弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小林正、同大塚春富の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りであ
る。
 弁護人小林正上告趣意第一点について。
 しかし原判決は所論の本件記録添附の写真及検証調書を証拠に引用したものでは
なく専ら原審証人Aの証言によつて被害者を狩野川に投込んだ事実を認定したもの
であるから右写真と検証調書に不一致の点があつたとしても相反する二個の証拠を
採用したことにはならない、なお実地検証をなすべきか否かを決することは原審の
自由裁量にまかせられてあるので上告人の申請にかかる実地検証申請を採用しない
からとて所論の如き違法はない、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし被害者Aが橋上から川中におとされるときの姿勢については、原審の引用
した原審証人Aの証言によれば被告人は右手で被害者の右腋下左手で被害者の両足
を持ち抱き上げて川の中に放り込んでしまいました、とあつて所論の如き姿勢即ち
被害者の身体が横にひろがつた姿勢で投込まれたとは供述していないばかりでなく、
投込まれた所には橋の手摺はなかつたと供述しているから、大門橋の構造は所論の
如きものであるとしても被害者を川に投込むことは不可能であるとは断言できない
から原審の認定に所論の如き違法ありとは認め難い、論旨は理由がない。
 第三点について。
 論旨は被告人に殺意のなかつたことを述べているのであるが所論の如き事情があ
つたとしても原判決挙示の証拠を総合すれば優に判示事実を認定し得るのであつて
所論の如き違法は認め難い要するに論旨は原審の事実誤認を非難することに帰着す
るから採用し難い。
 第四点について。
 しかし所論の如く予審におけるAの証言は信用すべからざるものであるとしても
其為に同人のなした原審における証言もまた信用できないものであると断定するこ
とはできない、そして証拠の採否及び証拠調の限度は原審の自由裁量にまかせられ
ているのであるから原判決挙示の証拠により犯罪事実は明瞭であると認めた以上は
被告人の申請にかかる証人を喚問しないからとて所論の如き違法とはならない、論
旨は理由がない。
 弁護人大塚春富上告趣意第一点について。
 しかし通常人は一般に精神状態は正常であるとの推定を受けるものであるから特
別の事情のない限り被告人は犯行当時刑事責任能力を有していたことを証拠によつ
て認定する必要はない、たゞ被告人は心神喪失状態であるとの主張がある場合には
判決において之に対する判断を示さなければならないことは刑事訴訟法第三百六十
条第二項により明らかであるが本件においては被告人からもまた弁護人からも被告
人は犯行当時、心神喪失状態であつたとの主張をしていないことは記録上明らかで
あるから原判決においてことさらに被告人が刑事責任能力者であることを証拠によ
つて明白にしないからとて所論の如き違法はなく、従つて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし、原審においては、被告人は犯行当時心神耗弱の状態であつたとは認定し
ていないのであるから法律上の減軽をしないことは当然である、論旨前段は原審の
認定しない事実を前提として立論しているので上告理由とはならない。
 論旨後段は原判決は証拠法則を無視して減軽事実を認めない違法があるというの
であるが、原判決挙示の各証拠により優に判示事実を認定することができ心神耗弱
者と認むべき何等の形跡も認められない、しかのみならず被告人からもまた弁護人
からも被告人は心神耗弱状態であつたことは主張していないことは記録上明らかで
あつて所論の如き証拠法則違背は認め難い、従つて論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第四百四十六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二十三年七月二十七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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