弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上一告を棄却する。
         理    由
 弁護人君野駿平、同寺村恒郎、同山本博、同松本健男、同吉田孝美、同木梨芳繁、
同田川章次、同安田叡、同宮里邦雄の上告趣意第一章第一のうち、憲法三一条違反
をいう点は、いずれもその実質は単なる法令違反の主張にすぎず、憲法一四条違反
をいう点は、第一審判決が被告人らの行為の正当性に関する主張について判断を示
しており、かつ原判決の説示も必要にして十分であることは、各判決書自体に徴し
明らかであるから、所論は前提を欠き、すべて適法な上告理由にあたらない。
 同第二の一及び二は、憲法二八条違反をいう点を含め、すべてその実質は単なる
法令違反、事実誤認の主張であり、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、使用者は、労働者側がストライキを
行つている期間中であつても、操業を継続することができることは、当裁判所の判
例の趣旨とするところである(昭和二四年(オ)第一〇五号同二七年一〇月二二日
大法廷判決・民集六巻九号八五七頁、同二七年(あ)第四七九八号同三三年五月二
八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁、同三一年(あ)第三〇六号同三三年
六月二〇日第二小法廷判決・刑集一二巻一〇号二二五〇頁参照)。使用者は、労働
者側の正当な争議行為によつて業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなけれ
ばならないが、ストライキ中であつても業務の遂行自体を停止しなければならない
ものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続す
るために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり、このように解
しても所論の指摘する労使対等の原則に違背するものではない。従つて、使用者が
操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗
措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によつて保護される
べき業務としての性格を失うものではないというべきである。
 これを本件についてみると、原判決及び原判決の是認する第一審判決の認定によ
れば、A株式会社(以下「会社」という。)はバス及び電気軌道による旅客運送業
を営む会社であるが、昭和三六年五月当時における従業員約一三〇〇名のうち約五
〇〇名は、B労働組合総連合会に属するC労働組合D支部(以下「支部組合」とい
う。)に、その余の約八〇〇名は、昭和三四年一二月に支部組合から分裂して誕生
したD労働組合(以下「E労」という。)に所属していたものであるところ、昭和
三六年の春季闘争に際し、会社と支部組合の団体交渉が難航し、支部組合のストラ
イキが必至の情勢となつたところがら、これに参加しないE労の就労を前提に争議
中もできる限りバスの営業運行をしたいと考えていた会社は、前年の春季闘争の際
支部組合から会社のバス約二六〇台のうち約二二〇台を確保されてその運行を阻止
された経験から、再び同様の事態になることをおそれ、支部組合がストライキに突
入する前から車両分散の準備を始め、同年五月二五日ころから一部の予備車両、貸
切用車両の分散を開始し、支部組合がストライキに入つた同月二七日の昼ごろから
は、E労所属の従業員に命じて車両を回送分散し、かつ、分散した車両の保全看守
にあたらせていたというのである。
 そうすると、会社のした右車両分散等の行為は、ストライキの期間中もこれに参
加しないE労所属の従業員によつて操業を継続しようとした会社が、操業を阻止す
る手段として支部組合の計画していた車両の確保を未然に防いで本来の運送事業を
継続するために必要とした業務であつて、これを威力業務妨害罪によつて保護され
るべき業務とみることに何の支障もないというべきである。以上と同趣旨の原判断
は相当として是認できる。
 同第二の三は、憲法二八条、二五条、九七条違反をいう点を含め、すべてその実
質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、ストライキに際し、使用者の継続し
ようとする操業を阻止するために行われた行為が犯罪構成要件に該当する場合にお
いて、その刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、当該行為の動
機目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全
体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない(前掲、
昭和三三年五月二八日大法廷判決、同四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日
大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁、同四六年(あ)第一〇九五号同五〇年八月
二七日第二小法廷判決・刑集二九巻七号四四二頁、同四八年(あ)第一二三一号同
五〇年一一月二五日第三小法廷判決・刑集二九巻一〇号九二八頁参照)。
 これを本件についてみると、原判決及び原判決の是認する第一審判決の認定によ
れば、被告人らによつて現に行われた本件の車両確保行為は、いずれも相手方の納
得を前提とすることなく一方的に、営業運転中、回送中又は会社駐車場に駐車中の
会社バスを奪つて支部組合側の支配下に置いたものであつて、旅客運送業を営む会
社にとり最も重要な生産手段に対する会社の支配管理権を侵害するものであるばか
りでなく、それらの行為は、多数人による暴行ないし器物損壊を伴う威力を用いて
行われている。右のほか、前記認定に現われているその余の具体的状況、本件スト
ライキが会社側の工作が有力な原因となつた組合の分裂状態を背景とし、争議行為
が過度に激化しやすい状況のもとに行われたこと、一部被告人の場合加功行為が比
較的軽微であつたことなど、前記認定に現われている諸般の事情並びに所論の指摘
する交通産業における特殊性をすべて考慮に入れ、法秩序全体の見地から考察する
とき、本件車両確保行為は到底許容されるべきものとは認められない。
 そうすると、威力業務妨害罪又は住居侵入罪に該当する本件車両確保行為には刑
法上の違法性に欠けるところはないというべきであり、この点に関する原判断は結
論において相当である。
 同第三は、判例違反をいうが、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、
同第二章第一ないし第三は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張であり、す
べて適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり決定する。
  昭和五三年一一月一五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       譲

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