弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 原判決中、一審被告敗訴部分を取消す。
 一審原告らの請求を棄却する。
 一審原告Aを除くその余の一審原告らの本件附帯控訴を棄却する。
 訴訟費用は第一、二審を通じ、一審原告らに生じた費用を当該原告に負担させ、
一審被告に生じた費用の一〇分の九を一審原告らに均分負担させる。
       事   実
 一審被告指定代理人は、控訴につき「主文第一、二項同旨。訴訟費用は第一、二
審とも一審原告らの負担とする。」との判決を、附帯控訴に対し「主文第三項同
旨。附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。」との判決を求め、一審原告ら
(ただし、附帯控訴については一審原告Aを除く)訴訟代理人は、控訴に対し控訴
棄却の判決を、附帯控訴につき「原判決を左のとおり変更する。一審被告は一審原
告Aを除く一審原告ら各自に対しそれぞれ金一万円を支払え。訴訟費用は第一、二
審とも一審被告の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は左のとおり附加する
ほかは、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決三枚目表末行の「地方本部」を
「地区本部」と、同七枚目表五行目および同八枚目表二行目の「索制」を「牽制」
と、同一二枚目表三行目の「(答弁)」を「(抗弁に対する認否)」と、同一二行
目の「斗争」を「闘争」とそれぞれ訂正する。)であるからこれをここに引用す
る。
(一審被告の主張)
一、服装規定(就業規則二五条)違反について。
 リボンの着用が郵政省就業規則二五条所定の「正しい服装」であるか否かは、着
用の目的、時、場所、業種 表示内容と関連して決すべきである。郵便局職員は内
外勤ともたえず顧客に接する業務に従事するものであり、しかも、郵便事業は国の
独占事業であるから利用者に選択の自由はない。このような重要事業に従事する職
員が、本件のように「さあ!団結で大巾賃上げをかちとろう」というような業務遂
行に全く関係のない、しかも闘争的な文言を表示したリボン(原判決末尾の別紙二
の一参照)を着用して客に接すると、顧客としては、郵便局職員は賃上げに心を奪
われ、業務をなおざりにし、業務が停滞するのではないかという危惧の念を抱くの
が当然であろう。しかも、一審原告らがリボンを着用したのは二月、三月の入学試
験、就職等に郵便が利用される極めて重要な時期であつた。リボンの着用によつ
て、素朴な心情を有する一般市民が郵便事業に不信感を抱くことは明らかである。
したがつて、このようなリボンの着用は、勤務時間中の郵便局職員として正しくな
い服装である、というべきである。
 腕章の着用(一審原告B、同Cの場合)についてもその表示内容が問題である。
本件腕章は、一審原告らも主張するとおり(原判決末尾の別紙二の二参照)「全
逓、灘郵便局支部」と表示されたものであり、前記リボンの着用と相俟つて一般市
民の郵便事業に対する信頼を損うものであることはいうまでもないが、そのほか、
腕章の場合はさらに業務の事業主体を誤認せしめる危険もある。すなわち、かかる
腕章着用の者が貯金、保険加入等の事務に従事すれば、全逓が右の事業を行つてい
るかのような奇異な印象を与え、また、郵便局が全逓の管理下におかれたかの如き
印象も免れない。勤務時間中の本件腕章の着用が正しい服装といえないことは明ら
かである。
二、勤務時間中の組合活動禁止規定(就業規則二七条)違反について。
 勤務時間内における本件リボン、腕章(以下、本件リボン等と総称することもあ
る。)の着用が組合活動に属することは一審原告らもこれを認めるところであるか
ら、これが就業規則二七条の明文に反することは明白である。そして、この場合、
当該組合活動によつて業務の正常な運用が現実に阻害されたかどうかは右規則違反
の存否判断に影響を及ぼすものでないことは原審で主張したとおりである。もとも
と、具体的な業務阻害を挙げ、立証することは、事柄の性質上困難であるし、ま
た、勤務時間内の組合活動を正当とする一部の学説もすべての場合に正当であると
いつているわけではなく、一定の限定を設け、使用者側に義務の不履行があつて、
緊急の状態が生じた場合、許容慣行がある場合に限り、特に時間内組合活動も正当
であるといつているのである。してみると、本件のような場合にまで正当性を肯認
することは前記例外的許容範囲の限度を超えるものである。許容範囲を拡大するこ
とは、かえつて使用者側の利益供与となり労組法七条三号所定の不当労働行為にも
近づくこととなろう(勤務時間中の組合活動に対し賃金を支払つた場合に、組合の
自主性がないとされた事例として、岡山地労委昭和四〇・一〇・一四山陽新聞労組
事件、労働経済判例速報五五八・二七がある。)。
 以上はともかくとして、かりに勤務時間内の組合活動も業務としてなす身体的、
精神的活動と矛盾なく両立するものである限り例外的に許容され、前記就業規則に
違反しないとの見解(原判決の見解)をとるとしても、本件リボン等の着用が業務
に支障を来たすことは明白である。すなわち、まず、本件リボン等の着用は、労働
義務の履行としてなされる身体的活動を阻害するほどのものでないかもしれない
が、その精神的活動とは明らかに矛盾するものである。組合員はリボン等の勤務時
間内着用によつて組合活動たる特定の要求を表明し、高められた闘争意識の下にお
いて職務に従事することになるのであり、これは職務専念の観念と相容れないこと
である。もし何ら矛盾なく両立するのであれば、もともと本件リボン等の着用は組
合活動ともいえないものとさえいいうることになつてしまう。次に、実際問題とし
ても、リボン等の着用は、一般市民の郵便事業に対する信頼を損わせ、業務を阻害
するものであることは既に述べたとおりである。「一般市民のこのような不信不安
感は健全な市民感覚の反映とはいえないから、業務の支障とはならない。」という
原審の見解は独自のものであるし、組合活動に理解を有しない市民の声を無視して
よいわけでもない。
 また、一審原告らの本件リボン等の着用は、その所属組合である全逓信労働組合
(全逓)の違法な争議行為の一環としてなされたものである。すなわち、来たるべ
き昭和三九年四月一七日の違法な半日ストを盛り上げるための前提としてなされた
組合活動の一つであつたことは明らかである。このようにみてくると、本件リボン
等の着用が業務を阻害するものであることはさらに明白である。もつとも、右半日
ストは、結果においては、決行前日のいわゆるD、E会談によつて中止されるにい
たつたが、このことが本件リボン等の着用と半日スト予定との関係を断ち切るもの
でもないし、原審がいうように右半日ストを多分に示威的なものに過ぎなかつた、
と認めることもできない。現に、全逓は四月七日に半日ストの準備を指令し(指令
第二三号)、同月一五日スト突入と第二波スト体制の確立を指令している(指令第
二四号)。そのほか、全逓は昭和三九年前後に次のとおりストまたはこれと同視で
きる勤務時間内の職場大会の実行を宣言し、かつ実行しているのであつて、これら
の中間でなされた本件リボン等の勤務時間内着用がこれら違法争議と無関係である
とは到底いえない。
昭和三六年度
 全逓闘争指令第一五号、一六号により、三月一八日、勤務時間に一時間喰い込む
職場大会を実施(参加人員八、二〇一名)
昭和三七年度
 全逓指令第一九号により、三月二八日、勤務時間に三〇分喰い込む職場大会を実
施(参加人員一、八四〇名)全逓指令第七号により、一二月一四日、勤務時間に一
五分喰い込む職場大会実施(参加人員三、六八〇名)
