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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告株式会社アングス精機販売(以下「被告アングス」という。)は、原告に
対し、一九二四万二〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みま
で年五分の割合による金員を支払え。
二 被告有限会社ホビーショップフロンティア(以下「被告フロンティア」とい
う。)は、原告に対し、六七一万五二〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日
から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告株式会社三ツ星商店(以下「被告三ツ星」という。)は、原告に対し、六
二〇万四〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の
割合による金員を支払え。
四 被告CAROM SHOTこと【A】(以下「被告【A】」という。)は、原
告に対し、八九八万円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五
分の割合による金員を支払え。
五 被告株式会社シェリフ(以下「被告シェリフ」という。)は、原告に対し、三
〇一四万円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合に
よる金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、被告らが販売した商品は原告の商品の形態を模倣
したものであり、被告らの行為は不正競争防止法(以下、単に「法」という。)二
条一項三号に該当すると主張して、損害賠償(各被告の得た利益相当額及びこれに
対する民法所定の遅延損害金)を請求している事案である(なお、原告は、本件訴
訟において被告らによる商品の譲渡等の差止めも併せて求めていたが、本件訴訟係
属中に原告の商品が最初に販売された日から三年を経過したことから、差止請求を
取り下げた。)。
一 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論
の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者
(一) 原告は、遊戯銃の製造、販売及び輸出入を業とする株式会社である。
(二) 被告アングスは、遊戯銃及びその部品の小売業並びに部品の製造業を営む
株式会社である。
(三) 被告フロンティアは、遊戯銃及びその部品の小売業を営む有限会社であ
る。
(四) 被告三ツ星は、遊戯銃及びその部品等の卸売業を営む株式会社である。
(五) 被告【A】は、遊戯銃の部品の製造及び販売を行う個人営業者である。
(六) 被告シェリフは、遊戯銃の部品の製造及び販売を業とする株式会社であ
る。
2 原告の商品
(一) 原告は、平成六年九月ころから、別紙二「物件目録」の表一の①ないし⑦
記載の各商品(以下「原告商品」と総称する。)を販売している。原告商品は、商
品名を「コルト・ガバメント・ブローバック・モデル」という遊戯銃(以下「原告
遊戯銃」という。)の部品である。
(二) 原告商品は、別紙三「展開図」に記載された原告遊戯銃の部品のうち①②
④⑤(24)(29)(83)で示されたものであり、その形態は、同「展開図」
に記載されているとおりである。(甲一、検甲一ないし七)
3 被告らの商品
(一)(1) 被告アングスは、別紙二「物件目録」の表二の①ないし⑨記載の各
商品(以下「被告アングス商品」と総称する。)を販売していた。
(2) 被告フロンティアは、同目録の表三の①ないし⑧記載の各商品(以下「被
告フロンティア商品」と総称する。)を販売していた。
(3) 被告三ツ星は、同目録の表四の①ないし⑧記載の各商品(以下「被告三ツ
星商品」と総称する。)を販売していた。
(4) 被告【A】は、同目録の表五の①ないし③記載の各商品(以下「被告
【A】商品」と総称する。)を販売していた。
(5) 被告シェリフは、同目録の表六の①ないし⑪記載の各商品(以下「被告シ
ェリフ商品」と総称する。)を販売していた。
(二) 被告アングス商品、被告フロンティア商品、被告三ツ星商品、被告【A】
商品及び被告シェリフ商品(以下「被告商品」と総称する。)は、いずれも遊戯銃
の部品である。被告商品は、それぞれ、別紙二「物件目録」の表二ないし六の「該
当する原告商品」欄に記載した原告商品と交換して、原告遊戯銃に組み込むことが
できる。それぞれの被告商品の形態は、別紙四「被告商品形態写真」のとおりであ
る。(甲二ないし六、検甲八ないし三一、検戊二ないし五(枝番を含む。))
4 エアーソフトガン
