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裁判例


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         主    文
     控訴人等の本件控訴を棄却する。
     引受参加人Aは被控訴人に対し肩書地上家屋番号同町二二〇番、木造瓦
葺二階建居宅建坪九坪三〇、二階坪八坪一八を収去してその敷地を明渡すべし。
     控訴費用中A参加前の分は控訴人等の負担とし、参加後の分は引受参加
人Aと控訴人等の負担とする。
     被控訴人において引受参加人に対し金七萬円の担保を供するときは、本
判決は仮に執行することができる。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人の負担とする、旨の判決を求め、被控訴代理人は主文第一乃至第
三項同旨の判決並引受参加人に対し仮執行の宣言を求め、
 引受参加人訴訟代理人は被控訴人の請求を棄却するとの判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、
 被控訴代理人において、引受参加人青木は本訴繋属中なる昭和二九年八月末頃、
脱退した控訴人Bから原判決末尾目録第二の(二)記載の家屋を買受けたから同控
訴人に対する請求理由を援用しこれと同一の理由によつて右引受参加人に対し該家
屋を収去し敷地の明渡を求める、と述べ、なお本件土地は換地予定の指定当時は空
地であつたと補述し、控訴人及引受参加人等の抗弁事実を否認し、被控訴人は本件
土地に付昭和二五年一二月二〇日土地区劃整理施行者たる姫路市長に対し権利者変
更の届出をしているから此の点の控訴人等の主張は理由がなく、又換地予定地の指
定なる行政処分は土地に対する一の公用負担であつて、此の負担は指定後旧土地の
所有権に移動のあつた場合は当然所有権に随伴し、右負担の調節として認められた
予定地の使用収益権も亦何等特別の意思表示なくして随伴移動するものと解すべ
く、従つて本件土地について訴外Cから譲受けた被控訴人は所有権と同一内容の使
用収益権を取得し、その妨害排除として控訴人等に対し土地明渡を請求し得るもの
であると述べ、
 控訴人等及引受参加人代理人において、訴外Cと被控訴人間の本件従前の土地の
売買を否認する。訴外Cは右土地を被控訴人に対する債務の担保に提供し、その登
記に必要な書類を被控訴人に預けておいたところ、被控訴人は擅にこれを冒用して
売買に因る所有権移転登記を了したのである。仮りに売買契約を為したとしても、
当時右土地は一坪三〇〇〇円を下らなかつたもので、これを僅かに合計八四五九二
円五〇銭で売買するようなことは真意に出たものでないことは明らかで、相通じて
なした仮装の売買契約で無効である。
 次に被控訴人主張の換地処分は仮換地予定地の指定であつて換地予定地の指定そ
のものではなく、仮の処分であるから換地予定地の指定と同一の効力を生ずるもの
でない。仮りに換地予定地の指定であつたとしても、被控訴人は本件土地につい
て、その引受を受けて居ないし登記もしていないから本件土地について所有権又は
占有権に基く明渡請求権はなく、Cに対してなされた換地予定地の指定処分によつ
て同人が取得した使用収益権に基ずいて同人から本件土地を借受けた訴外Dの転借
人たる控訴人等に対抗できない筋合である。
 なお右指定当時本件土地が空地であつたとの被控訴人の主張は争う。更に姫路市
における昭和二一年一〇月一二日告示復興土地区劃整理施行規程第一九条によると
「本規程施行後土地建物若くは工作物に関する権利について異動を生じたときは当
事者双方連署して遅滞なく整理施行者にその旨を届出なければならない」旨を定め
ているが、被控訴人は本件従前の土地について以上の手続をなしていないから此の
点においても本件土地につき使用収益権を取得しない。加之換地予定地の指定によ
る効力は単に従前土地の所有者に予定地の使用収益権を取得せしめるだけで、所有
権と同一の処分権、物上請求権、妨害排除請求権を取得せしめるものでないから控
訴人等に対し本件土地の明渡を求める被控訴人の本訴請求は理由がない。
 仮に被控訴人に明渡請求権があるとしても、本訴繋属中事件が調停に付された
際、被控訴人は本件土地に代る宅地を提供すれば調停に応じる意向であつたので、
控訴人等は本件土地の東方に当り本件土地に勝るとも劣らない姫路市a町b番地の
宅地六四坪を代金一坪二五〇〇〇円で所有者から買入れこれを換地として提供した
に拘らず、被控訴人は何等の理由なくこれを拒否したため調停不調となつたもの
で、被控訴人の本訴請求は権利の濫用に外ならない。その他脱退前の控訴人Bの主
張を引受参加人において援用すると述べ、控訴人等及引受参加人所有の本件建物の
保存登記は昭和二五年一二月二〇日以降になされたと附陳した外、いずれも原判決
