弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告が原告に対して平成13年11月29日付けでした文書の一部を公開し
ない旨の処分のうち,別紙インデックス「1甲第3号証関係」と題する表中
の「非公開部分」欄に「地下水採取井戸の所有者氏名」と記載のある情報を非
公開とした処分を取り消す。
2被告が原告に対して平成13年12月3日付けでした文書の一部を公開しな
い旨の処分のうち,別紙インデックス「2甲第4号証関係」と題する表中の
「」「」「」非公開部分欄に法人車両ナンバー汚水処理施設の技術管理責任者名
「aの現場管理者名「個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅「個人」)」
名(地下水の採取井戸を有する個人自宅)とその住所「大気の検査場所の住」
所とその所有者氏名「個人名を特定し得る採水地点図「個人名を特定し得」」
る試料採取位置図「業務名等を記した掲示板の個人名(地下水の採取井戸を」
有する個人自宅「地質調査会社の主任技術者および現場代理人の氏名」及)」
び「地質調査会社の主任技師,現場代理人,コア鑑定者,ボーリング責任者の
氏名」と記載のある情報を非公開とした処分を取り消す。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用はこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
1被告が原告に対して平成13年11月29日付けでした文書の一部を公開しない旨
の処分のうち,別紙インデックスの「1甲第3号証関係」と題する表中の「非公開
部分」欄記載の部分を非公開とした処分を取り消す。
2被告が原告に対して平成13年12月3日付けでした文書の一部を公開しない旨の
処分のうち,別紙インデックスの「2甲第4号証関係」と題する表中の「非公開部
分」欄記載の部分を非公開とした処分を取り消す。
第2事案の概要
,,,(「」1本件は原告が被告に対し福井県情報公開条例に基づきa株式会社以下a
という)が設置した産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という)等に関する。。
情報の公開を請求したところ,被告がこれらの文書のうち一部を非公開としたため,
,。原告が同非公開決定の一部につき違法であると主張して取消しを求めた事案である
2前提事実(争いのない事実以外は末尾に証拠を掲記した)。
(一)原告は,三重弁護士会に所属する弁護士である(弁論の全趣旨。)
(),,(「」。)二原告は平成13年10月15日福井県情報公開条例以下条例という
に基づき,以下の事項について情報公開を請求した(甲1,以下「本件公開請求」
という。。)
(1)(平成7年度∼平成13年度)
福井県敦賀市αにあるaの本件施設に係る
①行政命令(措置命令,改善命令)に関する一切の情報
②行政指導に関する一切の情報(業務日誌など)
③行政監視に関する一切の情報(環境衛生監視日報など)
④産業廃棄物処理施設内外の環境測定に関する一切の情報
⑤上記に関連して,福井県が厚生省となした協議に関する一切の情報(業務日
誌,復命書など)
(2)福井県敦賀市αにあるaの本件施設に係る違法埋立(構造基準違反,処理基
準違反などの違法行為)について,違法行為がどのようにして行われたのか,そ
の背景・原因・理由について分析し,同問題の解決の方向性(いかなる解決をは
かり,それをどのようにしてなすのか)について検討した公文書に係る一切の情

(3)(平成7年度∼平成13年度)
,,,福井県の産業廃棄物不法投棄の行政監視に関する担当部局の組織構成人員
担当者氏名に関する一切の情報(県警からの出向職員の有無などを含む)。
(4)(平成7年度∼平成13年度)
福井県の産業廃棄物不法投棄の民間監視に関する民間監視員制度の有無とその
概要が分かる一切の情報
(5)福井県内の高温溶融炉(ガス化溶融炉,RDF化施設,ゴミ発電所の建設)
計画に係る一切の情報(事業の実施主体が官民を問わない)。
(三)被告は,本件公開請求に対し,①平成13年11月29日に,担当部局を嶺南
振興局二州健康福祉センターとする文書についてその一部を公開する旨の処分を行
い(甲3,②同年12月3日に,担当部局を福祉環境部廃棄物対策課廃棄物処理)
施設監視指導チームとする文書についてその一部を公開する旨の処分(以下,両処
分を併せて「本件処分」という)を行った(甲4。。)
なお,本件公開請求中,上記(二(2(4)に関しては該当する文書が存在))
しないものとされた。
