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平成16年(行ケ)第276号 審決取消請求事件
平成17年2月15日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスN.V.
 訴訟代理人弁理士 津軽進,宮崎昭彦,笛田秀仙
 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 田中純一,片岡栄一,高橋泰史,井出英一郎
     主    文
 特許庁が不服2002-9858号事件について平成16年2月17日にした審
決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 本件特許出願2000-133455号「情報キャリア」は,平成1年1月19
日に出願した特願平1-8736号の一部を平成12年5月2日に新たな特許出願
としたものである。
 本件特許出願は,1988年(昭和63年)1月19日及び同年5月18日西ド
イツにおいてした特許出願に基づく優先権を主張するものである。
 当初の出願人は,フィリップス アンド デュポン オプティカル コンパニー
であり,その後オプティカル マニュファクチュアリング アンド ホールディン
グ コンパニー ベスローテン フェンノートシャップが特許を受ける権利を一般
承継し,2002年(平成14年)6月28日原告がその権利を譲り受け,同年7
月29日特許庁長官にその旨の届出がされた。
 平成14年3月5日送達の拒絶査定があり,出願人は,同年6月3日不服の審判
請求をし,不服2002-9858号事件として審理されたが,平成16年2月1
7日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同月26日原告に送達された(出
訴期間90日附加)。
 2 本願発明(請求項1に係る発明)の要旨(平成15年9月11日付け手続補
正書によるもの)
 各フレームの第1部分に位置する主情報が記録された第1記録部分と,各フレー
ムの第2部分に位置するサブディジタル情報が記録された第2記録部分と,各フレ
ームの前に位置する各自のフレーム同期情報が記録されたフレーム同期記録部分と
を含み,第1及び第2記録部分が前記フレーム同期記録部分に対し所定のビット位
置を占め,第2記録部分に記録されたサブディジタル情報の所定のビットがサブ情
報チャネルを形成し,主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを含み前記主カテ
ゴリコードと前記サブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得るパケッ
トが前記第2記録部分に交互に記録されていることを特徴とする情報キャリア。
 3 審決の理由の要点
 (1) 公知刊行物(引用例)に記載された発明
 審判における拒絶の理由で引用された,特開昭62-229591号公報(昭和
62年10月8日出願公開。引用例1。本訴甲第4号証)には,「デジタルオーデ
ィオデータと,1フレーム(588ビット)当たり8ビット(P,Q,R,S,
T,U,V,W)のデータから構成されるサブコードデータとが記録され,サブコ
ードデータの所定のビットにチャネル番号CH0~CH15を指定するコードデー
タが記録され,チャネル番号の組み合わせにより有効及び無効の指示ができるパッ
クが交互に記録されているコンパクトディスク。」の発明が記載されている。
 (2) 対比
 本願発明と,引用例1に記載された発明とを対比する。
 ① 引用例1に記載された発明における「デジタルオーディオデータ」及び「サ
ブコードデータ」は,それぞれ,本願発明の「主情報」及び「サブデジタル情報」
に相当するものである。
 ② 引用例1に記載された発明における「サブコードデータ」の所定のビットに
記録されている「チャネル番号CH0~CH15を指定するコードデータ」は,そ
れぞれの「チャネル番号」に対応する「画像データ」等の種類すなわち「カテゴ
リ」を識別するものである。したがって,引用例1に記載された発明の「チャネル
番号CH0~CH15を指定するコードデータ」は,本願発明の「サブディジタル
情報」の所定のビットで形成される「サブ情報チャネル」,更には,そこに含まれ
ている「カテゴリコード」に相当するものである。
 ③ 引用例1に記載された発明における「コンパクトディスク」は,本願発明の
「情報キャリア」に相当するものである。
 したがって,本願発明と引用例1に記載された発明とは,次の点で一致する。
「各フレームに主情報と,サブディジタル情報が記録され,記録されたサブディジ
タル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成し,カテゴリコードを含む情報
キャリア。」
 一方,両者は,以下の点で相違している。
(a)相違点1
 本願発明においては,「主情報」及び「サブディジタル情報」が,各「フレー
ム」の「第1記録部分」と「第2記録部分」にそれぞれ記録され,各「フレーム」
の前の「フレーム同期記録部分」には「フレーム同期情報」が記録され,更に,
「第1及び第2記録部分」が「フレーム同期記録部分」に対し所定のビット位置を
占めるとの,「フレーム」を構成する各情報の記録位置に関する記載があるのに対
し,引用例1に記載された発明には,「デジタルオーディオデータ」(「主情
報」)及び「サブコードデータ」(「サブディジタル情報」)を「フレーム」に記
録する点については記載があるものの,「フレーム同期情報」を記録すること,更
には,それぞれの情報の「フレーム」内における記録位置に関しては特に記載がな
い点。
(b)相違点2
 本願発明においては,「サブ情報チャネル」に含まれる「カテゴリコード」が,
