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平成20年8月26日判決言渡
平成20年(ネ)第10023号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第17559号)
口頭弁論終結日平成20年6月26日
判決
控訴人フルタ電機株式会社
訴訟代理人弁護士小南明也
被控訴人渡邊機開工業株式会社
訴訟代理人弁護士塩見渉
訴訟代理人弁理士涌井謙一
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の「異物除去洗浄機」を製造し,販売
し,若しくは販売の申出をしてはならない。
3被控訴人は,その保持する原判決別紙物件目録記載の「異物除去洗浄機」を
廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対して,900万円及びこれに対する平成19年7月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
生海苔の異物分離除去装置中の異物分離機構について特許権を有する控訴人
(1審原告。以下「原告」という。)は,被控訴人(1審被告。以下「被告」
という。)の製造販売している異物除去洗浄機が原告の有する特許発明の技術
的範囲に属する旨主張して,被告に対し,同異物除去洗浄機の製造販売等行為
の差止め及び廃棄並びに損害金900万円及びこれに対する不法行為の後の日
である平成19年7月19日(本件訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。原審は,被告の異物除
去洗浄機が原告の有する特許発明の技術的範囲には属しないものと判断して,
原告の請求を棄却した。これに対して原告は,原判決を不服として本件控訴を
提起した。
2前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張
(1)次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ない
し3(原判決2頁8行目∼21頁18行目)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。なお,略語は,すべて原判決と同様の表記とする。
原判決14頁11行目の「止めネジ113」の後に,「(ただし,物件目
録図6−1,図6−2に付記されていない番号については,乙1記載の図面
に付した番号を指す。以下同じ)」を加える。
(2)当審における新たな主張
ア原告の予備的主張(均等侵害)
仮に,①被告製品における「回転円板3は,ケーシング部材7の上方に
重ねるように設けられていないとの構成」が,本件特許発明の構成要件B
2中の「この選別ケーシングの上方に重ねるように設け」との構成を具備
せず,また,②被告製品における「回転円板3の側面部3aと環状固定板
4の内周側面部4aとで形成された略垂直方向に開口するクリアランス」
が,本件特許発明の構成要件B3中の「この回転板の回転円周縁面と前記
選別ケーシングの円周縁面とで形成したクリアランス」との構成を具備し
ていないとしても,以下のとおり,被告製品の上記各構成部分は,本件特
許発明の構成要件B2,B3と均等である。
(ア)異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと
本件特許発明の本質的な特徴部分は,構成要件Cの「回転板の上昇に
よるクリアランス拡大」,すなわち,回転板を上昇させてクリアランス
を拡大することにより,クリアランスの目詰まりを防止し,また,クリ
アランスの容易な調整,吸込力・量等の調整,保守管理の容易化を図る
ことにある。したがって,構成要件B2中の「この選別ケーシングの上
方に重ねるように設け」の構成と異なる部分,及び構成要件B3中の
「この回転板の回転円周縁面と前記選別ケーシングの円周縁面とで形成
したクリアランス」は,本質的部分ではない。
(イ)置換可能性
被告製品は,その回転円板の側面部3aがテーパー状に形成されてい
るため,回転円板を上昇させるに伴いクリアランスが拡大するととも
に,クリアランスの導入開口部が側面に現れ出す。そのため,被告製品
のクリアランスにおいては,回転板の回転により略水平展開状態となっ
ている生海苔を,そのまま略水平状態で吸い込むことが可能となり,か
つ略水平方向からの吸込みを利用して効率よく,しかも確実に分離する
ことができ,また回転板の確実な上昇を図ることによりクリアランスの
拡大を図って目詰まりを解消することができる。さらに,クリアランス
の容易な調整,吸込力・量等の調整,保守管理の容易化を図ることがで
きる。したがって,本件相違部分を被告製品の構成に置き換えても,本
件特許発明の目的を達成することができ,これと同一の作用効果を奏し
ている。
(ウ)置換容易性
回転板と環状固定板(ケーシング部材)とをクリアランスを介して組
み合わせるに当たり,両者の位置関係を,本件特許発明の構成(選別ケ
ーシングの上方に重ねるように設け・・・た回転板)を,回転円板3の
外周縁を常に環状固定板4(選別ケーシング)の内周面よりも内側に位
置するような被告製品の構成に変更することは,設計上の微小な点に関
する変更にすぎない。被告製品の製造時において,当業者は,本件相違
部分を被告製品におけるものと置き換えることに,容易に想到すること
ができた。
(エ)被告製品の公知性
回転円板の側面部をテーパー状に形成し,回転円板を上昇させること
によりクリアランスを拡大していくという被告製品の構成は,本件特許
発明の特許出願時における公知技術(乙3)と同一ではないし,また当
業者がこれらの事実から出願時に容易に推考できたものであると認める
