弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人の請求を棄却した部分を破棄する。
     被上告人は上告人に対し一、〇四一、四六四円を支払え。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 原判決は、破産会社(D株式会社)において被上告人に対し本件債務を負担して
いないにもかかわらずこれが弁済として五、三九二、九二四円を支払つたから、こ
れにより被上告人は法律上の原因なくして右金員に相当する利益を受け、破産会社
に同額の損失を及ぼしたものであること、銀行業者である被上告人が右弁済金を運
営資金として利用することにより、少なくとも商事法定利率による利息相当の運用
利益(臨時金利調整法所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内)を得ており、
右利益は現存していることをそれぞれ認定判示していることは所論のとおりである。
 按ずるに、不当利得における善意の受益者が利得の原物返還をすべき場合につい
ては、占有物の返還に関する民法一八九条一項を類推適用すべきであるとの説があ
るが、かかる見解の当否はしばらくおき、前記事実関係によれば、本件不当利得の
返還は価格返還の場合にあたり、原物返還の場合には該当しないのみならず、前記
運用利益をもつて果実と同視することもできないから、右運用利益の返還義務の有
無に関して、右法条の適用を論ずる余地はないものといわなければならない。すな
わち、たとえ、被上告人が善意の不当利得者である間に得た運用利益であつても、
同条の適用によつてただちに被上告人にその収取権を認めるべきものではなく、こ
の場合右運用利益を返還すべきか否かは、もつぱら民法七〇三条の適用によつて決
すべきものである。
 そこで、進んで本件におけるような運用利益が、民法七〇三条により返還される
ことを要するかどうかについて考える。およそ、不当利得された財産について、受
益者の行為が加わることによつて得られた収益につき、その返還義務の有無ないし
その範囲については争いのあるところであるが、この点については、社会観念上受
益者の行為の介入がなくても不当利得された財産から損失者が当然取得したであろ
うと考えられる範囲においては、損失者の損失があるものと解すべきであり、した
がつて、それが現存するかぎり同条にいう「利益ノ存スル限度」に含まれるもので
あつて、その返還を要するものと解するのが相当である。本件の事実関係からすれ
ば、少なくとも上告人が主張する前記運用利益は、受益者たる被上告人の行為の介
入がなくても破産会社において社会通念に照し当然取得したであろうと推認するに
難くないから、被上告人はかりに善意の不当利得者であつてもこれが返還義務を免
れないものといわなければならない。してみれば、右運用利益につき、被上告人が
善意の不当利得者であつた期間は、民法一八九条一項によりこれが返還義務のない
ことを前提として、上告人の本訴請求中被上告人の不当利得した金員合計五、三九
二、九二四円に対するその各受領の日の翌日より昭和二九年六月二一日までの運用
利益の支払を求める部分を棄却した原判決は、右の点に関する法令の解釈適用を誤
つたものといわなければならないから、論旨は理由があり、原判決は、右部分につ
き、他の上告論旨についての判断をまつまでもなく破棄を免れない。そして、本件
は、右部分につき当審で裁判をするに熟するものと認められるところ、右上告人の
請求部分は合計一、〇四一、四六四円(円未満は切り捨てる。)となることは計算
上明らかであるから(上告人の請求の趣旨中の中間計算にも明白な誤りがあるので
訂正)、被上告人は上告人に対しこれが支払をなすべきものである。
 よつて、民訴四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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