弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人江口繁の上告趣意第一点について。
 所論は、違憲をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反の主張であつて、刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。(米国紙幣および金塊は、関税法一一一条一項、
一一二条三項にいう「貨物」に含まれる旨の原判示は正当である。)
 同第二点について。
 所論は、原判決は、本件金塊四五一・五匁の価格に相当する金額を被告人Aから
追徴した第一審判決を是認しているが、金塊は関税法一一二条三項にいう貨物に該
当しないのみならず、仮に該当するとしても、同被告人は、右金塊を没收すること
ができなくなつた当時これを所持していた者でなく、かつ何等の利益を得ることな
くこれを相被告人Bに手交したのであるから、原判決は同法一一二条、一一八条の
解釈適用を誤つたものであつて、憲法二九条に違反する旨主張する。
 金塊が関税法一一一条一項、一一二条三項にいう貨物に含まれることは、所論第
一点について判示したとおりである。
 しかして、関税法一一八条二項は、犯行時において犯人の所有または占有に属し、
そのままの状態が裁判時まで続いていたとすれば没收できる物が、犯行後譲渡、消
費等の事由で没收することができなくなつたとき、その物の価格に相当する金額を
追徴することを定めたもので、その物の価格に相当する金額を追徴するためには、
その物が裁判時において犯人の所有または占有に属していることを要しないことは、
当裁判所大法廷の判例(昭和二七年(あ)第二九九一号同三三年六月二日大法廷判
決、刑集一二巻九号一九三五頁)の趣旨とするところであり、また、同法一一一条
一項の犯罪に係る貨物について、情を知つて保管をした者に対しても、同法一一八
条二項により、右貨物の価格に相当する金額を追徴することができることも、当裁
判所の判例(昭和二八年(あ)第三四四〇号同三三年一月三〇日第一小法廷判決、
刑集一二巻一号九四頁、昭和二九年(あ)第三七六五号同三五年一〇月一一日第三
小法廷判決、刑集一四巻一二号一五四四頁)の趣旨とするところであつて、所論の
点に関する原判決の判断は正当であり、したがつて、違憲の主張はその前提を欠き、
採用することができない。(論旨引用の福岡高等裁判所宮崎支部の判決は、上記当
裁判所の判例に反するものである。)
 同第三点について。
 所論は、違憲をいう点もあるが、憲法の如何なる条文に違反するかを明示しない
から、適法な上告理由とならず、その余の所論は、単なる法令違反の主張であつて、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(外国為替等集中規則三条は、同条所定の集
中義務を履行する意思を有する者のために一〇日の猶予期間を定めたものであつて、
かかる意思を有せず、ひそかに日本円に交換することを依頼して他人に手交するな
ど、集中義務の履行と全く相い容れない処分行為をした者にまで、右猶予期間を認
める趣旨とは解せられないから、このような者については、その処分行為をしたと
きにおいて、同条違反の罪の成立を認むべきものである。原審の認定したところに
よれば、被告人Aは、韓国貿易船C事務長Dより、同人が所定の通関手続を経ない
で密輸入したものであることを知りながら、本件米国紙弊の引渡を受けたものであ
るが、その当初より所定の外国為替公認銀行等に売却する意思なく、ひそかに日本
円と交換することを依頼して即日これを被告人Bに手交したというのであつて、右
認定事実よりすれば、被告人Aが被告人Bより本件米国紙弊を取戻し、これを右規
則三条所定の期間内に日本円と交換する手続を履践することの確実なる事情を見出
し得ないのであるから、被告人Aに対し、外国為替等集中規則三条所定の期間の経
過を待つまでもなく、本件米国紙幣を被告人Bに手交した時において、同条違反の
罪の成立を認めた原審の判断は、その結論において正当である。なお、軍票不寄託
罪に関する昭和三〇年(あ)第七三号同三二年四月五日第二小法廷決定参照。)
 同第四点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Aの弁護人三根谷実蔵の上告趣意第一点について。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。(被告人Aの弁護人江口繁の上告趣意第三点に対する説明参照。)
 同第二点および第三点について。
 所論は、いずれも原審で主張判断を経ない単なる法令違反の主張であつて、刑訴
