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平成15年1月29日判決言渡・同日原本領収 裁判所書記官 長嶺陽一
平成9年(行ウ)第267号恩給等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年9月3日
            判      決
     原       告       A
     被       告       国
            主      文
       1 原告の請求をいずれも棄却する。
       2 訴訟費用は、原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、原告に対し、別紙の陳謝状を交付して陳謝せよ。
 2 被告は、原告に対し、金1000万円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、「被告は、もと日本国籍を有していた台湾人であり、日本国の
恩給受給資格を有していた亡Bに対し、本来支給すべき恩給を支給しないまま放置
し、同人及びその子である原告に対して、多大な財産的、精神的損害を与えたもの
である。」などと主張して、陳謝文の交付と亡Bに対する未払恩給の一部であると
主張する1000万円の支払を求める事案である。
 なお、原告は、当初金銭請求について予備的に国家賠償請求権に基づくものを主
張し、かつ、恩給局長に対して恩給を受ける権利を有する者に該当することの確認
を求めていたが、平成10年4月14日、これらを取り下げた。
1 法令の定め
 1)戦前の台湾における恩給受給権に関する定め
  (1)恩給法(昭和22年法律第77号による改正前。以下、本項において同
じ。)1条は、公務員及びこれに準ずべき者並びにその遺族に対して恩給を支給す
る旨を定め、同法19条1項は、同法にいう公務員とは、文官、軍人、教育職員及
び警察監獄職員並びに同法24条に掲げる待遇職員をいうものとし、同法22条1
項は、教育職員とは、公立の学校、幼稚園若しくは図書館又は在外指定学校の職員
であって国庫から俸給を給しない官にあるもの及び判任官以上の待遇を受ける者
(同項1号)、道府県立師範学校長(同項2号)をいうものと定めていた。また、
同法62条は、教育職員に17年以上在職して退職した者に対しては、普通恩給を
給するものとし(同条1項)、その普通恩給の額は、在職年数17年以上18年未
満の場合には退職前の俸給年額の150分の50に相当する金額とし、17年以上
1年を増すごとに、その1年に対し退職前の俸給年額の150分の1に相当する金
額を加えた金額とする(同条2項)旨を定めていた。
  (2)そして、恩給の受給権に関する裁定については、恩給法(昭和22年法律
第77号による改正前。)12条により、「恩給ヲ受クルノ権利ハ勅令ヲ以テ定ム
ルモノヲ除クノ外内閣恩給局長之ヲ裁定ス」と定められ、原則として内閣恩給局長
が裁定するものとされていたが、台湾における公立学校教員に対する恩給の裁定に
ついては、恩給法施行令(大正12年勅令第367号。ただし、昭和21年勅令第
504号による改正前。以下「旧施行令」という。)3条4号が、「朝鮮、台湾又
ハ樺太ニ於ケル公立ノ国民学校、青年学校、実業補習学校、幼稚園、盲学校、聾唖
学校及国民学校ニ類スル各種学校ノ教員職員及準教育職員並其ノ遺族ノ恩給ハ朝鮮
ニ在リテハ道知事、台湾ニ在リテハ州知事又ハ庁長、樺太ニ在リテハ樺太長官之ヲ
裁定ス」と定め(以下、朝鮮、台湾又は樺太における恩給の裁定を「外地裁定」と
いう。)、州知事又は庁長が裁定を行うものとされていた。
2)終戦による恩給裁定権者の変更等
(1)戦後、台湾総督府等がなくなったことに伴う措置として、昭和21年勅令第5
04号(以下「勅令第504号」という。乙2)が定められ、同勅令及びその附則
2条ただし書により、外地裁定の恩給については、内閣恩給局長以外の者が恩給の
裁定をする場合から除外された上、同勅令施行前に支給すべき事由が発生していた
恩給についても同局長が裁定をすることとなった。
 具体的には、旧施行令3条4号の規定(上記(2)参照)が改正されたことにより、
朝鮮、台湾又は樺太における公立学校の教育職員の恩給裁定は、恩給法12条の原
則に基づいて内閣恩給局長が行うこととなり、また、同令附則2条本文が、昭和2
1年3月31日までに給与事由の生じた恩給の裁定については、なお従前の例によ
るとしながら、同条ただし書において、「但し、朝鮮総督、朝鮮の道知事、台湾総
督、台湾の州知事若しくは庁長、・・・(中略)・・・の裁定すべき恩給の裁定に
ついては、この限りでない。」と定められた結果、ただし書所定の者が裁定すべき
恩給の裁定については、勅令第504条の規定が遡及適用されることとなったもの
である。
(2)また、既に外地裁定がされている恩給については、昭和21年閣令第84号
(以下「閣令第84号」という。乙4)により、次のような恩給証書の書換手続に
関する定めがされた。
第1条 内閣恩給局長は、第2条から第5条までの規定によって、昭和21年勅令
第504号附則第2条に掲げる者(台湾総督、台湾の州知事、庁長は、これに該当
する。)の発行した恩給証書の書換を行う。
第2条 前条の者の発行した証書によって恩給を受ける者は、外務大臣を経由し
