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平成24年(行ヒ)第20号行政不服審査法による裁決取消,原処分取消請
求事件
平成24年11月20日第三小法廷判決
主文
原判決のうち被上告人に関する部分を破棄し,同部分に
つき第1審判決を取り消す。
前項の部分につき,本件を広島地方裁判所に差し戻す。
理由
上告人らの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1本件は,上告人らが,東広島市都市計画事業西条駅前土地区画整理事業(以
下「本件事業」という。)に関し,東広島市が土地区画整理法78条3項において
準用する同法73条3項に基づき上告人ら及び選定者A(以下「選定者A」とい
う。)を相手方として損失の補償につき行った土地収用法94条2項の規定による
裁決の申請は,土地区画整理法77条7項に基づき同市が自ら行うべき建築物等の
移転(以下「本件直接施行」という。)が完了していない段階のもので不適法であ
るから,上記裁決の申請を却下しないでされた広島県収用委員会の平成18年10
月24日付け裁決(以下「本件損失補償裁決」という。)は違法であると主張し
て,被上告人を相手に,本件損失補償裁決の取消しを求める事案である。なお,上
告人らは,本件と併合審理された訴えにおいて,東広島市の本件直接施行が完了し
ていない以上,本件損失補償裁決に対する上告人ら及び選定者Aの審査請求を棄却
した国土交通大臣の平成21年7月22日付け裁決(以下「本件裁決」という。)
も違法であると主張して,国を相手に,本件裁決の取消しをも求めていたが,原判
決のうちその請求を棄却すべきものとした部分は既に確定している。
2原審の確定した事実関係等の概要は次のとおりである。
(1)上告人X1(以下「上告人X1」という。),上告人X2(以下「上告人
X2」という。)及び選定者Aは,亡B(以下「B」という。)の相続人である。
(2)B所有の広島県東広島市西条本町に所在する木造瓦葺平家(一部2階)建
の建物その他工作物及び立竹木土石等(以下併せて「本件建物等」という。)並び
に選定者Aを代表者とする上告人X3(以下「上告人会社」という。)所有の同町
に所在する工作物等一式(以下「本件工作物等」という。)は,本件事業の平成1
5年度の移転区域に存していた。
(3)東広島市は,平成15年10月30日付けで,上告人X1,上告人X2及び
選定者Aに対して本件建物等の移転につき,上告人会社に対して本件工作物等の移
転につき,それぞれ期限を同16年2月10日とする土地区画整理法77条2項の
通知及び照会をした。
東広島市は,同年3月24日,同条7項に基づき本件直接施行に着手し,同年9
月29日,本件建物等及び本件工作物等を仮換地上に移動した上で,上告人ら及び
選定者Aに対し,本件直接施行の完了を通知した。
東広島市は,平成17年3月17日,同法78条1項の規定による損失の補償に
ついて上告人ら及び選定者Aとの間で協議をしたものの,当該協議が成立しなかっ
たとして,同条3項において準用する同法73条3項に基づき,上告人ら及び選定
者Aを相手方として,広島県収用委員会に損失の補償に係る裁決の申請をしたとこ
ろ,同委員会は,同18年10月24日,本件損失補償裁決をした。
(4)上告人ら及び選定者Aは,平成18年11月20日,本件損失補償裁決を
不服として,国土交通大臣に対し審査請求をしたところ,同大臣は,同21年7月
22日,上記審査請求を棄却する旨の本件裁決をした。本件裁決の裁決書の謄本
は,同月23日,上告人ら及び選定者Aに対して送達された。
上告人らは,平成22年1月19日,本件裁決の取消しを求める訴えを提起し,
同年6月1日,行政事件訴訟法19条1項に基づき,本件裁決の原処分である本件
損失補償裁決の取消しを求める訴えをこれに併合して提起した。
3原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件損失補
償裁決の取消しを求める訴えを却下すべきものとした。
土地収用法133条1項は,収用委員会の裁決に関する訴えは,損失の補償に関
する訴えを除き,裁決書の正本の送達を受けた日から3か月の不変期間内に提起し
なければならないと規定し,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間より短期の出訴
期間を定めている。そして,収用委員会の裁決に対して審査請求をした場合の当該
収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間についても,土地収用法133条1項の規
定が優先して適用される結果,行政事件訴訟法14条3項の定めにかかわらず,当
