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平成26年(ラ)第127号市町村長処分不服申立審判に対する即時抗告事件(原
審・津家庭裁判所松阪支部平成25年(家)第911号)
主文
1本件抗告を棄却する。
2抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は,「原審判を取り消す。相手方らの申立てを却下する。」と
の裁判を求めるというものであり,その理由は,別紙「抗告理由書」(写し)に
記載するとおりである
第2当裁判所の判断
1相手方らの間に,平成25年6月8日,二女が出生し,相手方Aは,二女の
名を「B巫」とする出生届の追完届(以下「本件追完届」という。)を松阪市に
提出したところ,抗告人は,「巫」の文字(以下「本件文字」という。)が戸籍
法(以下「法」という。)50条,同法施行規則(以下「施行規則」という。)
60条に定める文字ではないことを理由として,本件追完届を不受理とする処
分(以下「本件処分」という。)をした。本件は,相手方らが本件処分を不服と
して,抗告人に対し,本件追完届の受理を求めた事案である。
原審は,本件文字は社会通念上明らかに常用平易な文字であると認めるのが
相当であるとして,抗告人に対し,本件追完届を受理するよう命じた。そこで,
抗告人が即時抗告した。
2当裁判所も,原審と同様に,本件文字は社会通念上明らかに常用平易な文字
であると認め,抗告人に対し,本件追完届を受理するよう命じるのが相当であ
ると判断する。その理由は,3のとおり抗告理由に対する判断を加えるほかは,
原審判の「理由」中の「第2当裁判所の判断」の1ないし4に記載するとお
りであるから,これを引用する。
3(1)抗告人は,法制審議会の人名用漢字部会における審議を経て平成16年に
された法制審議会の答申を踏まえ,人名用漢字の大幅な見直しが行われ,同
年9月27日及び平成21年4月30日の各施行規則の一部改正,平成22
年11月30日の常用漢字表の改定,同日の施行規則の一部改正により,施
行規則60条の内容は人名用漢字が大幅に拡大され,子の名に使用できる漢
字が増加しているから,常用平易な文字の範囲は,基本的には同条に列挙さ
れているものに限られ,常用平易性に関する新たな特段の事情がない限り,
施行規則60条に列挙されたもの以外の漢字については常用平易性が認めら
れない旨主張する。
しかし,法50条1項は,単に,子の名に用いることのできる文字を常用
平易な文字に限定する趣旨にとどまらず,常用平易な文字は子の名に用いる
ことができる旨を定めたものというべきであるから,家庭裁判所は,審判手
続に提出された資料,公知の事実等に照らし,当該文字が社会通念上明らか
に常用平易な文字と認められるときには,当該市町村長に対し,当該出生届
の受理を命じることができるのである(最高裁判所平成15年12月25日
第三小法廷決定・民集57巻11号2562頁(以下「最高裁平成15年決
定」という。)参照)。そして,この理は,施行規則60条における人名用漢
字が大幅に拡大され,子の名に使用できる漢字が増加していても変わること
はないといえる。したがって,子の名に使用できる漢字が増加しているから
といって,常用平易な文字の範囲が施行規則60条に列挙されているものに
限られるということにはならないのであり,社会通念上,常用平易であるこ
とが明らかな文字を子の名に用いることができる文字として定めなかった場
合でも,同条が法による委任の趣旨を逸脱してはいないとみることはできな
いものである。家庭裁判所において,ある漢字が社会通念上常用平易である
かを判断する場合,抗告人が主張する人名用漢字部会による選考過程の判断
は尊重されるべきではあるものの,審判手続に提出された資料,公知の事実
等に照らし,当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められると
きは,当該市町村長に対し,当該出生届の受理を命じることができるもので
ある。
(2)抗告人は,本件文字に安易に常用平易性を認めると,上記の改正経過を経
て画定した施行規則60条が定める子の名に使用することができる漢字の範
囲(常用漢字表に掲げる漢字及び別表第二に掲げる漢字)が有名無実になる
に等しく,戸籍事務を管掌する者のよりどころがなくなって全国の戸籍事務
が混乱し,常用平易な文字の範囲の画定を法務省令に委ねて戸籍制度におけ
る全国統一的な処理を確保しようとした法50条の趣旨に反する旨主張する。