 原告遊戯銃は、エアーソフトガン又はエアガン(以下「エアーソフトガン」とい
う。)と呼ばれる遊戯銃である。エアーソフトガンとは、ガスによってプラスチッ
ク製のBB弾と呼ばれる弾丸を発射する玩具銃(本物の銃器を模した玩具銃)であ
り、原告遊戯銃は、コルト社製の銃器である「コルトマークⅣシリーズ八〇ガバメ
ントモデル」を模したものである。本物の銃器とエアーソフトガンでは、材質、構
造等が全く異なり、本物の銃器においてはその材質が鋼鉄等で、火薬の爆発力によ
り実弾を発射するのに対し、エアーソフトガンはプラスチック等を材質とし、ガス
やスプリングによってBB弾を発射する。エアーソフトガンは、外観を実銃に似せ
つつ、全く独自の内部構造を研究し開発して商品化に至るものである。
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 原告商品について、その形態が「製作上不可避な形態」であることを理由とし
て、法二条一項三号の適用が排除されるか。
(一) 被告らの主張
 被告商品は、いずれも「カスタムパーツ」と呼ばれる原告遊戯銃の部品であり、
原告遊戯銃に組み込まれて用をなさなければならないという本来的性質に伴い、そ
の製作上不可避的に原告遊戯銃に取付け可能な形態にならざるを得ない。そして、
互換性を維持するために他人の商品と必然的に同一の形態になる部品の形態までも
が法によって規律されるとすれば、部品業者は窮地に追い込まれることになり、不
正ないし不当な競争行為を規制するという同法の趣旨に反し、公正な競争を阻害す
ることになる。したがって、原告商品については「製作上不可避な形態」として法
二条一項三号の適用から除外されると解すべきである。
(二) 原告の反論
 部品であっても、商品として独立して流通するものである限り、法二条一項三号
の形態模倣禁止の対象となるのであり、現行法上その適用から除外されるのは「同
種の商品が通常有する形態」のみである。なお、消耗部品及び修理用部品の市場保
護並びに規格適合品の保護の必要性という市場政策的配慮を根拠に、形態模倣禁止
の適用除外を認める見解もあるが、現行法が定める三年間という保護期間の制限に
照らすと、部品の形態の開発のために資本と労力を投下した者を保護することが競
争政策上不合理であるとは考えられない。部品であれば「製作上不可避な形態」と
して同号の適用から除外されるとの被告らの主張は、形態開発に向けられた労力と
資本を保護するという立法趣旨から導き出せないものであり、解釈論としても妥当
でない。
 しかも、被告商品の市場性は、銃砲刀剣類所持等取締法及びこれに関連する日本
遊戯銃協同組合の自主規制があるため、原告が原告遊戯銃の部品をプラスチック又
は柔らかい金属で製造しなければならないことに依拠しているのであって、原告の
開発努力にただ乗りして堅い金属製部品を製造し、法外な価格でマニアに販売する
という被告らの行為を、原告の開発努力を犠牲にしてまで保護すべき実質的な理由
はない。
 したがって、原告商品につき「製作上不可避な形態」を理由に法二条一項三号の
保護から除外すべきものとする被告らの主張は、失当である。
2 原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に当たるか。
(一) 被告シェリフの主張
 原告は、被告シェリフが原告商品のうちアウターバレル、チェンバーカバー、ハ
ンマー及びフローティングバルブの形態を模倣したと主張するが、アウターバレ
ル、チェンバーカバー及びハンマーは、実銃に酷似されるべく製作されたモデルガ
ンの部品であるから、これらの原告商品の形態に独自性はない。また、フローティ
ングバルブは、空気の流れる方向をバルブによって切り換える基本方式であるポペ
ット方式における方向制御弁にほかならず、被告シェリフは原告に先駆けてフロー
ティングバルブを販売していた。
 したがって、右の原告商品の形態は、法二条一項三号にいう「同種の商品が通常
有する形態」に当たるから、その保護が及ばない。
(二) 被告【A】の主張
 原告は、原告商品のうちシアー及びハンマーの形態を被告【A】が模倣したと主
張するが、これらの原告商品の形態はMGC社製のモデルガンを模倣したものであ
り、被告【A】商品は、原告商品だけでなく、MGC社製のモデルガンにも取り付
けることができるものである。また、トリガーを引くとシアーが連動してハンマー
が落ちるという機能及び構造は、実銃とエアーソフトガンとで同一であるから、原
告商品及び被告【A】商品は、実銃のシアー及びハンマーが通常有する形態を備え
ている。
 したがって、原告商品の形態は「通常有する形態」というべきであるから、被告
【A】の行為は法二条一項三号に該当しない。
(三) 原告の反論
 原告遊戯銃は、モデルガンではなく、エアーソフトガンである。モデルガンが、
弾丸を発射できない点を除いては実銃を忠実に再現したものであって、その部品の
形態も実銃の完全なコピーで独自性がないのに対し、エアーソフトガンは、外観は
