弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     控訴人は被控訴人に対し金四十万円及びこれに対する昭和二十六年二月
四日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
     被控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一二審を通じこれを四分し、その一を被控訴人の負担と
し、その三を控訴人の負担とする。
     本判決は被控訴人において金十万円の担保を供するときは、その勝訴の
部分に限り仮にこれを執行することができる。
         事    実
 控訴代理人は、原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却
の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴
代理人において、(一)訴外第一興産株式会社(以下第一興産と略称)は、その本
店を熊本市a町b番地のcに置き、納税積立、匿名出資会員を募り面出資金を管理
し、これを会員問に融通すること等を目的とし、資本の総額金三十万円をもつて昭
和二十四年一月三十一日設立登記を了し、その代表取締役は訴外A(同人は昭和二
十五年三月辞任し同年十二月八日その旨の登記をしている)B外一名となつていた
ところ、大蔵省から昭和二十四年十月一日以降新規募集を停止され、その整理に移
つた。毎日殖産無尽株式会社(以下毎日無尽と略称)はその本店を熊本市a町b番
地のcに置き、無尽業法による無尽業を自的とし、資本の総額金二千万円をもつて
昭和二十五年一月二十七日設立登記を了し、その代表取締役は訴外A、専務取締役
は訴外B(同人は昭和二十五年三月中平取締役)となつていた。
 而して控訴人大平殖産無尽株式会社は昭和二十六年五月二十四日毎日無尽と有明
殖産無尽株式会社とが合併して設立された無尽会社である。(二)前記第一興産で
は、その整理すなわち債権の取立及び債務の支払につき、昭和二十五年三月頃以降
代表取締役Bがもつぱらその衝に当つていたが、(イ)債権者に対する支払資金に
窮し、同年五月頃から同人は社長A名義をもつて約束手形を振り出し被控訴人から
右資金を借り入れていたところ、同年八月初において数口併せて金四十万円になつ
たので、被控訴人の要請により毎日無尽の代表取締役A名義の約束手形を交付する
こととなつた。当時Bは毎日無尽においては平取締役にすぎなかつたが、同人はか
ねて毎日無尽代表取締役A、専務取締役Bの印影のある手形用紙を所持していたの
を奇貨とし、これをCに交付し、同人はこれにDをして署名調印せしめ、昭和二十
五年八月五月振出、支払期日同年九月四日、額面四十万円、宛名谷脇信義とする約
束手形(甲第一号証)を被控訴人に交付して以前の手形を取り戻させた。(ロ)第
一興産代表取締役Bは昭和二十五年九月三日額面十万円支払期日同年十月四日とす
る第一興産代表取締役Aなる宛名の記載のない約束手形(甲第二号証)をCに交付
し、C及びDに連署せしめて被控訴人に交付せしめ金十万円を借り入れ、更に同年
九月十四日右手形の金額を二十万円と訂正せしめ金十万円を借り入れ、後に十万円
を返済せしめて額面金額の「弐」を抹消させた。(ハ)第一興産代表取締役Bは昭
和二十五年十月十日、支払期日同月十四日、額面十五万円を四万円と訂正せしめて
毎日無尽代表取締役Aの印鑑を冒用し、同会社の社員Eをして連署せしめた被控訴
人宛の約束手形(甲第三号証)を差し入れしめ被控訴人から金四万円を借り入れ
た。(ニ)第一興産代表取締役Bは昭和二十五年十月二十八日、支払期日同月三十
一日、額面十万円を六万円に訂正し、振出資格のないC振出名義の約束手形(甲第
四号証)をCに持参せしめて、被控訴人から金六万円を借り入れ、以上いずれも第
一興産の整理資金にあてている。それで被控訴人は第一興産に対し、その返済を求
むべきであつて、毎日無尽には何等関係のない貸借である。(三)すなわち(イ)
昭和二十五年八月五日毎日無尽振出名義の約束手形の授受は、本来毎日無尽には関
係のないところで第一興産の債務による手形の交付であつて、準消費貸借により毎
日無尽の債務負担となるべき法律行為ではない。借主でない毎日無尽としては、代
表取締役Aの意思表示により債務者の交替による更改契約でもあれば格別、A社長
のかかる意思表示のない以上毎日無尽の債務とはならない。
