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平成25年10月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第32450号特許を受ける権利確認等請求事件
口頭弁論の終結の日平成25年10月1日
判決
東京都江東区<以下略>
原告地方独立行政法人東京都立産業
技術研究センター
同訴訟代理人弁護士吉野正己
佐藤貴史
東京都目黒区<以下略>
被告国立大学法人東京工業大学
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
柳下彰彦
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1特願2011-148123号の発明について,原告が被告とともに特許を
受ける権利を有することを確認する。
2被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日か
ら支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告が被告とともに被告のした特許出願に係
る特許を受ける権利を有することの確認を求めるとともに,原被告間の共同研
究契約について,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,弁護士費用相当
損害金100万円を含む1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の
全趣旨により認められる事実)
(1)原告と被告は,国立大学法人北海道大学とともに,平成21年4月1日,
研究題目を「コラーゲン高密度化技術による自家骨移植代替向け人工骨の開
発」とし,研究期間を平成21年4月1日から平成22年3月31日までと
する共同研究の実施に関する契約を締結し,平成22年4月1日,研究題目
を「コラーゲン高密度化技術による自家骨移植代替向け人工骨の開発」とし,
研究期間を平成22年4月1日から平成23年3月31日までとする共同研
究の実施に関する契約を締結した(以下「本件共同研究契約」という。)。こ
れにつき作成された共同研究契約書(甲1の2)には,被告を甲,北海道大
学を乙,原告を丙として,次の記載がある。
ア10条(研究成果の帰属)
「甲,乙及び丙は,自己の研究担当者が研究成果を得た場合において,当
該研究担当者から当該研究成果に関する権利を取得したときは,これを
他の当事者に通知し,かつ,次項及び第4項の規定に従い,当該研究成
果の帰属を決定する。」(2項)
「甲の研究担当者,乙の研究担当者又は丙の研究担当者が単独で得た研究
成果は,それぞれ,甲,乙又は丙の単独所有とし,また,甲の研究担当
者,乙の研究担当者及び丙の研究担当者中の二以上の研究担当者が共同
して得た研究成果は,当該研究担当者の属する当事者の共有とする。」(3
項)
イ11条(特許等の出願)
「甲,乙及び丙は,甲の研究担当者,乙の研究担当者又は丙の研究担当者
が単独で得た発明等(以下「単独発明等」という。)に関し,特許等の出
願をし,自己の単独発明等に関する特許権等(以下「単有特許権等」と
いう。)を維持するときは,それぞれ単独で,当該特許等の出願及び当該
単有特許権等の維持のための手続を行う。この場合,甲,乙及び丙は,
それぞれ当該特許等の出願及び当該単有特許権等の維持に要する費用を
負担する。」(1項)
「甲,乙及び丙は,甲の研究担当者,乙の研究担当者及び丙の研究担当者
中の二以上の研究担当者が共同して得た発明等(以下「共同発明等」と
いう。)に関し,特許等の出願をし,共同発明等に関する特許権等(以下
「共有特許権等」という。)を維持するときは,共同して,当該特許等の
出願及び当該共有特許権等の維持のための手続を行う。この場合,当該
特許権等を共有する当事者(以下「共有当事者」という。)は,当該共有
当事者間において別に締結する特許等の共同出願に関する契約において,
共同発明等に関する特許等を受ける権利及び当該共有特許権等に対する
持分の割合,当該特許等の出願及び当該共有特許権等の維持に要する費
用の負担その他当該共同発明等の取扱いに関する事項を定める。」(2項)
ウ17条(研究成果の公開・発表)
「甲,乙及び丙は,研究期間中及び研究期間終了後6か月間(研究期間が
2年度以上に及ぶときは,各年度の終了後6か月間とする。)に,研究成
果(研究期間が2年度以上に及ぶときは,各年度に得られた研究成果と
する。)を公開し,又は発表するときは,当該研究成果の公開又は発表の
日の30日前までに,書面により,その内容を他の当事者に通知し,か
つ,他の当事者の書面による事前の同意を得なければならない。」(1項)
(甲1の2)
(2)本件共同研究契約に基づく共同研究は,平成23年3月31日に終了し
た。
(3)被告は,平成23年7月4日,発明者をCほか被告の研究担当者3名とし,
発明の名称を「生体吸収性の傾斜した多孔質複合体及びそれを用いた人工骨,
並びにそれらの製造方法」とする特許出願をした(特願2011-1481
23号。以下「本件出願」という。)。本件出願の願書に添付した特許請求の
範囲の記載は,別紙のとおりである。
(甲2)
(4)本件共同研究契約に基づく共同研究における被告の研究担当者らは,平成
