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平成16年(ネ)第3686号 特許権侵害差止等損害賠償反訴請求控訴事件(原審・
東京地方裁判所平成15年(ワ)第5443号,同第8228号)
平成17年1月17日 口頭弁論終結
判決
 控訴人兼X訴訟引受人 株式会社スタビロ
           (以下「控訴人」という。)
 訴訟代理人弁護士    窪田英一郎
同   乾裕介
同補佐人弁理士  相原正
 脱退控訴人  X
訴訟代理人弁護士  柿内瑞絵
 被控訴人  JFEソルデック株式会社
訴訟代理人弁護士  吉原省三
同   小松勉
同   三輪拓也
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決は,反訴に関する部分を除きこれを取り消す。
(2)被控訴人は,別紙物件目録記載の動揺軽減装置を製造,販売してはならな
い。
(3)被控訴人は,控訴人に対し,金4800万円及びこれに対する平成15年
3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(5)仮執行の宣言
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事案の概要
 脱退控訴人(以下「X」という。)は,船舶の動揺軽減装置の制御方法の発
明に係る特許権(特許番号第3125142号,発明の名称「船舶の動揺軽減装置
の制御方法」。以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)の
特許権者であり,控訴人は,同特許権の独占的通常実施権者であった。
   Xは,原審において,被控訴人が製造・販売する別紙物件目録記載に係る船
舶の動揺軽減装置(以下「被告装置」という。)は,本件発明の技術的範囲に属す
る制御方法の使用にのみ用いる装置であるか(特許法101条3号),あるいは同
発明による課題の解決に不可欠なものであるとして(同条4号),本件特許権の侵
害を理由に,被告装置の製造・販売の差止めを求めた。
 控訴人は,原審において,本件特許権の独占的通常実施権者として,特許法
102条1項の類推適用を主張し,被控訴人が被告製品を製造販売し,これにより
本件特許権を侵害したことにより控訴人が被った損害金4200万円,及び,本訴
追行に要した弁護士費用及び弁理士費用600万円の合計4800万円の支払いを
求めた。
 原判決は,被告装置において実施されている船舶の動揺軽減装置の制御方法
(以下「被告方法」という。)は,本件発明の技術的範囲に属しない,として,控
訴人とXの請求をいずれも棄却した。
 控訴人とXは,これを不服として,控訴を提起した。
 Xは,平成16年,控訴人に対し,本件特許権を譲渡し,控訴人は,同年6
月15日にその旨の移転登録を受けた。控訴人は,平成17年1月14日,当裁判
所の決定により,Xの控訴人としての地位を承継して,本件訴訟を引受け,Xは,
平成17年1月17日,被控訴人の承諾を得て,本件訴訟から脱退した。
 当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の
「第2 事案の概要」の「2」及び「3(1)」並びに「第3 争点に関する当事者の
主張」の「1ないし3」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
 当裁判所も,「本件明細書」,「本件審決」などの語を,原判決の用法に従
って用いる。
1 控訴人の当審における主張の要点
(1)本件発明の構成要件Bの「タンク内の液体が船の復原力に対し悪影響を与
えていると判断」するということは,平均揺動角度をあらかじめ設定した数値と比
較してこの数値より小さいという結果が出るということと同義であり,同様に構成
要件Cの「悪影響を与える恐れがないと判断」するということは,平均揺動角度を
あらかじめ設定した数値と比較してこの数値より大きいという結果が出るというこ
とと同義である。したがって,本件発明の構成要件Bの「タンク内の液体が船の復
原力に対し悪影響を与えていると判断」及び構成要件Cの「悪影響を与える恐れが
ないと判断」との文言は,いずれも本件発明の構成要件B及びCの他の構成を異な
る文言で表現したものにすぎず,本件発明の技術的範囲を確定し本件発明を実施す
る上で,独自の意義を有するものではない。
(2)原判決の誤りは,本件発明においては,「コントロール部で解読した平均