昭和三八年度
 全逓指令第一〇号、一一号により、二月一五日、勤務時間に一時間喰い込む職場
大会実施(参加人員六、三七五名)
昭和四〇年度
 全逓指令第二一号により、三月一七日、一時間の時限スト実施(参加人員八七三
名)
 全逓指令第二六号により、四月二三日、半日スト実施(参加人員三、三四三名)
 全逓指令第六号により、一一月一三日、三〇分の時限スト実施(参加人員四四六
名)
昭和四一年度
 全逓指令第二三号により、四月二六日、半日スト実施(実施の途中に指令第二四
号により中止され半日に至らなかつた)
 全逓指令第一三号により、一〇月二一日、一時間の時限スト実施(参加人員五七
九名)
昭和四二年度
 全逓指令第三二号により、五月一七日、二時間の時限スト実施(参加人員一、三
五九名)
三、職務命令(本件リボン等の取外し命令)遵守規定(就業規則五条二項)違反に
ついて。
 勤務時間内における本件リボン等の着用が就業規則に違反し違法であること前記
のとおりであるから、これが取外しを命じた灘郵便局長(以下、単に局長というこ
ともある。)の職務命令はもとより適法であり、右命令に応じなかつた一審原告ら
が職務命令遵守義務に違反することも明白である。
 かりに、一審原告らが主張するように局長の右取外し命令が違法であつたと仮定
しても、右違法が重大かつ客観的に明白でなければ、命令受領者としてはこれに従
うべきであることも原審で主張したとおりである。右の帰結は、行政法上一般に承
認されている行政行為の当然無効を主張しうる場合と取消請求しうる場合との区別
に関する理論を類推適用したものであり、その意味において職務命令に一種の公定
力を認めるものである(原判決は、右の法理を容認したうえ、本件の場合は、取外
し命令は違法ではあるが、その違法性は一見明白とはいえない、と説示しながら、
他方で、率然と、右命令は正当な組合活動に対する不当介入を生ずる場合であるか
ら当然無効である、と述べており、その論理が矛盾するか、もしくは不十分である
ように思われる。もし、このような見解をいうのであれば、そのような例外を認め
る根拠をさらに詳細に説明すべきである。)。
 ところで、右のような重大明白性の理論が妥当するか否かについては、郵政省職
員の勤務関係の法的性質如何が重要問題である。
 いうまでもなく、郵政省職員は国家公務員であつて、その任用に関する法律関係
は公法上のものであり、任用によつて国と公務員との間に勤務関係が生ずる。この
ことは公労法二条一項二号所定のいわゆる現業公務員についても同様である(仙台
高裁昭和四四年四月七日判決等)。そして、右勤務関係の基本条件は法律によつて
定められ、国の公共目的達成のため国民全体の奉仕者として勤務すべき公法上の特
別の地位に立ち、国の規律支配に服するものであつて、この点は、一般私企業にお
ける被用者が当事者対等を原則とする私的雇用契約に基き単に労務給付提供義務を
負うだけである場合とは異なる。職務命令に一種の公定力が認められなければなら
ない所以もここにあるわけである。
 ここで、以上の点を、具体的に、実定法に基いて敷衍すれば次のとおりである。
すなわち、
 周知のとおり、非現業の一般職国家公務員(以下「一般公務員」という。)につ
いての任免、分限、服務および懲戒等の勤務関係はすべて法律および人事院規則に
よつて規律されており、任命された特定個人としての公務員は、このような法関係
下に立たしめられるものであり、またこのような公務員に対する任命、分限、服務
および懲戒等に関する行政庁の行為が国の行政機関として有する行政権の行使であ
り、行政処分であることは、現在多くの判例および学説の認めるところであつて異
論をみない。
 ところで、公労法四〇条によれば、郵政省職員を含む五現業公務員(公労法二条
一項二号)については、国家公務員法の規定のうち、一定範囲のものの適用を除外
しているが、勤務関係の基本をなす任命、分限、懲戒、保障および、服務に関する
規定については、ごく限られた一部がその適用を除外されているだけで国家公務員
法第三章第三節の試験および任免に関する規定(三三条~六一条)、第六節の分
限、懲戒および保障に関する規定(七四条~九五条)、第七節の服務に関する規定
(九六条~一〇六条)のほとんどは、郵政省職員を含む五現業公務員にも適用さ
れ、またこれらの規定に基く「職員の任免」に関する人事院規則八ー一二、「職員
の身分保障」に関する人事院規則一一ー四、「職員の懲戒」に関する人事院規則一
二ー〇、「不利益処分についての不服申立て」に関する人事院規則一三ー一、「営
利企業への就職」に関する人事院規則一四ー四、「政治的行為」に関する人事院規
則一四ー七、「営利企業の役員との兼業」に関する人事院規則一四ー八等も適用さ
れるのである。
 もつとも郵政省職員を含む五現業公務員については、公労法八条が一定の団体交
渉の範囲を法定し、その限度において当事者自治の作用を認めているが、その限ら
れた一部の規定があることをもつて、直ちにこれら公務員の勤務関係の法的性質を
私法関係にあるとしたり、勤務関係の基本をなす任免、分限、懲戒、保障および服
務の関係についてまで一般公務員の勤務関係と適用を異にするかのように、一般的
に確定しうるものではない。
 右に述べたところからして、郵政省職員を含む五現業公務員の勤務関係は、公労
法四〇条によつて適用除外されているものを除き、一般公務員と同様に国家公務員
法、人事院規則等の適用を受けるものであり、公法的規制をうけた勤務関係という
ほかはないのである。
 したがつて、一審原告ら主張のような労使対等の原則は公労法八条により当事者
自治の作用を認めている範囲内、(同条二号は各種の事項に関して、当事者自治に
よる決定を認めているが、右に述べたとおりこれら公務員に対する法的規制が全面
にわたつているため、当事者自治による取りきめの余地はほとんどない。)におい
てのみ想定されているものであつてこのごく限られた一部の側面だけを捉えて、こ
れがあたかも全面に及んでいるかのごとく郵政省職員の勤務関係の性質が労使対等
を原則とする労働契約関係であると解することは、本末を転倒した論理というほか
ない。
 また、国家公務員の労働基本権について、五現業公務員と一般公務員を比較した
場合、前者については、公労法、労組法等が適用されることから両者の間に大きな
差異があるがごとき外観を呈しているが、一般公務員にも、職員がその勤務条件の
維持改善を図ることを目的として組織する団体として職員団体を結成することが認
められ、当局と給与、勤務時間その他の勤務条件等に関し交渉する権限が付与され
ている(ただし国の事務の管理及び運営に関する事項は交渉の対象とすることがで
きない)ことから、五現業公務員に認められている労働基本権と根拠法規は異なる
にしても、その実体においてはほとんど差異はなく単に一般公務員については、協
約の締結権がない点において異なるのみである(国公法一〇八条の二以下、人事院
規則一七ー〇「管理職員の範囲」、同一七ー一「職員団体の登録」、同一七ー二
「職員団体のための職員の行為」等)。
 このように、郵政省職員の勤務関係もその職員の行なう職務の公共性に鑑みて、
一般公務員と同様に法的規制のうえで特殊性が認められるものであり、私的な労働
契約関係とは異なり、公法上の特殊な勤務関係に立つているのである(F「新版行
政法下Ⅰ」一八三頁)。
 さらに、郵政省職員の勤務関係が公法上の勤務関係であることは、同じく公労法
の適用をうけるとはいえ、一般的に私法的関係であるとされる三公社職員の勤務関
係と対比することにより明らかとなる。
 以下便宜国鉄の例をとり両者を対比してみる。
(一) 国鉄は、国家行政組織法に定める国の行政機関ではなく、したがつてその