ことができない。
(オ)意識的限定
本件においては,被告製品の構成を採用することが本件特許発明の特
許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当た
るなど,均等の成立を妨げる特段の事情は存在しない。
以上のとおり,被告製品は,本件特許発明と均等なものであり,その技
術的範囲に属する。
イ原告の予備的主張に対する被告の反論
本件特許発明の技術思想の中核は,略水平方向に流動旋回する生海苔
を,回転板の回転円周縁面と選別ケーシングの円周縁面とで構成され,略
水平方向に開口されているクリアランスによって,そのまま略水平状態で
吸い込むことにある。
そして,被告製品構成中,本件特許発明の構成要件B2及びB3の構成
と異なる部分は,本件特許発明の本質的部分における相違であるから,被
告製品は本件特許発明の均等物には該当しない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被告製品は,本件特許発明の構成要件B2及びB3を充足せ
ず,本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,原判決の
「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1項(原判決21頁20行
目から32頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における原告の新たな主張(予備的主張)に対する判断
原告は,当審において,以下の主張を予備的主張として追加する。
すなわち,仮に,①被告製品における「回転円板3は,ケーシング部材7の
上方に重ねるように設けられていないとの構成」が,本件特許発明の構成要件
B2中の「この選別ケーシングの上方に重ねるように設け」との構成を具備せ
ず,また,②被告製品における「回転円板3の側面部3aと環状固定板4の内
周側面部4aとで形成された略垂直方向に開口するクリアランス」が,本件特
許発明の構成要件B3中の「この回転板の回転円周縁面と前記選別ケーシング
の円周縁面とで形成したクリアランス」との構成を具備していないとしても,
被告製品の上記各構成部分は,本件特許発明の構成要件B2,B3と均等であ
るとの主張を追加する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,原審が認定したとおり,①本件明細書には,本件特許発明は,従
来の技術である,筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一
の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板を軸心を中心とし
て適宜駆動手段によって回転可能とした異物排出口を設けた,特開平8−14
0637号(乙3文献)の生海苔の異物分離除去装置では,筒状混合液タンク
内で遠心力により略水平方向に流動している略水平展開状態の生海苔が,筒状
混合液タンク内の回転板の内嵌めによる垂直構造のクリアランスを通過するた
めには,生海苔を垂直方向に方向転換する必要があることから,生海苔を傷め
るおそれがあるとともに,垂直構造のクリアランスへの誘導が十分でないとの
課題があり(【0002】【0003】),本件特許発明は,かかる垂直構造
のクリアランスの課題を解決するため,クリアランスを回転板の回転円周縁面
と選別ケーシングの円周縁面とで構成し,回転板の回転により略水平展開状態
となっている生海苔をそのまま略水平状態で吸い込むことが可能となること等
を目的とする(【0004】)ものである旨の記載があり,②本件特許出願人
は,本件特許の出願経過において,一貫して,乙3文献記載の発明では,環状
枠板部の内周縁内に回転板を内嵌めするので,クリアランスは垂直方向である
のに対し,本件出願当初発明あるいは本件一次補正発明では,クリアランス
は,選別ケーシングの上方に重ねるように設けた回転板の回転円周縁面と前記
選別ケーシングの円周縁面とで形成され,クリアランスの方向は,重ね合わせ
なので略水平方向であるとし,その結果,乙3文献記載の発明では,生海苔を
垂直に曲折して吸い込むのに対し,本件出願当初発明あるいは本件一次補正発
明では,生海苔は略水平展開状態のまま吸い込まれるとの相違があると主張
し,出願前の発明(乙3文献記載の発明)との相違を強調した出願の経緯があ
る。
このような記載及び経緯に照らすならば,本件特許発明を特許発明として成
立させている技術思想の本質的な特徴部分は,構成要件B2及びB3の記載に
基づく「略水平方向に流動旋回する生海苔を,回転板の回転円周縁面と選別ケ
ーシングの円周縁面とで構成され,略水平方向に開口されているクリアランス
によって,そのまま略水平状態で吸い込むこと」にあることは明らかである。
そして,この点の詳細は,前記原審引用部分(原判決21頁20行目から3
2頁1行目まで)に記載のとおりである。
そうすると,被告製品のクリアランスの開口方向が略水平ではなく垂直であ
るという構成要件B2及びB3に係る相違は,本件特許発明の本質的部分に係
る相違というべきであるから,被告製品は,本件特許発明の均等物には当たら
ない。原告の上記主張は失当である。
3結論
原告は,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属する旨を縷々主張する
が,いずれも理由がない。以上のとおり,本件控訴は理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀

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