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平成21年6月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10383号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月18日
判決
原告有限会社ヤブタ
訴訟代理人弁護士辻本希世士
同笠鳥智敬
同松田さとみ
訴訟代理人弁理士辻本一義
同窪田雅也
同神吉出
同上野康成
同森田拓生
被告株式会社太平洋クラブ
訴訟代理人弁理士内藤哲寛
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−800215号事件について平成20年9月25日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,被告が特許権者である発明の名称「芝刈機,及び水滴払用ローラユ
ニット」とする特許第3884055号の請求項1∼4,6,8及び9につい
て,原告が無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたこと
から,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,①請求項1,2,8,9に係る発明が,下記引用例との関係で新規
性(特許法29条1項3号)を有するか,②請求項1∼4,6,8,9に係る
発明が,下記引用例との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,であ
る。

・コース管理の工夫ビニールシートと電気コードで露払い」ゴルフ場セ「
ミナー2月号16頁(ゴルフダイジェスト社,平成17年2月1日発行,
甲1。以下「甲1刊行物」といい,これに記載された発明を「甲1発明」
という)。
・特開2001−275435号公報(発明の名称「芝刈機の刈刃クラッチ
」,,,機構出願人石川島芝浦機械株式会社公開日平成13年10月9日
甲2。以下「甲2刊行物」といい,これに記載された発明を「甲2発明」
という)。
・特開平11−89379号公報(発明の名称「リールモア装着用の集草容
器,出願人株式会社クボタ,公開日平成11年4月6日,甲3。以下」
「甲3刊行物」といい,これに記載された発明を「甲3発明」という)。
・ゴルフ場関連商品誌上展示会2003」月刊ゴルフマネジメント11月「
号別冊4∼8,14頁(ゴルフダイジェスト社発行,甲4。以下「甲4刊
行物」といい,これに記載された発明を「甲4発明」という)。
・実願昭52−5682号のマイクロフィルム(実開昭53−100447
号公報(考案の名称「コンバインにおける露落し装置,出願人A,公開)」
日昭和53年8月14日。マイクロフィルムは甲5の2,公開公報は甲
5の1。以下「甲5の2刊行物」といい,これに記載された発明を「甲5
の2発明」という)。
・実願昭51−71092号のマイクロフィルム(実開昭52−16173
)(「」,,4号公報考案の名称農用コンバイン出願人久保田鉄工株式会社
公開日昭和52年12月8日・マイクロフィルムは甲6の2,公開公報
は甲6の1以下甲6の2刊行物といいこれに記載された発明を甲。「」,「
6の2発明」という)。
・露ローラー(平成17年5月17日発行“GolfCourseSupplies「」
Catalogue”8頁,甲7の1〔訳文は甲7の2。以下「甲7の1刊行物」〕
といい,これに記載された発明を「甲7の1発明」という)。
・ゴルフコース・イクイップメント・マニュファクチャーズ(平成17年「」
5月17日発行“GolfCourseSupplies”価格表,甲7の3〔訳文は甲7
の4。以下「甲7の3刊行物」といい,これに記載された発明を「甲7〕
の3発明」という)。
・ウェブサイト「GlobeAustraliaTools&Hardware製品紹介頁(平成14」
年5月1日保存,甲8の1〔訳文は甲8の3。以下「甲8の1刊行物」〕
といい,これに記載された発明を「甲8の1発明」という)。
・米国公開特許公報US2005/00147470A1(登録日200
5年〔平成17年〕7月7日(甲9の1・2。以下「甲9刊行物」とい)
い,これに記載された発明を「甲9発明」という)。
・特開2003−9667号公報(発明の名称「苗箱対地処理装置,出願」
人株式会社クボタ,公開日平成15年1月14日,甲10。以下「甲1
0刊行物」といい,これに記載された発明を「甲10発明」という)。
()・実願平1−3107号のマイクロフィルム実開平2−97410号公報
(考案の名称「除雪機の排雪板,出願人B,公開日平成2年8月2日,」
甲11。以下「甲11刊行物」といい,これに記載された発明を「甲11
発明」という)。
・特開平10−286028号公報(発明の名称「育苗箱並列敷設装置,」
出願人株式会社スズテック,公開日平成10年10月27日,甲12。
以下「甲12刊行物」といい,これに記載された発明を「甲12発明」と
いう)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア被告は,平成17年8月11日の優先権を主張して,平成17年12月
1日,名称を「芝刈機,及び水滴払用ローラユニット」とする発明につい
て特許出願(特願2005−348188号)をし,平成18年11月2
4日に特許第3884055号として設定登録を受けた(請求項の数9。
以下「本件特許」という。特許公報は甲22。)
イこれに対し原告が,平成19年10月2日付けで本件特許の請求項1∼
4,6,8及び9について特許無効審判請求をしたので,特許庁は,同請
求を無効2007−800215号事件として審理した上,平成20年9
月25日「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本,
は平成20年10月7日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件特許の請求項1∼468及び9以下順に請求項1発明∼請,,(「」「
求項9発明」といい,これらを総称して「本件発明」という)は,次のと。
おりである。
・請求項1】【
リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
前記芝刈ユニットのハウジングの前部に左右一対のアームが回動可能
に支持され,前記一対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能
に支持されることにより,前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前
方に配設されていると共に,当該水滴払用ローラは,非使用時には使用
位置に対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避
可能となっていることを特徴とする芝刈機。
・請求項2】【
リールカッター式の芝刈ユニットの前部に集草箱が装着された芝刈機
において,
前記集草箱の前部に左右一対のアームが回動可能に支持され,前記一
対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されることに
,,より前記水滴払用ローラが前記集草箱の前方に配設されていると共に
当該水滴払用ローラは,非使用時には使用位置に対して斜後上方である
前記集草箱の上部の退避位置に退避可能となっていることを特徴とする
芝刈機。
・請求項3】【
前記水滴払用ローラは,筒状であって,一対のアームを構成する左右
一対の各アーム部は連結部を介して一体に連結されていて,筒状の水滴
払用ローラの中空部に前記連結部が挿通遊嵌されていることを特徴とす
る請求項1又は2に記載の芝刈機。
・請求項4】【
前記水滴払用ローラは,複数本の筒状のローラで構成されて,相前後
する各ローラは,各中空部に遊嵌状態で挿通又は挿入された連結具を介
して連結されていることを特徴とする請求項3に記載の芝刈機。
・請求項6】【
前記水滴払用ローラは,前後方向に沿って所定間隔をおいて配設され
る複数本のローラで構成され,複数本の各ローラの両端部は連結板で互
いに連結されて,左右の各連結板は,前記芝刈ユニット又は集草箱に回
動可能に連結された左右一対のアームに連結されていることを特徴とす
る請求項1又は2に記載の芝刈機。
・請求項8】【
リールカッター式の芝刈ユニットに装着される水滴払用ローラユニッ
トであって,
前記芝刈ユニットのハウジングの前部に左右一対のアームが回動可能
に支持され,前記一対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能
に支持されることにより,前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前
方に配設されていると共に,当該水滴払用ローラは,非使用時には使用
位置に対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避
可能となっていることを特徴とする水滴払用ローラユニット。
・請求項9】【
リールカッター式の芝刈ユニットの前部に装着した集草箱に装着され
る水滴払用ローラユニットであって,
前記集草箱の前部に左右一対のアームが回動可能に支持され,前記一
対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されることに
,,より前記水滴払用ローラが前記集草箱の前方に配設されていると共に
当該水滴払用ローラは,非使用時には使用位置に対して斜後上方である
前記集草箱の上部の退避位置に退避可能となっていることを特徴とする
水滴払用ローラユニット。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,
①請求項1,8発明は(Ⅰ)甲1発明と同一ではない(特許法29条,
1項3号,理由A(Ⅱ)甲1発明及び甲5の2発明と周知技術に基づ),
(,),()いて容易に想到できたとはいえない特許法29条2項理由BⅢ
甲2発明及び甲6の2発明と周知技術に基づいて容易に想到できたとは
いえない(特許法29条2項,理由C,)
,,()(),()②請求項29発明はⅠ甲1発明と同一ではない理由AⅡ
甲1発明及び甲5の2発明と周知技術に基づいて容易に想到できたとは
いえない(理由B(Ⅲ)甲3発明及び甲6の2発明と周知技術に基づ),
いて容易に想到できたとはいえない(理由D,)
③請求項3発明は(Ⅰ)甲1発明及び甲5の2発明と周知技術に基づ,
いて容易に想到できたとはいえない(理由B(Ⅱ)甲2発明,甲6の),
2発明及び甲5の2発明と周知技術に基づいて容易に想到できたとはい
えない(理由C(Ⅲ)甲3発明,甲6の2及び甲5の2発明と周知技),
術に基づいて容易に想到できたとはいえない(特許法29条2項,理由
D,)
④請求項4発明は(Ⅰ)甲1発明,甲5の2発明及び甲8の1発明と,
周知技術に基づいて容易に想到できたとはいえない(理由B(Ⅱ)甲),
2発明,甲6の2発明,甲5の2発明及び甲8の1発明と周知技術に基
づいて容易に想到できたとはいえない(理由C(Ⅲ)甲3発明,甲6),
の2,甲5の2発明及び甲8の1発明と周知技術に基づいて容易に想到
できたとはいえない(理由D,)
⑤請求項6発明は(Ⅰ)甲1発明,甲5の2発明及び甲9発明と周知,
技術に基づいて容易に想到できたとはいえない(理由B(Ⅱ)甲2発),
明,甲6の2発明,甲5の2発明及び甲9発明と周知技術に基づいて容
易に想到できたとはいえない(理由C(Ⅲ)甲3発明,甲6の2発明),
及び甲9発明と周知技術に基づいて容易に想到できたとはいえない(理
由D,というものである。)
イなお,審決が認定した甲1発明の内容,請求項1発明と甲1発明との一
致点及び相違点は,次のとおりである。
〈甲1発明の内容〉
「リールカッター式の芝刈機の前部にバケットを設け,バケットの前
部の中央と左右の3個所に3本のチェーンの一端を取り付け,チェーン
の他端に露落とし用ビニールシートを取り付けた芝刈機」。
〈一致点〉
本件発明1と甲1発明とは,いずれも
A:リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
B:芝刈機の前の方に取付部材が取り付けられ,
C:取付部材の自由端部に水滴払用部材を取り付けることにより,
水滴払用部材が芝刈ユニットの前方に配設されている
I:ことを特徴とする芝刈機。
である。
〈相違点1〉
請求項1発明では「水滴払用部材」及びその「取付部材」が「水滴払
用ローラ「左右一対のアーム」であり,取付部材である「左右一対の」
アーム」が「回動可能に支持され」ることに対し,甲1発明では「水滴
払用部材」及びその「取付部材」が「露払い用ビニールシート「3本」
のチェーン」であり,取付部材である「3本のチェーン」が「回動可能
に支持され」ていない点。
〈相違点2〉
請求項1発明では水滴払用部材を「非使用時には使用位置に対して斜
後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避可能」としてい
ることに対し,甲1発明では水滴払用部材を「非使用時には使用位置に
対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避可能」
としていない点。
〈相違点3〉
取付部材を取り付ける位置である「芝刈機の前の方」が,請求項1発
明では「芝刈ユニットのハウジングの前部」であることに対し,甲1発
明では「バケットの前部」である点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り
消されるべきである(主張する請求項の順序は,審決と同様に,請求項1・
8・9・3・4・6の各発明の順序とする。
ア請求項1発明について―新規性に係る判断(理由A)の誤り
(ア)取消事由1(請求項1発明の認定の誤り)
a「アーム」の認定の誤り
審決は「請求項1発明の『アーム』は,棒状のものをいうのであ,
って,一端で棒の向きを制御することにより他端の位置も制御するこ
とができるものと認められる…(審決9頁27行∼29行)と認定」
,,「」,するが本件特許の明細書によれば本件発明におけるアームは
水滴払用ローラの配設手段として,前方への配設と,退避位置の配設
との2つの状態を維持するという「取付部材」の意味でのみ使われ,
る語であって,ある程度の長さをもった「腕」の機能を果たすもので
あれば足り「一端で棒の向きを制御することにより他端の位置も制,
」。,「」御することができるものに限定すべきではない一般的にも腕
(アーム)という語は肘関節を含んで折り曲げることができる機能を
有するものとして解釈され,フレキシブルアームや可動部を有するア
ームが広く知られているのであって,その点からも審決のように「ア
ーム」の意義をとりたてて限定すべき理由はない。
b「回動可能に支持され」の認定の誤り
,「」(a)審決は請求項1発明におけるアームが回動可能に支持され
という構成について「…『回動可能』は『非使用時には使用位置,
に対して・・退避位置に退避可能となっている』ための回動だけで
なく,非使用時と並び記載される使用時の『前記水滴払用ローラが
前記芝刈ユニットの前方に配設されている』際における回動とも理
。,『』解すべきであるすなわち請求項1発明の回動可能に支持され
は,使用時『前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前方に配,
設されている』際においても,固定されずに回動可能と理解すべき
ものである」と認定し(審決11頁11行∼17行,その際,請。)
求項1発明の「回動可能に支持」の用語の意義に「…水滴払用ロ,
ーラR1は,芝生Gの高さ,或いは芝生面の僅かの起伏に応じて芝
刈ユニットA1のハウジング12に対して昇降する構成となってい
る…(同頁19行∼21行)ことが根拠なく付加されている。こ」
の付加は以下のとおり不当であり,請求項1発明の構成に加えられ
るべきではない。
(b)請求項1発明は「…アームが回動可能に支持され,…支持され,
ることにより,前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前方に配
設されていると共に,当該水滴払用ローラは,非使用時には…退避
位置に退避可能となっている…」ものである。
ここで「回動可能に支持」の用語は「アームが支持される」こ,
との限定的付加要素として,支持が回動を行うことができる状態に
あるという意味である。これは単なる「支持」により水滴払用ロー
ラが前方に配設された状態になることを前提として記載された内容
,「」「」,であり単なる支持ではなく回動可能に支持されることで
前方への配設状態を成すと「共に,退避位置に退避「可能」とす」
ることができることを意味する。そして「非使用時には」との用,
語は,前方への配設状態が「使用時」の状態であること及び「回動
可能に支持」することで可能となった「退避位置に退避可能」な状
態が「非使用時」の状態であることを説明したにすぎない。請求項
1発明の「前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前方に配設さ
れている」ことに対応する構成は「支持される」ことのみであっ,
て,水滴払用ローラが前方にて回動可能かどうかは,請求項で特定
される水滴払機能に直接関連するものではない。つまり,回動可能
,,に支持されるもの回動不能に支持されるもののいずれであっても
「」前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前方に配設されている
構造となることは技術的に自明である。請求項1の「回動可能に」
に対応する文言は「退避可能」となっており「使用位置から非使,
用位置まで退避可能であるような回動支持」として解釈されるべき
であって,アームが固定されずに「水滴払用部材」が地面の起伏に
追従できるものであるという新たな概念を追加することは不当であ
る。
(c)このことは,本件特許明細書(甲22)の記載を参酌すれば明
らかである。すなわち,明細書の説明(段落【0005【000】,
7【0022)によれば,本件発明が解決し得る課題は「芝生】,】,
の刈取率「刈取状態が美麗」及び「乾燥時に芝刈作業を行なう場」,
