弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原審判を取消す。
     本件を松江家庭裁判所出雲支部に差戻す。
         理    由
 抗告人は主文同旨の決定を求め、その理由として述べるところは別紙記載のとお
りである。
 そこで当裁判所は次のとおり判断する。
 一、 本件財産分与の請求は内縁の解消を前提とするもの、しかもその内縁は他
に法律婚の存するいわゆる重婚的内縁であるから、かような場合にも民法第七六八
条の類推適用が許されるか否かが先ず問題となる。
 一件記録によると、
 相手方は大正一五年六月四日妻月子(仮名)と婚姻届出をなし、同年一一月一四
日長女甲子(仮名)、昭和一一年一〇月三〇日二女乙子(仮名)をもうけたこと、
相手方は地方の名望家で、その父は衆議院議員も勤めた人であるが、相手方自身は
生活にふしだらなところがあつて、その間カフエーの女給を妾として松江市に囲う
などのことがあり、夫婦仲は円溝を欠いたこと、月子は相手方の不行状及び相手方
母親との不仲もあつて、右結婚に愛想を尽かし昭和一二年頃二人の娘を連れて別居
したこと、相手方は昭和一三年七月二五日妾との間に丙子(仮名)をもうけ、これ
を月子との間の三女として入籍したこと、その後相手方は妾と共に九州において生
活していたが、そのうち妾が死亡したので丙子を連れて本籍地(現住所と同じ)に
帰つたこと、然し月子は二人の娘と共に松江市に居住し、夫婦生活が正常に復する
機会はなかつたこと、
 相手方は昭和二二年頃、丙子を連れてやもめ暮しをしながら現住所である旧a村
において村長をしていたところ、知人であるA夫妻が同情し、相手方には内密で月
子に対し妻の座に帰るよう申入れたが頭から拒否されたこと、そこでA夫妻は、一
旦他家に嫁し、不縁となつて実家に帰つていた抗告人が、家柄からいつでも良縁と
信じ、二人の間の結婚話をすすめたこと、相手方はA夫妻に対し、「月子との結婚
は全く破綻しており、単に戸籍上残つているに過ぎないが、破綻の責任が主として
自分にあるので、自分の方から離婚手続を求めることはできない。もつとも月子か
ら離婚手続がとられたり、あるいは月子が死亡したときは、新妻を直ちに入籍する
考えである。又入籍ができなくとも実質上夫婦として一生生活を共にする。
 それでよければ結婚話をすすめてくれ。」といつたこと、A夫妻は抗告人に対
し、「相手方には月子という妻がいるが、全く戸籍の上だけのものであり、既に一
〇年以上も別居し元に還ることは全然ない。月子の実家では離婚の手続をとるとい
つているし、そうでなくても月子は病弱で余命いくばくもないので、いずれ正式に
入籍できるだろう。」といつて結婚を薦めたこと、そこでその頃見合いをし双方気
にいつたので、昭和二二年六月A夫妻の媒妁で、抗告人の身内としてはいとこに当
るB夫妻、相手方の身内としてはかつて相手方番頭を勤めていたC夫妻が参列し、
結婚式を挙げたこと、又a村の住居においては、近隣の主婦、D家に出入りの者等
数十人を招いて披露宴をもらけ、抗告人をD家の妻として紹介披露したこと(抗告
人の兄山田賢一(仮名)等最近親者が、右結婚を喜びながら結婚式への参列を遠慮
し、又披露宴に主婦だけを招いたのは、戸籍上妻が存し、抗告人が名実共に妻であ
るわけでないためへの配慮からであつた。)
 昭和二三年二月七日には抗告人相手方間に一郎(仮名)が生れ、非嫡出子として
抗告人の籍に入れられたが、前記丙子を含め親子四人が右a村に居住し、挙式以後
抗告人は土地の人々の間ではD家の奥様として通つたこと、もつとも相手方は働く
意欲がなくて村長辞職後は売喰いをなし、抗告人は性来我儘であることから、挙式
後一年余りで夫婦円満を欠くようになつたこと、又抗告人は肺結核にかかつたの
で、治療のことで事々に争論し、昭和二七年一〇月抗告人は相手方の反対を押し切
つて松江市に出、医療保護を受けながら松江市日本赤十字病院に入院し、昭和三〇
年八月退院を命ぜられても相手方の許に帰らないで松江市設救護人収容所に入つて
