弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が原告に対し,平成12年8月3日付けで行った「まちなみデザイン推進事業
助成金に関わる事業収支精算書(支出先明細の一切,各町の会計が保管しているもの
も含む」の非公開処分を取り消す。)
第2事案の概要
,(「」。)本件は原告が被告に対して行った豊橋市情報公開条例以下本件条例という
に基づく公文書公開請求に対し,被告が非公開決定(以下「本件処分」という)を。
行ったため,本件処分に違法があるとして,原告が被告に対し,本件処分の取消しを
求めた抗告訴訟である。
1争いのない事実等(証拠により認定した事実については,適宜証拠を掲げる)。
(1)当事者
原告は,愛知県豊橋市内に住所を有する者であり,被告は,本件条例による公
文書公開に関する実施機関である。
(2)本件条例の抜粋(乙2)
(目的)
1条この条例は,市民の知る権利を尊重し,公文書の公開を請求する権利につ
き定めること等により,実施機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって
市の有するその諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにするととも
に,市政に対する市民の理解を深め,市民と市との信頼関係及び協力関係の増
進に寄与することを目的とする。
(定義)
2条この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めると
ころによる。
1号実施機関(略)
2号公文書実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び
写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。以下同じ)並びに電。
磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識するこ
とができない方式で作られた記録をいう。以下同じ)であって,当該実。
施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有している
ものをいう。ただし,次に掲げるものを除く。
ア及びイ(略)
(解釈及び運用の基本)
3条実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,公文書の公開を請求
する権利を十分に尊重するものとする。この場合において,実施機関は,個人
に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければ
ならない。
(公開請求権)
5条何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,公文書の公開
を請求することができる。
(公文書の公開義務)
6条
,(「」。)1項実施機関は前条の規定による公開の請求以下公開請求という
があったときは,公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非
公開情報」という)のいずれかが記録されている場合を除き,公開請求を。
したもの(以下「公開請求者」という)に対し,当該公文書を公開しなけ。
ればならない。
1ないし7号(略)
2,3項(略)
11条
1項実施機関は,公開請求に係る公文書の全部又は一部を公開するときは,
その旨の決定をし,速やかに,公開請求者に対し,その旨並びに公開を実施
する日時及び場所その他公開の実施に関し規則で定める事項を書面により通
知しなければならない。
2項実施機関は,公開請求に係る公文書の全部を公開しないとき(第8条の
規定により公開請求を拒否するとき,及び公開請求に係る公文書を保有して
。。),,,いないときを含む以下同じは公開をしない旨の決定をし速やかに
公開請求者に対し,その旨を書面により通知しなければならない。
3項実施機関は,第1項の規定により公文書の一部を公開しないとき,又は
前項の規定により公文書の全部を公開しないときは,当該各項の書面にその
理由(当該理由がなくなる期日をあらかじめ明示できるときは,当該期日を
含む)を付記しなければならない。。
(3)公文書公開請求
原告は,被告に対し,平成12年7月25日,本件条例に基づき「まちなみ,
デザイン推進事業助成金に関わる事業収支精算書(支出先明細の一切,各町の会
計が保管しているものも含む」の公開を請求した(当該請求を以下「本件公開)
請求」という。甲1。)
(4)本件公開請求に係る文書等
豊橋市は,豊橋市まちづくり景観条例(平成4年豊橋市条例第57号)を制定
し,景観形成地区に指定されたまちづくり団体(助成団体)に対し,良好なまち
なみ形成の推進方策等の検討に要する経費として,国県補助を活用したまちなみ
デザイン推進事業助成金により助成を行っている(同条例14条。上記助成金)
についての必要な事項については豊橋市まちなみデザイン推進事業助成金交付要
綱(以下「本件要綱」という。甲4)で定められている。本件要綱の概要は次の
とおりである。
本件要綱により助成金の交付を受けようとする協議会組織(助成団体でまちづ
くり協定の締結を目的とするものをいう。3条3号)は,事前に助成金交付申請
(),,,書を市長に提出しなければならず5条市長は同申請書を受理したときは
その内容を審査し,適当と認めるときは助成金の交付の決定をし,助成金交付決
定通知書により通知する(6条。市長は,助成事業を適正に執行させるために)
必要に応じ,助成団体に当該助成事業の執行状況の報告を求め,又は必要な指示
を命ずることができる(8条。助成団体は,助成事業が完了したときは速やか)
に実績報告書を市長に提出しなければならず(9条,市長は,提出された実績)
報告書を審査し,当該助成事業が助成金の交付の決定内容及びこれに付した条件
に適合すると認めるときは,助成金の交付額を確定し,助成金交付額確定通知書
により助成団体にこれを通知する(10条。助成金の交付額の確定後,助成団)
体は市長に対し市の指定する請求書によって助成金を請求し,市長は当該請求に
基づいて助成金を交付する(11条。助成金の交付を受けた助成団体は,助成)
事業に係る経費について,収支及び使途を明確にし,その他証拠書類とともに当
該年度から10年間保存しておかなければならない(16条。市長は,助成金)
