弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴は棄却する。控
訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 事実関係について、被控訴代理人は「控訴人は訴外共生林産株式会社の代表取締
役であつたが、昭和二八年四月二〇日これを辞任し、訴外Aかその地位に就いた
(その旨の変更登記は同年五月一日経由した)。
 訴外Aは控訴人の承認のもとに(一)金額一一二、八四二円、支払期日同年五月
二五日支払地振出地ともに大阪市、支払場所協和銀行堀江支店、受取人訴外中谷運
輸作業株式会社、振出日同年四月二四日、振出入共生林産商事株式会社代表Bとす
る約束手形一通、(二)金額六三、〇〇〇円支払期日同年七月二五日、受取人訴外
山本鉄工株式会社その他の手形要件前同一の約束手形一通、(三)金額四九、三七
七円、支払期日同年八月二五日その他の手形要件前同一の約束手形一通を振り出
し、被控訴人は(一)の手形を第二裏書人訴外C商店より、(二)(三)の手形を
各受取人より裏書譲渡を受け、(一)の手形を支払期日の翌日(二)の手形を同年
七月二八甘(三)の手形を同年九月二日それぞれ支払場所に呈示して支払を求めた
がいずれも拒絶された。ところで共生林産商事株式会社という法人は存在しないか
ら、前記各手形は控訴人個人が振り出したものというべきである。よつて右(一)
(二)(三)の各手形金額およびこれに対する(一)については昭和二八年五月二
七日以降(二)については同年七月二九日以降(一)については同年九月四日以降
各支払済みまで年六分の利息の支払を求めるため本訴におよんだ、仮に前記各手形
に表示された振出入共生林産商事株式会社という名称が訴外共生林産株式会社の通
称であるとしても、控訴人は昭和二八年四月二〇日右訴外会社の代表取締役を辞任
し、訴外会社の代表権限を有しなくなつてから、訴外Aが控訴人の承認のもとに控
訴人に代つて控訴人の記名捺印をして本件手抄を振り出したものであるから、控訴
人は訴外会社の代理権を有しないのに、代理人として本件各手形に署名したものと
いうべく、結局控訴人は無権代理人として手形法第八条により手形上の責任を負う
べきである。よつてこれを予備的請求原因として前記各金員の支払を求める。」と
述べ、控訴代理入は「控訴人が訴外共生林産株式会社の代表取締役であつたが昭和
二八年四月二〇日これを辞任し、訴外Aがその地位に就いた(その変更登記がなさ
れたのは同年五月一日である)ことはこれを認めるが、その余の被控訴人主張事実
は争う。控訴人は控訴人主張の約束手形三通を振り出したことはない。手形の振出
は通名でなすことができ、本件各手形は訴外共生林産株式会社の代表取締役である
訴外Aが、控訴人が訴外会社と関係を有しなくなつた後に、共生林産商事株式会社
という通名を用いてその代表者を控訴人として振り出したものであるから、振出人
は訴外会社である。控訴人にその支払義務はない。」と述べた。
 証拠として、被控訴代理人は甲第一、二、三号証、第四号証の一、二、第五、
六、七号証を提出し、甲第一、二、三号証の振出部分の作成者は控訴人であると述
べ、原審での証人D、Eの各証言、被控訴会社代表者本人の各供述を援用し、控訴
代理人は原審での控訴本人の供述、当審での証人Aの証言を援用し、甲第一、二、
三号証の振出部分は否認する、その他の部分は不知、第六号証は不知、その余の甲
骨各証は成立を認める、と述べた。
         理    由
 控訴人は訴外共生林産株式会社の代表取締役であつたが昭和二八年四月二〇日こ
れを辞任し、訴外Aがその地位についた(その旨の変更登記は同年五月一日なされ
た)こと、訴外Aが同年四月二四日振出人を共生林産商事株式会社代表者Bとする
被控訴人主張の本件三通の約束手形を振り出したことは当事者間に争いがない。
 ところで、被控訴人はまず共生林産商事株式会社という法人は架空不存在である
ことを前提として本件手形三通の振出人は控訴人であると主張する。しかしながら
成立に争いのない甲第五号証、真正に成立したと認められる甲第六号証、原審での
控訴本人の供述、当審での証人Aの証言によれば、共生林産商事株式会社という名
称は登記簿上の商号を共生林産株式会社と呼ぶ実在する法人の通称であつて、同会
社は銀行取引はもちろんその他一般取引においてもすべて右通称を使用しているこ
とを認めることができる。手形行為者が自己を表示するのに正式の氏名商号をもつ
てせず、通称を用いることはなんら差支えのないことである。
 それは自然人の場合に限ることではなく、法人にあつても同じことで、法人であ
るが故に別異に解すべき理はない。法人の機関が法人を手形行為者と表示するに当
つて、その法人の登記簿丑の名称でなく、その通称を記載することは許されること
である。本件手形に振出人と表示された共生林産商事株式会社という名称が実在す
る共生林産株式会社の通称である以上、振出人は架空の法人ということはできない
から、本件第一位の請求はその他の争点について判断するまでもなく失当として排
斥する。
 <要旨>次に予備的請求原因について判断する。手形法第七七条第二項によつて約
束手形に準用される手形法第八条</要旨>第一項前段は、代理権を有しない者が代