職員もまた国家公務員ではない。これに対し、郵政事業は国家行政組織法に定める
国の行政機関である郵政省によつて執行され、従事する職員も国家公務員法二条二
項にいう一般職に属する国家公務員である。
(二) 国鉄職員には、日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)三四条二項に
より、国家公務員法の適用が全面的に排除されているのに対し、郵政省職員には、
公労法四〇条により、国家公務員法の規定の一部の適用が排除されているのみで原
則的には同法が適用され、なかでも勤務関係の基本をなす任免・分限・懲戒・服務
等に関する同法の規定は全面的に適用される。
(三) 国鉄職員の任免については、国鉄法二七条において、その基準の大綱を示
すにとどめ、その具体的規律については国鉄の定めるところに一任しているのに対
し、郵政省職員の場合には、右述のとおり国家公務員法第三章第三節以下の規定お
よび人事院規則八ー一二等により、職員の採用、試験、任用手続等がきわめて詳細
かつ具体的に規定されており、郵政省に一任されている部分はきわめて少ない。
(四) 降任および免職事由についてみると、郵政省職員の場合には、国家公務員
法七八条四号において「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過
員を生じた場合」と規定されているのに対し、国鉄職員の場合には、国鉄法二九条
四号において、「事業量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」と、
ことさら私企業的色彩の強い降職および免職事由が定められている。
(五) 懲戒事由についてみると、郵政省職員の場合には、国家公務員法八二条三
号に「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」がその事由に当
る旨定められ、郵政省職員の公務員たる性格を明らかにしているのに対し、国鉄法
には、その趣旨の懲戒事由は存しない。
(六) 一般服務関係については、国鉄職員の場合には、国鉄法三二条が「職員
は、その服務を遂行するについて、誠実に法令及び日本国有鉄道の定める業務上の
規程に従わなければならない」旨を定めるにとどまつているのに対し、郵政省職員
の場合には国家公務員法九六条において「すべて職員は、国民全体の奉仕者として
公共の利益のために勤務する。」ものであるとの根本基準を明らかにしているほ
か、同法および人事院規則により、上司の命令に対する服従、信用の保持、秘密の
厳守、職務への専念、政治的行為の制限、私企業からの隔離等(国家公務員法九八
条~一〇四条)国家公務員として特殊な勤務関係に応ずるものとした詳細な規定が
設けられている。
 以上のように公社職員の勤務関係と郵政省職員の勤務関係との間には実定法規の
うえで本質的な差異が認められるのであり、この理を肯認する裁判例も多く、特
に、昭和四七年九月八日大阪高裁判決は、「五現業国家公務員の勤務ないし労働関
係の実態が、当該事業の性質からみれば、一般の私企業のそれとなんら異ならない
としても、そのことから直ちにこれら公務員の勤務関係の法的性質を私法上の労働
契約関係であるとすべきものではなく、国家公務員法および人事院規則の規定が右
勤務関係の実態をどのようにとらえて法的規制をしているかが検討されなければな
らないのであつて、現行実定法の下においては、原判決の理由説示に明らかなとお
り、その身分は一般国家公務員と同一であり、またその勤務関係は公法関係と解せ
ざるをえない。」と郵政省職員の勤務関係が公法的関係にあることを明確に判示し
ているのである。また、右は、学説においても有力説の説くところとなつている
(G「公労法、地公労法」一八四頁「五現業職員についても、任用・昇任、意に反
する降任、休職、免職、不服申立、懲戒、服務などについて、一般公務員と国家間
の公法上の権利義務に関する規定が適用される以上、その勤務関係は私法的関係と
はいえないから、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」としての行政
処分であるといわなければならない」等)。
 以上、詳述したとおり、国家公務員に対する任免、分限、服務および懲戒等の勤
務関係の具体的内容は、国家公務員法にもとづき、任命権者が公務の円滑かつ能率
的な遂行を期すため、任命権者の人事行政上の裁量措置として、一方的に行ないう
るのである。そうして、右規定に基づく行為はいずれも行政処分として公定力が認
められ、重大かつ明白な瑕疵のある場合を除き適法有効な推定を受けるのである。
このようにこれらの行政処分が任命権者の裁量に委ねられている実質的な理由は、
いうまでもなく、公務の能率的遂行を図る見地から、国家公務員として特殊な規律
に服せしめるべきであるという立法政策上の要求に外ならないからであり、また、
郵政省職員を含む五現業公務員について、公労法四〇条で、一般公務員に関する任
免、分限、服務および懲戒等の規定を適用除外としなかつたのもここにその理由が
あるのである。また、このことは、一般に公務員の政府に対する関係を単純な労務
供給の関係であるとしたり、私法上の雇用契約関係と同一視したりすることは間違
いであると説かれている(F「新版行政法下Ⅰ」一八三頁、H著「新版行政法概
説」)こととその理を一にするものである。
四、勤務時間中の本件リボン等の着用が職務専念義務(就業規則五条一項、国公法
一〇一条)にも違反することについて。
 先に述べたとおり、本件リボン等の着用は、組合の指令により組合の掲げる要求
を貫徹しようとの意思を表明するものであり、これを着用して執務することは組合
員の志気をたかめる作用をもつと同時に当局側および一般公衆に対する要求貫徹の
ための示威効果を狙うものであることは一審原告らの主張でもあるのであるから、
必然的に職務遂行に注意力を集中することを不可能ならしめるものといわざるを得
ず、したがつて、職務専念義務に違反すること明白である。しかして、一般に公務
員が負う職務専念義務は職場規律上の義務にほかならないから、右義務違反によつ
て、はたして具体的、現実的に正常な業務運用上の阻害が生じたかどうかは問題に
ならない。
五、灘郵便局長が一審原告らに対し本件訓告処分をしたについて何ら過失は存しな
かつたことについて。
 局長が取外し命令を発し、本件訓告処分を発した時点において、本件リボン等の
着用が違法であるか否かについて、原判決が到達したような、その着用は許容され
る、との結論に達するために、局長としてはどのような研究をすればよかつたので
あろうか。当時いわゆるリボン戦術についての研究記述は原判決が引用するもの以
外には殆んどなく、それも意見が分れている状態であり、学説判例がこれを適法と
することに定立したというには程遠いものであつたのである。しかも、右意見の対
立は、価値観の相違に由来する点もあつて、いずれが正当であるか理論的に論証す
ることの困難な問題である。
 このような問題について、学者でも、司法官でもない一郵便局長が如何なる研究
をすべき注意義務があるであろうか。少くとも原判決のような見解に到達せよ、と
いうのは不可能を強いるものといわねばならない。
 一般に、公務員の行為が後日裁判所によつて違法と判断されたからといつて、そ
のことにより、直ちに右公務員が当該行為をしたことについて過失があつたという
ことができないことはいうまでもない。本件のように行為(局長の訓告処分)の違
法性が一義的に明らかでない場合には、むしろ原則として当該行為をした公務員の
過失はこれを否定すべきである(東京高裁昭和二九年三月一八日高裁民集七巻二号
二二〇頁参照)。類似の場合に公務員の過失を否定した判決例として次のようなも
