弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人五井節蔵の上告理由第一点について。
 論旨は、本件市議会議員選挙に際しては、開票された投票中に「D」と氏だけを
記載した投票が三三票あり、候補者中にはD長八、D武男の両名があつたので、右
投票はいずれの候補者に投票されたのか不明のところ、開票区では公職選挙法六八
条の二により右投票を有効としD両名のその他の有効投票数に按分して加算した。
しかし投票者の意思は、いずれかの特定した候補者に向けて投票したものであるか
ら、これを候補者の有効投票数に比例配分することは選挙人の意思を無視するもの
である。されば、公職選挙法六八条の二は、憲法一一条、一五条に違反し無効であ
るにかかわらず、原判決が右公職選挙法の規定を合憲と判断し上告人の主張を排斥
したことは、憲法の前記規定に違反したものであるというに帰する。
 しかし所論憲法の規定は、公務員を選挙する権利を国民固有の基本的人権として
保障したものであるが、本件のごとく、同一の氏名、氏又は名の公職の候補者が二
人以上ある場合において、その氏名、氏又は名のみを記載した投票を公職の候補者
の何人を記載したものか確認し難いものとして無効とすることなく、これを有効と
して当該候補者のその他の有効投票数に応じ按分して加算しても、それは立法政策
上の問題であつて所論憲法の規定に違反するものとはいえない。それゆえ、公職選
挙法六八条の二を合憲として適用した原判決の判断は正当であるから、所論は採る
を得ない。
 同第二点について。
 論旨は、上告人の得た投票中には「E」の氏名の上に横書にて「必勝」の二字を
書き添えた一票があり、開票管理者はこれを公職選挙法六八条五号の「他事を記載
したもの」に当るものとして無効としたが、右「必勝」の字句は上告人の人格に対
する敬慕尊崇の表現であつて、前記公職選挙法六八条五号但し書にいう「敬称の類」
を記入したものにほかならないから前記投票は有効である。しかるに、原判決がこ
れを無効と判示したことは、前記公職選挙法六八条五号の「敬称の類」の解釈を誤
り、ひいて憲法一一条、一五条にも違反するというのである。
 しかし、所論「必勝」の記載は社会観念上「敬称の類」の記入とは認められない
ので、論旨は理由がなく、原判決には所論の違法違憲はない。引用の判例は、いず
れも本件と場合を異にし適切でない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官垂水克己の補足意見および裁判官斎藤悠輔、同河村又介の反
対意見あるほか裁判官全員の一致した意見によるものである。
 裁判官垂水克己の上告理由第一点についての補足意見は次のとおりである。
 候補者の氏のみを記載した投票が実は氏を同じくする非候補者(例えば候補者の
父)に対する投票であつたというような事由の有無を調査することは憲法の保障す
る投票の秘密を侵すことになつて許されないところであるから、かような事由によ
つて投票を無効とすることは許されず、投票はその表示に従つてのみ解釈されなけ
ればならない。候補者の氏のみを記載した票はその氏を持つ候補者に投票する意思
でなされた有効のものとして扱つても、特殊の例外の場合を除き、一般的には投票
者の意思に合致するものといえよう。
 本件選挙では、候補者中にD長八、D武男の両名があり、Dと氏のみを記載した
票が三三票あつたというのであるが、右三三票は、その表示に従えば、D長八に投
票する意思をもつてした票か又はD武男に投票する意思をもつてした票であるか、
二者のうちいずれか一であると認めるのが相当である。その理由は前段に述べたと
おり。
 尤も、厳格にいうなら、D長八、D武男両候補者ある場合は、投票にはそのいず
れを指すかを更に名を示すことによつて明らかにしなければならないといえようが、
その程度まで候補者を特定しないことの瑕疵は、非候補者の氏名を記載したような
場合などと異り、相対的なものにすぎない。すなわち、Dとのみ記載された票には、
D長八が指名されている蓋然性もあり、D武男が指名されている蓋然性もあるので
あつて、これを否定することは右の投票をした選挙人の意思を実質土否定すること
になる可能性がある。右三三票をD長八に対する票としての蓋然性とD武男に対す
る票としての蓋然性とを含有するものとしてこれを活かすことの方が恐らく三三人
の投票者の意思に多少でも副うのではあるまいか。
 わが今日の選挙人中には学問できなかつたためや粗忽その他のため投票用紙に氏
だけしか書かない人も少くないことは選挙管理委員会や選挙の効力に関する事件を
審判する裁判所の熟知するところであろう。
 では氏のみを記載した票を氏を同じくする候補者間にどんな割合で配分すべきか。
 現行法は均分制を採らない。もし、均分制を採るなら、従来人気ある候補者の得
