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平成21年6月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10368号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年5月12日
判決
原告株式会社水道技術開発機構
原告株式会社南水設計事務所
原告ら訴訟代理人弁理士尾崎雄三
梶崎弘一
谷口俊彦
椚田泰司
被告Y
同訴訟代理人弁理士重信和男
清水英雄
中野佳直
秋庭英樹
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−80100号事件について平成20年9月1日にした審
決のうち請求項1,3,7に係る部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告らが,下記1のとおりの手続において,原告らが共有する発明のう
ち,下記2の訂正後の請求項1,3及び7に係る発明についての特許を無効とした
別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4
の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本件訴訟に至る手続の経緯
(1)原告らは,平成13年2月20日,発明の名称を「管路における不平均力
の支持装置」とする特許出願をし,平成15年9月12日,設定の登録(特許第3
470804号)を受けた(甲5)。
(2)前記特許については,平成18年5月26日,被告から,7項からなる請
求項のうち,請求項1ないし3,7に係る発明についての特許を無効にすることを
求める審判請求がされ,特許庁に無効2006−80100号事件として係属し,
原告らは,その係属中の同年8月18日,明細書の訂正請求をしたところ,同年1
1月28日,その訂正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決がされた(甲6)。
被告は,これを不服として知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴え
(平成18年(行ケ)第10556号)を提起したところ,同裁判所は,平成19
年10月31日,同審決を取り消す旨の判決をした(甲7)。
これに対し,原告らは,最高裁判所に上告受理の申立てをしたが,同裁判所は,
平成20年3月13日,不受理決定をし,上記判決が確定した。
(3)原告らは,前記取消判決確定後の無効審判請求事件が特許庁に係属中の同
年5月14日付けで特許請求の範囲の減縮等を目的として明細書の訂正(以下「本
件訂正」という。)の請求をしたところ(甲12),同庁は,同年9月1日,本件
訂正を認めた上で,「特許第3470804号の請求項1,3,7に係る発明につ
いての特許を無効とする。特許第3470804号の請求項2に係る発明について
の審判請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月11日,原
告らに送達された。
2発明の要旨
本件訂正後の請求項1,3及び7に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,
「本件発明3」及び「本件発明7」という。)の要旨は,次のとおりである。なお,
管軸方向というのは,管体の軸芯方向をいい,文中の「/」は原文の改行部分を示
す。以下,出願書類の原文を引用する場合も,これに倣う。
【請求項1】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレ
ームに管体を固定する固定機構とを設け,/前記固定機構に,前記フレームから前
記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前
記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設け
てあり,/このくさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームの
くさび体収容部に螺合されていて,/前記くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔
を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作
用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定し
てあり,/前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部か
ら立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,が一体に設けて構成されている管路
における不平均力の支持装置。
【請求項3】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレ
ームに管体を固定する固定機構とを設け,/前記固定機構に,前記フレームから前
記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前
記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設け
てあると共に,/前記くさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレ
ームのくさび体収容部に螺合されていて,/前記フレームは,前記支持部に固定さ
れる取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管
軸方向に沿うリブと,が一体に設けて構成されている不平均力の支持装置。
【請求項7】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレ
