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大阪地裁平成20・4・9
316条の20第1項一部認容
主文
1検察官に対し,Aに係る平成19年4月27日までの取調べについての取調べ状況等報告書
を,平成20年4月14日までに開示することを命じる。
2その余の本件証拠開示命令請求を棄却する。
理由
第1本件請求の趣旨及び理由
1本件請求の趣旨及び理由は,被告人Bの弁護人ら作成の平成20年1月30日付け「証拠開
示命令請求書」及び同年3月3日付け「証拠開示命令請求書補充書」記載のとおりである。
その要旨は,被告人Bの弁護人らは,被告人Bの供述調書には「任意にされたものでな
い疑」があり,共同被告人C,同D及びAの各供述調書にも「任意にされたものでない疑」
があって,被告人Bの供述調書についてはその任意性を争う旨の,その余の被告人C外2
名の各供述調書についてはその特信性及び信用性を争う旨の主張を予定していることを
具体的に明示し,その予定主張明示に関連するものとして,上記被告人C,同B,同D
及びAについての取調べ内容等に関する取調べメモ(手控え),備忘録及び取調小票等(以
下「本件取調べメモ等」という。)並びに上記各供述者についての取調べ内容等に関する捜
査報告書(以下「本件捜査報告書」という。)並びにAについての取調べ状況等報告書その
他の刑事訴訟法316条の15第1項8号に係る書面(以下「本件取調べ状況等報告書」という。
この点は明示されていないが,当然含む趣旨に理解される。)を,刑事訴訟法316条の20
第1項に基づき開示するよう求めたところ,検察官は,本件取調べメモ等を開示しないな
どと告知したが,これは上記規定の解釈を誤ったものであるから,これらの証拠の開示
を命じるように請求するというものである。
2これに対して,検察官の意見は,平成20年2月12日付け検察官ら作成の「意見書」及び同
年3月7日付け「同(追加)」記載のとおりである。
その要旨は,取調べ内容等に関する取調べメモ(手控え),備忘録及び取調小票等(以下,
本件取調べメモ等とは別個にこれらを総称して「取調べメモ等」という。)は,専ら検察官
が自ら使用するために作成した個人的なものであって,証拠開示命令の対象にはなり得
ない,本件捜査報告書中,被告人C,同B及び同Dについての取調べ内容等に関する捜
査報告書は,既に存在するものを全て開示済みであるから,そもそも不開示という前提
事実を欠いており,Aについての取調べ内容等に関する捜査報告書及び本件取調べ状況
等報告書については,刑事訴訟法316条の17第1項所定の主張明示義務を尽くしていない
というものである。
なお,検察官は,平成20年3月26日の第13回公判前整理手続期日において,当裁判所の
求釈明に対し,本件取調べメモ等は,公判前整理手続期日に出頭している検察官のみな
らず捜査を担当した検察官の下にも存在しない旨を釈明した。
第2本件取調べメモ等及び本件捜査報告書について
1当裁判所は,平成20年3月14日の第12回公判前整理手続期日において,検察官に対し,
弁護人らの証拠開示命令請求において対象とされている本件取調べメモ等が存在するか
否かについて釈明するよう求めるとともに,同月17日,検察官に対し,刑事訴訟法316条
の27第2項に基づき,本件取調べメモ等の証拠の標目を記載した一覧表の提示を命じた。
これに対し,検察官は,同月19日付けで,上記提示命令に対して,同法309条1項に基づ
く異議の申立てをした。その中で,検察官は,上記規定により提示を命ずることのでき
る一覧表と札検察官手持ち証拠について作成されるものであることが明らかであるとこ
ろ,本件取調べメモ等は公判前整理手続期日に出頭している検察官の手持ち証拠には含
まれていないなどとして,上記提示命令は上記規定の解釈を誤ったものである旨を主張
した。そこで,当裁判所は,弁護人らの意見を聴いた上,同月24日付けで,上記検察官の
異議申立てを棄却する決定をした。これを受けて,検察官は,上記のとおり,同月26日の