「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との2種類のカテゴリを識別する
ものであるのに対し,引用例1に記載された発明の「チャネル番号CH0~CH1
5を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カテゴリコード」)に
は,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを識別することについて明確な記載が
ない点。
(c)相違点3
 本願発明においては,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との組み
合わせによって識別されるのが「パケット」であり,この「パケット」が交互に記
録されているのに対し,引用例1に記載された発明では,「チャネル番号CH0~
CH15を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カテゴリコー
ド」)の組み合わせによって識別されるのが「パック」であり,この「パック」が
交互に記録されている点。
 (3) 相違点1についての審決の判断
 本願発明において記載された「主情報」,「サブディジタル情報」,及び「フレ
ーム同期情報」の「フレーム」内における記録位置に関する技術は,「コンパクト
ディスク」方式のシステムで標準化されている周知慣用技術であり,例えば,特開
昭62-217468号公報(昭和62年9月24日出願公開,引用例2)(特
に,第3図に記載されたフレームのレイアウトを参照)に記載された「データ・シ
ンボル」,「サブコード・シンボル」,及び「同期パターン」が,それぞれ,本願
発明の「主情報」,「サブディジタル情報」,及び「フレーム同期情報」に相当す
るものである。そして,引用例1に記載された発明も「コンパクトディスク」に関
する発明であり,このような「フレーム」内における記録位置に関する周知慣用の
技術を含むものである。
 (4) 相違点2についての審決の判断
 「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及
び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術
思想である。例えば,特開昭61-77184号公報(周知例1。本訴甲第5号
証)には,「コンパクトディスク」のディスク中に収録されている全曲目情報を,
「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト化することが記載されてお
り,周知例1の「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」
及び「サブカテゴリ」に相当するものである。また,特開昭60-263236号
公報(周知例2。本訴甲第6号証)には,「コンパクトディスク」に記録されたデ
ータをディレクトリ形式で記録するとともに,そのディレクトリをツリー構造とす
る点が記載されており,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディレク
トリ」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するも
のである。
 そして,このような周知の技術思想を,引用例1に記載された発明の「チャネル
番号CH0~CH15を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カ
テゴリコード」)に適用し,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」とを
含む本願発明の構成とすることに,格別の困難性はない。
 (5) 相違点3についての審決の判断
 本願明細書には,「ブロック」を構成する「フレーム」内のR~Wチャネルビッ
ト(計6ビット)で1つの「シンボル」を構成し,この「シンボル」96個で1つ
の「パケット」が構成され,また,1つの「パケット」は,各々が24個の「シン
ボル」から成る4個の「パック」で構成されていることが示されている。
 引用例1に記載された発明の「パック」は,本願発明において「パケット」を構
成している「パック」に相当するものである。
 また,引用例2(第3図参照)や周知例2(第2図参照)にも記載があるよう
に,「コンパクトディスク」においては,連続する「98フレーム」で「1ブロッ
ク」が構成され,この「1ブロック」単位で各種の処理が行われている。そして,
この「1ブロック」内にある「96フレーム」分の「サブコードチャンネルR~
W」が,本願発明の1つの「パケット」に相当し,その中には,4つの「パック」
が含まれている。
 以上のことから,引用例1に記載された発明において,「カテゴリコード」の組
み合わせによって識別される情報の単位を,記載の「パック」に替えて,この「パ
ック」4つで構成され,処理単位である「1ブロック」に対応する「パケット」と
し,この「パケット」を交互に記録することに,格別の困難性はない。
 (6) 審決のむすび
 以上のとおりであって,本件出願の請求項1に係る発明は,上記引用例1及び引
用例2に記載された発明並びに周知の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けること
はできない。
 したがって,本件出願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶す
べきものである。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 相違点の看過
