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裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人福岡宗也の上告理由第一点ないし第四点について
 検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)は、弁護人
又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下
「弁護人等」という。)から被疑者との接見又は書類若しくは物の授受(以下「接
見等」という。)の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与え
なければならないのであり、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合など、右
接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限り、接
見等のための日時、場所及び時間を指定することができるが、その場合には、弁護
人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護
人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解
すべきである(最高裁平成五年(オ)第一一八九号同一一年三月二四日大法廷判決・
民集五三巻三号五一四頁参照)。ところで、弁護人等から接見等の申出を受けた者
が、接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関(以下「権限のある捜
査機関」という。)でないため、右指定の要件の存否を判断できないときは、権限
のある捜査機関に対して右の申出のあったことを連絡し、その具体的措置について
指示を受ける等の手続を採る必要があり、こうした手続を要することにより、弁護
人等が待機することになり又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても、そ
れが合理的な範囲内にとどまる限り、許容されているものと解するのが相当である。
そして、右接見等の申出を受けた者が右合理的な時間の範囲内で対応するために採
った権限のある捜査機関に対する連絡等の措置が社会通念上相当と認められるとき
は、当該措置を採ったことを違法ということはできない(最高裁昭和六一年(オ)
第八五一号平成三年五月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一六三号四七頁参照)。
これを本件について見ると、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。
 上告人は、昭和六一年五月一日午前八時四〇分ころ、接見しようとする被疑者が
勾留されている愛知県警察本部の総務部留置管理課に赴き、留置主任官の職務代行
者であるE留置係員に対して右被疑者との接見の申出をした。同係員は、権限のあ
る捜査機関であるF検察官から被疑者と弁護人等の接見等の日時等を別に発すべき
指定書(いわゆる具体的指定書)のとおり指定する旨を記載した接見等に関する指
定書(いわゆる一般的指定書)が送付されていたため、上告人が具体的指定書を所
持していないことを確認した上、同検察官の指示を受けるために、直ちに名古屋地
方検察庁に電話をした。しかし、同検察官が登庁していなかったため、引き続く午
前八時五五分ころ及び午前九時二〇分ころの三度にわたる電話によっても、連絡が
取れなかった。ようやく、午前九時二五分ころに至り、権限のある捜査機関である
同検察庁のG公安部長と連絡が取れたので、同係員は上告人と電話を替わり、その
後は上告人と同部長とが接見について協議をした。
 【要旨】右の事実関係の下においては、E留置係員が右接見申出からG公安部長
と連絡が取れるまでの間に採った措置は、社会通念上相当と認められるものという
べきであり、同係員がその間上告人を待機させたことに違法があるとはいえない。
 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違
法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用す
ることはできない。
その余の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、E留置係員がF検察官及びG公安