第13回公判前整理手続期日において,本件の捜査主任であったE検察官に確認したとこ
ろ,本件取調べメモ等は現在,物理的に存在しないとのことであった旨を回答した。さら
に,当裁判所は,同月27日付けで,検察官に対し,本件取調べメモ等を作成したことが
あるか,作成したものの廃棄したのであれば,その時期はいつでその理由は何か等につ
いて釈明するよう求めたところ,検察官は,同年4月3日付けで,各取調べ担当検察官が,
本件取調べメモ等を作成した事実はあるが,各取調べ担当検察官とも,本件起訴により
捜査が終結し,供述調書作成等の要もなくなったため不要と判断し,起訴後1週間程度の
問に廃棄したと釈明した。
2以上を前提として,本件取調べメモ等の存否について検討する。
取調べメモ等は,一般的に,取調べ対象者の供述内容や供述態度のほか,当該供述内
容等に関する取調官の感想,当該供述等との関係において検討すべき別途収集された証
拠の内容等概要,当該供述内容等を踏まえた上で今後必要と思われる捜査の内容等が記
載されるものと推認される(検察官ら作成の平成20年2月12日付け意見書8頁)。このよう
な取調べメモ等が,取調べの状況を推知させるものとして,被告人の供述調書の任意性
や被告人以外の関係者の供述調書の特信性及び信用性を判断する上で重要な資料の-つ
となることは明らかであり,刑事訴訟規則198条の4に照らしても,当該事件の公判が終
了するまで保管しておくのが相当であると思われる。とりわけ,被告人Bの共犯者とし
て起訴され,同時に公判前整理手続を行っている共同被告人Fの弁護人らは,平成19年4
月25日の段階で,捜査担当検察官に対し,「本件について,被告人Fの取調べの全過程の
可視化を履践しないままに作成された調書については,将来の公判で証拠請求されたと
き,弁護人は,任意にされたものでない疑いがあると主張することになる。」旨を申し入
れていたようにうかがわれるから,被告人Fの取調べ担当検察官はもとより,共犯関係
にあるとされる被告人C,同B及び同Dの各取調べ担当検察官としても,将来の公判段
階における任意性等の立証に備えて,本件取調べメモ等を保管しておく必要性があった
といえる。そうすると,各取調べ担当検察官が,本件取調べメモ等を一様に廃棄してしま
ったというのは,その必要性があったのか,相当な行為といえるのかについて,少なか
らず疑問があるといわざるを得ない。しかし,検察官の上記釈明ないし回答は,本件取調
べメモ等を廃棄した時期や理由をそれなりに具体的に明らかにしたものといえるから,
本件取調べメモ等を廃棄したという検察官の主張は一応理由があり,それが虚偽である
ことを疑わせる事情は見当たらない。
被告人Fの弁護人らは,被告人Fは取調べの際に検察官がメモを作成していたのを見
た,取調べメモの重要性にかんがみれば,廃棄するはずがない旨を主張するが,これら
の主張を踏まえても,上記の結論は変わらない。
3次に,本件捜査報告書についてみると,検察官は,平成20年1月15日付け回答及び同月
24日付け回答において,被告人C,同B及び同Dの取調べ内容等に関する捜査報告書は
開示する旨回答したもの以外に存在しないと明らかにしており,さらに,Aの取調べ内
容等に関する捜査報告書についても,検察官は,平成20年3月26日の第13回公判前整理手
続期日において,検察庁には存在しない旨を回答した。検察官のこれらの回答を疑うべ
き事情は見当たらない。
4したがって,本件証拠開示命令請求のうち,本件取調べメモ等及び本件捜査報告書(A
関係)に関する部分については,これらの証拠が存在しないことに帰結し,本件捜査報告
書(被告人C,同B及び同D関係)に関する部分については,不開示という前提事実が存
在しないことに帰結するから,いずれも理由がない。
第3本件取調べ状況等報告書について
1被告人Bの弁護人らが本件取調べ状況等報告書の開示を求める前提として,弁護人ら
が刑事訴訟法316条の17第1項の予定主張明示義務を果たしているかどうかを検討する。
