弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人Aの負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、弁護人水崎嘉人(被告人A関係)及び弁護人中川宗雄(被
告人B、同C関係)各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもこれ
を引用する。
 弁護人水崎嘉人の控訴趣意一及び弁護人中川宗雄の被告人B関係控訴趣意第二
点、第三点について。
 地方自治法の各種規定に鑑みれば、議決機関である市町村議会と執行機関である
市町村長とは互に対等の地位に立ち、議会は市町村の意思を決定し市町村長はこれ
を実現することを職分とし、両者がその職能を適正、完全に遂行するため互にその
権限を侵すことがないよう組織されていることはまことに所論のとおりである。け
れども、それだからといつて議決機関を構成する市町村議会議員が執行機関たる市
町村長の諮問機関的地位に立ち、或は執行補助の役割を担当することを以て、直ち
に議決機関が執行機関の職務権限を侵すものとし地方自治法の本旨に背馳するもの
と論断することはできない。それが強制によるものでなく、執行機関において事務
執行の適正、円滑を期するため任意に議決機関の構成員の協力を求める趣旨を以て
なされ、しかも過度に亘らない限り執行機関の職務権限を侵すものではないと認め
るのが相当である。而して原判決挙示の証拠によれば、a町においては従来町長が
比較的大規模の工事を施行するに際しては、その円滑な遂行を期するため関議員の
協力を求めるを例とし、学校建築については町議会の議長、副議長、厚生委員会の
委員長、委員等を以て協議会なるものを組織し、入札業者の指名、入札方法の選
定、敷札金額の決定、工事監督の方法等につきの意見を徴する慣例であつたことが
認められるから、かかる措置はその趣旨、目的、方法等に徴し毫も地方自治法の本
旨に悖る違法のものとは謂い難い。けれども、右協議会は何等法令に基き設置され
たものでないか<要旨第一>ら、その構成員が法令により公務に従事する職員でない
ことはまことに所論のとおりである。しかし、元来教育行政の事務に属
する小学校の設置は市町村の委任事務として市町村の事務に属し(学校教育法第二
条、地方自治法第二条第三項第五号)、その経費は市町村の負担に帰し(地方自治
法第二二八条、地方財政法第九条、学校教育法第五条)、市町村議会の議決を経べ
きものであり(地方自治法第九六条第一項第二号)、又a町においては小学校の設
置は町議会の議決すべきものなるところ(同条第一項第七号、D条例)、町議会は
地方自治法第九六条第一項第三号により決算報告を認定する権限を有し、又同法第
九八条第一項に基き町長の報告を請求して事務の管理、議決の執行及び出納を検査
する権限を有し、更に同法第一〇〇条第一項により町の事務に関し調査する権限を
有するから、前叙の如き趣旨を以て設けられた協議会において町議会議員であり且
つ学校関係事項を分掌する厚生委員会の委員長が、町長の専権に属する学校建築の
実施(教育委員会法第五四条の三)に関する諮問に対し敷札金額(落札金額決定の
基準となる金額)につき意見を述べることは、議会の有する前記認定権、検査権、
調査権行使の事前における準備行為と目すべきものにして、右議会を構成する町議
会議員兼厚生委員長の職務行為と密接な関係を有するものと謂うべく、従つて前記
協議会における意見開陳に関し報酬として金品を授受すれば、町議会議員兼厚生委
員長の職務に関し賄賂を授受したものと断ぜざるを得ない。而して原判決挙示の証
拠によれば、被告人BはD議会議員兼厚生委員長として原判示協議会に出席したも
のであるが、その直前同会において自己が開陳すべき敷札金予想額を被告人Aに告
げて同会に出席し、右予想金額を相当敷札金額であると意見を述べ、町長をして同
額に敷札金額を決定せしめて同被告人をして落札せしめた上、これに対する謝礼と
して同被告人から現金四六万円の供与を受けた事実が認められるから、右被告人等
はD議会議員兼厚生委員長たる被告人Bの職務に関し賄賂を授受したものと謂うべ
く、論旨はいずれも理由がない。
 弁護人水崎嘉人の控訴趣意二、(一)及び弁護人中川宗雄の被告人C関係控訴趣
意第一点中消費貸借であるという論旨について。
 しかし、原判決挙示にかゝる被告人Aの検察官に対する昭和二九年八月一九日附
供述調書によれば、同被告人が三回に亘り被告人Cに交付した合計金一一万五〇〇
〇円は所論の如く消費貸借上の貸金ではなくして無償贈与したものなる事実を優に
認め得べく、記録を精査するも原判決に事実誤認の疑は存しない。所論は原審の採
用しない証拠に基き原審が適法になした事実認定を論難するもので採用し難い。
 弁護人水崎嘉人の控訴趣意二、(二)について。
 なるほど、他人の脅迫により畏怖の念を生じ意思の自由を拘束されて不任意に財
物を供与するに至つた場合は、たとえそれが公務員の職務に関してなされたもので
あつても、恐喝の被害者たるにとゞまり贈賄罪は成立しないものと解するのが相当
である。けれども、原判決は所論の如く被告人Aが被告人Cから所論の如き方法を
