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裁判例


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○ 主文
一 原判決中被控訴人Aに関する部分を次のとおり変更する。
二 被控訴人Aは扶桑町に対し、金二四一万九二〇二円を支払え。
三 控訴人らの被控訴人Aに対する主位的請求及びその余の予備的請求を棄却す
る。
四 被控訴人B、同Cに対する本件控訴をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、控訴人らと被控訴人Aとの間においては、第一、二審を通じ、同
被控訴人に生じた分の二分の一を控訴人らの負担とし、その余は各自の負担とし、
控訴人らと被控訴人B、同Cとの間においては、控訴費用を控訴人らの負担とし、
参加によって生じた部分については、第一、二審を通じ、その四分の一を被控訴人
Aの負担とし、その余を控訴人ら補助参加人らの負担とする。
六 この判決の第二項は仮に執行することができる。
○ 事実
一 控訴人らは、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人Aは扶桑町に対し、
原判決別紙物件目録(一)記載の土地につき昭和四五年四月一八日売買を原因とす
る名古屋法務局犬山出張所昭和五二年三月一四日受付第三四五〇号の、同目録
(二)記載の土地につき同出張所同日受付第三四五一号の、同目録(三)記載の土
地につき同出張所同日受付第三四五二号の、各所有権移転仮登記の抹消回復登記手
続をせよ(主位的請求)。(三)被控訴人らは扶桑町に対し、連帯して金一三一五
万五〇〇〇円を支払え(予備的請求)。(四)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴
人らの負担とする。」との判決及び右(三)につき仮執行の宣言を求め、被控訴人
らは、「(一)本件控訴を棄却する。(二)控訴費用は控訴人らの負担とする。」
との判決を求めた。
二 当事者の主張は、次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示第二項記載のとお
りであり、証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の証拠に関する目録記載のとおり
であるから、これらを引用する。
1 原判決七枚目裏一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。「また、本件
解除は、被控訴人Aの方が求めたものであり、その目的は、形式的に登記簿上所有
権が自己にあることを奇貨として、本件売買契約当時に比べて土地の時価が飛躍的
に高騰していることに目をつけ、本件土地を自己のものとして低廉に入手しようと
したものであった。」
2 同八枚目表三行目の末尾に「なお、右公序良俗違反の点については、後記
(二)、(三)の各事情も考慮されるべきである。」を、同末行の「記載されてい
ること、」の後に「扶桑町が本件土地と同様代替地として先行取得した他の土地に
ついても、公有財産としての取扱がされていること、」をそれぞれ加え、同枚目裏
二行目の末尾に次のとおり加える。
「なお、扶桑町の本件土地所有権取得の有無を、所有権移転登記の有無という形式
的側面や、農地の所有権取得に係る県知事の許可の有無という手続面を基準に決定
するのは誤りである(もっとも、本件土地については、前示のとおり、昭和五二年
三月一四日、所有権移転仮登記が行われているが、右仮登記は、不動産登記法二条
一号に基づくものであり、これによれば、右仮登記前、本件土地の被控訴人Aから
扶桑町への所有権移転につき、愛知県知事の許可が行われたものと推測され
る。)。」
3 右の文の次に、行を改めて次のとおり加える。
「さらに、扶桑町が被控訴人Aに支払った売買代金(前記のとおり、昭和四五年四
月一八日に支払われた四四二万五〇〇〇円)について付言するに、右代金支払がい
わゆる内金払であるとは考えられない。けだし、地方自治法二三二条の五第二項、
同法施行令一六一条ないし一六五条の六によれば、本件のような場合に、内金払等
(資金前渡、概算払、前金払、繰替払を含も。)は許容されていないところ、右代
金支払は、厳格な公金支出の手続(地方自治法二三二条の四によれば、収入役は、