(四)原告は,本件処分に対し,平成13年12月7日付けで異議申立てをし,福井
県公文書公開審査会は,平成14年11月18日付けで,本件処分によって非公開
とされた部分のうち一部は公開すべきである旨の答申を行った(甲5,23の1・
2。被告は,この答申に従い,同年12月5日付けで,本件処分の一部を取消す)
旨の決定をした(甲27。この結果,別紙インデックスの「非公開部分」欄に記)
載された情報がなお非公開部分として残された(甲23の1・2,27。)
(),「」,五本件処分の理由は別紙インデックスの非公開部分欄に記載された情報は
別紙インデックスの当該部分に対応する「非公開事由」欄に記載された条例の各条
項に該当するというものであった。
(六)条例の規定(甲10,乙4)
5条(公文書の公開を請求できるもの)
「何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,公文書の公開
を請求することができる」。
7条(公文書の公開義務)
「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る公文書に次の各号
に掲げる情報(以下「非公開情報」という)のいずれかが記録されている。
場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。
()(。)1個人に関する情報事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く
であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合す
ることにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含
む)または特定の個人を識別することはできないが,公にすることに。
より,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲
げる情報を除く。
イ法令もしくは他の条例の規定によりまたは慣行として公にされ,ま
たは公にすることが予定されている情報
ロ人の生命,健康,生活または財産を保護するため,公にすることが
必要であると認められる情報
ハ当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第
2条第1項に規定する国家公務員および地方公務員法(昭和25年法
律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう)である場合に。
おいて,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情
報のうち,当該公務員の職および氏名ならびに当該職務遂行の内容に
係る部分(当該公務員の職および氏名に係る情報にあっては,公安委
員会規則で定める職にある警察職員の氏名に係るものその他の公にす
ることにより当該公務員の権利利益を不当に害するおそれがあるもの
を除く)。
2法人その他の団体県国および他の地方公共団体を除く以下法()(,。「
人等」という)に関する情報または事業を営む個人の当該事業に関す。
る情報であって,公にすることにより,当該法人等または当該個人の権
,。,利競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものただし
人の生命,健康,生活または財産を保護するため,公にすることが必要
であると認められる情報を除く。
(3)公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧または捜査,公訴の維持,
刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある
と実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報
(4)(以下略」)
附則
「施行期日)(
1この条例は平成12年7月1日から施行する。
(経過措置)
2(略)
3この条例による改正前の福井県公文書公開条例(旧条例)第2条第1項
に規定する公文書で,施行日前に実施機関の職員が作成し,または取得し
たものについては,新条例第7条および第9条の規定にかかわらず,なお
従前の例による。
4(以下略」)
(七)福井県公文書公開条例(以下「旧条例」という)の規定(乙1,4)。
2条1項(定義)
「この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成または取