合,或いはゴルフ場等に対して芝刈機を搬入出させる場合には,水
滴払用ローラは不要又は障害となる」という問題に関するものであ
り,請求項1発明の構成によって果たされる作用効果は,芝生を損
傷させることなく,刈取直前の芝生に付着している水滴を払い取る
ことにより,芝生の刈取率が高くなって,芝生の刈取状態が美麗に
なるというもの,及び乾燥時に芝刈作業を行なう場合やゴルフ場等
に芝刈機を搬入出させる場合に不要又は障害となる水滴払用ローラ
を上部の退避位置に退避させておくことができるというものであ
る。この一連の課題,効果に対応した技術的説明において「芝生,
Gの高さ,或いは芝生面の僅かの起伏に応じて芝刈ユニットAの1
ハウジング12に対して昇降する」ことに関する記載は一切出てこ
ないから,請求項1発明の技術的要素を解釈するに当たり,使用時
の状態,地面への追従に関する課題やその対応策を考慮する余地は
全くない。
また「回動可能に支持」することの意義として特許請求の範囲,
の記載から読み取れるのは,上記「退避可能」となっていることだ
けであり,使用時の「前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前
方に配設されている」状態において「水滴払用ローラRは,芝生,1
Gの高さ,或いは芝生面の僅かの起伏に応じて芝刈ユニットAの1
ハウジング12に対して昇降する構成となっている」ことなどは,
特許請求の範囲の記載や明細書における課題,効果に関する記載か
ら一切特定されることはない。特許法70条1項2項は,特許発明
の技術的範囲は飽くまでも特許請求の範囲の記載により画されるべ
きものであって,発明の詳細な説明の欄には記載されているが特許
請求の範囲の欄には記載されていないような発明の内容は特許発明
の技術的範囲に包含されず,ただ特許請求の範囲の技術的意義が一
義的に明確に理解することができない等といった特段の事情がある
場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが
許されるにすぎない,ということを規定したものであり,本件にお
いては,請求項1に記載された用語の意義を一義的に明確に理解す
ることができないなどといった特段の事情は認められないのである
から,上記事項を請求項1発明の作用効果,特徴として捉えること
は許されないというべきである。
したがって,請求項1発明の構成要件の判断においては「回動,
可能に支持され…退避可能となっている」かどうかが問題になるの
であり,その意義は「使用時の前方保持状態から非使用時の斜め後
上方への退避状態に変位可能かどうか」にあり,本件発明の課題に
も効果にも含まれない「起伏に応じた使用時の昇降」を問題とする
のは大きな誤りである。
(d)この点審決は,使用時においても水滴払用ローラが固定されず
に回動可能と解すべきことの根拠として,実施例の記載(段落【0
025)を挙げるが,当該記載は,本件発明の必須の構成要素な】
いし特有の作用効果に関するものではなく「回動可能に支持され,
た」構成の例として,昇降機能を有した実施態様が挙げられること
を舌足らずに表現したものにすぎない。
(イ)取消事由2(甲1発明の認定の誤り)
,「」「」,審決は請求項1発明ではアームは左右一対であるのに対し
「」「」,甲1発明ではチェーンが3本取り付けられて一組とされており
「左右一対」とする思想が認められない旨認定する(10頁下8行∼下
2行。)
しかし,請求項1発明における左右一対の支持アームは,これを有す
ることで露払い器を左右から支持するという技術的意義を有するにすぎ
ず,左右一対以外にアームを備えていないことについて「左右一対」と
する思想が存在するのではない。そして,甲1発明は,左右一対のチェ
ーンに中央部のチェーンを追加したものではあるが,左右一対のチェー
ンで保持することに何ら変わりはないし,中央部のチェーンを除いたと
ころで露払いシートを支持できなくなるわけではなく,左右のチェーン
による機能は変わらない。
したがって,甲1発明の3本のチェーンのうち左右の2本のチェーン
は請求項1発明における「左右一対のアーム」に相当し,甲1発明は上
記技術的意義を備えるものであるから,審決の上記認定は誤りである。
(ウ)取消事由3(請求項1発明と甲1発明の相違点の認定の誤り)
a「アーム」における相違点の認定の誤り
審決は「…『棒』と『鎖』の違いにより,取り付けられる『水滴,
払用部材』の位置の制御に違いが生じるから『水滴払用部材』を取,
り付ける『取付部材』として,請求項1発明の『アーム』と甲第1号
証発明の『チェーン』とは相違するものである(審決9頁下5行∼。」
下1行)とする。
しかし,請求項1発明における「アーム」とは,2部材を繋ぐある
程度の長さをもった「腕」の機能を果たすものであって,水滴払用ロ
ーラの配設手段として,前方への配設と,退避位置の配設との2つの
状態を維持する,という意義を有するものである。これに対し甲1発
「」,「」明のチェーンは周知慣用技術であって請求項1発明のアーム
を「チェーン」に転用したところで,技術的意義において新たな効果
を奏するものではない。
したがって,請求項1発明の「アーム」と甲1発明の「チェーン」
は実質的に同一であり,実質的な相違点とはならない。
b「左右一対の」における相違点の認定の誤り
審決は「…請求項1発明は『左右一対』であることに対し,甲第,
1号証発明は『3本』である点で相違する(10頁下1行∼11頁。」
1行)とする。
しかし,取消事由2において述べたとおり,甲1発明における3本
のチェーンのうち中央部を除く左右の2本のチェーンと請求項1発明
の左右のアームとは技術的意義において共通するものであり,甲1発
明における左右のチェーンは請求項1発明の「左右一対のアーム」に
相当するから,請求項1発明との相違点とはならない。
c「回動可能に支持され」における相違点の認定の誤り
審決は「…請求項1発明が(アームが『回動可能に支持され』る,)
,()『』ことに対し甲第1号証発明はチェーンが回動可能に支持され
ていない点で相違する(11頁下1行∼12頁2行)とする。。」
しかし,甲1発明においては,審決が認定するとおり「…チェー,
ンは鎖であり,その変形により回動することもできる…(11頁下」
9行∼下8行)ものであり,チェーン端部のバゲットへの遊嵌連結構
造によって「回動可能に」取り付けられているものであるから,これ
が「チェーンを回動可能とするため特定の支持構成」を採っているこ
とは明らかである。また甲1発明のチェーンは,バゲットの前部に対
して水滴払用部材である露落とし用ビニールシートを支持するもので
,「」,あるからこの構成は回動可能に支持している構成にほかならず
請求項1発明と相違するものではない。水滴払用部材を前方に支持し
ている限り,チェーンの変形を伴うかどうかは,請求項1発明の意義
と直接関係するものではない。
また,甲1刊行物には「水滴払用部材」である「露落とし用ビニー
ルシート」を非使用時にいかにするかは記載されていないものの,非
使用時にもビニールシートを引きずることが邪魔であることは明らか
であり,チェーンの一端を回動させてバケットの上方に乗せることが
できることは甲1刊行物の写真からも明らかであるから,この点は記
載されているのと実質的に同一である。
したがって,甲1発明は「水滴払用部材」を「非使用時には使用,
位置に対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退
避可能」であることが技術上明らかであり,この点は新規な構成を付
加することなく達成することができるから,甲1発明は「回動可能に
支持され」る点で請求項1発明と共通するものである。
d正しく認定されるべき一致点・相違点
以上のとおりであるから,審決における請求項1発明と甲1発明と
の一致点,相違点の認定は誤りであり,正しくは次のように認定され
るべきである。
〈一致点〉
A:リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
B:芝刈機の前部に左右一対の取付部材が回動可能に支持され,
C:取付部材の自由端部に水滴払用部材を取り付けることによ
り,水滴払用部材が芝刈ユニットの前方に配設されており,
D:水滴払用部材が「非使用時には使用位置に対して斜後上方で
ある前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避可能となって
いる
I:ことを特徴とする芝刈機。
〈相違点1〉
「」「」,請求項1発明では水滴払用部材が水滴払用ローラであり
「取付部材」が「アーム」であり,中央部に取付部材がないことに
,「」「」対し甲1発明では水滴払用部材が露払い用ビニールシート
であり「取付部材」が「チェーン」であり,中央部にも1本の取,
付部材のチェーンが付加されている点。
〈相違点2〉
取付部材を取り付ける位置である「芝刈機の前の方」が,請求項
「」,1発明では芝刈ユニットのハウジングの前部であることに対し
甲1発明では「バケットの前部」である点。
(エ)取消事由4(審決における新規性判断の誤り)
甲1発明との対比における正しく認定されるべき前記相違点1に関
し,甲5の2刊行物,甲6の2刊行物,甲7の1刊行物,甲8の1刊行
物に記載されているとおり「取付部材(アーム)とその「取付部材」,」
の支持構造(回動可能に支持されること)との組み合わせ自体は周知慣
用である。
また,前記相違点2に関し「バケット」は芝刈機における周知慣用,
技術であり,芝刈機の前の方に取り付ける限り水滴払用部材の取付先を
「芝刈ユニットのハウジング」に代えて「バケット」としても新たな効
果を奏するものではない。
したがって,正しく認定されるべき相違点1,2は周知慣用技術への
転用であって,新たな効果を奏するものではないから,甲1発明は請求
項1発明と実質同一と解すべきである。
イ請求項1発明について―甲1刊行物を主引用例とする進歩性判断(理由
B)の誤り
(ア)取消事由5(副引用例に係る発明の認定の誤り)
審決は,甲5の2,甲2,甲4,甲6の2,甲7の1,甲8の1,甲
10∼12,甲15∼21の各刊行物を検討した上で,相違点1の容易
想到性について判断しているが,以下のとおり,審決のこれら刊行物の
認定には誤りが存在する。
a甲5の2刊行物
審決は「…甲第5号証の2の『腕杆(3(3'』の取付構成が,,))
使用時に回動可能である請求項1発明の『回転可能に支持される』構
成であるということはできず,甲第5号証の2には,取付部材である
『左右一対のアーム』が『回動可能に支持され』る構成を有する相違
点1に係る請求項1発明の構成の記載がない(15頁下9行∼下5。」
行)と認定する。
しかし,前記ア(ア)のとおり,請求項1発明は使用時にアームが回
動可能かどうか特定していない。そして,甲5の2刊行物には「左,
右一対のアーム」に対応する「腕杆(3(3'」について「上下に))
回動できる」旨が開示されているから,前記ア(ウ)の正しく認定すべ
き相違点1に係る構成をそのまま有している。また,甲5の2発明に
おける腕杆は,横杆(2)の高低調節をするためのものであるが,甲
1発明には回動可能に支持されたビニールシートを斜上後方へ退避可
能である構成が記載されている。
b甲2刊行物
審決は,甲2発明について「…この前ローラ5は刈り高さを調節,
するものであるから,甲第1号証発明の露落としのためのビニールシ
ート及びチェーンに代わるものとはできない(16頁18行∼19。」
行)と認定する。
しかし,甲2発明における前ローラ5は芝刈機の最も前方に配設さ
れており,走行に伴って従動回転することにより芝が押さえ付けられ
るものであるから,露の付いた芝の上を転動することで,現実に水滴
払機能を発揮することが技術上明らかである。
なお審決は,甲2発明について「…ローラ支持部材4が前ローラ,
5の使用時に回動可能に支持されるということはできない(16頁。」
21行∼22行)と認定するが,甲1発明は回動可能に支持されたビ
ニールシートを斜上後方へ退避可能である以上,甲2発明においてロ
ーラ支持部材4が車体1の前部に回動することなく固定されている点
は阻害事由とはならないというべきである。
c甲4刊行物
審決は「甲第4号証には,甲第2号証の図1と同様の写真が記載,
されており,甲第2号証と同様の刈り高さを調節するローラ支持部材
に支持される前ローラのようであるが,各別の説明はなく,甲第2号
証と同様のものとしても,甲第2号証と同様に判断されるから,甲第
4号証には,相違点1に係る請求項1発明の構成の記載がなく,示唆
もない(16頁下5行∼下1行)とする。。」
しかし,上記bのとおり,甲2刊行物に開示される各種グリーンモ
アの前ローラは,露の付いた芝の上を転動することで,現実に水滴払
機能を発揮することが技術上明らかであり,これが水滴払機能を発揮
することを示唆するものである。
d甲6の2刊行物
審決は,甲6の2刊行物には,甲5の2刊行物と同様,相違点1に
係る請求項1発明の構成の記載がなく,使用時に取付部材を「回動可
能に支持」することを示唆しない旨認定する(17頁下11行∼下6
行。)
しかし,前記aのとおり,請求項1発明は使用時にアームが回動可
能かどうか特定していない。そして甲6の2刊行物には「左右一対,
のアーム」に対応する「支持杆(13」を「回動固定自在に枢支」),
している旨が開示されているから,前記ア(ウ)の正しく認定すべき相
違点1に係る構成をそのまま有しており,審決の上記認定は誤りであ
る。
e甲7の1刊行物
審決は「…甲第7号証の1の『DewRoller』は,…甲第1号証発明,
のビニールシートとチェーンに代えて取り付けるとすることはできな
いと共に,…『左右一対のアーム』が『回動可能に支持され』る構成
を示唆しない(18頁下5行∼19頁1行)と認定する。。」
しかし,前記aのとおり,請求項1発明は使用時にアームが回動可
能かどうか特定していないし,甲7の1発明における「DewRoller」
は「水滴払用部材」である「水滴払用ローラ」が,取付部材である,
左右一対のアームによって回転可能に保持されたものであり2「」,「
本の棒を何かに取り付ける支持構造に関する開示」が直接的に示され
なくても,手あるいは走行車に保持されることで「地面との角度可変
可能に支持され」て使用されることで「左右一対のアーム」に「回,
動固定自在に支持」することは,当然に理解される。したがって,審
決の上記認定は甲7の1発明の内容を不当に狭く解釈するものであ
り,誤りである。
なお,仮に請求項1発明が使用時にもアームが固定されず回動可能
であるとしても,甲7の1発明における「DewRoller」は,ローラー
の枠部に対して左右一対のアームがそれぞれピン式の連結具を介して
回動可能に取り付けられていることが写真から見て取れるから,一対
のアームを押すか引きずる際に「回動可能に」支持固定し得ること,
は自明である。
f甲8の1刊行物
審決は「…甲第8号証の1のローラーは,2本の棒を何かに取り,
付けるものとはいえないから,芝刈機のバケットに取り付けられてい
る甲第1号証発明のビニールシートとチェーンに代えて取り付けると
することはできないと共に,…『左右一対のアーム』が『回動可能に
支持され』る構成を示唆しない(19頁24行∼29行)と認定す。」
る。
しかし,前記aのとおり,請求項1発明は使用時に回動可能かどう
かは特定していないし,甲8の1発明における「ローラー」は「水,
滴払用部材」である「水滴払用ローラ」が,取付部材である「左右一
対のアーム」によって回転可能に保持されたものであるから,上記e
と同様「左右一対のアーム」に「回動固定自在に支持」することは,
当然に理解されるのであって,審決の上記認定は甲8の1発明の内容
を不当に狭く解釈するものであり,誤りである。
なお,仮に請求項1発明が使用時にもアームが固定されず回動可能
であるとしても,甲8の1発明における「ローラー」は,転動ローラ
ーの枠部に対して左右一対のアームがそれぞれピン式の連結具を介し
て回動可能に取り付けられていることが写真から見て取れるから,一
対のアームを押して使用する際に,芝面に対するアームの角度を変え
ることができるように先側の部分を「回動可能に」支持固定し得るこ
とは自明である。
g甲10刊行物
審決は「…回動可能に支持される『支持腕123』が取り付けて,
『』,いるロール軸147は日除けシートを繰り出すためのものであり
甲第1号証の水滴払の手段に代えることができるとはいえない。…」
(20頁下9行∼下7行)と認定する。
しかし甲10発明は,請求項1発明と同様,植物手入れ用作業車へ
付属される作業装置であり,請求項1発明の水滴払手段に代えるため
の起因ないし契機が存在する。そして,甲10発明における「支持腕
123」は回動可能に支持されるものであるから,同構成を甲1発明
における水滴払用のアームとして適用することで,請求項1発明の構
造を得ることができる。さらに,甲10刊行物のほか,甲11,甲1
2の各刊行物にも回動可能に支持されたアームが開示されており,ア
ームの支持構造として回動可能の構成を採用することは周知であっ
て,また甲6の2発明のように同構成を露払装置のアームの支持構造
として採用することも公知である。これら周知,公知技術を踏まえる
と,審決の上記認定の誤りは明らかである。
h甲11刊行物
,「『()』『()』審決は…アーム○2の取り付けている排雪板○3
は排雪のためのものであり,甲第1号証の水滴払の手段に代えること
ができるとはいえない。また『アーム(○2』は,使用時(排雪板,)
を機能させる時『固定』されている(21頁下9行∼下6行)と),。」
認定する。
しかし,甲11発明における「排雪板」は回動可能に支持されるも
のであるから,これを甲6の2発明における露払いローラーに適用す
るときに同様の回動可能の構成を採用することは当業者にとって容易
である。
i甲12刊行物
審決は「…回動可能に支持される『アーム84』の取り付けてい,
る『ネットローラー81』はネットを敷設するためのものであり,甲
第1号証の水滴払の手段に代えることができるとはいえない…2。」(
2頁22行∼24行)と認定する。
しかし,甲12発明は請求項1発明と同様,植物手入れ用作業車へ
付属される作業装置であり,甲1発明における水滴払手段に代えるた
めの起因ないし契機が存在する。そして甲12発明における「アーム
84」の「走行枠体」への支持は「回動自在」であり,請求項1発明
と同様に「回動可能に支持される」ということができるから,甲10