町長の命令がなければ、右支出をすることができず、右命令を受けた場合でも、当
該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る
債務が確定していることを確認した上でなければ、支出をすることができない。)
によって行われたはずだからである。また、右代金額が、その支出当時の本件土地
の時価に相応するものであることや、右支出にあたり、残額の債務負担行為につい
て町議会の議決を経る手続がとられなかったことなどからしても、右支出額は、売
買代金の全額であったとみるべきである。もっとも、右売買の契約書上は、代金額
が明示されておらず、その支払時期についても、契約当日とする記載はないが、現
に、扶桑町と被控訴人Aとの間で、右のような態様で、契約当日代金の支払が行わ
れた以上、その売買契約の内容は、右契約書の文書にかかわらず、合意により、契
約当日を代金支払日とし、右支払金額をもって代金額とする旨変更されたものと解
される。
仮に、右代金支払が内金払であったとしても、扶桑町が後記のとおり土地取得特別
会計から時価相当額を土地代金として支出した以上、やはり、本件土地は、扶桑町
の公有財産となったというべきである。法律が前記のとおり内金払を原則として禁
じているのは、別の見方をすれば、市町村等が対価を支出する以上、その対象物件
は、当該市町村等の所有に帰したものとして扱うべきであるとの趣旨に通ずる。ま
た、内金払との前提に立つと、右代金支払は、前記のとおり、違法な公金の支出に
当たり、当該売買契約書の文言にも反するものであったことになるが、被控訴人A
において、その個人的な商売上の必要から、右のような態様で、契約当日の午前と
午後(午前中に一部を受領後追加払を要求)にわたり、扶桑町から時価相当の金額
を支払わせたものであるにもかかわらず、本件土地の公有財産性が否定され、いつ
でも右売買につき合意解除ができるとすれば、扶桑町の代金支出に係る取得財産に
つき、その管理の適正を保持し得なくなることは明らかであり、地方自治法も、か
かる結果を許す趣旨であるとは思われない。」
4 同八枚目裏九行目の「著しく欠く」の後に「(本件土地の価額は、本件売買契
約後高騰し、昭和六〇年ごろには、右売買契約当時の一〇倍を超えていた。)」
を、同九枚目裏一〇行目から末行の「設置しているのである」の後に「(右各条例
は、公有地の拡大の推進に関する法律の制度趣旨を体して存立するものであ
る。)」をそれぞれ加える。
5 同一〇枚目表一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「なお、本件土地の所在する前記高木、斉藤地区(扶桑土地改良区高木斉藤柏森工
区。以下、便宜上「高木地区」という。)の特殊性とそこにおける被控訴人Aの立
場等について付言する。
もともと、高木地区では、愛岐大橋線の開通は極めて困難な状況下にあった。すな
わち、同地区は、一宮犬山線(中央道)の造成や扶桑町役場の用地確保に伴う各土
地改良事業の実施に際し、重ねて相当の減歩等の不利益を受けていたため、他の地
区のように、愛岐大橋線造成の用地確保を土地改良事業に組み入れて施行する方式
を採ることができず、いわゆる買収方式で出発した経緯があった。したがって、高
木地区では、他の地区とは異なり、代替用地の確保が、愛岐大橋線造成事業にとり
不可欠な要請であり、右事業の成否を決する意味を持つものであった。扶桑町によ
る本件土地の先行取得も、かかる事情の下に行われた、極めて公益(公共の利益)
性の高い事柄であった。しかして、右のような高度の公益性は、本件解除の時点に
おいても、依然として存続していたばかりか、以下の事情からすれば、むしろ、更
に増大していたというべきである。
すなわち、愛岐大橋線は、扶桑町限りで廃止決定をすることが許されない愛知県の
事業であり、かつ、前記のとおり、本件解除の時点において、高木地区を除き既に
ほぼ完成、開通していたのであるから、愛岐大橋線の全線開通に全県的な行政責任
を負っている扶桑町としては、むしろ特段の事情がない限り、せつかく右愛岐大橋
線の開通を容易にするため先行取得によって確保した代替地である本件土地を合意
解除により失わしむることは許されないところというべく(現に、他の先行取得地
については、かかる合意解除は行われていない。)、かかる特段の事情もないの
に、扶桑町が本件解除に及んだことは、右のような行政責任を放棄するにも等しい
行為といわなければならない。