て、左の書類を内閣恩給局長に差し出すことを要する。
 1号 恩給受給届
 2号 公務員又は公務員に準ずべき者の在職中の履歴書
 3号 恩給証書
 4号 公務員又は公務員に準ずべき者として恩給を受ける者は戸籍抄本又は戸籍
法第14条の3に規定する証明書、これらの者の遺族として恩給を受ける者は戸籍
謄本
 5号 兵役関係の申立書
  恩給証書を差し出すことの困難な事情にある者は、その事情を詳記した書類及
びその事情を証するような警察官署等の公の証明書を差し出すことを要する。
第3条 内閣恩給局長は、前条の書類について、調査の上、昭和21年勅令第68
号附則第3項の規定の適用を受ける恩給については、改定年額を表示した恩給証書
又は改定恩給金額を表示した裁定通知書を、その他のものについては、従前の恩給
年額を表示した恩給証書を発行し、それぞれこれを権利者に交付する。
(以下、略)
3)恩給受給権者が恩給を受給しないまま死亡した場合について
  恩給法10条1項は、恩給受給権者が死亡した場合には、その生存中の恩給で
あってその支給を受けていないものについては、これを当該公務員の遺族に支給
し、遺族がない場合には死亡者の相続人に支給する旨を定め、同条2項は、1項の
場合における遺族の順位は、扶助料を受けるべき遺族の順位(同法73条により、
配偶者、未成年の子、父母、成年の子、祖父母の順となる。)による旨を定めてい
る。
 そして、同法10条の2第1項は、10条の場合において、未だ恩給の支給裁定
の請求がされていないときは、恩給の支給を受けるべき遺族又は相続人は自己の名
をもって恩給の支給裁定の請求をすることができる旨を、同条2項は、10条の場
合において、既に恩給の支給裁定がされているときは、死亡者の遺族又は相続人は
自己の名をもって恩給の支給を受けることができる旨を定め、同法10条の3は、
10条の2各項の恩給の請求及び支給の請求については、同法73条の2の規定
(同順位の遺族が2人以上いる場合には、そのうちの一人を総代者として請求すべ
きことを定めた規定)を準用する旨を定めている。
 また、恩給給与細則(以下「細則」という。)11条1項は、恩給法10条の2
第2項の規定により恩給の未支給金の支給を受けようとする遺族又は相続人は、そ
の旨を記載した請求書に、請求者の戸籍謄本(同条1号)、請求者が公務員の死亡
当時、公務員により生計を維持し、又は公務員と生計をともにしたことを明らかに
することができる申立書(遺族が請求する場合、同条2号)、未支給金の支給を受
けようとする者全員が連署した総代者選任届書(同順位の遺族が2人以上いる場
合、同条3号)を添付して、これを総務省人事・恩給局に差し出すことを要する旨
を定め、同条2項は、総務省人事・恩給局長は、前項の請求に係る未支給金を支給
するときは、失権時給与金支給決定通知書を当該遺族又は相続人に交付しなければ
ならない旨を定めている。
2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか証拠上容易に認定することができる(証
拠によって認定した事実は、認定事実の後に該当証拠をかっこ書する。)。
1)台湾は、明治28年の日清講和条約により日本に帰属することとなり、それに
伴って、台湾住民は日本国籍を有することとなった。
2)亡B(以下「亡B」という。)は、明治33年11月21日、台湾において出
生し、日本国籍を取得した(甲2)。
 原告は、昭和4年9月5日、亡Bの三男として出生した。また、亡Bの妻子は、
別紙「親子関係図」記載のとおりであった(甲9の1-5、9の6の1及び2、9
の7の1-4)。
3)台湾総督府職員録(甲6の1-11)によると、Bなる人物が、
  大正11年当時は台北州所在(以下同じ。)の五股公学校に、
  昭和2年当時は新荘第二公学校に、
  昭和3年当時は老梅公学校に、
  昭和4年、5年当時は新荘第二公学校に、
  昭和8年から昭和13年までは山脚公学校に、
それぞれ教員として在籍していた旨の記載がある(なお、大正12年から昭和元年
まで、昭和6年、7年については、職員録が提出されていない。)。
 また、台北州新荘郡の人民であり、中華民国前12年(明治33年)11月21
日生まれのBが、中華民国10年(大正10年)3月31日から同11年3月31
日まで台北県林口郷嘉寶国民小学校教師であった旨の学校長による中華民国87年
(平成10年)9月24日付け証明書(甲10の2)、及び同日生まれのBが、中
華民国11年(大正11年)3月31日から同14年3月31日まで五股国民小学
校教師であった旨の学校長による中華民国87年(平成10年)10月2日付け証
明書(甲10の1)が存在する。
4)日本国は、昭和20年8月15日、ポツダム宣言を受諾して終戦を迎え、昭和
26年9月8日、サンフランシスコ平和条約に調印した。そして、昭和27年4月
28日、同条約が発効したことにより、亡Bを含む台湾住民は日本国籍を喪失し
た。
5)亡Bは、昭和59年3月7日、死亡した(甲9の4)。
6)亡Bに対しては、少なくとも、昭和20年11月分以降の恩給が支給されてい
ない。
3 争点と争点に関する当事者双方の主張
 本件の争点は、
①亡Bには恩給受給資格があるかどうか(終戦前に既に恩給を支給する旨の裁定を
受けていたか否か。)