のが挙げられる。(1)登記官吏が公売処分による所有権移転登記をするにさいし
て、公売処分前に付されていた処分禁止仮処分の登記を職権で抹消したが、右抹消
は古い民事局長回答に従つてなされたもので(その後通達変更)、説がわかれてい
たところ、右取扱いは違法とされたが、登記官、民事局長の過失を否定したもの
(最判昭和四四年二月一八日判例時報五五二号四七頁)、(2)厚生大臣がメーデ
ーのための皇居外苑使用申請に対して不許可処分にした事案において、右不許可処
分は違法であるが、この判断はきわめて微妙であつて、その違法性が一見明瞭とい
えないとして厚生大臣の過失を否定したもの(前掲東京高判)、(3)税務署長が
更正の除斥期間内に更正の決裁を行ない、通知書を作成したが、これを発送したの
は期間経過後であつた事案において、更正処分は違法であるが、税務署内において
も期間内に決裁があれば足りるとする説と通知到達を必要とする説とに分れてお
り、一見明瞭な法律解釈上の誤りを犯したものではないとして過失を否定したもの
(大阪地判昭和三〇年三月一四日下民集六巻三号四六頁)、(4)推計課税につ
き、推計方法に過誤があつた事案において過失を否定したもの(法務省訟務局編国
家賠償法の諸問題(追補)七六七頁)等がこれである。
(一審原告らの主張)
一、一審原告Aを除くその余の一審原告らの附帯控訴について
 原判決が一審原告らの本件慰藉料請求を認容したのは正当であつたが、その認容
額を各自千円としたのは事案に鑑み僅少に過ぎる。一審原告らが原審で請求した各
自一万円をもつて正当と考える。すなわち、灘郵便局長は、本来市民社会ではしば
しば行われるリボン等の着用をことさら問題にしあえて訓告の対象とするという、
異例かつ強行的な手段に出たものであり、これは一審原告らの組合運動を嫌悪し、
その労働基本権を全く無視した暴挙というほかない。一審被告も主張するように、
一審原告らがかかる違法な訓告処分の取消を求める行政法上の抗告訴訟を提起する
ことが法律上不可能であるとすれば、一審原告らとしては本訴のような形でしか自
己の名誉を回復しえないわけであり、このことを考えても、一審原告らの訓告によ
る経済的、社会的、精神的損害は甚大であるといわねばならない。
 一審原告らが訓告処分を受けたことによつて蒙つた苦痛は次の三種に分類しうる
ものであり、いずれもにわかに拭い去ることのできないものである。すなわち、
(1)一審原告ら各自が個々に感じた精神的苦痛、(2)国家公務員としてその経
歴上汚点を記録されたため、将来身分上不利益を蒙るおそれがあると考えざるを得
ないために受けた一般的苦痛、(3)全逓の組合員として正当な権利行使をした行
為を非違と評価されることにより、社会的信用を失墜し、かつ、正当な権利感情を
侵害されたことによる苦痛。
 よつて、一審原告Aを除くその余の一審原告らは被告に対し各自慰藉料一万円の
支払いを求めるため本件附帯控訴に及んだ。
二、灘郵便局長のした本件訓告処分の違法性について。
 局長が一審原告らに対してした本件訓告処分が違法であることは原審で述べたと
おり明白であり、疑いを容れる余地はない。一審被告が当審においてるる述べる主
張はすべて法理を誤解または曲解したものであるからこれを争う。
 およそ、公権的権力行使と関係のない現業公務員が、業務に支障を及ぼさない範
囲で、比較的短期間にわたり、社会一般で行われているささいかつ平常な服装行為
(本件リボン等の着用)を、憲法で保障された団結活動の一環として、行なつたこ
とが、何故制裁の対象にならなければならないのであろうか。これを正当とする見
解が今やわが国労働法学会の通説である。
 一審被告のいう根拠は、要するに、就業規則違反に尽きる。しかし、もともと、
郵政省における就業規則は労基法違反の疑いの強いものである(多くの解釈通達が
あり、これには労働組合の意見聴取がない。労基法九〇条参照)。その点はさしお
いても、少くとも規則の解釈は客観的かつ合理性をもつものでなければならない。
(1) 一審原告らのリボン等の着用が何ら就業規則二五条(服装規定)、二七条
(勤務時間中の組合活動禁止規定)および五条一項(職務専念義務規定)に違反し
ないことは原審において述べ、かつ原判決が正当に説示したとおりである。
 この点に関する被告の当審における主張について一、二応答するに、(イ)リボ
ンの着用が特に社会常識に反しないことは、郵政省自ら執務時間中にこれを着用さ
せていることであり、客観的にみて、何ら品位を落とし、業務に支障を来たし、規
律の保持を損うものでないことは多言を要しないことである。(ロ)一審被告は、
勤務時間中における組合活動を許容することは、かえつて使用者当局の干渉となり
不当労働行為となるかのようにもいうが、勤務中の組合活動のありうることは労組
法においても当然のこととして認めているところのことであり(同法二条二号但
書)、何ら異とするに足りず、一審被告の前記主張は誤解も甚しい。(ハ)本件リ
ボンの着用は、その表示に照らし、何らストライキ決行を表明したものではないか
ら、ストライキ等の争議行為と直接関係のない組合活動であるというべきである。
一審被告は、一審原告らの所属する全逓の組合活動を違法な争議行為ときめつけた
うえ、これと本件リボン等の着用とを関連づけ、リボン等の着用に特殊な意味づけ
をしてこれを違法というもののようであるが、曲解である。かりに、リボン等の着
用を争議行為と関連づけてみるとしても、本件では、当時予定された半日ストはそ
の本質において示威的なものであつたし、現実には結局、中止されたことも原判決
の正しく指摘するとおりであるから、このことによつて特段リボン等の着用を違法
視することはできないはずである。かりに労働者がストライキ宣言を行つても、何
ら確定的なものではない。それ自体は目的ではなく、あくまでストライキを背景に
団体交渉を行い、もつて組合員の労働条件の向上を目的とするのであるから、その
本質が示威的であること明白であろう。また、公務員の争議行為自体に関しても、
これを当然の如く違法視する一審被告の見解は最高裁判決例にも反する。すなわ
ち、最高裁大法廷昭和四一年一〇月二六日判決は、公務員の労働基本権保護に値い
しない争議行為として、暴力的行為、政治目的によるストライキ、国民経済に重大
な支障を与える場合を挙げ、これに限定しているのである。
(2) してみると、残るのは職務命令遵守義務(就業規則五条二項)違反の有無
が残るだけである。しかし、本件の場合は、局長は違法な職務命令(リボン等の取
外し命令)をしたのであるから、一審原告らとしては何らこれに服する義務のない
こと論をまたない。
 この点に関し、一審被告は、一審以来、行政処分のいわゆる公定力の理論を援用
し、かりに違法な命令であつたとしてもその違法が重大かつ明白でないかぎり、被
命令者はこれに従うべきであるとの論をなす。しかし、これは、本来労使対等であ
る場に特別権力関係論を持ち出し、「良くても悪くてもとにかくお上の命令には従
え。」といつているものにほかならず、到底賛同することのできない非近代的な議
論である。
 現業公務員の労使関係の法的性質は、身分は公務員であるが、その執務する事務
は民間企業と異ならない経済的作用であり、公権力の行使ではなく、それ故、労使
関係も行政法上の伝統的な特別権力関係の支配する公法上の関係と把握することの
できない労使対等、私的自治の支配する特殊な私法関係と理解されなければならな
いものである。
 この点を一審被告の当審における主張に応じ、実定法規に照らし敷衍すると次の
とおりである。すなわち、
(イ) 現業公務員である郵政職員は公共企業体等労働関係法(公労法)および