揺動角度と予め設定した数値を比較し,平均揺動角度がこの数値より小さい場合に
は必ず空気ダクトのバルブを閉め,この数値より大きい場合には必ず同バルブを開
けるように作動するものでなければならない,すなわち,平均揺動角度と予め設定
した数値を比較した結果が,バルブの開閉と一対一の対応関係にあるものでなけれ
ばならないというべきである。」(原判決23頁12行~17行)と判断した点に
ある。
  原判決が,上記のように解した根拠は,そのように解釈しないと,「それ
はもはやバルブの開閉を平均揺動角度に係らしめているとはいえず」(原判決23
頁22行~23行)ということにある。しかし,本件明細書の特許請求の範囲に
は,このような「必ず」バルブの開閉を行うという要件の記載はない。平均揺動角
度があらかじめ設定した数値を上回ることは,あくまでバルブを開くための必要条
件であって,必要十分条件ではない。
  例えば,減揺水槽を用いた船舶の動揺軽減装置(以下「ART」とい
う。)は,通常,手動で非作動とすることができるが,この状態では,平均揺動角
度が一定の値以上であっても,ARTが作動状態とならないため,原判決の考え方
では,このような手動装置を用いた制御方法は,本件発明の技術的範囲に属しない
ことになる。しかし,このような結論は著しく妥当性を欠くものである。
また,条件Aで一定の制御を行うという特許発明について,その改良とし
て条件Bを加え,条件Aと条件Bが満たされた場合にのみ一定の制御を行うという
改良発明は,原判決の考え方によっては,条件Bがどのような条件であるかにかか
わらず,常に元の発明の技術的範囲に属しないことになる。本件発明の技術に,従
来周知の技術である平均横揺周期に基づいてARTの作動,非作動を切り替えると
いう技術を組み合わせると,本件発明の技術的範囲に属しないことになる,との結
論は,極めて不当である。
本件発明は,平均揺動周期を用いたARTの従来技術を前提にした技術で
あり,平均横揺角度のみでARTの作動・非作動の制御を行うことを目的としたも
のではなく,平均揺動角度が所定角度を超えても,平均横揺周期が作動領域の範囲
外であれば,ARTを作動状態にしないことを,当然の前提としているものであ
る。
また,被告方法において,ヒール角が8度に達しておらず,かつ,平均横
揺周期が作動範囲内にあるときは(このような状態は,船舶の航行中の大部分を占
めている。),平均揺動角度だけで,ARTの作動・非作動が決定されるのであ
り,原判決の論理に従っても,本件発明は,その限りでは実施されていることにな
る。
(3)原判決は,被告方法は本件発明の構成要件Bを充たさないと判断した。 
しかし,被告方法において,平均揺動角度が1度以下となった場合は,平均横揺周
期,ヒール角のいかんにかかわらず,常にバルブは「閉」状態となるのであるか
ら,原判決の論理に従っても,被告方法は本件発明の構成要件Bを充たすものであ
る。
2 被控訴人の当審における主張の要点
 本件発明の出願過程において提出した早期審査に関する事情説明書におい
て,先行技術である特公昭58-30196号公報(以下「乙2文献」という。)
との相違について,「本願発明が,基本的に船の平均横揺角度の値を以て制御判断
とすることに対し,文献(イ)(判決注・乙2文献)では,船の平均横揺周期値を
基にバルブ開閉を制御する点に相違がある。」(乙1の3・5頁下から3~末行)
と述べられている。
 また,同じく出願過程において提出された意見書(乙1の7)においても,
「以上のように本願発明は,引用された引用例-1の先行技術文献(判決注・特公
昭46-39260号公報。)の内容のものとでの根本的な相違は,本願が制御を
開始する条件として,船の平均横揺れ角の値としている処,一方,引用された引用
例-1では,一揺れ(1周期)を360度の円周角に置き換えた上で,タンク液角
度と船横揺れ角度との位相差である90度を基準としている。従って,両者はその
条件に対応し得る目的,構成,効果を異にし,・・・」と述べられている(乙1の
7・6頁下から8~3行)。
 そして,控訴人は,本件審決による訂正(以下「本件訂正」という。)によ
って,特許請求の範囲の「情報」を「船の平均揺動角度」に減縮したのである。
 以上からすれば,本件発明が従来の横揺周期による制御にかえて,横揺角に
よる制御を意図したものであることは明らかである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,控訴人の請求は,いずれも理由がなく,棄却すべきものである
