弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2国土交通大臣が控訴人に対し平成19年3月7日付け国広情第○号により通
知した行政文書不開示決定のうち,都市再生街区基本調査成果図の東京都23
区に関するものの電磁的記録を開示しないこととした部分を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,控訴人が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情
報公開法」という)に基づいて,国土交通大臣に対し,国土交通省が平成1。
6,17年度に発注した都市街区確認等調査業務の成果品のうち平成17年度
変更特記仕様書第2条2(3)2)公図現況重ね図及び第2条5都市再生街区基本
調査成果図の東京都23区に関するものの電磁的記録の開示を請求したとこ
ろ,国土交通大臣からこれらをいずれも開示しないことと決定した旨の通知を
受けたため,上記決定のうち都市再生街区基本調査成果図の東京都23区に関
するものの電磁的記録(以下「本件行政文書」という)を開示しないことと。
した部分について,その取消しを求める事案である。
2前提事実
(1)前提事実は,次の(2)のとおり原判決を補正するほか,原判決の第2の2
(2頁15行目から4頁18行目まで)記載のとおりであるから,これを引
用する。
(2)ア原判決2頁22行目冒頭に「ア」を加え,3頁2行目末尾の次に,改
行の上,次のとおり加える。
「イ街区基準点は,街区の各角の近傍に設置される点であって,街区点の
座標の測量その他街区内の土地の測量の基準となるものであり,世界測
地系(地球上の位置を緯度と経度で表すための世界共通の基準)の座標
値が付与されている。また,街区点についても,街区基準点を基に測量
されるため,世界測地系の座標値が付与される(乙1,2,9の5」。)
イ同3頁18行目末尾の次に,改行の上,次のとおり加える。
「このようにして補正された公図においては,街区点に可能な限り近づ
けられた筆界点に世界測地系の座標値が付与されるとともに,公図上の
任意座標から世界測地系の座標値への変換計算方法を求め,同じ変換計
算方法を他の筆界点の任意座標にもあてはめることによって,すべての
筆界点に世界測地系の座標値が付与される。このため,上記の方法によ
り補正された公図は,法務局に備え付けられている公図と異なり,極め
て高度の現地復元性を有している(乙9,10〔いずれも枝番全部を。
含む」。〕)
3争点
本件の主要な争点は,次のとおりである。
(1)本件行政文書に表示された情報は,情報公開法5条1号本文の不開示情
報(個人に関する情報であって,個人識別性のあるもの又は開示により個人
の権利利益を害するもの)に該当するか。
(2)本件行政文書に表示された情報は,情報公開法5条1号ただし書イの情
報(公領域情報)に該当するか。
(3)本件行政文書に表示された情報は,情報公開法5条1号ただし書ロの情
報(公益上の義務的開示に係る情報)に該当するか。
(4)本件行政文書に表示された情報は情報公開法5条6号の不開示情報行,(
政機関の事務又は事業に関する不開示情報)に該当するか。
(5)国土交通大臣は,本件行政文書に表示された情報のうち,不開示情報が
記録されている部分を除いた部分を開示すべきか【当審における新たな争。
点】
4争点に関する当事者の主張
(1)争点に関する当事者の主張は,次の(2)のとおり当審における当事者の新
たな主張を付加するほか,原判決の第2の4(5頁2行目から15頁20行
目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)争点(5)(国土交通大臣は,本件行政文書に表示された情報のうち,不開
示情報が記録されている部分を除いた部分を開示すべきか)について。
【控訴人の主張】
ア仮に,本件行政文書に不開示情報が含まれているとすれば,控訴人は,
情報公開法6条に基づき,①本件行政文書のうち現況図記録部分を除いた
部分,②本件行政文書のうち地番記録部分を除いた部分,③本件行政文書
のうち現況図記録部分及び地番記録部分を除いた部分の順で,部分開示を
求める。
イ情報公開法は,不開示情報の記録された部分を区分して除くことが社会
通念上容易と認められる限りで,これをすべき義務を行政機関に課してい
るのであり,それに必要な限度で電磁的記録たる行政文書に一定の処置を
施すことを当然に予定している。
本件行政文書の本質的内容は,数値化した公図及び街区基準点等の部分
の情報であり,現況図記録部分及び地番記録部分は容易に区分して除くこ
とができる。そして,上記①ないし③の部分は,いずれも有意の情報を含
み,かつ,不開示情報を含まない。
ウ現況図記録部分を容易に区分して除くことができることには争いがな
く,地番記録部分についても,次のとおり容易に区分して除くことができ
る。
本件行政文書の地番を含む補正後の公図は「基本調査成果図①」の中,
にCSVファイル形式で格納されている。CSVファイルにおいては,同
じ属性のデータは各レコード(行)の同じフィールド(列)に記録される
のが通常であり,これにより各事物に関する同一属性のデータを一括して
編集,処理することが可能となる。本件行政文書においても,地番に相当
するデータは数値化公図を含むCSVファイルの各行の同じ箇所(列)に
記録されている。したがって,地番に相当する数字を,表計算のための汎