以て脅迫され畏怖の念を生じた結果已むく本件金員を同被告人に供与した事実を認
めているのではなく、被告人Aが取締役として主宰する会社請負の小学校建築工事
の監督につき便宜寛大な取扱をして貰いたい趣旨を以て、任意に被告人Cに本件金
員を供与した事実を認定しているのであり、しかも原判決挙示の証拠によれば右認
定はまことに相当であるから、原審がこれを贈賄罪に問擬したのは正当であり、記
録を精査するも原判決に事実誤認、法律適用の誤は存しない。論旨引用の判例は巡
査が職権を濫用して恐喝した事案で事実関係を異にし本件に適切でない。論旨は理
由がない。
 弁護人中川宗雄の被告人B関係控訴趣意第一点について。
 しかし、原判決挙示の証拠によれば、被告人Bは被告人AをしてE小学校建築工
事の請負を落札せしめようと企図し、原判示の如く同被告人に対しひそかに自己の
敷札金予想額を告知し且つ入札すべき金額を指示した上、敷札金額決定の協議会に
おいて右予想額を敷札金額とするよう意見を述べ、町長をしてその額に決定するに
至らしめ且つ右指示に従つて入札した同被告人をして工事を落札せしめた事実が認
められ、しかも被告人Bの協議会における意見開陳は自己の職務行為とはいうもの
の、被告人Aに落札せしめるためにした前記告知並びに指示と不可分的に関連する
ことにより同被告人に対する尽力行為の一環をなすものと認むべく、而して被告人
Aの落札は専ら被告人Bの右告知、指示及び意見開陳に負うものなることが明らか
であるから、同被告人は被告人Aの落札につき絶大なる好意的尽力を与えたものと
いうべく、従つてこれに対する謝札は即ち職務に関する賄賂であり、論旨は理由が
ない。
 同弁護人の被告人C関係控訴趣意第一点(但し消費貸借であるという論旨を除
く)、第二点について。
 しかし、市町村の議決機関を構成する市町村議会議員が執行機関たる市町村長の
執行の補助機関として執行面に関与することは、その程度、方法宜しきを得れば必
ずしも地方自治法の精神に悖る違法のものとは謂われない。このことは同法第九二
条第二項の反対解釈として、普通地方公共団体の議会の議員と雖、地方公共団体の
非常勤職員の兼務が許されることに徴して疑を容れないところである。従つて町長
が自己の専権に属する小学校の建築実施に際し、その工事監督を町議会議員に担当
させることはそれが非常勤ならば毫も地方自治法に違反するものとは謂われない。
而してD工事監督員設置規程は地方自治法第一五条第一項に基きD長が制定したも
のであるから、該規定により選任された工事監督員は法令により公務に従事する職
員と謂うべきところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人CはD議会議員兼厚生委
員であつたため昭和二九年一月D長の選任により、他の厚生委員七名と共に(他に
大工棟梁、設計者も監督員となる)交替にて非常勤としてE小学校建築工事監督の
任に当り、同年二月八日前記規程が制定施行された後は同規程に基き右工事の監督
員として引続き監督の任に当つて来た事実が認められるから、右規程制定後におい
ては同被告人は法令に依り工事監督の公務に従事した職員と謂わねばならない。而
して、同規程制定以前の監督は何等法令に根拠を<要旨第二>有するものでないけれ
ども、右工事監督は記録によれば学校建築が設計書、仕様書に合致しているかどう
か、使用材料が所定の規格に合しているかどうか等に関するものなると
ころ、町議会は地方自治法第九八条第二項に基き監査委員に対し町の事務に関する
監査を求めその結果の報告を請求する権限を有し、又同法第一〇〇条第一項により
町の事務に関し調査を行う権限を有するから、町長が実施する学校建築につき前記
の如き工事監督をなすことは町議会の有する前記権限行使の事前における準備行為
と目すべきものにして、右議会を構成する町議会議員兼厚生委員の職務行為と密接
な関係を有するものと認めるのが相当である。従つて右監督に関し酬として金品を
収受すれば町議会議員兼厚生委員の職務に関し、又前記規程制定後においては併せ
て公務員たる工事監督員の職務に関し賄賂を収受したものと謂わねばならない。而
して原判決挙示の証拠によれば、同被告人はD議会議員兼厚生委員にして町長の選
任により原判示の通り工事監督の任に当つていたものであるが、被告人Aから右監
督につき便宜寛大な取扱を依頼するためその報酬とする趣旨を以て供与される情を
知り乍ら本件金員を貰い受けた事実が認められるから、公務員の職務に関し賄賂を
収受したものと謂うべく、又犯意の存在を認め得ること勿論にして原判決に事実誤
認、法律解釈の誤りは存しない。論旨は理由がない。
 そこで刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却すべく、当審における訴訟
費用は同法第一八一条第一項本文に従い被告人Aに負担せしむべきものとし、主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

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