該取消訴訟は,当該審査請求に対する裁決の裁決書の正本の送達を受けた日から3
か月以内に提起しなければならない。本件損失補償裁決の取消しを求める訴えは,
同法20条により,本件裁決の取消しを求める訴えが提起された平成22年1月1
9日に提起されたものとみなされるところ,同訴えは,本件裁決の裁決書に係る送
達がされた同21年7月23日から3か月を経過した後に提起されたものであり,
出訴期間を徒過した不適法な訴えである。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)平成16年法律第84号(行政事件訴訟法の一部を改正する法律。以下
「平成16年改正法」という。)により,国民の権利利益のより実効的な救済手続
の整備を図る観点から,出訴期間の定めによる法律関係の安定を考慮しつつ,国民
が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するために,行政
事件訴訟法14条1項所定の取消訴訟の出訴期間が3か月から6か月に延長された
一方,平成16年改正法附則により,土地収用に係る法律関係の早期安定の観点か
ら,土地収用法に「収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第3項に規定する損
失の補償に関する訴えを除く。)は,裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不
変期間内に提起しなければならない。」との短期の出訴期間を定める特例規定(1
33条1項)が設けられた。しかし,収用委員会の裁決についての審査請求に対す
る裁決の取消訴訟の出訴期間については,このような不服申立てに対する裁決につ
き短期の出訴期間の特例を定める立法例がある中で,土地収用法に同様の特例規定
が設けられなかったことから,その取消訴訟の出訴期間は,行政事件訴訟法14条
1項及び2項により審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内
かつ当該裁決の日から1年以内とされることとなった。これは,審査請求がされた
場合における審査請求に対する裁決の取消訴訟については,同法の一般規定による
通例の出訴期間に服させ,訴えの提起の要否等に係る検討の機会を十分に付与する
のが相当であるとされたものと解される。
他方,審査請求をすることができる場合(行政庁が誤ってその旨を教示した場合
を含む。以下同じ。)において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の
出訴期間について,平成16年改正法による改正前の行政事件訴訟法14条4項
は,同条1項及び3項(現行の同条1項及び2項に相当)に対する起算点に限った
特則として,「第1項及び前項の期間は,…その審査請求をした者については,こ
れに対する裁決があったことを知った日又は裁決の日から起算する。」と規定する
にとどめていたが,平成16年改正法による改正後の行政事件訴訟法14条3項
は,同条1項及び2項とは別個の規定として,「処分又は裁決に係る取消訴訟は,
その審査請求をした者については,前2項の規定にかかわらず,これに対する裁決
があったことを知った日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経
過したときは,提起することができない。」と規定し,審査請求に対する裁決の取
消訴訟の出訴期間と起算点を含めて同一の期間と定めている。
(2)行政事件訴訟法14条3項は,審査請求をすることができる場合において
審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間の一般原則を定めるも
のであり,特別法の規定の解釈により例外的にその短縮を認めることについては,
国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同
条の改正の趣旨に鑑み,慎重な考慮を要する。
土地収用法に,収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における当該審査
請求に対する裁決の取消訴訟について短期の出訴期間を定める特例規定が設けられ
なかったのは,上記(1)のとおり,当該審査請求に対する裁決の取消訴訟について
訴えの提起の要否等に係る検討の機会を通例と同様に確保する趣旨であると解さ
れ,そうすると,収用委員会の裁決につき審査請求がされなかった場合に法律関係
の早期安定の観点から出訴期間を短縮する特例が定められているとしても,収用委
員会の裁決につき審査請求がされた場合における収用委員会の裁決の取消訴訟の出
訴期間について,これと必ずしも同様の規律に服させなければならないというもの
