弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
  上告代理人植草宏一、同吉田正夫、同吉宗誠一の上告理由第一点の一、二、第
二点及び第三点について
 一 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」とい
う。)一九条は、事業者は不公正な取引方法を用いてはならないと定めているとこ
ろ、同法二条九項二号は、右の不公正な取引方法に当たる行為の一つとして、不当
な対価をもって取引する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるものの
うち、公正取引委員会が指定するものを掲げ、右規定を受け、昭和二八年公正取引
委員会告示第一一号の五(以下「旧指定の五」という。)により「不当に低い対価
をもって、物資、資金その他の経済上の利益を供給……(す)ること」が指定され、
その後昭和五七年同委員会告示第一五号の6(以下「一般指定の6」という。)に
より旧指定の五が改正され、「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要
する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、……他の事業者の事業活動を困難
にさせるおそれがあること」が指定されている(以下、これらの行為に対する独占
禁止法上の規制を「不当廉売規制」という。)。このようなしくみによって不当廉
売規制がされているのは、自由競争経済は、需給の調整を市場機構に委ね、事業者
が市場の需給関係に適応しつつ価格決定を行う自由を有することを前提とするもの
であり、企業努力による価格引下げ競争は、本来、競争政策が維持・促進しようと
する能率競争の中核をなすものであるが、原価を著しく下回る対価で継続して商品
又は役務の供給を行うことは、企業努力又は正常な競争過程を反映せず、競争事業
者の事業活動を困難にさせるなど公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれが多いと
みられるため、原則としてこれを禁止し、具体的な場合に右の不当性がないものを
除外する趣旨で、旧指定の五にいう「不当に」ないし一般指定の6にいう「正当な
理由がないのに」との限定を付したものであると考えられる。そして、その根拠規
定である独占禁止法一九条の趣旨も、公正な競争秩序を維持することにあるのであ
るから、右の「不当に」ないし「正当な理由がないのに」なる要件に当たるかどう
か、換言すれば、不当廉売規制に違反するかどうかは、専ら公正な競争秩序維持の
見地に立ち、具体的な場合における行為の意図・目的、態様、競争関係の実態及び
市場の状況等を総合考慮して判断すべきものである。
 ところで、と畜場は、食用に供する目的で獣畜をと殺し又は解体するために設置
される施設であり、その経営及び獣畜の処理の適正を欠くと食肉の衛生確保及び環
境衛生上好ましくない事態が生ずるおそれがあるところから、かかる事態を防止し
公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的としてと畜場法(昭和二八年法律第
一一四号)が制定され、と畜場の設置管理者又はと畜業者は、と畜場使用料又はと
殺解体料(以下、これらを「と場料」という。)の額の設定及び変更については都
道府県知事の認可を受けなければならず(同法八条一項)、右認可額を超えると場
料を受けてはならないと規定している(同法八条二項)。かかると場料の認可制度
は、公営中心主義に立っていた旧屠場法(明治三九年法律第三二号)の当時から採
られており、民営と畜場の適正な普及を企図すると畜場法において右のとおり引き
継がれたものであるが、その趣旨とするところは、と畜場が公共的性格を有し、独
占ないし寡占に陥り易い性格の業態であって、顧客保護の必要があるため、申請に
係ると場料が高額に過ぎないか否かの判断を認可行政庁に委ねることとしたもので
あり、その限りで事業者の自由な価格決定は制限を受けることとなるが、と場料の
認可額は個々のと畜場ごとに異なるばかりでなく、その額の設定及び変更の申請に
当たり各事業者による自主的、裁量的判断の働く余地もあることは明らかである。
また、独占禁止法二条一項は、事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行
う者をいうと規定しており、この事業はなんらかの経済的利益の供給に対応し反対
給付を反覆継続して受ける経済活動を指し、その主体の法的性格は問うところでは
ないから、地方公共団体も、同法の適用除外規定がない以上、かかる経済活動の主
体たる関係において事業者に当たると解すべきである。したがって、地方公共団体
がと場料を徴収してと畜場事業を経営する場合には、と畜場法による料金認可制度
の下においても不当廉売規制を受けるものというべきである。
 二 これを本件についてみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙
示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実によれば、(一) 上告人は東京都
荒川区内にD(以下「D」という。)を設置して獣畜のと殺解体業を営むと畜業者
であり、被上告人は東京都港区内の東京都中央卸売市場食肉市場(以下「都食肉市
場」という。)に併設されている東京都立芝浦屠場(以下「芝浦」という。)の設
置管理者としてと場料を徴収してと畜場事業を経営する地方公共団体であって、東
京都二三区内において、一日一〇頭以上の大動物(牛・馬)の処理能力を有する一
般と畜場は右の二つのみである、(二) 芝浦におけると場料の実徴収額(大動物一
頭当たりのもの、以下同じ。)は、東京都知事の認可額どおりであるとはいえ、昭
和四〇年度以降継続して原価を大幅に下回り、本件係争年間(昭和五四年四月一日
から昭和五八年一二月二日まで)における額は二四八〇円ないし三四八〇円であっ
たのに対し、Dにおいては、長年にわたり実徴収額が認可額を下回り、本件係争年
間において、認可額は八〇〇〇円であるのに実徴収額は五八〇〇円にとどまった、
(三) 生産者の出荷先は広範囲に及び、本件係争年間において大動物につき一日の
処理能力又は実処理頭数が一〇頭以上の規模を有する一般と畜場は、首都圏を含む
関東及び東北の一都一一県の五九事業者にのぼり、D及び芝浦は、右事業者との間
でそれぞれ競争関係に立ち、うち四七事業者がDのと場料の実徴収額より低い認可
額で営業し、その半分近くが民営業者であって、上告人の右実徴収額が認可額を下
回ったのも、独り芝浦のと場料が低額であったことによるものではなく、他の競争
事業者との関係から、そうせざるを得なかったからである、(四) 芝浦に生体を出
荷する生産者は、都食肉市場の卸売業者に対しと畜解体及び販売を委託する際、と
場料のほか、委託手数料等を負担するのに対し、市場外流通であるDの場合にはそ
の負担がない、(五) 近年における食肉需要の増加、生産構造の変化、生体流通か
ら枝肉又は部分肉流通への変化に伴い、生産地に近い食肉センター型のと畜場のシ
エアが著しく増加し、Dのような消費地型の単独と畜場のシエアは衰退傾向にある
のに対し、消費地型ではあっても食肉市場に併設されている芝浦では、Dに比し衰
退傾向がそれほどではない、というのである。
 そこで、検討するに、被上告人は、と場料を徴収してと畜場事業を経営する地方
公共団体であるが、昭和四〇年度以降、本件係争年間を含め、認可額どおりである
とはいえ原価を著しく下回ると場料を徴収してきたものであって、このように芝浦
のと場料が長期間にわたり低廉で推移してきたのは、原審が適法に確定したところ
によると、と場料の値上げには生産者が敏感に反応して、芝浦への生体の集荷量の
減少、都食肉市場の卸売価格ひいて都民に対する小売価格の高騰を招く可能性があ
るところから、かかる事態を回避して集荷量の確保及び価格の安定を図るとの政策
目的達成のため、赤字経営の防止よりは物価抑制策を優先させることとし、東京都
一般会計からの補助金により赤字分を補填してきたことによる、というのである。
料金認可制度の下においても不当廉売規制が及ぶことは前記説示のとおりであり、
また、公営中心主義を廃止したと畜場法の下において、公営企業であると畜場の事
業主体が特定の政策目的から廉売行為に出たというだけでは、公正競争阻害性を欠
くということはできないことも独占禁止法一九条の規定の趣旨から明らかである。
しかしながら、被上告人の意図・目的が右のようなものであって、前示のようなD
及び芝浦を含むと畜場事業の競争関係の実態、ことに競争の地理的範囲、競争事業
者の認可額の実情、と畜場市場の状況、上告人の実徴収額が認可額を下回った事情
等を総合考慮すれば、被上告人の前示行為は、公正な競争を阻害するものではない
といわざるを得ず、旧指定の五にいう「不当に」ないし一般指定の6にいう「正当
な理由がないのに」した行為に当たるものということはできないから、被上告人の
右行為は独占禁止法一九条に違反するものではない。これと同旨の原審の判断は、
正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、
原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は以上と異なる
見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第一点の三について
 と場料については、前示のとおり認可制度が採られているが、と畜場法及びその
他の法令においてと場料の額の下限を規制する規定及び認可額の変更の時期等に関
する規定は存しないから、被上告人の認可に係ると場料の額が著しく不相当になっ
たとしても、これを是正しないことが競争業者である上告人に対する関係において
直ちに違法となるものではない。これと同旨の原審の判断は正当として是認するこ
とができ、論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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