発明そのままの回動可能支持の構成を甲1発明における水滴払用のア
,。ームとして適用することで請求項1発明の構造を得ることができる
したがって,審決の上記認定は誤りである。
j甲15∼甲21の各刊行物
審決は「甲第15号証,甲第16号証には,集球機のレーキを取,
り付けるアームが記載されているが,甲第10号証から甲第12号証
について述べたと同様に,甲第1号証の水滴払の手段に代えることが
できるとはいえず,また,アーム及びその支持構造のみを採用できた
とすることもできない(22頁下1行∼23頁3行「甲第17号。」),
証から甲第21号証には,芝生面の起伏に応じて器具を昇降させるア
ームの支持手段が記載されているが,…甲第1号証の水滴払の手段に
代えることができるとはいえず,また,その支持構造のみを採用でき
たとすることもできない(23頁7行∼12行「…甲第1号証発。」),
明は芝刈機であって,切り芝を取り扱うものではないから,切り芝を
掻き込む掻き込み手段である甲第20号証記載の構成を採用すること
はできない(23頁16行∼18行)と認定する。。」
しかし,甲15,16の「レーキ,甲17∼21の「ユニット」」
はいずれも走行車の前方にアームによって回動可能に支持されるもの
であるから,甲1発明の芝刈機に甲6の2発明における露払ローラー
を適用するに当たり,同様の回動可能の構成を採用することは当業者
にとって容易である。
したがって甲15∼21には相違点1に係る請求項1発明の水,,「
滴払用部材」の「取付部材」である「左右一対のアーム」が「回動可
能に支持され」る構成の記載,示唆が存在する。
(イ)取消事由6(相違点3に関する判断の誤り)
審決は,相違点3に関し「…甲第1号証発明でバケットを不採用と,
して芝刈ユニットのハウジングにチェーンを取り付けた場合,ビニール
シートは芝刈ユニットの下方に敷き込まれてリールカッターに巻き込ま
れることとなり,露払いの機能のみならず芝刈り機能をも果たすことが
できず,甲第1号証発明の本来の機能を果たすことができなくなる。し
たがって,甲第1号証発明において,バケットを不採用とする構成は採
用することができない(25頁下9行∼下4行)とする。。」
しかし,正しく認定されるべき相違点3は,前記ア(ウ)(相違点2が
これに対応)のとおり,取付部材を取り付ける位置である「芝刈機の前
の方が芝刈ユニットのハウジングの前部であるかあるいはバ」,「」,「
ケットの前部」であるかの点にあるのであって,取付部材の態様を,別
相違点である甲1発明のチェーンに限定し,しかも水滴払用部材を「露
払い用ビニールシート」に限定した上で「取付部材の取付位置の相違」
を検討することは,取付位置に関する相違点の検討になっていない。相
違点3に係る容易想到性の判断を,甲1発明のビニールシートやチェー
ンの構成のまま短絡的に請求項1発明の芝刈ユニットと組み合わせるこ
と自体,相違点の判断を混同した無意味な判断といわざるを得ない。
請求項1発明における相違点3に係る構成の技術的意義は,取付部材
の取付位置が,リールカッターよりも前方にあり,走行時に水滴払用部
材が先に芝に接すればよいという意義しか有さない。これを裏付けるも
のとして,本件特許の明細書(甲22)には,請求項1発明の作用効果
として「…芝刈機の走行中において刈取直前に水滴が払い落とされた,
芝生がリールカッターにより刈り取られるので,芝生の刈取率が高まっ
て,芝生の刈取状態が美麗となる。…(段落【0022)とか「請」】,
求項1及び2の各発明は,自由端部に水滴払用ローラを回転可能に指示
した一対のアームを指示する部材が異なるのみであって,水滴払用ロー
ラの作用効果自体は同一である。…(段落【0007)と記載されて」】
いる。つまり,取付位置が芝刈ユニットのハウジングの前部(請求項1
発明)か,バケットの前部(請求項2発明)かは,芝刈ユニットの構成
の態様によって定められるものであり,いずれの態様においても本件発
明の作用効果に変わりはない。
そうすると,甲1発明におけるバケットの先端という取付位置を,バ
ケットを有さない芝刈ユニットの構成において,ユニットのハウジング
という取付位置に適用することは当業者にとって極めて容易であり,何
らの阻害要因もない。
したがって,相違点3は当業者が容易に想到できる要素である。
(ウ)取消事由7(甲1発明を主引用例とする進歩性判断の誤り)
a審決は「…相違点1及び相違点3に係る請求項1発明の構成は当業,
者が容易に想到できたとはいえないから,請求項1発明は甲第1号証に
記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたという
ことはできない(26頁2行∼5行)とするが,前記アのとおり,審。」
決の上記判断は誤った相違点の認定に基づく誤った判断である。
そして,正しく認定されるべき相違点1に係る構成(前記ア(ウ)の相
違点1)は,甲5の2,甲10,甲11,甲12の各刊行物に「左右一
対のアームが回動可能に支持」されることが開示され,甲2,甲4,甲
7の1,甲8の1の各刊行物に「水滴払用ローラー」が開示され,甲6
の2刊行物にはそのいずれもが開示されている。
したがって,甲1発明にこれら刊行物のいずれかあるいは複数の要素
を採用することで,相違点1に係る請求項1発明の構成とすることがで
きる。
また,正しく認定されるべき相違点3に係る構成(前記ア(ウ)の相違
点2)は,前記(ア)のとおり,当業者にとって置換の阻害要因はなく,
容易に想到できる要素である。
そうすると,甲1発明との相違点は複数の刊行物に記載又は示唆され
ており,当業者にとって,甲1発明に基づいてこれら副引用例を組み合
わせて請求項1発明の構成にすることは容易である。
bまた,仮に請求項1発明が,審決の認定するように「使用時に固定さ
れずに回動可能に支持され」たものに限定して解釈したとしても「使,
用時に固定されずに回動可能に支持」するという構成は周知であり,露
落とし機の対象植物の丈高に応じて,当業者が適宜採用する設計的事項
にすぎない。
(a)「使用時に固定されずに回動可能に支持」する構成の開示
「使用時に固定されずに回動可能に支持」する構成は,甲10,1
2,15∼21の各刊行物にそれぞれ開示され,また芝生の露払いを
目的とした甲7の1,甲8の1の各刊行物に示唆されている。
この点,審決は,甲10,甲12,甲15∼19及び甲21の各刊
行物のそれぞれについて「使用時に回動可能に支持」あるいは「芝,
生面の起伏に応じて昇降可能」であることを認めた上で,いずれも甲
1発明における水滴払手段に代えることができるとはいえず,また,
アーム及びその支持構造のみを採用できたとすることもできないとす
るが,上記刊行物の記載は「作業車に作業装置をアームで取り付ける
際,アームの支持を回動可能にすること,また使用時に固定されてい
ないフリーの状態にして,芝生面等の起伏に追従可能とすること」が
複数の公知文献に開示された周知,慣用技術であることを示すもので
あって「作業車に作業装置をアームで取り付ける際,アームの支持,
を如何にするかは,作業内容によって適宜設計されて適用される」も
,,,のであるから作業内容に応じて適宜行う設計の段階において周知
慣用技術を適用することは極めて容易である。
また,これら刊行物は,いずれも特許分類が本件特許と同じA01
クラスであり,これら技術の甲1発明への適用は,異なる分野間で行
われるものではなく,適用困難性が全くない。そして,甲1発明の取
付部材の支持において,芝刈り前の露払いという作業内容に応じて適
宜行う設計の段階において,適用困難性(阻害要因)のないこれらの
支持固定の技術をそのまま組み合わせることは,極めて容易に想起さ
れる単純な内容であり,単なる組み合わせ,寄せ集め,置換に該当す
る。
(b)芝生面への追従の示唆
芝生の手入れ装置に関する甲17∼甲21の各刊行物においては,
いずれも芝生面への追従を目的として,使用時に左右一対のアームに
よって回動可能に支持して前方に配設した構成が開示され,地面の起
伏に応じて自由に動く作用が明示されている。このことは,芝の手入
れ装置を走行車の前方に配置する際に,芝生面の起伏への対応を考慮
することが周知・慣用の技術であることを示しているから,甲1発明
において,甲6の2発明や甲5の2発明の露払いローラーを草丈の低
い芝生面に採用する際に,芝生の手入れ装置における前記周知・慣用
の技術を適用することは何の困難性もなく,容易である。
(c)露払いローラーの芝生面への追従の示唆
芝生の露払いを目的とした甲7の1発明,甲8の1発明,甲9発明
においては,いずれも芝生面を転がる露払いローラーの保持枠に,芝
生面から斜上方に伸びる左右一対のアームが取り付けられており,こ
のアームは芝生面に対する角度が可変し得ることが理解される。これ
らはいずれも,斜上方側のアームの先端付近を保持するか支持固定し
て露払いローラーを転動させて使用するものであるから,芝生用露払
いローラーの使用時においては左右一対のアームが芝生面に対する角
度を変えるもので,芝生面の起伏に応じて保持又は支持角度を自由に
調節して,芝生面の起伏に応じて追従させるものとすることを示唆し
ている。したがって,甲1発明において,甲6の2発明や甲5の2発
明における露払いローラーを草丈の低い芝生面に採用する際に「水,
滴払用部材」を甲7の1発明,甲8の1発明,甲9発明のような水滴
払いローラーとし,かつ,その際に芝生面の起伏に応じて追従させる
支持構造を適用することは容易である。
(d)手押し機から走行車への取付構造とする際の回動可能支持
甲15には,横長の集球レーキに左右一対のアームを有した手押し
,,,型の写真が掲載されこのような手押し走行車の製品が公知であり
公然実施されていることは,手押しの芝手入れ器を走行車の前方に配
設する際に,固定せず自由回動可能に支持することについて,当業者
が容易に採用すべき設計的事項であることを示している。つまり,甲
7の1発明,甲8の1発明,甲9発明のような手押し型の露払いロー
ラーを,走行車の前方に取り付けて配設する際に,甲15と同様に,
固定しないで使用する回動可能な支持構造とすることは当業者にとっ
て容易である。
(e)まとめ
以上によれば「使用時に固定されずに回動可能に支持」するとい,
う構成は,芝生の手入れ装置をはじめ農業器具,一般機械器具におい
て周知である。また走行車に付属物を前方に取り付けるときに芝の起
伏に追従させるように取り付けることは,芝生の手入れ装置において
従来から広く行われている技術である。また芝生面に起伏が存在する
ことは当業者にとって当然のことであり,稲の露払いを対象とする走
行車付属の露落とし具(甲6の2,甲5の2)を芝生の露払いに適用
するとき,あるいは手押し式の露払い具(甲7の1,甲8の1,甲9
の1や転動器具甲15を走行車に取り付けるとき使用目的露)(),(
払い)や使用態様(手入れを行う対象植物の草丈,生え方)を考慮し
て使用時の露払い具の保持の仕方を調節することは,当業者が適宜採
用する設計的事項にすぎない。
したがって,仮に請求項1発明が「使用時に固定されずに回動可能
に支持され」たものであると限定して解釈したとしても,芝の露落と
しに応じて,この「使用時に固定されずに回動可能に支持」するとい
う構成を採用することは単なる設計的事項であって,請求項1発明は
当業者にとって容易に想到することができ,進歩性を有さない。
()ウ請求項1発明について―甲2発明を主引用例とする進歩性判断理由C
の誤り
(ア)取消事由8(甲2発明の認定の誤り)
審決は,甲2発明の認定について「…甲第2号証発明の前ローラ5,
は刈り高さを調節するものであって,芝の水滴を落とすものではない。
…甲第2号証発明に芝の水滴を落とす思想はないから,芝の水滴を落と
す手段があるということはできない(27頁3行∼14行)として,。」
甲2発明を「車体1の前部には前ローラ5が設けられ,該前ローラ5は
左右一対の前ローラ指示部材4により車体1に対して昇降可能に支持さ
れて刈り高さを調節できるようにしたリール式の回転刈刃を有する芝刈
機(審決26頁下4行∼下2行)と認定する。。」
しかし,甲2発明の前ローラ5は,甲2刊行物の図1に示されるよう
,,「」に芝刈機の最も前方に配設されており走行に伴って従動回転する
ことにより芝が押さえ付けられるものであるから,前ローラ5が露の付
いた芝の上を転動することで,現実に水滴払機能を発揮することは技術
上明らかである。
,。そうすると甲2発明は正しくは下記のように認定されるべきである
A:リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
B:芝刈機のハウジングの前部に左右一対のアームが昇降可能に支
持され,
C:取付部材の端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されること
により,水滴払用ローラが芝刈ユニットの前方に配設されてい

I:ことを特徴とする芝刈機。
(イ)取消事由9(請求項1発明と甲2発明の相違点の認定の誤り)
上記(ア)の甲2発明の正しい認定を前提にすれば,請求項1発明と甲
2発明との一致点相違点は次のように認定されるべきである。
〈一致点〉
A:リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
B:芝刈機のハウジングの前部に左右一対のアームが支持され,
C:取付部材の端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されること
により,水滴払用ローラが芝刈ユニットの前方に配設されてい

I:ことを特徴とする芝刈機。
〈相違点〉
請求項1発明では左右一対のアームが回動可能に支持され非「」,「
使用時には使用位置に対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部
の退避位置に退避可能となっている」のに対し,甲2発明は,左右一
対のアームが「昇降可能に」支持され「非使用時に退避可能となっ,
ていない」点。
(ウ)取消事由10(進歩性判断の誤り)
a審決は,前記(イ)の相違点に関する副引用例である甲6の2発明に
おける露落し具,甲5の2発明における稲穂の露を落下させる装置に
ついて,使用時に固定されており,使用時に「左右一対のアーム」が
「回動可能に支持される」構成を有していない旨認定する(審決28
頁12行∼14行,30行∼32行。)
,,「」しかし前記ア(ア)のとおり請求項1発明の左右一対のアーム
が「回動可能に支持される」構成は,使用時にアームが固定されてい
ないという意味は含まないそして甲6の2発明における露落し具1。(
4)は,回動可能支持によって,非使用時に退避位置に退避可能とな
っており,また甲5の2発明における稲穂の露を落下させる装置は,
上下に回動できるようにしてある。これらは,上記相違点に係る構成
をそのまま有するか,示唆するものである。
bまた審決は,前記(イ)の相違点に関する周知・慣用技術である甲1
0∼甲12発明について「…水滴を落とす手段ではなく,…退避さ,
せる対象が芝刈機に採用するものとはいえないから,甲第1号証発明
の芝刈機に採用できないばかりではなく,甲第1号証発明に甲第6号
証の2の露落し具(14)を採用する際に考慮することもできない。
…(29頁5行∼13行)と認定する。」
しかし,これらはいずれも車両の前方に付属された手入れ装置であ
り,中でも甲10,甲12発明は特許分類が請求項1発明と同じA0
1クラス(農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業)である。これら退
避技術の甲1発明への適用は,異なる分野間で行うものではなく,適
用困難性が全くない。また甲12発明におけるアーム84は回動自在
に軸着されており,非使用時に退避位置に退避可能であることは明ら
かである。
そうすると,甲6の2発明における露落し具,甲5の2発明におけ
る稲穂の露を落下させる装置を動機付けとして,甲2発明の露払機能
を有するローラーを非使用時に退避位置へ退避可能にすることは,当
業者にとって容易であるから,請求項1発明は進歩性を有さない。
()エ請求項1発明について―甲3発明を主引用例とする進歩性判断理由D
の誤り
・取消事由11(進歩性判断の誤り)
審決は「甲第2号証と同じく,…甲第3号証に記載された発明に芝,
の水滴を落とす思想はないから,芝の水滴を落とす手段があるというこ
とはできない(30頁8行∼11行)と認定する。。」
しかし前記取消事由9において述べたところと同様に,甲3発明のス
テー37も集草容器6の最前方に配設されており,ゲージ輪24が露の
付いた芝の上を転動することで,現実に水滴払機能を発揮することは技
術上明らかである。そうすると,前記取消事由10において述べたとこ
ろと同様に,甲6の2発明における露落し具,甲5の2発明,甲10∼
甲12発明を動機付けとして,甲3発明のステー37を対比位置に退避
可能とすることは当業者にとって容易であるから,請求項1発明は進歩
性を有さない。
オ請求項8発明について
(〔〕)(ア)取消事由12請求項8発明の新規性に係る判断理由Aの誤り
審決は,請求項8発明と甲1発明との一致点・相違点の認定として,
実質的に前記(3)イ(請求項1発明と甲1発明との一致点・相違点)と
同旨を認定するが,正しく認定されるべき一致点・相違点は前記取消事
由3において述べたとおりであり,取消事由4において述べた理由によ
り,甲1発明は請求項8発明と実質同一である。
(イ)取消事由13(請求項8発明に係る甲1発明を主引用例とする進歩
性判断〔理由B〕の誤り)
審決は,請求項8発明は甲1発明に基づいて容易に発明することがで
きないとするが,取消事由5∼7に述べた理由により,請求項8発明は
甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,進歩性
を有さない。
(ウ)取消事由14(請求項8発明に係る甲2発明を主引用例とする進歩
性判断〔理由C〕の誤り)
審決は,請求項8発明は甲2発明に基づいて容易に発明することがで
きないとするが,取消事由8∼10に述べた理由により,請求項8発明
は甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,進歩
性を有さない。
カ請求項2発明について
(〔〕)(ア)取消事由15請求項2発明の新規性に係る判断理由Aの誤り