ームに管体を固定する固定機構とを設け,/前記固定機構に,前記フレームから前
記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前
記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能な移動阻止体を設
け,/前記移動阻止体は,前記管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方
向で所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してあると共に,/前記フレー
ムは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体
を支持する管支持部と,管軸方向に沿うリブと,が一体に設けて構成されている管
路における不平均力の支持装置。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明1,3及び7は,いずれも,下記
①の刊行物(以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」とい
う。),下記②の刊行物(以下「刊行物2」という。)記載の技術事項及び周知の
技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであって,本件発
明1,3及び7についての特許は,特許法29条2項の規定に違反するから,同法
123条1項2号に該当して無効とされる,というものである。
①実願平3−111210号(実開平5−54686号)のCD−ROM(甲
1)
②実公平3−51582号公報(甲9)
(2)ちなみに,本件審決が認定した本件発明1,3及び7と刊行物発明との1
一致点及び相違点は,次のとおりであって,その認定自体は,当事者間に争いがな
い。なお,本件審決は,本件発明3及び本件発明7と刊行物1発明との相違点につ
き,それぞれ1及び2の2点を認定しているが,本件訴訟で問題となっているのは,
そのうちの相違点1である。相違点2は問題となっていないので,以下の②及び③
で記載した相違点は,それぞれ本件審決が相違点1として認定した相違点である。
①本件発明1と刊行物1発明との一致点及び相違点
一致点:支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレー
ムに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される
取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部とが一体に
設けて構成されている管路における不平均力の支持装置
相違点:固定機構が,本件発明1では,フレームから管体に向けて作用される押
圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,フレームに対して前記管体が管
軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設け,また,くさび体上面を垂直方向
に押圧する押しボルトが,フレームのくさび体収容部に螺合されていて,くさび体
を,管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う
一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に
各くさび体の姿勢を設定してあるものであるのに対し,刊行物1発明は,バンドで
ある点
②本件発明3と刊行物1発明との一致点及び相違点
一致点:支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレー
ムに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される
取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブと
が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置
相違点:固定機構が,本件発明3では,フレームから管体に向けて作用される押
圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,フレームに対して前記管体が管
軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設け,また,くさび体上面を垂直方向
に押圧する押しボルトが,フレームのくさび体収容部に螺合されて設定されるもの
であるのに対し,刊行物1発明は,バンドである点
③本件発明7と刊行物1発明との一致点及び相違点
一致点:支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレー
ムに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される
取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブと
が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置
相違点:固定機構が,本件発明7では,フレームから管体に向けて作用される押
圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,フレームに対して前記管体が管
軸方向に移動するのを阻止可能な移動阻止体を設け,また,移動阻止体が,管体の
外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で所定の間隔を置いて位置する状態
に設けられているものであるのに対し,刊行物1発明は,バンドである点
4取消事由
(1)取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との相違点についての判断の誤