 本願発明には,「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを含み,前記主カテ
ゴリコードと前記サブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得るパケッ
ト」という特徴がある。引用例1記載の発明には,主カテゴリコードとサブカテゴ
リコードとを含み,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との組み合わ
せによって識別され得る,という構成はなく,この点も相違点に当たる。審決は,
この相違点を看過し,その容易推考性の有無を判断していない。
 2 相違点2の判断(周知例1に関する)について
 審決は,相違点2につき,「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類の
カテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」とし,
具体例として周知例1(甲第5号証)を例示し,「ディスク中に収録されている全
曲目情報を,「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト化することが記
載されており,周知例の「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カ
テゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。」と判断している。
 しかしながら,「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カテゴ
リ」及び「サブカテゴリ」には相当するものではない。周知例1では,「ジャン
ル」についてリスト化されているものと「歌手」についてリスト化されているもの
とがあるだけである。また,「ジャンル」及び「歌手」で1つの曲名が識別できる
わけでもない。すなわち,「ジャンル」と「歌手」との組み合わせで何ものをも識
別しない。
 さらに,周知例1では,全曲目情報というのは複数のディスクについての曲目情
報であり,当該全曲目情報を「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト
化したものは,ディスクではなくRAMに記録されている。周知例1は,本願発明
とは関係がない発明である。
 3 相違点2の判断(周知例2に関する)について
 相違点2の判断では,別の具体例として周知例2(甲第6号証)が例示され,
「データをディレクトリ形式で記録するとともに,そのディレクトリをツリー構造
とする点が記載されており,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディ
レクトリ」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当す
るものである。」としている。
 しかしながら,「第1のディレクトリ」及び「第2のディレクトリ」は,それぞ
れ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するもので
はない。周知例2は,コンパクトディスクを使用して辞書を構成し,単語の早い検
索のために,単語のディレクトリのツリー構造を開示している。例えば周知例2の
第5図を参照すると,単語の最初の文字に対応させた「第1のディレクトリ」,単
語の次の文字に対応させた「第2のディレクトリ」等のツリー構造である。「第1
のディレクトリ」と「第2のディレクトリ」との組み合わせで一つの単語が識別さ
れるわけではない。第1のディレクトリは,最初の単語の文字とアドレスとのテー
ブルで構成されていて,「主カテゴリコード」に対応するはずもない。第2のディ
レクトリともなると,非常に多くのテーブルの集合体となってしまい,最初の文字
というカテゴリを表す第1のディレクトリのテーブルと決められた最初の文字に次
ぐ2番目の文字というカテゴリを表す第2のディレクトリの非常に多くのテーブル
の集合体との組み合わせで何ものをも識別しない。単語の文字に基づく「ディレク
トリ」と本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」とは,全く別である。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 相違点の看過に対し
 審決においては,引用例1に記載された発明を認定した後,本願発明と引用例1
に記載された発明の一致点を,「各フレームに主情報と,サブディジタル情報が記
録され,記録されたサブディジタル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成
し,カテゴリコードを含む情報キャリア。」と認定している。すなわち,情報キャ
リアが「カテゴリコードを含む」ことのみを一致点としているのであるから,その
余の,パケットが「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとの組み合わせによっ
て識別され得る」点を相違点と認定していることは,明らかである。
 そして,審決は,相違点2の判断として,「「コンパクトディスク」に記録され
ている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用い
ることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」として,周知例1及び
周知例2を提示し,このような周知の技術思想を引用例1に記載された発明に適用
して本願発明の構成とすることに格別の困難性はないと,判断している。主カテゴ
リコードとサブカテゴリコードとを組み合わせて識別するとは明記していないが,
