弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人Aの昭和四八年分所得
税について昭和四九年六月二九日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに
同年一二月一七日付でした再更正を、また、控訴人Bの同年分所得税について昭和
四九年六月二九日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに同年一二月一七
日付でした再更正をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担
とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め
た。
控訴人ら代理人は、請求の原因として、
一、控訴人らは、生計を一にする夫婦であるが、昭和四八年分の所得につき、控訴
人Aの所有金額を事業所得二〇九万二、三二二円、長期譲渡所得二二〇万四、〇六
五円、合計四二九万六、三八七円、税額を四九万九、四〇〇円(源泉徴収税額三万
円を控除した申告納税額-納付すべき税額-四六万九、四〇〇円)、控訴人Bの所
得金額を配当所得四〇四万九、五〇〇円、所得税額を二九万六、六五〇円(源泉徴
収税額六〇万七、四二四円から還付すべき金額三一万〇、七七四円)とそれぞれ確
定申告したところ、被控訴人は、昭和四九年六月二九日付で、所得税法(昭和五〇
年法律第一三号による改正前のもの。以下同じ。)九六条ないし一〇一条の規定に
基づき、控訴人Bの右配当所得たる資産所得を控訴人Aの所得とみなし、これを同
控訴人の総所得金額に加算して税額を算出し、控訴人Aにつき申告納税額を五六万
九、二〇〇円(確定申告額より九万九、八〇〇円増)と更正したうえで、過少申告
加算税四、九〇〇円を賦課する旨の決定を、また、控訴人Bにつき還付金額を一二
万八、五九五円(確定申告額より一八万二、一〇〇円減)と更正したうえで、過少
申告加算税九、一〇〇円を賦課する旨の決定をなし、さらに、同年一二月一七日に
至り、控訴人Bの配当所得金額に五〇万円の申告洩れがあつたとして、同控訴人の
配当所得金額を四五四万九、五〇〇円と訂正するとともに、控訴人Aにつき申告納
税額を五九万〇、九〇〇円(確定申告額より一二万一、五〇〇円、更正額より二万
一、七〇〇円増)、控訴人Bにつき還付金額を八万五、三七二円(確定申告額より
二二万五、四〇二円、更正額より四万三、二〇〇円減)とそれぞれ再更正した。こ
れに対し、控訴人らは、右各処分の取消しを求めて、異議を申し立て、審査の請求
をしたが、いずれも棄却された。
しかし、右各処分は、以下述べる理由によつて明らかなごとく違法である。すなわ
ち、
(一) 所得税法九六条ないし一〇一条の規定する資産所得合算課税は、資産所得
を恣意的に分散することによつて不当に租税負担の軽減を図ることを封ずるのを狙
いとするものである。ところが、かかる租税回避行為の行なわれるのは資産所得に
ついてだけではないのに、資産所得に限り、これを他の所得と別異に取り扱うばか
りでなく、いわゆる実質課税の原則を活用することによつて右のような弊害を防止
し得るにかかわらず、資産所得合算課税の制度を設けたことは、そもそも、その合
理的根拠に欠けるというべきである。そればかりでなく、法がかかる制度を設け、
しかも、資産所得であれば、単に恣意的な分散の行なわれたものに対してだけでな
く、合算対象世帯員が自己の固有財産として正当に稼得したものに対してもこの制
度を適用し、当該資産所得がそれを稼得した世帯員の所得であることを否定して主
たる所得者の所得とみなすことは、所得税法自らが実質課税の原則と個人単位の課
税方式を放棄するものであり、この意味において、資産所得合算課税の制度は、新
憲法の基調とする個人の尊重と財産権の保障に違背し、さらに、累進税率の採られ
ている現行税制の下では、被合算者を同一の担税力を有するその他の納税者よりま
た、既婚者を未婚者より不利益に取り扱い、なお、婚姻生活に対する国家の妨害的
措置にも該当する。それ故、資産所得合算課税の制度は、憲法一三条、一四条、二
九条、三〇条及び八四条に違反して無効である。
もつとも、後に記述するごとく、この制度は資産所得の恣意的な名義上の分散が行
なわれた場合にのみ適用されるものと解される余地があるとしても、その法文自体
の曖昧・漠然さの効に、租税法律主義を保障した憲法三〇条及び八四条に違反する
ことには変りはない。
(二) 仮に、資産所得合算課税の制度は、資産所得の恣意的な名義上の分散が行
なわれた場合にのみ適用されるものと解すべきであり、この限りにおいて違憲とは
