弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人富田数雄の上告趣意書、弁護人吉崎勝雄、平山林吉、後藤英三(以下「三
弁護人」と略称の上告趣意書および被告人Aの上告趣意書は末尾に添えた別紙記載
の通りであるが、本件は、被告人が徹頭徹尾犯行を否認し、またそれ一つで犯行を
確証し得べき証拠もなく、第一審第二審ともいわゆる情況証拠を綜合して断罪した
事件なので、各上告趣意書の論旨は証拠薄弱の攻撃に集中されている。
 (一) 原審は被告人が昭和二十二年十月三日午前十一時過から同日正午ごろま
での間に東京都世田谷区a町B方において同人を殺害した、と認定したのであるが、
被告人がその時刻の前後に被害者宅附近をあるいているのを見たという証人が数人
あつて、そのある者は前記時刻前に被告人が被害者宅の方角へ行くのを見たと言い、
ある者は被告人が右時刻後に被害者宅の方角から自宅へ帰るのを見たと言つている。
そこで原判決は、被告人が一たん「外出先から帰宅した後遅くとも午前十一時前に
は再び家を出て午後零時過ぎ頃帰宅したものと認められ且つその間被告人は被害者
B方の附近を俳徊した事実は動かすことのできぬ事実としてこれを認めることがで
きる。」と認定した(証拠説明第三)。それに対して富田弁護人上告論旨第一点お
よび被告人上告論旨第一2、9、第五1はその証拠が薄弱であると非難する。なる
ほど、この証拠だけでは被告人がその時刻に被害者宅に立寄つて殺人を行つたとい
うところまでの証明にはならないが、場所的時間的にそういう事実があり得るとい
う情況証拠としては充分と思われる。
 (二) 原判決は、「被告人はBが殺害された十月三日の被告人の行動について
は当初より行動の全部につき真実の申立をすることなく少くとも一部の行動に関し
ては一応虚偽の申立をして証拠上その申立を維持し難くなつた時やむを得ず申立を
訂正すると言つた形で事実を認めるような態度であることが窺われ殊に……執拗な
るアリバイ工作をした事実を認めることができる、」と言つている(証拠説明第六)。
それに対して富田弁護人上告論旨第一点、三弁護人上告論旨第四点および被告人上
告論旨第五2はしきりにそれがアリバイ工作でないことを弁解するが、充分にこの
点の疑惑を解くに足りない。
 (三) 原判決は「被告人はその日少くとも午前十一時頃から正午一寸過ぎ頃ま
での間並にそれに接続する前後の或程度の時間内に……国防色の軍衣を着用したも
のと認めることができる、」と言つている(証拠説明第四)。この点は次の(四)
と併せて最も大切な証拠であつて、もしこれが確実ならば被告人が犯人であること
の有力な証拠となり得るのであるが、被告人は原審公判廷で当日外出時の服装は紺
背広であつたと述べ、三弁護人上告論旨第一点および被告人上告論旨第一2、第五
3はこの点の証拠不備を力説している。なるほど当日被告人を目撃したという十数
人の大部分が紺背広のようだつたと言つているのであるが、原審は「午前十一時過
ぎても五分位の頃Aが私方の表をB方の方え歩いて行くのを見たがその時……茶ポ
イ服を着ていたように思う、」というCの証言および「Aが私方え来たのは……正
午のサイレンが鳴り一寸過ぎた頃でありその時の同人の服装は背広の上に国防色の
上つぱりのようなものを着て居り暑いと言つてそれを脱いだことを記憶する。」と
いうDの証言に重きを措いたように思われる。その認定は必ずしも不合理でない。
 (四) ところで原判決は、加害者が被害者「の後方から右腕でその頸部を強扼
した上頸部に電気コテ用コードを巻付けて締め」殺したものと認定したところ(証
拠説明第一第二)、問題の軍衣の右袖に小量の汚物が附着しており原審はEF両医
師の鑑定の結果を綜合して、「右軍衣右袖の汚物斑はBが頸部絞扼に遭い嘔吐した
際その吐瀉物の附着によつて生じたものと認めざるを得ない。」と言つている(証
拠説明第五)。これが本件犯罪の唯一の物的証拠と言うべきであり、従つてまた富
田弁護人上告論旨第一点、三弁護人上告論旨第三点および被告人上告論旨第四2、
第五3が強く争うところである。ところでこの点は鑑定によつても充分科学的に確
定されるまでには至らなかつたが、F医師は原審証人として、右の汚物は人間の吐
潟物であり被害者の胃および口中に残つていた食物と同種類のものと推定すると述
べているのであつて、原審がそれによつて右の汚物が被害者の吐潟物であると認定
したのは、証拠によらずして判断したものとは言えない。
 (五) 三弁護人上告論旨第二点は、原判決は「右軍衣右袖の汚物附着の位置が
若し右利の犯人が右軍衣を着用して被害者の後方からその頸部を扼し被害者がその
際嘔吐したとすればその吐潟物が附着するだらうと認められる位置に該当している
こと」なる事実を証拠に採つているが(証拠説明第五)、右事実自体は何等証拠に
よつて認められていないから、原判決には旧刑訴法第三三六条に違反し虚無の証拠
で事実を認定した違法がある、と非難する。しかし右の事実は汚点附着の個所から
常識的に判断し得るところでこれを証拠として犯罪事実を認定したのは、所論のご
とき違法と言えない。
 (六) 富田弁護人上告論旨第二点は、被告人の犯行の動機が認定されていない
から原判決は理由不備であると主張する。元来被告人が犯行を否認する事件では動
機の判明しないのがむしろ普通でありそうなことだが、動機が不明でも犯罪の事実
が相当の程度に立証されれば、理由不備にはならない。
 (七) 三弁護人上告論旨第五点は、弁護人から第一審裁判所に勾留原因開示の
申立をしたのに、裁判所が何等これに対し裁判をしなかつたのは、旧刑訴法第四一
〇条第一五号の法意に違反するものである、と主張する。しかし第一審裁判所は右
の勾留原因開示の申立に応じて開示をしているのであつて、(記録三九七丁の一)、
それ以上申立についての決定をする必要はないのである。
 (八) 三弁護人上告論旨第六点は、原判決は被告人の司法警察官に対する供述
を証拠にしているが(証拠説明第六)、右は強制又は脅迫による供述であつて、刑
訴応急措置法第一〇条第二項により証拠とすることのできないものである、という
のである。しかし右の供述が強制脅迫によるものである形跡は記録上認められず、
また証人Gも取調に無理はしなかつたと述べている。
 (九) 被告人上告趣旨第一145678は、被告人の行状に対する不評の弁明
であるが、それらは原審が問題にしていないところである。
 (一〇) 被告人上告論旨第二は四人の証人の証言に対する弁解であるが、それ
らは原審が証拠として採用しなかつたものである。
 (一一) 被告人上告論旨第三は、捜査当局の取調に対する苦情であるが、すべ
て原判決に影響のない事がらである。
 (一二) 被告人上告論旨第四は、検事論告および鑑定の数点についての抗議で
あるが、いずれも原判決の要点に触れない。
 これを要するに、原判決の挙げた各証拠は、その一つだけでは本件犯罪行為の充
分な証拠たり得ないにしても、そのすべてを綜合しての原判決の認定は順当の判断
と言うべく、各上告論旨は結局事実認定に対する非難に帰するか、または的を外れ
た攻撃であつて、すべて上告の理由にならない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条に従い、主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二四年八月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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