部長の違法行為を幇助したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認
することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判
決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官河合伸一、同梶谷玄の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官河合伸一の反対意見は、次のとおりである。
一 憲法三四条は、「何人も、・・・直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなけ
れば、抑留又は拘禁されない」と定めている。これは、被疑者に対し、弁護人を選
任した上で、その弁護人に相談し、助言を受けるなど、弁護人から援助を受ける機
会を持つことを保障するものである。
 刑訴法三九条一項は、身体を拘束されている被疑者が弁護人等との接見交通権を
有することを規定しているが、これは憲法の右保障をより具体的に定めるものであ
る。そして、被疑者のこの権利と弁護人等が被疑者と接見交通する権利は表裏の関
係にあるから、弁護人等の接見交通権もまた憲法三四条の保障に由来するものとい
うべきである。
二 刑訴法三九条は、さらに三項本文において、捜査機関が、接見等の日時、場所
及び時間を指定することにより、接見交通権の行使に制限を加えることを認めてい
る。これは、国家刑罰権の発動としての捜査権の行使のため、捜査機関が身体を拘
束されている被疑者を取り調べることもまた憲法の承認するところであることを前
提として、右捜査権の行使と接見交通権の行使との間の調整を図る趣旨の規定であ
る。
 しかし、接見交通権の由来する憲法三四条の文言、捜査機関の接見指定権の行使
に加えられた刑訴法三九条三項ただし書の制約、さらには、接見交通権が、被疑者
の基本的人権のためのみならず、国家刑罰権の適正な実現のためにも機能するもの
であることなどからすると、捜査機関のする右接見の日時等の指定は、あくまで必
要やむを得ない例外的措置として、されなければならない。すなわち、
 1 弁護人等から被疑者との接見を求める申出があったときは、被疑者を拘束し
ている捜査機関等は、原則として、いつでも、かつ直ちに、接見をさせなければな
らない(もっとも、ここで「直ちに」とは、「このような事務を処理するために社
会通念上許容される合理的時間内に」の意味である。)。
 2 刑訴法三九条三項本文の要件があるときは、捜査機関は、接見の日時等を指
定することができ、適法にこの指定がされた場合は、そしてその場合に限り、右原
則の例外として、その指定がされた時から指定された日時まで、接見交通権の行使
は停止され、その間の接見の申出は拒絶される。
 3 右指定の要件としての「捜査のため必要があるとき」とは、弁護人等から接
見の申出を受けた時に、(一) 現に被疑者を取り調べているなど、捜査のためそ
の身柄を利用中であって、申出どおりに接見を認めるためにはその取調べ等を中断
せざるを得ない場合、又は、(二) 間近い時に取調べ等をする確実な予定があっ
て、申出どおりに接見を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなる
おそれがある場合などであって、(三) かつ、右取調べ等の中断又は開始不能に
より捜査に顕著な支障が生ずるときに限られると解すべきである(前項及び本項に
つき、多数意見引用の最高裁大法廷判決参照)。
三 監獄法一条三項により監獄として代用される警察官署付属の留置場に被疑者が
勾留されている場合、被疑者の留置に関する業務を担当するのは、当該警察官署の
総務又は警務部門所属の職員たる留置主任官及びその補助職員である(以下、併せ
て「留置担当官」という。)。
留置担当官は、その業務に関し、捜査機関の指揮命令下にあるものではなく、これ
とは独立し、その責任において留置業務を遂行すべき立場にある。留置担当官が、
その留置している被疑者について弁護人等から接見の申出を受けた場合も、もとよ
り同様であって、留置担当官は、前述の憲法及び刑訴法の趣旨に従い、右の立場に
おいて、適切に必要な措置を講じなければならない。留置担当官がこの職務に違反
し、弁護人等の接見交通権の行使を妨げたときは、国家賠償法上も違法となること
は多言を要しない。