得をした文書,図画および写真(略)であって,決裁または供覧の手続終了
後,県において管理されているものをいう」。
7条(公開しない公文書)
「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書
については,公文書の公開をしないものとする。
()(。)1個人に関する情報事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く
であって,特定の個人が識別され,または識別され得るもの。ただし,
次に掲げる情報を除く。
イ法令および条例(以下「法令等」という)の規定により何人も閲。
覧できるとされている情報
ロ(略)
ハ(略)
(2)(以下略」)
3争点
(1)条例7条1号該当性
(別紙インデックスの「非公開部分」欄に「名あて人のa役員のうち,商業登記
簿に記載のない役員の住所「法人社員名(個人の使用人も含む「措置命令書を」)」
」「()」「」「()受け取った者aの社員名代表者除く地下水採取井戸の所有者氏名株
bの社員名「報道機関記者名「aの社員名「c』という任意団体の社員(代」」」『
表者除くの氏名cという任意団体およびd株という法人の社員代)」「『』『()』(
表者除く)の氏名「aの社員個人の車両のナンバー「県職員個人の携帯電話の」」
番号「汚水処理施設の技術管理責任者名「思想,信条を述べる部分「aの現」」」,
場管理者名「職員録に記載のない公務員の自宅電話番号,携帯電話番号(市職員」
含む「個人車両ナンバー「個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅「個)」」)」
人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅)とその住所「大気の検査場所の住所」
とその所有者氏名「個人名を特定し得る採水地点図「業務名等を記した掲示板」」
の個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅「個人名を特定し得る試料採取)」
位置図「地質調査会社の主任技術者および現場代理人の氏名「地質調査会社の」」
主任技師,現場代理人,コア鑑定者,ボーリング責任者の氏名」と記載されている
情報について)
〈以下,別紙インデックスの「非公開部分」欄の記載により情報を特定する場合に
は,同欄の記載のみを引用する〉。
【被告の主張】
これらの情報は,いずれも,直接的に特定の個人を識別できる情報であるか,又
は当該情報と他の情報とを照合することにより間接的に特定の個人を識別すること
ができる情報である。
地下水等については県が個人の氏名等を公表しないことを条件に使用させてもら
,。っておりこれまでのところ地下水から環境基準を超える物質は確認されていない
公務員に関する情報については,慣行として公にすることが予定されている情報で
はなく,公務員の職務遂行の内容に係る情報でもない。
したがって,これらの情報はいずれも条例7条1号に該当する。
【原告の主張】
これらの情報は,いずれも個人情報に該当せず,形式的に個人情報に該当するも
のがあるとしても,条例7条1号ただし書きロに該当し,公開されるべき情報であ
る。
①「aの社員名(代表者除く「aの社員名「aの現場管理者名」について)」」
これらの情報については,当該社員は現場で県職員や県警に対応している人物
と推察され,法人の業として行っている業務であるから,個人情報には該当しな
い。
②「措置命令書を受け取った者」について
措置命令書の交付は廃棄物処理法の措置命令の発動として行われたもので,写
真は違法業者に対する執行の様子を撮影したものであり,写真に個人が写ってい
たとしても,aの代表者に代わる人物であるから,業務の一環として受領したも
のと推察され,個人情報ではない。執行文書の受領者は公的な文書の受取人であ
り公開されるべき情報である。
③「個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅「個人名(地下水の採取井)」
戸を有する個人自宅)とその住所「大気の検査場所の住所とその所有者氏名」」
「個人を特定し得る採水地点図「業務名等を記した掲示板の個人名(地下水の」
採取井戸を有する個人自宅「個人名を特定し得る試料採取位置図」について)」
,,,これらは調査地点の特定のために必要であり公益性の高い情報であるから
公開されるべきである。環境問題のための測定は,継続的になされることが必要
であり,住民がクロスチェックをして測定値の正確性を比較対照する検査システ
ムを作ることが必要となる。
④「報道機関記者名」について
