弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣意は,主任弁護人伊東浩作成の即時抗告申
立書に記載されているとおりであるから,これを引用する。
論旨は,要するに,原決定は,①「(被告人の殺意に関する
記載のある)警察と検察庁との間の連絡文書等」及び「総括捜
査報告書」は存在しない,②「警察が捜査経緯及び証拠関係等
をまとめた上で,警察の取調段階における事実認定及び処理方
針等が記載されている文書」は弁護人の主張との間に関連性が
ない,との理由で証拠開示請求の裁定申立てをいずれも棄却し
たが,①の点については審理不尽があり,②の証拠は弁護人の
主張と直接かつ密接の関連性があるから,原決定を取り消し,
弁護人の裁定申立てにかかる各証拠の開示を命ずる旨の決定を
求める,というのである。
1本件の経緯
本件に関する公訴事実の要旨は,被告人が,被害者宅におい
て,同女に対し,殺意を持って,牛刀で同女の後頸部を複数回
切り付け,その鎖骨部を突き刺すなどしたが,同女に加療約8
日間を要する傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げな
かった,というものである。
本件は,起訴後,公判前整理手続に付された。同手続におい
て,弁護人は,被告人の殺意を否認し,本件犯行当時被告人が
病的酩酊により心神喪失の状態にあった,と主張し,検察官請
求の被告人の供述調書は,取調官の誤導・誘導及び服用してい
た薬剤の影響等により作成されたもので任意性・信用性がない
として,その一部を不同意とし,平成19年5月30日に,「(被
告人の殺意に関する記載のある)警察と検察庁との間の連絡文
書等」,「総括捜査報告書」及び「警察が捜査経緯及び証拠関
係等をまとめた上で,警察の取調段階における事実認定及び処
理方針等が記載されている文書」の各証拠は,被告人の殺意の
不存在及び供述の任意性・信用性に密接に関連し,被告人の防
御の準備のための必要性が高い,として,証拠開示請求の裁定
を申し立てた。原決定は,上記のとおり,これを棄却した。
2当裁判所の判断
そこで,検討するに,「(被告人の殺意に関する記載のある)
警察と検察庁との間の連絡文書等」及び「総括捜査報告書」に
ついては,検察官がいずれも存在しない旨の回答をしており,
これに反する資料が存在しないから,これらの証拠は存在しな
いと認められる。所論は,検察官の回答以外の調査等をしない
ことは審理不尽であると主張する。しかし,これらの証拠は,
被告人の殺意の有無はもとより,取調官の誘導・誤導や服用薬
の影響の有無等を含む被告人の供述調書作成状況が明らかとな
る内容が記載されている蓋然性に乏しく,また,既に被告人の
各供述調書(逮捕直後のもの及び勾留質問調書を含む)及び取
調状況報告書が開示されていることに照らすと,被告人の防御
の準備にこれらの証拠を開示する必要性は乏しいというべきで
ある。このように関連性及び開示の必要性の乏しい証拠の存否
について,検察官の回答が信用できないことを示す疎明がない
以上,その存否について裁判所がさらなる審理を行う必要はな
いというべきである。所論は取り得ない。
また,「警察が捜査経緯及び証拠関係等をまとめた上で,警
察の取調段階における事実認定及び処理方針等が記載されてい
る文書」も,被告人の殺意の有無及びその供述調書作成状況が
明らかとなる内容が記載されている蓋然性に乏しく,弁護人の
主張との具体的関連性は極めて低い反面,いわゆる証拠あさり
とのそしりを招きかねない類の証拠といえるのみならず,被告
人の各供述調書等が既に開示されていることからすると被告人
の防御の準備のためにこの文書を開示する必要性も乏しいか
ら,開示するのが相当とは認められない。
その他所論がるる主張する点を考慮検討しても,弁護人の証
拠開示請求裁定申立てを棄却した原決定は正当であり,論旨は
理由がない。
よって,刑訴法426条1項により本件即時抗告を棄却する
こととし,主文のとおり決定する。
平成19年6月18日
札幌高等裁判所刑事部
裁判長裁判官矢村宏
裁判官二宮信吾
裁判官水野将徳

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