弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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                  主          文
        原判決を破棄する。
        被告人を禁錮2年に処する。
              原審における訴訟費用のうち,証人A,同B,同
C,同D及び同Eに支給した分は被告人の負担とする。
                  理          由
 検察官の控訴の趣意は,検察官見越正秋提出(検察官仁田良行作成)の控訴趣意
書に,被告人の控訴の趣意は,弁護人岩垣雄司作成の控訴趣意書に,それぞれ記載
されているとおりであるから,これらを引用する。
第1 弁護人の控訴趣意について
   論旨は,原判決は,本件事故について,被告人運転の普通乗用自動車(以下
「被告人車」という。)が対向車線であるF運転の軽四輪乗用自動車(以下「被害
車」という。)の進行車線上に進入して発生した事故であると認定したが,そうす
ると,事故現場のセンターライン上の擦過痕がなぜ生じたのかなどについて,合理
的説明ができなくなるから,原判決には理由不備の違法があり,さらに,証拠上,
本件事故が被告人車の進行車線上で発生したことが明らかであって,被害車が被告
人車の進行車線に進入したために発生した事故であることに帰するから,原判決に
は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある,というのである。
   しかしながら,原判決は,本件事故が被害車の進行車線上で発生したと認定
して,(証拠の標目)に上記認定のための証拠を具体的に記載しているほか,(争
点に対する判断)において,認定の根拠等について具体的に説示しているのである
から,原判決に理由不備の違法があるとはいえないし,また,本件事故が被害車の
進行車線上で発生したとの原判決の認定については,当裁判所も結論においては正
当なものとして是認することができるから,原判決には所論がいう事実の誤認はな
い。以下,若干の説明を加えておくこととする。
 1 関係証拠によると,以下の事実を認定することができる。
   本件事故現場は,山口県佐波郡a町の北部のb川沿いの農村地帯に位置する
防府市方面とa町方面を結ぶほぼ南北方向の国道上であり,黄色中央線によって片
側1車線(車道の幅員3メートル)ずつに区分されたほぼ直線の平坦なアスファル
ト舗装の道路上である。そして,本件事故は,平成14年3月10日午後7時10
分ころ,上記道路を防府市方面から中央線西側車線(以下「西側車線」という。)
を北進してきた車両重量1910キログラムの被告人車右前部と,同じくc町方面
から中央線東側車線(以下「東側車線」という。)を南進してきた車両重量750
キログラムの被害車右前部が衝突したものである。
   事故後臨場した警察官によると,被告人車,被害車は,いずれも右前部付近
が大破して,走行不能の状態にあり,被告人車は,前部をほぼ北西方向に向け,前
半分が西側車線より飛び出し,後半分が西側車線にかかった状態で停止しており,
被害車は,被告人車のほぼ南東側に,車体の大部分が東側車線の外側の歩道上に乗
り上げて,前部をほぼ北東方向に向けた状態で停止しており,多数のガラス片が車
道上に飛び散っていたが,その多くは東側車線上にあり,東側車線上に8,西側車
線上に2の程度の割合であった。また,本件事故現場付近には,スリップ痕やタイ
ヤ痕は見当たらなかったが,被害車の停止位置のほぼ南西側の中央線から約1.4
メートル東方向の東側車線のほぼ中央付近に,長さ約0.3メートルの,ほぼ西北
西から東南東方向に
ほぼ平行する真新しい2つの硬い金属質のもので削られた「えぐれ痕」が認められ
たほか,上記「えぐれ痕」の北方向の中央線から約0.9メートル東側には長さ約
0.3メートルの真新しい擦過痕,さらにその北北西側の中央線付近には,長さ約
0.24メートルと約0.3メートルの真新しい擦過痕2個が発見された。また,
被告人車の車底部には,路面で削られたような真新しい金属面が出た傷が存在して
いた。さらに,被告人車を移動させたところ,停車していた位置付近には黒っぽい
オイルの跡があったほか,上記「えぐれ痕」付近から上記擦過痕付近の間には,断
続的に線状の黒っぽいオイルの跡が残っていた。
 2 以上の事実関係からすると,上記「えぐれ痕」及び上記擦過痕は,本件事故
時に形成されたものであり,特に上記「えぐれ痕」については,本件事故時に車体
の底部が路面と衝突した際に生じたものと考えられること,衝突時に散乱したと思
われる多数のガラス片の大部分が東側車線にあったこと,上記の黒っぽいオイルの
跡は,衝突によって漏れ出した被告人車のオイルの痕跡と考えられること等を総合
すると,本件事故が東側車線上で発生したことは明白というべきである。
   なお,事故直後と思われる時間帯に事故現場を自動車で通りかかったという
