弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,岐阜県弁護士会に登録する弁護士であり,窃盗等により逮捕・勾留さ
れ,平成24年10月15日,窃盗,建造物侵入被告事件(以下「別件被告事件」
という。)の被告人として岐阜地方裁判所に公判請求されたXの弁護人であったと
ころ,
第1(平成25年5月10日付け起訴状記載の公訴事実)
別件被告事件の証人であるAに対し,真実は,別件被告事件のうちの一部の
事件については,XがAと共謀して行ったにもかかわらず,Aがそれぞれ単独
で犯行を行い,Xは関与していない旨の虚偽の証言をさせようと企て,Xと共
謀の上,
1平成24年10月上旬,Xが勾留されていた岐阜県本巣郡北方町北方321
9番地の27所在の岐阜県北方警察署の留置施設面会室において,Xと接見し
た際,同人から,「1人でやったと言うよりも,2人でやったと言った方が罪
かるくなる気がした。なので,Xと言ってもあやしまれないし大丈夫だろうと
思い言った。」「犯行は1人でやった。道具は全て捨てた。」「Xとの犯行は
していません」(かぎ括弧内はいずれも原文のママ。以下同様)旨のAに虚偽
の証言をさせるよう求める内容が記載されたC宛ての手紙を同面会室に設置さ
れた遮蔽板の丸窓の穴を通して受け取り,
D及びEを介し,
同年11月19日,
同県各務原市〔以下省略〕所在のイオンモール各務原敷地内において,前記手
紙の写しをAに交付し,その頃,同人にこれを閲読させて,同手紙の記載どお
りに虚偽の証言をするよう指示し,
2同月30日,別件被告事件によりXが勾留されていた岐阜市鷺山1769番
地所在の岐阜刑務所岐阜拘置支所において,Xと接見した際,同人から,「俺
や!お前チンコロするなよ。」「今からでも遅くないで,オレの言うとおり公
判で訂正しろよ。」「犯行1人でやった。」「もうお前は判決でてるから証言
かえても,パクられんから安心しろ。」「じっさいは全て1人でやり,モノに
ついては全て川に流しましたと。」「ムショ行くはめになったら許さんし,1
ヶ月おきに金払えよ。組の人間がお前のところに行くでその時。」「オレがパ
クられてもいずれは出てくる。その時きさまらは生き地獄をみるだろうっと言
っとけ。チンコロしたままならな!全員公判によばれて俺の前で全て証言させ
られるでな。」「しっかりと,証言かえるなら,つじつま合わせてあるで,俺
の弁ゴ人にTELしろ。」「そしたら先生とか俺の友人が教えてくれるように
なっとるから。」「オレとかオレのまわりおこらしたら岐阜おれんで。ストッ
プかけてるからお前ら大丈夫なんやでな。」「これ以上うらぎるな!うら切っ
た奴から出所したらしまつしにぜったい行くでな。」旨のAに虚偽の証言をす
るよう求める内容等が記載された被疑者ノートを宅下げにより受け取り,F,
D及びEを介し,平成25年1月7日,岐阜県各務原市〔以下省略〕の当時の
E方において,同ノートの前記各記載部分を撮影記録した携帯電話機の画像を
Aに閲読させて,同ノートの記載どおりに虚偽の証言をするよう指示し,
3平成24年12月下旬頃,岐阜市〔以下省略〕のS法律事務所において,前
記拘置支所に勾留されているXから,「下手うったら許さん。」「チンコロは
許される事ではない。しっかりと訂正するように。」旨記載されたA宛ての手
紙等を郵送により受け取った上,
平成25年1月24日,
同拘置支所において,
Xと接見した際,
同人から,
「5月16日~17日の犯行は1人でやりました。

「実は犯行を全て1人で行っており,
Xとやったと人のせいにしていました。

「何故Xのせいにしたのかというと最初1人でやったと言ってましたが信じて
もらえず,Xがうたがわれていたので,そのまま全てをXのせいにしました。
警察や検事もXとやったというと,何故か信じてくれて,都合よく事が進んで
いきました。現在その事が申し訳ないと思い訂正する事にしたのです。」「犯
行道具などは全て川へ捨て(中略)ました。」「今までにXの弁ゴ人や,周り
の人が自分に会ったり話をした事はありません。」旨のAに虚偽の証言をする
よう求める内容が書き込まれたAの供述調書等の写しを宅下げにより受け取
り,Eを介し,同年2月19日,岐阜県瑞穂市〔以下省略〕において,前記手
紙等の写し及び前記供述調書等の写しをAに交付し,その頃,同人にこれらを
閲読させて,その記載及び書き込みどおりに虚偽の証言をするよう指示し,
よって,Aをして,前記各指示どおりに虚偽の証言をすることを決意させ,同月
20日,岐阜市美江寺町2丁目4番地の1所在の岐阜地方裁判所第202号法廷
における別件被告事件の公判期日において,
証人として宣誓したAをして,
概要,
Xとの共犯とされる全ての事件は,自分が1人で行ったもので,Xは関与してい
ない旨の自己の記憶に反する虚偽の陳述をさせ,もって偽証を教唆し
第2(平成25年6月21日付け起訴状記載の公訴事実)