り)
(2)取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との相違点についての判断の誤
り)
取消事由3(本件発明7と刊行物1発明との相違点についての判断の誤(3)
り)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
〔原告らの主張〕
(1)本件審決は,本件発明1と刊行物1発明との前記相違点について,「刊行
物1発明と刊行物2記載の技術事項とは,ともに,管体を支持する装置という同一
の技術分野に属するものであり,また,管体の管軸方向に作用する力を抑えるよう
に作用するものであるから,刊行物1発明において,刊行物2記載の技術事項に倣
って,固定機構に,ダクタイル管に向けて作用される押圧力によってダクタイル管
の外面に押圧されるクサビを採用し,その際,クサビの上面を押しボルトにより垂
直方向に押圧する構成を採用し,本件発明1の相違点に係る構成とすることは,当
業者が容易に想到し得たことである。」(22頁21∼28行)とした。
そして,刊行物2記載の技術事項を刊行物1発明に適用することに阻害要因が存
在する旨の原告らの主張に対し,刊行物1発明が管体の管軸方向への移動を許容す
る構造を備えることを認めながらも,「低摩擦溶射被膜55により軸方向にずれが
許容され得るとしても,バンド44を介して,ダクタイル管1を受け台本体43に
固定する構成は,管内の流体圧によって作用する力に起因して管路の継ぎ手に管体
の管軸方向に作用する力を抑えるように作用するものと認められるから,刊行物1
記載の『受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台』
が低摩擦溶射皮膜55を備えることをもって,上記認定を左右するものとはいえな
い。」(23頁11∼17行)とし,刊行物2記載の技術事項を刊行物1発明に適
用することに阻害要因は存在しないとした。
(2)しかしながら,刊行物1記載の支持装置が,管体の管軸方向に作用する力
を抑えるように作用するものであっても,それは,飽くまで浮上力を生じる「管内
の流体圧によって作用する力」を支持するに際し,その力に起因して管体の管軸方
向に作用する力を,バンドと管体との摩擦抵抗力により抑えるものであるから,バ
ンドを管体にあてがうことによる付随的な作用にすぎず,不平均力が作用した際の
管体の管軸方向に沿った移動を積極的に,かつ,強固に阻止するものではない。
むしろ,刊行物1記載の支持装置では,管体を受け止める管受け台の上面に,あ
えて低摩擦溶射皮膜を形成しているのであるから,管体の管軸方向へのずれを積極
的に許容するものである。
したがって,刊行物1記載の支持装置においては,管体の管軸方向への移動を積
極的に阻止する構成の適用を意図しておらず,刊行物2記載の技術事項を採用する
ことはあり得ない。
また,仮に,刊行物2記載の技術事項を刊行物1記載の支持装置に適用した場合
には,管受け台に形成した低摩擦溶射皮膜が機能しなくなるのであるから,当業者
として通常は適用を考えない。
そもそも,刊行物1記載の支持装置が,不平均力の支持装置となり得るのは,バ
ンドにより管体を下向きに押さえて浮き上がりを防ぐからであり,山形の管路のよ
うに浮上力が働く場合に限ってのことである。刊行物1記載の支持装置を,浮上力
が働かない管路,例えば水平曲管(上方向から見ると曲がって延びるが,水平方向
から見ると水平に延びる管)に取り付けた場合には,当然ながら浮上力を抑える作
用は働かず,管体の管軸方向に作用する力も有効に抑えられないと容易に想定され
る。もとより,刊行物1記載の支持装置は,管体にバンドをあてがうだけの構成で
あるため,不平均力が作用した際の管体の管軸方向に沿った移動を強固に受け止め
るという作用を奏することが原理的に困難である。
(3)以上のとおり,管体の管軸方向へのずれを積極的に許容する態様で構成さ
れた刊行物1記載の支持装置において,刊行物2記載の技術事項を適用することに
ついては,阻害要因が存在し,刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技
術を適用して本件発明1を想到することは,当業者が容易になし得たものではない。
(4)本件審決は,「刊行物1発明も,特開平7−280147号公報(甲1
0)及び特開平11−218276号公報(甲3)に開示される技術も,不平均力
を抑えるために管体外周に作用させ管体を固定する点で共通するものであるから,
当該周知技術を刊行物1発明に適用することは,当業者が容易になし得たことであ
る。」(23頁34∼末行)とした。
しかしながら,上記(2)のとおり,刊行物1記載の支持装置に刊行物2記載の技
術事項を適用することには,阻害要因が存在するのであるから,刊行物1記載の支
持装置の固定機構として,管体の外面に押圧されるクサビを採用し,更にそのクサ
ビの上面を押しボルトにより垂直方向に押圧することは,刊行物1記載の支持装置
において意図されておらず,採用することはあり得ない。
(5)以上のとおり,本件審決は,相違点についての判断を誤った結果,本件発
明1が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの誤った判断
をしたものであるから,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)原告らは,「刊行物1記載の支持装置が,管体の管軸方向に作用する力を
抑えるように作用するものであっても,それは,飽くまで浮上力を生じる『管内の
流体圧によって作用する力』を支持するに際し,その力に起因して管体の管軸方向
に作用する力を,バンドと管体との摩擦抵抗力により抑えるものであるから,バン
ドを管体にあてがうことによる付随的な作用にすぎず,不平均力が作用した際の管
体の管軸方向に沿った移動を積極的に,かつ,強固に阻止するものではない。」と
主張する。
(2)しかしながら,刊行物1には,浮上力が働く時にそれを支持する構造物に
