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判決 平成13年12月3日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第859号賃金支
払等請求事件
            主         文
 1 被告は,原告Aに対し,626万5247円並びに内金437万6934円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
188万8313円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,686万4279円並びに内金482万4076円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員
  及び内金204万0203円に対する平成13年5月17日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は,原告Cに対し,717万9693円並びに内金502万2300円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
215万7393円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 4 被告は,原告Dに対し,834万7646円並びに内金587万3791円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
247万3855円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 6 訴訟費用は,原告らと被告のそれぞれに生じた費用の各10分の1を原告ら
の負担とし,その余は被告の負担とする。
 7 この判決は,第1ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
            事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 被告は,原告Aに対し,709万5247円並びに内金520万6934円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
188万8313円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,764万4289円並びに内金560万4086円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
204万0203円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 3 被告は,原告Cに対し,792万9693円並びに内金577万2300円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
215万7393円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 4 被告は,原告Dに対し,898万7646円並びに内金651万3791円
に対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金
247万3855円に対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の従業員である原告らが配車差別によって賃金が減少するなど
の損害を被ったとして,不法行為に基づき,損害賠償を求める事案である。
 1 争いのない事実
(1)当事者
ア 原告ら
原告らは,いずれも被告に勤務する運転手であり,かつ,G労働組合兵庫
合同支部H分会の組合員である。
イ 被告
被告は,海上コンテナー・トレーラーによる一般区域貨物運送事業を営
む有限会社であり,肩書地に本社事務所及び営業所を置いている。
(2)労働組合の結成
被告においては,平成3年6月,海上コンテナー・トレーラー運転手らが
J(後に「G」に改称)兵庫支部(以下「組合」という。)に加入し,同H分会(以下
「分会」という。)を結成した。
分会結成後の労使関係は,比較的円滑に推移していたが,阪神・淡路大震
災後,被告の経営悪化を理由とする事業所閉鎖問題を契機として,労使関係は悪化
していった。
かかる状況下で,平成7年7月,被告の海上コンテナー・トレーラー運転
手16名全員が組合に加入した。
(3)出資持分の譲渡