「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」(給与特例法)の適
用を受け他の一般職の国家公務員とは労働関係上異る法律上の取扱いを受けてい
る。即ち郵政職員は公労法四〇条一項および給与特例法七条一項一号によつて国公
法の重要な規定の適用を排除されているのである。すなわち、公労法四〇条一項に
より郵政職員に対し適用されないこととなる規定の主要なものは、人事院の給与そ
の他の勤務条件の改善等人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護等(三条二項
乃至四項)、人事院の調査(一七条)人事院の人事行政の改善勧告(二二条)人事
院の法令の制定改廃に関する意見の申出(二三条)、能率の根本基準および人事院
規則によるその実施(七一条)、能率増進計画(七三条)職員の離職に関する規定
(七七条)、人事院による職員の懲戒処分(八四条二項)、人事院に対する勤務条
件に関する行政措置の要求(八六条)、行政措置要求に対する人事院の事実審査と
判定(八七条)、人事院による判定の実行および実行の勧告(八八条)、服務の根
本基準の実施についての人事院規則の制定(九六条二項)、争議行為の禁止等(九
八条二、三項)、人事院から求められる情報についての秘守義務の例外(一〇〇条
四項)および職員団体についての条項(一〇八条の二乃至七)、一般職員に対する
労働組合法、労働関係調整法、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法の不適用
(附則一六条)、一般職職員に対する労働基準法、船員法等の準用(改正法律附則
三条)等である。
 また、給与特例法七条一項一号により適用除外されている国公法の規定は、人事
院による給与支払の監理(一八条)、人事院の俸給表についての報告(二八条一項
後段、二項)、職階制(二九条乃至三二条)、給与(六二条乃至七〇条)、降給
(七五条二項)、人事院規則による勤務条件の制定(一〇六条)等である。
(ロ) したがつて、郵政職員については国公法規定のうち、職階制(第二節)給
与(第四節)、職員団体(第八節)の各規定はその全部について、能率(第五節)
の規定はその大部分が、服務(第七節)の規定はその重要部分が、いずれも適用さ
れていない。ほぼ全面的に適用をみるのは試験及び任免(第三節)、退職年金制度
(第九節)であり、主要条項の適用があるのは分限、懲戒及び保障(第六節)であ
る。
 右国公法の適用除外にもとづいて郵政職員に対し適用されないこととなる人事院
規則を表示すれば、つぎのとおりである。
 郵政職員に対する人事院規則の適用一覧表
 (○印適用、×印不適用)
一ー〇の系列 総則
○ 一ー〇 規則の法的根拠
○ 一ー一 規則の分類
○ 一ー二 用語の定義
○ 一ー三 法の規定の適用
○ 一ー四 現行の法律、命令及び規則の廃止
○ 一ー五 特別職
○ 一ー七 政府又はその機関と外国人との間の勤務の契約
○ 一ー九 沖繩の復帰に伴う国家公務員法等の適用の特別措置等
二ー〇の系列 人事院
× 二ー〇 人事官の宣誓
× 二ー一 人事院会議及びその手続
× 二ー三 人事院事務総局の組織
× 二ー四 人事院の職員に対する権限の委任
× 二ー七 人事院事務総局の職制
× 二ー八 人事院の参与
三ー〇の系列 事務総長
× 三ー〇 事務総長の権限
六ー〇の系列 職階制
× 六ー〇 職種及び職級の決定及び公表
× 六ー一 格付の権限及び手続
× 六ー二 職務調査
× 六ー三 職階制の適用除外
八ー〇の系列 任免
○ 八ー一二 職員の任免
○ 八ー一三 行政職俸給表(一)の八等級の官職等への任用候補者名簿による職
員の任用に関する特例等
○ 八ー一四 非常勤職員等の任用に関する特例
○ 八ー一八 採用試験
九ー〇の系列 給与
× 九ー一 非常勤職員の給与
× 九ー二 俸給表の適用範囲
× 九ー五 給与簿
× 九ー六 俸給の調整額
× 九ー七 俸給等の支給
× 九ー八 初任給、昇格、昇給等の基準
× 九ー九 未帰還職員の給与
× 九ー一三 休職者の給与
× 九ー一五 宿日直手当
× 九ー一七 俸給の特別調整額
× 九ー二四 通勤手当
× 九ー三〇 特殊勤務手当
× 九ー三四 初任給調整手当
× 九ー四〇 期末手当及び勤勉手当
× 九ー四二 指定職俸給表の適用を受ける職員の俸給月額
× 九ー四三 休日給の支給される日
× 九ー四九 調整手当
× 九ー五三 最高号俸等を受ける職員の俸給の切替え等に関する規則
× 九ー五四 住居手当
× 九ー五五 特地勤務手当等
× 九ー五六 最高号俸等を受ける職員の俸給の切替え等
× 九ー五七 教職調整額の支給方法等に関する規則
× 九ー五八 筑波研究学園都市移転手当
× 九ー五九 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律の規定による特別の手当等
× 九ー六〇 最高号俸等を受ける職員の俸給の切替え
一〇ー〇の系列 能率
×一〇ー二 勤務評定の根本基準
×一〇ー三 職員の研修
×一〇ー四 職員の保健及び安全保持
×一〇ー五 職員の放射線障害の防止
×一〇ー六 職員のレクリエーシヨンの根本基準
一一ー〇の系列 身分保障
○一一ー四 職員の身分保障
×一一ー六 大学の運営に関する臨時措置法に基づく職員の休職
一二ー〇の系列 懲戒
○一二ー〇 職員の懲戒
一三ー〇の系列 公平審査
○一三ー一 不利益処分についての不服申立
×一三ー二 勤務条件に関する行政措置の要求
○一三ー三 災害補償についての審査の申立
×一三ー四 給与の決定に関する審査の申立
一四ー〇の系列 服務
○一四ー四 営利企業への就職
○一四ー五 公選による公職
○一四ー七 政治的行為
○一四ー八 営利企業の役員等との兼業
一五ー〇の系列 勤務時間及び休暇
×一五ー一 職員の勤務時間等の基準
×一五ー四 非常勤職員の勤務時間及び休暇
×一五ー六 休暇
×一五ー九 宿日直勤務
一六ー〇の系列 災害補償
○一六ー〇 職員の災害補償
一七ー〇の系列 職員団体
×一七ー〇 管理職員等の範囲
×一七ー一 職員団体の登録
×一七ー二 職員団体のための職員の行為
一八ー〇の系列 派遣
○一八ー〇 職員の国際機関等への派遣
(ハ) これを要するに郵政職員の勤務関係のうち一般職の国家公務員の地位の取
得とその変更と不可分のものについては国公法および人事院規則が適用される。し
かし、勤務時間等の労働条件については国公法および人事院規則が適用外とされて
いることがわかる。これら労働条件については公労法第四〇条一項一号により国公
法附則第一六条の規定が適用されないので労働組合法、労働基準法等の一般私企業
と同様の労働諸法規がごく一部を除いて適用されるのである。そこで、郵政職員は
その組合組職および団体交渉等については主として労働組合法により、労働条件の
最低基準については主として労働基準法により規律されることになる。これは一般
職の国家公務員が制限つきで労働基準法等の準用を受けているのと比べて大きな相
違である。
 ただ団体交渉については公労法八条は「職員に関する次の事項は団体交渉の対象
とし、これに関し労働協約を締結することができる。ただし公共企業体等の管理及
び運営に関する事項は団体交渉の対象とすることができない。
一、賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
(中略)
 前各号に掲げるもののほか労働条件に関する事項」と定めている。
(ニ) すなわち郵政職員が労働条件について団体交渉をなし、労働協約を締結す
ることができるということはその限りにおいて公法的規律が排除されていることを
意味する。何故ならば団体交渉をおこない労働協約を締結することができるという