審決は,請求項2発明と甲1発明との一致点・相違点の認定として,
実質的に前記(3)イ(請求項1発明と甲1発明との一致点・相違点)と
同旨を認定するが,正しく認定されるべき一致点・相違点は前記取消事
由3において述べたとおりであり,取消事由4において述べた理由によ
り,甲1発明は請求項2発明と実質同一である。
(イ)取消事由16(請求項2発明に係る甲1発明を主引用例とする進歩
性判断〔理由B〕の誤り)
審決は,請求項2発明は甲1発明に基づいて容易に発明することがで
きないとするが,取消事由5∼7に述べた理由により,請求項2発明は
甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,進歩性
を有さない。
(ウ)取消事由17(請求項2発明に係る甲3発明を主引用例とする進歩
性判断〔理由D〕の誤り)
審決は,請求項2発明は甲3発明に基づいて容易に発明することがで
きないとするが,取消事由11において述べた理由により,請求項2発
明は甲3発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,進
歩性を有さない。
キ請求項9発明について
・取消事由18(請求項9発明に係る新規性〔理由A,甲1発明及び〕
甲3発明をそれぞれ主引用例とする進歩性判断〔理由B,D〕の誤り)
審決は,請求項9発明は請求項2発明と同様の構成を有し,請求項8
発明が請求項1発明と同様に判断されたと同様に,請求項9発明は請求
項2発明と同様に判断されるとして進歩性を肯定するが,取消事由15
∼17において述べた理由により,請求項9発明は進歩性を有さない。
ク請求項3発明について
・取消事由19(請求項3発明に係る甲1発明,甲2発明及び甲3発明
をそれぞれ主引用例とする進歩性判断〔理由B,C,D〕の誤り)
審決は,請求項3は請求項1又は2の従属項であるから無効とするこ
とができない旨認定するが,上記取消事由1∼18に述べた理由により
請求項1発明及び請求項2発明はいずれも無効であり,請求項3発明は
当業者が容易に想到できたものであるから,進歩性を有さない。
ケ請求項4発明について
・取消事由20(請求項4発明に係る進歩性判断の誤り)
審決は,甲8の1発明,甲9発明におけるローラーに関し「…この,
2本のローラーは,回転するということはできても『中空部』を有す,
るものであるか不明であり,連結具が『中空部に遊嵌状態で挿通又は挿
』。」(),入されたものであるか不明である40頁14行∼17行として
これら刊行物には請求項4発明の構成Gの記載がなく,示唆もないとす
る。
しかし,甲8の1発明や甲9発明におけるローラーを見れば,連結具
を「中空部に遊嵌状態で挿通又は挿入され」たものであると当業者が理
解でき,あるいは甲8の1発明や甲9発明のローラーに基づき,同じ露
払い具である甲5の2発明のローリング管4の取付構造や一般的な遊嵌
,「」式の軸受け構造を参照して中空部に遊嵌状態で挿通又は挿入された
ものを当業者が容易に想起することができる。
したがって,請求項4発明は甲8の1発明,甲9発明に基づいて当業
者が容易に想到できたものであるから,進歩性を有さない。
コ請求項6発明について
・取消事由21(請求項6発明に係る進歩性判断の誤り)
審決は,甲8の1発明,甲9発明におけるアームに関し「…何かに,
連結するものではないから『前記芝刈ユニット又は集草箱に回動可能,
に連結された』構成を示唆しない(43頁21行∼22行)などとし。」
て,これら刊行物には請求項6発明の構成Hの記載がなく,示唆もない
とする。
しかし,公知技術である甲15,甲1,甲5の2,甲6の2の各刊行
物の記載を踏まえれば,甲8の1刊行物や甲9刊行物に基づきアームを
「前記芝刈ユニット又は集草箱に回動可能に連結された」構成とするこ
とは,当業者が容易に想起することができる。
したがって,請求項6発明は,甲8の1発明,甲9発明及び公知技術
に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,進歩性を有さな
い。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告は,審決が,請求項1発明のアームは棒状のものをいい,一端で棒
の向きを制御することにより他端の位置も制御することができるものと認
定したのは誤りで,アームとは,取り付けて2部材を繋ぐ「取付部材」の
意味に用いられる語であって,ある程度の長さをもった「腕」の機能を果
たすものであると主張する。
この点,辞典において「アーム」とは,腕,腕金,ひじ,ベルト車や歯
車などのアーム,電柱の腕木,電蓄やレコードプレーヤの腕金,そのほか
すべて物を支える腕状のものをいう旨定義されている(乙2,3。)
すなわち「アーム」の本質は「腕状」であって,人の腕と同様に,一,
端で向きを制御することにより他端の位置も制御することができるものと
定義することもでき,原告の例示したフレキシブルアームや可動部を有す
るアーム,更には,産業用ロボット等に使用される多数のリンクが連結さ
れた伸縮アームであっても「一端で向きを制御することにより他端の位,
置も制御することができるもの」であるという機能要件は満たしている。
そして,請求項1発明を構成する「アーム」は「一端で向きを制御す,
ることにより他端の位置も制御することができるもの」の機能要件を満た
しているからこそ「一対のアームの回動」によって,当該一対のアーム,
の自由端部に支持された水滴払用ローラを,芝刈ユニットの前方の「使用
」,「」,位置と芝刈ユニットの上部の退避位置である非使用位置との間で
交互に配置位置を変更できるのである。甲1発明を構成する「チェーン」
や「紐」のように「一端で向きを制御しても他端の位置も制御することが
できないもの」は,アームとはいえない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
イ原告は「回動可能に支持され」に関する審決の認定は誤りであると主,
張するが,審決の認定は,本件特許明細書(甲22,乙1)の段落【00
25】における「…一対のアーム21の上端部は,それぞれ芝刈ユニット
Aのハウジング12の両側板11に支点ピン16を介して回動可能に支1
持され,水滴払用ローラRは,芝生Gの高さ,或いは芝生面の僅かの起1
伏に応じて芝刈ユニットAのハウジング12に対して昇降する構成とな1
っている。…」との記載を根拠とするものである。
また,同明細書における「…なお,図8及び図9(判決注:図11の誤
記である)において,49は,駆動輪1を中心にして集草箱Bを持ち上3
げた際に,集草箱Bに対するアーム43の位置を規制するためのストッ3
パーピンを示し,…(段落【0031)との記載及び図11によれば,」】
「集草箱Bを持ち上げると,集草箱Bに対してアーム43が下方に向け33
て回動して,当該集草箱Bの側面に設けられたストッパーピン49に当3
接して,これを超える下方に向けた回動が防止される構成」が明瞭に示さ
れている。上記構成は,図11において2点鎖線で示される水滴払用ロー
ラユニットUの使用状態において集草箱Bを持ち上げると,当該集草箱43
Bに対してアーム43が下方に向けて回動することを意味し,水滴払用3
,ローラユニットUの使用状態ではストッパーピン49は作用しないので4
集草箱Bに対してアーム43は上方及び下方の双方に回動することにな3
る。
そうすると,請求項1発明の「一対のアームが回動可能に支持」の意義
を「発明の詳細な説明」及び「図面」を考慮して解釈すると,請求項1,
発明における「一対のアームが回動可能に支持」とは,芝刈ユニットの前
方に配置された水滴払用ローラを芝刈ユニットの上部の退避位置に退避さ
せる場合のみならず,水滴払用ローラが芝刈ユニットの前方に配設された
「使用状態」においても,芝刈ユニットのハウジングに対して回動可能で
あることを意味する。
,,。したがって原告の上記主張は失当であって審決の認定に誤りはない
(2)取消事由2に対し
原告は,3本のチェーンを用いる甲1発明には「左右一対」とする思想が
認められないとした審決の認定が誤りである旨主張する。
この点,請求項1発明は,芝刈ユニットに回動可能に支持されたアームの
自由端部に水滴払用ローラを回転可能に支持するには,当該水滴払用ローラ
の両端部を支持する「左右一対のアーム」を使用することで,水滴払用ロー
ラを最も安定した状態で回転可能に支持でき,しかも一対(2本)を超える
アームを設ける必要性がないのみならず,設けることにより芝刈ユニットと
の干渉が発生するおそれがあるので「左右一対のアーム」として特定する,
ものである。
これに対し,甲1発明の「チェーン」は,ビニールシートがバケットの下
方に敷き込まれて使用される際に,当該シートが引きずり込まれないように
するためのもの(取付部材)であるため,当該ビニールシートの幅方向の両
端部のみならず,両端部の間に可能な限り多くの「チェーン」が配置される
方が「ビニールシートの引きずり込み」を防止できるのは明らかである。,
また,甲1発明の「3本のチェーン」は,例えば特定の1本のチェーンの
み上方に引き上げることが可能であるため,互いに関連して作用しているの
ではなくて,1本毎に独立してビニールシートがバケットの下方に引きずり
込まれるのを防止する部材であるのに対して,請求項1発明の「左右一対の
アーム」は,左右の各アームが水滴払用ローラを「使用位置」と非使用位置
である「退避位置」との間を相互に配置変更できるように同一の動き(請求
項1発明の場合には「回動)をするように互いに関連して作用しており,」
請求項1発明の「左右一対のアーム」における「左右一対」の概念は,上記
のように定義されるものである。
この点原告は,甲1発明には「左右一対」の概念が存在すると主張するの
であるが,原告の主張は,左右両端にもチェーンが存在しているから「左右
一対」であるというにすぎず「左右両端の2本のチェーン」の互いに関連,
する動きの存否を無視して把握するものである。甲1発明における左右両端
の2本のチェーンは互いに独立して動くことが可能であって,互いに関連す
る動きが存在しないのであり「左右一対」の概念の発生する余地はない。,
(3)取消事由3に対し
請求項1発明の「アーム」と甲1発明の「チェーン」とは「アーム」が,
「」一端で向きを制御することにより他端の位置も制御することができる機能
を有するのに対して「チェーン」がこのような機能を有しない点において,
明確に異なる。
また,請求項1発明の「左右一対のアーム」の概念は上記(2)のとおりで
あって,甲1発明には「左右一対のチェーン」の概念が存在しないし「回,
動可能に支持され」の意義は上記(1)のとおりであって,甲1発明の「チェ
ーン」は,チェーンにおけるバケットに支持された側の向きを制御しても,
ビニールシートを取付けている側の位置を制御できないので「バケットに,
回動可能に支持されている」といえないことは明らかである。
さらに,甲1発明には,非使用時におけるビニールシートの配置位置に関
する記載はもちろん,その示唆も一切なく,しかも,仮にビニールシートを
バケットの上に載せて退避させたとしても,バケット前面の傾斜と機体振動
により当該ビニールシートはバケットからずり落ちてしまうことは明らかで
あるから,甲1発明のビニールシートは,バケットの上部に退避させること
を予定していないものである。
したがって,審決における請求項1発明と甲1発明との間の「アーム」と
「チェーン」の相違点の認定(相違点1「左右一対」の意義の認定「回),,
動可能に支持」の認定「非使用時に水滴払用部材を退避位置に退避可能な,
構成の有無」に係る認定(相違点2)及び取付部材であるアームあるいはチ
ェーンを取り付ける対象が芝刈ユニットのハウジングの前部であるかバ「」「
ケットの前部」であるかに関する認定(相違点3)に誤りはないから,原告
主張の取消事由3は理由がない。
なお原告は,審決で認定された「相違点1」から「請求項1発明では,,
左右一対のアームが回動可能に支持されている」のに対し,甲1発明では,
「3本のチェーンが回動可能に支持されていない」という相違点があるのに
これを欠落させており,相違点1の認定において失当である。
(4)取消事由4に対し
原告は,請求項1発明はアームが固定されずに「水滴払用部材」が地面の
起伏に追従できるという効果を含まないと主張するが,かかる主張は,請求
項1発明の「回動可能に支持」を,例えば甲5の2刊行物,甲6の2刊行物
等に開示されているように「使用位置から非使用位置まで退避可能であるよ
うな回動支持」と,原告に好都合なように解釈した帰結にすぎない。請求項
1発明における「回動可能に支持」には「水滴払用ローラが芝刈ユニット,
の前方に配設されている際におけるアームの回動も含む」ことは審決が認定
したとおりであって,原告の上記主張は失当である。
(5)取消事由5に対し
ア甲5の2刊行物
審決が認定するとおり「腕杆3,3’が上下に回動できる」とは,高,
低調節の際に「回動できる」だけで,調節の結果,露落としとして用いる
際には,腕杆3,3’は稲穂の高さ位置に固定しておく必要があるから,
使用時に回動可能であるとはいえない。
したがって,甲5の2発明における「腕杆3,3」の取付構成は,使’
用時に回動可能である請求項1発明の「回動可能に支持される」構成であ
るということはできず,甲5の2刊行物には,取付部材である「左右一対
のアーム」が「回動可能に支持される」構成を有する相違点1に係る請求
項1発明の構成の記載がないとする審決の判断に誤りはない。
これに対し原告は,請求項1発明は,使用時に(アームが)回動可能で
あるかどうか特定されていないと主張するが「使用時にアームが回動可,
能でない」ならば,芝生の高さが変化している部分,あるいは芝生の起伏
部分においては,水滴払用ローラが芝生の表面(上面)に追従できないの
で,芝生に付着する水滴を効果的に除去できないことは明らかである。そ
うすると,審決が認定するとおり「使用時にアームが回動可能である」,
ことは請求項1発明の必要不可欠な要件であり,この点において原告は請
求項1発明の認定を誤っているといわざるを得ない。
イ甲2刊行物
甲2発明における「ローラ支持部材4に支持される前ローラ5」は,芝
生の刈高を調整するローラであって,ローラ支持部材4は,機体に対して
固定されていて,請求項1発明のアームのように回動可能に支持される部
材とは「取付構造」が異なる。また「前ローラ」の主たる機能は,芝生,
の刈高調整であって,芝生に付着している水滴の除去ではないので,ロー
ラの本来的な機能も異なる。
したがって,甲2刊行物には,審決が特定した相違点1の開示はない。
これに対し原告は,甲2発明の「車体に固定されたローラ支持部材4の
自由端部に支持された前ローラ5」は,ビニールシートを斜上後方に退避
可能である甲1発明に適用する阻害事由はない旨主張するが,甲2発明に
おける「ローラ支持部材4」は,車体に固定されていて回動しないので,
甲1発明に対してそのまま適用できるものではない。
ウ甲4刊行物
甲4刊行物には,甲2刊行物に記載された「前ローラ5を備えた種々の
芝刈機」の写真が掲載されているが「前ローラ」の機能を含めて技術説,
明はほとんどないのであるから,甲4刊行物に相違点1に係る請求項1発
明の構成の記載がなく示唆もない旨の審決の認定は妥当である。
エ甲6の2刊行物
甲6の2発明において「作用位置Aにおいて,露落し具14は,支持,
杆13に固定ピン12を介して固定されている」ので,甲6の2刊行物に
は使用時に「アームを回動可能に支持する構成」の開示はない。
この点原告は,甲6の2発明は,左右一対のアームに対応する支持杆1
3を,回動固定自在に枢支している旨主張するが,これは「使用時には,
作用位置Aにおいて露落し具14を固定して使用し,不使用時には,作用
位置Aから非作用位置Bに露落し具14を回動させて退避させる」ことを
述べているのみであり,作用位置において露落し具14が回動可能に支持
されているならば,露落し具14は最も低い位置まで垂れ下がって支持さ
れ,この最も低い位置で,当該位置から上方への回動のみを許容して,当
該位置を超えて下方に回動しないように支持されるので,作用位置におい
て露落し具14が上方及び下方のいずれの回動も許容する支持形態である
「回動可能」に支持されていることはあり得ない。
オ甲7の1刊行物
甲7の1刊行物には「ローラーと,当該ローラーの中程に当該ローラ,
ーを支持するフレームに取付けられた2本の棒を備えたDewRoller」が示
されているが,2本の棒の基端部(自由端部)を特定の部材に支持する構
成の開示は全くない。
この点原告は「2本の棒を何かに取り付ける支持構造に関する開示」,
が直接的に示されなくても,手あるいは走行車に保持されることで「地面
との角度可変可能に支持され「左右一対のアーム」に「回動固定自在に」,
支持」することが当然に理解できると主張するが,当然に理解されるかど
うかは著しく不明であり,少なくとも「棒におけるローラーを取付けた側
と反対側の支持構造」の開示及びその示唆のないことは確かである。
カ甲8の1刊行物
甲8の1刊行物に開示された内容は,甲7の1刊行物の内容と実質的に
同一であって,少なくもと「棒におけるローラーを取付けた側と反対側の
支持構造」の開示及びその示唆はない。
また原告は,請求項1発明が使用時にも(アームが)固定されずに回動
,,可能であると仮定して甲8の1刊行物には転動ローラーの枠部に対して
左右一対のアームがそれぞれピン式の連結具を介して回動可能に取り付け
られていることが見て取れるので,一対のアームを押して使用する際に,
芝面に対するアームの角度を変えることができるように先側の部分を「回
動可能に」支持固定し得ることは明らかである旨主張する。
しかし,請求項1発明における「使用時にも(アームが)固定されずに
回動可能である」とは,アームにおける水滴払用ローラを支持している側
と反対の側が芝刈ユニットのハウジングに回動可能に支持されていること
をいうのであって,原告の上記主張は,アームにおける水滴払用ローラを
支持している側が当該水滴払用ローラを支持しているフレーム状の部材に
回動可能に支持することにより,芝面に対するアームの角度が変えられる
こと,換言すると,アームにおける水滴払用ローラの支持側と反対側は,
,,飽くまでも人が支えていて他の部材に回動可能に支持されていない点で
「アームにおける回動可能に支持される部分」を取り違えて把握するもの
である。
キ甲10刊行物