いえないとしても、控訴人Bの資産所得は、すべて、同控訴人の実家の亡父Cより
相続した株式の配当所得であつて、いわば同控訴人の固有財産から生じた所得と同
視すべきものであり、夫たる控訴人Aの支配力の及ぶ所得でもなければ、控訴人A
が妻の名義を利用して取得した所得でもなく、租税回避行為の存在しないことが明
らかであるから、この制度を適用すべき場合に該当しないものというべきである。
(三) 仮りに、以上の主張にしてすべて理由がないとしても、被控訴人のした前
記各処分には、所得税法九六条の解釈を誤つた違法がある。というのは、所得税法
九六条三号にいう「主たる所得者」とは、必らず、その総所得金額に資産所得の金
額が含まれている者でなければならない。このことは、同条号が「主たる所得者」
とは「次条第一項に規定する親族のうち、総所得金額から資産所得の金額を控除し
た金額が最も大きい者」をいうと規定しているが、その者の総所得金額に資産所得
の金額が含まれていない場合には、「総所得金額から資産所得の金額を控除した金
額」を求めることが不可能であることからみても明らかである。しかるに、控訴人
Aには資産所得がなかつたのであるから、同控訴人は、所得税法九三条三号にいう
「主たる所得者」に該当せず、したがつてまた、控訴人Bも、同条四号にいう「合
算対象世帯員」に該当しないのに、被控訴人は控訴人がそれぞれ「主たる所得者」
と「合算対象世帯員」に該当するものと認定して前記各処分を行なつたからであ
る。
よつて、前記各処分の取消しを求めるため本訴に及んだと述べ、被控訴人の本案前
の抗弁に対して、更正と再更正とは、いずれも、別個独立の処分であり、被控訴人
のいうごとく、増額再更正は、更正の効力を全面的に失わせ、改めて納税義務の範
囲を確定するものではなく、当初の更正をそのまま有効なものとして維持し、脱漏
した部分だけを追加決定するものであり、このことは、国税通則法二八条、二九条
の規定からも窺知することができる。それ故、再更正のほかに更正の取消を求める
訴えも、その利益がないとはいえない、と附陳した。
被控訴代理人は、
一、まず、本案前の抗弁として、更正と再更正とは、いずれも、独立した処分では
あるが、再更正は、当初更正に係る課税標準等を含め全体としての課税標準等を確
認する処分であるから、再更正が行なわれた場合には、さきになされた更正は、再
更正の処分内容としてそれに吸収されて一体となり、独立の存在を失うに至るか
ら、その取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠き不適法である。
二、本案の答弁として、控訴人らの主張事実は認めるが、法律上の主張は、すべ
て、これを争う。すなわち、
(1) 資産所得合算課税の制度は、控訴人らのいうごとく単に租税回避行為を封
ずることのみを目的とするものではなく、担税力に応じた公平な租税負担という税
法の基本理念を実現するために設けられたものである。このことはさらに詳述すれ
ば、現在の所得税法は、所得を稼得する個人を課税の単位としてとらえ、その所得
に対して累進税率を適用することとしているが、このような課税単位の下にあつて
は、すでに昭和三一年一二月二五日付臨時税制調査会の答申が指摘しているよう
に、担税力に応じた公平な租税負担という見地からみた場合、次の二つの点が問題
となる。その一は、一つの世帯に一人の所得者がいる場合と、二人以上の所得者が
いる場合とでは、その世帯の所得の総額が同一であつても、累進税率の構造上、所
得税負担の総額は、後者の方が前者よりもかなり少額となるが、それは、租税負担
の公平という見地からみて軽きに失する、ということであり、その二は、現行の個
人単位の所得税制では、実体が同じであつても、法的構成を変え、所得者が多数と
することによつて、租税の負担を軽減することができる不合理がある、ということ
である。そして、これらの矛盾を解決することができるかどうかは、いつに、課税
単位の適正な決定という所得税制の基本問題にかかつているが、その決定は、現行
憲法の下においても、法律の定めるところに委ねられているのである。
この点について、控訴人らは、実質課税の原則を活用することによつて、右の矛盾
をすべて解決することが可能であるという。しかし、もともと実質課税の原則は、
所得の帰属認定に関する原則であつて、資産所得合算課税の制度のごとく租税負担
の公平に関するものではない。いいかえれば、実質課税の原則によつて或る世帯員
に帰属するものと認められた資産所得であつても、担税力に応じた公平な租税負担
の実現を図るために、これを主たる所得者の所得とみなすというのが資産所得合算
課税の制度である。このように、両者は、その働らく次元を異にするものであるか