しかし,法50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならな
い旨定めた趣旨は,従来,子の名に用いられる漢字には極めて複雑,難解な
ものが多く,そのため,命名された本人や関係者に,社会生活上,多大の不
便や支障を生じさせたことから,子の名に用いられるべき文字を常用平易な
文字に制限し,これを簡明なものとすることを目的とするものと解される。
また,同条2項が,法務省令で常用平易な文字の範囲を定めるものとしてい
るのは,当該文字が常用平易であるか否かは,社会通念に基づいて判断され
るべきものであるが,その範囲は,必ずしも一義的に明らかではなく,時代
の推移,国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり,専門的
な観点からの検討を必要とするものである上,上記の事情の変化に適切に対
応する必要があることなどから,その範囲の確定を法務省令に委ねる趣旨で
ある(以上,最高裁平成15年決定参照)。そうすると,抗告人が主張する戸
籍制度における全国統一的な処理の確保は,施行規則60条が常用平易な漢
字を限定列挙したことによる効果であって,法50条2項が,そのような統
一的な処理の確保を目的として,法務省令をもって常用平易な文字の範囲を
定めるものとしたとは解されない。したがって,抗告人が主張するような統
一的な処理の確保ということから常用平易性に関する新たな特段の事情がな
い限り,施行規則60条に列挙されたもの以外の漢字については常用平易性
が認められないと解すべきものではない。
(3)抗告人は,本件文字について個別に検討しても,平仮名や片仮名の字源で
もなく,本件文字を構成要素とする常用漢字や人名用漢字はなく,本件文字
を使う氏及び地名はあるもののその数は極めて少なく,「巫女」を「みこ」と
読むのは難読とされているから,本件文字は常用平易とはいえない旨,また,
総画数や構成要素等の事情,「漢字出現頻度数調査(2)」における出現順位,
JIS第2水準の漢字であることのそれぞれをもって,常用平易とは認めら
れない旨主張する。
しかし,平仮名や片仮名の語源となっていることやその文字を構成要素と
する常用漢字や人名漢字があることや,その文字を使う氏や地名が多数ある
ことが,常用平易性を肯定するための必須の要件とは解されない。そして,
本件文字について,画数が7画で比較的少なく,「工」及び「人」という単純
かつ一般的な構成要素からなること,本件文字を使った「巫女」(みこ)とい
う語は,社会一般に十分周知されていること,「漢字出現頻度数調査(3)」,「同
(2)」における順位やJIS第2水準漢字であることに照らし,比較的使用さ
れることの多い語であることは,原審判が第2の4で説示するとおりである。
抗告人は,上記の諸点それだけでは常用平易性を認める根拠とならない旨主
張するが,上記の諸点を総合的に判断すると,本件文字が明らかに常用平易
な文字であるということができる。
(4)抗告人は,本件文字を子の名として使用した場合に弊害が生じるか否かは
常用平易性の判断とは関係がない旨主張する。しかし,(2)で説示した趣旨か
らして,当該文字の常用平易性を検討するに際し,当該文字を子の名として
使用した場合に法50条1項が防止しようとする弊害が生じないか否かを検
討するのも意味のあることといえる。
5以上のとおり,抗告人の主張は,いずれも採用することができない。抗告人
は,その他縷々主張するが,いずれも上記判断を左右するものではない。
第3結論
よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないから,棄却することと
して,主文のとおり決定する。
平成26年8月8日
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官木下秀樹
裁判官前澤功
裁判官舟橋伸行
○別紙「抗告理由書」(写し)-添付書略
○「理由」の「第2当裁判所の判断」で引用した原審判の「理由」中の「第2当
裁判所の判断」の1ないし4
第2当裁判所の判断
1問題の所在
(1)子の名には,常用平易な文字を用いなければならないとされ(法50条1
項),常用平易な文字の範囲は,法務省令でこれを定めるとされているところ
(同条2項),法務省令である施行規則60条は,常用平易な文字とは,①常
用漢字表(昭和56年内閣告示第1号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられ
