弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する有罪部分を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人山本光彌、同田中征史の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張で
あつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかしながら所論にかんがみ職権をもつて判断すると、左記の理由により原判決
中被告人Aに関する有罪部分は破棄を免れない。
 原判決の認定事実の要旨は、被告人は、和歌山市内の小学校の教諭として勤務す
るかたわら、地域住民の公害防止対策運動の推進などに従事していたものであるが、
知り合いのB株式会社(以下「B」という。)の常務取締役総務部長Cから、同会
社工場の反応釜の爆発事故によつて塗装剥離などの被害をこうむらせた同会社周辺
に駐車していた一六台の自動車について、その塗装修理を原審相被告人である自動
車塗装修理業Dに行わせるなどして被害補償問題を解決してもらいたい旨の依頼を
うけてこれを受諾し、昭和四八年七月末ころから八月末ころまでの間、右一六台の
車両の各所有者と接衝しDとともに各所有者から車の引渡をうけてきてDにその塗
装修理をさせ、修理完了後は車を所有者に返納しその都度修理代金請求書をBに提
出して代金の支払いをうけてきてDに交付するなどの仕事に従事していたところ、
右一六台のうち株式会社E研究所和歌山工場(以下「E」という。)所有の軽四輪
貨物自動車については、Eの製造課長Fから再三にわたり、同社の役員会で右車両
についてはBに補償要求しないことに決定しているので修理は不要である旨いわれ
ており、したがつて、同車を修理することは所有者の意思に反し将来においても修
理する必要もその見込みもないことを知つていたところ、同様の事情を知つていた
右Dと共謀のうえ、右自動車の架空の修理代金を請求することを意図して金六万九
〇〇〇円の修理代金請求書を作成し、同年八月二八日ころ、BのG経理課長代理に
対し右事実を秘し、同車について未だ修理していないことは明らかにしたとしても
将来修理するよう装つてこれを提出し、その旨同人を誤信させ、同人を介し同会社
から同車両の修理代金名下に現金六万九〇〇〇円の交付をうけてこれを騙取した、
というのである。
 本件記録によると、原判決の右認定事実中、被告人がBのC総務部長から同認定
のとおりの依頼をうけ、同認定のとおりの仕事に従事していたこと、E所有の車両
について同会社のH課長から、どの程度明確な態度でいわれたかの点は別として、
とにかく修理辞退の申出をうけていたこと、被告人が、右Dと意思を相通じ、右車
両について同認定のとおりの修理代金請求書をBのG経理課長代理に提出し、同人
を介し同会社から現金六万九〇〇〇円の交付をうけたこと、被告人が右金員を請求、
受領した際、G経理課長代理に対しEから修理辞退の申出をうけていたことを伝え
ていなかつたことは証拠上明らかである。
 そこで、被告人に原判決が認定するとおりの詐欺の犯意があつたかどうかを検討
すると、この点について的確な直接証拠は見あたらないが、右事実によれば、被告
人はBのC総務部長から右一六台の車両全部について塗装修理をするよう依頼され
ていたとはいえ、そのうちのE所有の車両については修理辞退の申出があつたので
あるから、他に特段の事情のない限り、その修理代金をBに請求すべき筋合にない
ものであり、また、Bにおいても右修理辞退の申出の事実を知らされていたとすれ
ば同車両の修理代金の支払いを承知しなかつたであろうと考えられるのであつて、
これらの事理に照らすと、右E所有の車両について同会社から修理辞退の申出をう
けていたことを告げることなくBに対し同車両の修理代金を請求しこれを受領した
被告人には、右修理代金を詐取する意思があつたと推認されるべき根拠があり、原
判決も主としてこのような見地に立つて被告人に詐欺の犯意を肯認したものである
と窺うことができるのである。
 しかしながら、(1) 被告人の捜査官に対する供述の一部及び第一、二審公判
における供述によれば、「E所有の右車両について同会社H課長から修理はいらな
いという趣旨のことをいわれていたが、自分としてはそれは遠慮にすぎないと思つ
ていた。それに、Bから右一六台の車全部の塗装修理を依頼されていた自分として
は、被害者の方で修理を辞退しているからといつて修理をしないですましてよいと
も考えなかつた。右一六台の車の修理の期限については、BC部長から八月末まで
にといわれていたが、修理の仕事は順調に進まず、八月下旬当時でE所有の車を含
む三台が修理未着手で残つていた。そのような状態であつたところ、そのころ、C
部長から、『いつまでも修理の仕事でお世話になることはできないから、修理を依
頼した車全部について残つている修理代金の請求書を提出してほしい。それだけの
金を用意させておくから。』といわれた。自分としても、夏休みの終りが近づき新
学期の準備があつたほか、自分が交通指導員などをしていた関係で和歌山市内の小