生活し、昭和三四年再度松江市立病院に入院して治療を受け、昭和三六年三月退院
に際しようやく相手方の許に帰つたこと、相手方は抗告人が意地を通す態度に立腹
し帰宅を歓迎しなかつたが、帰宅した以上従前のような夫婦生活が続けられるよう
になつたこと、相手方は昭和三七年一一月一郎を認知したが、一郎をしてEの氏を
称させるため、同年一二月には相手方と月子間の養子としたこと(もつとも月子が
承諾したものではない)、然し夫婦仲は再び険悪となり、帰宅当時は肉体関係もあ
つたが抗告人において一切拒否するようになり、丙子が他家に嫁したあと、抗告人
と相手方は寝所や食事を別にしていること、もつとも、生活扶助が三人分一括して
与えられる(今では売喰いの品も少なくなり、生活扶助金と抗告人の兄よりの仕送
り等に頼つて生活している)関係もあり、又一郎のこともあるので、食事は相互に
相手の分も仕度してやることがあること、抗告人としては、病弱であるのに相手方
の同情が全くないとし、相手方との夫婦生活を続ける意思は既になく、現在住む家
がないため同じ屋根の下にいるだけであつて、内縁関係を解消し財産分与を得た上
で、松江市にバラツクの家でも建てて生活したいと考えていること、相手方は夫婦
関係を続けてもよいと考えていること、
 本妻たる月子は、抗告人等挙式直後頃二人の娘を連れて東京都に移住し、長女が
学校教師をして三人が生活しているらしく、その後は音信不通であり、抗告人が内
縁関係に入る前一〇年間、現在まで三〇年近く、相手方と月子の間は戸籍上夫婦と
して残つているだけで、事実上は離婚状態にあること、が認められる。
 以上の次第で、本件は重婚的内縁であるのみならず、抗告人はかような関係にあ
ることを知つて内縁関係に入つたものであることが明らかである。
 先ず内縁一般について民法第七六八条の類推適用が許されるか否かについて考え
る。内縁に婚姻法的保護を与うべきことは既に通説であるけれども、その成立要件
及び与うべき保護の程度についでは異論がある。
 然しながら、内縁問題は、法の理想にそわない点があるにしろ、夫婦共同生活体
として現実に成立しているものはこれを法の外におくべきでなく、殊に劣位にある
ものに法的保護を与えようというところにその趣旨が存するのであるから、不真面
目な私通関係や妾関係はこれを除き、実質上の意義における夫婦共同生活体が存す
る以上一応内縁ありとなすべきであるし、法秩序の上から望ましいものかどうかと
いう法的価値観は一歩後退し、個々の救済方法との関連において、それを与えるこ
とが法の理想を全く蹂躙すると認められる場合以外は、なるべく保護を与えるべき
だと考える。民法における財産分与の規定は、婚姻解消に際し当事者に与えられた
救済方法であつて、それは(イ)夫婦共同生活中の共通の財産の清算(ロ)離別を
惹起した有責者よりする損害の賠償(ハ)離別後の生活扶養の三つの趣旨を含むと
解せられる。内縁に対しては夫婦協力義務や財産制等につき婚姻法規を類推適用す
べきであるが、同時に、共同生活体の解消に際しては、前記諸点につき生活関係を
清算ないし調整し、救済を与うべき実際上の必要の存すること婚姻の場合と同じで
あるから、このためには財産分与規定を類推適用すべきである。非婚姻法規の力を
借りて右調整を試みるより一層合理的であるし、又これにより他に弊害を及ぼすと
も考えられない。よつて内縁の場合にも右規定の類推適用が許され、右財産分与請
求は家事審判法第九条第一項乙類審判事項に属すると解する。
 内縁問題について前叙のような考えをとるので、「重婚は内縁成立阻止条件であ
る」とか、「重婚的であることにつき認識のあつた者には、如何なる場合にも内縁
としての法の保護を与えない」との説は採用しない。
 <要旨第一>重婚的内縁であつても、それが夫婦共同生活体としての実質を備える
ときは、ある種の保護は与えらるべきである。例えば、重婚的内縁関係
にあることを楯にとつて同居を求める者に対し力を貸すこと、即ち重婚的内縁を維
持する方向に法が力を貸すことは正しいことではないけれども、財産分与の請求
は、既成事実となつている重婚的内縁を解消する際に問題となることであつて、そ