訴外I株式会社(以下「I」という。)は,被告の出資持分のすべてを保有
していたが,平成8年5月,これを訴外Eに譲渡した。
(4)その後の被告と組合の関係
被告においては,平成8年度の賃上げ及び年末一時金に関する団体交渉が
妥結しなかったため,組合は,兵庫県地方労働委員会に対し,平成9年2月3日,
団体交渉の斡旋申請を行った。
被告は,組合に対し,平成9年2月25日,労働協約の一部破棄通告(甲
21)を行った。
被告と組合は,同年7月9日,団体交渉を開催したが,実質的な交渉はさ
れなかった。
(5)賃金の引下げ
被告は,平成9年8月12日,①基本給月額を14万円削減する,②歩合
給を設定し,水揚高の10パーセントとするなどの賃金規定,就業規則の変更を行
った。
(6)ストライキ
その後,被告と組合は,団体交渉を続けたが,組合は,平成9年12月2
2日,ストライキを行った(以下「本件ストライキ」という。)。原告Dは,被告
代表者Fに対し,本件ストライキの直前である同日午前3時30分ころ,本件スト
ライキの実施を通知した。
(7)配車の格差
被告は,平成10年ころから,分会員に対し,早出の配車をしなくなるな
どし,分会員と非組合員との間の配車に格差が生じるようになった。
(8)分会員の脱退
分会員は,平成10年1月から同年2月にかけて,合計9名が組合を脱退
し,残る分会員は,原告ら4名となった。
 2 主要な争点
分会員である原告らと非組合員との間の配車,賃金の格差は,合理的理由の
ない差別であるか否か。
 3 当事者の主張
(1)原告らの主張
ア 配車差別
前記争いのない事実(5)の賃金規定の改定により,賃金額は水揚高に大き
く左右されることになったが,被告は,平成10年に入ると,水揚単価の大きい
中・長距離運行や早出残業などはもっぱら非組合員に対して命じ,分会員に対して
は,待機を命じたり,近距離運行を命ずるようになったし,運賃の高い荷主の業務
に就かせなかった。
例えば,同年3月から5月の間は,残業手当の金額や水揚高に大きく影
響する早出,中・長距離勤務及び現代商船の40フィート実車の配車は,分会員に
対しては一切行われていない(甲39の1ないし3)。
その結果,分会員と非組合員との間で,水揚高には大きな格差が生じて
いる。すなわち,同年4月分の水揚高(甲40)を比較すると,非組合員の平均は
164万8735円であるのに対し,分会員の平均は66万2550円と約40パ
ーセントにしかならないのである。
このように,同年1月以降,被告が分会員に対して配車差別を行うよう
になったことは明白である。
そして,同年2月12日に組合を脱退した6名の脱退前(同年2月分)
と脱退後(同年3月分)の賃金支給総額を比較すると,その差は歴然としている。
すなわち,組合を脱退すれば,直ちに配車差別を解除して賃金を増額せしめている
ことからすると,組合員であることを理由に露骨に差別的取扱いをしていることは
明らかである。
イ 損害
(ア) 賃金差額
平成10年3月以降の非組合員の賃金支給総額は,ほぼ一律に40万
2300円となっている(甲6)。これに対し,同月分の分会員4名の賃金支給総
額の平均は23万4835円であり,非組合員の60パーセント弱でしかない。同
年4月以降も一貫して同じ傾向は続いている。
原告らは,このようにして,別表1,2記載のとおり(ただし,原告
Bは,平成10年10月分の賃金支給総額が26万2457円,賃金差額が13万
9843円である旨主張するが,これらは,それぞれ26万2467円,13万9
833円の誤記と認める。),非組合員と比較して,不当な賃金差別を受けている
(甲6,44ないし47の各1ないし12,甲96ないし99の各1ないし1
3)。
なお,被告における賃金計算期間は前月16日から当月15日,賃金
支払日は当月25日である。そして,原告らが本件において請求の対象としている
のは,平成10年3月分の賃金計算期間の始期である同年2月16日以後の被告の
配車差別による損害((イ)の慰謝料を含む。)である。
(イ) 慰謝料
(ア)のような露骨な差別は,原告らだけでなく,その家族の生活を危
機に陥れるもので,原告らは,差別賃金の回復だけでは到底償えない甚大な精神的
苦痛を被っている。
その慰謝料は,100万円が相当である(ただし,これは,平成12
年3月15日までの被告の配車差別によるものである。)。
(ウ) 弁護士費用
原告らは,本訴提起に際して,原告ら訴訟代理人らに対し,本件訴訟
追行の報酬として,日弁連報酬基準に基づき,各自90万円を支払うことを約し
た。
ウ 被告の主張に対する反論
(ア) 抜打ちストライキ実施の可能性がないこと
a 本件ストライキの正当性
本件ストライキは,組合や分会の要求する内容の団体交渉を拒否