四 ところで、原審の認定するところによれば、本件当時、被上告人警察の留置担
当官においては、接見指定の権限を有する捜査機関の発する一般的指定書を受けて
いる被疑者について弁護人等から接見申出を受けた場合、具体的指定書を持参して
いれば、その内容に従って接見させ、これを持参していなければ、右捜査機関に連
絡して、指定権を行使するか否かを確認し、もしこれを行使しないというのであれ
ば直ちに接見させ、もしこれを行使するというのであれば双方で協議してもらい、
その協議の結果に従って接見させる取扱い(以下「本件取扱い」という。)として
いた。本件において上告人が直ちに被疑者と接見することができなかったのも、本
件取扱いに起因するものである。
原審は、右の一般的指定書を、捜査機関が、留置担当官に対し、弁護人等から接見
の申出があった時に接見指定権を行使することがあり得る旨を通知する内部的連絡
文書と解した上、留置担当官が捜査部門から切り離されていて、接見指定の要件の
存否を判断し得る立場にないから、接見の申出に際し権限ある捜査機関にその判断
と指定権行使の機会を与える必要があるとして、本件取扱いの適法性を肯定するご
とくである。
五 しかし、私は、本件取扱いを、少なくともそのまま適法とすることはできない
と考える。
1 たしかに、留置担当官は、捜査部門から独立した立場にあるから、前記二項3
の接見指定要件のすべてを判断することはできない。しかし、その要件の(一)、
すなわち、現に捜査機関が被疑者を取り調べるなどしていて、申出どおりの接見を
認めるためにはこれを中断せざるを得なくなる場合に当たるかについては、容易に
判断することができる。また、その(二)についても、捜査機関が間近い時に取調
べなどをする確実な予定を立てていることを知っていれば、その予定開始時刻と弁
護人の接見申出の内容を勘案して、申出どおりに接見を認めたのでは右取調べ等を
予定どおり開始できなくなるおそれがある場合に当たるか否かを判断することがで
きる。そして、右(一)及び(二)のいずれにも当たらないことが分かれば、接見
指定の要件がないことは明らかなのであるから、直ちに接見をさせればよく、右(
一)又は(二)の場合に当たると判断するときに初めて、その旨を権限ある捜査機
関に連絡し、同機関に前記(三)の要件、すなわち、右取調べの中断又は予定どお
りの開始の不能により捜査に顕著な支障が生じるかを判断して接見指定権を行使す
る機会を与えれば足りるはずである。もっとも、右の(二)についてこのような取
扱いをするためには、捜査機関において、間近い時に取調べをする予定が確実なも
のとなったときに、その旨を留置担当官に予告しておくべきこととなるが、一般に
それが捜査機関にとって困難を伴うものとは考えられない。
2 よしんば、右のように取り扱うことが困難な事情があるため、捜査機関が、留
置担当官に対し、ある被疑者について接見指定をする可能性があることのみを通知
しておき、その被疑者について接見の申出があった時に留置担当官からその旨を権
限ある捜査機関に連絡してその判断を待つとの取扱いをする必要のある場合がある
としても、その手続のために要する時間は最小限にとどめられなければならない。
もし、その手続のための時間を含めても、弁護人等が待機させられた時間が一般に
接見事務を処理するために許容される合理的時間(前記二項1参照)の範囲内にと
どまったとすれば、実質的に接見交通権は侵害されなかったと評価することができ
るであろう。しかし、右手続のために、右の範囲を超えて接見の開始を遅らせ、あ
るいは結局接見できない事態を招いたとすれば、それは、法律に定めるところによ
らないで接見交通権の行使を制限したことになるのである。
六 これを本件について見るに、原審確定の事実関係のうち問題とすべき点、及び、
それについての私の意見は、次のとおりである。
上告人が留置担当官たるE係員に対して本件被疑者との接見を求めた当日午前八時
四〇分の時点においては、刑訴法三九条三項本文に基づく接見指定はされておらず、
上告人の接見交通権の行使は、法律上、何らの制限も受けていなかった。さらに、
E係員として判断し得る範囲で、接見指定の要件となり得る事実も存在しない。し
たがって、同係員としては、本来、直ちに上告人に被疑者との接見をさせるべきで
あった。しかるに、E係員はそうしなかったのであるが、それは当時、被上告人警
察において本件取扱いをしていたところ、本件被疑者について、接見指定の権限を
有するF検察官から一般的指定書の送付があり、上告人がこれに対応する具体的指