審決における甲10発明の認定においては「日除けシートを繰り出す,
ためのロール軸147が左右一対の支持腕123を介して取付ピン130
の廻りに回動可能に支持された構成」の開示はあるが,このロール軸14
7は,その両端部の一対の車輪126は直接地面に接するものの,日除け
シートを繰り出すロール軸147自体は地面に接することはなく,芝生の
水滴払いを目的として当該芝生に直接に接触する「水滴払用ローラ」とは
基本的作用が異なるものである。
そうすると,甲10発明における「日除けシートを繰り出すためのロー
ル軸147が左右一対の支持腕123を介して取付ピン130の廻りに回
動可能に支持された構成」を甲1発明の「3本のチェーン及びビニールシ
ート」に替えて適用した場合には,そもそも「水滴払用手段」にはなり得
ないのである。
また「左右一対のアームを介して作用部材を使用位置と非使用位置と,
の間で選択して配設する構成」は,いろいろな技術分野で多用され公知で
あると思われるが,請求項1発明は,前記「作用部材」を「水滴払用ロー
ラ」に特定した結果,作用効果を奏するものであって「左右一対のアー,
ムを介して水滴払用ローラを使用位置と非使用位置との間で選択して配設
する構成」は甲10刊行物に開示されていない。すなわち,甲10刊行物
には,請求項1発明と甲第1号証発明との相違点1を構成する「水滴払用
ローラ」の開示がなく,甲10刊行物に開示された「日除けシートを繰り
出すロール軸147」と請求項1発明における「水滴払用ローラ」の作用
は,前者は「シートの繰り出し」であるのに対して,後者は「芝生に付着
」,「」した水滴の除去と全く異なるものであり甲1発明のビニールシート
を甲10発明における「日除けシートを繰り出すロール軸147」に置換
しても「水滴払用ローラ」とはならないので,当該置換には明白な阻害要
因が存在する。
ク甲11刊行物
甲11刊行物に開示された排雪板3は,除雪機のオーガー軸両端の受け
金1に左右一対のアーム2を介して回動・固定可能に取り付けられてい
て,排雪板3の使用時には,受け金1に対してアーム2は固定して使用さ
れ,請求項1発明のように「水滴払用ローラの使用時において,左右一対
のアームが芝刈ユニットのハウジングに回動可能に支持された構成」には
なっていない。
このように,甲1発明の「ビニールシート」と甲11発明における「排
雪板3」とは機能が全く異なるため,明白な置換阻害要因が存在し,しか
も「排雪板3」の使用時にはアーム2は固定されているので,甲11発明
には,請求項1発明と甲1発明との相違点1を構成する「2つの要素(水
滴払用ローラの存在,及びアームが回動可能に支持された構成」の開示)
がない。
ケ甲12刊行物
甲12刊行物には「走行枠体4の車体横枠5の前方に一対のアーム8,
4及び2本の軸85を介して前記車体横枠5に固定されたブラケット(符
号は付されていない)を介してネットローラー81が支持され,走行枠体
4の走行により前記ネットローラー81から繰り出されるネットを育苗箱
Aに敷設させる装置」が開示されている。
甲12発明における一対のアーム84の自由端部に支持している部材
は,ネットを繰り出すための「ネットローラー81」であるのに対して,
甲1発明では,3本のチェーンで支持している部材は芝生に付着している
水滴を払い落とすための「ビニールシート」である。この「ネットローラ
ー81」と「ビニールシート」とは「ビニールシート」が芝生の水滴払,
いであるのに対して「ネットローラー81」は,ネットの繰り出しであ,
って,両者の基本作用は全く異なり,甲1発明の「ビニールシート」を甲
「」「」12発明におけるネットローラー81に置換しても水滴払用ローラ
にはならないので,当該置換には明白な阻害要因が存在する。
コ甲15∼甲21の各刊行物
甲15∼甲21の各刊行物には「相違点1」に係る構成の開示は一切,
なく,審決の認定に誤りはない。
(6)取消事由6に対し
ア請求項1発明及び請求項2発明は,芝刈ユニットのハウジングの前部又
はバケットの前部に一対のアームが回動可能に支持されて,当該一対のア
ームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されているので,請求
項1発明では芝刈ユニットの前部に水滴払用ローラを配置することが可能
になるとともに,請求項2発明ではバケットの前部に水滴払用ローラを配
置することが可能となって,請求項1及び請求項2のいずれの発明におい
ても,芝刈ユニットにより芝刈りが行われる前に,芝生に付着している水
。,滴は水滴払用ローラにより除去されるのである上記作用が奏されるのは
請求項1発明・請求項2発明で特定される「一対の)アーム」が,審決(
が認定するとおり「一端で棒の向きを制御することにより他端の位置も,
制御できる部材」であって,変形したり伸縮したりしないからである。
一方,甲1発明の「ビニールシート」は自在に変形するものであって,
使用時にはバケットと芝生面との隙間に入り込んで,機体の走行により引
っ張られて使用される「水滴払用部材」であるので,芝刈ユニットの前部
に取り付けて使用した場合,当該「ビニールシート」は芝刈ユニットに装
備されたリールカッターと芝生面との間に入り込んで,当該リールカッタ
ーに巻き込まれること明らかである。
したがって,芝刈ユニットの前方に配置された「バケット」の前部に垂
れ下げ状態で取り付けられることを前提とする甲1発明の「ビニールシー
ト」において,この前提要件を構成する「バケット」をなくした(不採用
),。としたならば刈取前の芝生の水滴払いを行えないことは明らかである
イこれに対し原告は,甲1発明において「バケットを不採用」としても,
成立する根拠の一つとして本件特許の明細書甲22乙1の記載段,(,)(
落【0007)を挙げる。】
しかし,上記記載は,請求項1発明・請求項2発明で特定される「一(
対の)アーム」は「一端で棒の向きを制御することにより他端の位置も,
制御できる部材」であって,変形したり,伸縮しないから「回動可能に,
支持される一対のアーム」は,芝刈ユニットのハウジングの前部であって
も,当該芝刈ユニットの前方に配置されるバケットの前部のいずれであっ
ても「水滴払用ローラ」の「水滴払機能」は同一であることをいうもの,
である。
一方,甲1発明では,請求項1又は2の各発明における「アーム」が,
特定形状を維持し得ない「チェーン」に変更されているとともに,請求項
1又は2の各発明における,変形不能であって回転可能な状態で使用され
る「水滴払用ローラ」が,変形可能であって非回転状態で使用される「ビ
ニールシートに変更され取付部材及び水滴払用部材の性質取」,「」「」(
付部材の変形性の有無,水滴払用部材の変形性及び回転性の有無)がいず
。,「,れも異なるそうすると本件特許明細書の請求項1及び2の各発明は
自由端部に水滴払用ローラを回転可能に支持した一対のアームを支持する
,」部材が異なるのみであって水滴払用ローラの作用効果自体は同一である
との記載が甲1発明にそのまま適用できないことは明らかである。
(7)取消事由7に対し
原告は,取消事由1∼6に係る主張を繰り返した上で,審決の甲1発明を
,,主引用例とする進歩性判断に誤りがある旨主張するが既に反論したとおり
一対のアームが回動可能に支持された構成が公知であったとしても一「」,「
対のアームの自由端部に支持する作用部材」を「水滴払用ローラ」に特定す
ることに関して原告が挙げる刊行物には記載や示唆が全くないのであって,
甲1発明を主引用例とする請求項1発明に係る審決の進歩性判断には誤りが
ない。
(8)取消事由8∼10に対し
ア原告は,甲2発明の特定において「C:取付部材の端部に水滴払用ロ,
ーラが回転可能に支持されることにより,水滴払用ローラが芝刈ユニット
の前方に配設されている」と特定するが,甲2発明の「前ローラ5」の本
来的な機能は「車体1を補助的に支持して)芝生の刈り高さを調節する(
こと」であって,芝生に付着した水滴を落とすことではない。水滴が付着
している芝生面を複数の車輪を備えた走行体が走行すれば,すべての車輪
に芝生の水滴が付着するとともに,複数の車輪が幅方向に沿って同一位置
に配置されている場合には,先頭の車輪に対する水滴の付着量が最も多く
なることは,当然に(自然に)発生する物理現象であるが,このような機
能は結果として発生する物理現象にすぎず,本来的に期待されているもの
ではない。
したがって,上記特定は根本的(本質的)に誤っているので,原告主張
の取消事由8及び取消事由9はいずれも理由がない。
イ甲5の2及び甲6の2の各刊行物には「使用時において左右一対のア,
ームが固定される構造」の開示があるのみであって,当該「固定される構
造」に対する逆の構造である「使用時において左右一対のアームが回動可
能に支持される構成」の開示は一切ない。また,審決が認定するように,
甲10∼甲12刊行物には「使用時において左右一対のアームが回動可,
能に支持される構成」の開示があるとしても「水滴払用部材」の「取付,
部材」である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持される構成」の開
示はない。さらに,審決が認定するように,甲15∼甲21の各刊行物に
おいても「使用時において左右一対のアームが回動可能に支持される構,
成」の開示があるとしても「水滴を払い落とす手段」との関係において,
「左右一対のアーム」が「回動可能に支持される構成」の開示はない。
したがって,請求項1発明は当業者が容易に想到できたということはで
きないから,原告主張の取消事由10は理由がない。
(9)取消事由11に対し
「」,,,甲3発明におけるゲージ輪24は集草容器67の荷重を支持して
当該集草容器6,7の地面からの高さを調節するものであって,芝生に付着
した水滴を落とすものではない。
また,甲3発明における「ゲージ輪24」を支持している「ステー37」
,,「」,は集草容器67に固定されていて回動可能に支持されていないので
請求項1発明の「一対のアームが回動可能に支持されている構成」の開示が
ない。
したがって,甲3発明を甲1発明又は甲2発明に採用しても,請求項1発
明とすることはできないから,原告主張の取消事由11は理由がない。
(10)取消事由12∼14に対し
請求項8発明は「水滴払用ローラユニット」であるのに対し,請求項1発
明は,請求項8発明で特定される当該「水滴払用ローラユニット」を備えた
「芝刈機」であって,請求項1と請求項8は,特許請求の対象が「水滴払用
ローラユニット」であるか「芝刈機」であるかの相違があるのみで,この,
相違を除けば,特許請求の範囲の表現はすべて同一である。
したがって,請求項1発明に関する被告の前記主張は,いずれも請求項8
発明についても妥当するから,請求項8発明に理由A∼Cの無効理由がない
,。旨の審決の判断に誤りはなく原告主張の取消事由12∼14は理由がない
(11)取消事由15∼17に対し
請求項2発明は「芝刈ユニットの前部に集草箱が装着された芝刈機」を,
対象としているのに対し,請求項1発明は「当該集草箱を備えていない芝,
刈機」を対象にして,請求項2発明では集草箱の前部に,請求項1発明では
芝刈ユニットの前部に,それぞれ水滴払用ローラが配設されるように,当該
水滴払用ローラを自由端部に回転可能に支持した一対のアームを回動可能に
支持したものであって,この相違を除けば,特許請求の範囲の表現はすべて
同一であり,水滴払用ローラの作用効果も同一である。
したがって,請求項1発明に関する被告の前記主張は,いずれも請求項2
発明についても妥当するから,請求項2発明に無効理由がない旨の審決の判
断に誤りはなく,原告主張の取消事由15∼17は理由がない。
(12)取消事由18に対し
請求項9発明は「芝刈ユニットの前部に集草箱が装着された芝刈機」を,
対象として「当該集草箱に装着される水滴払用ローラユニット」であるの,
に対し,請求項1発明は「集草箱を備えていない芝刈機」を対象にして,,
請求項9発明で特定される当該「水滴払用ローラユニット」を備えた「芝刈
機」であって,両者は,対象となる芝刈機が集草箱を備えているか否かの相
違と,特許請求の対象が「水滴払用ローラユニット」であるか「芝刈機」で
あるかの相違があるのみで,2つの相違部分を除くと,特許請求の範囲の表
現はすべて同一であり,発明としての作用効果も同一である。
したがって,請求項1発明に関する被告の前記主張は,いずれも請求項9
発明についても妥当するから,請求項9発明に無効理由がない旨の審決の判
断に誤りはなく,原告主張の取消事由18は理由がない。
(13)取消事由19に対し
請求項3は,請求項1又は請求項2を引用するものであって,請求項1又
は請求項2で特定される構成をすべて含み,これに加えて,請求項3で特定
される構成である「前記水滴払用ローラは,筒状であって,一対のアームを
構成する左右一対の各アーム部は連結部を介して一体に連結されていて,筒
状の水滴払用ローラの中空部に前記連結部が挿通遊嵌された構成」を含んで
いるものである。そして,前記のとおり,請求項1発明又は請求項2発明は
無効理由を有していないので,請求項3発明にも無効理由はない。
したがって原告主張の取消事由19は理由がない。
(14)取消事由20に対し
請求項4は,請求項1又は請求項2を引用する請求項である請求項3を引
用する請求項であるため,仮に請求項4で特定される構成が原告の挙げる刊
行物のいずれかに記載されていたとしても,請求項1又は請求項2は原告の
挙げる各刊行物との関係で無効理由を有していないので,請求項4発明もま
た無効理由を有していないことになる。
したがって,原告主張の取消事由20は理由がない。
(15)取消事由21に対し
請求項6は,請求項1又は請求項2を引用する請求項であるので,仮に請
求項6で特定される構成が原告の挙げる刊行物のいずれかに記載されていた
としても,請求項1又は請求項2は原告の挙げる各刊行物との関係で無効理
由を有していないので,請求項6発明もまた無効理由を有していないことに
なる。
したがって,原告主張の取消事由21は理由がない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(請求項1発明の認定の誤り)について
原告は,請求項1発明における「アーム」及び「回動可能に指示され」に関
する審決の認定に誤りがある旨主張するので,以下,検討する。
(1)本件特許明細書(甲22,乙1)には,次の記載がある。
ア【請求項1】
リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,
前記芝刈ユニットのハウジングの前部に左右一対のアームが回動可能に支持され,
前記一対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能に支持されることにより,
前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前方に配設されていると共に,当該水滴払
用ローラは,非使用時には使用位置に対して斜後上方である前記芝刈ユニットの上部
の退避位置に退避可能となっていることを特徴とする芝刈機。
イ【技術分野】
・【0001】
本発明は,ゴルフ場等において芝生を刈り取る際に,刈取直前の芝生に付着し
た水滴を効果的に除去して,芝生を綺麗に刈り取ることのできる芝刈機,及び水滴
払用ローラユニットに関するものである。
ウ【背景技術】
・【0002】
リールカッターを有する芝刈機によりゴルフ場等で芝生を刈り取る場合に,芝生
に露,雨水等の水滴が付着していると,前ローラで踏み付けられた刈取直前の芝生
が横たわった状態となってリールカッターにより十分に刈り取れなかったり,更に
は水滴が芝生に絡んでリールカッターの刃体と芝生とが滑るために,乾燥時に比較
して約5ないし7割位しか刈り取ることができなかった。このため,芝生に刈り残
しが生じて,見栄えが悪くなる。
・【0003】
そこで,ポールやロープを使用して,刈取直前の芝生に付着している水滴を払う
方法もあるが,別途作業者が必要であるのに加えて,水滴払いの作業自体が極めて
非効率であるために,能率よく芝刈作業を行えなかった。また,特許文献1に示さ
れるように,刈取直前の芝生にエアーを吹き付けて,芝生に付着している水滴を払
う方法も提案されているが,圧縮空気を発生させる装置が不可欠であるために,本
来の芝生の刈取りとは直接に関係しない大掛かりな装置が必要となって,コスト高
となる。更に,リール式の芝刈ユニットの前方に回転ブラシを設ける方法も実施さ
れているが,ブラシによって水滴の除去はできても,芝生自体(刈り取った後に残
る芝生の茎の部分)を損傷させてしまう問題がある。
エ【発明が解決しようとする課題】
【0005】・
本発明は,芝生を損傷させることなく,刈取直前の芝生に付着している水滴を払
い取ることにより,芝生の刈取率を高めて,芝刈状態を綺麗にすることを課題とし
ている。
・【0007】
請求項1及び2の各発明は,自由端部に水滴払用ローラを回転可能に支持した一
対のアームを支持する部材が異なるのみであって,水滴払用ローラの作用効果自体
は同一である。請求項1及び2の各発明によれば,外周面が平滑な水滴払用ローラ
が芝刈直前の芝生上を転動することにより,芝生に付着している水滴は,水滴払用
ローラの外周面に容易に転写付着し,その付着量が多くなって,特定部分の水滴が
自重により地表面に落下すると,他の部分の水滴も一緒に引き連れられて,地表面
に落下する。このため,刈取直前の芝生に付着している水滴は,一旦水滴払用ロー
ラに転写付着された後に効果的に地表面に払い落とされる。よって,水滴が払い落
とされた直後の芝生がリールカッターにより刈り取られるため,芝生の刈取率が高
くなって,刈取状態が美麗となる。また,芝生の葉の部分に付着している水滴は,
表面張力により芝生の葉と一体となっていて,直接には払い落されないことがある
が,水滴払用ローラの外周面が平滑であって,芝生の水滴との接触面積が大きいた
めに,表面張力により芝生の葉と一体となっている水滴は,水滴払用ローラの外周
面に転写付着され易い。また,乾燥時に芝刈作業を行なう場合,或いはゴルフ場等
に対して芝刈機を搬入出させる場合には,水滴払用ローラは不要又は障害となるの
で,芝刈ユニットのハシジングの前部,又は集草箱の前部に左右一対のアームを介
して連結されている水滴払用ローラを,使用位置に対して斜後上方である芝刈ユニ
ット,又は集草箱の上部の退避位置に退避させておく。
オ【発明の効果】