これは,他の公文書や答申において公開するとの取扱いである。新聞にも署名
入りで記事が出る現状において,職務としてしている取材活動について個人情報
として非公開とするのは拡大解釈も甚だしい。
⑤「地質調査会社の主任技術者および現場代理人の氏名「地質調査会社の主任」
技師,現場代理人,コア鑑定者,ボーリング責任者の氏名」について
これらの調査等は業として行われたもので,資格のある者が業務として行う業
に関する情報であるから,個人情報に該当しない。
(2)条例7条2号該当性(法人車両ナンバー」について)「
【被告の主張】
当該車両ナンバーは監視対象車両ではなく,監視過程においてチェックされたに
すぎないが,当該車両ナンバーを公にすることは,車両を所有している法人が監視
されたとして公になることになり,当該法人の名誉や社会的評価が損なわれるおそ
れがある。また,報道機関等法人によっては必ずしも所有する車両すべてに法人名
が表示されているものとは限らず,公にすることにより当該法人の事業活動が損な
われるおそれがある。
したがって,この情報は条例7条2号に該当する。
【原告の主張】
車両ナンバーは道路を走行する車両である以上,誰もが認識できるものであるか
ら,非公開とすべきではない。また,違法行為をしている法人に法的な保護に値す
る利益はない。
(3)条例7条3号該当性(警察車両ナンバー」について)「
【被告の主張】
当該車両ナンバーは外見上警察車両と分かるパトロールカーの車両ナンバーでは
なく,外見が一般の乗用車と変わりのない警察車両であるため,公にすることによ
り犯罪の予防又は捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある
情報であり,条例7条3号に該当する。
【原告の主張】
この警察車両ナンバーの外見が一般の乗用車と変わりのない警察車両であるかは
不明である。また,たまたま現場に来た警察車両のナンバーを非公開にしなければ
公共の安全と秩序の維持に具体的支障があるとはいえない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)について
(一)条例7条1号は,個人に関する情報で,その情報単独で,あるいは,他の情報
を照合することにより,特定の個人を識別することができるもの(以下「個人識
別情報」という)等について公開義務の例外となる旨定めている。。
乙4(情報公開事務の手引)によれば,その趣旨は,個人の尊厳及び基本的人
権の尊重の立場から,個人のプライバシーを最大限に保護する必要があるが,プ
ライバシーの具体的内容及びその範囲は必ずしも明確とはいえないことから,個
々の情報についてプライバシーに該当するか否かの判断を行わずに,特定の個人
を識別することができる情報は,原則として公開しないこととしたものと解され
る。
したがって,条例は,個人識別情報については,本来的にプライバシーの範疇
に含まれる情報であると,必ずしもプライバシーに含まれるか否か判然としない
情報であるとを問わず,原則として非公開としたものというべきである。実施機
関の責務を定めた条例3条が,実施機関に対し,個人に関する情報がみだりに公
にされることのないように最大限の配慮をすることを求めているのもこの趣旨に
基づくものと解される。
しかし,他方,条例の制定目的が,公文書の公開制度を定めることにより,県
民の県政参加の推進と県政の公正な運営の確保を図ることにあること(条例1条
参照)を考慮すると,条例が定める非公開事由の解釈においては,同条項が保障
しようとする利益を十分に確保しつつも,非公開事由を過度に拡大解釈すること
のないように留意しなければならないとりわけ条例7条1号のただし書きと。,(
くに同号ロ)に該当するときは,個人識別情報であっても,例外的に公開すべき
旨を定めているのであるから,県の施策により影響を受ける県民の生命,健康,
生活又は財産を保護するために情報の公開が有用であるときは,その利益を十分
に尊重すべきである。それが,情報公開制度を設け,県の有する情報を公にする
ことによって,県民に自ら県の政策を検証する機会を与え,ひいては,県民の生
命,健康,生活又は財産を保護することに寄与しようとする制度趣旨に沿うもの
である。
(二)以下,こうした見地から各情報を個別に検討する。
()「()」「()」「()1①法人社員名個人の使用人も含むaの社員名代表者除く株
bの社員名「報道機関記者名「aの社員名「c』という任意団体の社」」」『
員(代表者除く)の氏名「c』という任意団体の社員(代表者除く)の」『
氏名および『d(株』という法人の社員(代表者除く)の氏名」について)