(1)被告人Bの弁護人らは,平成20年2月12日付け予定主張記載書面(6)において,Aの検
察官調書のうち,「賄賂金の準備状況等」との立証趣旨で,公訴事実第1に関する証拠と
して請求された甲第29号証について,任意にされたものでない疑いがあり,(Aが公判廷
で上記検察官調書と相反する証言をした場合に,その証言よりも)特に信用すべき状況な
どなく作成記載されたものであり(その意味で将来特信性を認めるべき余地が全くなく),
かつ,その信用性を全く欠くものである旨の予定主張を明示し,その具体的事情として,
次のとおり指摘した。Aは,会社の経理についても社長である被告人Dに言われるまま
極めて機械的,事務的に処理しただけで,その深い意味を判断できる能力もなく,して
もいないものである。Aが被告人Bと被告人Dの本件土地についての話の内容,まして
や分け前のことやC社長との関係性等全く知っていないのに,検察官をも被告人Dや被
告人Bが言うとる,一般的に考えてこうなるやろう,という推測論からの意見を述べさ
せ,Aが「うん。」と言うと,それだけをとらえて断定的にAの供述であると決めつけ,
同人が後で反対しても聞き入れなかった。被告人Fに手渡した1000万円の趣旨について
もAは知らない,記憶がないと言っているのに,検察官は,被告人Dや被告人Bも言う
とると言ったり,仮にの話を持ち出して,あまり知的能力のないAを誤導した。
さらに,被告人Bの弁護人らは,同月14日の第10回公判前整理手続期日において,「上
記予定主張記載書面(6)の予定主張には,検察官は,Aに対し,被告人D,被告人Bが実
際には供述していないにもかかわらず,供述しているものと虚偽を述べて誘導・誤導した
という趣旨が含まれる。」と主張した。
(2)上記の主張内容のほか,弁護人らが不同意の意見を述べたのが甲第29号証だけである
こと,その立証趣旨が「賄賂金の準備状況等」とされていること,弁護人らは,公判で予
定している主張として,被告人Bが被告人Fに交付した1000万円は賄賂ではない旨を明
らかにしていることを考慮すると,Aの検察官調書の特信性及び信用性に関する争点と
しては,賄賂金の準備をしたとされる場面に関する取調べの際に,取調べを担当したG
検察官が,Aに対し,弁護人らが予定主張として指摘するように,被告人Fに手渡した
1000万円の趣旨についてもAは知らない,記憶がないと言っているのに,検察官は,被
告人Dや被告人Bも言っていると言ったり,仮にの話を持ち出して,あまり知的能力の
ないAを誤導したり,Aに対し,被告人Dと被告人Bが実際には供述していないにもか
かわらず,供述しているものと虚偽を述べて誘導・誤導した結果,Aの認識とは異なる内
容の供述調書が作成されたのか,ということになるものと認められ,相当程度具体化さ
れたといえる。
すなわち,弁護人らは,任意にされたものでない疑いがあるため特信性及び信用性を
欠くと主張する供述調書を特定し,かつ,取調べの際の検察官の発言内容も含めた具体
的な予定主張を明示しているのであり,主張関連証拠の開示を求める前提として,刑事
訴訟法316条の17第1項の予定主張明示義務は履行したというべきである。
なお,検察官は,弁護人らの上記予定主張の明示は,弁護人らの主張関連証拠開示請
求に対する検察官の回答がされるまでの間に行われていなかったことを問題としている。
確かに,検察官による上記回答がされた平成20年1月24日の段階では,弁護人らの上記の
ような予定主張は具体的なものではなかったといわざるを得ない。しかし,少なくとも現
段階においては,既に説示したとおり,主張関連証拠の開示を求める前提としての予定
主張明示義務は履行されたと解されること,検察官は,予定主張が追完された段階で改
めて主張関連証拠の開示請求の当否を検討し,法の要請する程度の予定主張明示義務が
履行されたと判断した場合には,既にされている証拠開示請求に基づき自ら開示するこ
とも許されると解されることからすると,検察官の上記問題提起は,証拠開示命令をす
る上で妨げになるものではないというべきである。