他方、被控訴人Aは、本件土地売買契約締結当時扶桑町の町議会議員であったばか
りでなく、本件解除当時も高木地区の土地改良工区長の職にあった。さらに、昭和
五五年一月二五日、町議会の議決により、扶桑土地改良区内に、「愛岐大橋線推進
委員会」が設置されたが、被控訴人Aは、その委員長となり、扶桑町では、右委員
会に対し、同年度に金四二万円の補助金を支出し、その後も事務費を補助してき
た。右委員会では、前記のとおり、従来高木地区における愛岐大橋線造成の用地確
保が買収方式によることとなっていたのを改め、他の地区と同様、これを土地改良
事業に組み入れ、右用地確保を換地(一時利用地の指定変更を含む。)方式で実施
していくことが方針として決定された。そして、その後、本件土地以外の先行取得
地については、必要に応じ、一時利用地の指定変更等が行われている。ところが、
被控訴人Aは、右のとおりの地位にあり、扶桑町が愛岐大橋線の造成に伴う代替地
の確保を必要とすることを熟知し、積極的に愛岐大橋線の造成促進に協力すべき立
場にありながら、本件土地が同様一時利用地の指定変更により、愛岐大橋線の予定
道路敷地内に組み入れられることを嫌い、扶桑町に対し、本件解除を迫ったという
のが真相である。」
6 同一〇枚目裏八行目の「被ったものであるところ、」を次のとおり改める。
「被ったものである。また、仮にそうでないとしても、被控訴人Aは、少なくと
も、右代金額に対する本件売買契約時から本件解除時までの金利相当分を違法に利
得しているものというべきであり、扶桑町は、その反面として、同額相当の損害を
被ったものというべきである。しかして、」
7 同一一枚目裏六行目及び末行の各「仮登記の」の後にいずれも「抹消」を加
え、同一二枚目表五行目の末尾に次のとおり加える。
「右主観的予備的併合が許されるのは、これにより、当該被告が全く不利益を受け
ず、不当に不安定な地位に置かれることがない等、ごく例外的な場合に限られるも
のというべく、本件が右のような例外的な場合に当たらないことは明らかであ
る。」
8 同一四枚目表二行目の末尾に「なお、扶桑町が愛岐大橋線造成に関し先行取得
した他の土地は、いずれも、契約書上売買代金額が明示されていたこと、少なくと
も最終的には、換地の方法などにより、道路用地そのものとなることなど、本件土
地とは、その性格を異にするものであって、これを同一には論じられない。」を、
同四行目から五行目の「制定されたこと」の後に「(ただし、その制定時期は、公
有地の拡大の推進に関する法律の施行前である。)」をそれぞれ加える。
9 同一七枚目表五行目の「扶桑町と間の」を「扶桑町との間の」に改め、同一八
枚目表末行の末尾に次のとおり加える。
「かえって、扶桑町が本件売買契約を解除したのは、右契約締結後一〇年以上を経
過したのに、愛岐大橋線が着工の運びとならず、用地買収も行われず、本件土地が
買収用地の代替地となるめども立たない状況にあったこと、昭和五〇年ごろから、
扶桑町の町議会等において、控訴人Dらから、右売買契約の内容や代金支払の仕方
につき種々の疑問が提起されたことなどの事情を踏まえたものであり、合理的な理
由に基づく措置であったということができる。」
10 同一八枚目裏一行目の「(三)」を「(四)」に改め、同一九枚目表五行目
の末尾に次のとおり加える。
「右のうち、(三)(2)記載の、本件解除に条件が付されていたとの点は、仮に
そうであるとしても、これに法的な拘束力を認めることはできない。もっとも、か
かる条件が付されようとしたこと自体、控訴人ら主張の本件土地確保に関する公共
目的性が消滅しておらず、扶桑町において、本件売買契約を解除すべき正当性がな
かったことの証左というべきである。」
○ 理由
第一 被控訴人B、同Cに対する請求について
当裁判所も、控訴人らの被控訴人B、同Cに対する請求は、いわゆる主観的予備的
併合として不適法であるから、これを却下すべきものと判断する。その理由は、原
判決理由一項説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二一枚目
表一行目の「いい難い、」を「いい難い。」に改め、同八行目から末行までの括弧
書部分を削る。
第二 被控訴人Aに対する請求について
一 基本的な事実関係等
本件(売買)契約に関する基本的な事実関係及び右契約の評価については、次に、
訂正、付加するほか、原判決二一枚目裏二行目から三〇枚目表一行目まで説示のと