 (ロ) 仮にBが毎日無尽の平取締役として右更改契約をなしたとすれば、同人
は第一興産の代表者であつて毎日無尽の代表という双方代理による無効であり且毎
日無尽の代理権のなかつたものの行為として無効である。(ハ)仮に右主張が理由
なしとするもBは毎日無尽の代表権を有せず、また毎日無尽代表取締役Aから代理
権を授受されていたものでもないから、Bの行為は無権代理人の行為で追認のない
限り毎日無尽に責任はないのである。(ニ)仮にC及びDの言により被控訴人がB
に右代理権ありと信じたとしても、Bは全然代理権なきものまたC、Dも代理権は
ないので、表見代理の法理により右行為が有効となるべきものではない。(ホ)更
に毎日無尽の代表取締役Aは、C及びDに対し被控訴人から数回に亘り計金四十万
円の借入方を委任したことはないから従つて借り入れたことのないものの切換も委
任したことはないので、全然代理権のないC及びDが毎日無尽の債務を認めて被控
訴人に対し、額面四十万円の約束手形を交付したとしても、民法第百十条の表見代
理の規定の適用はない。
 以上いずれの点からしても本件四十万円の貸借については毎日無尽のため効力を
生ぜす同会社には全然責任はないのである。(四)(イ)BがCに対し、昭和二十
五年九月三日第一興産振出の額面十万円の約束手形(甲第二号証)を交付し、被控
訴人から金十万円を借用せしめ、更に同月十四円金十万円を借用せしめたことにつ
いては、本来C及びD両名が毎日無尽の社員であつたとしても、右両名は毎日無尽
のA代表取締役の代理人ではないので無権代理人の行為であるから代理権ありと信
ずべき正当の理由あるものに該当しない。
 (ロ) 被控訴人は右約束手形によつて毎日無尽に対し金二十万円を貸与したと
なすについては過失がある。すなわち毎日無尽振出の形跡なく第一興産の表示しか
ない約束手形をよく見て確認するにおいては、毎日無尽に対する貸付ではなく第一
興産に対する貸付であることが明らかである。(五)Bが昭和二十五年十月十日毎
日無尽振出名義の額面四万円の約束手形(甲第三号証)によつて、第一興産の社員
Eをして被控訴人から金四万円を借用せしめたことについては、毎日無尽は何等関
係なくEの無権代理行為であるから、民法第百十条の表見代理の規定の適用はな
い。(六)Bが昭和二十五年十月二十八日毎日無尽振出名義の額面六万円の約束手
形(甲第四号証)をもつて、Cをして被控訴人から金六万円を借用せしめたことに
ついては、A社長は知らないのであり、単にCが毎日無尽の社員であると一の一事
により表見代理行為として毎日無尽が責任を負うべきものではない。(七)毎日無
尽の目的は「無尽業法による無尽業」であつて、第一興産の整理資金を他から調達
して第一興産に回付するが如きは、その目的の範囲外に属する。従つて毎日無尽の
代表取締役Aにも他の取締役Bにもかかる行為に関しては代表権はないのであるか
ら、本件貸借につき毎日無尽には責任はない。(八)第一興産の代表取締役Bは、
その整理資金の調達に腐心の末、毎日無尽の取締役であるのを奇貨としその代表取
締役Aの資格並に名義を冒用し、みずからまたその専務取締役なるが如く詐称し、
被控訴人をして真実毎日無尽が借用するものの如く装い欺岡し、借用名義の下に本
件金員を被控訴人から騙取したものであつて、本件貸借は代表権のないBの不法行
為に属するので、毎日無尽にはその責任はないと述べ、乙第十八、第十九号証の各
一、二、第二十、第二十一号証を提出し、当審証人D(第一回)、E、A(第一、
二回)、B、F、G、Hの各証言を援用し、被控訴代理人において控訴代理人の前
記主張事実中被控訴人の主張に反する部分を否認し、当審証人D(第一、二回)、
Hの各証言及び当審における被控訴本人訊問の結果(第一、二回)を援用し、乙第
十八、第十九号証の各一、二、第二十、第二十一号証の各成立を認めた外、原判決
当該摘示と同一であるから、これが記載を引用する。
         理    由
 控訴会社が毎日殖産無尽株式会社と有明殖産無尽株式会社との合併により設立さ
れたものであることは当事者間に争がない。
 よつて被控訴人と毎日殖産無尽株式会社との間に、被控訴人主張の如き消費貸借
契約が締結されたか否かについて考察することとする。
 毎日殖産無尽株式会社取締役社長A名下の印影の部分の成立につき争なく、当審
証人Bの証言により専務取締役B名下の印影の成立を認め得る甲第一号証、成立に
争のない乙第三号証の供述記載と当審証人Dの証言(第一回)とを綜合してCの記
名捺印の部分及びDの記名栂印の部分の各成立を認め得る甲第二号証、毎日殖産無