②亡Bないし原告は、改めて恩給局長の裁定等を受けることなく恩給の支払を請求
することができるか
③原告が単独で亡Bの恩給を請求する資格を有するかどうか
④亡Bが有する恩給支給請求権は時効により消滅しているかどうか
⑤亡Bには、昭和27年4月28日以降の分についても恩給を受給する資格がある
かどうか
⑥被告には、原告に対し、原告が請求する陳謝文を交付する義務があるかどうか
の6点であり、これらの点に関する当事者双方の主張の概略は次のとおりである。
1)亡Bの恩給受給資格について
 (1)原告
 亡Bは、大正10年4月1日、大南湾公学校教員として奉職して以来、昭和14
年3月31日に山脚公学校を退職するまでの18年間、教育職員として勤務したも
のであるから、1、1)、(1)記載のとおり恩給受給資格がある。
  大正10年大南湾公学校に勤務
  大正11年から大正13年五股公学校に勤務
  大正14年から昭和2年新荘第二公学校に勤務
  昭和3年老梅公学校に勤務
  昭和4年から昭和6年    新荘第二公学校に勤務
  昭和7年から退職まで山脚公学校に勤務
 現に、日本国政府は、昭和14年4月分から昭和20年10月分まで、法定の恩
給(月額22円)を亡Bに継続して支払っていたのであり、亡Bに恩給受給資格が
あることは明らかである。
(2)被告
 原告の主張事実は知らない。
2)恩給に関する裁定等の要否について
 (1)被告
 仮に亡Bに恩給受給資格が認められ、既に戦前に恩給を支給する旨の裁定(外地
裁定)を受けていたとしても、以下のとおり、原告が、被告に対して恩給の支払を
請求するためには恩給局長の裁定等が必要であり、その裁定等がないままされた本
訴請求は不適法却下又は棄却されるべきものである。
ア)閣令第84号に基づく恩給証書の書換手続の必要性
(ア)仮に亡Bが既に外地裁定を受けていたとしても、閣令第84号は、外地裁定の
対象者が、戦後も恩給の支給を受けるためには、恩給局長による恩給証書の書換手
続を受ける必要がある旨を定めている。
 このような恩給局長が行う恩給証書の書換えは、戦後、台湾州知事等が恩給裁定
庁ではなくなった際、戦前に台湾州知事等がした外地裁定の恩給に関する資料が、
日本国に引き継がれなかったため、恩給局長において、どのような外地裁定がさ
れ、どのように恩給が支払われたのかが把握できないところから、基本権である恩
給請求権の存否等を改めて確認することによって、紛争を防止し、給付の確実性を
担保しようとするものであると解される。このような恩給証書の書換手続の趣旨に
照らしてみれば、恩給証書の書換えは、具体的な恩給請求権を発生させる行政処分
であって、いったん外地裁定を受けた者も、改めて恩給証書の書換手続を経ない限
り、恩給の支払を請求することはできないものというべきである。
(イ)なお、以上のとおり、恩給証書の書換えが行政処分であって、この手続を経な
い限り、恩給の支払を請求することはできないとすると、これは、既に外地裁定を
受け、具体的な恩給支給請求権を取得していた者の権利を制限するものなのである
から、閣令によってそのような制度を定めることはできないのではないかという疑
問が生じないではない。しかしながら、閣令第84号は、勅令第504号が要求し
ている恩給証書の書換えに関し、その具体的手続を定めた実施命令(執行命令)で
あって、いわば勅令第504号が予定する権利行使の要件を充足するための手続を
定めたものにすぎないものというべきである。
 すなわち、恩給給与規則(大正12年勅令第369号、以下「規則」という。)
28条は、「恩給ノ支給ヲ受ケムトスル者ハ其ノ恩給証書(裁定告知書ヲ含ム以下
同ジ)又ハ裁定通知書ヲ支給庁ニ呈示スヘシ」とし、同36条は、「恩給証書又ハ
裁定通知書ヲ亡失シ又ハ毀損シタルトキハ其ノ事由ヲ具シ証拠書類ヲ添ヘ裁定庁ニ
其ノ再交付ヲ申請スルコトヲ得」「恩給ヲ受クル者カ恩給証書ヲ呈示ノ用ニ供スル
コト困難ナル状況ニ在ル場合ニ於テハ裁定庁ハ本人ノ申請ニ依リ之ニ其ノ恩給証書
再交付ヲ為スコトヲ得」としており、恩給の支給を受けるためには恩給証書を支給
庁に呈示することを要し、呈示ができない場合には、恩給証書の再交付を受けて呈
示すべきものと定めており、このように、恩給証書の呈示という権利行使の要件が
定められていることからすれば、恩給証書の呈示がない限り権利行使ができないの
は法が予定するところであるというべきである。そして、恩給の請求に際して、恩
給証書の呈示が要求されているのは、支給庁が、恩給支給に際して、保管されてい
る恩給裁定に基づく支払に関する資料と呈示された恩給証書とを照合することによ
り、請求人が正当な権利者であることを確認し、恩給の確実適正な給
付を行うためであると解されるのであるから、呈示すべき恩給証書とは、請求人の
受給資格等を確実に把握するに足りるものでなければならない。
 ところで、本件のような、終戦に伴う外地裁定の恩給の処理に際しては、終戦に
伴い裁定庁である台湾総督等が事実上その機能を停止し、やがて法的に廃止されて
消滅するに至り、また、旧裁定権者が保管していた裁定資料も、新裁定権者である
恩給局長に対して引き継がれなかったことから、従前の恩給証書の呈示を受けるの
みでは、給付の適正確実を確保できないおそれが生じることになった。そこで、勅
令第504号は、外地裁定の恩給権者に対しても、既裁定の恩給権者としての資格