ら、実質課税の原則をもつて合算課税の制度に代置することは不可能である。
ところで、資産所得については、給与所得や退職所得のごとき個人の労働によつて
得られるいわゆる勤労所得等の場合とは異なり、世帯を課税単位とする方が、生活
の実態に即して担税力に応じた公平な課税を行なうことができる。そしてまた、こ
のような課税を行なえば、資産の名義の分割等表面上の仮装によつて不当に所得税
の軽減を図ることを防止することも可能となる。こうした配慮から、現行税制の個
人単位主義の建前を崩すことなく、その例外的措置として、資産所得合算課税の制
度が設けられるに至つたのである。
控訴人らは、るるこの制度の違憲を論難するが、所得税法が資産所得の合算に当
り、合算対象世帯員の資産所得を主たる所得者の所得とみなすといつているのは、
決して、当該資産所得が世帯員に帰属していることを否定したり、主たる所得者の
所得に帰属せしめる意味ではなく、あくまでも、税額計算上そのように擬制すると
いうにすぎないのであつて、手続上も、世帯員の所得として申告され、税額も世帯
員の負担すべきものとして納付されるのである。
右のことと前叙のごとき資産所得合算課税の立法趣旨に徴すれば、控訴人らの違憲
の主張は、いずれも、その理由がないこと明らかである。
(二) また、控訴人Bの本件資産所得に対しては合算課税制度の適用がない旨の
控訴人らの主張は、この制度が租税回避行為の存在する場合にのみ適用されるべき
であるという見解に立脚するものであるが、かかる見解の採り得ないことは、さき
に述べたところによつて明らかであるから、控訴人らの右主張も、その理由がな
い。
(三) さらに、控訴人らは、控訴人らが主たる所得者又は合算対象世帯員に該当
しないと主張する。しかし、所得税法九六条三号にいう「総所得金額」には、同法
二二条二項の規定するとおり、各種所得金額の合計額の意味であつて、その中に必
らず資産所得金額が含まれていなければならないというものでもなく、それが含ま
れていない場合に主たる所得者を決定するに当り総所得金額から控除すべき資産所
得金額は、零として計算すれば足りるのであるから、控訴人らの右主張もまたその
理由がない
と述べた。
証拠(省略)
○ 理由
一、本件各更正の取消しを求める訴えの適法性について
控訴人らは、本訴において、各更正の取消しを求めているが、控訴人らの当該年分
の所得税につきその後再更正の行なわれたことは、控訴人らの自ら認めて争わない
ところである。しかして、かように、或る年分の所得税について再更正が行なわれ
る場合には、当初の更正の取消しを求める訴えがその利益を欠いて不適法となるこ
とは、すでに確立した判例である(最高裁判所昭和三二年九月一九日第一小法廷判
決、民集一一巻九号一六〇八頁、同庁昭和四二年九月一九日第三小法廷判決、民集
二一巻七号一八二八頁参照)。
二、本件各再更正の取消しを求める訴えについて
控訴人らが生計を一にする夫婦であり、昭和四八年における控訴人Aの所得は事業
所得と長期譲渡所得とであつて資産所得がなく、控訴人Bの所得は株式の配当所得
のみであり、その株式が同控訴人の亡父から相続したものであること、控訴人らが
右年分の所得税につきそれぞれその主張のごとき確定申告をしたところ、被控訴人
が控訴人Bの配当所得たる資産所得を主たる所得者と認める控訴人Aの総所得金額
に合算して税額を算出し、本件各再更正を行なつたことは、いずれも、当事者間に
争いがない。
控訴人らは、右各再更正の適法性を争うので、以下、その適否について判断する。
(一) 資産所得合算課税の合憲性
控訴人らは、まず、所得税法九六条ないし一〇一条の規定する資産所得合算課税が
憲法一三条(個人の尊重)、一四条(法の下の平等)、二九条(財産権の保障)、
一二〇条及び八四条(租税法律主義)に違反すると主張する。
所得税法九六条ないし一〇一条の規定する資産所得合算課税は、一定範囲の親族
(生計を一にする親族のうち「夫と妻」、「父又は母とその子」、「祖父又は祖母
とその子」《但し、子及び孫については、配偶者又は子を有する者並びに資産所得
以外の所得の合計額が一〇万円を超える者を除く。》)のうちに、所定の額を超え
る利子所得、配当所得及び不動産所得たる「資産所得」を有する者がいる場合、そ
の親族(「合算対象世帯員」)の資産所得を「主たる所得者」(総所得金額から資
産所得の金額を控除した金額が最も大きい者、総所得金額から資産所得の金額を控
除した金額のある者がいないときは、資産所得の金額が最も大きい者)の所得とみ
なして主たる所得者の総所得金額に合算し、その合算された所得金額に累進税率を
適用して税額を算出し、それを主たる所得者の総所得金額と合算対象世帯員の資産