事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
 証拠として、被控訴代理人は甲第一号証の一、二同第二号証を提出し、原審にお
ける証人E、F、G、H、I、原告本人各訊問の結果を援用し、乙第五号証の成立
を認め、爾余の乙号各証は不知と述べ、控訴人及引受参加人等代理人は乙第一乃至
第五号証を提出し、原審における証人F、J、I、被告(取下前)本人D、当審に
おける証人D各訊問の結果を援用し、甲第一号の一、二は不知、同第二号証の成立
は認めると述べた。
         理    由
 姫路市c町d丁目e番地宅地一一二坪七九がもと訴外Cの所有であつたところ昭
和二五年一二月二十日附で被控訴人名義に所有権移転登記の為されていることは当
事者間に争のないところであつて、原審証人Eの証言と原告本人の供述、右E証人
の証言によつて成立の認め得る甲第一号証の一、を綜合すると、被控訴人は昭和二
一年一一月二九日右土地をEの仲介で前記Cから買受けた事実を認定するに十分で
ある。控訴人及引受参加人等(以下単に控訴人等と称する)は右土地は訴外Cが被
控訴人に対する債務の担保に提供したに過ぎないのを被控訴人に於いて檀に売買に
因る所有権移転登記を為したもので、そうでないにしても仮装の売買であると抗争
するが、此の点に関する原審及当審におけるDの供述は前記E証人の証言に徴する
と未だ心証を惹くに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
 ところで、右土地について前記売買の後なる昭和二二年九月一七日姫路市長は特
別都市計画事業復興区劃整理第一工区の換地予定地として、原判決末尾目録第一記
載の本件土地を指定し、訴外Cに対し同月二〇日その通知を為したことは成立に争
のない乙第一号証、甲第ニ号証、原審証人Iの証言と弁論の全趣旨に徴して明らか
であつて、控訴人等は右指定は仮換地予定地の指定であつて換地予定地の指定その
ものでないと主張し乙第五号証を立証に供するが、換地予定地の指定を仮換地と呼
ぶところから偶々乙第五号証に仮換地予定地の指定ある記載が為されて居るにすぎ
ないもので、右は換地予定地の指定の意味に外ならないことは、前記証人Iの証言
からも明らかなところであるから控訴人等の右主張は採るに足らない。
 次に訴外Cは昭和二五年九月一二日(即ち被控訴人の前記従前の土地に対する取
得登記以前)換地予定地たる本件土地を訴外Dに対し建物所有を目的として期間を
定めず賃貸し、Dは右地上に原判決末尾目録第二記載の(一)乃至(三)の建物を
建築し、(一)の建物はその後控訴人Kに、(三)の建物は引受参加人の前主B
に、(三)の建物は控訴人Mにそれぞれ譲渡せられ、又訴外Dは同目録(四)記載
の建物の敷地を控訴人Lの夫Jに、同人は更に控訴人Lに順次転貸し、同控訴人は
右地上に前記(四)の建物を建築し、現に控訴人Kは(一)の建物を、控訴人Mは
(三)の建物を、控訴人Lは(四)の建物を各所有し、いすれもその敷地を占有し
ていることは右控訴人等の認めるところであり、又引受参加人青木は(二)の建物
を本訴繋属中脱退前の控訴人Bから買受け現にその敷地を占有していることは同引
受参加人において明らかに争わないところである。
 被控訴人は前認定の換地予定地の指定により自己の登記以後は何人にも対抗し得
る本件土地の使用収益権を取得するに至つたと主張し、控訴人等はこれを争うの
で、本件の如く従前の土地が甲から乙へ譲渡せられ、まだその所有権移転登記がな
されない間に換地予定地の指定か登記簿上の所有名義人たる甲に通知せられ、その
後乙名義に移転登記の為された場合における換地予定地指定通知の効力について考
えるに換地予定地の指定は従前の土地所有者に対しこれを通知することを要し、右
通知を受けた従前の土地所有者は使用開始についての留保等特段の事情のない限り
原則として通知を受けた翌日から従前の土地に対する使用収益を為すことができ
ず、之に代つて換地予定地について従前の土地に対する所有権と同一内容の使用収
益権を取得するものであることは廃止前の特別都市計画法(昭和二一年法律第一九
号)第一三条第一四条に規定するところであるから、右の通知は土地の真実の所有
者に対して為すべきであつて、土地の所有権のない者に対して通知を為しても、通
知を受けた者が換地予定地の使用収益権を取得し得ないもので、仮令登記簿上の土
地所有者に対し通知がなされてもその者が真実所有権を有しない場合は、かかる通
知は瑕疵ある通知といわなければならない。然しながら土地区劃整理の施行者が数
多くの土地について一々その真実の所有関係を審査して通知をすることは殆んど不
可能に近いことであつて、登記簿上の所有名義人を一応真実の所有者と認めてこれ
に対して指定の通知を為す外はなく、右の通知はひつきょう真実の所有者に対して
通知をなす意思をもつてなされたものと認むべきであるのと、更に換地予定地の指