四〇五条の上告理由に当らない。(論旨第三点にいう米国軍票は、昭和二七年政令
一二七号四条二項違反の罪の組成物件に該当し、刑法一九条一項一号によりこれを
没收することができる。)
 同第四点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Aの弁護人小林俊三、同曾根信一の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決が関税法一一八条二項の解釈適用を誤つたことを前提として、憲
法三一条違反を主張するが、原判決には所論の違法は認められないこと、被告人A
の弁護人江口繁の上告趣意第二点について説示した通りであるから、違憲の主張は
その前提を欠き、採用することができない。
 また、所論は判例違反をもいうが、原判決は論旨引用の判例に副つた判断をした
ものであつて、なんらこれに違反していないから、所論は採用することができない。
 同第二点について。
 所論は、追徴金額の算定に関し事実誤認、訴訟法違反を主張し、これを前提とし
て憲法三一条違反をいうが、その前提自体が認められないから、適法な上告理由に
当らない。(原審の事実に関する判断は是認し得るものであり、その手続は法令に
したがつた適正なものである。)
 同第三点について。
 所論は、原審で主張判断を経ない判例違反、単なる法令違反の主張であつて、適
法な上告理由に当らない。(論旨引用の判例は、いずれも本件に適切でない。)
 同第四点について。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
(被告人Aの弁護人江口繁の上告趣意第三点に対する説明参照。)
 同第五点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人B本人の上告趣意について。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の
上告理由に当らない。(被告人の司法警察員に対する供述調書は罪証に供せられて
居らないから、その任意性を欠く旨の論旨は前提において既に失当である。)
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官垂水克己及び同横田正俊の後記意見のあるほか裁
判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 裁判官垂水克己及び同横田正俊の被告人Aの弁護人江口繁の上告趣意第三点、同
被告人の弁護人三根谷実蔵の上告趣意第一点並びに同被告人の弁護人小林俊三、同
曾根信一の上告趣意第四点についての判断に対する意見は次のとおりである。
 第一審判決判示第一の(三)(イ)(ロ)の各事実及びこれに関し(原審が被告
人Aの弁護人江口繁の控訴趣意第三点の判断について)認めた事実によれば、被告
人Aは、Dが所定の通関手続を経ないで密輸入したものであることを知りながら、
Dより取得した各米国紙弊を、長崎県a町内に居住中、判示年月の一二日頃と一四
日頃(当時a町所在株式会社E銀行Fでは外国通貨の売買取次はできた)、法定の
除外理由がないのに、同町内において、日本円との交換方を依頼して相被告人Bに
各交付してしまい、これを法令所定の外国為替公認銀行等に外国為替等集中規則三
条所定の一〇日の期間内に売却する手続を敢えてしなかつた、そして被告人Aの依
頼により右各米国紙弊の交付を受けた相被告人Bがこれをab間連絡船内において
所持隠匿中、右各交付の日より一〇日を経ない前の同月一八日右各米国紙弊は司法
警察員に領置された、というのである。してみれば、被告人は外国為替公認銀行等
に売渡さない意思の下に、右米国紙幣を不特定の第三者と交換のため相被告人Bに
各交付し、よつて、右各米国紙幣が相被告人Bの手中に存し又は不特定の第三者に
転得されるようにして右外国為替等集中規則三条所定の一〇日の期間内にはこれを
外国為替公認銀行等に売却しえないように、殊更らしてしまつた訳であるから、そ
れが偶々右期間内に司法警察員に領置されたとしても、被告人は故意に基く右所為
により右期間内の外国為替公認銀行等への売却を怠つたことに変りはなく、従つて、
右各一〇日の期間の経過とともに、被告人の判示各所為は、いずれも、外国為替管
理法二一条、七〇条二一号、外国為替管理令三条、外国為替等集中規則三条に各該
当する犯罪(既遂)を構成するに至つたものというべきである。
  昭和三七年一〇月三〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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