し,ひたすら自己の賃金・労働条件改定のみを議題とする団体交渉を押し付けよう
とし,あげくの果てには,一方的に賃金・労働条件改定を強行するなど被告の不誠
実な態度に起因する深刻な労使対立と分会員らの経済的困窮状態を考えれば,組合
と分会にとってやむにやまれぬギリギリの選択であった。
しかも,組合及び被告との間には争議手続を定める協定は締結され
ておらず,本件ストライキ当日は,1,2名が午前3時半ないし4時の早出勤務が
決まっていただけの勤務態勢であり,会社全体にそれほど大きな影響を与えない状
況であったこと(甲92)からすれば,午前3時半にストライキ通告をして,その
直後にストライキを実行したとしても,特に問題があるやり方ではない。むしろ,
被告のそれまでの組合敵視・否認の強い姿勢と比較すれば,まさにやむを得ない方
法であったというべきである。
そして,被告も,原告ら分会員が被告による組合潰しを目的とする
一連の組合敵視・否認の攻撃にどこまで耐えられるかを試していたものであり,原
告ら分会員が本件のようなストライキを行うことは十分予見・認識していたわけで
あるから,その意味では,本件ストライキは,本来の意味の抜打ちストライキとは
いえないものであった。
b 本件ストライキ後の売上げの減少の原因
平成10年1月,同年2月こそ,確かに平成9年12月より売上げ
が減少しているものの,原告らに対する配車差別を実施し始めた平成10年2月1
6日以降の売上げの指標といえる同年3月から5月の間は,逆に本件ストライキ前
の平成9年11月分,同年12月分すら上回っており,さらに,平成10年6月
分,同年7月分は反対に同年1月,同年2月並みに減少していること(乙13)か
らみて,被告の売上げの減少が本件ストライキと関係があるなどとは到底断定でき
ないものであることは明らかである。
むしろ,同年1月,同年2月の売上げの減少は,原告ら分会員に早
出・残業の配車をしない差別をするための業務・受注調整であるとみるのが至当で
ある。だからこそ,被告による組合員の脱退工作が効を奏して次々と脱退者(非組
合員)が増えるに従って,売上げも再び増加を始めたものである(甲38)。
実際に,被告への発注の大半はIを経由するものであり,被告が発注
が激減したと主張する現代商船,ケイヒンコンテナー,トレーディアなどの特定企
業については,まさに実質的にはIが荷受元ともいえるのであり,容易に被告への発
注量を調整できる関係にあったものということができるのである。
c 被告の対抗措置の違法性
ストライキ中もしくはストライキ直後の混乱を収拾するための使用
者の対抗行為は,いわゆるロックアウトとして正当化される場合もあるが,それが
例外的に許されるのは,当該ストライキが収束しても,続いて第2波,第3波の違
法なストライキが予定されている場合やその現実的・具体的おそれがある場合に限
られるのであり,使用者側からの予防的・先制的なそれは許されない違法なもので
ある。まして,本件のようにストライキから2か月近くも経過し,しかも被告の戦
術が奏功して分会が著しく弱体化し,もはや被告にダメージを与える有効な争議行
為を行うことができなくなってしまったことは明らかであるにもかかわらず,その
後も企業防衛と称して対抗行為を取り続けることは,到底許されない。
分会員が少数になっても,他の組合員を動員するから,事態は変わ
らず,被告のいう抜打ちストライキのおそれは具体的に存在するというのが事実な
ら,被告の主張によれば,そのおそれがある限り被告と取引をしている発注元が警
戒してそこからの注文や売上げはいつまでも減り続けなければならないはずである
のに,現実には全くそうはなっていないのである(乙26)。
(イ) 36協定の締結を拒否した事実がないこと
原告ら分会員は,被告との間の36協定の締結を拒否した事実は全く
なく,むしろ従前からの36協定の継続を求めてきたのである。本件における労使
紛争は,被告による一方的な賃金改定(賃金引下げ)及び変形労働時間制とその強
行に原告らが反対していたにすぎず,原告らは36協定の締結そのものには全く反
対していない(変形労働時間制には当然には36協定は含まれない。)。現に被告
は,この賃金改定後も,また,本件ストライキ後の平成10年1月6日までは,原
告ら分会員に対しても早出・残業の配車をしており,原告らもこれに異議なく応じ
てきていたのである。
したがって,被告による原告らに対する配車差別が36協定の存否な
どと全く関係ないことは明白である。
なお,被告は,前記賃金規定の改定を踏まえて,原告ら分会員を含む
当時の全従業員についての36協定締結を前提とする時間外労働・休日労働に関す