大きな力がかかる点が説明されてはいるが,浮上力が働いた時に限って管軸方向に
力が作用するなど,原告らが主張するような記載はない。
したがって,バンドと管体との摩擦抵抗力につき,原告らが主張するように「バ
ンドを管体にあてがうことによる付随的な作用にすぎず」等ととらえることはでき
ない。例えば,刊行物1の従来技術として示されている図8の説明として「このコ
ンクリート4aでダクタイル管1と鉄骨枠3とを被覆して強固に固定する。」と記
載されているように,不平均力に対し,管体の管軸方向に沿った移動を積極的に,
かつ,強固に阻止するのが一般的又は周知の技術であり,従来技術として示されて
いる図8ないし14も,すべて管軸方向に沿った移動が積極的に抑えられている。
一方,刊行物1には「ダクタイル管に軸方向の地震荷重や熱膨張荷重がかかった
場合は,低摩擦係数のグラファイト溶射材により管受け台上でダクタイル管が滑り,
各部に無理な応力が作用しない。」との記載があり,また,「…グラファイト溶射
材からなる低摩擦溶射皮膜である。この低摩擦溶射皮膜55は,…ダクタイル管1
に軸方向に一定以上の力が作用した場合,この軸方向のずれを許容し得るものであ
る。」との記載があるように,低摩擦係数のグラファイト溶射材の働き(滑り)は,
ダクタイル管に軸方向の地震荷重や熱膨張荷重がかかった場合(浮上力が働く時の
軸方向の大きな荷重も排除しないが,)に限定される機能であり,また「軸方向に
一定以上の力が作用した場合,…許容する」との記載から,刊行物1でいうところ
の発明も,ダクタイル管1に軸方向に一定の力に到達する特別な状態までは,管軸
方向に沿った移動は強固に抑えられていることが分かる。
原告らは,「むしろ,刊行物1記載の支持装置では,管体を受け止める管受け台
の上面に,あえて低摩擦溶射皮膜を形成しているのであるから,管体の管軸方向へ
のずれを積極的に許容するものである。」と主張するが,刊行物1に従来技術とし
て示されている図8ないし14は,低摩擦溶射皮膜を有していないのであり,また,
刊行物1の従来技術として示されている図8の説明として,「このコンクリート4
aでダクタイル管1と鉄骨枠3とを被覆して強固に固定する。」と記載されている
ことからしても,原告らは,刊行物1でいうところの発明の実施例のみに基づく反
論をするものであって,失当である。
したがって,管体の管軸方向に沿った移動が積極的に抑えられる態様で構成され
た刊行物1記載の支持装置に,刊行物2記載の技術事項を適用することについては,
阻害要因が存在せず,刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技術を適用
して本件発明1を想到することは,当業者が容易になし得たものであるから,本件
審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
〔原告らの主張〕
(1)本件審決は,本件発明3と刊行物1発明との前記相違点について,「刊行
物1発明と刊行物2記載の技術事項とは,ともに,管体を支持する装置という同一
の技術分野に属するものであり,また,管体の管軸方向に作用する力を抑えるよう
に作用するものであるから,刊行物1発明において,刊行物2記載の技術事項に倣
って,固定機構に,ダクタイル管に向けて作用される押圧力によってダクタイル管
の外面に押圧されるクサビを採用し,その際,クサビの上面を押しボルトにより垂
直方向に押圧する構成を採用し,本件発明3の相違点1に係る構成とすることは,
当業者が容易に想到し得たことである。」(31頁20∼27行)とする。
(2)しかしながら,前記1の原告らの主張のとおり,刊行物1記載の支持装置
に刊行物2記載の技術事項を適用することには阻害要因が存在するのであるから,
刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技術を適用して本件発明3を想到
することは,当業者が容易になし得たものではない。
(3)以上のとおり,本件審決は,相違点1についての判断を誤った結果,本件
発明3が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの誤った判
断をしたものであるから,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告らは,刊行物1記載の支持装置に刊行物2記載の技術事項を適用することに
は阻害要因があると主張するが,前記1の被告の主張のとおり,原告らの主張には
理由がない。
3取消事由3(本件発明7と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
〔原告らの主張〕
(1)本件審決は,本件発明7と刊行物1発明との前記相違点について,「刊行
物1発明と刊行物2記載の技術事項とは,ともに,管体を支持する装置という同一
の技術分野に属するものであり,また,管体の管軸方向に作用する力を抑えるよう
に作用するものであるから,刊行物1発明において,刊行物2記載の技術事項に倣
って,固定機構に,ダクタイル管に向けて作用される押圧力によってダクタイル管
の外面に押圧されるクサビ等の移動阻止体を採用し,その際,移動阻止体は,管軸
方向で所定の間隔を置いて位置する状態で使用される一対のエッジ部を設けたもの
を採用し,本件発明7の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し
得たことである。」(33頁30行∼34頁6行)とした。
(2)しかしながら,前記1の原告らの主張のとおり,刊行物1記載の支持装置
に刊行物2記載の技術事項を適用することには阻害要因が存在するのであるから,
刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技術を適用して本件発明7を想到
することは,当業者が容易になし得たものではない。
また,本件発明7では,管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で
