弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
 主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 本件事案の概要は、次に付加、訂正するほか原判決の「事実及び理由」中の「第
二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一二頁五行目の「(四)」の次に「控訴人は、AはBが離婚屈を提出後
被控訴人が出生するまでの間に胎児認知をすることが可能であったと主張するが、
右離婚届が提出されたのは平成九年九月二五日で、被控訴人は翌二六日午前一〇時
二一分に出生しているのであり、その間にAが胎児認知をすべきであったとするこ
とはAに無理を強いるものである。またBがより早期に離婚届を提出していれば胎
児認知の時間的余裕は十分にあったとも主張するが、離婚届の提出について夫Cの
最終意思を確認するためこれを速やかに提出しなかったとしても、そのこと自体不
合理ではないし、右の点は被控訴人の父親であるAの関与できる事柄ではないので
あるから、これをもってAを非難することはできない。」を加える。
2 同一四頁末行の次に改行の上次のとおり加える。「Bが離婚届を提出した翌日
に被控訴人が出生したにしても、離婚後胎児認知のために必要な合理的期間を要す
るとして、右期間内に子が出生した場合には婚姻中と同視できるとすることは例外
的な事情の中にさらに不確定な要素を持込むものであって許されない。」
3 同一八頁五行目の次に改行の上、「本件最判において遅滞なくの要件は出訴期
間の制限のない親子関係不存在確認の法的手続において求められているのであるか
ら、嫡出否認の訴えの出訴期間そのものを判断基準として考慮するのは合理性を欠
き、むしろ国籍の得喪に関する国籍留保の届出期間である『出生の日から三か月以
内』 (国籍法一二条、戸籍法一〇四条一項)を基準とすべきである。」を加え
る。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も国籍法二条一号の解釈としては、本件最判と同旨の見解に立つもの
であり、その趣旨は原判決一八頁七行目から同二一頁三行目までのとおりであるか
らこれを引用する。
二 本件が要件①の戸籍の記載上嫡出推定がなされ胎児認知届が不適法として受理
されない場合に該当す
るかについて検討する。前記のとおり、本件最判は、子の出生時に外国人である母
が婚姻中の事案について、(イ)外国人母の非嫡出子が戸籍の記載上母の夫の嫡出
子と推定されるため夫以外の日本人である父がその子を胎児認知しようとしても、
その届出が認知の要件を欠く不適法なものとして受理されないから胎児認知という
方法によっては子が生来的に日本国籍を取得できず、同じく外国人母の非嫡出子で
も戸籍の記載上嫡出の推定がされない場合には胎児認知の手続を執ることにより、
生来的に日本国籍を取得するみちが開かれているのに比し著しい差があり、その差
異を肯認できる合理的な理由は認められないことから右前者にも同等の生来的国籍
取得のみちが開かれるように国籍法二条一号の規定を合理的に解釈適用するのが相
当であるとし、(ロ)戸籍実務上、外国人母が別の男性と婚姻中で胎児が母の夫の
嫡出子であるという推定が働く場合には実父が胎児認知届をしても不受理処分とな
るが、嫡出推定を排除する裁判が確定し、実父が再び認知届をすることにより右不
受理処分が撤回されて不受理処分をした日をもって届出が受理され、胎児認知が有
効とされる余地があるにしても、不受理処分が予想されるのに敢えて胎児認知届を
しておくことを要求することは適当でないとして、この場合も胎児認知をするにつ
き法律上の障害があるとしたものであって、このようにみてくると、本件最判にい
う、戸籍の記載上嫡出の推定がされるため胎児認知ができない場合であることとは
子の出生時において外国人母が戸籍上婚姻中であるため胎児認知を適法になし得な
い場合であることを意味しているものと解される。これに対し母の離婚後であれ
ば、被控訴人の出生以前から戸籍実務上胎児認知は適法なものとして受理する取扱
いが確定していたのであって(大正七年三月二〇日付民第三六四号法務局長回答
《乙一》、昭和五七年一二月一八日付法務省民二第七六〇八号民事局長回答《乙
二》)、その後一定期間内に子が出生し、法例一七条の指定する準拠法により、な
お嫡出推定が働く場合は、先の胎児認知届の受理は撤回され不受理処分がされる
が、前記と同様その後右嫡出推定を排除する裁判が確定し、届出人が改めて認知届
をすれば不受理処分が撤回され、胎児認知は有効とされるものである(乙七)。右
のように、母の離婚後の場合には、婚姻中と異なり戸籍実務上の確定した取扱いに
より胎児認
知が適法とされる余地がある以上、胎児認知をすることについて法律上の障害があ
るとはいえないから、この点で胎児認知の届出が一たん受理されたとしても結果的
に外国人の母の離婚後三〇〇日以内に子が出生したことにより右受理が取り消され
ることになることの故をもって右胎児認知の届出が適法になされるかどうかという
法的状況の差を否定することは相当でないというべきである。
 しかしながら右の見解に立ってみても、母の離婚と子の出生とが時期的に極めて
近接している場合でも、離婚後だから胎児認知届が適法に受理されるからとして、
実父に対し胎児認知届を離婚届と同時またはその直後に提出することを要請するこ
とは時間的に無理を強いるもので社会通念に反することが明らかであって相当でな
いから、適法に胎児認知ができるというためには離婚後子の出生前に胎児認知をす
ることができる客観的可能性の存在はなお必要であると解すべきであり、子の出生