用ソフト等を用いて,一括して,数字以外の文字列にするなり,無個性一
律な数字や記号にするなりすれば,紙の文書の地番部分をマスキングする
のと同様の効果を得ることができる。この操作は,情報処理の一般的な知
識を有する者であれば容易に可能であるから,被控訴人の職員の大半にと
って容易に可能である。このように,本件行政文書から地番記録部分を区
分して除くことは容易である。
エ上記①ないし③の部分は,不開示情報を含まない。このうち①の部分か
らは,公図を通じて把握されている土地の位置及び形状と街区基準点等の
位置を限られた精度で知ることができるにすぎず,それ自体からは特定個
人との間で意味のある関わりを見出すことができないから,同部分の情報
は,これ単独では個人識別情報に該当し得ない。仮に,同部分の情報が個
人識別情報に該当するとしても,当該情報は,情報公開法5条1号ただし
書イ又はロの情報に該当する。
オ以上のとおり,本件行政文書の現況図記録部分及び地番記録部分は容易
に区分して除くことが可能であって,上記①ないし③の部分はいずれも有
意の情報を含み,かつ,不開示情報を含まないから,国土交通大臣はこれ
らのいずれかの部分を開示しなければならない。
【被控訴人の主張】
ア開示請求制度は,開示請求の時点において存在する記録をあるがままの
状態で開示すれば足り,開示時点において保有していない行政文書を開示
請求に応ずるために作成することは必要とされておらず,行政機関の保有
する情報を処理・加工して国民に提供することまでは必要とされていない
,「」,から情報公開法6条1項の容易に区分して除くことに該当するには
開示情報と不開示情報の分離について,技術的に当該行政機関自らが行う
ことが可能であり,かつ,当該行政文書に記録された情報の改変を伴うも
のではない場合でなければならないものと解される。
電磁的記録をもって行政文書とするものにつき部分開示を求められた場
合には,不開示情報の記録された部分を区分して除くために必要な一定の
処置を施すことは予定されるものの,当該部分の情報を改変することまで
は予定されていないというべきである。すなわち,当該文書に記録された
情報を改変することは,同文書と同一ではない情報が記録された新たな行
政文書を作成することにほかならず,部分開示によってそのような文書を
作成する義務は行政機関に課されない。
イ控訴人は,部分開示において地番情報の除去を求めているところ「基,
本調査成果図①」で実際に使用される地籍フォーマット2000の情報フ
ァイルのうち「筆・長狭物図形情報(POL)ファイル「筆属性情報,」,
(ATR)ファイル」等の相互の情報ファイルを対応付けるリンクデータ
の一つは地番であるから,地番情報を除去すると,これらの情報ファイル
のリンクデータとなるべきレコードが消去されてしまい,基本調査成果図
として表示することができなくなる。したがって,基本調査成果図の形式
である地籍フォーマット2000のデータから地番情報を区分,除去する
ことは不可能である。
このため,地籍フォーマット2000中の地番情報を個人識別情報でな
いものにするためには,各情報ファイル中の「地番」のデータ項目に,こ
れに代わる新たなレコードをそれぞれについて記録し,かつ,リンクデー
タであるから,各情報ファイルの「地番」のデータ項目に記録するレコー
ドを同一の内容としなければならないことになる。これらの作業を行う既
存のプログラムは存在しないため,新たなプログラムを作成する必要があ
るが,部分開示を求められた国土交通省自らが行うことは困難であり,結
局外部の業者に発注することが不可欠である。
ウ基本調査成果図は,リンクデータそれ自体が失われると,もはや基本調
査成果図どころか,地図自体を表示することもできないから,リンクデー
タ自体が失われた各データファイルは,有意の情報が記録されているとは
いえない。
,,エ仮に基本調査成果図から地番情報等を区分して除いた場合であっても
補正された公図上の筆界等については世界測地系の座標値が与えられてい
るから,当該補正された公図上の地点を現地において復元し,特定するこ
。,,とが可能であるしたがって当該座標値に対応する現地の航空写真上に
補正された公図の筆界線を重ね合わせることも容易であり,これを基にし
た情報を悪用する詐欺事犯が発生するおそれも考えられ,個人の権利利益
が害されるおそれが存在する。
第3当裁判所の判断
1原判決の引用,判断の大要
当裁判所も,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,次の
2のとおり原判決を補正し,次の3のとおり当審における当事者の新たな主張
に対する判断を付加するほか,原判決の第3(15頁21行目から20頁13
行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決の補正
原判決20頁3行目から11行目までを次のとおり改める。
「情報公開法5条1号ただし書ロの規定は,人の生命,健康,生活又は財産
,,を保護するため公にすることがより必要であると認められる情報について
その開示を義務付けるものであり「人の生命,健康,生活又は財産を保護,
するため」とは「人の生命,健康,生活又は財産」に現実に被害が発生し,
ている場合に限られず,これらの法益が侵害されるおそれがある場合も含む
と解される。
控訴人は,本件行政文書の開示により保護される利益として,基本調査成
果図の公開が現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる
経済社会の実現につながり,積極消極両面において公共の福祉が増大するこ
とを主張するが,控訴人が主張する上記利益は極めてあいまいで漠然とした
ものであって,本件全証拠によっても,本件行政文書が不開示とされること
によって,これらの利益に関して現実に被害が発生し,又はこれらの利益に
係る法益につき侵害のおそれがあると認めるには足りないから,人の生命,
健康,生活又は財産を保護するため,本件行政文書を公にすることがより必
要であると認めることはできない」。
3当審における当事者の新たな主張に対する判断
(1)控訴人は,本件行政文書に不開示情報が含まれていたとしても,本件行
政文書の現況図記録部分及び地番記録部分は容易に区分して除くことが可能
であって,これらを除いた部分はいずれも有意の情報を含み,かつ,不開示
情報を含まないと主張して,①本件行政文書のうち現況図記録部分を除いた
部分,②本件行政文書のうち地番記録部分を除いた部分,③本件行政文書の
うち現況図記録部分及び地番記録部分を除いた部分の順で,部分開示を求め
ている。
(2)アしかし,仮に,本件行政文書から現況図記録部分及び地番記録部分を
容易に区分して除くことが可能であったとしても,これらを区分して除い
た後の情報も,なお不開示情報を含むものというべきである。
イすなわち,本件行政文書から現況図記録部分及び地番記録部分を除いた
部分とは,要するに,補正された公図の情報から地番記録部分を除いたも
の(以下「地番表示のない補正後の公図情報」という)であるところ,。
補正された公図中の筆界等には世界測地系の座標値が与えられており,こ
れにより補正された公図中の筆界等を現地において復元することが可能で
ある。そして,現在,座標値を有する航空写真等がインターネット等から
簡単に入手し得る状況にあることにかんがみれば,当該座標値に対応する
現地の航空写真上に補正された公図の筆界等を重ね合わせることも容易で
あると認められる(乙23,24により認められる。。)
このような方法により,補正された公図上の街区と現況の街区との整合
状況や街区内部の土地の占有状況を示す境界と補正された公図上の境界と
の整合状況を知ることが可能であり,これらが整合しない部分があれば,
その部分について現況(占有状況)が公法上の境界(筆界)と一致してい
ないことが推測されることになる。かかる事情は,当該土地の資産評価に
影響を与え得るものであるから,地番表示のない補正後の公図情報から読
み取ることができる情報も,個人の所有地の状況に関する情報として,個
人の財産に関する情報に当たるというべきである。
なお,地番表示のない補正後の公図情報から更に筆界等の座標値を区分
して除いたものを出力して用紙に印刷することが技術的に可能か否かは判
,,,然としないが仮にこれが可能であったとしても弁論の全趣旨によれば
当該用紙に表示された土地の位置と形状に基づいて,筆界等の世界測地系
の座標値の近似値を容易に算出し得るものと認められるから,当該用紙に
表示された土地に関する情報も,個人の財産に関する情報に当たる。
ウまた,公図の補正方法が相似形変形又は回転に限定されていることから
すれば,法務局に備え付けられている公図(何人もその全部又は一部の写
しの交付を請求することができる。不動産登記法120条1項)と地番表
示のない補正後の公図情報とを照合することにより,除去された地番を推
測することも十分に可能であると認められる。
したがって,地番表示のない補正後の公図情報と公図及び登記事項証明
書に記載された情報と照合することにより,地番表示のない補正後の公図
情報に表示された土地の権利者の氏名等を識別することができることにな
るから,地番表示のない補正後の公図情報に表示された情報も,やはり個
人識別情報に該当する。
(3)さらに,控訴人は,仮に,本件行政文書のうち現況図記録部分を除いた
部分の情報が個人識別情報に該当するとしても,当該情報は情報公開法5条
1号ただし書イ又はロの情報に該当すると主張する。
,,しかしながら上記2において補正の上引用した原判決が判示するとおり
①基本調査成果図の公図部分は,公図上の特定の筆界点を街区点に近づける
という補正が施されたものであって,法令の規定により公にされている公図
と同一の情報ということはできないこと,②基本調査成果図上の筆界点には
世界測地系による座標値という新たな情報が付加されており,公図と基本調
査成果図の公図部分とでは情報の内容が異なること,③人の生命,健康,生
活又は財産を保護するため,本件行政文書を公にすることがより必要である
ということはできないことに照らすと,本件行政文書のうち現況図記録部分
を除いた部分の情報が同条1号ただし書イ又はロのいずれかに該当すると認
めることはできない。なお,本件行政文書のうち現況図記録部分及び地番記
録部分を除いた部分も,同様に同条1号ただし書イ又はロのいずれにも該当
しない。
(4)以上によれば,地番表示のない補正後の公図情報,すなわち,本件行政
文書から現況図記録部分及び地番記録部分を区分して除いた部分も,情報公
開法5条1号の不開示情報に当たるから,本件行政文書の部分開示を求める
控訴人の主張は理由がない。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
高松高等裁判所第2部
杉本正樹裁判長裁判官
市原義孝裁判官
佐々木愛彦裁判官

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