る協定届(平成9年8月9日から1年間)を神戸東労働基準監督署に提出する準備
をしていた(甲95)。
また,原告らが時間外労働を拒否した事実はない。原告らは,本件の
配車差別開始後,早出・残業を被告から命じられていないのである。
(ウ) 兼用シャーシの牽引を拒否したことがないこと
組合は,被告に対し,平成9年8月14日,違法シャーシを使用しな
いように要求したが(甲70),原告らが現に発生する配車を拒否したことはな
く,また,他の当時の分会員も一度も拒否したことはない(甲94,原告D本
人)。
(2)被告の主張
ア 抜打ちストライキ実施の可能性
(ア) 本件ストライキの違法性
まず,本件ストライキの前には,何らの団体交渉も行われておらず,
争議権行使の前提要件を欠いている。
また,本件ストライキは,その予告がなかったことはもちろん,当日
の午前3時すぎに分会書記長である原告DからFの携帯電話にストライキの通知が
あったもので,ストライキの回避措置を講ずる暇もないものであったから,信義則
に反する。
そして,組合は,朝一着で得意先へ届けるべき貨物(宵積み貨物)が
存することを知って,あえて夜中にストライキの通知を行ったものであり,被告に
打撃を与えることを目的とするものであったことは明らかである。
したがって,本件ストライキは,信義則に反する違法性の高いものと
いわざるを得ない。
(イ) 本件ストライキ後の売上げの減少
被告においては,本件ストライキにより,荷主からの発注が減少し
た。とくに,本件ストライキにより宵積み貨物を出せなかった現代商船,ケイヒン
コンテナー,トレーディアからは発注が激減し,重大な経営危機となった(乙2
6)。
原告らは,被告への発注の大半はIを経由するものであり,容易に被告
への発注量を調整できるなどと主張するが,被告は,独自に営業活動を行って荷主
から受注するのであり,発注量の調整などできるものではない。
(ウ) 被告の対抗措置の正当性
本件において,組合は,本件ストライキ後も前記(ア)のような抜打ち
ストライキを実施しないとは言っておらず,今後も被告に打撃を与えることのみを
目的とする抜打ちストライキを実施する可能性は高い。
抜打ちストライキが実施されると,宵積み貨物について,代替の傭車
の手配が困難となり,以後,荷主より発注を打ち切られるおそれが高くなる。
したがって,被告としては,企業としての存続自体を危機に陥れる危
険性が高い宵積み貨物が運行されない事態を回避するために,分会員には宵積み貨
物を対象とする早出を命ぜられない状況にある。
仮に分会が少数であっても,ストライキの指令権を有する支部から組
合員を動員してピケットなどを張り,会社の全体を対象として業務を妨害すること
になり,分会が少数となっても,事態は変わらない。
イ 36協定締結の拒否
被告は,平成9年8月16日より賃金規定を改定し,新賃金体系を制定
した(甲4)。
この改定により,往復300キロメートル以上の「朝着指定運行」(深
夜に出発して朝目的地に到着する便)についての時間外,深夜の労働手当に対する
特則(実時間外労働時間,実深夜労働時間にかかわらず,目的地ごとに時間外労
働,深夜労働に対する一定額の各手当を支給する特則,旧賃金規定(甲2)第4
条(5)(6))を廃止し,実労働時間に基づいて時間外手当,深夜労働手当を支払うこ
とになった(新賃金規定(甲4)第4条(3)(4))。
ところが,組合は,かかる合理的な賃金規定の改定を拒否し,従前の時
間外,深夜労働に関する規定に基づく各手当の支払を要求した。
被告は,組合に対し,同年12月18日の団体交渉において,新賃金規
定に従って就労するよう求めた(乙12,第1項「中・長距離のやりじまいは廃止
し通常通り運行する。」)。
ところが,組合は,これを拒否し,36協定の締結を拒否した(乙2
2)。
したがって,本件において,被告が原告らに残業を命じないことは違法
ではない。
ウ 兼用シャーシの牽引拒否
原告らは,現代商船の便については,兼用シャーシ(20フィート,4
0フィート両サイズ対応)は違法シャーシだとして,これを牽引することを拒否し
ているので,現代商船の便については,配車を命ぜられない状況にある。
第3 当裁判所の判断
 1 分会員である原告らと非組合員との間の配車,賃金の格差は,合理的理由の
ない差別であるか否かについて
(1)配車,賃金の格差
前記争いのない事実によれば,平成10年ころから,分会員と非組合員と
の間の配車に格差が生じるようになったというのであるところ,証拠(甲39の1
ないし3,甲40,証人E,原告D本人)及び弁論の全趣旨によれば,その格差
は,分会員に対して早出の配車をしないことのみならず,中長距離の配車や運賃収