が残存することを認め、恩給の支給が継続されることを前提とした上で、恩給局長
を新たな裁定権者と定め、恩給局長において、恩給請求権者の基本権たる恩給請求
権の存否を改めて確認するとともに、支分権たる恩給請求権を確定する手続を定め
ることをその内容として含むものと解される。
 そして、勅令第504号が、外地裁定の恩給について恩給局長を新たな裁定権者
として定めたことと規則28条とを整合的に解釈すれば、外地裁定の恩給について
は、恩給請求権者において、その受給資格を確認するに足りる新たな恩給証書を呈
示することが必要であり、その前提として、従前の恩給証書について書換手続を行
うことが予定されているものというべきであるから、閣令第84号の規定は、勅令
第504号が要求している恩給証書の書換えに関し、その具体的手続を定めた実施
命令(執行命令)であり、執行命令の限界を逸脱するものとはいえないのである。
 なお、原告は、「日本国籍を離れた亡Bや原告に対しては、勅令第504号、閣
令第84号の規定は適用されない。」という趣旨の主張をしているが、原告が、日
本国の恩給法に基づいて、日本国に対して恩給を請求している以上、勅令第504
号、閣令第84号の規定が適用されることは当然であり、上記主張は失当である。
イ)細則11条による支給決定の必要性
 恩給法10条の2第2項は、死亡した恩給権者が生存中に恩給局長の裁定を受け
ているときは、遺族又は相続人は、自己の名をもって恩給の支給を受ける旨を定
め、細則11条は、この場合、遺族又は相続人は、恩給局長に対して未支給金の請
求をし、恩給局長の支給の決定を受ける必要がある旨を定めているところ、この恩
給局長の決定は、死亡した恩給権者に対する関係では、具体的に発生しており、そ
の内容が確定していた請求権であっても、恩給法の規定による要件に従ってこれを
取得する遺族又は相続人が誰であるかは、常に一義的に明確であるとは限らないか
ら、恩給局長の裁定と同様に、請求者が未支給金を受けることのできる遺族又は相
続人に該当するか否かを統一的見地から公権的に確認するものであり、行政処分に
当たるものというべきである。したがって、恩給法10条の2第2項所定の遺族又
は相続人は、恩給局長の決定があって初めて具体的な恩給支給請求権を取得するも
のであり、この決定を得ないまま恩給の支払を請求することは許されないものとい
うべきである。
(2)原告
 被告の主張はすべて争う。
ア)被告の主張ア)について
 被告は、「既に外地裁定を受けている恩給権者であっても、閣令第84号に定め
る恩給証書の書換えを受けない限り、恩給の支給を受けることはできない。」と主
張するが、このようにいったん具体的な恩給支給請求権を取得した者に対して、そ
の権利行使のために特別な制限を課すことは、国民の権利に制限を加えることにほ
かならないのであるから、法律上の根拠があって初めて許されるものというべきで
ある。したがって、執行命令にすぎない閣令第84号によってこのような定めをす
ることは許されないものというべきである。また、閣令第84号が制定された昭和
21年当時、亡Bや原告は、日本の統治権が事実上及ばない台湾に居住しており、
上記閣令の存在は知らなかったし、被告においても、閣令の内容を周知させるため
の努力は何らしていなかった。したがって、閣令第84号は、亡Bや原告に対して
は適用されないものというべきである。
 同令が原告に適用されるとすると、恩給証書亡失についての公の証明書ひとつを
とっても不可能を強いるものといわざるを得ず、そのような不可能な事態を発生さ
せることからしても、原告に同令を適用しようとすることは誤りである。
イ)被告の主張イ)について
 被告の主張イ)は争う。既に恩給裁定を受けた恩給権者の遺族又は相続人は、当
然に恩給の支給請求権を取得するものというべきである。
3)原告による亡Bの恩給請求の可否について
 (1)原告
 亡Bの妻子は別紙記載のとおりであって、亡Bの子であり、同人死亡当時におい
て相続人に当たるのは、C、D、E、原告、F、G、Hの7名であり、原告は、亡
Bの遺産につき7分の1の相続分を有している。
 恩給法10条の2、73条の2は、同順位の遺族が2人以上いる場合には、総代
者を選任し、その総代者から恩給の支給を請求すべき旨を定めているが、戦後の台
湾在住の旧日本人の置かれた特殊な立場や、亡Bの恩給請求権は、同人の積立金を
給源の一部としているものであって、財産権としての一面を持っていることなどの
事情を考慮すると、原告は、亡Bの本給請求権のうち、少なくとも自己の相続分で
ある7分の1に相当する分を単独で請求することができるものというべきである。
(2)被告
 原告の主張は争う。
 仮に原告が亡Bの相続人であったとしても、その総代に選任された上、恩給証書
の書換え及び恩給局長の支給決定を受けなければ、直ちにその相続分相当額の支払
を請求することはできない。
4)恩給受給権の時効消滅の有無について
 (1)被告
 仮に、原告が主張するとおり、亡Bが恩給について外地裁定を受けており、しか
も、恩給局長による恩給証書の書換手続等を経るまでもなく、その恩給受給権を行
使し得るとすれば、支分権としての恩給支給請求権(恩給の支給期ごとの恩給支給
請求権)は、「国に対する権利で、金銭の給付を目的とするもの」として、会計法