のは労使が私的自治をもとめて労使対等の立場にあることを前提とするからであ
る。優越的な地位にもとづく公権力の主体とその相手方との関係である公法関係は
およそ団体交渉や労働協約と親しまないものである。実定法に即して考えると、郵
政職員の勤務関係のうちその地位そのものについては公法関係と考えることが可能
であるとしても、労働条件決定範囲においては私法的自治の一般労使原則が貫かれ
ているのである。このような郵政職員の労働条件について私的自治が認められるの
は国家公務員も憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上労働基本権の保障を受
けるべきであり、「公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」という
憲法一五条を根拠として公務員に対し労働基本権をすべて否定すべきではないから
である。
三、灘郵便局長の過失の存在について。
 局長のした本件訓告処分と日常業務遂行上出される命令、処分とは、その性質を
全く異にするものである。訓告処分は非違行為を対象とするものであり、これを受
けた労働者は日常の勤務に誠実であればあるほど精神的苦痛が大であるのに、処分
を受けたものには何ら不服申立手続の保障のない極めて特殊な処分である。しか
も、本件では処分事由が組合の指令に基く正当な組合活動である。このような場合
には、処分権者としては、自己のなす処分の適否を十二分に検討する職務上の注意
義務があるのは当然である。しかるに、敢えて訓告処分の挙に出た局長の所為は明
らかに右注意義務に反し、かつ、労働者の団結権尊重義務に反する過失が存する。
(証拠関係)(省略)
       理   由
一、一審原告ら主張の原判決事実摘示にかかる請求原因一、の事実は、灘郵便局長
のした本件各訓告処分が違法であるか否かの点を別とすれば、すべて当事者間に争
いがない(要するに、灘郵便局に勤務する郵政省職員ー公共企業体等労働関係法二
条一項二号イ所定のいわゆる現業国家公務員ーである一審原告らはその所属組合で
ある全逓の指示に基き、各勤務時間中に、原判決別紙二の一のとおり「さあ!団結
で大巾賃上げをかちとろう」と記載した巾三糎、縦一〇糎の黄色リボンを着衣の胸
附近に着け、また、一審原告らのうちB、Cの両名はそのほか全逓灘郵便局支部役
員として原判決別紙二の二のとおり「全逓、灘郵便局支部」と記載した腕章を着
け、執務した。そこで、灘郵便局長は局内掲示板に「警告書」を掲示し、また、局
内放送により、右勤務時間内におけるリボン等の着用が就業規則に違反し違法であ
る旨一般的な警告をしたうえ、一審原告ら各自に対しそれぞれその直属上司を通じ
て個々に口頭および文書をもつて右リボン等の取外しを命ずる職務命令を発した。
しかし、一審原告らは、右職務命令は労働権に干渉する違法な命令であるとしてこ
れに応ぜず、勤務時間中におけるリボン等の着用を続けたので、局長は、最終的
に、一審原告らを訓告処分にした。処分事由は、一審原告らの前記各所為が郵政省
就業規則二五条《服装規定》、同二七条《勤務時間中の組合活動禁止規定》、五条
二項《職務命令遵守義務》に違反する、というものであつた。なお、右規則文言は
原判決別紙三のとおりである。概要以上のような事実関係)。
 しかして、成立に争いない乙第五ないし第七号証および原審証人Iの証言によれ
ば、灘郵便局長のした本件各訓告処分の法的根拠は、当時施行され、かつ、一審原
告らを拘束する郵政省就業規則一一六条「職員は、過失があつた場合には、郵政部
内職員訓告規程(昭和二十五年七月公達第八十三号)の定めるところにより、訓告
されることがあるものとする。」および、これを受けた郵政部内職員訓告規程「1
部下職員に過失があつた場合、その軽重を審査し軽微であつて、懲戒処分を行う範
囲内のものでないと認めるときは訓告する。2訓告は、郵政省の内部部局、地方支
分部局及び附属機関の長が行う。3各部局及び機関の長に対する訓告は、前号にか
かわらず、その所轄の長が行う。」の定めに基いたものであつたことが認められ
る。一審原告らは、当審において、右就業規則には多くの解釈通達があり、右通達
につき労働組合の意見聴取がないから、規則自体労基法(九〇条)違反の疑いが強
い旨主張するが、右主張自体概括的であり、必らずしも確定的な主張と受け取れな
い節もあり、また、労基法その他の法律ならびに本件の全証拠によつても、規則全
体を無効と解さなければならない事由はこれを見出すことができない。また、訓告
に関する前記規則一一六条においては、訓告は別に定められた訓告規程に基く旨定
めてはいるけれども、右規程は前記のとおり本件就業規則が定められた昭和三六年
二月二〇日には既存のものであつたことが明らかであるから、右一一六条をもつて
特段白紙委任条項であるということはできず、もとより一審原告らの前記主張に当
る違法な定めということはできない。
二、そこで、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分の処分事由の存否
について検討する。
1 (一審原告らの本件リボン等の着用が勤務時間中の組合活動であるか否かにつ
いて)
 一審原告らを羈束する郵政省就業規則(以下、単に規則と略称する。)二七条に
よれば、あらかじめ所属長の承認を得た範囲内において、(イ)交渉委員又は説明
員として、団体交渉又はその手続きを行なう場合、(ロ)苦情処理機関の委員又は
当事者として、苦情処理又はその手続を行なう場合を除き「職員は、勤務時間中に
組合活動を行なつてはならない。」旨定められていることは当事者間に争いがな
い。
 しかして、一審原告らの勤務時間内における本件リボン等の着用がその所属する
全逓の組合活動としてなされたものであることは一審原告らの自認するところであ
る。すなわち、全逓は昭和三九年の春季闘争の要求として六千円の賃上げ、年度末
手当〇・五カ月分支給等の要求をかゝげ、各下部機関に要求貫徹のための諸行動を
とることを指示したところ、その兵庫地区本部においては、これを受け、各組合員
の意識向上のためリボン戦術を実施することを決定、勤務時間内にこれを着用する
ことを指示した。一審原告らの本件リボンの着用は右指示に基くものであり、一審
原告B、同Cの腕章着用は右の実施を徹底させるため全逓灘郵便局支部役員として
したものである。以上の事実は当事者間に争いがない。また、成立に争いない乙第
四号証に原審証人J、当審証人Kの各証言を綜合すると、右全逓兵庫地区本部の採
用したリボン戦術は、第一に組合員の闘争意識および組合員相互の連帯感を高め、
第二に当局に対し組合の要求貫徹を示威し、第三に第三者に対し組合の要求を周知
せしめ、これが支援を求めることを目的としたものであり、同本部はリボンを一括
発注して各組合員に配布し、昭和三九年一月二四日には傘下各支部に対し書面をも
つて全組合員はこれを必らず勤務時間内に着用し、当局上司からその取外し命令が
出されても拒否することを指令したものであることも認められる。
 以上の事実関係によれば、一審原告らの本件リボン等の勤務時間内着用はその所
属組合である全逓の指令により前記のような組合の目的を達成するため一斉になさ
れた組合活動であること明白であるから、前記規則二七条に違反するものといわな
ければならない。
 一審原告らは、右規則は、労働者が労務の提供中これと矛盾し、これを阻害する
組合活動を禁止するものであつて、労務の提供上何らの現実的障害を与えない組合
活動まで禁止したものではない旨主張し、右の主張は、これを具体的に言えば、職
場離脱、職場在席中断による組合活動等にかぎりこれを禁止するものであるとの趣
旨をいうものであると解されるところであるが(全逓の中央執行委員であつた原審