尽株式会社取締役社長A名下の印影の部分の成立にき争なく、当審証人Eの証言に
よりEの署名拇印の部分の成立を認め得る甲第三号証、原審証人Dの証言(第二
回)によりC名下の印影の部分の成立を認め得る甲第四号証の各約束手形が被控訴
人の手裡に存する事実に、各成立に争のない乙第二乃至第九号証、第十一乃至第十
四号証、第十六号証の各供述記載(但し第三号証、第八号証第十三号証は各一部)
第二十、第二十一号証の各登記簿謄本、原審(第二回)並に当審(第一回)証人
D、当審証人E、A(第一、二回)B、F、G、Hの各証言(但しDの原審(第二
回)、B、A(第一、二回)の各証言は一部)及び原審における毎日殖産無尽株式
会社代表者A本人訊問の結果並に当審における被控訴本人訊問の結果(第一、二
回、但し第一回は一部)を綜合すれば、訴外A、B、I等は、本店を熊本市a町b
番地のcに置き納税積立、匿名出資会員を募り同出資金を管理しこれを会員間に融
通すること等を目的とする資本の総額金三十万円の第一興産株式会社を設立し、右
訴外人等三名がその代表取締役に就任し、昭和二十四年一月三十一日これが設立登
記を経て、熊本市及びその周辺における加入者を募り主として日掛無尽の業務を営
んでいたが、同年九月末監督官庁たる大蔵省から業務停止の命を受け、新規契約の
募集による業務の継続ができなくなつたので、これに代わるものとして改めて無尽
業法による無尽業を目的とする新会社の設立をもくろみ、同年十二月本店を旧会社
と同所におき、資本の総額二千万円をもつて前記業務を目的とする毎日殖産無尽株
式会社を設立するに至り、訴外Aはその代表取締役に、訴外Bはその専務取締役に
それぞれ就任し、相ともに旧会社の整理並に新会社の運営につとめて来たところ、
昭和二十五年三月大蔵省の通達により、代表取締役及び専務取締役の両社兼任を禁
ぜられたため、Aは第一興産株式会社の代表取締役を辞任して(昭和二十五年十二
月八日辞任登記)毎日殖産無尽株式会社のみの代表取締役となり、またBは毎日殖
産無尽株式会社の専務取締役の職を退き単なる取締役となり、もつぱら旧会社たる
第一興産株式会社の代表取締役としてその整理事務に従事することとなつた。とこ
ろが当時旧会社の経理状況は、貸付金の回収意の如く進まず反面未取口債権者の督
促急にして、これが支払資金に窮する有様で、Bはこれか対策として、やむなく他
から融資を受けて急場をしのいでいたが、なお不足を生じ、かねて毎日殖産無尽株
式会社宮原営業所(旧第一興産株式会社宮原営業所)長てある訴外Dに金策方を命
じていたところ、同訴外人から同年六月頃金策の見込ある旨の通知に接したので、
毎日殖産無尽株式会社の検査係員である訴外Cに旨を含めて、同会社取締役社長A
振出名義の約束手形を持参せしめ前記宮原営業所に赴かしめ、Dを介してその知人
である被控訴人から金十万円を借り入れしめ、右約束手形を被控訴人に交付せしめ
たのを初めとし、その後同様にして同年八月初頃までの間に三回に亘り計金四十万
円を借用せしめたが、同年八月五日に至り右三口計金四十万円の債務につき弁済期
を同年九月四日とする一口の貸借に改めこれが借用証書代りとして、Cをして所要
事項を記載せしめ毎日殖産無尽株式会社取締役社長Aと表示した名下に自己の保管
する同社長印を勝手に押捺し、なお専務取締役の肩書を附した自己の名下に自己の
印鑑を押捺した金額四十万円の約束手形一通(甲第一号証)をDに連署せしめた上
被控訴人に差し入れしめ、次にC及びDに命じて同年九月三日及び同月十四日の二
回にいずれも弁済期を同年十月四日と定めて各金十万円計金二十万円を被控訴人か
ら借り入れしめ、これが借用証書代りとして、同年九月三日附第一興産株式会社取
締役社長Aと表示した名下に自己の保管する同社長印を勝手に押捺した金額十万円
(後に同月十四日金十万円を借り入れしめた際金額の部分を二十万円に訂正)の約
束手形一通(甲第二号証)をC及びD両名に連署せしめて被控訴人に差し入れし
め、次にCを介して第一興産株式会社の整理係兼毎日殖産無尽株式会社の外務員で
あるEに命じ、同年十月十日弁済期を同月十四日と定めて金四万円を被控訴人から
借り入れしめ、これが借用証書代りとしてEに毎日殖産無尽株式会社取締役社長A
と表示した名下に自己の保管する同社長印を勝手に押捺した金額十五万円(貸借成
立の際金額を四万円に訂正)の約束手形一通(甲第三号証)をEに連署せしめて、
被控訴人に差し入れしめ更にCに命じ同月二十八日被控訴人に対し、先に同年九月
三日借り入れた金十万円を支払わしめ(この時前記甲第二号証の約束手形の金額を