ているものについては,括弧の外のものに限る。),②別表第二に掲げる漢字,
③片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)と定めているから,同条各号のいず
れかに該当すれば,当該文字を子の名に使用することができる。
(2)本件追完届において用いられた「巫」の字は,施行規則60条1号ないし
3号のいずれにも含まれない。
(3)法50条1項が上記のような定めをしているのは,従来,子の名に用いら
れる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く,そのため命名された本人や
関係者に,社会生活上,多大の不便や支障を生じさせたことから,子の名に
用いられるべき文字を常用平易な文字に制限し,これを簡明なものとするこ
とを目的とするものと解される。
そして,同条2項が,法務省令で常用平易な文字の範囲を定めるとしてい
るのは,当該文字が常用平易な文字であるか否かは,社会通念に基づいて判
断されるべきものであるが,その範囲は,必ずしも一義的に明らかではなく,
時代の推移,国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり,専
門的な観点からの検討を必要とするものである上,上記の事情の変化に適切
に対応する必要があることなどから,その範囲の確定を法務省令にゆだねる
趣旨である。
施行規則60条は,この法の委任に基づき,常用平易な文字を限定列挙し
たものと解すべきであるが,法50条2項は,子の名には常用平易な文字を
用いなければならないとの同条1項による制限の具体化を規則に委任したも
のであるから,施行規則60条が,社会通念上,常用平易であることが明ら
かな文字を子の名に用いることのできる文字として定めなかった場合には,
法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり,
その限りにおいて,施行規則60条は,法による委任の趣旨を逸脱するもの
として違法,無効となるものと解される。そして,法50条1項は,単に,
子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定する趣旨にとどま
らず,常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものという
べきであるから,上記の場合には,戸籍事務管掌者は,当該文字が施行規則
60条に定める文字以外の文字であることを理由として,当該文字を用いて
子の名を記載した出生届を受理しないことは許されず,家庭裁判所は,審判
手続に提出された資料,公知の事実等に照らし,当該文字が社会通念上明ら
かに常用平易な文字と認められるときには,当該市町村長に対し,当該出生
届の受理を命ずることができると解される(最高裁平成15年12月25日
第三小法廷決定(民集57巻11号2562頁)参照)。
そして,このこと自体は,平成16年9月に実施された後記の人名用漢字
の拡大措置の後においても同様に妥当するものと解すべきである。
(4)よって,本件において,裁判所が子に対して本件追完届の受理を命ずるこ
とができるか否かは,上記の説示に照らして,「巫」の文字が,社会通念上明
らかに常用平易な文字と認められるか否かに拠ることになる。
2事実経過
記録(公知の事実を含む。)によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件不受理処分に至る事実経過は申立ての実情(1)ないし(3)記載のとおり
である。
(2)法50条の新設後の経緯
昭和21年に1850字を掲げる「当用漢字表」(昭和21年内閣告示第3
2号)が制定され,昭和23年に,旧法を全面改正の上施行された戸籍法にお
いて,上記のとおり,法50条1項,同項2項が定められ,同項の委任を受け
て制定された施行規則60条(当時)は人名に用いられる漢字は当用漢字に限
るものとされた。
その後,使用できる漢字の範囲の拡大を求める要望を受けて,昭和26年に,
「人名用漢字別表」に掲げる漢字(92字)が,昭和51年に,「人名用漢字
追加表」に掲げる漢字(28字)が施行規則60条に定める文字に追加された。
国語審議会は,昭和56年には,「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など
