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平成11年(ネ)第459号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成12年10月26日口頭弁論終結。原審・東京地方裁判所平成8年(ワ)第18
246号
     判    決
 控訴人(被告)       四国化工機株式会社
 代表者代表取締役      【A】
 訴訟代理人弁護士      牧野利秋、久田原昭夫、久世勝之
 補佐人弁理士        岸本瑛之助、廣田雅紀
 被控訴人(原告)      エービーテトラパック
 代表者           【B】
 被控訴人(原告)      日本テトラパック株式会社
 代表者代表取締役      【C】
 被控訴人ら訴訟代理人弁護士 長谷川純
 補佐人弁理士        清水正三、田中義敏、三好秀和、岩崎幸邦、鹿又
弘子、米山尚志、原裕子
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。」との判
決。
第2 事案の概要及び争点に関する当事者の主張
 原判決事実及び理由中の第二及び第三に記載のとおりである。すなわち、被控訴
人らは、被告物件(イ号物件及びロ号物件のヒートシール装置)が、被控訴人エー
ビーテトラパックにおいてその特許権を有し、被控訴人日本テトラパック株式会社
においてその専用実施権の設定を受けた特許第2501777号の本件発明(名称
「包装積層品をヒートシールする装置」)の技術的範囲に属するとして、控訴人に
対し、被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償金の支払
を求めた。
 原判決は、被告物件が本件発明の技術的範囲に属するものと認め、損害賠償請求
の一部を棄却したほかは、被控訴人らの請求を認容した。
 本件発明は、昭和57年10月8日にした特許出願(原々出願。原判決の略称は
「昭和57年出願」)を平成4年9月30日に分割した特許出願(原出願)から、
平成6年7月26日更に分割出願したものが、平成7年10月4日の補正(本件補
正)を経て特許を受けている。
第3 控訴理由(要点)
 1 構成要件D、Eの充足性を認めた認定の誤り
 (1) 被告物件は、本件発明の構成要件である
  ① 「一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で
高周波誘導加熱し」との構成(構成要件D)
  ② 「導電性の棒(7)にはシール帯域以内で高周波加熱により溶融された熱
可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)」との構成(構成要件E)
 を充足しない。
 (2) すなわち、被告物件においては、次のとおり本件発明の構成要件を充足しな
い。
 (2)-1 シール帯域以内のみで、導電性材料を高周波誘導加熱するものではない
(シール帯域の外側の加圧されていない溶融帯域をも高周波誘導加熱するものであ
る。)。
 (2)-2 導電性の棒の突条は、シール帯域以内のみで溶融された熱可塑性材料を
押し流すものではない(シール帯域の外側の加圧されていない溶融帯域にも溶融さ
れた熱可塑性材料層を押し流すものである。)。
 (2)-3 構成要件Eの「突条」はシール帯域を形成するためのものである以上、
一本の連続したものでなければならないが、被告物件の突条はその構成となってい
ない(それぞれの間に間隔のある3本又は2本である。)。本件発明のシール帯域
は、横シールをするための領域であり、横シールは紙容器などの機能上、紙容器の
横シール部分を端から端まで連続して行わなければならないからである。
 (3) 本件発明は、
 ① シール帯域の両外側領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層が引き続き
固体の状態を保ち、互いに対向して押し付けられる、
 ② それによって、ふくらみ部分すなわちたい積部分が形成される、
 ③ ふくらみ部分すなわちたい積部分において二つの層が乱流を起こす、
 ④ それによって、二つの層が完全に融合される程度にまで混合されて、不純物
等が熱可塑性材料に混ぜ込まれる、
 という作用効果を有する。
 ②、③、④の作用が生じるためには、①の作用が不可欠であるが、このような作
用は、熱可塑性材料が「シール帯域以内」のみで高周波誘導加熱されることによる
しかない。もし、シール帯域外も高周波誘導加熱するならば(つまり、加圧されな
い領域まで高周波誘導加熱するならば)、熱可塑性の層はシール帯域の両外側帯域
において固体の状態を保つことができなくなるからである。
 また、②の作用は、「該シール帯域以内で、高周波誘導加熱により溶融された熱
可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条」との記載が熱可塑性材料層がシール帯
域外にも押し流されることを意味するものとしたならば、溶融された熱可塑性材料
はシール帯域外に流出するのであるから、ふくらみ部分すなわちたい積部分など形