所得金額の割合に応じて按分し、そのそれぞれの税額をもつて主たる所得者及び合
算対象世帯員各人の税額(但し、合算対象世帯員については資産所得以外の所得に
つき別に計算した税額が合算される。
)とする制度である。この制度が、資産所得の恣意的な分散による租税負担の軽減
を防止する機能を果たしていることは確かである。しかし、単にそれのみに尽きる
ものではない。若し控訴人らのいうごとく、この制度がいわゆる租税回避行為(そ
の概念の確定は、しばらくおくこととする。)を封ずることのみを目的として設け
られたものであるとすれば、租税回避行為は、資産所得についてだけ、しかも右の
ごとき範囲の親族間においてのみみられるわけではないから、合算対象所得の種類
を単に資産所得のみに限定する必要はなく、また、合算対象世帯員の範囲を右のご
とき一定の親族のみに限る必要もなく、広く、資産所得以外の所得についても、ま
た、右の範囲の親族以外の者の間においても、合算課税を認めて然るべきであろ
う。しかるに、法がかかる挙に出なかつたことからしてみても明らかなように、こ
の制度の本来の目的は、被控訴人も主張するごとく、むしろ、資産所得の特質に鑑
み、租税負担の公平を期することにあるものというべきである。
およそ、租税が担税力に応じて公平に負担されなければならないことは、「租税正
義」の要請として、ひとしく国民の希求するところであり、また、それが税制の基
本理念であることは、多言を要しないところである。そして、担税力、すなわち、
国民の租税支払能力の測定は、窮極的には、課税単位の決定というすぐれて税法的
な問題の解決の仕方いかんによつて左右されるものであつて、憲法の基本原理たる
個人の尊重や法の下の平等の原則から当然に導き出されるものではない。現在の所
得税法が課税単位につき個人単位主義を建前としているのは、それが夫婦別産制等
現行私法秩序に適応しているとはいえ、もともと、所得税の課税標準たる所得が各
個人によつて稼得され、かつ、それが稼得した本人に帰属し、消費されるという事
実に徴し、担税力を個人単位に把握することが、租税公平負担の要請にそうことと
なるからである。また、一方、現在の所得税法といえども、完全な個人単位主義を
採用しているわけではなく、家族従業員への対価の必要経費不算入を規定したり
(五六条)、配偶者や扶養親族について所得控除を認めている(八三条、八四条)
のも、担税力は個人を弧立したものとして測定すべきではなく、個人が世帯で生活
を営んでいる事実を直視し、消費単位としての世帯ごとの経済状態を担税力の上に
反映させるべきであるという考え方に基づいているのである。
ところで、前叙のごとく、所得を稼得する個人を課税単位としてとらえ、その所得
に対して累進税率を適用する制度の下では、資産所得については、(1)同一金額
の所得のある夫婦世帯であつても、夫のみがその所得を有する場合と、夫と妻がそ
れぞれその所得の一部ずつを有する場合とでは、後者の方の税額が前者の方のそれ
に比らべて相当低額となるが、かかる結果は、資産所得にあつては、給与所得にお
けるごとき所得を得るための経費等担税力の減退を来たすべき事由がないのである
から、租税公平負担の見地からみて、不合理であるというべきである。(2)ま
た、資産所得が特定の資産から生ずる所得であるところから、生計を一にする世帯
員に資産を分割することによつてその分散を図り、租税負担の軽減を図ることが容
易である。この場合、不当に租税の負担を回避するため単に資産の名義だけを恣意
的に変更したようなものに対しては、実質課税の原則を活用することによつて租税
負担の公平を期することができるとしても、真実許された方法で名実ともに資産を
分割して租税負担の軽減(いわゆる節税)を図ることは、法律上可能である。これ
に対し、給与所得や退職所得のごとき勤労所得にあつては、それが勤労という個人
の労働から生ずる所得であるが故に分散できないため、両者の間に租税負担の不公
平を招来することとなる。そして、このことは、親族間における資産の取引が相互
の対抗意識や権利意識が稀薄で、法的形式等も不明確な事情の下に行なわれる事実
に鑑み、しかも、毎年回帰的に、かつ、短期間内に大量の処分を限られた陣容で処
理しなければならない税務行政の実状に照らせば、前叙のごとき資産の分割が単な
る名義上にとどまるものであつても、個々の事案につき具体的にこれを認定するこ
とが不可能に近いことに思いを致せば、極めて深刻な問題であり、租税公平負担の
見地からみて到底看過し得たいところである。(3)そればかりでなく、資産の分
割が単なる名義だけにとどまるときはもとよりのこと、たとえ名実ともに行なわれ
たり、また、本件におけるごとく、当初より世帯員が自己の固有財産として当該資