30条、31条により、時効の援用を要することなく5年で時効により消滅するこ
とになる。ところで、亡Bが有する支分権としての恩給支給請求権は、台湾におけ
る最後の恩給支給時(昭和21年1月期ころ)に発生していたものと解されるか
ら、その時から既に5年が経過し、同人の恩給支給請求権が時効消滅していること
は明らかである。
 原告は、亡Bによる恩給支給請求権の行使は不可能であったという趣旨の主張を
しているが、台湾人が恩給支給請求権を行使することについて法的な制限はなかっ
たし、事実上も、これを不可能とするような事情はなかった。このことは、現実に
台湾人からの恩給支給請求があり、これに基づいて恩給が支給された例があること
からも明らかである。したがって、原告の上記主張は失当である。
 なお、被告が主張するように外地裁定がされた恩給について恩給証書の書換えを
要するとの解釈を前提とすると、支給期ごとの恩給給与金の支払請求権たる支分権
は、書き換えられた恩給証書が交付されて初めて行使できるものであるから、現実
に書き換えられた恩給証書の交付を受けていない台湾住民については、その消滅時
効は進行していないと考えられる。
(2)原告
 被告の主張は争う。原告は、亡Bの恩給支給請求権は昭和21年1月ころには行
使が可能であったと主張するが、戦後の混乱期に当たる当時の状況の下において
は、これを行使することは不可能であったというほかはないから、上記主張は失当
である。また、昭和27年の日華平和条約締結後においても、台湾人による恩給請
求権の行使が不可能に近いものであったことには変わりがなく、昭和47年の日中
共同宣言後は、更にその困難性が増したものである。以上のような事情を考えれ
ば、亡Bの恩給支給請求権について、消滅時効期間が進行することはなかったもの
というべきであるし、仮に消滅時効期間が進行するとしても、上記のような事態が
発生した原因は、被告による台湾の植民地支配にあり、被告の責任によるものとい
うべきであるから、被告が時効消滅の主張をすることは、信義則に違反し、許され
ないものというべきである。
5)昭和27年4月8日以降の分の恩給請求権の有無について
(1)被告
 恩給法9条1項3号は、恩給受給権者が日本国籍を失った場合には、恩給請求権
を失う旨を定めているところ、亡Bは、昭和27年4月7日のサンフランシスコ講
和条約の発効により、日本国籍を失った。したがって、亡Bについて、同月8日以
降の恩給受給権が認められないことは明らかである。
 原告は、同日以降も恩給受給権を失うことはないとして種々主張しているが、こ
れらの主張はいずれも失当である。
(2)原告
 恩給法9条1項3号は、恩給受給権者が日本国籍を失った場合には、恩給請求権
を失う旨を定めている。しかしながら、恩給は、単なる恩恵ではなく、受給権者で
ある公務員の拠出金をその主要な原資としており、当該拠出金の返還という一面も
有しているのであるから、受給権者である当該元公務員の財産権としての性格を有
するものというべきである。したがって、このような恩給受給権を、国籍を喪失し
たという一事のみをもって奪うことは、財産権の侵害であり、憲法29条に違反す
るものというべきである。
 また、恩給法9条1項3号は、元公務員が自らの意思に基づいて日本国籍を失っ
たときには、自らの選択の結果として恩給受給権を喪失する旨を定めたものであ
り、亡Bのように、自らの意思とは関係なく、一方的に日本国籍を奪われた場合に
は適用されないものと解すべきである。
 更に、台湾人は、昭和27年の日華平和条約により中華民国の国籍を取得したも
のと解されるところ、日本国は、昭和47年の日中共同宣言によって日華平和条約
が無効であることを宣言し、同条約は無効となったのであるから、台湾人が中華民
国の国籍を取得する根拠は失われ、日本国籍に復帰したものと解される。したがっ
て、亡Bの恩給受給権も、日本国籍への復帰により復活したものと解すべきであ
る。
6)陳謝文交付請求権の有無について
 (1)原告
 前記のとおり、亡Bは、18年間にわたり日本の統治下における台湾の公学校の
教員として勤務し、日本国民として、台湾における公教育に心血を注ぎ、日本国の
公教育に多大な貢献をしたが、終戦後は、このような貢献のゆえに、「日本帝国主
義の手先」として批判や迫害を受けることとなった。また、原告自身も、昭和20
年3月に台北二中を卒業すると同時に学徒出陣して日本国のために戦い、終戦後
は、そのことの故に不利益を受けることとなった。このように亡Bも、原告も、被
告のために貢献し、特別な犠牲を払ったにもかかわらず、被告は、亡Bや原告の貢
献に対して報いようとはしなかったばかりか、亡Bに対する恩給支給を一方的に打
ち切って同人を経済的苦境に陥らせるなど国家としての責任や道義に反する不当な
取扱いをしてきたのであり、これによって亡Bや原告が受けた精神的、経済的損害
には筆舌に尽くし難いものがあった。
 したがって、原告は、自ら及び亡Bの相続人として、憲法及び民法723条の趣
旨に体現されているところの条理に基づき、被告に対し、国家としての責任や道義
に反する行為を行ったことについての陳謝を求めることができるものというべきで
ある。なお、原告が、陳謝文の交付を、民法723条そのものではなく同条や憲法