定書を持参していなかったからである。そのためE係員は、本件取扱いに従い、F
検察官に連絡してその指示を受けようとしたが、同検察官が不在であったことから、
原判決認定の経過で、上告人は約四五分待機させられ、その後捜査機関による被疑
者の取調べが始まったため、結局、被疑者との接見を果たせないまま、退出せざる
を得なかったのである。
被上告人警察の本件取扱いがそのまま是認できないものであることは、前記五項で
述べたところであるが、これを本件の事実関係に即して具体的に検討すると、
1 まず、E係員が、F検察官と連絡がつかないことを理由に、現に被疑者との接
見を求めて臨場している上告人を数十分にわたって待機させ、接見をさっせなかっ
たことは、とうてい是認することができない。この時間が、前記五項2で述べた意
味での「合理的時間の範囲」を超えるものであることは明らかであるから、その限
度で、E係員は上告人の接見交通権の行使を妨げたものといわざるを得ない。
 F検察官と連絡がつかなかったことは、右行為を正当とする理由とはならない。
留置担当官は、捜査機関から独立した立場において、刑訴法三九条の前記趣旨、す
なわち、捜査権の行使と接見交通権の行使との間の調整を図るとの趣旨を公正に実
現するべき職責を負っているのである。したがって、たとえ権限ある捜査機関に接
見指定の機会を与えることが適当であるとしても、留置担当官がそのための連絡を
試みたにもかかわらず、同機関が不在で、しかも不在中の連絡ないし対応態勢を整
えていなかったため、連絡がつかなかったような場合は、留置担当官としては、捜
査機関に右機会を与えるためにするべきことはしたというべきである。そのような
場合にまで、目前の弁護人の接見申出を拒否したまま、右連絡の試みを継続するこ
とは、結局、捜査機関の接見指定権の行使に、弁護人等の接見交通権に優先する地
位を与えようとするものにほかならない。それが、前述の憲法及び刑訴法の定める
ところに反し、留置担当官の職務に違背することは明らかである。
2 さらに、ひるがえって考えると、本件取扱いは、留置担当官は接見指定の要件
の存否について全く判断することができず、判断する必要もないとの理解を前提と
しているものと解される。
刑訴法三九条三項本文所定の「捜査のため必要があるとき」の要件についてのいわ
ゆる捜査全般説に立てば、そのような理解となるかも知れない。しかし、同説が採
り得ないものであり、右理解が誤りであることは、今や多言を要しないであろう。
接見指定権を行使するとの最終判断は権限ある捜査機関に専属するものであるが、
同行使の要件の一部たる事実の存否が留置担当官に明らかとなる場合があるのであ
って、その場合には、前記五項の1で詳述したように取り扱うことが、刑訴法三九
条の趣旨に沿うことになるのである。
 そして、前述来の留置担当官の立場と職責からすれば、刑訴法の右趣旨を実現す
るのに有益かつ適切な措置を事前又は事後に講じることもまた、その職務に含まれ
るものと解することができる。本件においても、当日の取調べは午前九時三〇分こ
ろに開始されたのであるから、
E係員がその予定を知っていれば、上告人と協議し、それまでの間に接見が終了す
ることを確認ないし確約して、接見させることができたはずである。しかるに、被
上告人警察ないしその留置担当官において、捜査機関の間近い取調べ予定をあらか
じめ把握するための事前措置は何ら講じられておらず、
またE係員が、F検察官と連絡がつかないことが判明した後にも、当日の取調べ予
定の有無等を調査する努力をした形跡も認められないのである。
 この点もまた、被上告人警察の留置担当官がその職務に違背したものといわざる
を得ない。
以上、いずれの点からしても、被上告人警察の留置担当官がその職務に違背し、そ
れによって上告人の権利が侵害されたことは明らかである。
七 しかるに、原審は、留置担当官の職務に関する法令の解釈、適用を誤り、右の
職務違背をいずれも認めなかったのであって、この違法が原判決に影響を及ぼすこ
とは明らかである。
 よって、原判決を破棄し、右留置担当官の故意過失の存否等、上告人の本訴請求
に関するその余の点につき審理をさせるため、本件を原審に差し戻すべきものであ
る。
 裁判官梶谷玄の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見とは意見を異にし、本件において、留置主任官及びその下にいる
看守勤務の警察官(以下「留置担当官」という。)が、四五分の長きにわたって弁
護人等に被疑者との接見を認めなかったのは違法と考えるものである。