別件被告事件の証人であるBに対し,真実は,別件被告事件のうちの一部の
事件については,XがBと共謀して行ったにもかかわらず,Bがそれぞれ単独
で犯行を行い,Xは関与していない旨の虚偽の証言をさせようと企て,Xと共
謀の上,
1平成24年9月19日,岐阜県大垣市江崎町422番地10所在の岐阜県大
垣警察署の留置施設面会室において,同署留置施設に勾留中のBと接見し,同
人に対し,犯行を1人で行ったと言うようにXが求めている旨申し向け
2同年10月上旬頃,Xが勾留されていた前記岐阜県北方警察署の留置施設面
会室において,Xと接見した際,同人から,
「これから裁判していくにあたり,
全ての参考人,共犯者に裁判に出廷してもらうのだが,各人全員,警察,検事
による不当な調べがあったと主張し,俺との犯行否定してもらう。」「共述調
書の信憑性をなくし,かつ,そこで,Bにしろ,Aにしろ,俺との犯行を否認
させるのです」「Bへ。ノアの止めてある場所は,黙秘してあるし,鍵は前タ
イヤの上においてあり,いつでも給油さえすれば無断でものれたと。」「勝手
につかったと言え。1人で犯行」「俺は否認し続けるから。」旨のBに虚偽の
証言をするよう求める内容等が記載された書類を同面会室に設置された遮蔽板
の丸窓の穴を通して受け取り,
Cを介し,
平成25年2月18日頃までの間に,
同書類の写しをBに閲読させ
3平成24年10月18日,岐阜県内において,Bに電話し,同人に対し,盗
みを1人でやったと言うようにXが求めている旨申し向け
4同年12月上旬頃,前記S法律事務所において,前記拘置支所に勾留されて
いたXから,「当初2人でやったと言いましたが本当は1人でやりました。」
「では,Xに罪をなすりつけたと?ハイ,そうなります。Xに対しては,今,
どう思っているのか?申し訳なく思ってます。」「今まで,証言した事は,自
分の意志ではないという事か?ハイ,ほぼそうなります。各所つじつまが合う
よう誘導等されながら証言しました。」「出所してからXの周辺者からの接触
はあったか?全ったくありません。では,Xの関係者からこうしろと言われた
事はないという事かな?ハイ,そうです。自分の答えです。」「やっと正直に
言えたという気持ちです。しかし,検事に,脅されてたので,不安があります
が,今後,どのような状況でも同じように証言します。」「これから証言訂正
するにあたり,各矛循点がでてくるのだが,よく自分で考え,上記のようにす
ればいいと思う。」「詳しくは先生にきくように。」旨のBに虚偽の証言を求
める内容等が記載された「BQ&A(公判想定証言)」と題する書類等を郵送
により受け取り,Cを介し,平成25年2月18日頃までの間に,同書類等の
写しをBに閲読させ
よって,同人をして,Xとの共犯とされる全ての事件に関し,覚えていない旨の
虚偽の証言をすることを決意させ,同月22日,前記岐阜地方裁判所第202号
法廷における別件被告事件の公判期日において,証人として宣誓したBをして,
概要,Xとの共犯とされる全ての事件のことを全く覚えておらず,そのことで警
察官や検察官から取調べを受けたことを覚えていない,取調べでXとの共犯であ
ると供述したことを覚えておらず,その旨の供述調書に署名したことを覚えてい
ない,自己の裁判でXとの共犯であると供述し,そのとおり判決で認定されたこ
とを覚えておらず,執行猶予中であることも覚えていない,被告人席にいるXの
ことを覚えていない旨の自己の記憶に反する虚偽の陳述をさせ,もって偽証を教
唆し
たものである。
(量刑の理由)
1本件は,弁護士である被告人が,私選弁護人を受任していたXに対する別件被
告事件について,Xと共謀の上,同事件で共犯者とされたA及びB(以下2人併
せて「Aら」という。)に対し,接見交通権を濫用する方法等で受領したX作成
に係る文書等を渡すなどして,複数回にわたって,Xは関与していない旨偽証す
るよう働きかけ,別件被告事件の証人尋問において,Aらにそれぞれ虚偽の証言
をさせたという偽証教唆の事案である。
2被告人及びXは,Xが接見等禁止の処分を受け,弁護人である被告人以外の者
と接触ができない状況の下,接見交通権を濫用し,Aらに対し,捜査段階や自身
の公判における供述を翻して偽証しなければ,その報復として生命・身体に重大
な危害を加える旨の脅迫的な文言を交えつつ,偽証すべき内容を具体的かつ詳細
に指示したX作成に係る複数の文書を,警察署の留置施設面会室の遮蔽板の丸穴
を通して授受したり,Xが同様の内容を記載した被疑者ノートを宅下げにより授
受したりした上,それらの偽証指示等を,複数回にわたり,関係者を通じるなど
してAらに伝えた。また,被告人は,Xの依頼に応じて,弁護人となろうとする
者と偽って,警察署の留置施設に勾留中であったBと自ら接見した上,Xの上記
指示を直接伝えてもいる。
本件各犯行は,被疑者・被告人の人権を擁護し,適正な防禦権を行使するため
に保障された弁護人の接見交通権等の弁護権を濫用したものである上,遮蔽板の