に体現された条理に基づいて請求しているのは、原告の請求の目的が、被告の不法
行為責任を糾弾することにあるのではなく、被告の法と信義を国の名誉と尊厳にお
いて顕現することを目的としているからである。
(2)被告
 原告の主張は争う。原告の主張する「条理」は、その内容が曖昧であるばかりで
はなく、陳謝文交付請求権の発生根拠となり得るものでもない。
第3 争点に対する判断
 1 亡Bの恩給受給資格について
 前提事実に記載したとおり、台湾総督府職員録の記載や、学校長の証明書によれ
ば、
1)大正10年3月31日から同11年3月31日までは台北県林口郷嘉寶国民小
学校に、
2)大正11年3月31日から同14年3月31日までは五股国民小学校に、
3)昭和2年当時は新荘第二公学校に、
4)昭和3年当時は老梅公学校に、
5)昭和4年、5年当時は新荘第二公学校に、
6)昭和8年から昭和13年(正確には昭和14年3月31日)までは山脚公学校
に、
それぞれ勤務していたBなる人物が存在することが認められ、甲第7、第23号証
及び弁論の全趣旨によれば、上記Bと亡Bとは同一人物であることが認められる。
 また、上記事実及び各証拠によれば、大正14年4月から昭和元年までと昭和6
年、7年については、台湾総督府職員録等の直接裏付けとなる客観的証拠は提出さ
れていないものの、亡Bが台湾の公学校の教師として勤務していたことを推認する
ことができるものというべきである。
 そうすると、亡Bは、大正10年3月31日から昭和14年3月31日にかけて
の18年間、台湾の公学校の教育職員として勤務していたものというべきであるか
ら、当時の恩給法の規定に基づき、恩給受給権を取得していたことになる。
 そして、原告は、「亡Bは、恩給についての外地裁定を受け、月額22円の恩給
の支給を受けていた。」と主張するところ、この主張の裏付けとなる恩給証書等は
提出されていないものの、昭和14年に恩給受給権を取得した亡Bが、終戦を迎え
る昭和20年までの間に、その権利を行使しなかったものとは考えられないこと
や、原告の主張する恩給の額(月額22円)が、恩給法に基づく恩給金額(退職時
の報酬である月額66円の150分の51)と概ね合致すること等の事実に、甲第
7、第23号証の記載等を併せると、亡Bに対し恩給についての外地裁定がされて
いたものと推認することができるものというべきである。
 以上によれば、亡Bは、終戦を迎える昭和20年までの間に恩給受給権を取得
し、外地裁定も受けて既に恩給の支給を受けていたことになる。
2 恩給に関する裁定等の要否について
 被告は、原告が、亡Bの恩給の支給を請求するためには、①閣令第84号に基づ
く恩給証書の書換え、②遺族又は相続人に恩給を支給する旨の決定が必要であり、
これらを経ないまま直接恩給の支給を請求をすることはできないと主張する。
 そこで検討するに、①の点についての被告の主張は、既裁定の恩給の支払を請求
するには恩給証書又は裁定通知書(以下、これらをまとめて「恩給証書等」とい
う。)を支給庁に呈示しなければならない(恩給給与規則28条)こと、すなわ
ち、請求が要式行為であることを前提として、終戦に伴って台湾総督等の裁定庁が
消滅することに伴い、その裁定に係る恩給について恩給証書の書換えを要求するこ
とは、外地において未裁定の恩給について恩給局長が裁定を行うこととしている勅
令第504号が要求していることであるから、閣令第84号の定める恩給証書の書
換手続は勅令第504号の施行命令としての定めであるというものである。
 しかしながら、既裁定の恩給の請求が要式行為か否か自体についても、恩給法に
は直接的な規定は見当たらないのであり、同法は、基本権としての恩給請求権の発
生は、裁定という行政処分にかからせているものの、それによって発生する支分権
としての恩給請求権の行使については単に請求という文言を用いるのみで、何らの
手続規定も置いていないのであるから、その請求は要式行為ではないと考えるのが
むしろ素直な解釈ともいえよう。そうであるとすると、被告のこの点に関する主張
は、その前提に疑問の余地があるといわざるを得ない。そして、このことは、支給
決定という恩給法の規定しない行政処分の存在を前提とする点で、②の点について
の被告の主張にもあてはまるところである。
 このように、この争点についての被告の主張は直ちには是認し難く、さらに検討
の余地があるが、仮にこの点についての原告の主張に理由があるとしても、さらに
恩給請求権の消滅時効の成否及び原告が単独で請求することの可否といった次の問
題点も存するので、この争点については疑問を留保するにとどめ、項を改めて次の
問題点について検討する。
3 恩給請求権と消滅時効及び原告単独による請求の可否
 仮に、原告が主張するように、恩給証書の書換手続を要せず、恩給局長の支給決
定を経ることなく恩給を請求することが可能であるとしても、被告は、第1に、原
告が主張する恩給請求権は時効によって消滅している、第2に、原告が亡Bの相続
人であるとしても、他の相続人から総代として選任されなければ、単独で恩給を請
求することができないと主張する。
 このうち、第1の時効消滅の点については、仮に上記2の点についての被告の主
張が誤っていたとすると、被告は誤った法解釈に基づいて原告の請求を拒んでいた
ことになることや、戦後これまでに至る我が国と台湾との関係等の諸般の事情にか
