弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人阿久津英三、同野呂正達、同田中親義の上告理由第一点、第四点およ
び第五点について。
 原判決は、株式会社D商店において、被控訴会社(上告人)E支店長Fが被控訴
会社を代理して手形保証をなす権限を制限せられていることを知つて本件手形を取
得したことを認むべき証拠がないから、被控訴会社は、Fが被控訴会社を代理して
なした本件手形保証につき株式会社D商店に対し手形債務を負担せざるをえないの
であるが、以後本件手形を適法に取得するものは、株式会社D商店の権利を承継す
るものであるから、株式会社D商店より米国人Gを経て本件手形を適法に取得した
控訴人は、Fの右代理権の制限につき善意たると悪意たるとを問わず、被控訴会社
に対し右手形債務の履行を請求しうる旨判示したものである。所論は、原判決は商
法四二条に違反するというが、商法四二条は、支配人でない使用人であつて本店ま
たは支店の営業の主任者であることを示す名称を附した者は、これをその本店また
は支店の支配人と同一の権限を有するものとみなす旨の規定であつて、本件のFの
ように、控訴会社支店の支店長であつて、その営業に関する包括的代理権を有し、
ただその権限に制限のある者に対し適用さるべき法規ではない。本件の場合は、む
しろ商法三八条二項の適用が問題となろう。しかし同条項は、支配人の代理権を加
えた制限は第三者が悪意である限り如何なる場合にもこれを対抗しうる旨を定めた
ものではなく、本件のように適法に被控訴会社に対する手形上の権利を取得した株
式会社D商店より右手形上の権利を承継した控訴人は、商法三八条二項の適用によ
つて被控訴会社に対する手形上の権利を取得したものではないから、右承継に際し、
たといFの代理権の制限につき悪意であつても、これをもつて控訴人に対抗しえな
いことはいうまでもない。また、所論は、原判決は手形法一七条の適用につき判示
せずまたは同条の解釈を誤つた違法があるという。しかし手形法一七条但書は、手
形債務者が手形所持人の前者に対し人的抗弁をもつて対抗しえた場合に、手形所持
人が害意をもつて手形を取得したときは、これに対しても右人的抗弁をもつて対抗
しうる旨の規定であつて、手形所持人の前者が善意であるため、手形債務者がこれ
に対し人的抗弁を対抗しえない場合においても、その前者の地位を承継した手形所
持人に対しその悪意を云為して右人的抗弁の対抗を許すものと解すべきではない。所
論は以上と異る見解を前提として原判決を彼此論難するものであるから、すべてこ
れを採用しない。
 同第二点および第三点について。
 原判決は、本件手形の受取人H繊維株式会社が白地式裏書により株式会社D商店
に本件手形を譲渡し、株式会社D商店が白地を補充せず引渡しにより米国人Gにこ
れを譲渡し、米国人Gもまた引渡しによりこれを控訴人(被上告人)に譲渡したと
の事実を認定したものである。右方法による手形の譲渡は、手形法一三条二項、同
一四条一項同二項三号により許されるから、株式会社D商店および米国人Gは、本
件手形にその氏名が記載されるに至らなくても、控訴人の前者として権利を譲渡し
た手形上の権利者であつたことはいうまでもない。所論は、これと異る独自の見解
に基いて原判決の法令違反をいい、右見解を前提として原判決の審理不尽をいうも
のであるから、いずれも採用できない。
 同第六点ないし第八点について。
 原判決は、その挙示の証拠により被控訴会社E支店長Fは真実手形保証をなす意
思で本件手形に保証をなしたものであると認定し、而してかりに同人が振出人Iの
懇請により同人の取引について見本として呈示した上直ちに返還する約定の下に右
手形保証をなしたとしても、控訴人が右事実を知つて手形を取得したことを認むべ
き証拠がない旨を判示したものであつて、以上の判断は肯認できなくはない。され
ば原判決に所論の法令解釈の誤り、法令不適用の違法、採証法則違反、理由齟齬、
審理不尽の違法がなく、論旨はいずれも採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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