一小法廷判決集八巻二、一七五頁、昭和三〇年三月三日同裁判所第一小法廷<要
旨>決定、参照)、検察官指摘のとおりで、国鉄職員による電車(又は列車)の運行
は、右職員による公務の執行であると共に公法人たる国鉄の業務であり、前
記職員に対する公務執行妨害罪が成立する場合は法条競合によつて業務妨害罪の規
定はその適用を排除されるけれども、暴行脅迫の程度に達しない威力を用い電車
(列車)の運行を妨害するにおいては、右国鉄の電車運行業務妨害罪の成立を是認
しているものといわねばならず、その他原判決のように公務なるが故に業務妨害罪
の対象からこれを排除せねばならないとする合理的根拠は発見できない。
 従つて原判決は、既にこの点において法律の解釈適用を誤つた違法があるものと
いわねばならず、該違法は判決主文に影響を及ぼすことは極めて明かであるから、
刑事訴訟法第三九七条第三八〇条によつて破棄を免れない。検察官の本論旨は理由
がある。
 同控訴趣意第二点(事実誤認)の(二)(被告人両名の共謀関係に関する部分)
について。
 被告人両名の原審公判廷における各供述記載、検察官に対する各供述調書の記
載、及び原審裁判官の為した検証調書(昭和二八年一〇月二六日記録八一丁以下)
の記載を綜合すれば、被告人両名の共謀関係を認めるに十分である。即ち、被告人
Bは本件当時C労働組合連合会教宣部長、被告人Dは同部員として、情報宣伝活動
に従事し、殊に被告人Dは教宣部長であるB被告人の指示を受けて昭和二七年一〇
月以降のE労ストライキを有利に解決しようとして努力していたものであるが、本
件犯行当日も福岡県鞍手郡a町所在のF労組第二クラブにおけるG闘争委員会に被
告人両名出席後、会社側が送炭を強行しようとしている旨の情報が発表されたた
め、被告人両名はH労組に於て強硬に送炭阻止の闘争活動を展開するため派遣せら
れたもので、A12の運転するオート三輪車に乗車して現場に急行し、貨車積込み
を阻止しようと意図していたのであるが、既に貨車積込みも完了し新多駅から小竹
駅方面に該貨車が発車運行する事態になつていることを覚知するや、本件犯行現場
附近にあるIの寮生を動員し、同寮生と共に該貨車の運行を阻止しようと決意する
に至つたもので、被告人Bの指示に従い、被告人Dが前記オート三輪車に取付けて
いた組合旗(赤地にC労連と白く染抜きをしたもので縦一・八七メートル横二・四
五メートル)を携行して同寮附近線路踏切地点(小竹駅から約二粁二〇〇メートル
の距離)に駈けつけ、折柄貨物列車上り便が時速約一二粁で前方約一五米まで進行
してきたのに対し、右旗を打ち振り、機関士A10等をして列車進行に対し危険発
生があるものと判断せしめ、踏切地点の前方約二・三一メートルの箇所で停車する
に至らせ、その後被告人Bにおいて右機関士に対し右石炭の輸送中止方を交渉し、
更に被告人Dは逐次動員された寮生約三〇名と共に列車の進路前方にスクラムを組
んで立ち塞がり、寮生等のために労働歌の音頭をとり、又一部寮生は列車の進行阻
止の意図のもとに踏切線上に前記自動三輪車を押し上げ、かくて該列車を約一時間
二〇分にわたり該地点に停車するの已むなきに至らしめたことが認められる。して
みれば、被告人両名において既に国鉄所管の貨物列車に石炭積込みが完了し国鉄職
員によつて該貨車が輸送途上にあることを知悉しながら、該貨車の運行輸送を寮生
等の圧力によつて阻止しようとの意図のもとに、本件各行為がなされたものである
ことは明かであり、被告人Dが列車進路前方において組合の赤旗を打振り停車の已
むなきに至らしめた行為も亦、偽計というよりも寧ろ前記寮生等の多数の威力を示
す手段として採られた措置とみるべきこと後記認定のとおりであるから、被告人等
両名のほか寮生等との間に共謀関係ありと断ずるに何等憚かるところはないといわ
ねばならない。原判決は被告人Bが機関士に石炭輸送中止方を交渉した後被告人D
に「後は頼むぞ」と云い残して新多駅に赴き駅員その他に貨車を引返すよう要請し
たのであり、被告人両名間に列車阻止の方法・態様について共謀がなされたという
信ずべき証拠はないとの理由で、共謀関係を否定しているけれども、前示説明によ
つてその失当であることは明かである。従つてこの点に関する検察官の論旨も理由
がある。
 そこで当裁判所は、刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第三八二条によつて原判決
を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて直ちに判決することとする。
 (事 実)
 被告人Bは、石炭の採掘及びその販売を業とするJ株式会社(以下会社と略称す
る)の全九州の労働組合を以て構成するC労働組合連合会教宣部長、被告人Dは同
部員であつたが、会社経営の福岡県鞍手郡b町大字cK従業員を以て組織する同鉱
業所労働組合は賃金値上げを要求し、昭和二七年一〇月一七日以降同盟罷業を行つ
ていたが、会社はL株式会社以下一会社に着駅渡の契約で石炭を販売し、その石炭
の輸送を日本国有鉄道(以下国鉄と略称する)に委託して輸送するため、同年一二
月一三日同大学所在国鉄新多駅に於て貨車一三輛に積込み、国鉄機関士A10、同
機関助手A7がこの列車を運転し国鉄小竹駅に向い発車せんとしたところ、被告人
両名はその輸送を阻止しようと企て共謀の上、同日午後六時頃A12ことA12の