おりであるから、これを引用する。
1 原判決二二枚目七行目の「地目」の後に「(登記簿上のそれ。以下同じ。)」
を、同人行目の「被告Aとの間で、」の後に「契約書(甲第五号証)を作成して」
を、同枚目裏八行目の末尾に「なお、本件契約に関し、前記契約書(甲第五号証)
以外には、その契約内容(訂正・変更を含む)に触れた覚書、念書等の書面は作成
されなかった。」をそれぞれ加える。
2 同二五枚目裏四、五行目の「形跡はなく」の後に「(この点は、成立に争いの
ない丙第二七号証と弁論の全趣旨により認められ、また、本件各仮登記が不動産登
記法二条一号に基づいて行われたとの点は、登記手続上の技術的便宜的な措置にす
ぎないと認められ、必ずしも右の事実を覆すべき事情とはいえない。)」を、同二
六枚目裏二行目の「あること」の後に「、(6)扶桑町が本件土地と同様代替地と
して先行取得した他の土地についても、公有財産としての取扱いがされているこ
と」を、同六行目の「あったこと」の後に「(ただし、甲第五六号証、原審におけ
る控訴人D本人尋問の結果、その他本件全証拠によるも、右金員の額が本件契約時
における本件土地の時価を上回るものであったとはいまだ認め難い。)」をそれぞ
れ加える。
3 同二七枚目裏八行目の「被告○○」を「被控訴人○○」に改め、同二九枚目表
一〇行目の「了している」の後に「前記甲第二一ないし第三二号証、第三七、第三
八号証に関する」を、同枚目裏六行目の「同第三六号証」の後に「、第四八号証、
丙第二八号証」をそれぞれ加え、同八行目の「いずれも、」を「右のうち少なくと
もE所有地以外のものについては、」に改め、同行目の「なっていない」の後に
「(E所有地については、当初の契約対象地と異なる地番の土地につき扶桑町名義
に所有権移転登記が経由されているが、その間の経緯は不明である。)」を加え、
同九行目の「認められる。」の後に次のとおり加える。
「さらに、そもそも、扶桑町において、一般的に農地につき所有権を取得し、その
所有権移転登記手続を経由した例があるからといって、個々の契約内容等を度外視
して、右の点を扶桑町が本件契約により本件土地の所有権を取得したことの積極的
な根拠とすることはできないものというべきである。」
4 同二九枚目裏一〇行目の末尾に次のとおり加える。
「最後に、(6)の点についてみるに、この点も、右(5)において説示したとこ
ろと同様、扶桑町が別個の契約により確保した他の代替用地について公有財産とし
ての扱いをしているからといって、直ちに扶桑町が本件契約により本件土地の所有
権を取得したものと解すべき根拠とすることはできない。加えて、他の愛岐大橋線
予定道路用地ないしその代替地の確保を自的として行われた契約においては、後記
認定のとおり、いずれも当該契約書上売買代金額が確定的に記載されている点にお
いて、少なくとも本件契約における代金の定め方とは異なる内容となっているこ
と、また、後記のとおり、何をもって地方自治法上の「公有財産」と解すべきかに
ついては、これを客観的・具体的に判断すべく、単に当該地方公共団体が関係書類
上等において公有財産として扱っていれば、そのすべてが右法律上の公有財産性を
肯定されるものとは断じ難いこと、などの点を併せ考慮すれば、右(6)において
控訴人らの指摘する点も、いまだその主張事実を根拠付ける事情であるとはいうこ
とができない。」
二 本件解除に関する違法の有無
控訴人らは、本件解除には種々違法な点がある旨主張するので、以下判断を加える
が、その中心的な主張は、結局本件解除が地方自治法(以下、単に「法」という。
)二三七条で規定されている公有財産の処分に関する制限に反するとの点にあると
解されるので、この点を念頭に置いて検討する。
法二三七条によれば、地方公共団体の有する財産のうち、いわゆる普通財産につい
ては、同条二項に従い、その処分等が制限されていることが明らかである。
そこで、まず、本件土地に関する扶桑町の権利が右法二三七条二項にいう財産に当
たるか否かにつき検討するに、扶桑町が本件契約により本件土地の所有権を取得し
たものといえないことば前示のとおりであるから、右権利が法二三八条一項一号の
公有財産に当たらないことは明らかである。また、同項四号にいう公有財産とは、
右所有権に準ずるような排他的な支配・用益が可能であり、かつ、その支配・用益
に独自の財産的価値を認め得るような物権的財産権を指すものと解すべきところ、
右扶桑町が有していた権利は、前示のごとく、扶桑町において当該土地を町自体の