の場合右規定の類推適用を許すことが(もとより自己が重婚関係にある場合を除
く)、法の理想を蹂躙するものであるとはいえない。当事者が多年に亘る協力によ
り多額の財産を得ており、その財産関係を清算し、よつて得た財産を基礎に重婚的
内縁を解消し、新生活を築きたいと考える者もあるだろう。右規定の類推適用を許
すことは、むしろ法が望まない関係の清算に役立つのである。もつとも重婚的関係
にあるときは、事の性質上夫婦共同生活体の実があるとみられる場合は少いと思わ
れる。法律婚が事実上永らく離婚状態にあつて復活の見込もなく、全く戸籍上に形
骸を止めているに過ぎないことが必須の要件となるであろうし、その他夫婦が共同
生活の本拠を有して相当期間公然的な共同生活を継続し、周囲からも容認されてい
るようなことも必要であろう。即ち、自から一般の内縁より、厳格な要件が必要で
あるけれども、かような状況が存することにより、夫婦共同生活体の実があるとみ
られる限り、財産分与の問題につき異別に取扱うべきではない。なお、相手方が重
婚的関係にあるこ<要旨第二>とを知つて内縁関係に入つた者には、法の保護を与う
べきでないとの主張も一理はある。然しこの場合であるからといつて、
財産分与規定適用の実際上の必要性があることは同じであるし、重婚関係にあるこ
との認識とともに、右法律婚が事実上離婚状態にあつて戸籍上形骸を止めているに
過ぎぬことも認識し、これを考慮にいれて真面目な夫婦生活を営む積りでその関係
に入つたのであり、相手方が離婚状態に至つたことに何等の責任のない者等に対し
ても「右財産分与規定の適用を許すことは法の理想を蹂躪するものである」ときめ
つけるのは、早計に失するというべきである。そこで当裁判所は、重婚的関係にあ
ることを認識して内縁関係に入つた者にも、右の如き事情ある場合は右規定の類推
適用が許されると解する。
 本件においてこれをみるに、法律婚は永らく離婚状態にあつて復活の見込なく、
抗告人等は周囲に祝福されて挙式の上夫婦関係に入り、一定の生活本拠を有して相
当期間生活を共にし、その間地域社会からも夫婦として容認されているのであつ
て、重婚的ではあるけれども夫婦共同生活体の実体があるというべきであるし、抗
告人に重婚的であることの認識はあつたけれど、同時に離婚状態にあつて旧にかえ
らないことを認識し、これを考慮に容れて夫婦関係に入つたものであり、もとより
相手方が離婚状態に至つたことにつき抗告人には何等の責任のないことであるか
ら、抗告人よりする財産分与の請求は許されるというべきである。
 二、 原審判は、本件においては内縁解消ないしは内縁解消に瀕した事実が認め
られないので、内縁解消を前提<要旨第三>とする財産分与の請求は許されないとい
う。然しながら、内縁殊に重婚的内縁の成立継続は私法秩序の理想から
望ましくないことは否定できぬところであつて、当事者の一方でも右関係を解消し
ようと欲すれば何時でも解消し得ると解すべきである。抗告人は本件において「相
手方との内縁関係を解消し、相当の財産分与を得て新生活の基礎としたい」と主張
しているところ、右の如く内縁は何時でも解消できるのであるから、分与を得た財
産を基礎に、これから内縁生活を解消したいとして財産分与を求めることも許さ
れ、既に内縁生活が解消され、ないしは解消に瀕しているという客観的状況はその
要件でない。右の点についての原審判の判断には誤りがあり、本件抗告は理由があ
ることになる。
 以上の次第で、原審判は不当に抗告人の本件申立を却下した違法のものというべ
くこれを取消し、本件を原審裁判所に差戻すこととし(但し、抗告人は内縁中殆ん
ど病気であつた等の事情もあり、原審裁判所における証拠調ないしは事実調査の結
果では、具体的には財産分与額はきわめて僅少ないしは皆無というような事態もあ
り得ないわけではなく、それらの点についてはなお調査を要する。)主文のとおり
決定する。
 (裁判長裁判官 幸田輝治 裁判官 竹村寿 裁判官 干場義秋)

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