,,はいずれも業務日誌及び監視日報等県の報告文書に記載されている情報で
当該個人が公的な立場で行った活動ではなく,組織体の一員としての個人の
活動に関する情報であると認められるから,個人の職業ないし所属団体に関
する情報として個人に関する情報に当たり,氏名であるから特定の個人を識
別することができる情報に該当する。
②「名あて人のa役員のうち,商業登記簿に記載のない役員の住所」の内容
は個人の住所であり「措置命令書を受け取った者」の内容は個人の容貌等,
であると推認されるから,いずれも個人に関する情報であり,特定の個人を
識別できるものに当たる。
③「aの社員個人の車両のナンバー「個人車両ナンバー」の内容は個人が」
所有する車両の登録番号であると推認されるから,個人の財産の状況に関す
る情報であって個人に関する情報に当たり,かつ,個人が所有する車両の登
録番号は,これによって所有者を推知することができるから,特定の個人を
識別することができる情報に該当する。
④また,これら①②③の情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護する
ため,公にすることが必要な情報とも認められない。
原告は「a社員名」等の情報について,当該社員は法人の業務を行って,
いるのであるから個人情報に該当しない旨主張する。しかし,特定の個人が
,,ある一定の法人等の組織に所属し当該法人の業務を行っているとの事実は
個人の職業に関係する事実であるから,個人に関する情報に当たる。また,
「報道機関記者名」が慣行として公にされ,又は公にすることが予定されて
いる情報であるとは認められない。とくに「報道機関記者名」は監視日報,
に記載されていて,当該記者の取材活動中の行動が記録されたものであると
推察され,公表することを予定しない行動中の記録であるから,公表された
記事に記者名を表示することとは明らかに異なるものである。
したがって,これらの情報については条例7条1号本文に該当するもので
非公開とすることができる。
(2)「地下水採取井戸の所有者氏名「個人名(地下水の採取井戸を有する個人」
自宅「個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅)とその住所「大気の検)」」
査場所の住所とその所有者氏名「個人名を特定し得る採水地点図「業務名等」」
を記した掲示板の個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅「個人名を特)」
定し得る試料採取位置図」の各内容は,いずれも個人の氏名ないし住所であるか
ら,個人に関する情報であり,かつ,特定の個人を識別できるものに当たる。
ところで,条例7条1号ただし書きロは,人の生命,健康,生活又は財産を保
護するため公にすることが必要な場合には当該情報を公開しなければならないと
定めているが,その必要性の判断においては,非公開により保護される第三者の
,,利益と公開により保護される県民の利益の双方についてそれぞれの具体的内容
性格を比較衡量して検討すべきである。
そこで本件についてみると,上記の各情報のうち「地下水採取井戸の所有者氏
名」は業務日誌に記載された情報であり,その余は,それぞれ本件施設の周辺地
域における地下水質や大気の状況についての行政検査(民間調査機関に委託して
行った検査を含む)の結果報告書等に含まれる情報であって,いずれも行政検。
査のための試料として採取された地下水や大気の採取場所及びその所有者の氏名
をその内容とするものとみられる。
そうすると,上記の各情報を公開することにより,住民は行政検査の対象とな
った試料の採取場所を特定できることとなり,その結果,住民が同一の試料につ
いて独自に採取・検査をして行政検査の結果を検証するとともに,継続して検証
を実施する機会が確保されることになる。そして,上記の行政検査は本件施設が
環境に及ぼす影響を検査するために行われているとみられるが,本件施設は産業
廃棄物処理施設であって,許可量を大幅に超える産業廃棄物が違法に投棄された
ことが指摘されており,地下水や大気の汚染を引き起こす危険性があることを否
定できないこと,一旦地下水や大気が汚染された場合には,周辺住民の生命,健
康,生活又は財産に深刻な影響を与え,かつ,これを十全に回復するには多大な
困難が伴うと予測されることを考慮すると,上記各情報を公開して行政検査の結
果につき住民の手により独自の検証がなされ,また継続して検証が実施される機
会を確保することは,周辺住民の生命,健康,生活又は財産を保護する上で不可
欠であるといえる。