実銃に似せてあるものの、発射機構が実銃と全く異なっており、空気の圧力によっ
てプラスチック弾を発射するという内部機構の作出のために開発努力が注がれ、部
品の形態につき独自の工夫が凝らされている。そして、原告遊戯銃の部品である原
告商品は、弾丸を発射した後にスライダ部が後方に押し下げられるという原告遊戯
銃の特徴的な作動を実現すべき内部機構を構成するために独自に考案されたもので
あって、それぞれの形態は原告の長年の開発努力が結実したものであり、他の遊戯
銃の部品の形態とは明らかに異なるものである。
 原告遊戯銃は、玩具銃としての性格上、部分的には実銃の形態を援用している部
分が含まれるが、原告は、かかる部分の模倣を問題にしているのではなく、原告が
独自に資本と労力を投下して開発した商品形態を模倣する行為を問題にしているの
である。
 したがって、原告商品の形態は、「通常有する形態」に当たらない。
3 被告商品の形態は原告商品の形態を模倣したものか。
(一) 原告の主張
(1) 被告商品は、それぞれ原告商品のうち別紙二「物件目録」の表二ないし六
の「該当する原告商品」欄に記載した原告商品の形態を模倣したものであるから、
被告らによる被告商品の販売行為は、法二条一項三号に該当する。
(2) この点につき、被告シェリフは、被告シェリフ商品と原告商品の形態には
実質的同一性がないと主張するが、原告遊戯銃は、実銃とも他社製遊戯銃とも異な
る、原告が新規に開発した商品であり、実銃とそっくりの外観を実現しながら、小
さな銃内部に実銃と全く相違する原理の発射機構を組み入れるという相反する課題
を実現するために、原告が多大の労力と資本を投下して独自に考案したものであ
る。その部品である原告商品の形状も、このような努力の成果であり、部品が相互
に複雑に組み合わされるため、それぞれが独自の形状を有している。そして、被告
シェリフ商品は原告遊戯銃に組み込むために作られた部品であり、これに組み込ま
れて正常に作動しなければならないものであるから、必然的に原告商品に依拠して
製作され、これと実質的に同一の形態となっているといえる。被告シェリフが原告
商品との相違点として指摘する部分は、色、質感、サイズ等の非本質的部分におけ
る取るに足らない相違であり(詳細は平成九年二月六日付け原告準備書面(二)の
第二項記載のとおり)、独自の創作性もないのであって、材質や表面加工方法を変
えて模様や質感を変更することは当業者にとって極めて容易なことであるから、全
体としては原告が多大な労力をかけて開発した商品形態をそのまま採用しているも
のであり、原告商品の形態を模倣したものというべきである。
 なお、被告シェリフは、被告シェリフ商品と原告商品との価格差を実質的同一性
がないことの根拠とするが、これは被告シェリフが原告商品の形態を模倣すること
により暴利を得ていることを示すものであり、不正な競争方法の端的な証拠であ
る。
 したがって、被告シェリフの主張は理由がない。
(二) 被告シェリフの主張
(1) 被告商品は、いずれも「カスタムパーツ」と呼ばれる原告遊戯銃の部品で
ある。カスタムパーツは、原告の製造する部品では満足できず、自らの思うような
エアーソフトガンに改造したいという遊戯銃マニアの欲求に応えるための商品であ
るという性質上、原告商品と実質的に同一では存在し得ないものである。このこと
は、被告シェリフ商品が原告商品よりはるかに高額であることにも表れており、需
要者が原告商品の二ないし九倍の代金を支払ってまで被告シェリフ商品を購入する
のは、これが原告商品とは全く異なる商品と評価されているからである。
(2) 原告商品と被告シェリフ商品とを比較すると、両者は、質的形状(段差、
突起物、小窓等の有無、ねじ部の形状等)、量的形状(全体の長さ、幅、重量
等)、模様(研磨跡、砂粉の吹付け、刻印等)及び色(色彩、光沢等)の点におい
て相違しており(詳細は、平成八年一二月一七日付け被告シェリフ準備書面の別表
①ないし⑧記載のとおり)、右(1)に記載した遊戯銃の需要者は、右のような差
異をもって、両者を全く異なった商品と認識している。
(3) さらに、被告シェリフ商品は原告遊戯銃のカスタムパーツであるところ、
遊戯銃の需要者は部品をより良いものに交換して銃自体を自分の好みに改良したい
という欲求を持っているので、多種類のカスタムパーツが発売されると遊戯銃自体
の売上げも伸びるという相関関係があるのであり、原告代表者も、かつてはこのこ
とを認めていた。このように、遊戯銃の製造業者とそのカスタムパーツの製造業者
とは共存共栄の関係にあるのであって、模倣品であれば共存共栄の関係が成立する
ことはあり得ないことからしても、被告シェリフ製品が原告商品の模倣でないこと
が裏付けられる。
(4) したがって、被告シェリフ商品の形態と原告商品の形態との間には実質的
同一性がないから、被告シェリフ商品は原告商品の形態を模倣した商品に当たらな
い。
4 原告がかつて被告商品を販売していたことを理由に、その請求が信義則に反す