【0022】・
本発明は,リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,前記芝刈
ユニットのハウジングの前部に左右一対のアームが回動可能に支持され,前記芝刈
ユニットの前方に前記一対のアームを介して水滴払用ローラが,使用位置に対して
斜後上方である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避可能となって配設されて
いるか,或いはリールカッター式の芝刈ユニットの前部に集草箱が装着された芝刈
機において,前記集草箱の前部に左右一対のアームが回動可能に支持され,前記集
草箱の前方に前記一対のアームを介して水滴払用ローラが,非使用時には使用位置
に対して斜後上方である前記集草箱の上部の退避位置に退避可能となって配設され
ているため,芝刈機の走行により,刈取直前の芝生に付着している水滴は,刈取直
前の芝生上を転動中の水滴払用ローラが転写付着された後に,地表面に落下する。
このため,芝刈機の走行中において刈取直前に水滴が払い落とされた芝生がリール
カッターにより刈り取られるので,芝生の刈取率が高まって,芝生の刈取状態が美
麗となる。また,乾燥時に芝刈作業を行なう場合,或いはゴルフ場等に対して芝刈
機を搬入出させる場合には,水滴払用ローラは不要又は障害となるので,芝刈ユニ
ットのハウジングの前部,又は集草箱の前部に左右一対のアームを介して連結され
ている水滴払用ローラを,使用位置に対して斜後上方となる芝刈ユニット,又は集
草箱の上部の退避位置に退避させておく。
カ【発明を実施するための最良の形態】
・【0023】
以下,本発明を実施するための複数の最良形態を挙げて,本発明を更に詳細に説
明する。
・【実施例1】
【0024】
図1は,芝刈ユニットAの前方に水滴払用ローラユニットUが装着された歩11
行式の芝刈機の側面図であり,図2は,同じく水滴払用ローラユニットUの部分1
の平面図であり,図3は,芝生Gの水滴Wが水滴払用ローラRに転写付着される1
作用を示す図である。図1及び図2において,芝刈ユニットAは,駆動輪1を備1
えた機体2の前方に装着されている。芝刈ユニットAは,両側板11を備えたハ1
ウジング12と,該ハウジング12の前後端に装着された前ローラ13及び後ロー
ラ14と,前記両側板11に支持されて,前記機体2に搭載されたエンジンEの動
力により回転されるリールカッター15とを備え,前記機体2と一体となって走行
する。なお,図1において,3は,芝刈機のハンドルを示し,4は,機体2と芝刈
ユニットAとを連結する連結具を示す。1
・【0025】
芝刈ユニットAの前方には,水滴払用ローラユニットUが装着されており,11
前記水滴払用ローラユニットUは,水滴払用ローラR1と,該水滴払用ローラR1
を芝刈ユニットAのハウジング12に対して連結する一対のアーム21とで構11
成される。即ち,一対のアーム21の上端部は,それぞれ芝刈ユニットAのハウ1
ジング12の両側板11に支点ピン16を介して回動可能に支持され,水滴払用ロ
11ーラRは,芝生Gの高さ,或いは芝生面の僅かの起伏に応じて芝刈ユニットA
のハウジング12に対して昇降する構成となっている。一方,芝生が乾いた状態で
あったり,芝刈機の搬入出時には,図1で2点鎖線で示されるように,一対のアー
ム21を介して芝刈ユニットAのハウジング12の両側板11に支持されている1
水滴払用ローラRを斜後上方に退避させることにより,水滴払用ローラRが障11
害となることなく,乾燥時における芝刈作業を行なったり,芝刈機の搬入出を行な
える。水滴払用ローラRの外周面は,平滑となっている(溝類は一切形成されて1
いない。)
・【0026】
このため,芝刈機の走行によって,外周面が平滑な水滴払用ローラRが芝刈直1
前の芝生G上を転動することにより,芝生Gに付着している水滴Wは,水滴払用ロ
ーラRの外周面に容易に転写付着し,水滴払用ローラRの外周面に付着した水11
滴W’の付着量が多くなって,特定部分の水滴が自重により地表面に落下すると,
他の部分の水滴も一緒に引き連れられて,地表面に落下する。このため,刈取直前
の芝生Gに付着している水滴は,一旦水滴払用ローラRに転写付着された後に効1
果的に地表面に払い落とされる。よって,水滴Wが払い落とされた直後の芝生Gが
リールカッター15により刈り取られるため,芝生Gの刈取率が高くなって,刈取
状態が美麗となる。また,芝生Gの葉の部分に付着している水滴Wは,表面張力に
より芝生Gの葉と一体となっていて,直接には払い落されないことがあるが,水滴
払用ローラRの外周面が平滑であって,芝生Gの水滴Wとの接触面積が大きいた1
めに,表面張力により芝生Gの葉と一体となっている水滴Wは,水滴払用ローラR
の外周面に転写付着され易い。1
・【0027】
このように,芝刈機の走行中において,芝刈直前の芝生Gに付着している水滴W
が水滴払用ローラRに転写付着した後に,その付着量が多くなることにより,水1
滴払用ローラRに転写付着された水滴W’が地表面に落下して,水滴Wが払い落1
とされた芝生Gがリールカッター15により刈り取られる。即ち,芝生Gの水滴W
の払い落とし作業を別途行なうことなく,芝刈機による芝生Gの刈取り中において
同時に行なえる点に本発明の特徴が存在する。また,水滴払用ローラRの外周面1
は平滑であるので,芝生G上を転動回転しても,芝生Gが損傷されることはない。
なお,図1ないし図3において,Pは,芝刈機の走行方向を示し,Qは,水滴払用
ローラRの回転方向を示す。1
,,(2)以上によればリールカッターを有する芝刈機で芝生を刈り取る場合に
芝生に露等の水滴が付着していると,前ローラで踏み付けられた刈取直前の
芝生が横たわった状態となってリールカッターにより十分に刈り取れない等
の問題点があったことから,これに対応するため,ポールやロープを用いて
,,刈取り直前の芝生に付着している水滴を払う方法エアーを吹き付ける方法
更には回転ブラシを用いる方法等が知られていたが,何れの方法も,作業が
非効率になったり,大掛かりな装置が必要となったり,あるいは芝生を損傷
させるという問題があった。
請求項1発明は,芝刈機ハウジングの前部に左右一対のアームを回動可能
に支持し,このアームの自由端部に水滴払用ローラを回転可能に支持し,そ
れによって水滴払用ローラはハウジング前方の使用位置と芝刈ユニットの上
部の退避位置に退避可能な構成を採用することにより,これらの課題を解決
するものであり,これにより,芝を刈る際に水滴払用ローラが一対のアーム
で芝刈機の前方に支持されて,芝生を踏み付けて横たわらせることなく刈取
り直前の芝生に付着している水滴を芝刈りと同時に除去することができて刈
取率が高まり,また刈取状態が美麗となり,さらに非使用時にはアームを回
動することにより水滴払用ローラが芝刈りユニット等の上部に退避させ,芝
刈機の搬出入の際に障害となるのを防止できるという意義を有するものであ
る。
(3)ところで「アーム(arm」とは「アーム,腕,腕金,ひじ,ベルト,),
車や歯車などのアーム,電柱の腕木,電蓄やレコードプレーヤの腕金,その
ほかすべての物をささえる腕状のものをいう(英和和英機械用語図解辞典」
第2版1997年6月10日初版13刷発行,編者工業教育研究会,発行
者溝口勲夫,乙2)など,通常は剛性の腕のような棒状の部材を意味する
ものである。また請求項1発明においても,アームが水滴払用ローラを支持
して使用時に芝刈機前方に位置する状態を確保しつつ芝刈りと同時に芝生に
付着した水滴を払うとともに,非使用時にはアームを回動させて芝刈ユニッ
トの上部に退避させて作業の障害にならないような位置に支持するのである
から,請求項1発明の「アーム」は当該作動・操作を行うため通常の意味ど
おり棒状のものであって,一端の位置を回動制御することにより水滴払用ロ
ーラが支持された他端の位置を制御するものであるといえる。そうすると,
これと同旨の「アーム」に関する審決の認定に誤りはない。
これに対し原告は,本件発明のアームは,水滴払用ローラの配設手段とし
て,前方への配設と退避位置の配設との2つの状態を維持するという意義を
有すれば足りるのであり,審決が認定するように「一端で棒の向きを制御す
ることにより他端の位置も制御することができるもの」に限定すべきではな
い旨主張するが,このような制御機能を有しない場合には「アーム」に要求
される上記作動・操作を行うことができず,請求項1発明に求められる作用
効果を奏することができなくなるから,原告の上記主張は採用することがで
きない。
(4)また請求項1発明は,前ローラが芝を踏み付けて倒すことによりうまく
芝を刈ることができなくなるという従来の問題点にも対応することを課題と
するものであるが,この問題点は,芝刈機の前ローラが芝刈時に芝刈機の車
重を受けることから,車重を支えている前ローラが芝生を踏み付けるため芝
を倒伏させてしまうことがその原因と解される。そうすると,仮に水滴払用
ローラを支持する本件発明のアームが使用時に固定されていて回動可能にな
っていない場合,水滴払用ローラは芝刈機の走行中,随時に車重を受けるこ
とになり,芝刈前に芝を倒伏させてしまうという従来の問題点を有すること
になる。
また,本件発明は,芝の刈取り中において水滴の払い落としを同時に行え
る点にも特徴があるところ(段落【0027】参照,芝生面の起伏に応じ)
て水滴払用ローラが昇降しないと水滴払いの機能が十分果たせないことにな
り,そのため,明細書(段落【0025)においても,水滴払用ローラが】
芝生の高さや芝生面の僅かの起伏に応じて芝刈ユニットのハウジングに対し
て昇降する構成となっていることが記載されているものと理解することがで
きる。
以上に鑑みれば,請求項1発明において,水滴払用ローラが使用時におい
ても固定されずに回動可能であることは,その意義からみて必須のこととい
えるから,請求項1発明における「回動可能」は芝刈時にも回動可能である
ことを意味するとした審決の認定に誤りはない。
この点原告は,使用時に「回動可能に支持」すると解することは「回動,
可能に支持」との用語の意義に根拠のないことを付加して構成を認定するも
のである旨主張するが,請求項1発明の上記意義に照らして採用することが
できない。
また原告は,請求項1発明における「回動可能」との構成について用語の
意義を一義的に明確に理解することができないといった特段の事情は認めら
れないから,特許法70条1項の規定から,実施例に限定して解釈すること
は許されない旨主張するが,請求項1の記載上「左右一対のアームが回動,
可能に支持され」るとの構成が芝刈機の使用時に除外される旨の特定はなさ
れておらず,かつ,明細書の記載上,使用時にはこれを除外すべきものと解
すべき必然性は見当たらない(むしろその意義に照らせば,使用時において
も回動可能と解すべきことは上記のとおりである)から,上記認定が特許請
求の範囲の記載に基づかずに特許発明の技術的範囲の認定を行うものでない
ことは明らかである。したがって,原告の上記主張は採用することができな
い。
3取消事由2∼4(請求項1発明の新規性に関する主張〔審決の「理由A」に
対する主張)について〕
(1)原告は,審決が請求項1発明について甲1発明との関係で新規性を失う
ものではない旨判断したことに対し,審決には甲1発明の認定の誤り(取消
事由2,請求項1発明と甲1発明との相違点の認定の誤り(取消事由3,))
新規性判断の誤り(取消事由4)がある旨主張するので,以下,順次検討す
る。
(2)原告は,審決が,請求項1発明においては「アーム」が「左右一対」で
あるのに対し,甲1発明では「チェーン」が3本取り付けられて一組とされ
ており「左右一対」とする思想が認められないとしたことは甲1発明の認,
定を誤るものであり(取消事由2,かつ,これを相違点としたことは相違)
点の認定を誤るものである旨主張するので(取消事由3,この点について)
検討する。
この点,甲1刊行物には,次の記載がある。
「ベントグリーンは露の量が多く,刈込の際に一旦,露払いをせざるを得ない・
こともままある。だが,限られた人数で作業している昨今,なかなか露払いに手間
をかけられないゴルフ場が多いのも事実。
そんななか,効率のよい方法を考案したのが,静岡県の太平洋クラブ御殿場コー
ス(18H。グリーンモアのバケットにビニールシートを取り付け,それを引き)
,。」()ずることにより刈込をしながら露を落としている16頁上段1行∼中段1行
使用しているのは,凸凹の溝付きの市販のビニールシート。それに,重りと・「
なるゴムシートを張りつけている(16頁下段5行∼8行)。」
・「凸凹溝のついたビニールシートを,バケットに取り付けている」との注釈が付
いた写真(16頁)には,バケットに3本のチェーンによってビニールシートが取
り付けられている様子が写っている。
・「露払いをすると同時に,刈込むというアイデア」との注釈が付いた写真(16
頁)には,作業者がグリーンモア(甲4刊行物にはリールカッター式芝刈機が「グ
リーンモア」と指称されており,同芝刈機の一般名称と認められる)により芝刈。
りをし,グリーンモアの前部にバケットが設けられ,左右及び中央の3本のチェー
ンでバケット前方に取り付けられたビニールシートが,バケットの下側に引き込ま
れる様子が写されている。
以上によれば,甲1刊行物には,リールカッター式の芝刈機の前部にバケ
ットが設けられ,当該バケットの前部の中央と左右の3個所に3本のチェー
ンの一端を取り付け,チェーンの他端には凸凹溝の付いた露落とし用のビニ
ールシートが取り付けられ,ビニールシートはバケットの前部から下方に引
き込まれて,バケット下方で芝の露を払う構成(甲1発明)が記載されてい
ることが理解できる(なお,露落とし用のビニールシートを使用しない場合
におけるチェーン及びビニールシートの扱いに関する開示はない。。)
そして甲1発明において請求項1発明のアームに対応する構成はチ,「」「
ェーン」と認められるが,請求項1発明の「アーム」が「左右一対,すな」
わち2本で構成されているのに対し,甲1発明のチェーンは3本で構成され
ている。
そうすると,審決が甲1発明について,アーム部の構成が「左右一対」で
はないと認定し,その本数が異なる点を相違点と認定したことに誤りはない
から,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,審決が請求項1発明の「アーム」と甲1発明の「チェーン」を
,,「」相違点として認定しまた請求項1発明はアームが回動可能に支持され
ているのに対し,甲1発明はチェーンが「回動可能に支持され」ていない点
で相違すると認定したことは誤りである旨主張する(取消事由3。)
この点,前記2のとおり,請求項1発明のアームは,剛性を有する棒状の
部材で,芝刈時も含めて回動可能であるから,芝刈時に芝刈機の前方に水滴
払用ローラを維持しつつ十分な水滴払いができるとともに,不使用時に障害
となるのを避けるために不使用位置に退避できるものである。
一方,甲1発明におけるチェーン及びビニールシートは,力の加わった方
向に沿って変位するものであるから,甲1発明におけるチェーンには位置を
維持するという機能はなく,またこれらは任意の向きに任意の箇所から自在
,「」に方向を変更できる柔軟な部材であるから請求項1発明におけるアーム
を「回動可能」にするという観念が入る余地はないといわざるを得ない。
その上,上記(2)のとおり,甲1発明にはビニールシートを使用しない場
合にどのように扱うかについての開示はなく,仮に請求項1発明と同様に非
使用時に芝刈機上方にチェーンとビニールシートとを退避させようとして
も,その柔軟性から不安定になるおそれが強いのであって,甲1発明には露
払装置の「退避」を観念することも困難といわざるを得ない。
そうすると,審決がこれらを相違点としたことに誤りはなく,原告の上記
主張は採用することができない。
,,,(4)そして以上検討したところに照らせば請求項1発明と甲1発明とは
構成としても機能としても,相違するのであって,両者には実質的な相違点
があるから,請求項1発明が甲1発明との関係で新規性を失わない旨の審決
の判断に誤りはなく,取消事由4に関する原告の主張は採用することができ
ない。
4取消事由5∼7(甲1発明を主引用例とする請求項1発明の進歩性に関する
主張〔審決の「理由B」に対する主張)について〕
(1)原告は,審決が甲1発明を主引用例とした場合に請求項1発明に進歩性
がある旨判断したことについて,相違点1に関して副引用例である甲5の2
発明,甲2発明,甲4発明,甲6の2発明∼甲8の1発明,甲10発明∼甲
12発明,甲15∼21の各刊行物に関する認定及び甲1発明への適用に関
(),(),する判断の誤り取消事由5相違点3に関する判断の誤り取消事由6
進歩性判断の誤り(取消事由7)がある旨主張するので,以下,順次検討す
る。
(2)請求項1発明の内容は前記第3,1(2)のとおりであり,また,甲1発明
の内容は前記3のとおりである。
これによれば,甲1発明の内容,請求項1発明と甲1発明との一致点及び
相違点は,審決の認定に係る前記第3,1(3)イのとおりと認められる。
これに対し原告は,請求項1発明におけるアームは芝刈機の使用時に回動
可能な状態にあることは特定されておらず,また甲1発明は,チェーン,ビ
ニールシートを不使用時に退避位置に回動可能なことが開示されていること
を前提に「正しく認定されるべき一致点・相違点」として「請求項1発明,,
では「水滴払用部材」が「水滴払用ローラ」であり「取付部材」が「アー,
ム」であり,中央部に取付部材がないことに対し,甲1発明では「水滴払用
部材」が「露払い用ビニールシート」であり「取付部材」が「チェーン」,
であり,中央部にも1本の取付部材のチェーンが付加されている点」が相違
点1となる旨主張し(取消事由3,これに基づき,相違点1に対する判断)
の誤りを主張する(取消事由5)のである。しかし,請求項1発明における
アームは芝刈機の使用時に回動可能な状態にあるものでなければならないこ
とは前記2のとおりであるし,また甲1発明が,チェーン,ビニールシート
を不使用時に退避位置に回動可能であると認められないことは前記3のとお
りであるから,原告の「正しく認定されるべき一致点・相違点」に関する主
張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。
(3)そこで,審決が認定した相違点1を前提に,原告が挙げる刊行物との関
係での容易想到性について検討する。