中学生に対する交通安全教育の教師用指導書を作る仕事にも追われていたので、こ
れ以上、Bから依頼された仕事に関係しつづけることができないと思い、代金未受
領の車両全部について代金の請求をし、受領した代金をDに渡し、あとは一切Dに
任かせてしまおうと思つた。それで、八月二三日ころと二七日ころの二回に、当時
修理中又は修理済みで代金未受領の車三台と修理未着手の車三台の修理代金請求書
を作成して、そのころこれをBに持参してG経理課長代理に提出し、同月二八日、
同人から右六台の修理代金合計六一万三〇〇〇円を受領し、これをDに渡した。E
の車について修理辞退の申出のあつたことについて、これをC部長に伝えてその取
扱いについて相談しようと思つたが、請求書提出の際も代金受領の際もCが不在で
あり、G経理課長代理にその話をしても仕様がないと思つたので、同人に対しては、
右請求書中には未修理車二、三台の分が含まれていることだけを話しておいた。ま
た、Dに対しては、今後自分は修理の仕事の手伝いはできないが、未修理車につい
ても全部修理するように、Eの車については、そのうちにBに行つて話をし調整す
るから、と話しておいた。なお、G経理課長代理からは修理が全部終つたときに精
算書を提出してもらいたい旨いわれていたので、Eの車について修理しないことに
なつた場合にはその際に精算をすればよいとも考えていた。その後、自分は新学期
の準備や交通安全教育の本の作成などの仕事に追われ、さらに、九月はじめに死亡
した叔母の葬式のことで忙しく、C部長と相談することができないでいたところ、
九月六日にDが、同月八日には自分がそれぞれ逮捕された。右代金受領当時、修理
未着手であつた三台中、一台(三菱ミニカ)はその日ころ所有者から車の引渡をう
けて修理にとりかかり、もう一台(サニー、クーペ)については所有者のIの勤務
先きのEに二度ほど引取りに出かけたが、同人が出張していたり欠勤したりしてい
たため、右逮捕当時には修理未着手のままであつた。E所有の車については、最後
に修理する予定になつていたものであり、修理するつもりがないのにその代金を詐
取しようとしたのではない。」というのであること、(2) 被告人の右弁解につ
いては、原審相被告人Dが第一、二審公判においてほぼこれに沿う趣旨の供述をし
ているほか、証人C及び同Gも第一、二審公判でこれを裏付ける趣旨の証言をして
いること、(3) 押収してあるE所有の車についての前記修理代金請求書(原審
昭五一年押一八八号の四)と右一六台中の他の一台についての修理代金請求書(同
号の二)とを対照すると、後者には修理納車済みを明示する記入があるのに対し前
者にはそのような記入がないところ、その余の各車両についての修理代金請求書の
取調べがされていない本件では確言することはできないが、被告人において修理代
金請求書を提出する際、修理済みのものとそうでないものとを右のような記入によ
つて区別していたようにも窺われること、(4) 右(3)の事実と、被告人の前
掲供述及び証人Gの証言から窺われる最終的に被告人からGに対し一六台の車両全
部の精算書を提出する約束であつた事実を併せると、被告人の詐欺の犯意を否定さ
せる情況証拠とみることができること、(5) 被告人及びDの捜査官に対する各
供述調書中には、それぞれ、E所有の車両について修理していないのに修理済みで
あるように装つて修理代金を請求、受領した点において詐欺になると思うとの趣旨
の供述記載があるが、そのほかに被告人の右公判における弁解の信用性を失わしめ
ることになるような積極的に矛盾した供述記載はないこと、以上の事実に併せて本
件に現われた諸般の事情を総合すると、被告人において右E所有の車両について修
理する必要もその見込みもないことを知りながら将来修理するように装つてBのG
課長代理を誤信させたと認定するについては疑問があるといわなければならない。
 なお、原判決の前記認定事実と本件訴因との間には喰い違いがあり、訴因変更手
続を経ないで右のように認定することが許される場合であつたかどうかについても
問題があるといわなければならない。
 以上のとおりであつて、原判決には重大な事実誤認の疑いないし審理不尽などの
違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、かつ、原判決を破棄
しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決中被告人Aに関する有罪部分を
破棄し、同法四一三条本文に従い、本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻すこ
ととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官根岸重治 公判出席
  昭和五四年七月二〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    塚   本   重   頼
            裁判官    鹽   野   宜   慶

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