カテゴリコードを組み合わせることについては引用例1にも記載があるところ(3
頁右下欄19行~4頁左上欄20行),主カテゴリコードとサブカテゴリコードを
用いる場合に両者を組み合わせて識別することは明らかであり,周知例において
も,組み合わせて識別できるものである。さらには,主カテゴリコードとサブカテ
ゴリコードとを組み合わせて識別することが周知の技術であることは,後記の乙第
1号証や乙第2号証からも明らかである。したがって,審決の相違点2の判断にお
いて,「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され
得る」ことが当業者が容易に想到できることを判断していることも,明らかであ
る。
 2 相違点2の判断(周知例1に関する)に対し
 周知例1には「記録された曲目」を「ジャンル」及び「歌手」を用いて分類する
ことが示されているということができる。周知例1には実施例として,「記録され
た曲目」を「ジャンル別」又は「歌手別」にリスト化することが記載されている
が,両者を組み合わせ得ることは当業者に明らかであり,その場合には,「記録さ
れた曲目」は,「ジャンル」によって分類され,更に「ジャンル」内で「歌手」に
よって分類されることとなり,「ジャンル」及び「歌手」は,それぞれ本願発明の
「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。そして,引用例1に
記載された発明も,周知例1に記載されたものも,光学式コンパクトディスクに情
報を記録するものであり,引用例1に記載された発明に,周知例1の技術を適用す
ることに阻害要因は見当たらない。
 原告は,全曲目情報をリスト化したものはディスクではなくRAMに記録されて
いるから,周知例1は本願発明とは関係ないとも主張しているが,サブ情報をディ
スク(情報キャリア)に記録することは引用例1に記載されており,審決でも相違
点とはしていないから,原告の主張は審決の論旨を正解しないものである。
 3 相違点2の判断(周知例2に関する)に対し
 本願発明は,「カテゴリ」を「主カテゴリ」と「サブカテゴリ」との2種類に分
け,「主カテゴリ」によって「情報」を分類し,「主カテゴリ」内の「情報」を
「サブカテゴリ」によって,更に分類しているものである。そして,周知例2にお
いては,「ディスク」に記録された「単語」は,単語の第1文字目である「第1の
ディレクトリ」で分類され,更に単語の第2文字目である「第2のディレクトリ」
で分類されるものであり,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディレ
クトリ」は,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当する
ものである。そして,引用例1に記載された発明も,周知例2に記載されたもの
も,光学式コンパクトディスクに情報を記録するものであり,引用例1に記載され
た発明に,周知例2の技術を適用することに阻害要因は見当たらない。
 4 相違点2の判断(周知技術に関する)に対し
 審決は,「「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」とし
て,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野におい
て周知の技術思想である。」(引用例1の9頁27~29行)とするものである
が,このことは,上記周知例に限らず,以下の乙第1号証及び乙第2号証からも明
らかである。
 例えば,乙第1号証(特開昭61-188792号公報)には,「建築作品ある
いは建材群を,第1の分類に区分し,更に各区分を第2の分類に区分してその順に
並べて録画したデータ画面群と,各データの第1の分類と第2の分類とを検索する
信号部分,とを有するレーザーディスクより構成した,建築作品,建材等の検索閲
覧システム」(特許請求の範囲)の発明が記載されており,「第1の分類」と「第
2の分類」との組み合わせによって「建築作品あるいは建材群」を識別するもので
あるから,乙第1号証における「第1の分類」及び「第2の分類」が,それぞれ本
願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものであ
る。
 また,乙第2号証(特開昭61-15276号公報)には,「光ディスク」に記
録された「文書」を,「大分類」,「中分類」,及び「小分類」の階層構造に分類
し管理する「文書ファイル装置」の発明が記載されており,乙第2号証における
「大分類」及び「中分類」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サ
ブカテゴリコード」に相当するものである。
 上記周知例や乙第1,2号証にみられる周知の技術思想を,引用例1に記載され
た発明に適用するのに阻害要因はなく,相違点2は容易に想到し得るとした審決の
判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 まず,本願発明の技術的課題等をみるに,本願発明を含む本件特許出願に係
る発明の目的は,「再生装置のユーザとのコミュニケーションを改善し得る・・・
情報キャリアを提供することにある。」(本願明細書(甲第2号証)【000
3】)
 課題を解決するための手段として,本願発明は,「主情報が記録された主記録領
域とサブディジタル情報が記録されたサブ記録領域とを具え,サブディジタル情報
の所定のビットがサブ情報チャネルを形成している情報キャリアであって,前記サ
ブ記録領域が,少なくとも一つのカテゴリコードにより識別し得る種々のサブ情報
チャネルパケットが交互に記録された部分を具えていることを特徴とする。」(本
願明細書【0004】)