入の良い現代商船の便の40フィートコンテナの実車の配車をしないことなどにも
及んでいることが認められる。
また,証拠(甲6,44ないし47の各1ないし12,甲96ないし99
の各1ないし13,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,同年3月以降,非組合員
の賃金支給総額はほぼ一律に月額40万2300円であるのに対し,分会員である
原告らのそれは,別表1,2の支給総額欄記載のとおりであって,おおむね月額2
0万円台で推移していることが認められる。
そして,前記争いのない事実(5)によると,被告における賃金算定には歩合
給が導入されていることからすると,前記賃金の格差は,前記配車の格差によるも
のと認められる。
そうすると,前記賃金の格差をもたらした前記配車の格差が合理的理由の
ない差別であるとすれば,被告に故意又は過失が認められる限り,違法な配車差別
として不法行為を構成するものというべきであるから,前記配車の格差に合理的理
由があるか否かを検討する。
(2)抜打ちストライキ実施の可能性
ア 被告は,本件において,組合は,本件ストライキ後も抜打ちストライキ
を実施しないとは言っておらず,今後も被告に打撃を与えることのみを目的とする
抜打ちストライキを実施する可能性は高いから,抜打ちストライキにより宵積み貨
物が運行されない事態を回避するために,分会員には宵積み貨物を対象とする早出
を命ぜられない状況にあると主張する。
前記争いのない事実によれば,本件ストライキは,その直前である当日
の午前3時30分ころ,その実施が通知されたというのであるところ,証拠(乙1
3,23,25,26,40,41,48,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,
本件ストライキにより出発予定の車(午前8時以前の早出の車は6台であり,午前
8時に出る予定の車もあった。)が出発することができず,運送の日にちを変更し
てもらったり,同業他社の車を傭車して貨物を運送したりしたが,傭車できなかっ
た分の仕事は断らざるを得なかったこと(本件ストライキの通知がその直前であっ
たため,被告は,あらかじめ代替措置を講ずることができなかった。),その結
果,被告の得意先である現代商船,ケイヒンコンテナー,トレーディア等の荷主か
らの発注が減少し,平成10年1月と同年2月の売上げが対前年度同月比で約80
0万円ないし約850万円,平成9年12月と比較しても約500万円ないし約7
00万円程度減少したことが認められる(原告は,前記売上げの減少は,原告ら分
会員に早出・残業の配車をしない差別をするための業務・受注調整であると主張す
るが,企業が組合員に対して配車差別をするためにあえて大幅に売上げ
を減少させるというのは,およそ考え難い事態であるといわざるを得ない。)。
そうすると,本件ストライキは,被告における事業運営を混乱させ,被
告に少なからず損害をもたらしたものというべきであり,組合が本件ストライキの
直前ではなく,相当な時間的間隔をおいてその実施を予告していれば,被告があら
かじめ代替措置を講ずることにより前記の混乱や損害発生を回避することができた
と考えられるから,本件ストライキは,その直前までその実施を通知しなかった点
において,信義則に反し,違法である疑いがある(被告が不誠実な態度を取ったか
らといって,ストライキの実施を予告しなくてよいとはいえない。)。そして,こ
れと同様の態様でストライキが再び実施されるおそれが明白であれば,それによる
混乱を回避するための対抗措置として,早出の配車を命じないことが正当化される
余地があるものというべきである。
しかしながら,本件審判の対象は平成10年2月16日以降の違法な配
車差別の存否であるところ,同日の時点で本件ストライキが行われた日からすでに
2か月弱が経過していたこと,前記争いのない事実及び証拠(甲38)並びに弁論
の全趣旨によれば,本件ストライキが行われた日から同月12日までに合計9名の
分会員が組合を脱退し,残る分会員が原告ら4名となって,分会が弱体化していた
と認められること(支部から組合員を動員する可能性は抽象的なものにすぎな
い。)からすると,同月16日の時点においては,組合が抜打ちストライキを実施
しないとは言っていなかったという一事をもって,本件ストライキと同様の態様で
ストライキが再び実施されるおそれが明白であったと認めるのは困難である。した
がって,本件において,被告が原告らに対し,同日以降,早出の配車を命じなかっ
たことを正当化することはできない。
以上によれば,抜打ちストライキ実施の可能性は,早出の配車をしない
ことの合理的理由とはなり得ないものというべきである。