の交付を受けようとする協議会組織若しくは助成団体について必要な報告を求
め,又は必要な調査を行うことができ(12条,一定の事由が存するときは,)
市長は助成金の交付決定の一部又は全部を取り消すことができ(13条,助成)
事業の取消しに係る部分について,既に助成金が交付されているときは,その返
還を命ずることになる(14条。)
原告が本件公開請求により公開を求めた公文書(まちなみデザイン推進事業「
助成金に関わる事業収支精算書(支出先明細の一切,各町の会計が保管している
ものも含む)は,本件要綱16条に基づき助成団体に保管が義務づけられて)」
いる会計帳簿及び領収書(以下「本件文書」という)である。。
(5)本件文書の保管状況
被告は,助成金が適正に使用されているか否かの審査終了後,本件文書を助成
団体に返却したので,本件公開請求当時から本件文書を保管していない。
(6)本件処分等
被告は,平成12年8月3日付けで,本件公開請求に係る公文書が存在しない
ので,本件条例11条2項に該当するとの理由で,本件文書を全部公開しない旨
の本件処分(12豊都第×××−×号,甲2)を行った。
なお,被告は,本件公開請求に係る文書には,本件文書の外,助成金交付申請
(。),,(。),書添付書類を含む助成金交付決定通知書実績報告書添付書類を含む
助成金交付額確定通知書,助成金請求書等の文書も含まれると考え,同日付けで
これらの文書については一部公開する旨の決定(当該関係書類のうち,助成金交
付申請書,実績報告書及び助成金請求書中の団体代表者の印影部分及び事業報告
書中の個人名・まちづくり団体構成員名簿については非公開(12豊都第11)
9号,乙3)を行った。
(7)異議申立て
原告は,本件処分を不服として,平成12年8月28日,被告に対して異議申
立てを行った(甲3。これに対して,被告は,同年9月4日付けで豊橋市情報)
公開審査会に諮問したところ,同審査会は,平成13年4月11日付けで,本件
文書は本件条例2条2号の公文書に該当しないとの答申を行った(甲5)ので,
これを受けて,被告は,同年4月20日,原告の異議申立てを棄却する旨の決定
をし(甲6,同月23日,同決定は原告に通知された。)
2本件の争点
本件処分の適法性について
(原告の主張)
本件要綱には「助成金の交付を受けた助成団体は,助成事業に係る経費につい,
て,収支及び使途を明確にし,その証拠書類とともに当該年度から10年間保存し
ておかなければならない(16条)と明記されているところ,本件文書は,被。」
告が助成金が適正に使用されているかを審査し,その交付額を確定させるにあたっ
て必要不可欠な文書であって,被告が助成団体から提出させて保管しなければなら
ない文書であるから,本件条例2条2号の公文書に該当する。
また,被告が本件文書を保管していないとしても,本件条例1条は,被告ら実施
機関が市の有するその諸活動について市民に説明する責務を負っていることを規定
しているのであるから,被告は助成団体から本件文書を提出させた上で原告に公開
すべきである。
したがって,本件文書が存在しないことを理由としてなされた本件処分は,豊橋
市民の知る権利を侵害する違法な処分である。
(被告の主張)
被告は,前記のとおり,助成金が適正に使用されているかを審査するため,助成
団体から実績報告書及びその添付書類(事業収支精算書,助成金受入調書,活動報
告書及び事業成果を示す資料等)の外,助成団体が保管する本件文書を提出させて
いるが,審査終了後,本件文書は助成団体に返却され,被告はこれを保管していな
い。そして,本件要綱,豊橋市の会計執行に係る規則その他の法令において,被告
に本件文書の保管義務を規定したものはない。
,,原告は被告が助成団体から本件文書を取り寄せて公開することを求めているが
本件条例は,実施機関が現に保有していない文書を取り寄せてまで公開することを
義務づけていない。
したがって,本件文書は本件条例2条2号の公文書に該当せず,同条例11条2
項に基づきなした本件処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1本件条例は,公開請求の対象となるべき公文書につき,実施機関の職員が職務上作
成し,又は取得した文書等にして,組織的に用いるものとして当該実施機関が保有し
ているものと定義している(2条2号)ところ,本件要綱には,本件文書について助
()成金の交付を受けた助成団体に一定期間その保存を義務づける規定は存する16条
ものの,被告が本件文書を取得し,あるいは被告に本件文書の保管義務を課すること
について根拠となる規定は何ら存在せず,現に被告が本件文書を保管していないこと
は当事者間に争いがない。
そして,助成団体の上記保存義務は,本件要綱12条に基づき,助成団体が市長か
ら報告又は調査を求められた際に,助成団体がこれに応じて,助成事業に要した経費
につき,その収支及び使途を明確にするためのものであると解される。裏返せば,本
件要綱上,被告が,助成金の適正な使用の有無を審査するため,9条で規定されてい
る実績報告書の外,助成団体が保管する本件文書の提出を求めることはあり得ても,
審査が終了し助成金交付額が確定した後も,提出させた会計帳簿及び領収書を返却す
ることなく,あるいは再度提出させた上,組織文書として自ら保管しておくことは予
定されていないといわざるを得ない。
2この点につき,原告は,市民に対する説明義務を定めた本件条例1条に照らし,助
成団体が保管している文書であっても,被告が助成団体に提出させた上で公開すべき
であると主張するが,目的規定にすぎない同条によって,本件条例2条2号で定めら
れた公開請求の範囲や対象が拡大されるべきものとはいえないし,仮に第三者保管に
係る文書も公開の対象とするのであれば,そのための手続を定めた規定が必要と考え
られるところ,本件条例や本件要綱にはかかる規定は存在しないので,上記のような
規定が存在するからといって,本件条例が第三者の保管する文書をも公開の対象とし
ているとは解し難く,原告の上記主張は採用できない。
したがって,本件文書が存在しないとして,本件条例11条2項に基づきなされた
本件処分は適法というべきである。
3よって,原告の請求は理由がない。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官加藤幸雄
裁判官橋本都月
裁判官富岡貴美

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