更に十万円に訂正)同日改めて被控訴人から金六万円を弁済期を同月三十一日と定
めて借り入れしめこれが借用証書代りとして毎日殖産無尽株式会社C晴朗振出名義
の金額十万円(貸借成立の際金額を六万円に訂正)の約束手形一通(甲第四号証)
を差し入れしめたものであつて、右借用金はすべて第一興産株式会社の整理資金に
あてられ、現在被控訴人に対し計金六十万円の残債務が存することを認めるに足
り、右認定に反する前掲乙第三号証、第八号証、第十三号証の各供述記載及び原審
証人D(第一、二回)、当審証人B、A(第一、二回)の各証言は前記各証拠と対
照して措信し難く、他にこれを動かすべき証拠は存しない。
 そこで右消費貸借契約が毎日殖産無尽株式会社に対しその効力を生ずるか否かに
ついて考えるに、前記認定の事実によれば、訴外Bは前記金員貸借当時同会社の単
なる取締役であつて同会社を代表する権限を有しなかつたのであるから、たとえ同
人から本件金員の調達方を命ぜられた前記C、D及びE等において右金員は同会社
の運営資金にあてられるものと考え、被控訴人にその旨を伝え、被控訴人も亦これ
を信じて該金員を貸与したものであるとしても、本件金員の貸借は本来同会社の単
なる取締役に過ぎないBが会社名義を冐用してなした無権代理行為乃至会社を代表
する権限のないD、C、E等の無権代理行為として、これにつき同会社の取締役会
の追認等特段の事由のない限り、同会社にその効力を生ずるものではないといわな
ければならない。
 しかしながらBが前記金四十万円の貸借について借用証書代りとして被控訴人に
差し入れた約束手形(甲第一号証)には、前記認定の如く特に自己の肩書に毎日殖
産無尽株式会社専務取締役なる名称を用いているので、右金四十万円の貸借につい
て商法第二百六十二条の表見代表取締役の行為に関する規定の適用の有無につき審
究するに、前示各証拠を綜合すれば、Bは右貸借のなされた数ケ月前である昭和二
十五年三月頃までは同会社の専務取締役の職にあつたのみならず、その職を辞した
後も事実上同会社の業務執行にたずさわつており、当時同会社は旧会社である第一
興産株式会社と事務所を共同で使用し(後に同会社は事務所を他に移転した)、会
社の幹部及び使用人の大部分は両会社に事務を兼ね行い、その事務系統も判然区別
せられていない状態であつて、殊にBが前記専務取締役の職を辞したことは社内の
者すら殆んどこれを知らず依然同人を「専務」と呼称していた程であつたから、か
かる会社内部の事情に通じない被控訴人としては、到底Bが前記専務取締役を辞し
単なる取締役であることを知る由もなく、(これを知ちなかつたことにつき被控訴
人に過失ありと認めるべき証拠は存しない)ただC及びD等の言を信じ毎日殖産無
尽株式会社に対し、その運営資金として融資する意思で右金四十万円を貸与したも
のであることを窺うに十分である。
 <要旨>ところで商法第二百六十二条の表見代表取締役の行為に関する規定は、株
式会社が或る取締役に専務取締役等会社を代表する権限を有するものと認む
べき名称を附することを許した場合においてのみ、その取締役のなした行為につき
会社が善意の第三者に対しその責に任ずる趣旨であつて、会社を代表する権限のな
い取締役が勝手に専務取締役なる名称を使用した場合には、その適用はないという
べきであるが、本件の如く、以前専務取締役であつた者が単なる取締役になつた
後、なお専務取締役の職にあるものと認められる状況の下において、専務取締役の
名称を用いてなした行為については、その相手方が善意である限り、民法第百十条
の表見代理の規定の類推適用により、(取締役は会社の機関であつてその代理人で
はないけれども機関の代表行為についても代理に関する民法の規定を類推適用すべ
きものと解する)会社はなお商法第二百六十二条の規定に基き、その取締役のなし
た行為につき責を負うべきものと解するのを相当とする。
 してみれば毎日殖産無尽株式会社はその取締役であるBが専務取締役の名称を使
用して振り出した約束手形を借用証書代りに差し入れ、被控訴人から借り入れた前
記金四十万円の貸借については、その責を免れ得ないといわざるを得ないので、同
会社の権利義務を承継した控訴会社は被控訴人に対し右金四十万円の支払義務があ
るものと断ずべきである。
 控訴人は、毎日殖産無尽株式会社の目的は「無尽業法による無尽業」を営むにあ
つて、第一興産株式会社のために整理資金を他から借り入れるが如き行為は、その
目的の範囲外に属するので、取締役Bの存した右消費貸借契約は毎日殖産無尽株式