と判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第4 当裁判
所の判断」の「1」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決24頁24行目「「横揺角が小さ」から25頁5行目「属するもので
はない」までを,「本件発明の構成要件B及びCのうち,「傾斜センサー(1)か
ら出力される船の横揺れ状況をコントロール部(2)で解読した船の平均揺動角度
が,予め設定してある値との比較に基づき,」(構成要件Bの一部,構成要件Cに
係る部分である。),「悪影響を与える恐れがないと判断した場合は,空気ダクト
(14)のバルブ(15)を開き液体(17)の移動を自由にする」(同C)とい
う液体の自動制御を特徴とするものとはいえない。よって,被告方法は,本件発明
の構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲に属するものということはできな
い」と改める。
2 控訴人は,本件発明の構成要件Bの「タンク内の液体が船の復原力に対し悪
影響を与えていると判断」するということは,平均揺動角度をあらかじめ設定した
数値と比較してこの数値より小さいという結果が出るということと同義であり,同
様に構成要件Cの「悪影響を与える恐れがないと判断」するということは,平均揺
動角度をあらかじめ設定した数値と比較してこの数値より大きいという結果が出る
ということと同義である,とした上で,原判決が,本件発明においては,「コント
ロール部で解読した平均揺動角度と予め設定した数値を比較し,平均揺動角度がこ
の数値より小さい場合には必ず空気ダクトのバルブを閉め,この数値より大きい場
合には必ず同バルブを開けるように作動するものでなければならない,すなわち,
平均揺動角度と予め設定した数値を比較した結果が,バルブの開閉と一対一の対応
関係にあるものでなければならないというべきである。」(原判決23頁12行~
17行)と判断したことが誤りである,と主張する。
(1)本件明細書には,次の記載がある(甲2,甲9)
【0006】ART設置の目的の1つは,大きい横揺れを如何に減少させ乗
り心地の良い環境を提供することである。そこで,従来技術のARTを搭載した船
では,時化の時の横揺れ軽減の効果は非常に満足できるものである。しかし乍,凪
などで殆ど揺れない時,また,横揺角が小さく移動する液体の量が少ない場合,或
いは前述の状態に於いて横風を受け船が定常傾斜をした状態では,最適な位相遅れ
を得ることができないから,自由表面二次モーメントが,逆に船の復原力に悪影響
を与え,不安定な動揺を誘発し極めて乗り心地を悪くするという問題点を有してい
る。
【0010】従来技術は,減揺という目的から,小さな揺れを無視し,大き
な揺れの減少に重点が置かれた。その結果,前述の問題点を処理することなく,A
RTの欠点を有したまま,客先に提供していたのである。
【0011】
【目的】本発明は,減揺装置を設置する目的である,乗り心地の良い環境
を,時化の時の横揺れもさること乍,比較的穏やかな海況に於いても作り出せるよ
う,ARTの持つ欠点を解消せしめる自動制御方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】前述の目的を達成するために,船の横揺角を
検知する傾斜センサーと,その情報を解読させるコントロール部と空気ダクトのバ
ルブを遠隔駆動し得る開閉機器装置の手段を施す。そして,タンク内の液体が減揺
の手段として作動しているか,あるいは復原力に対し悪影響を与えているか等を判
断し,悪影響を与えていると判断した場合,空気ダクトのバルブを強制的に閉鎖さ
せ,タンク内の液体が自由に移動しないよう制動させる。また,船の横揺れ状況が
変わりARTとして使用できると判断した場合は,自動的に空気ダクトのバルブを
開き復帰させることができるものである。
【0013】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を
参照して説明する。・・・
【0018】演算解読回路5は,傾斜センサー1から送信されたデータを基
に,瞬時の横揺角と横揺れ周期を演算し,その値からそれぞれの平均値を把握す
る。そして,液体の自由表面二次モーメントが悪影響を及ぼすか否かを判断させ
る。
【0019】判断の方法は,ARTの作動原理に対し,液体の移動が正常か
否かを把握すれば良いから,船の平均横揺角度,或いは平均周期の値を以て,予め
設定してある値と比較することができる。・・・