ではない。収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において審査
請求がされたときにおける当該裁決の取消訴訟の出訴期間と当該審査請求に対する
裁決の取消訴訟の出訴期間については,両者とも行政事件訴訟法14条3項を適用
して同一の期間と解することができるところ,むしろその解釈によることが,国民
が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同条の
改正の趣旨に沿ったものであるといえる。のみならず,行政事件訴訟法20条は,
同法19条1項前段の規定により処分の取消しの訴えをその処分についての審査請
求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合について,出訴期間の遵
守については処分の取消しの訴えは裁決の取消しの訴えを提起した時に提起された
ものとみなす旨を規定しており,これは,同法10条2項が裁決の取消しの訴えに
おいては処分の違法を理由として取消しを求めることができないとしていることを
看過するなどして処分の違法を理由とする裁決の取消しの訴えを提起した者につ
き,原処分の取消訴訟の出訴期間の徒過による手続上の不利益を救済することに配
慮したものと解されるところ,審査請求をすることができる場合において審査請求
がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間と裁決の取消訴訟の出訴期間に
つき,仮に特別法により前者が後者より短期とされれば,一定の範囲で行政事件訴
訟法20条による救済がされない場合が生ずることとなるのに対し,同法の一般規
定のとおり両者が同一の期間であれば,同条による救済が常に可能となるのであっ
て,上記のように両者を同一の期間と解することが同条の趣旨にも沿うものという
べきである。
したがって,収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合におい
て,審査請求がされたときは,収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間について
は,土地収用法の特例規定(133条1項)が適用されるものではなく,他に同法
に別段の特例規定が存しない以上,原則どおり行政事件訴訟法14条3項の一般規
定が適用され,その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内
かつ当該裁決の日から1年以内となると解するのが相当である。
(3)以上によれば,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えの出訴期間は,本
件裁決があったことを知った日から6か月以内かつ本件裁決の日から1年以内(行
政事件訴訟法14条3項)となるところ,本件損失補償裁決の取消しを求める訴え
は,本件裁決の裁決書の謄本が送達されて当該裁決があったことを知った日から6
か月以内であって本件裁決の日から1年以内の平成22年1月19日に提起された
本件裁決の取消しを求める訴えに,同法19条1項前段の規定により追加的に併合
して提起されたものであり,同法20条によって同日に提起されたものとみなされ
ることから,出訴期間を遵守して提起されたものというべきである。
5以上のとおり,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過し
た違法なものであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち被上
告人に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,第1審判決を取り消
し,①本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って行われ,同法78条
1項の「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除却したこ
とにより他人に損失を与えた場合」に当たるものとして,かつ,②同法78条3
項において準用する同法73条3項の「前項の規定による協議が成立しない場合」
に当たるものとして,施行者である東広島市が広島県収用委員会の裁決を申請する
ことができるのか否か等,本件損失補償裁決の適法性について審理させるため,本
件を第1審に差し戻すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦
夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