ることになるか。
(一) 被告アングス、被告フロンティア及び被告三ツ星の主張
 原告は、かつて(本件訴訟提起後もしばらくの間)、原告の経営する店舗におい
て、被告商品を含めたカスタムパーツを被告らから購入し、販売していた。原告の
右行為は、原告自身がカスタムパーツの製造販売を容認し、黙示の承諾を与えてい
たものであり、一方でこのような行動を取りながら、他方で被告商品が模倣品であ
ってその販売が不正競争行為に当たるとして損害賠償を請求することは、信義則に
反し許されない。
(二) 被告シェリフ、被告三ツ星及び被告【A】の主張
 原告は、平成五年法律第四七号による全部改正後の法が施行された平成六年五月
一日以降も、更には本件訴訟の提起後も、その店舗で被告商品を販売しており、原
告代表者もこのことを認識していた。したがって、仮に被告商品が原告商品の形態
を模倣した商品であったとしても、被告らがこれを販売することを承諾していたも
のと評価できるから、被告らによる模倣行為の違法性は阻却される。また、原告が
被告らに損害賠償請求をすることが右販売行為と矛盾することは論を待たないか
ら、原告の本訴請求は、禁反言の原則に照らし許されない。
(三) 原告の反論
 原告の小売店で被告商品が販売されていたことは認めるが、これは、知的財産権
について十分な問題意識を持たない担当者が仕入れたり、被告三ツ星が原告の注文
を待たずに商品を送付してきたためであり、原告代表者が気付いた時点で商品を撤
去させている。原告は、形態模倣を不正競争と定めた現行の法が施行された直後か
ら、原告商品の形態を模倣した部品は法に違反する旨を一貫して業界に対し訴えて
きたものであり、被告【A】、被告シェリフらに対しても個別に警告を行ってい
る。
 右のとおり、原告が被告商品の販売を承認していたことはないし、禁反言の法則
も当てはまらない。
5 被告フロンティアにつき、法一一条一項五号所定の適用除外事由が認められる
か。
(一) 被告フロンティアの主張
 仮に、被告フロンティア商品が原告商品の形態を模倣したものであるとしても、
被告フロンティアは、専門的知識を有しない小売店であり、これが模倣商品である
ことにつき善意であり、かつ、知らないことに重過失もなかったから、法一一条一
項五号所定の適用除外事由があり、同被告は損害賠償義務を負わない。
(二) 原告の反論
 被告フロンティアは、遊戯銃やカスタムパーツを扱う小売店として、商品につき
深い知識を持っているから、被告フロンティア商品の形態が原告商品の形態を模倣
したものであることを十分認識していたし、仮に認識していなかったとしても、知
らなかったことに重大な過失があることは明らかである。
6 被告【A】商品の販売につき、原告の許諾があったか。
(一) 被告【A】の主張
 被告【A】は、原告代表者と面識があり、原告代表者自身が被告【A】商品の精
度を認め、その製造を推奨していた。したがって、被告【A】商品の販売について
は、原告の同意があった。
(二) 原告の反論
 原告は、被告【A】に対し、原告商品を模倣した商品の製造販売を委託したり承
諾したことはない。
7 損害の額
(一) 原告の主張
 被告らは被告商品を販売したことにより、それぞれ以下のとおりの利益を得たの
で、法五条一項に基づき、原告は右金額相当の損害を被ったと推定される。
 よって、原告は被告らに対し、以下の各金額及びこれに対する不法行為の後であ
る平成九年四月一九日(損害賠償請求を追加した平成九年四月一八日付け請求の趣
旨変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
(1) 被告アングスは、別紙二「物件目録」の表二の「販売開始時期」欄記載の
時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金
額相当分の被告アングス商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計一九二四
万二〇〇〇円)を下回らない利益を得た。
(2) 被告フロンティアは、別紙二「物件目録」の表三の「販売開始時期」欄記
載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らな
い金額相当分の被告フロンティア商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計
六七一万五二〇〇円)を下回らない利益を得た。
(3) 被告三ツ星は、別紙二「物件目録」の表四の「販売開始時期」欄記載の時
期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額
相当分の被告三ツ星商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計六二〇万四〇
〇〇円)を下回らない利益を得た。
(4) 被告【A】は、別紙二「物件目録」の表五の「販売開始時期」欄記載の時