2次に,本件取調べ状況等報告書と弁護人らの上記主張との関連性について検討する。
上記のような弁護人らの主張,とりわけ,弁護人らが予定主張として指摘するように,
被告人Fに手渡した1000万円の趣旨についてもAは知らない,記憶がないと言っている
のに,検察官は被告人Dや被告人Bも言っていると言ったり,仮にの話を持ち出して,
あまり知的能力のないAを誤導したり,Aに対し,被告人D,被告人Bが実際には供述
していないにもかかわらず,供述しているものと虚偽を述べて誘導・誤導したという主
張に照らすと,弁護人らが任意にされたものでない疑いがあるとして特信性及び信用性
を争うAの平成19年4月27日付け検察官調書(本文10丁のもの。甲29)が作成されるまでの
取調べについての取調べ状況等報告書は,上記特信性及び信用性を争う弁護人らの主張
に関連するというべきである。弁護人らは,Aが取調べ担当検察官から,弁護人らが
主張するような発言をされた時期を特定していないが,一般的に,特定の調書の作成経
緯として,それ以前の取調べが影響を与えることはあり得るといえるから,これをもっ
て関連性がないということはできない。他方,平成19年4月28日以降についてのAの取調
べに係る取調べ状況等報告書は,関連性が薄いと考えられる。
3次に,被告人の防御の準備のために開示をする必要性の程度並びに開示によって生じ
るおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して,開示を命ずることが相当といえるかど
うかについて検討する。
本件は,被告人BがH市議会議長であった被告人Fらと共謀して行ったとされる背任
被告事件であるところ,被告人Bは,背任の共謀と成立を争う旨の主張をする予定であ
る。そして,Aの上記検察官調書には,背任の共謀と成立を前提にあっせん収賄等を行
ったとして起訴されている被告人Fらに対し,被告人B及び被告人Dの贈賄側で賄賂金
を準備した状況等を目撃した旨の供述記載があるものと推測されるところ,Aが公判廷
で上記検察官調書と相反する趣旨の証言をした場合,上記検察官調書の特信性や信用性
が肯定されれば,上記検察官調書を基にして事実認定がされる蓋然性がある。そうする
と,上記検察官調書が作成されるまでの取調べにおける取調べ時間,詞書作成の有無等
が記載された取調べ状況等報告書は,Aについての取調べ状況を静定する上で客観的事
実を確定する際に,確かな裏付け証拠となり得るものといえ,開示の必要性は高いとい
うべきである(ただし,上記検察官調書の作成日後のものについては,関連性が薄く,開
示の必要性も低いというべきである。)。
他方,検察官は,取調べ状況等報告書を開示することによる弊害については,特段の
主張をしていない。しかし,取調べ状況等報告書は,取調べ年月日,取調べ担当者,取
調べ時間,被疑者供述調書作成の有無及びその数,被疑者がその存在及び内容の開示を
希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書作成の有無及びその数等の客観的事実を
記載するべきものであって,取調べ事項や被疑者の供述内容については記載されないこ
とが明らかである。そうすると,これを開示したとしても,Aの供述内容やプライバシ
ーが不当につまびらかにされるとは想定し難く,開示することによる弊害はほとんど存
在しないというべきである。
4したがって,本件取調べ状況等報告書のうち,平成19年4月27日までの取調べに関する
ものについては,開示を命ずるべきである。
第4結語
よって,弁護人らの本件証拠開示命令請求は,本件取調べ状況等報告書のうち平成19
年4月27日までの取調べに関するものの開示を求める限度で理由があるので,刑事訴訟法
316条の26第1項により,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・西田真基,裁判官・千賀卓郎,裁判官・馬場崇)

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