【0022】
【発明の効果】・・・本発明によれば,船の大きい横揺ればかりでなく小さ
な横揺れ情報も解析し,必要に応じて空気ダクト用バルブの開閉が自動的に行われ
る。このことは,ARTの宿命的とも言える欠点,即ち,次に示す①~③の状態に
於いて,減揺モーメントを得るための液体が,逆に船の復原力に悪影響を与え,不
安定な動揺を誘発し極めて乗り心地が悪くなるという問題点を容易に解消すること
ができる。
①凪などで殆ど揺れない時。
②横揺角が小さく移動する液体の量が少ない場合。
③前述の状態に於いて横風を受け船が定常傾斜をしている時。
(2)本件発明の特許出願人であるXは,本件発明の出願過程において提出した
早期審査に関する事情説明書において,先行技術である乙2文献との相違につい
て,「本願発明が,基本的に船の平均横揺角度の値を以て制御判断とすることに対
し,文献(イ)(判決注・乙2文献)では,船の平均横揺周期値を基にバルブ開閉
を制御する点に相違がある。」(乙1の3・5頁下から3~末行)と述べている。
 また,Xは,同じく出願過程において提出した意見書においても,「以上
のように本願発明は,引用された引用例-1の先行技術文献(判決注・特公昭46
-39260号公報。)の内容のものとでの根本的な相違は,本願が制御を開始す
る条件として,船の平均横揺れ角の値としている処,一方,引用された引用例-1
では,一揺れ(1周期)を360度の円周角に置き換えた上で,タンク液角度と船
横揺れ角度との位相差である90度を基準としている。従って,両者はその条件に
対応し得る目的,構成,効果を異にし,」と述べている(乙1の7・6頁下から8
~3行)。
(3)本件発明の特許請求の範囲は,平成15年11月26日付けの本件審決に
より,「傾斜センサー(1)から出力される船の横揺れ状況をコントロール部
(2)で解読した情報が,」を「傾斜センサー(1)から出力される船の横揺れ状
況をコントロール部(2)で解読した船の平均揺動角度が,」と訂正され(下線部
が訂正箇所である。以下同じ。),「予め設定してある条件に基づき,タンク内の
液体(17)が船の復原力に対し悪影響を与えていると判断した」を「予め設定し
てある値との比較に基づき,横揺角が小さくタンク内の液体(17)が船の復原力
に対し悪影響を与えていると判断した」と訂正され,減縮されたものである(甲
9)。
(4)本件明細書の前記の記載及び本件発明の上記出願の経過からすれば,本件
明細書の実施例においては,演算解読回路5が,傾斜センサー1から送信されたデ
ータを基に,瞬時の横揺角と横揺周期を演算してその平均値を計算し,船の平均揺
動角度,あるいは平均揺動周期の値を,あらかじめ設定してある値と比較した上
で,ARTの作動,非作動を決定するとの方法が開示されており,そして,その特
許請求の範囲は,当初,「船の横揺れ状況をコントロール部(2)で解読した情報
が,予め設定してある条件に基づき,タンク内の液体(17)が船の復原力に対し
悪影響を与えていると判断した」となっていたため,この「情報」には,上記実施
例からすれば,船の平均揺動角度のみならず平均横揺周期も含まれていたと解する
余地があったものの,本件訂正により,「船の横揺れ状況をコントロール部(2)
で解読した船の平均揺動角度が,予め設定してある値との比較に基づき,横揺角が
小さくタンク内の液体(17)が船の復原力に対し悪影響を与えていると判断し
た」と訂正され,減縮されたのであるから,本件訂正による訂正後の本件発明は,
船の平均揺動周期は考慮せずに,平均揺動角度のみをあらかじめ設定した値と比較
し,タンク内の液体が船の復原力に対し悪影響を与えているかどうかを判断してい
るものと認められる。特許権者が特許請求の範囲を減縮する訂正の申立を行うの
は,特許権が無効となることを避けるためになされるのが通例であり,本件発明
は,本件訂正により,上記のように減縮されたのであるから,これに反するような
解釈は採り得ないものである。
  以上からすれば,本件発明の構成要件Bの「タンク内の液体が船の復原力
に対し悪影響を与えていると判断」するということは,控訴人が主張するとおり,
平均揺動角度をあらかじめ設定した数値と比較してこの数値より小さいという結果
が出るということと同義であり,構成要件Cの「悪影響を与える恐れがないと判
断」するということも,同様に,平均揺動角度をあらかじめ設定した数値と比較し
てこの数値より大きいという結果が出るということと同義である,と解すべきであ
る。のみならず,本件発明の「液体(17)の制動を自動的に制御させることを特