期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額
相当分の被告【A】商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計八九八万円)
を下回らない利益を得た。
(5) 被告シェリフは、別紙二「物件目録」の表六の「販売開始時期」欄記載の
時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金
額相当分の被告シェリフ商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計三〇一四
万円)を下回らない利益を得た。
(二) 被告らの主張
(1) 被告アングス商品の売上金額は七九一万七一〇〇円であり、これにより被
告アングスが得た利益は一九万七九二八円である。(2) 被告フロンティア商品
の売上金額は二〇一万八九二〇円であり、これにより被告フロンティアが得た利益
は一一万一〇四一円である。
(3) 被告三ツ星商品の売上金額は二一八万七一二〇円であり、これにより被告
三ツ星が得た利益は二一万八七一二円である。
(4) 被告【A】は、原告の主張をすべて否認し、争う。
(5) 被告シェリフ商品の売上金額は五九三万三六〇〇円であり、これにより被
告シェリフが得た利益は六五万二〇二九円である。第三 争点に対する判断
一 争点1(原告商品について、その形態が「製作上不可避な形態」であるとし
て、法二条一項三号の適用が排除されるか。)について検討する。
1(一) 法二条一項三号の趣旨につき考察するに、他人が資金・労力を投下して
開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにもかかわらずことさらこ
れを模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にいわ
ばただ乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価されるべきものであり、
また、このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要するこ
となく先行者と市場において競合することを許容するときは、新商品の開発に対す
る社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から、模倣者の右のような行
為を不正競争として規制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護す
ることとしたのが、右規定の趣旨と解するのが相当である。
 このように、法が商品形態の模倣行為を規制しているのが、先行者が商品形態開
発のために投下した費用・労力を保護する趣旨のものであることに照らせば、当該
商品の性質上その形態が一義的に決まるものについては、商品の形態について他の
選択肢がないことから製造者の創意工夫の働く余地がなく、この点につき先行者が
資金・労力を投下することが考えられないことからして、法二条一項三号による保
護の対象とならないものと解される。すなわち、商品の形態とその機能とが不可分
一体となっている場合、互換性保持のため一定の形態をとることが必要な場合や、
特定の商品の形態が市場で事実上の標準となっている場合など、その形態をとらな
い限り商品として成立し得ない場合は、形態模倣の規制対象にならないものと解す
べきである。法二条一項三号の条文において、括弧書きとして「当該他人の商品と
同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効
用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。」と規定されているのは右の
趣旨であって、同種の商品においてありふれた形態や、製作上回避不可能な形態等
を、「通常有する形態」として形態模倣に対する保護の対象から除外したものであ
る。
(二) 本件における原告商品及び被告商品は、いずれも原告遊戯銃の部品であ
る。部品であっても、当該部品がその構成の一部として組み込まれる製品(以下
「本体」という。)と別個の商品として独立して取引の対象となるものであれば、
法二条一項三号の「商品」に当たるということができる。そして、ボルト、ナット
などに代表されるような製品の種類・範囲を問わず工業製品一般に利用される部品
や本体の製造元を問わず同種製品に共通して使用することが可能な、いわゆる汎用
部品においては、その形態について、同種の部品に共通する一般的形状に加えて工
夫により何らかの特徴を付与することが十分考えられるところであり、そのような
付加的特徴を含む形態が法二条一項三号による保護の対象となることは、明らかで
ある。
これに対して、特定の製品にのみ使用される部品については、右と同列に論ずるこ
