弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件訴訟は昭和三七年一月一八日原告の死亡により終了した。
     共同訴訟参加人等の本件参加の申出はこれを却下する。
         事    実
 原告訴訟代理人は、「昭和三五年八月二日執行の益田市長選挙の効力に関する原
告の訴願に対し、昭和三六年四月二四日なした被告庁の裁決を取消す。昭和三五年
八月二日執行の益田市長選挙は無効とする。訴訟費用は被告庁の負担とする。」と
の判決を求め、その請求の原因として、
 原告は昭和三五年八月二日執行の益田市長選挙の選挙人であるが、同選挙はその
実施について選挙の規定に違反し、選挙の結果に異動をおよぼす虞があるから、同
選挙は無効とすべきである。よつて原告は、同年八月一四日益田市選挙管理委員会
に対し異議申立をしたが、同年九月一二日右異議却下となつたので、同月三〇日被
告庁に対し訴願を提起したところ、同三六年四目二四日訴願棄却となつた。そこで
同選挙の効力に関する原告の訴願に対し被告庁のなした裁決を取消し、前記選挙を
無効とするとの判決を求めるため本訴を提起したと陳述し、原告Aが昭和三七年一
月一八日死亡したことは認めると述べ、
 被告訴訟代理人の主張に対し、本件の如き選挙訴訟については、公職選挙法に特
別の定がある場合のほかは、行政事件訴訟特例法および民事訴訟法の規定の適用が
あるが、民事訴訟法第八五条によれば訴訟代理権は当事者の死亡によつて消滅しな
いとあり、又同法第二一三条第二〇八条第一項は当事者が死亡しても訴訟代理人の
ある間は訴訟手続は中断しない旨規定されている点からみても、当事者の死亡によ
つて訴訟は消滅するものではない。従つて本件訴訟は依然当裁判所に繋属中であ
る。被告訴訟代理人は共同訴訟参加人は、訴願を経ていないから、訴訟要件を欠如
すると主張するが、訴願は当該事件について経ていればよく、本件の場合は、原告
において訴願を経ているから、共同訴訟参加は適法である。尚行政事件訴訟特例法
第八条によれば、裁判所は職権で第三者を訴訟に参加させることができることにな
つているが、この場合の第三者は訴願を経ていないに拘らず職権で参加を命ずるこ
とができるのであるから、本件の如き民衆訴訟において、選挙人が共同訴訟参加を
することは許さるべきであると述べ、
 共同訴訟参加人等は、「昭和三五年八月二日執行の益田市長選挙の効力に関する
原告の訴願に対し、昭和三六年四月二四日なした被告庁の裁決を取消す。昭和三五
年八月二日執行の益田市長選挙は無効とする。訴訟費用は被告庁の負担とする。」
との判決を求め、参加の理由として、
 本件原、被告間の市長選挙の効力に関する異議事件は現に繋属中であり、共同訴
訟参加人等も原告と同様に益田市の住民であつて、昭和三五年八月二日施行された
益田市長選挙に際し選挙権を有し、これを行使した者であり、引続き現在も選挙権
を有しているのであつて、本件訴訟の結果につき、原告と同様利害関係を有し、訴
訟の目的が当事者の一方および第三者につき合一にのみ確定すべき場合であるか
ら、民事訴訟法第七五条により、原告の共同訴訟人として右訴訟に参加するため本
申出におよぶ。そして請求原因については原告主張の請求原因事実をすべて援用す
ると陳述し、
 被告訴訟代理人は、原告Aは昭和三七年一月一八日死亡したのである。しかして
この種の選挙訴訟においては、当事者の死亡と同時に訴訟は消滅する。従つて本件
訴訟は右Aの死亡と同時に消滅したものである。民事訴訟法の、当事者が死亡して
も訴訟代理人のある間は訴訟手続は中断しない旨の規定は、訴訟承継人が存する場
合にのみ適用されるのであつて、本件の如く承継人が存しない場合には適用されな
い。次に共同訴訟参加人等の本件参加の申出は却下されるべきである。原告Aは本
件訴訟を提起するに当り訴願の手続を経ているが、この訴願を経たことにより受事
者適格を取得したものである。若し本件の共同訴訟参加を許すとすれば、これ等参
加人は訴願を経ないで訴訟を提起したことになり、訴訟要件を欠如するのである。
従つて本件共同訴訟参加の申出は許されないと述べ、本案につき、原告の請求を棄
却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め答弁として、原告が昭和三
五年八月二日執行の益田市長選挙の選挙人であつたこと、原告が同選挙につき同年
八月一四日益田市選挙管理委員会に対し異議申立をし、同年九月一二日右異議却下
となり、同月三〇日被告庁に対し訴願を提起し、同三六年四月二四日訴願棄却とな
つたことはいずれも認めるが、同選挙がその実施について選挙の規定に違反し、選
挙の結果に異動をおよぼす虞があるとの主張事実は否認すると述べた。
         理    由
 <要旨>本件訴訟の原告であるAが昭和三七年一月一八日死亡したことは当事者間
に争がない。しかるところ、およそ選挙に関する争訟権は、その者が選挙人
又は公職の候補者であるという事実を基礎として、公益的見地から認められたもの
であり、もとより財産的内容をもつ権利ではないから、その帰属についても、行使
についても、一身専属権であり、そしてこのような一身専属権に基く訴訟において
は、当事者の死亡により訴訟の承継はなく訴訟は当然終了するものと解するのを相
当とする。原告訴訟代理人は民事訴訟法第八五条には訴訟代理権は当事者の死亡に
よつて消滅しない旨規定されており、又同法第二〇八条第一項には当事者が死亡し
たときは訴訟手続は中断する旨定められ同法第二一三条には当事者の死亡による訴
訟手続中断の規定は訴訟代理人ある間は適用しない旨定められている点からみて
も、当事者の死亡によつて訴訟は消滅するものではないと主張するけれども、右民
事訴訟法の規定は、いずれも相続人その他訴訟を承継すべき者の存在する場合に関
する規定であつて、訴訟の目的が当事者の一身に専属し、訴訟を承継すべき者の存
せざる場合にはその適用がないものと解すべきである。次に民事訴訟法第七五条に
よる訴訟参加の申出は、訴訟の繋属中でなければこれをなすことを得ないことはそ
の性質上明らかであるところ、本件参加の申出は、昭和三七年一月二三日なされた
ものであること本件記録に徴して明らかであり、しかるに原告Aは右参加申出前で
ある昭和三七年一月一八日死亡したことは前記のとおりである。してみると原、被
告間の本件訴訟は昭和三七年一月一八日原告の死亡によつて終了したものというべ
く、本件参加の申出は、原、被告間の本件訴訟終了後になされたものであるから不
適法であるといわなければならない。
 しかるところ、原告訴訟代理人において、本件訴訟の終了したことを争うからこ
の点につき判断をなし、本件参加の申出は前示のとおり不適法であるからこれを却
下することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 高橋文恵 裁判官 石川恭)

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