 原判決は、
捜査担当検察官等(以下「担当捜査官」という。)において、弁護人になろうとす
る上告人を検察官と連絡が取れるまで四五分間待たせ、しかも接見させなかったこ
とが違法であるとして、国に損害賠償を認めたところであるが、代用監獄における
留置担当官については、その職務にかんがみ、担当捜査官に連絡すればその義務を
果たしたとして、その責任を認めなかった。そこで本件の問題は、留置担当官には、
担当捜査官と同様に、又はこれに準じて、被疑者に対して弁護人又は弁護人となろ
うとする者(以下「弁護人等」という。)に接見を認めるべき権限と義務があるか
どうかである。多数意見は、留置担当官においては、権限のある捜査機関でないた
め接見指定の要件を判断できないときには、権限のある捜査機関に対して接見申出
のあったことを連絡し、その具体的措置について指示を受ける等の措置を採る必要
があり、その手続きを要するため弁護人等の接見が遅れることがあったとしてもそ
れが合理的な範囲内にとどまる限り許容されており、そのための連絡等の措置が社
会通念上相当と認められるときは、当該措置を採ったことが違法ということはでき
ないとし、本件では四五分間待たせたことをもって当該留置担当官の措置に違法が
あるとはいえないとしている。しかしながら私は、本件において四五分の長きにわ
たって上告人に被疑者との接見を認めなかったことは、留置担当官としてもその義
務に反し、違法と考えるものである。その理由は、次のとおりである。
一 代用監獄における留置担当官の権限及び義務
  代用監獄における留置担当官は、捜査機関から独立した機関であり、監獄法の
規定に従って留置場を管理するとともに、被疑者の権利を擁護する義務、すなわち、
捜査機関による被疑者の違法・不当な取調べを行わせず、また被疑者の弁護人等と
の接見交通権を確保する義務を負担するものである。このうち、被疑者とその弁護
人等との接見交通に関しては、捜査のため必要があるとき、すなわち、現に取調べ
中であるとか、間近い時に取調べの確実な予定があって捜査に顕著な支障を生ずる
ようなとき等の場合以外は、被疑者に弁護人等との接見交通を認めるべき権限と義
務を有し、担当捜査官から事前に接見指定をするかもしれないとの内部的な連絡(
以下「接見指定の内部連絡」という。)がされていたときであっても、これは何ら
法的な効力を持つものではなく、留置担当官において、右捜査の必要が認められず、
また、担当捜査官との連絡ができず又はその他の理由で合理的な時間を超えて弁護
人等に被疑者との接見をさせなかったときには、弁護人等に被疑者との接見を認め
る義務に違反し、違法となるものというべきである。これを詳説すると、次のとお
りである。
二 刑事訴訟法及び監獄法の規定
 1 弁護人等の被疑者との接見交通権及び刑訴法三九条三項における「捜査のた
め必要があるとき」の解釈
 身体の拘束を受けている被疑者が弁護人から援助を受ける権利は、憲法三四条に
よって保障されるものであり、弁護人等の被疑者との接見交通権も、右憲法三四条
の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言
を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであ
り、その意味で、刑訴法の右規定が憲法の保障に由来するものであることは、多数
意見引用の最高裁大法廷判決の判示するところである。ところで、捜査機関は、弁
護人等から、被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等
の機会を与えなければならないところ、刑訴法三九条三項本文で「捜査のため必要
があるとき」にはその日時、場所及び時間を指定することができるとされているが、
同項ただし書にあるように、その指定が防御の準備をする被疑者の権利を不当に制
限することは許されないのであって、右指定が許されるのは、取調べの中断等によ
り捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、弁護人等から接見等の申出を受けた時
に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や
実況見分、検証に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実
な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予