一般の社会生活で用いる場合の漢字使用の目安」として「常用漢字表」を作成
し,文部大臣に答申し,1945字を掲げる「常用漢字表」(昭和56年内閣
告示第1号)を制定した。常用漢字表は,固有名詞をその対象外としており,
人名用漢字の取扱いについては,従来国語審議会が関与してきたが,戸籍等の
民事行政との結びつきが強い問題であることから,人名用漢字別表の処置など
を含め,その取扱いは,常用漢字表の趣旨を十分参考にすることを前提として
法務省にゆだねることとされた。
法務省の諮問機関である民事行政審議会の答申を受けて,法務省は,「人名
用漢字別表」及び「人名用漢字追加表」に掲げられていた漢字(計120字)
から,常用漢字表に採用された8字を除く112字に,新たに54字を加えた
合計166字を掲げる新しい「人名用漢字別表」を施行規則別表第二とし,同
年10月1日,常用漢字表の制定と同時に施行規則60条を改正し,法50条
2項の常用平易な文字として,「1常用漢字表に掲げる漢字,2別表第二「人
名用漢字別表」に掲げる漢字,3片仮名又は平仮名(変体仮名を除く)」と定
めた。
法務省は,平成2年,上記施行規則別表に新たに118文字を追加する改正
を行った。その後,人名用漢字について大幅な改正はされていなかったが,相
当期間が経過し,その間に人名用漢字の範囲拡大についての要望が多数寄せら
れ,また,前記平成15年の最高裁判所の決定が出されたことなどの情勢の変
化等に鑑み,平成16年,法務大臣は,法制審議会に対し,人名用漢字の範囲
の見直しについて諮問を行った。
法制審議会内に設置された人名用漢字部会における審議を経て,平成16年,
法制審議会総会において,要旨,子の名には常用平易な文字を用いなければな
らないとする人名用漢字に関する制限方式(法50条1項)は維持する,②「常
用平易」な漢字については,JIS漢字から,基本的に漢字出現頻度数調査(2)
に現れた出版物上の出現頻度に基づき,要望の有無・程度なども総合的に考慮
して選定し,なお,名の社会性にかんがみ,名に用いることが社会通念上明ら
かに不適当と認められる漢字は除外する,③字体の選定については,基本的に
「表外漢字字体表」に掲げられた字体を選定し,一字種一字体の原則は維持す
るが,例外的に一字種について二字体を認めることを排斥するものではない,
④結論として,488字を人名用漢字に追加するのが相当である旨の意見案が
報告了承され,法務大臣に答申された。
上記答申を受けて,法務省は,平成16年9月27日,施行規則を改正し,
従来の施行規則別表及び附則別表に替え,従来の人名用漢字290字に上記4
88字及び許容字体205字を加えた合計983字を掲げた「漢字の表」(従
来の「人名用漢字別表」)として,これを施行規則60条2号にいう施行規則
別表第二とした。
その後,平成21年4月30日,施行規則の一部改正が行われ,施行規則別
表第二に「祷」及び「穹」の2字が追加された。平成22年6月27日,文化
審議会は,「改定常用漢字表」を文部科学大臣に答申し,これを受けて,平成
22年11月30日に「常用漢字表」(平成22年内閣告示第2号)が告示さ
れ,同日施行された。これに伴い,平成22年11月30日に施行規則の一部
改正が行われ,別表第二に掲げられている漢字のうち,「常用漢字表」に追加
された漢字を同表から削除し,「常用漢字表」から削除された漢字を同表に追
加した。
3常用平易性についての考え方
前記人名用漢字部会における選定過程は,社会一般において幅広く用いられ
ているJIS規格における位置付けのほか,刊行物における出現頻度について
同種の調査の中で最大規模である前記漢字出現頻度数調査(2)の調査統計資
料を用いて一応の基準を設け,さらに,各法務局からの要望数を考慮し,パブ
リック・コメント等の手続を経て,一定の漢字を追加し,最終的な選定に至っ
たものである。このような方法は,極めて多数の漢字を,当時利用可能な資料
に基づいて,包括的かつ能率的に調査する方法としては,前記の立法趣旨に照
らしても相応の合理性があると評価できる。
しかしながら,前記のような方法で,上記のような個々の文字の利用による
具体的な弊害の有無を判断することについては,その方法が主として刊行物と
いう印刷媒体に依拠したものであること,あるいは希望法務局数を重視したも
のであることから来る一定の限界があることは否定できない。そうすると,そ
の選定に係る漢字が人名用漢字として網羅的に抽出されたものであるとか,そ
の選定に漏れた漢字について,直ちに,人名として不適切な程度に常用平易性