公用地若しくは公共用地として、独自に使用・収益することは、間接的な形にせ
よ、およそ予定されない内容のものであったこと、現に、同町が本件土地につき使
用・収益を行った事実はないことが明らかであり、かかる権利の実質的な内容等に
かんがみれば、右扶桑町の権利が同項四号に当たる場合であるとも到底いうことが
できない。もっとも、成立に争いのない甲第一六、第一七号証、第四七号証の一な
いし三、当審証人F、原審における控訴人D、被控訴人B、同C各本人尋問の結果
と弁論の全趣旨によれば、扶桑町の担当職員の多くは、同町の本件土地に関する権
利がいわゆる公有財産に当たるものとの意識を有していたとうかがわれないではな
いが、かかる意識が生じたのは、本件土地に関する権利取得が愛岐大橋線の造成に
資するという公益性を有し、かつ、その取得資金が町の会計から支出されたことな
どの事情に基づくものと推測されるのであって、右権利の実体が先にみたごとくで
ある以上、扶桑町の職員間に仮に右のような意識が存したとしても、これにより、
右権利が法二三七条にいう「公有財産」に当たるか否かの判断が直ちに左右される
べきものとはいうことができない。
さらに、本件解除が法二三七条二項所定の処分等に当たるか否かについてみても、
扶桑町の本件土地に関する権利がその所有権若しくはこれに準ずる権利とは認め難
いものである以上、本件契約の解除が右条項にいう「財産の譲渡」に当たらないこ
とも明らかといわざるを得ない。
したがって、本件解除がいったん扶桑町においてその所有権を取得した本件土地の
譲渡に当たり、法二三七条二項に反するとする控訴人らの主張は、採用することが
できない。
しかしながら、法二三七条二項は、地方公共団体がその有する権利につき行う管
理・処分行為のうち、典型的なものについての一般的な準則を定めたものと解すべ
く、かかる権利の管理・処分ないしその内容・条件が原則として社会通念上適正な
ものでなければならないとするその立法趣旨は、少なくとも、同項及び法二三八条
一項各号に明示的に規定されている以外の権利関係についても、これを地方公共団
体が管理・処分する上においての指針とすべきものと解するのが相当である。な
お、右のように解することは、同じく地方公共団体における財政運営の一般準則と
いうべき地方財政法四条一項の「地方公共団体の経費は、その目的を達するための
必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」という規定の趣旨に
も適合するものということができる。そして、右の意味で、当該地方公共団体の行
った権利関係の管理・処分ないしその前提となる契約締結等が適正なものであるか
否かは、結局、当該契約内容のほか、これを行うに至った経緯・動機、契約締結の
必要性、契約当事者双方の立場等を総合的に検討し、他方、行政上の裁量権や他の
同種事案との権衡等にも配慮しつつ、客観的・具体的に判断すべきものと解され
る。
そこで、本件についてこれをみるに、前記一記載の事実関係のほか、前掲甲第六号
証の一、二、第九号証の一、第一九号証の一、第二〇号証の一、二、成立に争いの
ない甲第四六号証の一ないし一一、乙第二号証、原本の存在及び成立に争いのない
甲第五四号証(ただし、末尾二行部分を除く。)、弁論の全趣旨により成立を認め
る甲第九号証の二、原審における控訴人D本人尋問の結果により成立を認める甲第
四一号証、当審証人Fの証言、原審における控訴人D、被控訴人B、同C、当審に
おける被控訴人A各本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認めら
れる。
1 本件契約の状況
本件契約は、扶桑町が愛岐大橋線造成に伴う代替地確保を企図していたところ、当
時同町議会議員であった被控訴人Aが本件土地の提供に応じてもよい旨申し出たこ
とから締結されるに至ったものであるが、右契約締結に際し、被控訴人Aは、自己
の事業資金を調達すべく、被控訴人Bに対し、前示のとおりほぼ当時の本件土地の
時価に相当する金員を前払するよう要求し、その要求どおりの金額の支払を受け
た。その態様は、本件契約締結の当日、まず、午前中に坪単価二万円の計算により
扶桑町役場において支払を受け、いったん同所を辞した後、同日午後、再度同役場
を訪れ、更に坪単価五〇〇〇円分の追加払を要求し、これを認めさせたというもの
であった。