所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してある移動阻止体を採用している
ところ,このような移動阻止体は,管体の外面に対するエッジ部の食い込み作用を
奏するものであるため,管体の管軸方向へのずれを積極的に許容する刊行物1記載
の支持装置において採用することは考え難い。
(3)以上のとおり,本件審決は,相違点1についての判断を誤った結果,本件
発明7が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの誤った判
断をしたものであるから,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告らは,刊行物1記載の支持装置に刊行物2記載の技術事項を適用することに
は阻害要因があると主張するが,前記1の被告の主張のとおり,原告らの主張には
理由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
(1)本件発明1について
ア本件訂正後の明細書には,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は管路における不平均力の支持装置
に関する。」
【0002】【従来の技術】一般に曲がり管路2においては,管路2を構成する複
数の管体3の継ぎ手部4に,管内の流体圧によって不平均力が作用する。
【0003】そして,この不平均力に起因して管路の継手部に…管軸方向…の力が
作用することから,管路を支持するための支持構造が必要になる。
【0004】従来,上記の管路を支持するのに,…鉄筋コンクリート(6は鉄筋で
ある)製の躯体5で共同溝1内の管体3を固定してあった。
【0005】【発明が解決しようとする課題】上記従来の支持構造によれば,共同
溝1のような狭い空間での鉄筋コンクリート施工が困難で,施工に手間がかかると
いう問題があった。
【0006】上記の問題を解消する技術として,鋼製のバンドをボルトによって管
体の周囲に巻付け固定する技術が提案されているが,この技術ではバンドと管体と
の間の摩擦抵抗力で管体の管軸方向の移動を防止することから,管路における不平
均力を強固に支持することは困難である。
【0009】[構成]支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,
このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,/前記固定機構に,前記フレー
ムから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されるこ
とで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび
体を設けてあり,/このくさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フ
レームのくさび体収容部に螺合されていて,/前記くさび体を,前記管軸方向に所
定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体の
くさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢
を設定してあり,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付
座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,が一体に設けて構成されてい
る。
【0010】[作用]管体の外面に押圧されるくさび体によって,この管体とフレ
ームとが一体化される。そして,くさび体のくさび作用によって,不平均力に基づ
く管体の管軸方向への動きが阻止される。しかも,管体が管軸方向のいずれの方向
に移動しようとしてもいずれか一方のくさび体が作用し,これにより,管体の移動
を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とする
ことができる。
【0011】[効果]従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることが
できる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。
イ以上の記載によると,本件発明1は,要するに,一般に曲がり管路において
は,管内の流体圧によって生ずる不平均力が管体の継ぎ手部に管体の管軸方向の力
となって作用することから,これによって管体が管軸方向に移動するのを阻止する
ために,フレームに管体を固定する固定機能を設け,この固定機能に管軸方向で互
いに反対方向になる状態にくさび体の姿勢を設定することとして,管体を管軸方法
に移動させる力を抑える管路における不平均力の支持装置であるということができ
る。
(2)刊行物1発明について
ア刊行物1には,実用新案登録請求の範囲として,次の記載がある。
【請求項1】受け台本体と,バンドとで構成するダグタイル管の管受け台であって,
前記受け台本体は,所定の直径および肉厚を有し,かつ所定長さに切断したステン
レス鋼鋼管の上下端に支持板および底板を溶接して構成し,さらに底板には固定用
アンカーボルトの挿入孔を設け,支持板には両側立上げ部の間を下方に湾曲してな
る管受け部材を設け,この管受け部材に載置したダクタイル管の外周にバンドを当
てがい,このバンドによりダクタイル管を受け台本体に固定した構成を特徴とする
ダクタイル管の管受け台。
イまた,刊行物1には,「考案の詳細な説明」として,次の記載がある。
【0001】【産業上の利用分野】本考案は,ダクタイル管の管受け台に係り,と
くにステンレス鋼鋼管を用いて,小さいスペースで,しかも大小径の異なるダクタ
イル管を確実に支持固定できる構造のダクタイル管の管受け台に関するものである。
【0002】【従来の技術】ダクタイル管は,数キロメートル,或いはそれ以上の
長い距離に亘って延設されるもので,その直径は一般に75φ∼2600φ程度で