ア甲5の2刊行物
(ア)甲5の2刊行物には次の記載がある。
・「…コンバイン本体の前方位置で且立稲における稲穂の高さ位置に横杆を設置
し,この横杆にはローリング管を該管の径方向に遊動自在に嵌合してコンバイ
ンの運転につれて刈取られる立稲の稲穂部分を揺動させ,付着せる朝露をふり
落す(2頁3行∼8行)」
・「…コンバイン本体(1)の前方位置で且立稲(A)における稲穂の高さ位置
に横杆(2)を配するのであるが,横杆(2)の両端はコンバイン本体(1)
()(’),()(’)の両側方に取付けられた腕杆33に固定されており腕杆33
は上下に回動できるようにしておいて横杆(2)の高低調節ができるようにし
ておく。
この横杆(2)には,横杆(2)の太さよりも大きな内径を有するパイプ状
のローリング管(4)を嵌合して,ローリング管(4)を径方向に遊動自在と
したものである(2頁10行∼20行)。」
「本案は以上の如く具現されるもので,コンバインの進行につれてローリン・
グ管(4)は第2図の如く立稲に衝当するにしたがって後,上,前,下方向に
遊動し,同時に立稲も揺れて露が落下し…(3頁11行∼15行)」
・「本案は叙上の如くコンバイン本体の前方位置で且立稲における稍稲穂の高さ
位置に横杆を設置し,この横杆にはローリング管を径方向に遊動自在に嵌合し
てあるので立稲は刈取られる前にローリング管に衝当して稲穂の部分が揺れて
付着せる朝露が落下する。…(3頁18行∼4頁3行)」
(イ)以上によれば,甲5の2発明はコンバインに関する技術であり,本
件発明における芝刈機と技術分野が異なるものである上,請求項1発明
のアームに相当する椀杆(3),(3')は,稲穂に付着した朝露を振り落と
すために,稲穂の高さに合わせて上下に回動可能に構成されているもの
であるが,コンバインの使用時には稲穂の高さの位置にこれを維持する
必要があるため,使用時には固定されて回動不能になっているものと理
解できる。また,朝露の振り落としが不要な時(非使用時)における椀
杆等の扱いについての開示はない。
そうすると,甲5の2発明の「椀杆(3),(3')」の取付構成が,使用
時に回動可能である請求項1発明の「回転可能に支持される」構成であ
るということはできず,甲5の2発明には,取付部材である「左右一対
のアーム」が「回動可能に支持され」る構成に係る相違点1について記
載や示唆があるとはいえないから,これに基づき相違点1が容易想到と
いうことはできない。
イ甲2刊行物
(ア)甲2刊行物には,次の記載がある。
・【0010】本発明の刈刃クラッチ機構を具備する芝刈機の全体構成について
説明する。図1に示す芝刈機においては,車体1の後部には左右一対の移動用車
輪3が取り付けられ,該移動用車輪3は車体1に搭載されるエンジン11により
回転駆動可能とされているとともに,作業場所への移動は該移動用車輪3を使用
し,芝刈り作業時には移動用車輪3を取り外して,移動用車輪3の間に同軸上に
設けられている小径の後部ローラ(図示せず)を使用する。車体1の前部には前
ローラ5が設けられ,該前ローラ5は左右一対の前ローラ支持部材4により車体
1に対して昇降可能に支持されて刈り高さを調節できるようにしている。
・【0011】また,車体1には,螺旋状に曲げて形成される刃物を適当枚数組
み合わせて構成されるリール式の回転刈刃13が左右に横設され,エンジン1に
より該回転刈刃13を回転駆動可能としている。さらに,回転刈刃13と前ロー
ラ5との間には,多数の垂直刃36が左右に並設されている。
・【0013】このように構成した芝刈機においては,エンジン11により移動
用車輪3と同軸上に設置されている後部ローラを回転駆動して車体1を走行させ
るとともに,回転刈刃13及び垂直刃36を互いに反対方向に回転駆動させて芝
刈りを行うようにしている。この場合,車体1の走行に伴って従動回転する前ロ
ーラ5により押え付けられた芝が,該前ローラ5と逆回転する垂直刃36により
かき立てられ,このかき立てられた芝が直ちに回転刈刃13により切断されて水
平刈りが行われる。…
(イ)以上によれば,甲2発明における前ローラ5は,リール式の回転刈
刃13の前に位置し,カッターが芝を刈る前に芝を押さえ付けるから,
芝に露が付着していた場合,結果として水滴を払うことにはなるという
ことができるが,そのような機能は副次的なものにすぎず,甲2発明に
おける前ローラに水滴払い機能を求める旨の開示や示唆があるというこ
とはできない。また,この前ローラ5は,芝の刈り高さを調節するため
に車体1に対して昇降するものであるから,芝刈機の使用時に位置が変
更できないものであって,車体の走行に伴って従動して芝を押さえつけ
るから,本件発明で課題としている芝の踏み付けという問題点を有する
ものである。
そうすると,甲2発明から相違点1に係る構成が容易想到ということ
はできない。
ウ甲4刊行物
甲4刊行物は,雑誌「月刊ゴルフマネジメント」における「2003年
11月号別冊特別企画」の冊子「ゴルフ場関連商品誌上展示会2003」
抜粋であるが,特段の説明文はなく,甲2刊行物の図1と同様に,前ロー
ラを有すると思われる芝刈機の写真が記載されているのみである。
そうすると,甲4刊行物の開示範囲は甲2刊行物のそれを超えるもので
はないというべきであるから,甲2発明におけると同様,甲4発明から相
違点1に係る構成が容易想到ということはできない。
エ甲6の2刊行物
(ア)甲6の2刊行物には,次の記載がある。
・実用新案登録請求の範囲
「露落し具(14)を,機体前方に突出して刈取直前の植立穀稈に接当する作
用位置(A)と,植立穀稈に接当しない非作用位置(B)とに位置変更自在に
設けてある事を特徴とする農用コンバイン(1頁5行∼8行)。」
・考案の詳細な説明
「そして,機体前方に露落し具(14)を設けると共に,この位置を,作用位
()(),(),置Aあるいは非作用位置BCに変更並びに固定できるようにして
作用位置(A)に固定して刈取作業を進めると,植立穀稈に接当して,穀稈に
付着している露を落とすことができ,非作用位置(C)とした時は路上走行時
のプロテクターとして使用でき,不要時には,非作用位置(B)に位置させて
格納できるように構成されている。
すなわち前記穀稈引起し装置3の外枠10に付設したブラケット1,()()(
1)に一端部を固定ピン(12)の挿脱により,回動固定自在に枢支した支持
杆(13)を前記両外枠(10(10)に設け,この支持杆(13)の前記),
(),(),外枠10への枢支部とは反対側の端部においてかつ左右両支持杆13
(13)にわたって,水平姿勢状態で棒状体(16)を張設して露落し具(1
4)を構成してある。
尚,本考案による露落し具(14)は各種農用コンバインに利用でき,また,
露落し具(14)の構成も各種変形可能である(3頁19行∼4頁18行)。」
(イ)以上によれば,甲6の2発明はコンバインに関する技術であり,本
件発明に係る芝刈機とは技術分野が異なる上,請求項1発明におけるア
ームに相当する支持杆(13),(13)に設けられた露落し具(14)が植立穀稈
に接当して露を落とすものであるが,支持杆は作用位置を非作用位置に
回動して固定する構成となっている。
そうすると,甲6の2発明から取付部材である「左右一対のアーム」
が「回動可能に支持され」る構成に係る相違点1について記載や示唆が
あるとはいえないから,これに基づき相違点1に係る構成が容易想到と
いうことはできない。
オ甲7の1・甲8の1刊行物
(ア)甲7の1刊行物は「GolfCourseSuppliesCatalogue(ゴルフコー」
スサプライズカタログ)であり,ゴルフ場の設備に関する道具のカタ
ログであると認められる。そして,甲7の1刊行物8頁中段には「Dew,
Roller」として,ローラーとローラーの中程に位置する2本の棒の一部
の写真があり「ツイン露ローラーとシングル露ローラーは,アルミニ,
ウムで構成され,白い粉でコーティングされている。露ローラーは,重
さを増すために水分を含むことができる(訳文,甲7の2による)旨。」
が記載されている。
このような甲7の1刊行物の趣旨及び記載に鑑みれば,上記「Dew
Roller」は,ゴルフ場において芝の露落としに用いられる露ローラーで
あると認められるが,その使用方法に関する説明はなく,写っている2
本の棒が,どのような役割をするのかは不明といわざるを得ない。
(イ)また,甲8の1刊行物3頁下段には,使用者がローラーのついた2
本の棒を押している写真が記載され「ツインの露およびつや出しロー,
ラー「芝刈り前に朝露を払うことにより,雨露を乾かすスピードをア」,
」(,)。ップすることができる訳文甲8の3による旨が記載されている
(ウ)以上の記載によれば,甲8の1発明に係るローラーは,芝に当接し
て露を落とすものであると認められ,また,甲7の1発明に係るローラ
,,,ーも使用者が2本の棒をもってローラーを押し又は曳くことにより
甲8の1発明と同様の作用を奏する道具であると認められる。
そして,これら発明におけるローラーは,請求項1発明の「水滴払用
ローラ」に,また2本の棒は「左右一対のアーム」に対応するといえる
が,これらはいずれも使用者が2本の棒を押して芝面の露を落とす手工
具と解されるから,芝刈機に設けられる構成ではなく,そのため「回,
動可能に支持され」ることにより非使用時に回動されて退避される構成
が観念される余地はない。
したがって,甲7及び甲8の1発明から相違点1に係る構成が容易想
到ということはできない。
カ甲10刊行物
(ア)甲10刊行物(発明の名称「苗箱対地処理装置)には,次の記載が」
ある。
・【0047】
「左右一対の支持腕123は,支持枠6に突設した支持片129に,取付ピ
ン130により着脱自在でかつ取付ピン130廻りに回動自在に支持されてお
,,り取付ピン130を支持片129及び支持腕123から抜き取ることにより
シート繰出機構121全体を支持枠123から着脱できるようになっている。
…」
・【0050】
「そして,前記シート繰出機構121は,図12に示すように,展開した育
苗箱N上に日除けシート122を繰り出す繰出位置Aと,日除けシート122
の繰り出しが不能になる退避位置Bとに位置変更自在とされている。即ち,シ
ート繰出機構121は,取付ピン130廻りに支持腕123を下方に揺動する
ことにより,左右一対の車輪126が接地して,繰出位置Aにセットされ,こ
のとき,苗箱対地処理装置1(移動車体2)の後方移動に伴って,ロール軸1
47が矢印a方向に回転し,ロール軸147に巻回した日除けシート122を
自動的に繰り出すようになっている。また,シート繰出機構121は,取付ピ
ン130廻りに支持腕123を上方に揺動することにより,左右一対の車輪1
26が浮き上がって,支持腕123が後上がりに傾斜した状態で,例えば支持
腕123が支持枠6に接当し又は支持腕123が支持枠6に突設した図示省略
のストッパーに接当して,退避位置Bにセットされ,このとき,苗箱対地処理
装置1(移動車体2)の後方移動しても,シート繰出機構121から日除けシ
ート122の繰り出しが不能になる」。
(イ)以上によれば,甲10発明は移動車体2を用いた苗箱対地処理装置
であり,車体に回動可能に取り付けた支持腕123の先端に日除けシ
ート122を巻回したロール軸147が設けられている。この支持腕
を繰り出し位置にセットして車体を後方移動することにより日除けシ
ートを苗箱上に繰り出し,また日除けシートを繰り出し不能とするた
めに退避位置に位置変更自在とされており,支持腕123は本件発明
1のアームに対応するものである。
そうすると,甲10発明は,本件発明における芝刈機とは技術分野
が異なる苗箱の処理に関する装置である上,支持腕は日除けシートの
繰り出しと非繰り出しのために回動するものであって,請求項1発明
「」「」「」における水滴払用部材の取付部材である左右一対のアーム
が「回動可能に支持され」る構成について記載も示唆もないから,甲
10発明から相違点1の構成が容易想到ということはできない。
キ甲11刊行物
(ア)甲11刊行物(考案の名称「除雪機の排雪板)には,次の記載があ」
る。
・「除雪機のオーガー軸両端に受け金①を取り付け,これに支えられたアーム
②にセットされた排雪板③は受け金にセットした時に取り付けるスライド座金
④によって除雪機本体に有効な角度を保持できる。…(1頁3行∼7行)」
・「…『かき寄せ』機能を『吹きとばし』機能に転換する場合も,取り付けナ
ット⑥を緩めアーム②を直立させることによって排雪板③を取り外さずに本体
にセットしたまま本来の除雪機能を極めて短時間に転換できる等の機能を有す
る除雪機の鋼製の排雪板である(1頁下7行∼下1行)。」
・「積雪量が少ないとき,水分の多い雪質のとき『吹きとばし』のできない,
条件下での除雪作業は,通常オーガーのカバー上に跳ね上げてある排雪板を,
アーム③取付ナット⑥を緩めることによってオーガー前面に降ろし,雪がオー
ガー前面に平均して接するようにし,その上で取り付けナットを締めることに
より固定すれば排雪板を機能させることができる(4頁6行∼13行)。」
(イ)以上によれば,甲11発明は除雪機に関する技術であり,かき寄せ
作業をするための排雪板③をアーム②に取り付け,排雪板③を使用して
かき寄せ作業を行う場合と,排雪板③を使用せずに吹きとばし作業を行
う場合を切り換えるために,アーム②が回動可能となっており,このア
ーム②が本件発明1のアームに対応するものである。
そうすると,甲11発明は本件発明に係る芝刈機とは技術分野が異な
る上,アーム②の回動も除雪機の作業形態をかき寄せ作業と吹きとばし
作業に変換するためであって,請求項1発明における「水滴払用部材」
の「取付部材」である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持され」
る構成については記載も示唆もないから,甲11発明から相違点1の構
成が容易想到ということはできない。
ク甲12刊行物
(ア)甲12刊行物(発明の名称「育苗箱並列敷設装置)には,次の記載」
がある。
・【0001】
「【】,。」産業上の利用分野本発明は育苗箱並列敷設装置に関するものである
・【0004】
「発明の目的】載置場への育苗箱の載置作業の容易化,レールの左右両側の【
育苗箱の並列,載置スペースの有効利用,作業スペースの縮小化,踏み板の上
下機構の簡素化,上下調節の不要な踏み板の提供,走行枠体に掛かる重量負担
の軽減,全体の軽量化,作業の容易化」。
・【0013】
「しかして,前記レール2を挟んで左右両側に位置する走行枠体4の車体横
枠5の前側には,根切り用のネットを巻いてローラーにしたネットローラーま
たは根切り用のシートを巻いてシートローラー81(以下ネットローラー81
という)を交換自在に取付ける左右フレーム82を設ける。左右フレーム82
の左右両側には取付腕部83を設け,各取付腕部83間にネットローラー81
を回転自在に取付ける。前記左右フレーム82の上面には前後方向のアーム8
4の先端を固定し,アーム84の基部を軸85により走行枠体4側に回動自在
に軸着する。なお,アーム84と左右フレーム82と取付腕部83は,一体に
形成してもよく,これらは軸85を中心に一体的に回動する。…」
,,(イ)以上によれば甲12発明は苗箱並列敷設装置に関する技術であり
レール2上を走行する走行枠体4に,根切り用のネットを巻いたシート
ローラを有するアーム84を回動自在に軸着しており,アーム84が本
件発明1のアームに対応するものである。
そうすると,甲12発明は本件発明に係る芝刈機と技術分野が異なる
育苗箱の敷設に関する装置である上,根切り用ネットを繰り出すための
アームが回動可能になっていることが示されているだけで,請求項1発
明の水滴払用部材の取付部材である左右一対のアームが回「」「」「」「
動可能に支持され」る構成については記載も示唆もないから,甲12発
明から相違点1の構成が容易想到ということはできない。
ケ甲15,16の各刊行物
(ア)甲15刊行物は,イガラシ機械工業株式会社製のゴルフボール集球
機ローターレーキのカタログであり,甲16刊行物は,ゴルフダイジェ
スト発行のゴルフ場セミナー平成16年4月号である。そして,甲15
刊行物には「ローターは凸凹に対応します」と付記された集球部と推,。
測される部分が凸凹に合わせて上下動している様子が示されており,甲
16刊行物には,イガラシ機械工業株式会社製の集球機を展示した写真
がある。
(イ)以上によれば,甲15,16に記載された発明はゴルフ場で使用さ
れる集球機に関する技術ではあるが,ローターが凸凹に合わせて上下動
するに止まり,請求項1発明における「水滴払用部材」の「取付部材」
である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持され」る構成ないし退
避位置に退避可能な構成については記載も示唆もないから,甲15,1
6発明から相違点1の構成が容易想到ということはできない。
コ甲17刊行物
(ア)甲17刊行物(特許第3153096号公報,発明の名称「芝刈機
の昇降用バルブ構造,特許権者株式会社クボタ,公開日平成8年1」
1月12日)には,次の記載がある。
・【0001】
「産業上の利用分野】本発明は,油圧シリンダを介してモーアを昇降自在に【
走行機体に連結してある芝刈機に係り,詳しくは,モーア昇降用バルブのコン
パクト化に関する」。
・【0020】
「次に,昇降操作レバー10を下降位置に操作すると,主切換弁11が排出
位置Bに切換わり(主スプール11Sが図2中で左方に移動する,連係機構R)
の作用によって副スプール12Sが連れ動き,副切換弁12も排出位置Eに切
換えられる。すると,図4に示すように,シリンダポートcとタンクポートt
とが両切換弁11,12共に連通し,油圧シリンダ7から作動油が排出されて
モーア4がその自重によって自由下降し,所望の高さまで下降させることがで
きる。このときでは,チャージポンプPからの作動油は絞り13を介してチャ
ージ回路15aに供給されるようになっている。尚,この自由下降状態におい
て芝刈り作業を行うことによって,モーア4の自重付勢によりモーア4のゲー
ジ輪4Bが地面に接地してモーア4が所望設定高さで地面の起伏に沿って追従
するフローティング状態となり,芝の刈り高さを所望の設定高さで揃えること
ができるようになっている」。
(イ)以上によれば,甲17刊行物に記載の発明は,芝刈機に関する技術
,,でありモーアが地面の起伏に沿って追従することが記載されているが