会社に対しては、その効力を生じない旨抗弁するけれども、Bのなした前記金四十
万円の消費貸借は、その行為の外形上客観的にみて、毎日殖産無尽株式会社の目的
たる前記業務を遂行するに必要な行為と認められないことはないので、右消費貸借
は同会社の目的の範囲内の行為であるというべきであつて、たとえBが内心におい
て前示金四十万円を第一興産株式会社の整理資金にあてる意思をもつて借り入れた
としても、それは単なる金員借入の動機縁由に過ぎないので、これがため右金員の
貸借が毎日殖産無尽株式会社の目的の範囲外に属する無効の行為ということはでき
ない。それで控訴人の前記抗弁は採用し難い。
 次に控訴人は、Bは毎日殖産無尽株式会社の代表取締役Aの資格並に名義を冒用
し、またみずからその専務取締役なるが如く詐称し、被控訴人をして真実同会社が
借用するものの如く誤信せしめ、被控訴人から借用名義の下に前記金四十万円を騙
取したものであつて、右金四十万円の貸借は同会社を代表する権限のない同人の不
法行為に属するので同会社にはその責任はない旨抗弁するけれども、B個人が本件
金四十万円の貸借につき犯罪行為(不法行為)として刑事上の責任を負うべきもの
としても、同人が毎日殖産無尽株式会社の表見代表取締役として同会社のためにす
ることを示して右貸借をなした以上(たとえその行為が内実同会社のためになした
ものでなかつたとしても)右金員の貸主たる善意の被控訴人に対し、同会社は民事
上の責任を免かれ得ないことには何等変りはないというべきであるから、控訴人の
前記抗弁も亦理由がない。
 ところで被控訴人は、本件貸借は前記金四十万円以外の分についても、Bの外毎
日殖産無尽株式会社の常務取締役I及び同会社宮原営業所長Dが関与し、同会社の
ためにすることを示して借り入れたものであるから、同人等に会社を代表する権限
がなかつたとしても、同会社はその責に任ずべきであると主張するので、按ずるに
本件貸借中前記金四十万円以外の分については、その貸借成立の証明文書として借
用証書代りに差し入れられた各約束手形(甲第二、三、四号証)には、そのいずれ
にも同会社専務取締役の肩書を附したBの振出人としての署名も記名捺印も存せ
ず、むしろ昭和二十五年九月三日及び同月十四日貸借の各十万円に関する分には振
出人として第一興産株式会社取締役社長A、C、Dの各記名捺印のみが存し、同年
十月十日貸借の金四万円に関する分には、振出人として毎日殖産無尽株式会社取締
役社長A、Eの各記名捺印のみが存し、また同月二十八日貸借の金六万円に関する
分には、振出人として毎日殖産無尽株式会社Cの記名捺印が存するのみであつて、
当時Dは同会社の宮原営業所長、Cは同会社の検査係員、Eは同会社の外務員兼第
一興産株式会社の整理係で、いずれも同会社の単なる使用人に過ぎなかつたことは
前認定のとおりであるから、右D、C、E等に毎日殖産無尽株式会社を代表する権
限のなかつたことは明らかであるのみならず、たとえ同人等が同会社の取締役Bま
たはその常務取締役Iの命により、被控訴人に対し同会社のためにすることを示し
て前記貸借をなしたとしても、BまたはIの代理人たることを示してこれらの貸借
をなしたことを確認するに足る証拠も存しないので、結局これらの貸借には前記金
四十万円の貸借に存するような事情は認められず、従つてBまたはIの表見代表行
為として同会社にこれが責任を負わしめることは到底できないというべきである。
 しからば右の点に関する被控訴人の主張は理由がないので控訴会社に対し前記金
四十万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭
和二十六年二月四日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支
払を求める範囲において、被控訴人の請求を認容すべく、その余はこれを棄却すべ
きである。
 よつて右と一部趣を異にする原判決を変更すべきものとし、訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法第九十六条、第九十五条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百
九十六条を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 野田三夫 裁判官 中村平四郎 裁判官 天野清治)

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