徴とする船舶の動揺軽減装置の制御方法」(構成要件D)として,特許請求の範囲
において記載されているのは,上記のとおり,船の平均揺動角度をあらかじめ設定
した数値と比較してこの数値より小さいか,大きいかによってのみARTの作動・
非作動を決定するとの構成であるから,本件発明は,船の平均揺動角度とあらかじ
め設定した数値を比較し,平均揺動角度がこの数値より小さい場合には必ず空気ダ
クトのバルブを閉めてARTを非作動とし,この数値より大きい場合には必ず同バ
ルブを開けて,ARTを作動するとの制御方法であると解すべきである

(5)控訴人は,本件明細書の特許請求の範囲には,平均揺動角と所定角との比
較により,「必ず」バルブの開閉を行うという要件の記載はない,また,ARTを
手動で非作動とした場合には,平均揺動角度が一定の値以上であっても,ARTが
作動状態とならないため,このような手動装置を用いた制御方法が本件発明の技術
的範囲に属しないことになるのは不当である,と主張する。
  しかし,本件発明は,平均揺動角とあらかじめ設定した所定の角度との比
較のみにより,自動的にバルブの開閉を行うものであることは前記のとおりであ
る。また,本件発明は,ARTの作動・非作動を自動的に制御するための制御方法
の発明であり,ARTを手動にした場合における制御方法は,そもそも,バルブの
制御を自動的に行う本件発明の制御方法に当たらないことは明らかである。控訴人
の主張は,本件発明の方法を実施している制御装置がARTを手動で非作動とする
こともできる場合に,このことのみを理由として,当該装置について本件発明の間
接侵害を否定することができるかどうか,との間接侵害に特有の問題を指摘するも
のにすぎない。被告方法は,前記のとおり,そもそも本件発明の技術的範囲に属し
ないのであるから,控訴人の主張は理由がない。
  控訴人は,本件発明の技術に,従来周知の技術である平均横揺周期に基づ
いてARTの作動,非作動を切り替えるという技術を組み合わせると,本件発明の
技術的範囲に属しないことになるのは,不当である,また,本件発明は,平均横揺
周期を用いたARTの従来技術を前提にした技術であり,平均揺動角度のみでAR
Tの作動・非作動の制御を行うことを目的としたものではない,と主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件発明の出願人は,本件訂正により,特許
請求の範囲を減縮し,平均横揺周期に基づいてARTの作動,非作動を切り替える
との従来周知の技術及び平均横揺周期と平均揺動角の両者を組み合わせたものに基
づいてARTの作動・非作動を切り換えるとの方法を包含しないことが明確になる
ようにしたものである。控訴人の上記主張は,本件訂正の経緯及び前記(2)の本件発
明の特許出願の経緯に照らし採用することができない。
控訴人は,被告方法において,ヒール角が8度に達しておらず,かつ,平
均横揺周期が作動範囲内にあるときは(このような状態は,船舶の航行中の大部分
を占めている。),平均揺動角度だけで,ARTの作動・非作動が決定されるので
あり,原判決の論理に従っても,本件発明は,その限りでは実施されている,と主
張する。
しかし,本件発明は,前記のとおり,平均揺動角度をあらかじめ設定した
角度と比較して,ARTの作動・非作動を自動的に制御するというものであるか
ら,平均揺動角度のみならず,ヒール角と平均横揺周期が作動範囲内にあるかどう
かも考慮してARTの作動・非作動を決定する被告方法は,本件発明の技術的範囲
に属しないものというべきである。控訴人の主張は採用し得ない。
3 結論
  以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもな
く理由がない。よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから,本
件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条
1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第3部
         裁判長裁判官    佐  藤  久  夫
            裁判官    設  樂  隆  一
           裁判官   髙  瀬  順  久
(別紙)
物件目録第1図第2図、第3図別表1

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