ある。このダクタイル管は,地下に掘削した共同溝に配設されることが多く,その
内部に上下水,液体燃料などを流通させることが多い。このダクタイル管は,共同
溝の所定の高さ位置に支持させるため,一定間隔ごとに多数の管け受台を設けるこ
とが必要となる。この管受け台は,その荷重に耐えるだけの強度が要求される。ま
た,例えば図10に示すようにダクタイル管が上向き山形に屈曲している部位を流
体が流れるとき,管には上向きの強い力Fが働き,管を浮上がらせようとする。こ
れを押さえるためにも,ダクタイル管は強固な構造の管受け台にしっかりと固定す
ることが必要である。
【0004】図8,図9を参照して管受け台の従来例1を説明する。図において,
1はダクタイル管,2は管受け台である。管受け台2は,正面から見て門形の鉄骨
枠3と,補強のためこの鉄骨枠3を被覆するコンクリート4とから構成されている。
鉄骨枠3の両側枠5は,それぞれ上下に分割されており,かつ上下の両側枠に開孔
した上下方向に長い長孔6にボルト7を挿通し,高さ調節自在に構成されている。
鉄骨枠3の両下端部は,アンカーボルト8により,共同溝の地面10に固定されて
いる。
【0005】鉄骨枠3の上部枠11の上面には,ダクタイル管1を受ける転がり止
部材12がボルト13で固定されている。転がり止部材12はライナー(図示せ
ず)を介して高さ調整自在に設けられている。14は平鋼を用いたダクタイル管固
定用のバンドで,その両端に長尺のボルト15を固定している。このバンド14で
ダクタイル管1の上部外周を押え,ボルト15を鉄骨枠3の上部枠に開設した孔1
6に挿通したうえ,ナット17を締めて固定している。前記バンド14による固定
が終わった後にコンクリート4の打設を行う。また,管受け台2が図10に示すよ
うにダクタイル管1の山形の曲管部18を支持する場合は,ダクタイル管1に次の
式1に示すような浮上力が働く。
【0007】このため,図8の管受け台2において,図示鎖線で示す範囲までコン
クリート4aを打設し,このコンクリート4aでダクタイル管1と鉄骨枠3とを被
覆して強固に固定する。なお,コンクリート4,4aには,必要に応じて補強用の
鉄筋を埋設することも行われる。前記の管受け台2は,構造が複雑で,その設置作
業に大変手間どるとともに,大きなスペースを必要とする。さらに,ダクタイル管
1の径が異なったり,管の支持強度,支持高さを変更する場合は,鉄骨枠3の各枠
部材を含めて,管受け台2全体の枠組み寸法を変える必要がある。しかし,これは,
管受け台2の生産性が悪く,コスト高になるという問題につながる。
【0011】【考案が解決しようとする課題】解決しようとする問題点は,従来の
管受け台は,ダクタイル管の管径や支持高さ,支持強度などが変わるたび毎,受け
台本体の構成を各部材の寸法に対応させる必要があり,管受け台の施工性,生産性
に難点があることである。また,受け台本体の幅寸法は,構造上ダクタイル管の管
径より大となり,それだけ,管受け台の占有スペースが大きくなり,共同溝内に配
設する他の配管やケーブルなどの配設スペースを少ならしめるという点である。
【0012】【課題を解決するための手段】本考案に係るダクタイル管の管受け台
は,受け台本体と,バンドとで構成するダグタイル管の管受け台であって,前記受
け台本体は,所定の直径および肉厚を有し,かつ所定長さに切断したステンレス鋼
鋼管の上下端に支持板および底板を溶接して構成し,底板には固定用アンカーボル
トの挿入孔を設け,支持板には両側立上げ部の間を下方に湾曲してなる管受け部材
を設け,この管受け部材に載置したダクタイル管の外周にバンドを当てがい,この
バンドによりダクタイル管を受け台本体に固定した構成を特徴とするものである。
【0023】【考案の効果】本考案に係るダクタイル管の管受け台によると,次の
作用効果がある。第1に受け台本体は,ステンレス鋼鋼管を所定の長さに切断した
ものを使用しているので,従来の管受け台に比べて構成が非常に簡潔であり,しか
も十分な強度を持たせることができる。とくに,ダクタイル管の荷重が大きく,或
いはダクタイル管に大きな浮力が働く場合などにおいて,受け台本体の支持強度を
増大する必要がしばしば生じる。このような場合,本考案によると,汎用性ある多
種のステンレス鋼鋼管の中から,管径や肉厚が十分大きくて,目的とする強度を有
するステンレス鋼鋼管を適宜選択することにより,この問題に容易に対処すること
ができる。また,構成も簡潔で,従来に比べその製作コストを低く抑えることがで
きる。
【0024】さらに,ダクタイル管には,その径が例えば75φ∼2600φ以上
と多種あり,それぞれの管受け台の支持位置の高さがきまっている。この場合も,
ステンレス鋼鋼管の長さ寸法を変えることにより,容易に対応でき,従来のように
管受け台全体の枠組みを変更しなくてよいため,低コストですむ。また,受け台本
体は,十分な強度を有していて,しかもダクタイル管より外方に出張ることがなく,
小スペースにできるもので,ダクタイル管が配設される共同溝内の限られたスペー
スを有効に利用することができるというすぐれた効果がある。
ウ以上の記載によると,刊行物1発明でも,ダクタイル管が上向き山形に屈曲
している部位を流体が流れるときに,管には上向きの強い力が働き,管を浮き上が
らせようとするので,これを抑えるためにも,強固な構造とし,ダクタイル管をし
っかりと固定する必要があるとして,その支持装置が予定されているということが
できる。
(3)本件発明1及び刊行物1発明における支持装置としての機能
以上によると,本件発明1も,刊行物1発明も,少なくとも,管路の屈曲してい
る部位を流体が通過するときに管路に作用する不平均力に対処して管体を支持する
装置であるといって差し支えない。
そして,その支持装置が機能するのは,刊行物1発明においても,前記【000
2】のとおり,流体が管体の屈曲した部位を浮上させようとする力が管体を管軸方
向に移動させようとする力として作用する状況下であるから,本件発明1において
前記【0003】の「管路の継手部に…管軸方向の力が作用することから,管路を