23年11月21日,日本バイオマテリアル学会大会において,「放射線照射
によるアパタイト/コラーゲン複合体の力学特性評価」と題する発表(以下
「本件学会発表」という。)をした。
(甲8の1,2)
2争点
(1)原告が本件出願に係る特許を受ける権利を有するか(争点1)
(2)原告が本件出願に係る特許を受ける権利を有しないとされた場合に,被
告に本件共同研究契約上の債務不履行があるか,すなわち,本件出願及び本
件学会発表が本件共同研究契約上の債務不履行を構成するか(争点2)
3争点に対する当事者の主張
(1)争点1(原告が本件出願に係る特許を受ける権利を有するか)について
ア原告
(ア)本件共同研究契約に基づく共同研究において,平成22年10月こ
ろまでに,原告研究担当者Aは,被告の研究担当者らとともに,次の発
明(以下「本件共同発明」という。)をした。
a多孔質複合体
「リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維とを80:20~20:8
0の重量比で含み,重量法による密度が300~400mg/立方
cmである多孔質複合体であって,
ビニル基を導入したリン酸カルシウム結晶と,コラーゲン線維とが,
線量が10~50kGyの放射線照射により架橋されている,
多孔質複合体。」
b多孔質複合体の製造方法
「リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維とを80:20~20:8
0の重量比で含み,重量法による密度が300~400mg/立方
cmである多孔質複合体の製造方法であって,
ビニル基を導入したリン酸カルシウム結晶/コラーゲン線維混合懸
濁液から成形された多孔体に,線量が10~50kGyの放射線を
照射して架橋処理を行う工程を有する,
製造方法。」
(イ)本件共同発明の構成は,本件出願の願書に添付した特許出願の範囲,
明細書及び図面に全て開示されている。本件出願の願書に添付した特許
請求の範囲には,Aが研究に関与していない「生体吸収性の傾斜」とい
う構成が付加されているが,これは,本件共同発明に形式上文言を付加
して被告の単独発明を仮装し,本件共同発明を迂回するようにした結果
に過ぎず,発明の技術的思想の特徴的部分は,本件共同発明においてA
が発明したビニル基を導入したリン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維
とが,線量が10ないし50kGyの放射線照射により架橋されている
という点にある。そうであるから,被告研究担当者らとともに本件共同
発明をしたAは,本件出願に係る発明の発明者の一人になる。
(ウ)原告は,平成23年2月,Aから本件共同発明に係る特許を受ける
権利を承継した。
イ被告
本件共同発明は,本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の記載に接
した原告が,その一部を後知恵的に引用して創作したものであり,そもそ
も本件共同発明は存在しない。
本件出願に係る特許請求の範囲に記載された発明は,被告の研究者担当
者が発明したものであって,その特許を受ける権利は被告が単独で保有す
る。
(2)争点2(本件出願及び本件学会発表が本件共同研究契約上の債務不履行を
構成するか)について
ア原告
(ア)共同研究契約書10条2項は,共同研究上の共同発明の特許出願や
他の当事者の単独発明の特許出願と重複した出願とならないように,研
究成果の帰属を事前に明確化するための規定である。このような規定が
ある以上,被告は,その研究担当者のした単独発明について特許出願す
るに当たり,他の当事者の特許を受ける権利を侵害しないようにすべき
本件共同研究契約に付随する注意義務がある。
被告は,本件出願の願書に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面
に,単独発明であれば不要ともいえる本件共同発明の構成と効果を全て
記載した。その結果,本件出願の出願公開前に本件共同発明について特
許出願したとしても,特許法29条の2により,原告が特許を受けるこ
とはできなくなったから,被告の上記行為は,本件共同研究契約に付随
する注意義務に違反する。
(イ)被告が,発表の内容を原告に通知し,かつ,原告の書面による同意
を得ることなく,本件学会発表において,研究担当者により本件共同発
明の技術的思想の特徴的部分を含む主要な構成と効果を発表した。その
結果,本件共同発明について特許出願したとしても,特許法29条によ
り,原告が特許を受けることはできなくなったから,被告の上記行為は,
共同研究契約書17条1項に違反する。
イ被告
(ア)共同研究契約書10条2項は,共同研究で得られた発明の発明者や
その寄与率について,当事者間の認識の齟齬が生じないようにするため
の規定であるから,原告が主張するような注意義務は発生しないし,仮
にこれが発生するとしても,被告は注意義務を尽くしている。なお,被
告の本件出願によって,原告の特許を受ける権利が侵害されるという関
係にはないから,被告に注意義務違反がないことは明らかである。
(イ)本件学会発表によって,原告が本件共同発明について特許を受ける
ことができなくなったというわけではないから,被告に共同研究契約書