とはできない。すなわち、特定の製品について、当初から本体に組み込まれている
部品と同一の形態の部品を本体の製造者・販売者等が修理等の目的のために別個に
独立した商品として販売している場合(以下、右の部品を「純正部品」という。)
において、第三者が純正部品と互換性を有する部品を独立した商品として販売して
いるとき(以下、右の部品を「互換性部品」という。)には、純正部品の形態は、
法二条一項三号による保護の対象とならないと解するのが相当である。けだし、純
正部品は特定の製品のみを本体として使用するという性質上本体における取付部位
や係合する他の部品との関係からその形状が一義的に決まるか、そうでないとして
も本体に当初から取り付けられている部品と交換するという目的からその形状は右
部品と同一又は極めて類似した形態となることが避けられないものであって、独立
した商品としての純正部品自体にはその形態について創意工夫が働く余地がないと
いうべきであり、他方、右事情は互換性部品についても同様に当てはまることか
ら、両者の形態は必然的に同一又は極めて類似するものとならざるを得ないからで
ある。
 右のように解しても、本体の製造者は、本体に組み込まれる部品の形態の開発の
ために資金・労力を投下したとしても、本体の販売価格に反映させることによって
その対価を回収することが可能であることに加え、右部品の形態が技術的見地ない
し美感的見地から意義を有する場合には特許権・実用新案権ないし意匠権を通じて
純正部品の製造・販売について法的保護を受けることが可能であるから(通常の場
合、本体に組み込まれるべき部品の形態が開発され、右部品の組み込まれた本体が
販売されてから一定の期間を経過した後に、修理等のための部品に対する需要が発
生するから、純正部品が第三者の販売する互換性部品との競合を生ずるまでにある
程度の期間を要するので、本体の製造者は部品の形態につき前記のような諸権利を
通じての法的保護を受けることが時間的な面で困難とはいえない。)、本体の製造
者にとって著しい不利益を与えることにはならない。
 他方、仮に純正部品の形態が法二条一項三号による保護の対象となると解した場
合には、純正部品の販売に先んじて第三者が互換性部品を販売したときには、先行
して販売されている互換性部品の形態と同一の形態であるという理由から本体の製
造者が互換性部品に遅れて純正部品を販売する行為が制限されることになりかねな
いが(当該形態の部品を組み込んだ本体が既に販売されているにしても、本体に組
み込まれた部品の形態は「商品の形態」ではない。)、このような結果は極めて不
合理であるし、また、本体を購入して使用する需要者としては、互換性部品の販売
が純正部品の形態模倣を理由として制限されるときには、純正部品と互換性部品と
の間での選択により高品質ないし安価な部品を入手する可能性を閉ざされる不利益
を被り、ひいては本体購入時に予期しなかった高額な出費をその後の修理等の時点
において強いられることにもなりかねない。
 右のとおり、純正部品の形態は法二条一項三号にいう「通常有する形態」に該当
するものというべきであって、第三者がこれと同一の形態の商品を販売したとして
も、不正競争行為とはならないと解するのが相当である。
2 これを本件についてみると、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各
事実を認めることができる。
(一) 原告遊戯銃は、別紙三「展開図」に示されたとおり、その購入者が個々の
部品に分解して組み立てることができるようになっており、原告は、原告遊戯銃と
は別に、その部品も販売している。原告遊戯銃は、原告が開発し、「マグナ・ブロ
ーバック・システム」と呼んでいるエアーソフトガンの発射方式を採用したもので
あって、右方式を実現するため、本物の銃器や従来からある遊戯銃とは異なる独自
の内部構造を有している。そのため部品の形態についても、右発射方式を実現する
ことができるように、本物の銃器や従来の遊戯銃の部品の形態と相違する部分があ
る。なお、原告は、右発射方式に関して特許出願をし、既に特許査定を得ている。
(甲七、一二、二三、二八)
(二) 被告商品は、いずれもカスタムパーツと呼ばれる原告遊戯銃の部品であ
る。遊戯銃(エアーソフトガン)のカスタムパーツとは、遊戯銃本体の製造者が作
り上げた遊戯銃に組み込まれている構成部品と交換することによって遊戯銃の性
能、機能、外観等を変化させ、向上させることを目的に開発されているものであ
り、遊戯銃本体に当初から組み込まれている部品と互換性を有する必要があること
から、基本的な寸法、形状がこれと一致するものである。(甲四〇、四一、戊二
〇)
3 右に認定した事実及び前記第二、一記載の事実(前提となる事実関係)により
検討すると、まず、原告商品は、原告が製造販売する原告遊戯銃のみに使用される
部品である。そして、原告商品の形態については、これが原告遊戯銃に当初から組