なお、前示のとおり、本件契約の契約書上、右のような金員前払の約定は全く記載
がされなかった。
2 本件契約から本件解除までの経過
本件契約時(昭和四五年四月)から本件解除時(昭和五六年三月)まで、高木地区
における愛岐大橋線造成計画には、特段の進展がなかった。
ところで、扶桑町議会では、昭和五〇年ごろから、控訴人Dらが中心となって、本
件契約が一方的に被控訴人Aに有利なものである点等の追及が繰り返され、扶桑町
では、かかる経過も踏まえ、昭和五二年には、本件土地に関する権利を法的に保全
するとの趣旨で、本件各仮登記を経由した。しかし、本件土地の売買につき、契約
書上記載のない金銭支払が行われている点や愛岐大橋線の買収時に清算払が予定さ
れている点などについて、なおも右控訴人らの町議会等における追及が止まず、右
のとおり愛岐大橋線の計画が進まなかったこともあって、被控訴人Cは、本件契約
を解除する意向を固め、被控訴人Aとの間で、金利分返還の点を含めて折衡を行っ
た(右折衝の経緯は不明)が、結局、本件契約時に支払った金額のみの返還を受け
ることで合意し、本件解除の契約を締結した。なお、被控訴人Cは、右解除契約に
関する書面をいった人被控訴人Aとの間で取り交わし、これに基づき本件各仮登記
の抹消を行った後、改めて、「被控訴人Aにおいて、本件契約の主旨を尊重し、解
約後も愛岐大橋線代替用地として使用し、愛岐大橋線の速やかな開通に積極的に協
力する」旨、いわば本件土地の再提供に関する条項を付記した書面を作成した。
3 その後の状況
被控訴人Aは、右のような本件土地再提供という形での協力については、当初から
紳士協定的なものと考えており、本件解除当時は、右のような協力を行う意思があ
ったものの、現在では、その意思を失っている。また、愛岐大橋線の造成計画につ
いては、現在でも高木地区における工事が容易に始められる見通しは立っていない
が、昭和五五年一月ごろ扶桑土地改良区内に愛岐大橋線推進委員会が設置されて以
降は、右地区における土地改良事業と関連させて右計画を推進しようとの機運は生
じているものと思われる。なお、被控訴人Aは、昭和四二年ごろから高木地区の工
区長の職にあるほか、右愛岐大橋線推進委員会の委員長も、同会設置当初から兼任
している。
4 他の同種土地の取扱い
扶桑町においては、本件土地以外に、同様愛岐大橋線造成に伴う予定道路用地ない
しその代替地として、少なくとも三箇所の土地につきその各所有者からの提供を受
けているが、これらの所有者との契約では、いずれも売買代金額が契約書上明示さ
れ、契約締結後間もなくその代金全額の支払が行われており、他方、その後の代金
清算の約定はされていない。もっとも、このうち、G所有の土地に関しては、同人
から、愛岐大橋線に係る用地買収単価で後日代金の清算追加払を行うよう要求が出
され、いったん、扶桑町においてこれを認める内容での売買契約書が取り交わされ
たが、その後、右Gにおいて、かかる追加払を受ける権利を放棄する旨の書面が扶
桑町宛に提出されている。
また、右三箇所の土地については、現在に至るも、各所有者と扶桑町との売買契約
の解除は行われておらず、依然として扶桑町が愛岐大橋線に関する予定道路用地な
いしその代替地としてこれを確保している。
以上の事実が認められる。なお、以上のほか、控訴人らにおいて、本件解除が被控
訴人Aの無法な、悪しき意図に屈服して行われたものであるなどと主張する点につ
いては、本件全証拠によるも、これを認めることができない。
かかる事実関係に基づき考察するに、まず、扶桑町において、被控訴人Aとの間で
本件契約の解除をしたこと自体は、いまだ違法ということができない。確かに、扶
桑町において愛岐大橋線造成に伴う代替地を確保することは、右愛岐大橋線の造成
自体が同町の事務そのものではないにしても、その実施を円滑に行う上で有益な、
広い意味における公共目的にかなう側面を有する事柄というべく、特段の事情の変
化がないのに、いったん被控訴人Aから提供を受けた本件土地についてのみ、これ
を右代替地として確保し得る権利を放棄することとなる(前認定の事実によれば、
法律上、被控訴人Aから本件土地の再提供を受けられる保障はないといわざるを得
ない。)本件解除に及人だとすれば、その行政上の当否が問題とされる余地なしと
しない。しかしながら、もともと、法二三七条二項は、前示のとおり地方公共団体
の行う権利処分等に関し、その内容の適正を確保するという観点に立脚して規定さ
