弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人広重慶三郎の上告趣意第一点及び第二点について。
 本件起訴状によれば所論強盗の事実は昭和二二年三月一五日頃の犯行となつてい
るが検事は再開後の原審第六回公判において本件犯行の日を昭和二二年二月一五日
頃と訂正変更する旨を述べ原審は審理の結果これを二月一五日頃と認定したのであ
る。犯罪の日時に多少の差異があつても公訴事実の同一性を失うものではないから
原審の右措置をもつて違法ということはできない。論旨は本件における犯行日時の
変更は訴因の変更であると主張するけれども訴因の変更になるかどうかは新刑訴法
上の問題である、本件は旧刑訴法の適用せられる事案であるから訴因の変更を云為
して原判決を非難することは許されないのである。又原判決の挙示する証拠を綜合
すると原判示の事実を認定できるのであるから原判決には証拠によらずして事実を
認定した違法若くは理由不備の違法があると言うことはできない。論旨はいずれも
理由がない。
 同第三点について。
 しかしすべて証拠に対する信憑力は事実審の専権によつてきまるのであるから所
論は原審の専権行使を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。
 同第四点について。
 原判決の所論採証部分を被告人に対する検事の聴取書の記載に照合してみるとそ
れが所論のように右聴取書における被告人の供述の趣旨を不当に曲げて採証したと
認めることはできないのであるから論旨は理由がない。
 同第五点について。
 しかし原判決は所論のような報酬契約の存在については何等認定していないので
あるから所論は原判示に副わない非難であつて採用に値しない。
 同第六点について。
 しかし所論は結局証拠の価値判断に対する原審の専権行使を非難するに帰着する
のであるから上告適法の理由とならない。
 弁護人本浄直三郎の上告趣意について。
 書類の供述者又は作成者を公判で訊問した場合にその訊問の結果による供述を証
拠として採用するか又は書類の記載そのものを証拠にとるかは事実審裁判所の自由
心証に任せられているのである。従つて原判決が所論聴取書又は始末書の記載を証
拠にとつたからとてこれを非難するのは当らない。従つて論旨其の一は理由がない。
 次ぎに本件勾留状に理由となつている犯罪を明示していないことは所論のとおり
である。しかし勾留状の方式について違法があれば抗告その他法律の定める手続に
よつてこれが是正を求むべきであつてこれをもつて原判決を攻撃する理由とするこ
とのできないことは既に当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第五八二号、同年一一
月一〇日大法廷判決参照)とするところであるから本件勾留状に犯罪を明示しない
違法があるとしてもこれをもつて上告理由とすることはできないのである。又本件
記録を精査するも被告人の判示第一事実に対する自白が強制によるものである事実
は全然認められないのであつて本件勾留状の方式に違法の点があつたにしてもそれ
だけで直に強制のあつた事実を肯定できるものではない。又被告人は判示第一事実
については終始自白しているのである即ち被告人に対する勾留状は昭和二二年七月
一〇日に執行されたのであるが被告人は同月一五日警察官に対し、同月一七日検事
に対していずれも自白しており又同年九月一六日第一審第一回公判においても自白
しているのである。従つて被告人の原審公判における自白も従前の自白を繰返した
もので拘禁と自白との間に因果関係のないことが明白であつてかかる自白が憲法第
三八条第二項の不当に長く拘禁された後の自白に該らないことは当裁判所の判例と
するところである(昭和二二年(れ)第二七一号、昭和二三年六月三〇日大法廷判
決)然らば原判決には所論の如き違法なく論旨の其の二も亦理由がない。
 よつて刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条により主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年七月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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