 「ユーザはカテゴリの選択により,サブ記録領域の,カテゴリコードで識別し得
る種々のパケットが記録されている部分から,所望のテキスト情報を選択すること
ができる。」(本願明細書【0005】)
 「好適例では,主カテゴリコードとサブカテゴリコードの組合せで識別し得
る・・・パケットに,例えば種々の言語の種々のタイプのテキスト情報(アルバム
タイトル,曲目,解説,アーチスト名等)を記録しておくことにより,ユーザは主
カテゴリコードとサブカテゴリコードの選択により,サブ記録領域の,主カテゴリ
コードとサブカテゴリコードで識別し得る種々のパケットが交互に記録されている
部分から,所望の言語の所望のタイプのテキスト情報を比較的短い平均待ち時間で
選択することができる。」(本願明細書【0006】)
 本願発明の目的及びその解決手段等は以上認定の明細書記載のとおりであるとこ
ろ,原告が審決取消事由の1として主張するところは,相違点2として審決が認定
したところに帰着することは明らかであるから,相違点2に係る本願発明の構成が
容易想到であるとした審決の判断に誤りがあるか否かについて,以下に検討する。
 2 審決は,「「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」と
して,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野にお
いて周知の技術思想である。」と認定し,その根拠として,特開昭61-7718
4号公報(周知例1。甲第5号証)と特開昭60-263236号公報(周知例
2。甲第6号証)を挙げている。
 まず,周知例1についてみるに,そこに記載の発明は,多数のディスクの中から
所望の再生データを自動的に再生するマルチディスク自動再生装置に関するもので
あるが,所定の形態でリスト化した検索用データが格納される記憶手段と,このデ
ータを所定の形態で区分けして読み出す手段と,このデータを所定の形態で画像表
示する手段を具備するものが特許請求の範囲として記載されている。しかしなが
ら,そこには,曲別,歌手別,ジャンル別のほか,作詞者,作曲者,発売日のデー
タが例示され(2頁右下欄~3頁左上欄),これら例示されたデータはそれぞれが
カテゴリを成しているものであるものの,各カテゴリを関連づける構成についての
開示はない。
 周知例2は,多数のデータが記録され,このデータに対するキーワードと,デー
タが記録されているアドレスとのディレクトリが記録されているとともに,ディレ
クトリがツリー構造とされているデータ記憶素子(特許請求の範囲)に関する発明
に関する公開特許公報であるが,そのデータはツリー構造で管理されているにとど
まり,本願発明のように,主カテゴリとサブカテゴリとを具えているものではな
い。
 したがって,審決が掲げた周知例からは,「コンパクトディスク」に記録されて
いる情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いる
ことは,当該技術分野において周知の技術思想であったと認めることはできない。
 3 そこで,被告が本訴で提出した書証によって上記技術的事項が周知の技術思
想であったことが認められるかについてみるに,まず,特開昭61-188792
号公報(乙第1号証)には,「建築作品あるいは建材群を,第1の分類に区分し,
更に各区分を第2の分類に区分してその順に並べて録画したデータ画面群と,各デ
ータの第1の分類と第2の分類とを検索する信号部分,とを有するレーザーディス
クより構成した,建築作品,建材等の検索閲覧システム」(特許請求の範囲)の発
明が記載されている。ここでは,「第1の分類」と「第2の分類」との組み合わせ
によって「建築作品あるいは建材群」を識別しており,それぞれ本願発明の「主カ
テゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものということができる。
 次に,特開昭61-15276号公報(乙第2号証)には,「光ディスク」に記
録された「文書」を,「大分類」,「中分類」,及び「小分類」の階層構造に分類
し管理する「文書ファイル装置」の発明が記載されている。しかしながら,光ディ
スク全体にわたって一括して「中分類」や「小分類」の分類体系を管理するという
事項はそこには示されていない。ここには,本願発明の「主カテゴリコード」と
「サブカテゴリコード」とによって記録されているものということはできない。
 4 以上みたとおり,相違点2に係る事項が周知であったことを裏付けているの
は,乙第1号証の公開特許公報のみである。しかしながら,そこに示されているの
は,建築作品建材等の検索システムに関する事項であって,上記事項が本願発明の
技術分野である情報キャリアの分野において周知の事項であったと認めるには,そ
の適性があるとはいい難いものである。そして,本訴に至ってもなお,「主カテゴ
リ」及び「サブカテゴリ」によってデータが記録されるという事項が,本願発明の
技術分野とは隔たった分野に関する乙第1号証の公報によってしか証明されていな
いということは,本願発明の技術分野において,この技術的事項が,相違点2に係
る本願発明の構成が容易想到であったと認めるほどに周知であったとすることはで
きないといわざるを得ない。
 したがって,本願発明は,引用例との対比において容易想到であったものという
ことはできず,これに反する審決の認定判断は誤りである。
第6 結論
 以上のとおりであり,原告の請求は認容されるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官 塚  原  朋  一
           裁判官 塩  月  秀  平
裁判官髙  野  輝  久

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