他方,上記各情報は,たまたま本件施設の周辺において試料を採取する場所を
所有していた個人の氏名及び住所を内容とするものであるから,上記各情報を公
開することによって,これら個人の生活の平穏が害される危険性や将来県が行う
。,同種検査につき協力を得がたくなるおそれが生じることは否定できないとくに
被告は,これら個人に対して氏名及び住所を公開しないことを条件に試料の採取
に応じてもらっている旨主張する。
しかし,仮に被告の実施した行政検査において地下水あるいは大気の汚染が判
明した場合には,被告としては,検査結果について採取場所も含めてある程度詳
細に発表する必要に迫られると予測され,このような観点からすると,その所有
地において採取された資料を行政検査の用に供する以上,採取場所である住所等
が公表される可能性があることを事前に十分説明した上で承諾を得るべきであ
る。したがって,被告が採取場所である個人との間で住所等を公開しないという
約束をすること自体に問題があるというべきで,住所等を公開しないとの条件で
採取の承諾を得たことを重視するのは相当ではない。そもそも地下水ないし大気
汚染の有無は,採取地の所有者である個人の生命,健康等にも重大な影響を与え
ることからすると,行政検査の結果を住民が独自に検証できる機会を確保するこ
とは,これら個人にとっても重要な利益であるということができる。
以上によれば,上記各情報を公開することにより保護される利益は,これを公
開しないことにより保護される利益に比して大きいものというべきで,上記各情
報は条例7条1号ただし書きロに該当するから,これを公開すべきである。
(3)「汚水処理施設の技術管理責任者名「aの現場管理者名「地質調査会社」」
」「,,の主任技術者および現場代理人の氏名地質調査会社の主任技師現場代理人
コア鑑定者,ボーリング責任者の氏名」の各内容は,いずれも個人の氏名である
から,一見すると,個人に関する情報に当たるといえそうである。
①しかしながら,これらの情報のうち「汚水処理施設の技術管理責任者名」,
及び「aの現場管理者名」は,汚水処理施設が稼動を停止した当日の時間的経
過に関する報告文書及び同施設の稼動再開に関する電話記録中に記載されたも
のであるから,これら個人は,同施設の稼動の停止及び再開に際し,同施設を
事実上代表して被告担当部局と折衝にあたった者と推認することができ,その
発言内容の正確性や信頼性を担保し,責任の所在を明確にするためにその氏名
が記載されたものというべきであるから,個人に関する情報とはいえない。
②また「地質調査会社の主任技術者および現場代理人の氏名」及び「地質調,
査会社の主任技師,現場代理人,コア鑑定者,ボーリング責任者の氏名」は,
平成13年度廃棄物循環型社会基盤施設整備計画書ガス化溶融施設変更整備計
画書中の地質調査報告書中「§2調査概要」及び「ボーリング柱状図」に記載
された情報であることから,これらの情報は,同報告書の調査担当者としてそ
の氏名を記載されることになったものであり,調査の信頼性を担保する趣旨で
調査結果の内容の一部となっているものと解されるから,個人に関する情報と
認めることができない。
③加えて,汚水処理施設の停止及び再開に際してその施設の責任者である者の
発言の正確性や信頼性を確保することや,地質調査結果の信頼性を確保するこ
とは,周辺住民の生命,健康,生活,財産を保護するためにも必要なものであ
り,かつ,これらの者が,単なる従業員という立場ではなく,責任者や調査担
当者という,施設の稼動や調査結果に問題があれば,その氏名がある程度公に
なることも受忍すべき立場にあることを考慮すると,これらの情報は条例7条
1号ただし書きロに該当するとみることもできる。
したがって,これらの情報はいずれも公開すべきである。
(4)「県職員個人の携帯電話の番号」及び「職員録に記載のない公務員の自宅電
話番号,携帯電話番号(市職員含む」はいずれも個人の電話番号を内容とする)
もので,個人の私生活と密接に関係する情報であるから,個人に関する情報であ
り,かつ,特定の個人を識別できるものにあたる。
これらの情報は,当該公務員の職務の遂行にかかる情報とはいえないし,公に
。,,,することが予定されている情報ともいえないまたこれらの情報は人の生命
健康,生活又は財産を保護するために公にすることが必要な情報とも認められな
い。したがって,これらの情報については条例7条1号本文に該当し非公開とす
ることができる。
(5)「思想,信条を述べる部分」の内容は,特定の個人がその思想・信条につい
て述べたことを記載したものと推認されるから個人に関する情報と認められる。
そして,個人の思想・信条に関する情報は,個人の人格権と密接に関わるもので
