弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役年に処する。10
未決勾留日数中日をその刑に算入する。180
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,高校を卒業した後,保育園に勤務するようになり,保母の資格を取得
,,,して大阪府内の虚弱児施設や香川県内の保育園に勤務した後昭和年ころに64
自らが経営する保育施設A幼児園を開園した。被告人は,虚弱児施設に勤務し
たころから,児童に対し,その能力以上のことを要求し,それができない児童に対
して,体罰を加えるようになり,A幼児園を開園してからは,思い通りにいかない
園児だけでなく,園児の保護者に対する苛立ちや腹いせなどのために,園児に対
して体罰を加えるようにもなった。
(罪となるべき事実)
被告人は,A幼児園の経営者兼園長として受け入れた園児の保育に当たっていた
者であるが第平成年月日ころ,香川県香川郡a町大字bc番地dの1131029
A幼児園において,園児であったB(当時歳)が便を漏らしたことなどに苛立ち5
を爆発させ,Bに対し,太鼓のバチで,その頭部を回殴打し,背中を回突く暴21
行を加え,よって,Bに全治約週間を要する頭部打撲及び背部打撲の傷害を負わ1
せた
第その翌日の日ころ,A幼児園において,Bの母親が子育てに無責任と思230
えたことやBがぐずることなどに苛立ちを爆発させ,Bに対し,その顔面を平手や
拳で計回殴打する暴行を加え,よって,Bに全治約週間を要する両側顔面打撲41
の傷害を負わせた
第平成年月日午前時ころ,A幼児園において,園児であったC(当3142199
時歳)の母親が子育てに無責任と思えたことやCが泣き続けたことなどに苛立ち1
,,を爆発させCを抱きかかえて床に敷いた布団の上に投げ落として頭部を強打させ
さらに,その頭部を平手や拳で計回殴打する暴行を加え,Cに頭部打撲傷,クモ5
膜下出血及び外因性脳浮腫等の傷害を負わせ,そのため,Cが午前時ころに顔10
色が蒼白となって手足の体温が低下し,午前時分ころまでには無表情となっ1120
て身体の力がほとんどなくなるなど,Cに際立った意識障害や運動障害が生じ,こ
のようなCの症状の悪化を目の当たりにして,この間,救急車の出動を要請するな
どの救護の措置をとればCの死の結果を防止することが十分可能であり,かつ,A
幼児園には,被告人と園児数名がいるのみで,被告人以外に園児を保護できる者が
なく,被告人にはCの生存を維持すべき義務があったにもかかわらず,そのころ同
所において,Cに過酷な体罰を加えたことの発覚をおそれ,Cが死亡するかもしれ
ないことを予見しながら,それもやむを得ないと決意し,Cを,救護の措置をとら
ないまま幼児園内の一室に放置し,よって,同日午後零時ころ同所において,Cを
外因性脳浮腫に基因する脳ヘルニアにより死亡させ,もって人を殺害したものであ
る。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,判示第の事実について,被告人が救護措置を講じていれば被害者13
の救命が確実であったと認めるには疑問があり,傷害致死罪にとどまる旨主張し
ていたので念のため付言する。
殺意の有無及び殺意が生じた時期について2
関係各証拠によれば,被告人は,冷静に戻って,投げ落としたCが頭部を強打
したことに不安を感じ,Cの様子を観察し,遅くとも午前時ころにCが目立っ10
11て普段と違う様子に変化したことに気付きそれ以降Cが次第に衰弱し午前,,,
時分ころには,Cが無表情となって身体の力がほとんどなくなるなどの際立っ20
た症状を呈したことを認識していたと認められる。被告人は,この間,Cに助かっ
てほしいと一縷の望みをいだいており,午前時ころの前にはCが死ぬとまで認10
識していたとは認められないものの,午前時ころから遅くとも午前時分101120
ころまでの間には,Cが死亡するかもしれないことを認識,認容した心理状態(未
必の殺意)に至ったものと認められる。
結果回避可能性について3
関係各証拠によると,Cが外因性脳浮腫に基因する脳ヘルニアを起こし始めた
時期は,Cが倒れた午後零時ころであること,及び,一般に乳幼児に外因性脳浮腫
が生じても,脳ヘルニアになる以前に適切な医療措置を講ずれば,救命が可能であ
ることが認められる。これによると,被告人に未必の殺意が生じてからCに脳ヘル
ニアが起こり始めた時刻までには,分程度以上の時間がある。他方,A幼児園40
には備え付けの電話もあり,電話により救急車の出動を要請してから分少しの20
程度で,重篤な症状の場合に搬送されることの多い病院まで急病の患者を搬送する
ことができ,しかも,救急車内で酸素吸入等の措置を行えば脳ヘルニアの進行を遅
らせることができると認められる。したがって,被告人が午前時分までの間1120