前に母が離婚した場合であっても、離婚届提出後、胎児認知のために必要な合理的
期間を経過する前に子が出生した場合には、本件最判の法理を拡大して、適法に胎
児認知をするにつき法律的障害と実質的に同視できる障害があったと解するのが相
当である。控訴人は、右解釈は例外的な事情の中にさらに不確定な要素を持込むも
のであって許されないと主張するが、合理的解釈適用の必要性が否定できない以上
採用することはできない。
 これを本件についてみると、前記争いのない事実等のとおり、Bは平成九年九月
二五日、Cとの離婚届を提出し、その翌日の同月二六日には被控訴人が出生してい
るのであるから、Aが胎児認知をするのに必要な合理的期間を経過する前に子が出
生したものというべきである。
 右の点に関し、控訴人は、Bは遅くとも平成九年八月にはCとの離婚屈を提出し
得た筈であり、そうすれば胎児認知をするにつき十分な時間的余裕があった旨主張
する。確かに証拠(甲七、証人A、被控訴人法定代理人)によれば、BはCと長女
の親権及び養育問題が解決していなかったためCから預かった離婚届を提出するこ
とができなかったところ、平成九年八月ころには右の問題についても合意に至り、
離婚届を提出するにつき格別の障害はなくなったことは認められる。しかし、右各
証拠によれば、Bは、離婚届の提出につきCの最終意思を確認するため連絡をとろ
うとしたがこれができないまま、出産予定日が
切迫した同年九月二五日になってようやく右離婚届の提出をし、右提出の予定を事
前にAに連絡していなかったことが認められ、右事情の存在することに加え、胎児
認知をするについては母の同意を要するからこれをするにあたっては事前の交渉が
必要になるとはいえ、右離婚届の提出そのものについては実父であるAは第三者で
あって右提出の時期を決定できるわけではないことを考慮すれば、Bが平成九年八
月には離婚届を提出し得たからといって、Aが適法に胎児認知をするにつき障害が
あったとの前記判断を左右するものとはいえない。よって控訴人の右主張は採用で
きない。
三 次に要件②の母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続
が子の出生後遅滞なく執られたといえるかについて検討する。右の「遅滞なく」の
要件については、これを具体的な数値をもって示すことは困難であるが、右要件が
要求される趣旨が、生来的な日本国籍の取得はできる限り子の出生時に確定的に決
定されることが望ましいことにあると考えられるから、右法的手続を執るにつき事
実上の障害のあった期間を除いた合理的な期間内にすることを要するものというべ
きである。
 これを本件についてみると、前記争いのない事実等に証拠(甲七、証人A、被控
訴人法定代理人)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人とCとの親子関係不存在確
認の訴えは被控訴人の出生から八か月と二一日後に提起されたところ、Bは帝王切
開により被控訴人を出産し、その後母体保護のため二週間ほど入院し、退院後も自
宅療養をしていたこともあったが、被控訴人の出生から約六か月を経過した平成一
〇年三月ころ弁護士に相談し、法的手続をとるためにCの所在を調査し、同年六月
一五日公示送達の方法によりCとの親子関係不存在確認の訴えを提起したことが認
められるが、他方、右各証拠によると、Bは前記退院後は自宅療養はしていたもの
の長女の通学の送迎等は可能な状況にあったこと、すでに平成九年八月ころ以降
は、Cが一方的に連絡してくるだけでBはCの所在を把握できていなかったこと、
AからC及び被控訴人を相手方として同様の訴えを提起することは可能であった
が、Aは知人である弁護士に種々相談したものの右の手続を執っていないこと、以
上の事実が認められ、この事実に、前記提訴のためのCの所在調査に長期間を要し
たことを認めるに足りる証拠もないことを併せ考えると、Bの退院後
前記提訴まで八か月余も経過したことにつき客観的にみてやむを得ない事実があっ
たとは認め難いうえ、B及びAは親子関係の不存在を確定するための法的手続を執
ること自体について逡巡しており、このことに起因して提訴まで八か月余の長期間
が経過したものと推認され、そうとすれば、前記認定したBの体調不良やCの所在
調査が必要であったことを考慮しても、右法的手続が遅滞なく執られたということ
はできない。
 なお被控訴人は嫡出否認の訴えの出訴期間が民法上一年と定められていることか
ら、「遅滞なく」の要件も同期間を基準とすべきであると主張する。右出訴期間は
子の身分関係を速やかに安定させるための合理的期間を定めたものと解されるが、
「遅滞なく」の要件の判断にあたっては、一律に右期間を基準とすべき合理的理由
はなく、右主張は採用できない。
 また被控訴人は、戸籍上の父の所在が明らかな場合と所在不明の場合とで右「遅
滞なく」の判断を画一的に決めるのは憲法一四条に違反する旨主張するが、前記の
とおり本件ではCの所在調査が必要であったことを考慮してもなお右要件を充足し
ないというべきであり、右主張も採用できない。
四 以上によれば、被控訴人の本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく
理由がないから棄却すべきである。よって、これと結論を異にする原判決を取り消
した上、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第四民事部
裁判長裁判官 武田多喜子
裁判官 正木きよみ
裁判官 松本久

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