証人Lの証言参照)、前記規定を所論のように勤務時間内組合活動のうち右のよう
に限定された場合にかぎりこれを禁止した規定であると解することは、その文言解
釈としても困難であり(同条がことさら明文をもつて前記(イ)(ロ)のような例
外の場合を定めた趣旨も没却される。)、また、そのように解さなければならない
合理的な理由もないと考える。
 すなわち、一審原告ら郵政省の職員は「郵政事業の使命を認識し、国民全体の奉
仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行にあたつては、全力を挙
げてこれに専念しなければならない」義務があるのであつて(国家公務員法九六条
一項および規則五条一項各参照)、規則二七条は、右の義務を組合活動との関係の
側面から明らかにし具体化したものと解され、それは、一般的な組合活動の自由を
前提としながら、ただ、「労働者は勤務時間中に組合活動をしてはならない。」旨
の労使関係上従来から一般的に承認されている原則を謳つたものにほかならないの
である。もし、右原則規定を、一審原告ら主張のように、業務の正常な運営を阻害
する勤務時間内組合活動のみを禁止するものであるというのであれば、それは、ま
さに争議行為を禁止した規定と解さなければならず、前記規定の趣旨を離れるばか
りか(労働関係調整法七条所定の「争議行為」の定義参照)、実際問題としても、
争議行為にいたらぬ組合活動の多くのものが勤務時間内でもこれをすることが許容
される結果ともなり、前記原則に照らし不当である。本件の事案において、一審原
告らが勤務時間内組合活動としてした本件リボン等着用行為は、それ自体瞬時に終
了したものであつて、特にその時点において郵政省の正常な業務の運営を阻害した
ものということはできず、また、個々の組合員がリボン等の着用を完了し、これを
継続している間においても正常な労務を提供することが十分に可能であつたこと
は、一審原告ら所論のとおり必らずしもこれを否定し得ないところである。しかし
ながら、本件リボン等の着用は、上司の取外し命令を拒否する決意の下に前記のよ
うな組合活動目的を客観的持続的に表明し、組合員が互いにこれを確認し、当局お
よび第三者に示威する趣旨の精神的活動を継続したものにほかならないから、これ
によつて具体的にどのような業務遂行上の支障を生じたかを問うまでもなく、右
は、それ自体本来の職務遂行に属しないのはもちろん、郵便業務の秩序ある正常な
運営と相容れぬところの積極的な職場秩序攪乱行為であつたと断ずるを相当とし、
勤務時間内における組合活動禁止と職務専念義務を定めた就業規則の趣旨に抵触す
ることが明らかである。
 また、本件の場合、使用者が賃金の支払いを遅延しているのに対抗し、組合員が
あえて就業時間中にこれが履行を要求してなす組合活動のように、公平の原則上、
緊急の場合としてその組合活動を正当と認めなければならないような例外的な場合
ともいい難い。
 次に、一審原告らは、本件のようなリボン等着用による勤務時間内組合活動は従
来から労使慣行として許容されてきた旨主張し、成立に争いない甲第一一号証と乙
第一六号証を対比綜合すると、全逓の組合員は、かつて、一審原告らの本件リボン
等着用以前、同旨の組合活動をした例があり、それは昭和三六年から同三八年にか
けて、青森、栃木、長野、滋賀、高知、福岡各県内の一局または数十局がこれを行
ない、右に対して郵政当局からの処分その他の制約的行為も格別なかつたことが認
められるけれども、この程度の事例だけで、郵政省と全逓との間に労使慣行として
本件のようないわゆるリボン戦術が許容されるという労使慣行が定着していたと認
めることは困難である。かえつて、前掲証人Lの証言に前記各書証を綜合すると、
全逓では灘郵便局所属の一審原告らが本件訓告処分に付された事態を重視して、は
じめて、その後に全国的規模でリボン戦術を採用したのが実情であることが認めら
れる。
 また、労組法二条二号但書によれば、一定の場合、すなわち、労働者が労働時間
中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許
す場合においても、当該労働者の組織する労働組合は労組法所定の労働組合として
同法の適用を受ける旨定めているところからすれば、同法は、使用者が許す場合に
は労働時間中における一定の組合活動も容認されうることを前提としていることは
一審原告らが当審で主張するとおりである(当審での主張二(1)の(ロ))。し
かし、右法条は、使用者がこれを許す場合にかぎつて、一定の勤務時間内組合活動
を認めたものに過ぎないこと明らかであるから、右法条を根拠として、本件一審原
告らの前記勤務時間内組合活動を正当化することができないことは多言を要しな
い。
 以上のとおりであるから、一審原告らの本件リボン等の着用は規則二七条に違反
する。
2 (一審原告らの本件リボン等の着用が服装規定に違反するか否かについて)
 まず、規則二五条一項に「職員は、服装を正しくしなければならない。」旨定め
られていることは当事者間に争いがない。
 思うに、右の規則において、何が「正しい」服装であるかは、ひつきよう、一種
の価値概念解釈の問題であるから、規定自体によつて具体的な当該服装が正しいも
のであるか否かを一義的に判断することは困難である。その判断にさいしては、右
のような規則が定められた趣旨、目的を考え、社会通念に照らして綜合的にこれを
解釈するほかないと考えられる。
 そこで、按ずるに、一審原告ら郵政省所属の職員は、国家公務員として、国が独
占する郵便の役務、郵便貯金事務その他の郵政業務に従事するものであつて(郵便
法、郵便貯金法等参照)、その使命を認識し、国民全体の奉仕者として公共の利益
のために勤務し、かつ、全力を挙げて職務に専念すべき義務を負つていること前記
説示のとおりであり、ひいては、右のような義務を遂行するため、一定の職場規律
または秩序を遵守しなければならないものである。しかして、およそ人の服装はこ
れを着用した人の態度を客観的に具現する側面をも有するのであるから、ここに
「正しい服装」とは、上来説示の趣旨に副い、これにふさわしいものを指称してい
るものと理解しなければならない。
 まず、一審原告らの本件リボン等の着用は各自の着衣の胸部分(リボン)または
腕部分(腕章)にこれらを付着させるものであつて、その着用は「服装」の概念に
含まれると解される。しかして、右リボン等の着用は、その表示において、または
着用自体において、特に他人に嫌悪または卑わいの情を催させるとは言い難く、ま
た、広く一般に、非道徳性をもつて非難問責すべき点があるとは思われないことは
一審原告ら所論のとおりである。この点に関して、一部特定人の労働組合または労
働運動に対する主観的な好悪の情をしんしやくすることは、いずれに左袒するにし
ても、相当でない。しかし、前記のような郵政省職員の使命および義務に照らし、
職場内の規律が保たれ、もつて、公正な態度で国民から託された職務に専念するに
ふさわしい服装であるか否かの観点から判断するならば、本件リボン等の着用は、
正常な業務の運営に無関係、不必要なものであり、また、規則二七条に違反する勤
務時間内組合活動の具体的な実行々為としてなされた服装にほかならず、結果とし
て勤務時間内の職場規律を乱すものというほかないものである。したがつて、右リ
ボン等の着用は正しくない服装であり、規則二五条一項に違反するものといわねば
ならない。郵政省には右二五条一項の解釈指針として、「『服装を正しく』とは、
社会理念により解釈される。ここでは他人をして嫌悪または卑わいの情を催させる
ような服装を避けるべきことを意味する。」旨を述べた運用通達の存することは一