成されようはずもないのである。
 以上のとおり、「シール帯域以内」という文言を「シール帯域外」を含まないも
のと解釈しなければ、本件明細書に明瞭に記載された作用効果を生じないものとな
ってしまう。
 (4) 被告物件が特徴としているところは、
 ① 切断側のシール帯域の外側隣接部分(シール帯域外)まで高周波誘導加熱が
なされており、かつその部分では加圧がされていない、
 ② この加圧されていない隣接部分において、シール帯域内の溶融した熱可塑性
材料が流出し、溶融流出部を形成する、
 ③ 突条は、3本又は2本であり、それぞれの間に間隔が存在する、
 ④ 突条に隣接する加熱領域と突条の他の側の作用面との間には、レベルの差が
存在しない、
 というものである。
 被告物件は、本件発明の不可欠な構成であるところの、①シール帯域以内のみに
おける高周波誘導加熱による溶融、②溶融した熱可塑性材料をシール帯域以内のみ
で押し流すための、シール帯域両外側帯域における固体の材料層の圧接、③1本の
連続した突条、④作用面のレベルの差をすべて有していない。
 2 本件特許の無効
 (1) 原出願が、原々出願(昭和57年出願)からの適法な分割出願であれば、原
出願の出願日は昭和57年10月8日(優先権主張日・昭和56年10月8日)で
あるが、原出願は原々出願と同一発明であって、不適法な分割出願であり、原出願
の出願日は、その現実の出願日である平成4年9月30日になる。したがって、本
件出願日は、原出願の出願日以前には遡及しない以上、原出願の日である平成4年
9月30日である。
 そして、本件発明は、その前に頒布された刊行物である原々出願の公開公報(特
開昭58-134744号公報)に記載されていて、出願前公知のものであること
は明白である。
 (2) 原々出願(昭和57年出願)明細書及び原出願明細書には、溶融熱可塑性材
料をシール帯域以内にのみ押し流す構成、すなわち、シール帯域の突条に対応しな
い部分(隣接領域)に溶融熱可塑性材料のたい積部分を形成するためにシール帯域
のすぐ外側に溶融されていないが加圧されて互いに押しつけられている熱可塑性材
料層の領域がなければならないことをその本質的特徴とする発明のみが開示され、
この技術的思想に反するところの、溶融熱可塑性材料をシール帯域の外にまで押し
流す構成、たい積部分を形成しない構成、又はシール帯域以外を加熱する構成は記
載されていないし、また、これが当業者に自明な事項とはいえない。
 このように、本件出願の基礎となった原出願明細書には、たい積部分を形成させ
る発明のみが開示されていたのであって、原判決のように、「たい積部分が存する
ことは、本件発明の要件ではない」と認定した場合には、原出願明細書に開示され
ていない発明につき分割出願を認めることに帰し、本件出願は不適法な分割出願と
なる。そうすると、本件出願は、不適法な分割出願として出願日遡及の利益を受け
ることはできず、現実に出願された平成6年7月26日が出願日となり、原々出願
の出願時の明細書(特開昭58-134744号公報)の特許請求の範囲に記載さ
れていた発明と同一の発明となって、本件特許権の無効は明白である。
 また、原判決のように認定した場合には、本件出願は上記のように現実に出願さ
れた平成6年7月26日を出願日とする出願となるから、本件出願においては、当
初明細書に開示されていなかった発明を特許請求の範囲に加える補正をしたことに
なり、その補正はいわゆる新規事項の追加として不適法なものとなり、本件特許権
は明白に無効となるべきものとなる。
第4 当裁判所の判断
 1 技術的範囲の属否
 当裁判所も、被告物件は本件発明の技術的範囲に属するものと判断する。その理
由は、次のとおり控訴理由について補足するほか、原判決の事実及び理由中の第四
の一ないし三に説示されているとおりである。(原判決55頁5行目の「前記第二
の一のとおり」は「前記第二の二2のとおり」の誤記であり、70頁3行目の「い
ずもれ」は「いずれも」の誤記である。)
 (1) 控訴人が当審において主張する主要点は、本件発明では、熱可塑性材料が
「シール帯域以内のみ」で高周波誘導加熱されることが要件となっているという点
にある。
 しかしながら、本件補正後の本件明細書によれば、本件特許請求の範囲の記載か
ら、「シール帯域以内のみ」と限定すべき理由は認められない。原判決が争点1に
ついて説示するとおり、構成要件Dは「導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導
加熱し」としているから、本件発明においては、導電性材料をシール帯域において
高周波誘導加熱しなければならないが、本件発明の目的及び技術的課題に照らす
と、「シール帯域以内」と合わせて「シール帯域外」でも高周波誘導加熱する構成
を否定し、排除しているものと解することはできない。
 控訴人主張のように、「シール帯域以内」でない箇所、すなわち「シール帯域
外」でも高周波誘導加熱が行われたとしても、本件発明の作用効果(原判決事実及
び理由の第四の一2)を奏することがないものとは認められず、作用効果の点から