定どおり開始できなくなるおそれがある場合等は、原則として右にいう取調べの中
断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきものとされている(
最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決、同平成三年五月一〇日第三小法廷判
決、同平成三年五月三一日第二小法廷判決、同平成一一年三月二四日大法廷判決)。
すなわち、この「捜査の中断による支障が顕著な場合」とは「接見申出時に間近い」
という時間的接着性と、取調べ等の予定の「確実性」という二重の要件を加味して、
捜査機関が刑訴法三九条三項の指定権を濫用しないように歯止めを掛けたもので、
罪証隠滅の防止ないし捜査全般の必要からこれを判断することは許されないもので
あり、この判断基準は極めて明確である。また、前記最高裁平成三年五月一〇日第
三小法廷判決において、坂上裁判官が補足意見で「捜査機関が、弁護人等の接見申
出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であっても、その日の取調べを終了するま
で続けることなく一段落した時点で右接見を認めても捜査の中断による支障が顕著
なものにならない場合がないとはいえないと思われるし、また、間近い時に取調べ
をする確実な予定をしているときであっても、その予定開始時刻を若干遅らせるこ
とが常に捜査の中断による支障が顕著な場合に結びつくとは限らない」と述べてい
るように、捜査に顕著な支障があるとして接見指定をするのは、真にやむを得ない
場合に限るべきものとされているのである。
2 留置担当官の一般的義務について
被疑者が代用監獄としての警察署の留置場において勾留されるときには、監獄法四
五条一項が代用監獄における留置主任官に適用され、また被疑者留置規則四条二項
により、留置主任官は、警察署長を補佐し、看守勤務の警察官を指揮監督するとと
もに、被疑者の留置及び留置場の管理について、その責めに任ずるものとされてい
る。
留置担当官は、監獄事務の本旨に従って、その権限を行使し、義務を履行すべきも
のであるところ、被疑者を捜査官と切り離して拘禁する監獄設置の趣旨、目的から
して、監獄事務においては、捜査官の過度の取調べの防止とともに、弁護人等との
接見交通の不当な制限の防止もその職責の中に含まれると解される。すなわち、刑
訴法三九条一項に定める被疑者と弁護人等との接見交通の侵害の防止等、担当捜査
官に対する関係における被疑者の権利の保障も、留置担当官の職責に含まれるもの
である。そして、留置担当官は、本来、監獄の長と同様に、接見について許否の権
限を有するものであるから(監獄法四五条一項、被疑者留置規則二九条一項)、右
のような機能を果たすためにも、刑訴法三九条三項による捜査機関の接見の指定に
つき、捜査の必要がないときには弁護人等に被疑者との接見を認めるべき権限と義
務があり、これは、担当捜査官から事前に接見指定の内部連絡がある場合であって
も同様であり、弁護人等から接見の申出があった場合において、捜査の必要の要件
がないとき、又は担当捜査官との連絡を取って指示を受けるのに要する合理的な時
間が経過したときは、同条一項によって保障された接見交通権を確保し、担当警察
官の不当な指定権の行使により接見交通の確保の権利が形がい化しないよう、この
機能を果たす必要がある。
 なぜなら、元来警察署の留置場を監獄の代用である代用監獄として使用するに至
ったのは、拘置所が適当な場所に直ちに増設できないところから、やむを得ず警察
署の留置場を使用しなければならないという実際上の必要から生じた暫定的な経過
措置としてであるが、捜査を担当する警察署の中に代用監獄を設置することに対し
ては、捜査官が被疑者の身柄を常時捜査のために利用し、違法・不当な取調べ方法
により自白を強要する危険があるとの批判があったので、代用監獄においても監獄
業務を捜査業務と切り離し、監獄業務を独立した機関である留置担当官に担当させ
ることとし、被疑者の人権について十分配慮するとともに、被疑者の弁護人等との
接見の権利を確保し、その防御をする権利を不当に制限することがないようにする
必要があるからである。
三 代用監獄に対する国際的批判
 これに加えるに、日本の代用監獄制度は、近時国際的に大きな批判を浴びており、
その批判に耐えるようその運用を図ることが強く要請されている。すなわち、
 1 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号。以下「規