支持するための支持構造が必要になる」のと状況的に異なるものではなく,刊行物
1発明においても,管体を管軸方向に移動させようとする力を抑えるための装置と
して当該発明に係る支持装置が必要になったものといわなければならない。
そうすると,刊行物1発明の支持装置も,本件発明1の支持装置と同様に,管路
の不平均力に起因する管軸方向の移動を支持する装置としては,その機能として共
通するものということができる。
(4)刊行物2記載の技術について
ア刊行物2には,「実用新案登録請求の範囲」として,次の記載がある。
配管の外周に固定され,この配管を側方の支持体上に支持するようにした装置に
おいて,配管と支持体との間に介在される支持部材に配管を包囲する固定リングを
設け,この固定リングと配管外周との間に湾曲したクサビを両側から挿入し,これ
らクサビの外側端部に当接して配管を移動自由に包囲する一対の締め付けリングを
固定リングの両側に設け,両締め付けリングをボルトにより締め付けてクサビを固
定リング内に押し込むことにより固定リングを配管に固定したことを特徴とする配
管のクランプ装置
イまた,刊行物2には,「考案の詳細な説明」として,次の記載がある。
(産業上の利用分野)本考案は,配管をその側方にある梁等の支持体上に所定方向
に移動自在に,或いは固定して支持するために,配管に固定されるクランプ装置に
関するものである。
(従来の技術)従来,配管を支持体上に支持するための装置においては,例えば配
管の外周にラグを溶着しこのラグにスプリングハンガ等の支持装置を結合し,或い
は配管の外周にサドルを溶着しこれを梁上に支持する等の手段が用いられている。
(考案が解決しようとする問題点)上記従来の配管の支持手段においては,何れも
支持部材を直接配管の外周に溶着するために,この作業が容易でなく,かつ特に原
子力発電所用の配管では,溶接箇所検査が極めて厳重で,溶接後に面倒な熱処理作
業を必要とするという問題点がある。
(問題点を解決するための手段)本考案においては,上記従来の問題点を解決する
ため,配管Pの外周に固定され,この配管Pをサドル1等の支持部材を介して側方
の支持体上に支持するようにした装置において,支持部材に配管Pを包囲する固定
リング2を設け,この固定リング2と配管P外周との間に湾曲したクサビ3を両側
から挿入し,これらクサビ3の外側端部に当接して配管Pを移動自由に包囲する一
対の締め付けリング4,4ヲ固定リング2の両側に設け,両締め付けリング4,4
をボルト5により締め付けてクサビ3を固定リング2内に押し込むことにより固定
リング2を配管Pに固定して配管のクランプ装置を構成した。
(作用)本考案の配管支持装置においては,固定リング2を配管Pの外周に取付け,
この固定リング2の両側から,配管P外周との間に湾曲したクサビ3を挿入し,こ
れらクサビ3の外側に対向一対の締め付けリング4を嵌め込み,それの対向面を各
クサビ3の外側端面に当接させ,両締め付けリング2をボルト5により締め付けて
クサビ3を固定リング2内に押し込むことにより固定リング2を配管Pに固定し,
支持体に支持された支持部材と配管Pとを連結する。
(考案の効果)以上のように,本考案においては,配管Pの外周に限定され,この
配管Pをサドル1等の支持部材を介して側方の支持体上に支持するようにした装置
において,支持部材に配管Pを包囲する固定リング2を設け,この固定リング2と
配管P外周との間に湾曲したクサビ3を両側から挿入し,これらクサビ3の外側端
部に当接して配管Pを移動自由に包囲する一対の締め付けリング4,4を固定リン
グ2の両側に設け,両締め付けリング4,4をボルト5により締め付けてクサビ3
を固定リング2内に押し込むことにより固定リング2を配管Pに固定して配管のク
ランプ装置を構成したため,配管Pに直接ラグや支持部材等を溶接することなく容
易に支持体との間を結合することができ,しかも後の熱処理等も不要であるという
効果を有する。
ウ以上の記載によると,刊行物2には,配管のクランプ装置としてではあるが,
配管を支持体上に支持するために,配管の軸方向に一定の間隔を置いて複数配置さ
れ,配管の軸方向で対となるクサビのくさび作用の方向が反対方向になるよう設置
された係止部材であるくさびによる押圧によって,配管が軸方向に移動することを
阻止する技術が記載されていることが明らかである。
(5)刊行物1発明に対する刊行物2記載の技術事項の適用
刊行物1発明と刊行物2記載の技術事項とは,いずれも,管体の管軸方向への移
動を支持するという同一の技術分野に属するものであるから,管路の不平均力に起
因する管軸方向の移動を支持する刊行物1発明につき,係止部材であるくさびによ
る押圧によって配管が軸方向に移動することを阻止する刊行物2の技術事項を適用
することは,当業者が容易に想到し得るものであったといわなければならないが,
原告らは,その容易想到性を争うので,以下,原告らの主張を分説して検討する。
ア原告らは,まず,刊行物1記載の支持装置において,刊行物2記載の技術事
項を適用することはできないなどとして,前記第3・1のとおり主張する。
イしかしながら,刊行物1には,刊行物1発明の「実用新案登録請求の範囲」
として,次の記載がある。
【請求項3】管受け部材の上面にグラフアイトとニッケルとからなる低摩擦溶射皮
膜を形成していることを特徴とする請求項1のダクタイル管の管受け台
ウまた,刊行物1には,前記請求項に係る「考案の詳細な説明」として,次の
記載がある。
【0014】また,管受け部材の上面にグラファイトとニッケルとからなる低摩擦
溶射皮膜を形成するとよい。
【0015】【作用】管受け台の本体部は,ステンレス鋼鋼管で構成されていて,
その上端によりダクタイル管を支持する構造としているので,材質的,構造的に強
度が大きい。また,管受け台は占有スペースを小となるように構成されている。し
かも,ダクタイル管に軸方向の地震荷重や熱膨張荷重がかかった場合は,低摩擦係
数のグラファイト溶射材により管受け台の上でダクタイル管が滑り,各部に無理な
応力が作用しない。
【0018】一方,受け台本体43の上端には,この受け台本体43の直径よりも