んがみると、被告が時効の利益を主張することには疑問があるため、上記2と同様
に、その被告の主張については疑問を留保せざるを得ない。
 これに対し、第2の点については、恩給法10条の2、3、73条の2の文言か
らして、被告の主張に疑問を差し挟む余地はない。原告は自己の相続分相当額につ
いては単独で請求し得る旨主張するようであるが、恩給法は、恩給請求権を一般の
相続の対象外とし、受給権者等の死亡に伴う請求権の承継についてもすべて同法の
定めによって決しているのであるから、上記の主張は通常の相続法理を前提とする
点において採用の限りではないし、このように恩給法が一般の相続法理と異なった
定めを置くことについては、恩給という事柄の性質上、立法政策の範囲内のものと
いうべきであって、憲法違反の問題が生ずるものでもない。
 そうすると、原告の未払恩給の請求は、その余の点について判断するまでもな
く、相続人の一人であると主張するのみで、総代として選任されていないことから
して理由がないこととなる(被告はこの点について訴えの却下を求めているが、原
告が金銭の給付を求めていることからすると、訴え自体は適法とし、理由がないも
のとして棄却するのが相当である。)。
4 亡Bの昭和27年4月28日以降分についての恩給受給資格
 亡Bは、昭和27年4月28日、サンフランシスコ講和条約の発効により、日本
国籍を喪失したものというべきところ、恩給法9条1項3号は、恩給受給権者が日
本国籍を失った場合には、恩給請求権を失う旨を定めているのであるから、同日以
降の恩給請求権をも失ったものと解さざるを得ない。
 原告は、①恩給受給権は、受給権者である公務員の拠出金をも原資とした財産権
であるから、これを国籍の喪失という理由で喪失させることは財産権の侵害に当た
り、恩給法9条1項3号は、憲法29条に違反し、無効である、②恩給法9条1項
3号は、自らの意思で日本国籍から離脱した場合の規定であって、自らの意思と関
わりなく日本国籍を喪失した場合には適用されない、③亡Bは、昭和47年の日中
共同宣言によって日華平和条約が無効とされたことにより、日本国籍に復帰したか
ら恩給受給権も復活するといった趣旨の主張をしている。
 しかしながら、恩給受給権は、あくまでも恩給法の定めに従って発生するものな
のであるから、同法所定の事由によって、受給権が消滅したとしても、恩給制度そ
のものが予定するものであって財産権の侵害に当たるものではないというべきであ
る(恩給法9条1項3号の規定は、当初から存在したものであって、これが新たに
導入されたために、亡Bが恩給受給権を喪失した場合とは異なる。)。また、恩給
法9条1項3号の規定が、自らの意思に基づいて国籍を離脱した場合と自らの意思
に基づかずに国籍を喪失した場合とを区別し、前者のみをその対象としているもの
と解すべき根拠は見当たらない。更に、昭和47年の日中共同宣言によって亡Bが
日本国籍に復帰したと解すべき根拠はないし、この点を措くとしても、国籍が復活
することと、恩給受給権が復活することとは別の事柄であるところ、恩給法上、い
ったん消滅した恩給受給権が国籍の復活によって復活すると解すべき根拠もない。
以上によれば、原告の①ないし③の主張はいずれも失当であり、採用することはで
きないものといわざるを得ない。
5 今後の原告による未払恩給の請求について
 上記1ないし4からすると、昭和27年4月28日以降の分については亡Bが恩
給受給資格を失っているため未払の恩給がないこととなるが、それ以前の分につい
ては、未払の恩給が存在すると認められるのであり、しかも被告は、その主張を前
提とすると、書き換えられた恩給証書の交付を受けていない者については恩給給与
金の支払請求権に関する消滅時効が進行しないという立場を採っているのであるか
ら(この点については、先に指摘した被告の主張についての疑問点にかかわらず、
原告において特に留意すべきである。)、原告としては、総代に選任された上で恩
給証書の書換え及び恩給局長の支給決定を求め、その手続内において亡Bが上記1
のとおり既に恩給裁定を受けていたことや自己の地位等について証明することがで
きれば未払恩給の請求が可能となる。
 なお、原告は恩給証書の書換手続を要求することは不可能を強いるものであると
主張する(当裁判所が、原告代理人を通じて、本訴とは別個に総代選任等の手続を
履践した上で恩給の請求をする意思の有無を質したのに対し、原告があくまで本訴
による解決を求めたことも、このような懸念に基づくものと思われる。)。しかし
ながら、恩給証書の書換手続は、あくまでもその申請者が既に外地裁定を受けてい
たか否かを認定して行うべきものであって、その認定に当たって証拠方法を特定の
書類に限定することは許されないと解すべきであるから、閣令第84号所定の提出
書類についてもこのような見地から柔軟に解釈運用を行うべきものである。そし
て、被告の主張に基づけば、恩給局長がこれに反する解釈運用により書換を認めな
い場合には、その処分の取消訴訟を提起することも可能となるのであり、これらを
前提とする限り、原告の主張は失当といわざるを得ない。
6 陳謝文の交付請求について
1)請求の根拠について
  原告は、「陳謝文の交付請求の根拠は、国家賠償法ではなく、憲法及び民法7
23条の趣旨に体現されているところの条理にある。」という趣旨の主張をしてい