あり,その開示は当該個人が自主的にコントロールすべきものであるから,条例
7条1号本文後段の「公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれ
があるもの」に該当する。そして,この情報は,人の生命,健康,生活又は財産
を保護するために公にすることが必要な情報とも認められないから,非公開とす
ることができる。
(三)以上のように,本件処分中「地下水採取井戸の所有者氏名「個人名(地下水」
の採取井戸を有する個人自宅「個人名(地下水の採取井戸を有する個人自宅))」
とその住所「大気の検査場所の住所とその所有者氏名「個人名を特定し得る採」」
水地点図「業務名等を記した掲示板の個人名(地下水の採取井戸を有する個人自」
宅「個人名を特定し得る試料採取位置図「汚水処理施設の技術管理責任者名」)」」
「aの現場管理者名「地質調査会社の主任技術者および現場代理人の氏名「地」」
質調査会社の主任技師,現場代理人,コア鑑定者,ボーリング責任者の氏名」を非
公開とした処分は違法であって取り消すべきであるが,その余の部分に係る処分は
適法である。
2争点(2)について
条例7条2号は,法人等に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等
の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものについて公開義務
の例外となる旨を定めており,その趣旨は,法人等が保有する営業上のノウハウ等に
関する情報で,公開することにより事業上の利益を害するおそれがあるとか,法人等
の人事や経理など,事業活動を行う上での内部管理情報で,公開されることにより事
業運営を損なうおそれがあるなどの場合に,当該情報を公開しないものとするところ
にあると解される。
,「」,そこで本件についてみると法人車両ナンバーは法人に関する情報ではあるが
道路運送車両法は,自動車の所有者にナンバープレートの取付けを義務づけ,かつ,
ナンバープレートを見やすいように表示しなければ自動車を運行の用に供してはなら
ないものと定めているのであって(同法19条,ナンバープレートに表示された情)
報そのものについてはこれを秘匿するべき何らの利益も存しない。また,一般に,ナ
ンバープレートの表示が公開されることによってその自動車を所有する法人が特定さ
れても,そのために当該法人の社会的評価や事業運営を損なうおそれがあるという事
態は通常考えられず,監視の対象とされていた本件施設に当該車両が出入りしたとの
事実は,当該車両が監視の対象であったことを直ちに示すものではないから,被告主
張のような誤解を招くおそれがあるとも認められない。
以上からすると「法人車両ナンバー」は条例7条2号に該当せず,公開すべきで,
あって,本件処分中「法人車両ナンバー」を非公開とした処分は,違法であり取り消
すべきである。
3争点(3)について
条例7条3号は,犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあ
,,ると実施機関が認める情報についてはこれを非公開とすることができる旨定めるが
その趣旨は,公共の安全と秩序を維持する活動の有効かつ効率的な執行を確保するた
め,公にすることによりこれらの活動に支障を及ぼすおそれがある情報については公
開しないものとするとともに,当該情報に該当するか否かについては,その性質上専
門的・技術的判断を要する場合があることから,実施機関の判断を尊重することとし
たものと解される。
これを本件についてみると,本件の警察車両は,外見が一般の車両と変わりのない
いわゆる覆面で活動しているパトロールカーであることが認められ(乙6,これが)
公になると当該車両がいわゆる覆面で犯罪の予防活動や捜査活動を行うことに支障を
及ぼすおそれがあるといえる。
したがって,実施機関が当該情報を条例7条3号に該当するとした判断は相当の理
由があるから「警察車両ナンバー」を非公開とした本件処分は適法である。,
第4以上の次第で,原告の本件請求は主文の限度で理由があるので同部分を認容し,訴
訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文を適用して,主
文のとおり判決する。
福井地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官小原卓雄
裁判官明石万起子
裁判官高松晃司

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