定は土地区劃整理の必要に勘案し、専ら土地の位置、形状、広状、地価等土地自体
の具有する諸条件に着目して甲地の換地として乙地を予定しこれを指定するもので
ある特質に鑑みると<要旨>きは、土地の所有権が既に他に譲渡せられながらまだそ
の移転登記が為されていない場合、登記簿上の所有名義人に対し換地予定地
の指定通知がなされたからといつて、右の処分を直ちに無効と解すべきでなく、土
地の譲受人が右の通知を了知しながらこれに異議なく、その後譲受人名義に所有権
移転登記がなされたときは爾後譲受人は換地予定地につき第三者に対抗し得る使用
収益権を取得するものと解するのが相当である。之を本件についてみるに前記証人
E、原審証人F、Gの証言と、右E証人の証言によつて真正に成立したものと認め
得る甲第一号証の二を綜合すると、被控訴人が本件従前の土地を訴外Cから買受け
る当時既に近々土地の換地予定地指定がなされることが判明していたので、被控訴
人は右土地の賃借人等が賃借権を抛棄し将来換地上に賃借権を主張しないならば之
を買受ける旨の条件を出した結果、売買仲介人たるEが該土地の賃借人等に交渉
し、換地上に賃借権を主張しない旨のC宛契約証書(甲第一号証の二)を差入れし
めた上これを買受け、その後訴外C宛に本件土地を換地予定地として指定通知のあ
つた後も被控訴人はこれに異議なくそのまま打過ぎていたところ、昭和二五年九月
頃訴外Dが本件土地に建築の基礎工事を始めるに至つたため、被控訴人から同人に
その不当を難詰すると共に従前土地に付自己名義に所有権移転登記手続を了するに
至つた経緯が認定せられ、且つ前記証人E、F、G等の証言に依ると本件土地は指
定通知の当時空地であつたことを認め得る(当審証人Dの此の点の証言は未だ右認
定を左右するに足らない)から、被控訴人は前示自己名義になした登記の日以後本
件土地につき所有者と同一の使用収益権を取得しこれを右土地の占有者Nひいては
控訴人等に対抗し得るに至つたものと解すべきである。
 控訴人等は、被控訴人において従前の土地所有権の異動を整理施行者に届出てい
ないから右の使用収益権を取得しないと主張するが、前記甲第二号証によると被控
訴人は昭和二五年一二月二〇日右の届出をしていることを認め得られるのみなら
ず、かかる届出は単に土地区劃整理事業遂行上の便宜に資せんがために要求せられ
る義務に過ぎず、届出の有無によつて使用収益権の帰属に毫も影響を及ぼすもので
ないから該主張は採用しがたい。
 控訴人等は被控訴人が換地予定地たる本件土地について登記をして居ないしその
引渡も受けていないから土地明渡の請求権はないと抗争するが、本訴は本件土地の
所有権又は占有権に基ずく訴ではなく、従前の土地に対する換地予定地の指定によ
る本件土地の使用収益権を理由とするものであるから右の主張は失当で、問題は右
の使用収益権に基ずいて妨害排除の請求を為し得るか否かにあるところ、前記特別
都市計画法第一四条の法意に鑑みるときは右の使用収益権は換地予定地指定の効果
として法律の規定により附与せられた利であつて、所有権そのものではないが所有
権と同一の使用収益を為し得る権利で、その使用収益を妨害する者に対しては所有
権に基ずくと同様此の権利に基ずいてその妨害排除を請求し得るものというを相当
とする。
 してみると、控訴人等が本件土地上に建物を所有し、各その敷地を占有する以上
被控訴人の使用収益を妨害すること明白であつて、縦令右占有が前認定の如く訴外
CとNの賃貸借に由来するものであるにしても控訴人等はこれを被控訴人に対抗す
るに由がなく(本件建物の保存登記が被控訴人の前掲移転登記の後であることは控
訴人等の自認するところである)控訴人等はそれぞれ本件土地上の各所有家屋を収
去してその敷地を被控訴人に明渡さねばならないことは当然の筋合である。
 更に控訴人等は被控訴人の本訴請求は権利の濫用であると抗争するが此の点に関
する控訴人等の主張事実を確認し得る証拠がないのみならず、仮りに調停中に控訴
人等から本件土地に代る土地を被控訴人に提供したのにこれを拒絶したため調停不
調となつた事実があつたとしてもこれだけでは被控訴人の請求を権利の濫用なりと
断じ得ないから控訴人等の右抗弁はこれを採用するに由がない。
 よつて控訴人K、M、Lに対し各その所有家屋の収去並びにその敷地の明渡を命
じた原判決は相当で同控訴人等の本件控訴はその理由がないから民事訴訟法第三八
四条によつて控訴を棄却すべく、引受参加入に対し前示(二)の建物の収去並びに
その敷地の明渡を求める被控訴人の請求を認容すべきものとし、訴訟費用の負担に
ついて同法第八九条第九三条第九五条仮執行の宣言について同法第一九六条第一項
を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 吉村正道 判事 金田宇佐夫 判事 鈴木敏夫)

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