モーアは芝を刈る装置自体であって,請求項1発明における「水滴払用
部材」の「取付部材」である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持
され」る構成ないし退避位置に退避可能な構成については記載も示唆も
ないから,甲17発明から相違点1の構成が容易想到ということはでき
ない。
サ甲18刊行物
(ア)甲18刊行物(特開昭62−134007号公報,発明の名称「自
走作業機,出願人株式会社佐藤製作所,公開日昭和62年6月17」
日)には,次の記載がある。
・「産業上の利用分野〕〔
本発明は,起伏の多い所や坂や凹凸地のある所などどのような条件の土地で
あっても極めて安定して走行し得る自走作業機に係るものである。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする問題点〕
草刈機のような農作業機には,後部にエンジンを搭載し,中央に操縦者が搭
乗する乗用自走四輪車の前部に車輪付作業機を連結するタイプのものが多い」。
(1頁左下欄下2行∼右下欄7行)
・「発明の効果〕〔
本発明は上述のように,起伏自在に連結した作業機の機枠と,乗用自走四輪
車の機枠前部間に発条を設けたからこの発条により作業機を引き起こそうとす
る力が乗用自走四輪車の機枠前部に加わるため作業機の重量が乗用自走四輪車
の前部に加重され,その加重された分だけ乗用自走四輪車の前輪の接地圧が増
,,加し坂や凹凸地における乗用自走四輪車の前輪の浮き上がり現象が防止され
それだけ安定走行が可能となり,ハンドルを切る通りに方向転換ができる操縦
性も良好となる。
その上作業機は,発条力により常に引き上げられる方向に対して引っ張られ
るから凹凸地の走行や石に乗り上げられたりした場合の作業機の起伏に対する
緩衝性も良好となり一層安定走行し得ることになる(2頁右下欄10行∼3。」
頁左上欄9行)
(イ)以上によれば,甲18刊行物に記載の発明は,草刈機等の自走作業
機に関する技術であり,乗用自走四輪車に設けられた作業機が地面の凹
凸に応じて上下動できるものであるが,請求項1発明における「水滴払
用部材」の「取付部材」である「左右一対のアーム」が「回動可能に支
持され」る構成ないし退避位置に退避可能な構成については記載も示唆
もないから,甲18発明から相違点1の構成が容易想到ということはで
きない。
シ甲19刊行物
(ア)甲19刊行物(特開昭62−285707号公報,発明の名称「車
両において使用する重量伝達制御装置,出願人ディーア・アンド・カ」
ンパニー,公開日昭和62年12月11日)には,次の記載がある。
・「技術分野
本発明は,車両の重量伝達装置に係り,特に,車両の前部に取付る刈取機な
どの機械の重量を車両にかけるための重量伝達制御装置に関する。
技術的背景
前部取付刈取機は,一般的には,傾斜地で運転する場合に,牽引上での問題
を有している。刈取機デッキは,通常,キャスタ輪上に支持されており,自動
車両によって押されて動かされる。…(2頁左上欄5∼13行)」
・「第2図及び第4図に示す最小じり伝達状態においては,予圧バネ82の作用
により,重量伝達制御装置40が刈取機28の重量の約20パーセントを車両
10に伝達する。車両に追加の重量を加えることが望まれるときは,運転者が
単にフットペダル42を押し下げれば,ねじりバネ70を巻いて,刈取機の重
量の20パーセントから約80パーセントの重量がねじりバネ70によって支
持される。第3図に示す最大重量伝達状態においては,状態伝達制御装置40
が,ねじりバネ70の作用により約80パーセントの重量を車両10に伝達す
る。しかし,その場合でも十分な刈取機の重量がキャスタ輪30に残されて,
それらキャスタ輪が常に地面に接して均一な刈取りを行うようにする(3頁。」
左下欄下3行∼右下欄12行)
(イ)以上によれば,甲19刊行物に記載の発明は,刈取機に関する技術
であり,刈取機のキャスタ輪が常に地面に接して均一な刈取りが行える
ものであるが,請求項1発明における「水滴払用部材」の「取付部材」
である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持され」る構成ないし退
避位置に退避可能な構成については記載も示唆もないから,甲19発明
から相違点1の構成が容易想到ということはできない。
ス甲20刊行物
(ア)甲20刊行物(特開平6−113616号公報,発明の名称「芝収
穫機,出願人株式会社クボタ,公開日平成6年4月26日)には,」
次の記載がある。
・【0001】
「産業上の利用分野】本発明は,専用機によって予め芝生を所定の縦横寸法【
にカットし,かつ,地面から剥離可能に根切された前処理状態の切り芝を拾い
集めて回収する芝収穫機に関するものである」。
・【0011】
「掻込み手段11は,左右のコンベヤフレーム12aに支点Pで揺動可能な
左右一対の揺動アーム11a,11aを前向きに突出配備し,その先端に設け
られた回転軸11bに複数の引起こしローラ11cを回転自在に支承して構成
されている。図11に示すように,引起こしローラ11c外周には,切り芝7
に食い込む多数の突起13a付きのゴム輪13が装着してある。…」
・【0014】
「図13に示すように,両端に球面接手27を備えた伸縮可能(例えば,前
部アームと後部アームとを初期付勢された巻きバネを介して嵌合連結すること
により,長手方向に変位可能となる構造)な揺動アーム11aと,両端に球面
接手27を備えて下回転軸12fと回転軸11bとを連結する支持ロッド28
とで掻込み手段11を自由ローリング自在に支持するとともに,両端に球面接
手27を備えた前後の支持ロッド29,30(前支持ロッド29は回転軸11
bと連結パイプ10cとを,後支持ロッド30は進入棒10aとコンベヤフレ
ーム12aとを夫々連結する)でガイド手段10を自由ローリング自在に支持
,。」し地面の起伏に応じて左右傾動するローリング構造に構成するものでも良い
(イ)以上によれば,甲20刊行物に記載の発明は,芝の収穫機に関する
ものであり,引起こしローラ11cを有する揺動アーム11aが地面の
起伏に応じて可動なものであるが,請求項1発明における「水滴払用部
材」の「取付部材」である「左右一対のアーム」が「回動可能に支持さ
れ」る構成ないし退避位置に退避可能な構成については記載も示唆もな
いから,甲20発明から相違点1の構成が容易想到ということはできな
い。
セ甲21刊行物
(ア)甲21刊行物(実公平1−44025号公報,考案の名称「モーア
の取付け構造,出願人久保田鉄工株式会社,公開日昭和60年5月」
30日)には,次の記載がある。
・「考案の詳細な説明】【
本考案は,モーアの走行車体に対する取付け構造に関する。
トラクタに装着されるモーア,モーア専用機を問わず,従来のモーアの取付
け構造にあっては,例えば,実公昭46−7389号公報,実公昭57−19948号公
報で開示されているように,ゲージ輪,ゲージソリ等のゲージ体はモーアデッ
キに装着されており,刈刃体が地面に対して平行度を保ちにくくまた,構造が
複雑であった(1欄21行∼2欄5行)。」
・「…本考案によれば,モーアデッキ22の作業進行方向側の左右に設けた接地
輪16,16のそれぞれは,前記モーアデッキ22とは別体とされて走行車体
1に装着されているモーア支持枠10に備えられ,前記モーアデッキ22は,
前記モーア支持枠10に刈り高さ調整機構33を介して支持され,該刈り高さ
,,調整機構33はモーア支持枠10に形成されている上下方向の挿通孔35と
モーアデッキ22側より上方に突出されていて前記挿通孔孔35を貫挿してい
る棒体34と,を有しており,該棒体34には,モーアデッキ22の上方向の
,移動を許容しかつ下方向の移動を阻止するストッパ36が備えられているので
地面の凹凸,前後左右の傾きがあっても,モーア,すなわち,刈刃体23は接
地輪16とは独立して上下動してその平行度乃至地面追従性を良好にできる」。
(5欄16行∼6欄6行)
(イ)以上によれば,甲21刊行物に記載の発明は,トラクタに装着され
るモーアを地面の凹凸に応じて上下動可能としたものであるが,請求項
1発明における「水滴払用部材」の「取付部材」である「左右一対のア
ーム」が「回動可能に支持され」る構成ないし退避位置に退避可能な構
成については記載も示唆もないから,甲21発明から相違点1の構成が
容易想到ということはできない。
(4)以上のとおり,原告が挙げる刊行物には,いずれも相違点1に係る構成
が開示ないし示唆されているということはできないから,これらを甲1発明
に適用することにより本件発明1の相違点1に係る構成が容易想到というこ
とはできない。
そうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由5∼7に
係る原告の主張はいずれも採用することができない。
5取消事由8∼10(甲2発明を主引用例とする請求項1発明の進歩性に関す
る主張〔審決の「理由C」に対する主張)について〕
(1)原告は,審決が甲2発明を主引用例とした場合に請求項1発明に進歩性が
,(),ある旨判断したことについて審決には甲2発明の認定の誤り取消事由8
請求項1発明と甲2発明との相違点の認定の誤り(取消事由9,進歩性判)
断の誤り(取消事由10)がある旨主張するので,以下,順次検討する。
(2)甲2刊行物の記載内容は,前記4(3)イのとおりであり,これによれば,
甲2刊行物には,審決が認定したとおり「車体1の前部には前ローラ5が,
設けられ,該前ローラ5は左右一対の前ローラ支持部材4により車体1に対
して昇降可能に支持されて刈り高さを調節できるようにしたリール式の回転
刈刃を有する芝刈機」との発明(甲2発明)が記載されているものと認め。
られる。
これに対し原告は,甲2発明における前ローラ5が水滴払機能を有するの
は明らかであるから,甲2発明は水滴払ローラを有すると認定すべきである
旨主張する(取消事由8。)
しかし,前記4(3)イのとおり,甲2発明における前ローラ5は,リール
式の回転刈刃13の前に位置し,カッターが芝を刈る前に芝を押さえ付ける
ものであるから,芝に露が付着していた場合,結果として水滴を払うことに
はなるということができるが,そのような機能は副次的なものにすぎず,甲
2発明における前ローラに水滴払い機能を求める旨の開示や示唆があるとい
うことはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)ア以上の甲2発明の認定を前提に,これと請求項1発明とを対比すると,
その一致点・相違点は,審決の認定と同様,次のとおりと認められる。
〈一致点〉
A,I:リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機。
〈相違点〉
リールカッター式の芝刈ユニットを備えた芝刈機において,請求項1
発明が芝の水滴を落とす手段として,
B:前記芝刈ユニットのハウジングの前部に左右一対のアームが回動
可能に支持され,
C:前記一対のアームの自由端部に水滴払用ローラが回転可能に支持
されることにより,前記水滴払用ローラが前記芝刈ユニットの前
方に配設されていると共に,
D:当該水滴払用ローラは,非使用時には使用位置に対して斜後上方
である前記芝刈ユニットの上部の退避位置に退避可能となってい

ことに対し,甲2発明は,そのような芝の水滴を落とす手段を有してい
ない点。
,,イこれに対し原告は甲2発明は水滴払ローラを有するとの理解を前提に
(),審決の認定に係る相違点の認定は誤りである旨主張するが取消事由9
前記(2)のとおり,甲2発明は水滴払ローラを有するとの前提において誤
りがあるから,上記主張は採用することができない。
(4)そして,甲2発明における前ローラ5は芝の刈り高さを調節するものであ
るため,芝刈機の使用時に上下動することは予定されていないから,同ロー
ラを支持する構成を請求項1発明のような回動可能なアームに置換すること
はできないし,前記4に説示したところに照らして明らかなように,原告が
挙げる刊行物を組み合わせることにより上記相違点の構成が容易想到という
こともできない。
したがって,取消事由10に関するその余の主張を検討するまでもなく,
原告の主張は採用することができない。
6取消事由11(甲3発明を主引用例とする請求項1発明の進歩性に関する主
張〔審決の「理由D」に対する主張)について〕
(1)甲3刊行物には,次の記載がある。
・【0011】
「図2及び図3に示すようにリールモア5は,螺旋状の複数個の回転刃14,直線
状の固定刃19,芝の刈り高さを調節する溝付きローラー15(リールモア5に対し
て上下位置変更自在,接地ローラー16及び回転刃14を回転駆動する油圧モータ)
17等を備えて構成されている。リールモア5が刈り取った芝を回収する箱状の集草
容器6,7が,各々のリールモア5の前部に備えられており,機体左右中央のリール
モア5の集草容器6は,平面視で略長方形状に設定されている」。
・【0012】
「…各集草容器6,7,6夫々の前部下方にはゲージ輪24を備えてある」。
・【0017】
「図3,図4に示すように,ゲージ輪24は,コ字形状のステー37にピン38を
介して回転自在に支持され,集草容器6,7の前部下部に形成された凹入部39に2
本のボルト40,40でステー37を固定してある。ゲージ輪24に作用する荷重を
ステー37との広い接触面積で受けることにより,集草容器6,7に局部的に大きな
荷重が掛からないようにしてある。又,ピン38用の孔37a上下方向に複数設けて
あり,集草容器6,7の地面からの高さを調節できるようにしてある」。
(2)以上によれば,甲3発明におけるゲージ輪24は,集草箱の下部に設け
られてその荷重を受けるとともに集草箱の地面からの高さを調節するための
ものであるから,リールモアの使用時に回動可能になってはならないもので
ある。そうすると,甲2発明と同様に,使用時にもアームが回動可能である
請求項1発明の構成を甲3発明のゲージ輪24に採用すると,甲3発明にお
いてゲージ輪24が求められている機能を果たすことができなくなるから,
甲3発明から請求項1発明の構成を想到することはできない。
そうすると,取消事由11に関するその余の主張を検討するまでもなく,
原告の上記主張は採用することができない。
(〔「,,」7取消事由12∼14請求項8発明に関する主張審決の理由ABC
に関する主張)について〕
請求項8発明の内容は,前記第3,1(2)【請求項8】のとおりであるとこ
ろ,同発明は,芝刈機に係る請求項1発明のうち水滴払用ローラユニットの部
分を独立した請求項としたものであり,同ローラユニット部に係る構成は請求
項1発明と同様である。
そうすると,甲1発明との関係における新規性判断(理由A)及び進歩性判
断(理由B)並びに甲2発明との関係における進歩性判断(理由C)について
は,いずれも請求項1発明について説示したところが妥当するから,請求項8
発明が上記各無効事由を有するということはできない。
この点原告は取消事由12∼14として取消事由3において主張した正,,「
しく認定されるべき相違点」を前提に,取消事由4∼8について主張した理由
により請求項8発明が無効である旨主張するが,かかる前提及び主張自体を採
用し得ないことは既に説示したとおりであるから,原告の取消事由12∼14
に係る主張はいずれも採用することができない。
(〔「,,」8取消事由15∼17請求項2発明に関する主張審決の理由ABD
に関する主張)について〕
請求項2発明の内容は,前記第3,1(2)【請求項2】のとおりであるとこ
ろ,同発明は,請求項1発明におけるリールカッター式の芝刈ユニットの前部
に集草箱が装着され,水滴払用ローラが同集草箱の前方に配設されているもの
であり,水滴払用ローラユニット部に係るその余の構成は請求項1発明と同様
である。
そうすると,甲1発明との関係における新規性判断(理由A)及び進歩性判
断(理由B)並びに甲3発明との関係における進歩性判断(理由C)について
は,いずれも請求項1発明について説示したところが妥当するから,請求項2
発明が甲1発明ないし甲3発明との関係で無効事由を有するということはでき
ない。
この点原告は取消事由15∼17として取消事由3において主張した正,,「
しく認定されるべき相違点」を前提に,取消事由4∼7,11について主張し
た理由により請求項2発明が無効である旨主張するが,かかる前提及び主張自
体を採用し得ないことは既に説示したとおりであるから,原告の取消事由15
∼17に係る主張はいずれも採用することができない。
9取消事由18(請求項9発明に関する主張〔審決の「理由A,B,D」に関
する主張)について〕
請求項9発明の内容は,前記第3,1(2)【請求項9】のとおりであるとこ
ろ,同発明は,芝刈機に係る請求項2発明のうち水滴払用ローラユニットの部
分を独立した請求項としたものであり,同ローラユニット部に係る構成は請求
項2発明と同様である。
そうすると,甲1発明との関係における新規性判断(理由A)及び進歩性判
断(理由B)並びに甲3発明との関係における進歩性判断(理由D)について
は,いずれも請求項2発明について説示したところが妥当するから,請求項2
発明が甲1発明ないし甲3発明との関係で無効事由を有するということはでき
ない。
この点原告は,取消事由18として,取消事由15∼17について主張した
理由により請求項9発明が無効である旨主張するが,かかる主張自体を採用し
得ないことは既に説示したとおりであるから,原告の取消事由18に係る主張
は採用することができない。
(,,〔「,10取消事由19∼21請求項346発明に関する主張審決の理由B
C,D」に関する主張)について〕
請求項3,4,6発明の内容は,前記第3,1(2)【請求項3【請求項4】】
【請求項6】のとおりであり,これらはいずれも請求項1又は2の従属項(請
求項4は請求項1・2の従属項である請求項3の従属項)である。
そして,請求項1発明及び請求項2発明がいずれも無効事由を有しないこと
は既に説示したとおりであるから,請求項3,4,6発明についても甲1発明
ないし甲3発明との関係で無効事由を有するということはできない。
したがって,その余の点を検討するまでもなく,原告の取消事由19∼21
に係る主張は採用することができない。
11結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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