を欠いているという積極的判断がされたと評価することは相当ではないという
べきである。
そうすると,裁判所が一定の具体的な漢字が社会通念上常用平易であるか否
かを判断する場合,前記人名用漢字部会における選考過程の判断は尊重される
べきであるものの,手続上提出された資料,公知の事実等に照らして,上記の
観点から検討した場合に,当該文字を子の名として使用したとしても,戸籍法
が防止しようとする前記弊害が生じることが想定されないと認められる例外的
な場合には,前記の立法趣旨に照らして,当該漢字の使用を制限すべき根拠を
欠くことになるから,当該漢字は,社会通念上常用平易であることが明らかな
漢字であると評価されるべきであり,たとえ,一定の刊行物の範囲内で当該漢
字の出現数があらかじめ設定された基準より少なく,また,法務局からの要望
数等が所定の数値に達しなかったからといって,当該文字が常用平易性を欠き,
人名として使用することができないものとすることは,法の趣旨に照らして著
しく合理性を欠くものというべきである。よって,その場合における施行規則
60条2号は,当該文字を登載していないという限りにおいて,法50条2項
の委任の趣旨を逸脱するものとして,違法,無効と評価するのが相当というべ
きであり,裁判所は,戸籍事務管掌者に対し,当該出生届等の受理を命じるの
が相当である(大阪高等裁判所平成20年3月18日決定参照)。
4本件文字の常用平易性についての検討
(1)本件文字は,前記の人名用漢字部会における選定過程において,要望の有
無・程度などから選定の対象とされなかったものと解され,本件文字の常用
平易性ないし使用による弊害の有無等について,選考過程において個別具体
的に検討された形跡はなく,同部会において,本件文字が常用平易性を欠い
ていると個別的・積極的な判断がされたものと評価すべきとはいえない。
(2)次に,本件文字を子の名前として使用した場合,前記立法趣旨に照らして
弊害が生じる余地があるか否かという観点から検討する。
ア「巫」の文字は,画数が7画であり,比較的画数が少なく,また,たく
みへん(工,部首名)と「人」という単純かつ一般的な構成要素からなる。
「巫」を用いた熟語である「巫女」とは,古来より,神に仕えて神楽,
祈祷を行い,又は神意をうかがって神託を告げる者とされ(広辞苑),現代
においては,神社神事の奉仕をしたり,神職を補佐する役割を担う者とさ
れており,伊勢神宮のある三重県はもとより,日本全国に神社のある我が
国においては,社会一般に十分周知され,比較的使用されることの多い熟
語であるといえる。このことは,「巫」の文字は,「漢字出現頻度数調査(3)」
(平成19年3月)において2683位,「漢字出現頻度数調査(2)」(平
成12年3月)において2592位であることからも明らかといえる。す
なわち,平成16年の前記法制審議会の答申では,「漢字出現頻度数調査
(2)」における出現順位3012位内というのが選定の一基準として考慮
されている。同順位は,調査の対象書籍385誌における出現回数が20
0回以上のものであり,これは,平均すると,過半数の書籍に出現する漢
字ということができるという前提のもとで設定されており,本件文字は同
順位内である。
以上によれば,本件文字の構造は単純で明確であって,その筆記にも格
別困難を伴うものでもなく,その説明及び他者による理解も極めて容易な
部類に属するものであるし,本件文字について,複雑ないし難解である,
あるいは日常目にする機会に乏しく,字義等が知られていないなどの観点
から弊害が生じることを想定することは困難というべきである。
イ本件文字はJIS第2水準漢字である。JIS漢字は,コンピューター
等における情報交換に用いる文字の符号化を規定した規格であり,昭和5
3年に通商産業大臣が制定し,その後改正が重ねられている規格であり,
その制定当時からあるJIS第1水準及びJIS第2水準の漢字規格は,
社会一般において幅広く用いられているものであり,コンピューターによ
る戸籍事務にも何ら支障をきたすものではない。
(3)以上のような諸事情を総合考慮すると,本件文字を子の名前に使用したと
しても,法50条1項が防止しようとする弊害を生じる事態を想定すること
は困難というほかなく,本件文字は,本件に顕れた資料等に照らし,社会通
念上明らかに常用平易な文字に該当するのと認めるのが相当というべきであ
る。

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