若干幅の広いステンレス製の支持板48を溶接50により固定している。支持板4
8の両側は,上方に向け直角に折曲げて立上げ部51とし,両側立上げ部51の間
に,管受け部材52を設けてある。この管受け部材52は,下方に円弧状に湾曲し
たステンレス鋼板により構成される。また,前記両側の立上げ部51には,それぞ
れ複数のボルト挿入孔53が開設されている。さらに,支持板48と管受け部材5
2との間には,所定の間隔をおいて,左右両側に補強板54を設けている。55は
管受け部材52の上面に所定の厚みに装着したグラファイト溶射材からなる低摩擦
溶射皮膜である。この低摩擦溶射皮膜55は,一般に低摩擦係数であり,この上に
載置されるダクタイル管1に軸方向に一定以上の力が作用した場合,これの軸方向
のずれを許容し得るものである。
エ以上の記載によると,刊行物1発明においては,管受け部材の上面にグラフ
ァイト溶射材からなる低摩擦溶射皮膜が設けられているが,それは,その上に載置
されるダクタイル管に軸方向に一定以上の力が作用した場合に,これによる軸方向
のずれを許容し得る構造とするためであって,これによって,ダクタイル管に軸方
向の地震荷重や熱膨張荷重がかかった場合に,管受け台の上でダクタイル管が滑り,
各部に無理な応力が作用しないというのである。
そうすると,この低摩擦溶射皮膜の設置によってダクタイル管に管軸方向の移動
を許容するのは,地震荷重や熱膨張荷重がかかるような,管体において管軸方向に
一定以上の力が作用した場合に,各部に無理な応力が作用しないためであることが
認められ,これに上記(2)ア・イの記載を併せ考えると,刊行物1発明の支持装置
は,地震荷重や熱膨張荷重が問題となる異常時はともかく,管路の屈曲した部位に
流体が通過する際に生ずる不平均力が問題となるにすぎない平常時においては,前
記説示のとおり,専ら管体を管軸方向に移動させる力を抑えるための装置であると
いって差し支えなく,原告らの主張するようにこれを付随的な作用にすぎず,不平
均力が作用した場合の管体の管軸方向に沿った移動を積極的に,強固に阻止するも
のではないというのは,平常時についてみれば,失当というほかなく,この判断を
妨げる証拠はない。
そして,刊行物1発明の平常時の支持装置としてこれに刊行物2記載の技術事項
を適用することそれ自体は容易というべきであって,刊行物1発明では,ダクタイ
ル管に地震荷重や熱膨張荷重がかかる異常時には,低摩擦溶射皮膜が作用してダク
タイル管が滑る構造になっているからといって,平常時のダクタイル管の移動を阻
止するための支持装置としてみれば,異常時の機能を求めることなく,刊行物2記
載の技術事項を適用することができないということはできない。
オさらに,原告らは,刊行物1記載の支持装置が,不平均力の支持装置となり
得るのは,山形の管路のように浮上力が働く場合に限ってのことであって,これを
水平曲管に取り付けた場合には,浮上力を抑える作用は働かず,管体の管軸方向に
作用する力も有効に抑えられないなどと主張する。
しかしながら,前記のとおり,刊行物1には,山形の管路のように浮上力が働く
場合には不平均力の支持装置となり得ることが記載されているところ,この浮上力
とは,支持板に対して浮上する力という意味において上下方向に限定されるものと
はいえず(管受け台の装置全体が横向きに設置される場合もあり得る。),例えば,
原告らが主張するような「水平曲管(上方向から見ると曲がって延びるが,水平方
向から見ると水平に延びる管)」であったとしても,横向きに山形に屈曲している
部位を流体が通過するときには,管には横向きの力が働き,全体として横向きに設
置された装置における支持板に対する浮上力として,管体の管軸方向に作用する力
が働くものと解されるのであって,刊行物1発明の支持装置は,管軸方向に作用す
る力をも受け止める構造を有するものと認めることができる。そして,この作用が
付随的なものではなく,平常時についてみれば,積極的でないとか,強固でないと
かいうこともできないことは,前記説示のとおりである。
したがって,この点に関する原告らの主張も採用することができない。
(6)小括
以上検討したところによると,刊行物2の技術事項を刊行物1発明に適用するこ
とについて阻害要因があるということはできないから,原告らの主張に係る取消事
由1は,理由がない。
2取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
原告らは,当業者が刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技術を適用
して本件発明3を容易に想到することはできないなどして,前記第3・2のとおり
主張する。
しかしながら,刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項を適用することに阻害要
因があるということができないことは前記1のとおりであるから,原告らの主張に
係る取消事由2は,理由がない。
3取消事由3(本件発明7と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
について
原告らは,当業者が刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項及び周知技術を適用
して本件発明7を容易に想到することはできないなどとして,前記第3・3のとお
り主張する。
しかしながら,前記1のとおり,刊行物1発明に刊行物2記載の技術事項を適用
することに阻害要因があるということはできず,また,管体の外面に押圧される一
対のエッジ部があるからといってその判断は異なるものではなく,原告らの主張に
係る取消事由3は,理由がない。
4結論
以上の次第であるから,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告らの
請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官浅井憲

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