約」という。)の遵守に関し、国際(人権)規約委員会は、昭和六三年以降再三に
わたり、日本国における拘禁が速やかにそして有効に裁判所の権限の下に置かれな
いで警察の権限に放置されていること、及び代用監獄制度が警察と別個の権限の下
に置かれていないこと等を規約違反と指摘し、代用監獄制度の運用が規約のすべて
の要求に適合しなければならないこと等を勧告している。また、平成一〇年一一月
一九日に出された、日本政府の第四回報告書に対する同委員会の最終見解において
も、起訴前勾留は、警察の管理下で最長二三日間にも及び、保釈が認められず、刑
訴法三九条三項に基づき弁護人との接見に厳しい制限があり、取調べが弁護人の立
会いなしで行われるなど、規約九条、一〇条及び一四条に規定する保障が完全に満
たされていないこと(二二項)、代用監獄が警察から分離された当局の管理下にな
いのは、規約九条及び一四条に基づく被拘禁者の権利の侵害の機会を増加させる可
能性があること(二三項)、自白が強要により引き出される可能性を排除するため、
代用監獄における被疑者の取調べが厳格に監視されるべきこと(二五項)等が勧告
されている。
 日本政府は、右第四回報告書において、刑訴法三九条三項に基づく接見指定権の
行使につき、最高裁判所の昭和五三年七月一〇日、平成三年五月一〇日及び同月三
一日の判決について述べた後、実際の運用上も、検察官があらかじめ施設の長に対
し接見指定をすることがある旨通知した事件において、弁護人が直接施設に赴いて
接見を求めたときも、係官は、検察官に連絡し、検察官が接見指定の要否を前記最
高裁判例の趣旨に従って判断し、接見指定をしないか、接見時間のみの指定をする
場合は、弁護人と被疑者を直ちに接見させる取扱いとしていると述べ、また、代用
監獄制度について、被留置者の人権保障のため、被留置者の処遇を担当する部門と
犯罪捜査を担当する部門は厳格に分離されている旨報告している。それにもかかわ
らず、規約委員会は、前記最終見解を出しているのである。
 2 さらに、平成六年と七年に、国際法曹協会(International Bar Associat
ion)により、代用監獄に関して詳細な調査が行われ、代用監獄制度は、違法かつ
不当な手段が使われる機会を提供するものであること等から、規約の七、九、一〇、
一四条及び国連被拘禁者保護原則の諸原則に反し、又はそのおそれがあること、代
用監獄が廃止できないならば、その管理が法務省矯正局の管轄下で警察から独立し
て行われるよう改善すべきこと等が勧告されている。
 日本政府(警察庁)は、国際法曹協会に対し、拘禁担当の部署は捜査担当の部署
から完全に分離され、日本の警察は、代用監獄に収容された被拘禁者の防御権の尊
重等、その人権保障に必要な措置を講じており、その所管を他の機関に移す必要は
ない旨回答しているが、それにもかかわらず、国際法曹協会は、前記勧告をしてい
るのである。
 3 このように、日本政府は、代用監獄における留置担当官と担当捜査官の分離
の問題について、両者は実質的にも分離され、捜査官による不当な取調べの防止や
弁護人等からの接見申出に対しても十分に配慮しており、規約違反はない旨前記国
際機関等に説明している。そして、既に説示したところによれば、日本政府の説明
は、現実に実施、運用されるべきものであり、留置担当官は、担当捜査官の違法な
取調べに対して審査機能を果たすと共に、弁護人と被拘禁者との接見交通について、
担当捜査官に連絡しその指示に従えば足りるというのではなく、接見指定要件がな
いときは自ら責任を持って接見を認めるべき義務がある。
四 留置担当官の接見に関する権限と義務職責
  このように、留置担当官は、捜査の必要のない限り、弁護人等に被疑者との接
見を認めるべき権限と義務がある。そして、この捜査の必要については、前述のと
おり、最高裁判所の度重なる判決によって、担当捜査官により現に取調べ等が行わ
れているとき、又は間近い時に確実な取調べの予定があって、弁護人等の必要とす
る接見を認めたのでは、取調べの中断によって捜査に顕著な支障を生ずるとき等の
場合に限られ、捜査の全般的な必要のためであるとか、罪証隠滅のおそれがあると
して、接見指定(制限)することは許されない、とされているところであるから、
留置担当官においては、この最高裁判所の明確な判示を理解し、これに従ってその
職務を遂行する義務があり、もしそのような捜査の必要が見いだされないときには、
直ちに弁護人等に被疑者との接見を認めるべき義務がある。もっとも、留置担当官