み込まれている部品の形態と相違するものであることをうかがわせる証拠はなく、
両者の形態は同一であるものと認められるものであって、原告商品は原告遊戯銃の
純正部品ということができる。したがって、右1(二)で説示したとおり、その形
態は法二条一項三号にいう「通常有する形態」に該当するというべきである。そう
すると、被告らによる被告商品の販売行為は、被告商品と原告商品の形態が実質的
に同一であるといえるか否かについて判断するまでもなく、不正競争行為には該当
しないというべきである。
4 この点につき、原告は前記第二、二1(二)のとおり主張するが、その主張は
右1において説示した法の趣旨と相いれないものというべきである。なお、原告
は、銃砲刀剣類所持等取締法及び日本遊戯銃協同組合の自主規制による材料の制限
等を根拠に、被告らを保護すべき実質的な理由はないなどと主張し、これに沿う証
拠(甲三〇ないし三二)を提出するが、原告の主張する事由は、法二条一項三号の
解釈に当たり参酌すべきものではなく、原告の主張は採用することができない。
二 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく原告の請求はすべて理
由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一〇年一二月一日)
東京地方裁判所民事第四六部
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 長谷川浩二
裁判官 中吉徹郎
   (別紙一)
   当事者目録
原告            株式会社ウエスタン・アームス
右代表者代表取締役     【B】
右訴訟代理人弁護士     宗万秀和
              川合順子
              荒木和男
              近藤良紹
              早川貴文
              川合晋太郎
被告            株式会社アングス精機販売
右代表者代表取締役     【C】
被告            有限会社ホビーショップフロンティア
右代表者代表取締役     【D】
右被告両名訴訟代理人弁護士 河野玄逸
              川村英二
同訴訟復代理人弁護士    曽我幸男
被告            株式会社三ツ星商店
右代表者代表取締役     【E】
右訴訟代理人弁護士     美村貞夫
              土橋頼光
              美村貞直
被告            CAROM SHOTこと【A】
右訴訟代理人弁護士     浅井正
被告            株式会社シェリフ
右代表者代表取締役     【F】
右訴訟代理人弁護士     中島健仁
              渡辺徹
              八代紀彦
              佐伯照道
              天野勝介
              森本宏
              山本健司
              滝口広子
              児玉実史
              生沼寿彦
              飯島歩
              中森亘
              小瀧あや
              奥田孝雄
   (別紙二)
<84783-001>
<84783-002>
<84783-003>
<84783-004>
<84783-005>
<84783-006>
   (別紙三)
<84783-007>
   (別紙四)
被告商品形態写真
被告アングス商品
<84783-008>
<84783-009>
<84783-010>
<84783-011>
<84783-012>
<84783-013>
<84783-014>
<84783-015>
<84783-016>
被告フロンティア商品
<84783-017>
<84783-018>
<84783-019>
<84783-020>
<84783-021>
<84783-022>
<84783-023>
被告三ツ星商品
<84783-024>
<84783-025>
<84783-026>
<84783-027>
<84783-028>
<84783-029>
<84783-030>
被告【A】商品
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<84783-032>
<84783-033>
被告シェリフ商品
<84783-034>
<84783-035>
<84783-036>
<84783-037>
<84783-038>
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<84783-040>
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