るが、原告のいうところの条理に基づく請求権が、どのような要件の下に、どのよ
うな内容を持つものとして発生するのかといった点については具体的な主張がな
く、その主張自体曖昧であって採用することはできないものといわざるを得ない。
2)恩給の不支給について
 原告の主張及び原告が交付を請求している陳謝文の内容に照らしてみると、原告
は、支給を受けていないと主張する昭和21年11月分以降の恩給全部について、
被告が亡Bにこれを支給せず、その権利を失わせたことが違法であるとして陳謝文
の交付を請求しているようにも解されるので、以下、この点について判断する。
(1)昭和27年4月27日までの恩給について
 まず、上記のうち、昭和21年11月から昭和27年4月27日までの恩給につ
いては、亡Bにその受給権があったことは明らかである。もっとも、上記5のとお
りの手続を履践することにより、亡Bの未受領恩給の支給を受けることは、現在で
も可能であるというべきである。
 したがって、亡Bが、上記の分の恩給受給権を失ったということはできないので
あるから、恩給受給権の喪失を理由とする請求は、その前提を欠くものといわざる
を得ない。
(2)昭和27年4月28日以降の恩給について
 亡Bが昭和27年4月28日以降の恩給請求権を失ったこと、そのことについて
被告に違法な点が見当たらないことは、前記4のとおりである。
3)その他の事由について
 原告の主張は、元日本国民として日本国に貢献した亡Bや原告に対し、その貢献
に十分報いるような恩給制度を設けなかったばかりか、現行法上の恩給について
も、恩給受給権ないし恩給支給請求権を行使することを困難とさせ、あるいは、行
使が困難な状況が存在するのにこれを改善しなかったことが違法であると主張する
ものとも解することができる。
 そこで、この点について検討するに、亡Bが、台湾の公学校の教育職員として戦
前の日本国の教育事業に貢献したことや、原告が学徒出陣兵として戦い、日本国に
貢献したことは事実であると認められ、このような亡Bや原告からすれば、日本国
に貢献したにもかかわらず、日本国籍を喪失したことを理由として恩給受給権が消
滅したものとして扱われたことや、それ以前の恩給も支給されないままで今日に至
っていることは極めて不当な取扱いであると受け止めることにも無理のないところ
があると考えられる。しかしながら、上記主張のうち、日本国籍の喪失を理由に恩
給受給権が消滅したものとして扱ったことが違法であるとする部分は、結局のとこ
ろ、恩給法9条1項3号を削除又は改正しなかったことの立法上の不作為が違法で
あると主張するものに帰着するところ、立法上の行為が違法とされるのは、例え
ば、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず、国会があえ
て当該立法を行うなどといった極めて例外的な場合に限られるところ(最高裁判所
第一小法廷昭和60年11月21日判決、民集39巻7号1512頁)、本件にお
いて、恩給法9条1項3号を削除又は改正しなかったことが、上記のよ
うな意味での違法行為に当たるとまで断定するに足りるだけの主張立証はされてい
ないものといわざるを得ない。また、亡Bが日本国籍を喪失する前の恩給に関して
みても、亡B又は原告が、今日に至るまで、この恩給証書の書換制度を利用して恩
給の支給を受けることができないでいることも、被告の一方的な責任に基づくもの
であって違法であると断定するに足りるだけの主張立証はされていないものといわ
ざるを得ない。
 そうすると、本訴を提起した原告の心情は理解できないではないものの、被告の
行為に違法があったと断定することは困難であるし、陳謝文の交付を要求するに足
りるだけの事情が存したものということも困難であるといわざるを得ないのであ
る。
4)以上によれば、原告の本訴請求中、陳謝文の交付を求める部分も、理由がなく
棄却するほかはない。
第4 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することと
し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主
文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第3部
        裁判長裁判官       藤   山   雅   行
           裁判官       鶴   岡   稔   彦
           裁判官       加   藤   晴   子
               陳 謝 状
 日本国は、1895年、台湾・澎湖島を併合し、貴殿の尊父B氏は日本国国民と
して小学校教師の教育公務に18年間奉職され、文官として恩給受給有資格者とな
られました。これに対し、日本国は1945年11月からB氏を恩給受給資格者か
ら除外しました。これによって日本国はB氏及び貴殿に対し、多大な損害を与え名
誉を毀損しました。これは日本国の敗戦によっても失ってはならない国家の責任と
道義に反し、法的責任を放棄したもので、誠に恥ずかしく、こころから陳謝するも
のです。
(親子関係図 略)

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