は、具体的な捜査の必要について必ずしもその全ぼうを知り得ないこともあるので、
担当捜査官からの接見指定の内部連絡のある被疑者についてその弁護人等から接見
の申出を受けたときは、担当捜査官と連絡を取り、
捜査の必要に関し、その指示に従うこともあるが、このような指定の連絡は、捜査
機関と監獄の長との間の内部的な事務連絡であって、対外的には何ら効力を与える
ものでなく、接見指定をすることがある旨の連絡がある被疑者の場合であっても前
記の捜査の必要がないとみられる場合には、留置担当官は直ちに弁護人等に被疑者
との接見を許さなければならない義務がある。また、留置担当官が担当捜査官に連
絡しても、右の趣旨からして連絡の事務処理のために許される合理的な時間(これ
は、連絡手段の発達した今日、少ない時間で済むはずである。)以内に連絡が取れ
ない場合又は弁護人等と担当捜査官との連絡がされない状態が経過する場合におい
ては、留置担当官には、弁護人等に被疑者との接見を認めるべき義務がある。
 担当捜査官と連絡が取れない場合に、弁護人等を合理的な時間以上被疑者と接見
させないという取扱いをしてはならないことは、法務省と日本弁護士連合会との協
議事項でも明示されており、弁護人等が担当捜査官との事前の連絡なしに当該留置
場又は拘置所に赴き被疑者との接見を求めた場合、留置担当官において、担当捜査
官と連絡するも、合理的な時間以内に担当捜査官から指示をするか否かについての
連絡がないときには、指定はしないものとして接見を実現させる旨の取扱いが明示
されているところである。もし具体的に確実な取調べ予定があれば、担当捜査官に
おいては、あらかじめ前日に取調べの予定を留置担当官に通知しておくなどの方法
を採れるわけであるし、また、当日被疑者の取調べを実行しようとすれば、留置担
当官に連絡しておけばその取調べに支障を生ずることがないのである。
このように、留置担当官には、弁護人等に被疑者との速やかな接見を認める義務が
あり、担当捜査官に連絡する場合においても、一定時間を超えて弁護人等に接見を
させなかったときにはその行為が違法となり得ることは、前述の最高裁平成三年五
月三一日第二小法廷判決においても認められていたところである。
それゆえに、現に具体的な取調べが行われておらず、担当捜査官から具体的な取調
べに関する指示が前記合理的な時間以内にないとき、又は、担当捜査官が不在であ
り、合理的な時間以内に連絡が取れないときには、留置担当官に弁護人等と被疑者
との接見を認める義務があるのであって、漫然と担当捜査官の指示を受けるまで、
弁護人等に接見を行わせないことは、その職責に違反するものである。
五 本件における留置担当官の行為の違法性
 本件では、上告人が担当捜査官と連絡を取ることなく直接被疑者の留置場所に赴
いて接見を申し出たが、事前に担当捜査官から接見指定の内部連絡があったので、
留置担当官が担当捜査官に連絡を取ろうとしたが、担当捜査官が不在で連絡が取れ
ないとの理由で接見を認めなかったため、上告人においては、四五分間被疑者との
接見ができないまま経過したものである。前記のように、一方で弁護人との接見交
通権の確保が被疑者にとって極めて重要であること、他方で担当捜査官としては、
常に被疑者の取調べの予定等については、あらかじめ留置担当官において覚知し得
る状況にしておくべきであるところ、連絡手段の発達した今日にあっては、留置担
当官において、若干の時間があれば担当捜査官又は同人が不在のときにはこれに代
わる者との連絡が取れ、捜査の必要については覚知し得ることであるから、本件に
おいては、連絡の事務処理のために通常必要な合理的な時間を超え、留置担当官と
して速やかに弁護人等との接見を行わせるべき義務に違反しており、その行為は違
法となると解する。また、留置担当官において、前記最高裁判例によって示されて
いる明確な捜査の必要の要件及び速やかに弁護人等に接見を認めるべき義務を認識
するべきものであり、これを認識していなかったことには過失がある。
六 以上の理由により、原審の確定した事実関係の下では、留置担当官が担当捜査
官との連絡に要した時間は、四五分にも達しており、これに至るまでの間に留置担
当官が上告人に被疑者との接見を許さなかったことは、違法であり、かつ、過失が
あるので、被上告人は、上告人に対して損害賠償をすべき義務がある。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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