理人として手形に署名したときは自らその手形により義務を負わねばならないこと
を明定する。同条項によつて自称代理人(自称代表者)の責任を問うためには、そ
の者が代理権(代表権限)を有しないのに、手形に代理人(代表者)として自署ま
たは記名捺印したものでなければならないことはもちろんであるが、これのみでは
足らないのであつて、手形行為の相手方または手形取得者が善意で代理人(代表
者)であると信じたことと、手形に表示された本人に手形上の責を帰することがで
きない場合であることを要し、表見代理の成立、無権代理行為の追認その他の事由
によつて本人が手形上の責任を負う場合には、自称代理人は右法条に規定する責を
負わないものと解するのが相当である。なんとなれば、同法条は代理権(代表権
限)があると信じた善意の手形行為の相手方や手形取得者の信頼利益を保護する一
方、代理行為(代表行為)の効果が本人に帰する旨を手形に表示した無権代理人
(代表者)の責任を認めることによつて手形の円滑な流通を助長しようとする規定
であるから、本人に手形上の責任を帰せしめ得る以上手形取得者の信頼は裏切られ
ることなく、従つてその保護に欠けるところはないのであるし、同条は決して本人
と自称代理人の双方に対し手形上の権利を行使し得ることを認めた規定ではないか
らである。本件についてみるに、当事者間に争いのない事実に前記甲第六号証、原
審での証人Eの証言、被控訴会社代表者本人および控訴本人の各供述、当審での証
人Aの証言を総合すれば「訴外共生林産株式会社の資本は実質上その全額を控訴人
の出資に仰いでいた関係で、控訴人はその代表取締役に就任したが、歯科医を専業
として営んでいるので、訴外会社の運営の実際画はこれを訴外Aに任せ、手形の振
出裏書等も訴外Aが控訴人の承諾のもとにその記名押印をなし訴外会社代表者B名
義でおこなつてきた。甲第一ないし三号証の本件手形は、控訴人が代表取締役であ
つた当時、訴外会社が被控訴人から割引を受けていた振出人大極東パルプ株式会
社、裏書人共生林産商事株式会社代表者Bとする約束手形について、裏書人として
償還支払を求められ、その支払に窮した結果、訴外Aが控訴人とともに被控訴会社
代表者に会見して分割払を懇請し、その数日後の昭和二八年四月二四日訴外Aが従
来の仕方で振り出し(ただし受取人欄白地)被控訴会社代表者に交付したものであ
る。その時はすでに控訴人は訴外会社の代表取締役を辞任し訴外Aがその後継者に
なつていたのであるが、その変更登記はおくれて同年五月一日なされた。訴外Aが
本件各手形を振り出すに当つて、自己を訴外会社の代表者と表示せず控訴人を代表
者として表示したのは、右変更登記が済んでいなかつた上に訴外会社の銀行取引が
控訴人代表名義になつていたのと、従前の手形上の代表名義が控訴人名義になつて
いたので、これらに合せたのである。被控訴会社はもとより控訴人か代表取締役を
辞したことを知らず善意であつた。」ことを認めることができる。以上の認定事実
に照すと、本件各手形に表示された振出人訴外会社の代表者としての控訴人の記名
捺印は訴外Aが控訴人の承諾のもとに作出したもので、振出日当時控訴人は訴外会
社の代表者ではなかつたのであるから、本件各手形は訴外会社の代表権を有しない
控訴人が訴外会社の代表者として記名捺印したものというに妨げないし、かつ被控
訴人は控訴人が訴外会社の代表者であると信じ、善意で本件各手形を受け取つたも
のである。しかしながら訴外会社は本件各手形の振出人として被控訴会社に対し本
件各手形上の責を免れ得ない関係にあるものといわなければならない。何故かとい
えば、まず、本件各手形振出当時控訴人は訴外会社の代表取締役を辞任していたの
であるが、その旨の変更登記がなされていなかつたのであるから、訴外会社は善意
の被控訴人その他の第三者にこれを対抗できず、従つて被控訴人は手形面に表示さ
れたとおり控訴人を訴外会社の代表者であると主張でき、たやすく訴外会社の責任
を問い得る理である。また本件各手形に便宜上控訴人を訴外会社の代表者と表示し
た者は、ほかでもない訴外会社の代表取締役の訴外A自身である以上、それは訴外
会社が本件手形行為の相手方および手形取得者に対し、控訴人に本件各手形の振出
権限を与えた旨を表示したものとみるべきであり、またそうでないとしても訴外会
社は右Aの作出による控訴人の本件無権振出行為の追認を拒否することは許され
ず、これらの点からしても、訴外会社は本件各手形の振出人としての責任を否定で
きない筋合いであるからである。訴外会社が本件各手形の振出人としての責に任ず
る以上、前述の理により、控訴人は手形法第八条の自称代理人の責を有しないもの
と結論しなければならない。これと異なる前提に立つ被控訴人主張の予備的請求は
その余の争点についての判断をなすまでもなく失当として排斥する。
 されば被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三
八六条第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 田中正雄 判事 神戸敬太郎 判事 平峯隆)

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