丸穴を通じて偽証指示文書を授受するなど,常軌を逸した大胆な手口を用い,か
つ複数回にわたり多くの関係者を巻き込みつつ,
数か月間にわたり行われており,
その犯行態様は,前例を見ない極めて悪質なものというべきである。
3Aらは,いずれも既に有罪判決を受け,従前の供述を翻して偽証すればそれぞ
れの執行猶予が取り消されかねない立場にありながら,脅迫文言を含む文書等を
通じて執拗な働きかけを受けて,逡巡しつつも,最終的には,偽証を決意し,別
件被告事件の証人尋問において,Aは,Xの筋書きどおり具体的かつ詳細な偽証
をし,
Bにおいても,
判示のとおり自己の記憶に反する供述をするに至っている。
Aらは,いずれも,別件被告事件の共犯者とされ,両名の供述は,同事件にお
けるXの犯人性立証の中心をなす重要な証拠であって,両名の偽証により,刑事
司法作用が害される危険性が現に発生している。
4被告人は,弁護士として基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命
とし,これに基づき,誠実に職務を行い,社会秩序の維持に努めるべき職責を負
っていたのであって,依頼人から違法行為への協力を求められても,これを断固
拒絶し,その実現を全力で阻止すべき立場にあった。にもかかわらず,被告人は,
文書等に記載されたXの指示内容はもとより,弁護人である被告人の協力なくし
てはその実現がおよそ不可能であることや,自らの違法行為への加担が,別件被
告事件における判断のみならず,ひいては刑事司法全体に対する国民の信頼を害
しかねないことを十分に認識しながら,Xの要求を拒否するどころか,これに迎
合し,協力し続けて本件各犯行に及んでいる。被告人は,他の偽証教唆事件に比
して,格段に重い責任非難を免れないというべきである。被告人は,Aらの偽証
により自ら直接的な利益を受けることを企図したものではなく,粗暴で反社会的
な人格を有するXから恨みを買いたくないという自己保身のため本件各犯行に及
んだというのであって,その心情自体は理解し得ないものではない。しかし,元
をたどれば,被告人は,Xとの初回接見時に,同人から,別件被告事件の証拠隠
滅への協力を依頼され,軽率にもこれに応じたことなどから弱みを握られ,同人
を際限なく増長させ,自己保身を図らざるを得ない立場に追い込まれたのであっ
て,かかる犯行に至る経緯や安易な動機にもとより酌量の余地はない。
5また,本件各犯行における役割を見ると,確かに,本件を主導したのは,偽証
指示文書を大量に作成し,関係者への受渡しを要求するなどしたXであって,被
告人は,Xから要求されたために加担したという側面はあるものの,Xは,勾留
の上,接見等禁止の処分を受けており,本件各犯行は,弁護人である被告人の協
力なしには到底実現し得なかった。しかも,被告人は,X作成に係る文書の単な
る受渡し役にとどまらず,Bに会ったり,架電したりして,自ら偽証指示を伝え
るなどして,
本件各犯行のいわば実行行為の主要部分を担ってもいる。被告人は,
本件各犯行において重要かつ不可欠な役割を果たしたというべきである。
6以上によれば,被告人の刑事責任は,偽証教唆の事案の中では相当に重いとい
うべきである。
7他方,被告人は,Aらによる偽証が発覚して以降,未だ別件被告事件が係属し
ている段階において,Aらに偽証することを働きかけたことについて自白した上
で捜査に協力し,本件の全容解明に協力している。
加えて,被告人は,自ら弁護士会に退会届を提出した上,自己が経営する事務
所を閉鎖しており,今後弁護士資格を喪失することも見込まれるため,再度同様
の犯罪に手を染める危険性は低い。また,遅ればせながらも,自己の行動を顧み,
50万円の贖罪寄付をするなど反省の情を示していること,現在,会社員として
稼働しており,
被告人の妻も,
被告人の更生に協力する旨誓約していることから,
社会内での更生環境は整っているといえること,被告人自身,今後も家族のため
にも地道に働いていきたい旨述べていることなどの事情が認められ,これらは被
告人の更生可能性を示す事情というべきである。
8以上の事情を総合考慮して量刑を検討すると,上記1ないし5の本件犯行その
ものに関する事情に照らせば,自白による刑の裁量的減免が相当な事案とは到底
認められない一方,上記7の事情をも併せ考慮すると,被告人を実刑に処するの
は酷に過ぎるというべきである。
そこで,被告人に対しては,主文のとおりの懲役刑を科した上で,その刑の執
行を猶予し,社会内での更生の機会を与えるのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役3年)
平成25年10月28日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官大西直樹
裁判官小嶋順平
裁判官松田康孝

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