れているものであって、公共目的ないしは必要性を重視するという観点に立脚し、
これらのない行政上の行為を捕えて違法なものとしてこれに制約を加える趣旨に出
るものではない。また、右法二三七条二項の問題とは別に、一般的には、行政上の
必要性を欠く地方公共団体の行為が、その故に違法とされる場合が全くない訳では
ないにしても、その必要性の有無の判断は、一次的に行政主体において行うのを相
当とする事柄というべく、かかる行為が違法とされるのは、行政権の濫用に当たる
ような、行政上の必要性を欠くことが明らかな場合に限られるものというべきであ
る。これを本件解除の場合についてみるに、前示のとおり、本件解除前の状況とし
て、一方において、本件契約の内容に問題のあることが町議会等において追及され
る事態を招いていたものであり、他方、本件契約の動機となった愛岐大橋線の計画
は、依然として進展のみられない状態が続いていたというのであって、かかる状況
を前提とすれば、その他前認定の事実関係を考慮に入れても、当時の扶桑町長であ
る被控訴人Cが本件解除を行うべきものと判断したことが、その必要性を全く欠
く、行政権の濫用に当たる場合であったとは、たやすく認めることができない。し
たがって、本件解除の選択自体の違法をいう控訴人らの主張は、公序良俗違反を理
由とする点も含め、採用することができない。
次に、本件解除の内容・条件の当否についてみるに、本件解除において、被控訴人
Aが本件契約時に受領した金員全額の返還や本件各仮登記の抹消が約されたことか
らして、本件解除が基本的に本件契約の効力を全面的に覆す趣旨に出たものである
ことは明らかというべく、さらに、本件解除が企図されるに至った大きな要因の一
つが本件契約の内容自体に問題のあった点に求められること、本件契約時から本件
解除時まで、扶桑町において本件土地に関する権利を得ていたことが、それ自体と
して公益上特段の効果・効用をもたらすというものではなかったことなどを併せ考
慮すると、本件解除は、本来、本件契約に関する法律関係をその締結時に遡って覆
すという、いわゆる現状回復を旨とすべき性質のものであったということができ
る。そして、かかる観点に立脚すると、被控訴人Aが本件解除において、本件土地
の用益は本件契約後もこれを継続していなにもかかわらず、本件契約時に受領した
相当多額の金員につき、以後本件解除時までの間の一〇年余に及ぶ金利負担を一切
免れる結果に終わった点は、通常の取引通念に照らしても、著しく被控訴人Aの利
に偏し、その反面として、扶桑町に明らかな損失をもたらすものとして、これを正
当化するに足りる特段の事情がない限り、適正を欠く契約内容であったといわなけ
ればならない。しかして、本件解除は、少なくとも本件契約時において企図された
愛岐大橋線に関する代替地確保という公益目的との関係では、むしろ右代替地確保
を断念するという消極的な方向に出た行為であることが明らかであって、本件解除
の正当性をこのような公益性の存在によって裏付けることはできない。もっとも、
本件解除は、前示のような問題の指摘されていた本件契約を解消するものであっ
て、少なくとも被控訴人Aから、本件契約当日交付された代金金額の返還を受ける
等、将来に向かって扶桑町に生ずる可能性のある不利益・不都合を未然に防ぐ意味
があったという点を一種の公益性に通ずる要素とみなし、かかる状況を実現するた
めには、扶桑町において、ある程度の条件譲歩は避けられなかったとする見方があ
り得ないではない。しかしながら、本件契約自体が被控訴人Aの利に偏し、扶桑町
の財政処理上も種々の問題を包蔵するものであったことは、前示の本件契約の内容
や他の同種事案との比較においても否定し難いところ、かかる問題の発端となる代
金前払を被控訴人Aの側が強引に求めた経過のあったことは、これまた前示認定の
事実から優にうかがわれるところであって、他の第三者と新たな契約交渉を行う場
合であれば格別、右のような問題を引き起こした当の被控訴人Aを相手方として本
件解除に関する交渉を行うにあたり、扶桑町側において、前記のとおり、本件契約
の現状回復としては不十分な点を残したままの内容・条件で解除の合意をせざるを
得なかった事情にあるものとは、社会通念上到底解することができない。その他、
本件証拠上、扶桑町において、本件解除を前記のような内容で行わざるを得なかっ
たとするに足りる事情は見いだし難い。以上によれば、本件解除において、扶桑町
が被控訴人Aに前記のごとく本件契約時から本件解除時までの金利分の支払を免れ