(3)36協定締結の拒否
ア 被告は,組合に対し,平成9年12月18日の団体交渉において,新賃
金規定(甲4)に従って就労するよう求めた(乙12)が,組合は,これを拒否
し,36協定の締結を拒否した(乙22)から,被告が原告らに残業を命じないこ
とは違法ではないと主張する。
イ しかし,被告が問題とする36協定は,組合と被告間のものであって,
それが当然個々の労働者である原告らの時間外労働意思と一致するとはいえないか
ら,36協定の締結が組合に拒否されたとしても,所属組合員である個々の労働者
の時間外労働拒否の意思が明確であるとか,残業命令を出すことが事実上不可能で
あるといった事情のない限り,36協定締結の拒否を理由に残業命令を出さないこ
とは違法と解される。
現に,平成9年8月からの36協定が締結されていない時期も,被告従
業員は等しく残業に従事しており,組合員も36協定の不存在を理由に時間外労働
を拒否したことはなかったこと(原告D本人),証人E自身,36協定がなくと
も,会社としては残業をやってほしいときもあると証言し,36協定の有無にかか
わらず残業命令を出している被告の実態を認めていること,平成10年8月1日,
被告と過半数従業員代表者Gとの間で36協定が締結され(甲48,弁論の全趣
旨),この協定が組合員を含む全従業員に適用され,被告が原告らに対し残業命令
を出す法的基盤が整ったことからすると,組合が被告の提案した条件を踏まえた3
6協定の締結を拒んだことによって,その所属組合員である原告らの時間外労働拒
否の意思が明確であるとか,原告らに残業命令を出すことが事実上不可能であると
かはいえず,36協定締結の拒否を理由に被告が原告らに残業を命じないことは違
法であるから,被告の主張は理由がない。
ウ もっとも,証拠(乙42,43,44ないし46の各1,2,乙48,
52,証人E,原告D本人)によれば,原告Aは,平成12年7月から平成13年
1月にかけて,混んでいるため午後4時までに帰れなくなるという理由で4回仕事
を途中で断ったことがあったこと,原告Cは,平成12年7月19日,混んでいる
ため午後4時30分までに帰れなくなるという理由で仕事を途中で断ったことが認
められるけれども,原告らに対しては時間外の配車はほとんどなく,午後4時以前
に帰るような配車の指示がほとんどであったこと(原告D本人)からすると,上記
のような平成12年7月以降の断片的な残業拒否の事実のみでは,原告らが平成1
0年2月16日以降,残業の指示を一切拒否するという態度を取っていたとまで認
めることはできない。
したがって,被告が分会員に対して残業を命じない真の理由が残業の拒
否にあるものかは疑わしいものというべきである。
エ 以上によれば,36協定締結の拒否,36協定の不存在,残業の拒否
は,いずれも残業を命じないことの合理的理由とはなり得ないものというべきであ
る。
(4)兼用シャーシの牽引拒否
被告は,原告らは,現代商船の便については,兼用シャーシ(20フィー
ト,40フィート両サイズ対応)は違法シャーシだとして,これを牽引することを
拒否しているので,現代商船の便については,配車を命ぜられない状況にあると主
張する。
しかしながら,証拠(甲70)によれば,分会が被告に対し,平成9年8
月14日,違法シャーシを使用しないように申し入れたことが認められるものの,
そのことによって,当然原告らがその乗車を拒否した事実や組合が組織的にその乗
車を拒否した事実は推認できず,かえって,分会が分会員に対して兼用シャーシの
牽引を拒否するように指示したことはなく,分会員は違法シャーシだからといって
配車の指示に対して兼用シャーシを牽引することを拒否したことはないこと(原告
D本人),分会員が兼用シャーシを牽引していたこと(甲94)が認められること
からすると,原告らが兼用シャーシを牽引することを拒否しているという被告の主
張は理由がない。
したがって,兼用シャーシの牽引拒否は,現代商船の便について配車を命
じないことの合理的理由とはなり得ないものというべきである。
(5)結論
以上によれば,前記配車の格差は,その合理的理由を見出すことができな
いから,違法な配車差別であり,これにより,前記賃金の格差をもたらしたものと
認められる。
そして,被告が分会員である原告らに対して非組合員と同様に配車の指示
をしていないことを認識していることは明らかである上,証人Eが前記賃金の格差
の理由は平成10年2月から非組合員と原告ら分会員との間で賃金体系が異なるこ
とにある旨証言していることを併せ考えると,被告は,故意に前記の違法な配車差
別をすることによって,前記賃金の格差をもたらしたことが認められる。