産を取得したときであつても、生計を一にする前記範囲の親族の間においては、そ
の緊密な経済的協力関係から、少なくとも資産所得に関する限り、世帯主が世帯員
のそれを管理・処分したり、一旦緩急ある場合には世帯員が自ら自発的に共同生活
のために提供するのが、わが国における一般の実情である。こうした理由から、所
得税法は、資産所得に限り、例外的措置として、世帯を課税単位としてとらえる合
算課税の制度を採用するに至つたのである。
そして、ここに合算対象世帯員の資産所得を主たる所得者の所得とみなすといつて
も、決して、当該資産所得が世帯員に帰属していることを否定したり、主たる所得
者の所得に帰属せしめるのではなく、あくまでも、税額の計算上そのように取り扱
うにすぎないのであり、このことは、当資産所得が合算対象世帯員の稼得した所得
として申告され、かつ、当該資産に対応する税額が合算対象世帯員の負担すべき税
額として納付されることからみても明らかである。
以上を要するに、所得税法といえども憲法の明文はもとよりその基本原則にも違反
してはならないこと論をまたないところであるが、課税単位の問題については、憲
法は、何ら触れるところがなく、所得の概念とともに、所得税制の基本的課題とし
て、専ら、法律の定めたところに委ねているのであるから、現行の所得税法が個人
単位主義以外の課税単位制を採用したからといつて、それが直接憲法の規定に違反
しないのはもとより、憲法の基本原理たる個人の尊重や法の下の平等の原則に違背
するものではなく、また、資産合算課税は、租税負担の公平を期するという公共の
福祉のために設けられた合理的な制度であるから、被合算者がこの制度により合算
されない場合に比べて多額の税額を負担することになるということだけで、直ち
に、それが財産権の不当な侵害であるとか、法の下の平等に違反するものとはなし
得ず、まして、租税法律主義の精神に違背するものともいえない。なお、資産所得
合算課税の制度がたとえ控訴人らのいうごとく婚姻生活に対する国家の妨害的措置
であるとしても、ドイツ連邦共和国の基本法のような婚姻と家庭を国家の妨害的措
置から保護する特別の規定の設けられていないわが国の憲法の下においては、右の
ことが憲法に違反するものとはなし得ない。
それ故、控訴人らの違憲の主張は、その前提を欠くか又は独自の見解に立脚するも
のであつて、すべて、理由がない。
(二) 本件資産所得の特質と合算課税制度の適用
次に、控訴人らは、仮りに資産所得合算課税が違憲でないとしても、本件資産所得
は、控訴人Bが相続によつて取得した株式から生じた配当所得であり、木来資産の
分割とは無縁のものであつて租税回避行為の介在する余地のないものであるから、
合算課税の対象とはなり得ないと主張する。
しかし、控訴人らの右の主張は、資産所得合算課税の制度が租税回避行為の存在す
る場合にのみ適用されるべきであることを前提とするものであるが、すでにその前
提そのものにおいて失当であること、前段の説示によつて自ら明らかである。
(三) 所得税法九六条の解釈の適法性
さらに、控訴人らは、以上の主張にしてすべて理由がないとしても、控訴人Aは所
得税法九六条三号にいう主たる所得者に該当せず、したがつて、控訴人Bもまた同
条四号の合算対象世帯員に該当しないと主張する。
しかし、所得税法九六条三号にいう「主たる所得者」とは、被控訴人のいうごと
く、同法二二条二項の規定するとおり各種所得金額の合計額の意味であつて、その
中に必らず資産所得金額が含まれていなければならないというわけのものではな
く、それが含まれていない場合に主たる所得者を決定するに当り総所得金額から控
除すべき資産所得金額は、零として計算すれば足りるのである。
それ故、控訴人らの右の主張もまた、採用の限りでない。
以上の次第で、本件各再更正には控訴人ら主張のごとき違法はなく、したがつてま
た、本件各再更正を前提とする本件各決定にも違法はない。
三、結論
よつて、本件訴えのうち、本件各更正の取消しを求める訴えは、いずれも不適法で
あるのでこれを却下し、その余の請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却すべ
く、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので棄却す
ることとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八
九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 渡辺忠之 柳沢千昭)

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