弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1の上告を棄却する。
     上告人A2の上告を却下する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人A1の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告会社の株主である上告人A1は、平成二年六月二八日、被上告会社の
第六六回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)に出席するため、本件株
主総会の会場である被上告会社本社ビルの前で、開門前の早朝から、被上告会社の
原子力発電所に関する経営方針に反対する他の株主と共に列に並び、午前八時の開
門と同時に本社ビルに入り、受付手続を済ませて会場に入場した。
 2 被上告会社は、昭和六三年一月及び二月、原発反対派の者に本社ビルを取り
囲まれたり、深夜数時間、ビルの一部を占拠されたことがあり、更に平成二年三月
に結成された「未来を考える脱原発四電株主会」等の差出人から、本件株主総会の
前に一〇〇〇項目を超える質問書の送付を受けていたことなどから、本件株主総会
の議事進行が妨害されたり、議長席及び役員席を取り囲まれたりするといった事態
が発生することをおそれ、被上告会社の株主である従業員ら(以下「従業員株主ら」
という。)にあらかじめ指示をし、本件株主総会当日、従業員株主らをして午前八
時の受付開始時刻前に会場に入場させ株主席のうちの前方部分に着席させた。
 3 会場には株主席として約二三〇の椅子が並べられていたが、上告人A1が会
場に到着した時には従業員株主らが既に株主席の最前列から第五列目までのほとん
ど及び中央部付近の合計七八席に着席していた。上告人A1は、前から第六列目の
中央部付近に着席した。
 4 上告人A1は、本件株主総会において、議長から指名を受けた上で動議を一
度提出した。
 二 上告人A1の本件請求は、本件株主総会の会場において希望する座席を確保
するために被上告会社本社ビルの近くに宿泊して本件株主総会当日に早朝から入場
者の列に並んだが、被上告会社から従業員株主らとの間で前記の差別的取扱いを受
けたことにより、希望する席を確保することができず、これによって精神的苦痛を
被り、更に宿泊料相当の財産的損害を被ったと主張して、被上告会社に対し、不法
行為に基づく損害賠償を求めるものである。
 三 株式会社は、同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由のない限
り、同一の取扱いをすべきである。本件において、被上告会社が前記一の2のとお
り本件株主総会前の原発反対派の動向から本件株主総会の議事進行の妨害等の事態
が発生するおそれがあると考えたことについては、やむを得ない面もあったという
ことができるが、そのおそれのあることをもって、被上告会社が従業員株主らを他
の株主よりも先に会場に入場させて株主席の前方に着席させる措置を採ることの合
理的な理由に当たるものと解することはできず、被上告会社の右措置は、適切なも
のではなかったといわざるを得ない。しかしながら、上告人A1は、希望する席に
座る機会を失ったとはいえ、本件株主総会において、会場の中央部付近に着席した
上、現に議長からの指名を受けて動議を提出しているのであって、具体的に株主の
権利の行使を妨げられたということはできず、被上告会社の本件株主総会に関する
措置によって上告人A1の法的利益が侵害されたということはできない。そうする
と、被上告会社が不法行為の責任を負わないとした原審の判断は、是認することが
でき、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切で
ない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の
認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎ
ず、採用することができない。
 上告人A2の上告について
 本件記録によれば、上告人A2は、平成五年八月四日に上告受理通知書の送達を
受けたが、右送達の日から五〇日を経過した後の同年九月二七日に上告理由書を提
出したことが明らかである。したがって、上告人A2の上告は不適法として却下す
べきである。
 よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、九五条、八九条、九三条に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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