17条1項に違反する行為はない。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告が本件出願に係る特許を受ける権利を有するか)について
(1)発明をした者がその発明について特許を受けることができるのであるか
ら,特許出願に係る特許を受ける権利を有する者を確定するに当たっては,
まず,特許出願した発明を認定しなければならないが,特許法36条5項が,
特許出願の願書に添付した特許請求の範囲には,請求項に区分して,各請求
項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と
認める事項のすべてを記載しなければならない旨定めていることに鑑みる
と,この発明の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確
に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記である
ことが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特
段の事情があれば格別,そうでない限り,特許請求の範囲に基づいてされる
べきである。
本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の記載は,別紙のとおりである
が,本件において,上記のような特段の事情は認められないから,本件出願
により特許出願した発明(以下「本願発明」という。)は,別紙のとおりの
ものであると認められる。
(2)本願発明の構成中に本件共同発明と異なる部分があることは,原告が自
認するところであるから,仮にAが被告の研究担当者らとともに本件共同発
明をしたと認められることがあるとしても,このことをもって,Aが被告の
研究担当者らとともに本願発明の発明者の一人であるということはできな
い。
原告は,本件共同発明の構成が本件出願の願書に添付した特許請求の範囲,
明細書及び図面に全て開示されており,本願発明の技術的思想の特徴的部分
も本件共同発明においてAが発明をした部分にあると主張する。しかしなが
ら,仮に原告の主張するとおりであるとしても,本願発明の構成中に本件共
同発明と異なる部分がある以上,Aが被告の研究担当者らとともに本件共同
発明をしたことをもって,Aが本願発明の発明者の一人であるということは
できない。原告の上記主張は,採用することができない。
(3)そうであれば,Aは本願発明に係る特許を受ける権利を有しないから,原
告がこれを承継することはない。
2争点2(本件出願及び本件学会発表が本件共同研究契約上の債務不履行を構
成するか)について
(1)共同研究契約書10条2項は,当事者が自己の研究担当者から研究成果に
関する権利を取得したときに他の当事者に通知して,研究成果の帰属を決定
することを定めた規定であって,このような規定があるとしても,直ちに本
件共同研究契約に原告が主張するような注意義務が付随しているというこ
とはできない。もっとも,共同研究契約書は,10条2項を受けて,それぞ
れの当事者の研究担当者が単独で得た研究成果をそれぞれの当事者の単独
所有とし(10条3項),それぞれの当事者の研究担当者らが単独で得た発
明等に関して,特許等の出願などをするときは,それぞれ単独でそのための
手続を行うものとしている(11条1項)から,当事者は,他の当事者の研
究担当者が単独で得た発明があることを知っているときには,他の当事者に
対し,信義則上,本件共同研究契約上の付随義務として,上記発明に係る他
の当事者の特許を受ける権利を侵害しないようにする義務があると解する
余地がある。しかしながら,原告は,平成23年2月にAから本件共同発明
に係る特許を受ける権利を承継したとしていながら,被告に対して共同研究
契約書10条2項に基づく通知をした形跡はなく,その他被告が本件共同発
明があることを知っていたことを窺わせるような証拠はない(原告は,被告
の研究担当者で本願発明の発明者の一人であるBが平成23年2月7日付
けでAに宛て送信した電子メールに「アパタイトとコラーゲンに限れば出願
は絶対に大丈夫と思います。」との記載があることをもって,Bが本件共同
発明があることを知っていたかのような主張をするが,上記記載があるとし
ても,このことのみから,Bが原告の主張する構成の本件共同発明があると
認識していたとは認め難い。)。そうであるから,仮にAが本件共同発明をし
たと認められることがあるとしても,被告にこれに係る特許を受ける権利を
侵害しないようにする義務があったということはできない。
したがって,本件出願に関して,被告に債務不履行はない。
(2)共同研究契約書17条1項は,「研究期間中及び研究期間終了後6か月
間」に,研究成果を公開又は公表する場合に関する規定であるところ,本件
学会発表は,本件共同研究が終了した平成23年3月31日から6か月を経
過した後の同年11月21日にされたものであるから,これに関して共同研
究契約書17条1項に違反することはない。
したがって,本件学会発表に関して,被告に債務不履行はない。
3以上のとおりであって,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官藤田壮

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