原審証人Cは,停止していた被告人車の後方の東側車線から中央線をまたいで西側
車線に向けて,被害車によると思われる長さ約1メートルのタイヤ痕と思われるも
のがライトの光に映ったのを見た旨供述するが,事故後そのような痕跡を見た者が
ないこと等に照らすと,信用性に乏しい供述であるから,上記判断を左右するもの
とはいえない。
 3 所論は,原判決が,①被告人車と被害車の衝突地点,衝突の形態等を認定し
ていない,②被告人車が東側車線に進入したと仮定しても,中央線付近の擦過痕が
生じた経緯はもちろんのこと,上記擦過痕が被告人車が東側車線に進入した根拠と
なるのか説明がされていない,③擦過痕は,いずれの車によって生じたのか,車の
どの部分により生じたのか不明であるから,原判決には理由不備の違法があると主
張するが,原判決の記載からして,本件衝突事故が東側車線で両車の右前部同士が
衝突した旨認定していることが明らかである上,上記擦過痕については,被告人車
が東側車線から西側車線に進行する際に生じた旨認定していることが明らかである
から,原判決に所論指摘の違法はない。
   次に,所論は,原審の鑑定によると,被害車が西側車線に進入して衝突事故
を起こした可能性が高いから,これと異なる原判決の認定には事実の誤認があると
主張するが,上記鑑定は,本件事故現場における「えぐれ痕」やガラス片の散乱状
況等の客観的資料を一切考慮しておらず,しかも,その考察の方法等も客観性,合
理性等に疑問を抱かせるものがあること等に照らすと,所論の前提自体が採用する
ことができず,当を得ない見解というほかはない。
   その他,所論を検討してみても,所論がいうような事実の誤認はない。
   論旨は理由がない。
第2 検察官の控訴趣意中,事実誤認の論旨について
   論旨は,原判決が,業務として普通乗用自動車を運転中の被告人が,眠気を
覚え,前方注視が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務
上の注意義務があるのに,これを怠り,漫然上記状態のまま時速約70キロメート
ルで運転を継続した過失により,仮眠状態に陥り,自車を対向車線に進出させ,折
から対向進行してきた被害車に自車を衝突させた旨のいわゆる居眠り運転における
運転中止義務違反を内容とする主位的訴因を排斥し,時速約70キロメートルで自
車を進行するに当たり,前方左右を注視し,自車の進路を適正に保持して対向車線
にはみ出さずに進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,前方を注視
せず,漫然前記速度のまま進行した過失により,自車を対向車線に進出させ,折か
ら対向進行してきた
被害車に自車を衝突させた旨のいわゆる前方注視,進路保持義務違反を内容とする
予備的追加的訴因を認定したが,本件が被告人のいわゆる居眠り運転による事故で
あることは明らかであるから,原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があ
る,というのである。
   そこで,原審記録に加えて,当審における事実取調べの結果を併せて検討す
ると,本件事故の原因が被告人車の対向車線への進出にあることは既述のとおりで
あるところ,本件事故現場は,農村地帯にある,ほぼ直線の平坦な道路であって,
脇見運転の可能性は考え難いこと,被告人は,対向車線に進出していながら,衝突
時までブレーキをかけることすらなかったこと,事故直後に到着した救急車に収容
されていた際,顔見知りの警察官から事故の原因を質問されて,「寝ていたと思い
ます。」と明言していたこと,その後の捜査の際には,捜査官に対して,眠気を覚
ますため,事故現場の手前約5.2キロメートルの酒店の自動販売機で缶コーヒー
とたばこを購入し,同所から約3.1キロメートルのG方付近を走行中に,軽い眠
気を覚えたが,目的
地である実家まで数分の距離であったので,居眠り運転はしないだろうと考えて,
時速約70キロメートルで走行を続け,さらに約2キロメートル進行したd橋付近
において,助手席の携帯電話のマナーモードを解除すべく手を伸ばしたことや,本
件事故現場の手前約110メートルのH医院が閉まっているのを見た記憶を最後
に,事故現場までの記憶がなく,突然ドカーンというものすごい衝突音を感じ,フ
ロントガラスが大きい音をさせて砕け,ガラス片が顔面に降り注ぎ,体に鈍い痛み
が走り,衝撃と同時に車が急停止し,ラジエターから煙が出て,大きなエンジン音
がしたので,何事が起きたのかとびっくりしたことのほか,事故後,携帯電話機を
確かめると,マナーモードが解除されていなかったことからも,事故の原因として
は,居眠り運転の結果
,自車を対向車線にはみださせたことしか考えられないこと等を供述しているこ
と,原審公判においても,上記G方付近を走行していた辺りからぼうっとした状態
であり,うっすら眠気がさしたのかもしれず,途中で車を停めようと思ったとか,
携帯電話機のマナーモードを解除しようと手を伸ばしたことまでは覚えているが,
事故後,マナーモードが解除されていなかったと供述していること,被告人は,本