みても、本件発明の高周波誘導加熱される箇所について、控訴人の上記主張のよう
に「シール帯域以内」のみに限定して解することはできない。
 (2) その他、構成要件Eの突条の連続性についての主張を始め、被告物件が本件
発明の構成要件を充足しないとする控訴人の主張については、引用した原判決が説
示する理由を超えて補足すべきところはなく、被告物件は本件発明の構成要件を充
足する。
 2 本件特許が無効か否か
 (1) 本件特許の無効の有無に関する原審争点3(本件補正の要旨変更の有無)の
判断は、原判決事実及び理由中の第四の四に説示されているとおりである。
 (2) 本件特許については、控訴人ほか1名から無効審判の請求があり(特許庁平
成10年審判第35163号及び第35204号)、分割要件違反に基づく特許法
29条1項3号違反(本件出願は適法に分割されたものでなく、出願日は現実の出
願日である平成6年7月26日となり、本件発明は平成5年10月19日公開の原
出願の公開公報の図4に記載された発明である、とするもの)による無効事由も主
張されている。同無効審判請求事件については、原出願が原々出願から適法に分割
出願されたものではないことを理由に、本件出願も原出願の現実の出願日より前に
は遡及しないとし、本件発明は特開昭58-134744号公報(原々出願の公開
公報)に記載された発明であるとして、本件特許を無効とすべきであると判断した
審決が平成11年8月27日にあったが(乙第36号証)、その審決取消訴訟(東
京高等裁判所平成11年(行ケ)第282号事件)において、原々出願の発明につ
いて請求項の一部(第3項)を削除する訂正が認められたことにより、上記審決の
前提が失われたことを理由に、審決を取り消す判決が平成12年9月26日にあっ
た(当裁判所に顕著)。
 したがって、上記無効審判請求事件の審決はいまだ未確定であり、他に、本件出
願が不適法な分割出願であったことを認めるべき証拠もないので、控訴人が主張す
る分割要件欠如に伴う本件特許の無効事由は明らかには認めることができない。
 (3) 控訴人は、原々出願明細書及び原出願明細書には、溶融熱可塑性材料をシー
ル帯域の外にまで押し流す構成、たい積部分を形成しない構成、又は、シール帯域
以外を加熱する構成は記載されていないと主張するので判断するに、乙第4号証に
よれば、原々出願の出願時の明細書に次の記載があることが認められる。
 ◇ 「(1) シール帯域(13)、(14)内の熱可塑性材料の外層(2)、
(3)を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱する熱可塑性材料の
外層(2)、(3)を有する包装積層品をヒートシールする方法において、シール
帯域(13)、(14)の限定された線状領域(13)内の熱可塑性の層が互いに
強力に押されるため溶融熱可塑性材料が前記領域(13)からシール帯域の隣接領
域(14)へ流出することを特徴とする包装積層品をヒートシールする方法。」
(特許請求の範囲第1項)
 ◇ 「本発明によるこの方法の好適な実施例はさらに、特許請求の範囲第2項お
よび第3項に明示された特徴を具えたものである。」(3頁左上欄7行~9行)
 ◇ 「(2) 特許請求の範囲第1項に記載の方法において、シール帯域(13)、
(14)の外側部分における熱可塑性材料の流れが非溶融材料によって阻止される
ため線状領域(13)の側に押し出されたプラスチックのたい積部分(15)が形
成されることを特徴とするもの。」(特許請求の範囲第2項)
 これらの記載からすると、上記特許請求の範囲第2項の発明は、プラスチックの
たい積部分(15)が形成されることを特徴とするものであるが、この特許請求の
範囲第2項の発明は、原々出願発明の好適な実施例の発明として記載されているこ
とが明らかであって、特許請求の範囲第1項及び発明の詳細な説明に照らし、技術
的思想としてたい積部分が形成される構成に限定した技術のみを開示しているもの
と認めることはできない。また、乙第2号証によれば、このたい積部分が形成され
る構成に限定しない原々出願明細書の開示が、原出願明細書の発明の詳細な説明に
おいて変更され限定されたと認めることもできないので、上記の点を前提として、
原判決の技術的範囲の認定の誤り及び本件発明に関し分割出願が不適法であったと
し、不適法な補正がされたとする控訴人の主張も理由がない。
 3 控訴人の責任と被控訴人らの損害
 原判決事実及び理由中の第四の五(78頁からのもの。88頁の「五」の項は
「六」の誤記)に説示されているとおりである。
 4 まとめ
 以上のとおりであって、被控訴人らの差止め及び廃棄請求は理由があり、控訴の
対象となった原判決認容の損害賠償請求部分も理由がある。
第5 結論
 よって、本件控訴は理由がない。
  東京高等裁判所第18民事部
          裁判長裁判官   永   井   紀   昭
             裁判官   塩   月   秀   平
             裁判官   橋   本   英   史

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