に備え付けの電話で救急車の出動を要請さえすれば,Cの死の結果を防止すること
が十分可能であったと認められる。
まとめ4
以上のとおり,被告人には,不作為による殺人罪が成立する。
(法令の適用)
被告人の判示第及び第の各所為はいずれも刑法条に,判示第の所為は122043
同法条にそれぞれ該当するところ,判示第及び第の罪について所定刑中懲19912
役刑を,判示第の罪について所定刑中有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法3
条前段の併合罪であるから,同法条本文,条により最も重い判示第の罪4547103
の刑に同法条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役年に1410
処し,同法条を適用して未決勾留日数中日をその刑に算入し,訴訟費用に21180
ついては刑事訴訟法条項ただし書を適用して被告人に負担させないこととす1811
る。
(量刑の理由)
本件は,幼児園の経営者であり園長である被告人が,園児に対し太鼓のバチで1
叩くなどして傷害を負わせた事案,及び,園児を投げ落とし,その頭部を殴るなど
し,頭部に負った傷害のため死の危険にさらされた園児に対する救護の措置をとら
ず,幼児園内に放置し,不作為によって殺害した事案である。
()太鼓のバチで叩かれるなどした園児は,被告人に対して自らの力で抵抗できな21
い歳児である。被告人は,幼児園の園長として幼児の保育を任されながら,便を5
漏らしたあるいはぐずったなど,被告人の期待通りの行動を園児がとれないことな
。。どに苛立ちを爆発させて暴行を加えている犯行までの経緯に酌むべき事情はない
幼児を保育する保母で,さらに,幼児園の園長という立場にあれば,幼い子の失敗
は励まし,応援して,その成長の過程を温かく見守り,手助けをしていくことこそ
が被告人の責務である。にもかかわらず,このような責務を省みることなく,苛立
ちを爆発させて園児に暴行を加えた被告人は,厳しく非難されなければならない。
()園児が受けた苦痛は,肉体的なものはもとより,精神的なものにも及んでい2
る。心の傷が深いものであることは想像に難くない。幼い園児の心に残るその傷の
大きさを思うと,犯行の結果は重いといわざるを得ない。
()しかも,被告人は,道具を用いたり,あるいは力任せに殴るなどしている。3
卑劣かつ悪質である。被告人は,思い通りにいかないなどの理由で園児らに体罰を
加え続けていたものであり,その暴行には常習性が認められ,犯情は悪い。
()被告人は,幼児の母親に対する苛立ちなどを,幼児に対する暴行として爆発さ31
せ,挙げ句の果てには,体罰の発覚を隠すという被告人の保身のために,幼い命を
犠牲にしている。その経緯に斟酌の余地はない。
()死亡した幼児は,両親に慈しみ育てられていたにもかかわらず,幼児を預か2
りその幼児の成長を両親とともに見守る立場にあった被告人により,僅か歳足ら1
ずで,突如その生を断たれている。まことに哀れというほかない。被告人は,幼児
に対し理不尽で過酷な体罰を加え,そのために幼児が死の危険にさらされたことを
認識しながら,そのまま幼児を放置し続けていた。その行為は卑劣であり,その結
果は悲惨である。
()犯行により尊い命を奪った結果は,まことに甚大であるが,さらにこれによ3
って幼児の両親が受けた精神的な打撃も,計り知れないものがある。我が子を失っ
。,,,た両親の心情は察するに余りあるまた被告人は犯行直後の一時期においては
かかる両親に対して真摯に謝罪することもなく,犯行を事故に見せかけようとして
いた。被告人に対する両親の憎しみは激しく,両親が被告人の厳重な処罰を求めて
いることは当然と考えられる。
以上のことからすると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。4
他方,被告人は,積極的な殺害行為に出たのではなく,何もしないという不作5
為により死の結果を惹起させており,その犯情は作為犯と自ずから異なること,殺
意も確固たるものではなく,未必の故意にとどまっていること,被告人は処罰され
たことがなく,体罰の点を除けば,真面目に年余りも保育の仕事に携わり,幼30
児の親から感謝された例もあったこと,被告人は幼児が衰弱していく様子や,自己
の保身のため幼い命を犠牲にした心情などを率直かつ詳細に自白し,その内容に不
自然さがなく,反省の態度には真剣なものが窺われること,被告人は報道などによ
り相応の社会的制裁を受けていることなど,被告人にとって有利又は酌むべき事情
も認められる。
そこで,以上の一切の事情を考慮した上,主文の刑に処することが相当である6
と判断した。
(求刑−懲役年)13
平成年月日15131
高松地方裁判所刑事部
裁判長裁判官高梨雅夫
裁判官平出喜一
裁判官神田温子

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