件事故によって頭部外傷Ⅱ型等の傷害を負っているが,本件事故現場の約110メ
ートル手前までと,本件事故後の記憶を保っていること等に照らすと,本件事故に
よる意識障害がなかっただけではなく,本件事故の衝撃により,本件事故前後の記
憶が失われていたとは認められないこと等を総合すると,被告人がいわゆる居眠り
運転に及んだことは動かし難い事実と認められる。
   したがって,被告人は,本件事故現場の手前約110メートルの上記H医院
付近で仮睡状態に陥ったのであって,眠気を覚えた上記G方前付近で被告人が自動
車の運転を中止していれば,本件事故は回避できたことが明らかであるから,運転
中止義務違反を内容とする主位的訴因を排斥し,前方注視義務,進路保持義務に違
反したとの予備的追加的訴因を認定した原判決には,所論が指摘するとおりの事実
誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。
   論旨は理由がある。
第3 破棄自判
 以上によれば,検察官の事実誤認の論旨は理由があるから,刑訴法397条
1項,382条により原判決を破棄し,検察官の控訴趣意中量刑不当の主張に関す
る判断を省略し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において,更に判決す
る。
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成14年3月10日午後7時10分ころ,業務として普通乗用
自動車を運転し,山口県佐波郡a町内の道路を進行中,眠気を覚え,前方注視が困
難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務がある
のにこれを怠り,漫然上記状態のまま時速約70キロメートルで運転を継続した過
失により,そのころ,同町内の道路において,仮睡状態に陥り,自車を対向車線に
進出させ,折から対向進行してきたF運転の軽四輪乗用自動車右前部に自車右前部
を衝突させ,よって,同日午後8時51分ころ,同県防府市所在のI病院におい
て,同人を一時的脳幹損傷により死亡させたほか,同人運転車両助手席に同乗して
いたEに加療約392日間を要する右橈骨骨幹部骨折等の傷害を,同車両後部座席
に同乗していたJに加療約
116日間を要する左大腿骨骨幹部骨折等の傷害をそれぞれ負わせたものである。
(証拠の標目)
 当審で取り調べた実況見分調書を付加するほかは,原判決が挙示するとおり
である。
(法令の適用)
 原判決が挙示した法令(科刑上一罪の処理,刑種の選択を含む。)を適用し
た刑期の範囲内で,被告人を禁錮2年に処し,訴訟費用については,刑訴法181
条1項本文により,主文記載の限度で被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
  本件は,知人の結婚披露宴で飲酒した後帰宅した被告人が,実家の犬に餌を
やり,散歩をさせるために,実家に向けて自動車の運転を開始し,眠気を覚え,前
方注視が困難な状態になったのに,漫然,運転を継続した過失により,仮睡状態に
陥り,自車を対向車線に進出させて,対向進行してきた被害車に衝突し,運転中の
被害者を死亡させ,同乗中のその妻及び娘に傷害を負わせた,という事案である。
 被告人は,眠気を覚えながらも,漫然と運転を継続しており,しかも,アル
コールの影響もあったことがうかがわれるなど,その過失の態様は悪質であって,
被害者らには,何らの落ち度もなく,本件事故の結果,1名を死亡させ,2名に重
傷を負わせるという極めて重大な結果を招き,愛する夫を失った妻の悲嘆の情は著
しく,幼くして頼るべき父を失った娘の心情は哀れであって,被告人に対する処罰
感情も極めて厳しいものがある。
 しかるに,被告人は,本件事故自体の記憶がないにもかかわらず,原審公判
においては,対向車線に進出したことを否認して,被害車が自己の進行車線にはみ
出し運転をしたと弁解するようになり,当初は特に厳罰を望んでいなかった上記妻
の激しい怒りを買うに至っている。
 したがって,本件の犯情は悪質であって,被告人の刑事責任は重大である。
 そうすると,被告人が加入していた任意保険によって,治療費のほか,死亡した
被害者の相続人との間で4013万4933円を,その娘の被害者との間で170
0万円を,それぞれ支払う旨の示談が成立したこと,妻の被害者との間でも,保険
により,相当額による損害賠償をなし得る見込みがあること,前科はないことなど
の事情を考慮に入れても,本件は,刑の執行を猶予すべき事案とはいえず,主文の
刑に処するのが相当である。
  平成17年6月2日
   広島高等裁判所第1部
       裁判長裁判官     大   渕   敏   和
          裁判官     森   脇   淳   一
          裁判官     芦   高       源

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