弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人倉金熊次郎上告趣意書第一点について。
 日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十二条第一項本
文は同項所定の書類は被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期
日において訊問する機会を被告人に与えなければこれを証拠とすることができない
旨を規定しているのであるから被告人からその請求がなかつた場合には同項所定の
書類はその供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に与えなく
てもこれを証拠とすることを妨げない趣旨であることは洵に明瞭であつて、本件で
記録を精査すると第二審公判期日におい被告人又は弁護人から所論の売渡始末書の
作成者たるAについては前記法条の訊問の請求は勿論同人に対する証人訊問の申請
も全くなかつたことが明白であるから第二審裁判所が右Aを公判期日において訊問
することなく同人の作成した売渡始末書を証拠に採用したからとて何等右法条に反
するものでもなく又之を目して違憲の措置なりとは謂えない。従て右第二審判決に
法令違反又は証拠法則違背の点がない旨判断した原判決は正当であつて論旨は理由
がない。(昭和二三年(れ)第一六七号食糧管理法違反被告事件同二三年七月十九
日大法廷判決。)
 同第二点について。
 「我国内外の情勢から見て主要食糧の取引を個人の自由に放任しておけば国内過
多の人口に対し食糧生産量の不足と之を補うべき国外からの食糧移入の困難な現状
に照らし、その価格の昂騰は止るところを知らず延いて国民経済の混乱を招く。経
済的優位にある小数者を除き国民の大多数は生存に必要な最低限度の食糧すら確保
できなくなるのは必然であつて、このことは国民全般の基本的人権を平等に保障せ
んとする憲法の精神にも悖ることとなる。そこで食糧管理法はかくの如き経済的混
乱を防止し国民全体のために平等に食糧を確保し国民経済の安定を図らんとする趣
旨に於て制定されたものに他ならないから、食糧管理法そのものを目して憲法に違
反する立法であると謂うことができないのは勿論である。従て本件で原審が被告人
の所為を食糧管理法違反の罪として処断した第二審判決を是認し何等憲法に違反し
ないと判断したのは正当であつて論旨は理由がない。」(昭和二三年(れ)第二〇
五号食糧管理法違反被告事件同年九月二十九日大法廷判決)
 同第一点の二について。
 かゝる事由は原判決が憲法に違反した事を主張したものでないから日本国憲法の
施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十七条の上告適法の理由となら
ないから論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第四百四十六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官栗山茂を除く裁判官全員の一致した意見である。
 上告趣意第一点及び第二点に関する裁判官栗山茂の反対意見は次の通りである。
 同第一点については刑訴応急措置法第十二条第一項は証人その他の者の供述を録
取した書類を読聞けただけで証拠にとることを原則として禁ずる趣旨であることは、
憲法第三十七条第二項が直接審理主義を原則としている趣旨に適合するように解釈
すべきものである。即ち昭和二三年(れ)第一六七号事件同二三年七月一九日宣告
大法廷判決に於ける同裁判官の反対意見にて述べた趣意と同一の理由により多数意
見と所見を異にするものである。
 同第二点については、前記昭和二三年(れ)第二〇五号食糧管理法違反被告事件
同年九月二十九日大法廷判決の理由中に述べたように上告適法の理由とはならない
ものである。
 検察官 柳川真文関与
  昭和二十三年十月二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
 裁判官小谷勝重は差支につき署名捺印することができない
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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