運転する三輪車に乗車して組合員の居住する同大字c所在KIに到り、同三輪車備
えつけのマイクを使つて組合員に対し、交々「会社は石炭の輸送をしている。皆出
てこれを阻止してくれ。」と呼び掛けて同荘居住の組合員を動員し、折柄新多駅を
発車して進行中の右列車を停止せしむべく被告人DはI横踏切上に於て線路上に立
塞がり、赤色の労働組合旗を振り続けて前記機関士をして列車の運行停止の已むな
きに至らしめ、更に動員に応じて右踏切附近に集つた組合員M外約三〇名と共謀
し、それらの者と共に機関車直前の線路上に立塞がり、約一時間二〇分に亘り赤色
の労働組合旗を打振り、且つ労働歌を高唱する等の方法により気勢を挙げて多衆の
威力を示し、A10等をしてその間列車の進行を不能ならしめ、以て威力を用い国
鉄の貨車運行業務を妨害したものである。
 (証拠の標目)
 一、 被告人等の原審公判廷における供述記載
 一、 原審裁判官の証人A10、同A7、同A8、同A29、同A11、同A1
7、同A21、同A22、同A23、同A1、同A2、同A3、同遠矢清治、同A
5、同A15、同A16、同A14、同A12ことA12、同A18、同A19、
同A20、同A30、同A31、同A28、同A32、同A33、A34、同A
6、同A13、同A35、同A36、同A37、同A26、同A27、同A9(昭
和二八年一〇月二七日附及び昭和二九年二月一四日附)に対する各尋問調書
 一、 原審証人A24、同A25(第三回公判)同A38(第四回公判)の各供
述記載
 一、 原審裁判官の検証調書
 一、 E労働組合中央執行委員長名によるスト突入指令書写(記録一、五五三
丁)、N株式会社竝びにL株式会社の各注文書写(記録一、五二二丁及び一、五二
三丁)
 一、 A10(昭和二八年四月七日及び同月一一日附)、A3、遠矢清治の検察
官に対する各供述調書
 一、被告人等の検察官に対する各供述調書(各第一乃至第三回)
 (法令の適用)
 刑法第二三四条第二三三条第六〇条、罰金等臨時措置法第二条第三条(所定刑中
懲役刑選択)、刑法第二五条、刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条
 尚本件起訴状によれば、被告人等の本件行為は右国鉄の貨車運行業務を威力を用
いて妨害したものであるとするほか、偽計を用いて業務妨害をなしたものであり、
且つ国鉄に輸送を委託した前記J株式会社に対する関係においても同会社の石炭輸
送業務を偽計及び威力を用いて妨害したものであるとし、刑法第五四条第一項前段
の想像的競合罪として起訴されているけれども、被告人Dが同Bの指示に従い組合
の赤旗を振り貨車を停止せしめた行為を、前記認定の組合員である寮生多衆の威力
によつて停車せしめた行為から分離独立評価して、刑法第二三三条に所謂偽計にあ
たるものとすべきでなく、被告人等の意図は先に説明したように貨車が発車進行す
るに至つたことを知るや、寮生多数の気勢を示して該貨車の進行竝びに石炭輸送を
阻止しようとするにあつたのであり、国鉄職員をして錯誤におとしいれようとした
ものでなく、該気勢を示すための前提手段として貨車進行中の線路前方に立塞がり
前記赤旗を打振りこれを停車せしめ威力を用いるための着手に及んだ後の一連の行
為であつて、当然前に認定した威力業務妨害行為中に包括せしめらるべきものであ
り、更に本件石炭がその積込を完了し、既に国鉄係員によつて貨車輸送途上にあつ
た以上、会社側の輸送業務は一応完了したもので、刑法に所謂「業務」妨害の対象
となるものではないといわねばならない。本件石炭販売契約が着駅渡しの契約であ
り、潜在的に会社側に輸送業務が残存しているのを理由として、会社の輸送業務妨
害可能の論拠としているもののようであるけれども、刑法に規定する業務妨害罪の
対象たるべき「業務」中には斯様な潜在的な業務まで包含するものでなく、それは
飽くまでも顕在的現実的な業務を対象としているものと解するのが、刑罰法規の性
質上相当である。従つて本件公訴事実中偽計業務妨害罪及び会社に対する関係にお
いての偽計竝びに威力業務妨害罪の点は、いずれも罪にならないものといわねばな
らないが、前に認定した国鉄に対する威力業務妨害罪と包括一罪もしくは一所為数
法の関係に於て起訴せられたものであるから、主文において無罪の言渡をしない。
 更に被告人等の本件行為は、会社に対する関係においては争議中における労働者
の権利防衛のための正当防衛行為であり、しからずとしても期待可能性を欠如する
行為であり、国鉄に対する関係においては緊急避難行為であるから、無罪であると
弁護人等は主張するけれども、会社の輸送業務妨害罪成否の点に関しては、既に前
記理由によつて弁護人等の前記主張をまつまでもなく、その成立の余地のないこと
が明かであつて、国鉄に対する関係においても本件貨車による石炭輸送行為が被告
人等の自由もしくは財産に対する現在の危難ということはできないのみならず、本
件行為を以て已むことを得ざるに出でたる行為ということもできないことは、原審
裁判官の証人A10、同A29、同A26に対する尋問調書によつて明かであるか
ら、同主張も亦採用の限りでない。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 鈴木進 裁判官 厚地政信)

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