弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人久保田保の上告理由第一点について。
 商法は、資本充実の要請から、同法一六八条一項六号に規定する財産引受をもつ
ていわゆる変態設立事項の一として厳重な制限を課しているが、単純な債務引受の
ごときは、右法条の明文上もまたその立法の趣旨からも、同条にいう財産引受に該
当しないと解すべきことは論旨のいうとおりである。しかし、積極消極両財産を含
む営業財産を一括して譲り受けるときは、消極財産が積極財産に対してある程度の
対価的意義を持ちうるから、発起人において会社の成立を条件としてかかる営業財
産を一括して譲り受ける旨の契約をした場合は、これをもつて同条にいう財産引受
に該当するものと解するを相当とする。そして、所論指摘の原判示は、その措辞い
ささか尽さないところはあるとしても、結局本件債務引受が右の意味において財産
引受に含まれるという趣旨を説示したものと解しえないものではないから、論旨は
理由がないことに帰する。のみならず、商法一六八条一項六号の立法趣旨からすれ
ば、会社設立自体に必要な行為のほかは、発起人において開業準備行為といえども
これをなしえず、ただ原始定款に記載されその他厳重な法定要件を充たした財産引
受のみが例外的に許されるものと解されるところ、原判決が確定した事実によれば、
本件債務引受については破産会社の原始定款にその記載がなかつたというのであり、
右債務引受が会社の設立自体に必要な行為と解されないことはいうまでもないから、
そもそも本件債務引受が財産引受に該当すると否とにかかわらず破産会社に対して
その効力を生じえないものといわなければならない。されば、論旨は、原判決に影
響を及ぼすべき法令違反の主張にもあたらない。論旨は、採用するを得ない。
 同第二点について。
 原判決は、銀行業者である上告人が本件不当利得にかかる弁済金を運営資金とし
て利用し、少なくとも商事法定利率による利息相当の運用利益(臨時金利調整法所
定の一箇年契約の定期預金利率の制限内)を得て、しかもそれが現存していること
を認定し、そのうち上告人に対してその悪意となつた時期以後の分の返還を命じて
いることは所論のとおりである。しかし、論旨は、結局、いずれも採用できないこ
とは、左に述べるとおりである。すなわち、
 論旨は、原審の右事実認定が証拠に基づかないとか不合理であるとかいうが、当
事者間に争のない事実関係ならびに原判決挙示の証拠関係から、原審の右事実認定
は首肯できるから、右論旨は、単なる事実認定非難ないしは独自の法律的見解の主
張にすぎないことに帰着する。
 つぎに、論旨は、上告人が前記のような運用利益を取得したからといつて、破産
会社にそれに相応する損失がないというが、不当利得された財産について受益者の
行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上受益者の行為の介
入がなくても不当利得された財産から損失者か当然取得したであろうと考えられる
範囲においては損失者の損失があるものと解するを相当とし、本件において被上告
人が主張する運用利益は少なくとも右範囲内にあるものと認められるから(関連事
件である当審昭和三五年(オ)第六七四号事件判決参照)、右論旨は理由がない。
 また、論旨は、原判決が本件運用利益の返還義務の有無につき、善意の占有者の
返還義務の範囲に関する民法一八九条によつてこれを決定していることを非難する
ところ、当審もかかる原審の見解は採るべきではなく、もつぱら民法七〇三条、七
〇四条の適用によりこれを定めるべきものと解するが(前記関連事件判決参照)、
そうした場合でも、上記のように、本件運用利益に相応する破産会社の損失がある
ものと認められる以上、上告人はその善意悪意をとわずこれが返還義務を免れない
ものであるから、右論旨は判決に影響を及ぼすべき法令違背の主張にあたらない。
 さらに、論旨は、右運用利益よりその収取に必要な経費を控除すべきであると主
張するが、被上告人主張の運用利益そのものが、すでに右控除の結果得られた純益
を指すものであることは極めて明白であるから、右論旨は理由がない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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