本件は,差戻審において,本件損失補償裁決の適法性が一から審理されることに
なるところ,その審理の参考に供する趣旨で,本件記録から認められる若干の問題
点について私の考えるところを以下に補足的に指摘しておくこととする。
(1)本件直接施行の瑕疵の有無について
本件損失補償裁決が適法か否かの判断をなすに当たっては,その裁決と前提とな
る各手続の瑕疵の有無が問われるところ,本件においては,本件直接施行が土地区
画整理法77条の規定に基づくものと評価できるか否かが問われることとなる。
ところで,上告人らの主張によれば,東広島市が上告人らに対して,平成15年
10月30日付で,同16年2月10日を期限とする同条2項に基づく本件「通知
及び照会」をした時点では,その移転先たる本件仮換地は,同地上に存したパチン
コ店等の取壊し,撤去が未だなされておらず,その後に行われる宅地造成工事等の
完成予定日も未定であったというのである(原判決の認定によれば,仮換地の造成
工事の完成検査は,本件「通知及び照会」で移転期限とされた平成16年2月10
日より後の同年3月30日である。)。
上告人らの上記主張どおりの事実が認められる場合には,本件「通知及び照会」
に定められた期限内に上告人らにて本件建物等を移転することは物理的に可能であ
ったか否か自体に疑問が存し,仮に,その期限内に移転することが物理的に困難で
あったと認められる場合には,本件「通知及び照会」の瑕疵は重大なものといわざ
るを得ず,ひいては本件直接施行をもって同条に基づくものと評価することができ
るか自体に疑問が生じるといわざるを得ない。
また,上告人らは,本件建物は,建築基準法施行前の建物であって,その移転工
事をするには,同法に基づき建築確認手続が必要である旨主張しているところ,仮
に上告人ら主張どおり建築基準法の手続が必要であるならば,本件における移転期
限を定めるに当たっては,その手続に必要な期間をも考慮する必要があるといえる
のであって,かかる観点からも,本件「通知及び照会」の瑕疵の有無及び程度が検
討される必要があるといえよう。
(2)土地区画整理法78条1項の移転の完了の有無について
上告人らは,本件建物の移転は,建築基準法に定められた手続を経ていないか
ら,土地区画整理法78条1項の移転の完了とはいえないと主張しているのに対
し,原判決は,同項の移転の完了の有無は施行者の判断に委ねられているところ,
直接施行による移転が完了したとするには,施行者が物理的に移転したものと判断
し,その旨を客観的に明らかにすれば足りる旨判示する。
しかし,同法77条7項による移転が行われる場合,その建築物等の所有者及び
占有者は,その移転の開始から完了に至るまでの間は,その建築物等を使用するこ
とができないとされ(同条8項),その完了後にはその使用をすることができると
ころ,それは,移転前において適法な状態の建物として使用することができていた
場合には,移転後においても適法な建物として使用できることが予定されていると
いえるのであって,単に物理的に移転を終えただけでは,直ちには,同法78条1
項の移転の完了とは評価し得ないものというべきである。
ところで,上告人らは,曳家工法で移転がなされた本件建物は,その移転前は建
築基準法施行の際に現に存する建物として同法は適用されない建物であったところ
(同法3条2項),曳家工法による移転であっても,その移転には同法の適用があ
る旨主張している。
上告人らの主張するとおり本件建物の移転にも同法が適用されるならば,移転し
た建物が同法に違反する場合には,同法9条により除却,修繕,使用禁止,使用制
限等の措置を命じられる可能性が存するのであり,仮に本件移転後の建物に対して
上記措置が命じられる現実の可能性が存するときには,物理的に移転したことのみ
をもって移転が完了したと評価できるかは疑問であるといわざるを得ない。
原判決の如く,移転後の建物につき建築基準法が適用されるか否か,適用される
場合には,本件建物が同法の定める基準に適合しているか否か,適合していない場
合に上記措置が命じられる可能性の有無,程度等について何らの検討を加えること
なく,物理的な移転の完了をもって,土地区画整理法78条1項の移転が了したと
解するのは,粗雑な解釈であるといわざるを得ない。
また,仮に移転した建物が建築基準法上の違法な建築物として是正命令の対象た
り得るような建物である場合に,土地区画整理法78条1項の定める「通常生ずべ
き損失」を適正に算定することができるかについては,大いに疑問である。
差戻審においては,以上の諸点をも参考にして,更に審理が尽くされることを望
むものである。
(裁判長裁判官寺田逸郎裁判官田原睦夫裁判官岡部喜代子裁判官
大谷剛彦裁判官大橋正春)

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