させた点は、法二三七条二項等の趣旨に照らし、違法であったというべきである。
三 本訴各請求の当否
本件解除には、右のとおり違法な点があるところ、まず、かかる違法に基づく請求
を被控訴人Aが甘受すべきものか否かについてみるに、被控訴人Aは、前示のとお
り、本件契約を問題あらしむるものにした主たる当事者というべく、また、原審に
おける控訴人D、被控訴人B、同C、当審における被控訴人A各本人尋問の結果と
弁論の全趣旨によれば、本件契約の問題性が扶桑町議会等においてしばしば追及さ
れていた経過についても、十分認識していたものと認められるところである。この
ような本件における具体的な事情にかんがみると、被控訴人Aは、本件解除の違法
を理由とする扶桑町からの請求を甘受しなければならない立場(後記損害賠償との
関係では、その不法行為者たる立場)にあるものというべきである。
そこで、次に、控訴人らの本訴主位的請求の当否についてみるに、法二三七条二項
の趣旨を徹底するとすれば、右条項の趣旨に反する契約等は、その違法の程度・内
容等を問わず、一律に無効になるものと解する見解も成立し得ないではない。しか
しながら、右法二三七条二項の規定自体、結局地方公共団体において適正な内容の
契約が実現されることを究極の目的とするものというべく、かかる目的を達成する
手段として、常に当該契約の効力を失わしめることが論理必然的に要求されるもの
とまでは、たやすくいうことができない。殊に、本件のごとく、右条項に明示され
ている行為類型に当たらず、しかも、その違法の程度・内容においても、当該契約
中の条件の一部に金銭給付の仕方において不十分な点があるにとどまる場合には、
むしろ、当該行為に係る職員やその相手方に対し、損害賠償等の金銭給付を求める
だけでは、右のような法二三七条二項の目的を達し得ない特段の事情がない限り、
原則として、当該行為がその違法の故に直ちに無効とはならないものと解するのが
相当である。これを本件についてみるに、前記のとおりその支払を免れたことが違
法と目される金利分は、その総額(後記のとおり約二四一万円となる。)において
も、被控訴人Aが扶桑町に返還した代金額に匹敵するほどのものとはいえず、ま
た、被控訴人Aにおいて右の程度の金額の賠償を行う資力がないものとも、本件証
拠上にわかにうかがわれないのであって、結局、本件において、本件解除自体を無
効とすることは、むしろ、法二三七条二項の趣旨に照らし、過ぎなる結果を及ぼす
ものとして、相当ではないといわなければならない。したがって、控訴人らの本訴
主位的請求は、結局理由がないものというべきである。
そこで、控訴人らの予備的請求に係る損害賠償の当否についてみるに、この点に関
し、控訴人らの主張が、本件解除時における本件土地の時価と返還代金額との差額
を損害とする点では採用し難いが、これを返還代金の金利免除分とする限度におい
て理由があることは、以上に説示したところから明らかである、しかして、右金利
分の損害としては、社会通念上、本件契約時(代金受領時)から本件解除時(代金
返還時)までの、返還代金額四四二万五〇〇〇円に対する民法所定年五分の割合に
よる金員とするのが相当と認められ、その額は、二四一万九二〇二円となる(4.
425.000×10×341/365×0.05=2.419.202)。
以上によれば、控訴人らの被控訴人Aに対する本訴請求中、主位的請求は理由がな
いが、予備的請求については、金二四一万九二〇二円の損害賠償を求める限界で理
由があるものと判断される。
第三 結論
よって、原判決中、控訴人らの被控訴人B、同Cに対する訴えを却下し、被控訴人
Aに対する主位的請求を棄却した点は、いずれも相当であるが、被控訴人Aに対す
る予備的請求を棄却した点は一部不当であるというべきであるから、原判決中、被
控訴人Aに関する部分を主文二、三項のとおり変更し、被控訴人B、同Cに対する
本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴
訟法七条、民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条、九四条を、仮執行の
宣言につき行政事件訴訟法七条、民訴法一九六条を各適用して、主文のとおり判決
する。
(裁判官 浅香恒久 窪田季夫 畑中英明)

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