したがって,前記の違法な配車差別は,不法行為を構成するものというべ
きである。
2 損害について
(1)賃金差額
前記のとおり,前記賃金の格差は前記の違法な配車差別によるものである
と認められるところ,原告らは,前記の違法な配車差別がなければ,ほとんどの非
組合員と同様に,平成10年3月分から平成13年4月分まで月額40万2300
円の割合による賃金(合計1528万7400円)の支払を受けることができたも
のというべきであるから,前記の違法な配車差別と相当因果関係のある原告らの損
害は,前示賃金と別表1,2の各支給総額欄記載の金額の合計額との差額(原告A
が合計519万5247円,原告Bが合計574万4279円,原告Cが合計60
2万9693円,原告Dが合計708万7646円である。)であると認めるのが
相当である。
この点,被告は,前記賃金の格差の原因として,原告らが始業,終業時の
点検に各30分をかけ,実労働時間が非組合員より1時間少ないことを挙げるが,
車の安全な運行のためには始業,終業時の点検が必要不可欠であって,これに必要
な相当時間を要すること,被告が組合と分会に対し,始業,終業時の点検時間を各
10分間に短縮するように申し入れたこと(甲25,乙9)からすると,非組合員
も始業,終業時の点検には,これに必要な相当時間をかけていることを推認するこ
とができるから,原告らの実労働時間が非組合員より1時間も少ないとはいえな
い。また,始業,終業時の点検等の時間は各10分間で足りるとしても(10分間
が点検等に必要かつ相当な時間であるかについてはともかく),これを超えてさら
に各20分程度を要したからといって,このため,原告らの取得し得る賃金が当然
に減額され,前示月額40万2300万円を下回るとするのは相当でない。
(2)慰謝料
原告らは,平成12年3月15日までの前記の違法な配車差別により,別
表1記載のとおり賃金の格差が生じてその生活に支障を来したと推認することがで
き,また,非組合員と比べて不利益な取扱いを受けたことによる屈辱感を受けたこ
とも推認することができるから,原告らは,同日までの前記の違法な配車差別によ
り,精神的苦痛を被ったと認められる(なお,同月16日以降の違法な配車差別に
よる精神的苦痛は,本件審判の対象となっていない。)。
そして,原告らの精神的苦痛を慰謝するために要する金額は,前記の違法
な配車差別の態様,別表1記載の各賃金差額の程度,その他本件における一切の事
情を考慮すると,それぞれ50万円と認めるのが相当であり,これを前記の違法な
配車差別と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(3)弁護士費用
前記(1)(2)の各損害額及び本件訴訟の経過等に照らすと,本件訴訟の弁護
士費用は,原告Aが57万円,原告Bが62万円,原告Cが65万円,原告Dが7
6万円と認めるのが相当であり,これを前記の違法な配車差別と相当因果関係のあ
る損害と認めるのが相当である。
第4 結語
   よって,原告らの本訴請求は,前記第3,2(1)ないし(3)記載の各金額の合
計額の損害金の支払,平成10年3月分から平成12年3月分までの賃金差額,前
記第3,2(2)の慰謝料及び同(3)の弁護士費用に対する同月15日までの不法行為
が終了した後であり,かつ,訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同年
4月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに同年
4月分から平成13年4月分までの賃金差額に対する同月15日までの不法行為が
終了した後であり,かつ,訴変更(請求の拡張)申立書送達の日の翌日であること
が記録上明らかな同年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容することとし,原告
らのその余の請求は理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担に
つき民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法25
9条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
   神戸地方裁判所第六民事部
       裁 判 長 裁 判 官     松   村   雅   司
   裁 判 官水   野   有   子
   裁 判 官増   田   純   平

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