票を削減せんとする不公正な目的で人気のない同姓の候補者が立候補することによ
つてこの目的を達することなしとしない。
 これに反し、もし当該選挙の結果、氏名を記載した投票によつて同姓の甲は同姓
の乙に比し一〇倍の票を獲得したとすれば、姓のみを記載した票も恐らくは甲一〇
に対し乙一の比率とみる方が真実に近いらしく思えるといえないこともなかろう。
かよらな比率による按分方法は、有力者を一層有力にし無力者にあくまで酷である
との意見が出るかも知れないが、問題は投票者の意思は奈辺にあるかであつて、公
職選挙法六八条の二はこの種の票の配分を選挙管理委員会の公平な裁量に任せ、こ
こにその基準を定めた訳ではないのである。
 されば同条は出来るだけ選挙人の意思に副わんとする規定であつて憲法一一条、
一五条に違反するものということはできない。
 裁判官斎藤悠輔の反対意見は、次のとおりである。
 上告代理人五井節蔵の上告理由第一点について。
 わたくしは、公職選挙法六八条の二の規定が、憲法一一条、一五条に違反すると
までは考えない。ことに同選挙法六八条の二の第一項の規定は、同法六七条の趣旨
に反しないと思われるから、一応有効な規定であると考える。しかし、同条第二項
の有効投票数に応じて按分する点は、全然合理性を欠くもので、むしろ平等按分と
すべきものと考える。このことは、同法二〇九条の二についてもいえることであつ
て、わたくしの持論である。
 同第二点について。
 公職選挙法六八条五号本文の他事を記載したものを無効とする理由は明らかでな
いが、沿革的には買収に応じた旨の意思表示の記載に対する制裁的規定のようであ
る。しかし、今日ではかような考方は捨てなければならぬものと考える。同号但書
を設けた立法理由と同法六七条の原則とによつて右本文の規定はできるだけ狭く解
すべく、結局投票意思を阻害する他事記載に限定すべきである。換言すれば、同六
八条五号但書の規定はできるだけ広く解すべく、従つて、本件のごときものをも含
むものと解するのが相当である。されば、本論旨はその理由があつて、原判決は破
棄を免れないものと考える。
 裁判官河村又介の反対意見は次のとおりである。
 上告代理人五井節蔵の上告理由第一点について。
 公職選挙法六八条の二の、同一の氏名、氏又は名の公職の候補者が二人以上ある
場合において、その氏名、氏又は名のみを記載した投票は有効とし、この有効投票
は、開票区ごとに、当該候補者のその他の有効投票数に応じて按分し、それぞれこ
れに加えるものとする、という規定は、このような投票をした選挙人は、それ等の
候補者の中のいずれかに投票するつもりであつたに相違ない、そしてそのような選
挙人中の幾人がいずれの候補者に投票するつもりであつたかの問題については、当
該開票区においてそれぞれの候補者になされた有効投票の数に比例した数の選挙人
が、それぞれの候補者に投票するつもりであつただろう、という推測に基いて設け
られたものと思われる。
 しかし右のような推測はその根拠甚だ薄弱である。なるほど右のような選挙人が
右のような候補者のいずれかに投票するつもりであつたに相違ない、という推測は
一応肯ける。(もつとも厳密に考えれば、それも常にそうだとは断定できない。例
えば、選挙人の心理においては、D長八とD武男の双方に義理立てしてわざと名を
書かず、Dという氏のみを記載するというような場合もないとは限らない。しかし
その点はしばらく不問にする。)けれども単に「D」と書いた選挙人が「D長八」
又は「D武男」の有効投票の数に比例して、一群のものは「D長八」に投票するつ
もりであり、他の一群のものは「D武男」に投票するつもりであつただらうという
ことは、その蓋然性甚だ乏しく、むしろ稀有のことに属する。原告代理人のいわゆ
る揣摩臆測に近い。例えばある一人の候補者の名が記憶しにくい名であるとか、字
劃の難かしい漢字であるとかの理由によつて、その名を記載しなかつた選挙人が多
かつたというようなことのために、その名を明記した有効投票の数は少いけれども、
その名を記載しなかつた投票数は比例以上に多い、というような場合も考えられな
くはない。極端な場合を考えれば、名を記載しない投票の全部が一の候補者に投ず
るつもりでなされたであろうという可能性もあり得るし、その逆の可能性もあり得
る。さらに双方半々の場合も可能性としては考えられなくはない。要するにかかる
投票が如何なる割合においていずれの候補者になされるつもりであつたかは全く不
明なのである。しかるに公職選挙法六八条の二はこのような投票を比例的に按分し
ようとするのである。それが必ずしも選挙人の真の意思に合致するものでないこと
は、この規定を適用するためにしばしば小数点以下……票の得票というような結果
を生ずることによつても明らかである。本件の例をとつてみればD長八の総得票数
は一七〇一・八五五票となつている。しかし現実には、〇・八五五というような票