審原告ら主張のとおりであるが(乙第五号証)、右の解釈は限定的に過ぎ、妥当で
なく、規則の合理的解釈にさいし、裁判所が右のような通達に拘束されなければな
らないいわれはない。
 一審原告らは、当局も従前から職員に対し本件リボン等と同種同形同色のリボ
ン、腕章の着用を命じており、本件リボン等の着用のみを正しくない服装として禁
止することは承服しがたい旨主張し、原審における検証の結果に弁論の全趣旨を綜
合すると、郵政省ではこれまで業務成績の向上を計る目的で職員に対し本件リボン
とほとんど同形同色のリボンで「簡易保険新加入運動」「郵便貯金五千億円突破」
等と記載したものを着用させたことがあることを認めることができる。しかし、本
件リボン等の着用が正しい服装であるかどうかは、単にその外形のみによつて判断
すべきものではなく、記載文字等によつてその着用が一定の目的を持つた意味ある
行為であることを考えて綜合判断する必要がある。当局が命じた前記リボンの着用
は郵政職員がその地位においてなす業務遂行上のものであるから、これを本件の場
合と同一に評価できないことは明らかである。一審原告らの前記主張は採用するこ
とができない。
 以上のとおりであるから、一審原告らの本件リボン等の着用は規則二五条一項に
も違反するものといわねばならない。
3 (一審原告らが局長の本件リボン等取外し命令に応じなかつたことの適否につ
いて)
 規則五条二項によれば「職員は、その職務を遂行するについて、法令及び訓令並
びに上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」旨定められていること
は当事者間に争いがない。
 しかして、一審原告らの本件リボン等の着用が規則二七条および二五条一項に違
反すること上来説示のとおりであるから、これが取外しを命じた局長の職務命令は
もとより適法であり、一審原告らはこれに忠実に従う義務がある。
 そうすると、一審原告らがその上司である局長の本件リボン等取外し命令に従わ
なかつたことは、爾余の判断をなすまでもなく、規則五条二項に違反するものであ
る。
 以上のとおりであるから、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分の
処分事由はいずれもこれを肯認することができる。
三、そこで、さらにすすんで、訓告処分自体の適法性の存否について検討する。
 本件訓告処分が規則一一六条およびこれを受けた郵政部内職員訓告規程に基いて
なされたことは冒頭一で認定したとおりであり、これに、一般に、訓告処分は、公
務員に科する制裁的性質を有する懲戒処分とは異なり、上司の部下職員に対する監
督上の実際的措置にすぎないものであつて、該処分が全く事実上の根拠に基かない
と認められる場合であるか、もしくは、社会観念上著しく妥当を欠くような場合を
除き処分権者の裁量によつてなされうるものと解すべきである点を綜合すると、本
件訓告処分は、前記のような一審原告らの所為(作為および不作為)に照らし、適
法にして相当であると考えられる。
(1) 前掲規則および規程によれば、その文言上、訓告処分は「過失があつた場
合」になされるべき旨定められていることは一審原告らの主張するとおりであると
ころ、一審原告らは、本件リボン等の着用はそれが正当であると確信してしたもの
であつて、過失によつて着用に及んだものではないから、訓告処分を科することは
できない旨主張している。しかし、先に説示した訓告処分の一般的な法的性質、お
よび右規程が「その軽重を審査し軽微であつて、懲戒処分を行う範囲内のものでな
いと認めるとき」に訓告する旨定めており、これによれば訓告処分の対象は、いわ
ゆる故意行為の場合を含むこと明らかな懲戒処分の対象と競合し、ただその軽微な
場合を想定していることが明らかである点(国家公務員法八二条、規則一一四条参
照)に照らすと、ここに「過失」とはいわゆる故意行為に対置する意味の過失行為
のみをいうものではなく、これらの双方を含む非違行為一般を指称するものと解す
るのが相当であるから、右一審原告らの主張は失当である。
(2) 一審原告らは、従来郵政省の労使間では本件リボン等の着用のごときは労
使の慣行として容認されていたものであるから、今回にかぎりこれを訓告処分の対
象とする場合には、あらかじめその理由について合理的な説明を行なうべきが当然
であるところ、局長は何らこのような手続を踏まなかつたもので、この点において
本件訓告処分には手続上の瑕疵が存する旨主張する。しかし、一審原告らが主張す
るような労使慣行が認められないことは既に説示したとおりであるから、右の主張
はすでにこの点において前提を欠くものである。また、訓告処分権者が訓告に先だ
ち被訓告者に対しあらかじめその理由を説明しなければならないとする法的根拠お
よび合理的理由もこれを見出すことができない。いずれにしても、右の主張は失当
というほかない。
(3) 郵政省においては、一般に、職員の過失事故(非違行為)に対し、処分を
行うときはその職員から事案のてん末を記述した自筆の始末書を徴取しなければな
らない旨の通達一〇条(一審原告らの主張二(ホ)(b)ー原判決九枚目裏末行か
ら同一〇枚目表五行目までー参照)が存するのに、本件訓告処分にさいしては、局
長は一審原告らから何ら始末書を徴しなかつたことは一審被告もこれを争わないと
ころである。しかして、一審原告らは右の点にも手続上の違法がある旨主張する。
しかし、一般に、始末書提出制度は当該職員の非違事実の存否について慎重にこれ
を確認するために設けられたもので、処分権者が自らまたは他の第三者の現認報告
に基き非違事実を確認することができる場合は必らずしも当該職員から始末書を徴
さなければならないものではないと解すべきである。局長が本件訓告処分にさいし
始末書を徴しなかつたことをもつて違法ということはできない。
(4) さらに、一審原告らは、前記通達五条(一審原告らの主張二、(ホ)
(c)ー原判決一〇枚目表六行目から同裏六行目までー参照)に基き、本件リボン
等の着用が非違行為であるのであれば、局長は訓告処分に付するよりもむしろ懲戒
処分に付するべきであるのに、あえて訓告処分とした点において違法である旨主張
する。しかし、前掲職員訓告規程によれば、懲戒処分と訓告処分の対象は競合する
ものであり、そのうち軽微であるものを訓告処分とすることを原則としていること
は既にみたとおりであつて、処分権者がその裁量に基き事案の情状に照らし重き懲
戒処分を避け、軽き訓告処分としたことは何らこれを違法とすべきことではない。
一審原告らの援用する通達五条も右の趣旨を超え、これを拒否するものではないと
解すべきである。一審原告らの右の主張は採用のかぎりでない。
四、以上のとおりであるから、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分
はその実体上、手続上適法であり、右処分をもつて国家賠償法一条所定の公務員に
よる違法行為と目することはできないものである。
 よつて、一審原告らの本訴請求は爾余の判断をなすまでもなく失当として棄却す
べきであり、原判決中、一部これを認容した部分は一審被告の控訴に基き取消しを
免れず、一審原告Aを除くその余の一審原告らの本件附帯控訴は理由がないからこ
れを棄却すべく、訴訟費用の負担については、共同原告らのうち一部の者がすでに
訴を取り下げたことを考慮に入れ、民訴法九六条、九五条、八九条、九三条を適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上三郎 戸根住夫 畑郁夫)

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