もそのような選挙人の意思も絶対にあり得ない。この規定が選挙人の実際の意思を
如実にあらわす所以でないことは、このことだけでも実証される。
 このような不合理な擬制によつてある候補者は不当に多くの票を加算され、他の
候補者は不当に少い票を加算されることがあり得る。そして二つ以上の開票区にお
ける得票数を通算することによつて不合理は更に重畳し錯綜する。その結果、選挙
人の多数の支持を得た候補者が落選したり、少数の支持を得たに過ぎない候補者が
当選したりすることがあり得る。しかもこのような逆転は同一の氏名、氏又は名の
候補者相互の間に起り得るのみならず、これ等の候補者とそうでない他の候補者と
の間にも生ずる可能性がある。
 固より私は、選挙制度における推定や擬制の悉くを不当というのではない。例え
ば公職選挙法一〇〇条に定めている無投票当選の制度は、ある選挙区における議員
としての立候補者の数がその区の議員の定数を超えないときには、投票を実施して
みても、それ等の候補者は当選に必要な数の投票を得るであろう、という推定に基
いて投票の手続を省略してそれ等の候補者を当選人とするのである。しかし厳密に
いえば、投票をしてみればある候補者は一票の得票もなかつたかもしれないという
ことが論理としては可能である。少くとも、投票してみれば同法九五条但書に定め
る法定得票数に達しないかも知れない、ということが考えられなくはない。それに
もかかわらずそういうことはたいがい形式論理の可能性の世界だけのことであつて、
通常は先ず先ず起らない。それ等の候補者は投票してみても必要な投票を得るであ
ろう、ということが多分の蓋然性を以て云える、従つてこれ等の候補者を選挙人多
数の支持を得たものとして当選人とすることには、何等の疑惧をも抱かせない。し
かし六八条の二の場合は、甚だしく恣意的で根拠の薄弱な推定に基いて合理性の極
めて乏しい取扱いがなされるのである。投票をなるべく有効なものとして選挙人の
意思を生かそうとする立法の趣旨はわからないわけではないが、事実は、正規の投
票方式に従わなかつた少数の選挙人の投票を救おうとして(実際は必ずしもこれを
救うことにならないのだが)、適法に投票した多数の選挙人の意思を蹂躙するとい
う結果にもなり得るのである。これ正に小の虫を生かさんとして(実際は必ずしも
これを生かすことにならないのだが)大の虫を殺すものではないか。わが国の選挙
法は、多年、「候補者の何人を記載したかを確認し難い」投票を無効とする(現行
公職選挙法六八条七号)という原則を堅持して来た。選挙人の意思を明確に表示し
た投票のみを有効とするこの原則は明快であつて、これを貫徹することによつて十
分事足りたと思われる。しかるに昭和二七年に至り突如として六八条の二の原形が、
その例外規定として挿入されたのである。かかる合理性に乏しい、というよりはむ
しろ多分に不合理性を孕んだ規定が、何のために設けられたのか、私はその理由を
忖度するに苦しむ。
 多数決の原則は民主主義の政治において最も主要な基本原理である。それはある
事柄を議決する場合にも、人を選定する場合にも遵守されなければならない原則で
ある。憲法は一五条、四三条、九三条等において公務員を選挙する規定を設けてい
るが、選挙制度は、選挙人多数の支持を得たものを当選者とすることを自明の理と
してその前提とする。若し選挙人多数の支持を得たものを落選者とし、少数の支持
を得たものを当選者とするというが如きことをするならば、選挙は無意味に帰し、
民主々義の機構は根抵から覆える。しかるに公職選挙法六八条の二を適用する結果、
選挙人多数の支持を得たものが落選し、少数の支持を得たものが当選するというお
それを生ずること前記のとおりである。さすればこの規定は、民主々義に不可欠の
多数決の原則に反する結果を生ずる可能性を孕み、選挙制度の基本原則を没却し、
憲法の前記諸条規に違反するものといわなければならない。この規定の存在を許す
か許さないかは、もはや単なる立法政策の問題として看過できることではなく、憲
法違反の故を以て無効として取扱わるべきものである。
 以上のような次第であるから論旨は理由あるに帰し、違憲の法律を有効とした原
判決は、その余の論旨につき判断するまでもなく、破棄を免れないものと信ずる。
     最高裁判所大法廷
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一
 裁判長裁判官田中耕太郎は退官につき署名押印することができない。
            裁判官    小   谷   勝   重
 裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。
            裁判官    小   谷   勝   重

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