弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主       文
       本件控訴を棄却する。
       当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する。
            理       由
 本件控訴の趣意は,弁護人田上剛作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載さ
れているとおりであるから,これを引用するが,論旨は,要するに,被告人を懲役
18年に処した原判決の量刑は,不当に重い,というのである。
 そこで,検討すると,本件は,被告人が,平成15年8月10日,当時36歳の
女性(以下「被害者」という。)の頸部を,両手及び布製粘着テープで絞め付ける
などして殺害した上,同女の所持していたセカンドバッグ,現金,携帯電話機及び
キャッシュカード等を窃取し,翌11日,同女の死体をビニール袋に入れて山中に
遺棄し,さらに,上記携帯電話機を使用して,同女の夫に対し,身代金として,上
記キャッシュカードの銀行預金口座に現金を振り込むように要求する電子メールを
送信して,現金合計302万円を喝取した,という事案である。
 まず,原判示第1の殺人の犯行は,いわゆるツーショットダイヤルを通じて知り
合った被害者と親密な交際をしていたところ,かねてより計画していた自動車売買
仲介業の仕事を馬鹿にされたなどと激高して,被害者を殺害しようと企て,両手で
その頸部を絞め付けたが,手を離した際,口から泡をふき,低いうなり声を出し,
頭や手を動かす被害者を認めて,このままでは,自己の上記犯行が露見するので,
被害者を確実に殺害するほかないと決意し,布製粘着テープをその口,目,鼻等に
貼り付け,さらに,粘着テープの接着面を張り合わせて二つ折りにしてから,これ
をその頸部に巻き付けた上,強く絞め上げて殺害したというものであって,犯行の
動機としてはあまりにも短絡的かつ身勝手であって,酌むべき余地など全くない
上,犯行の態様はまことに冷酷かつ残忍というほかはなく,貴重な生命を一方的に
奪われた被害者の無念さはもちろんのこと,突如愛する被害者を奪われた遺族の受
けた苦痛,衝撃も甚だ深刻なものがある。しかも,犯行を終えるや,直ちに被害者
の所持品を改めて,現金や金目のものを窃取する原判示第2の犯行に及んだ後,遺
体を隠匿した自動車を駐車させたまま,会う約束をしていた女性と落ち合って食事
をした際には,窃取した現金でその代金を支払っているのである。さらに,その
後,殺人の犯跡を隠蔽するため,上記遺体の両手足首等を布製粘着テープで巻き付
けて,身体を折り曲げ,ビニール製ゴミ袋内に上記遺体を入れ,山中の急勾配の崖
下に投棄する原判示第3の犯行に及んでから,被害者のセカンドバッグ等を売却処
分したほか,被害者の携帯電話機及びキャッシュカードを使用して,被害者の夫か
ら,身代金を装って金員を脅し取ろうと企図し,被害者が帰宅しないのを心配して
上記携帯電話機に電子メールを送信してきたその母親の携帯電話機にあてて,被害
者の生存を装った上,上記キャッシュカードの預金口座に現金を振り込むことや,
その暗証番号を教示するように要求する電子メールを送信して,被害者の夫をして
上記預金口座に入金させた上,警察官の警戒を免れるため,広島県福山市内に移動
したほか,現金自動預払機から現金を引き出す際,防犯カメラによる写真撮影に備
えて,見知らぬ他人に引出しを依頼し,現金合計302万円を入手する原判示第4
の犯行に及んでいるのである。その後は,再び広島市内に戻って,宿泊したホテル
でいわゆるデリバリーヘルスを利用して,その代金を上記現金で支払ったほか,そ
の翌日には,交際していた女性とともに,山口県下関市内の花火大会を楽しんでか
ら,同県岩国市内のホテルに同宿していたという事情もうかがわれる。
 このような本件犯行の経緯,態様等に照らすと,既述のとおり,原判示第1の殺
人については,犯情甚だ悪質であることが明らかであるばかりか,その後の各犯行
も悪質であり,特に原判示第4の犯行は,被害者の安否を憂慮する夫から金員を喝
取したものであって,自らの殺人行為を反省することなく,これを利用した狡猾,
卑劣極まりない悪質な犯行である。しかも,被害者の殺害とは無関係であることを
偽装するため,上記被害者の携帯電話機に電子メールを送信したり,警察からの事
情聴取に備えて,嘘の供述内容を準備してメモしておいたり,被害者の着衣等を方
々のゴミ箱に投棄する罪証隠滅工作に及ぶ等の本件各犯行後の行動等を併せ検討す
ると,原判示第1の殺人の犯行後は,終始周到かつ冷静に行動していることがうか
がわれるばかりか,原判示第1の殺人の犯行に対する悔悟の念等は一切感得するこ
とができないのであり,その反社会性を否定することは困難である。
 このような諸事情を総合すると,被告人の刑責は重大極まりないというべきであ
る。
 所論は,原判示第1の殺人の犯行は,いわゆるもうろう状態ないしは原始反応の
短絡行為類似の状態で行われた可能性が高く,量刑上心神耗弱に準じた扱いをすべ
きであると主張するが,既述のとおり,原判示第1の犯行は,激高のあまり,殺害
を企図して,両手で首を絞めた後,被害者が死亡していないことに気付いて,この
まま生かしておいた場合には,自己の上記犯行が発覚すると考えて,粘着テープを
使用して,頸部を絞め続けて殺害したというものであって,了解することが困難な
点などは認められず,所論に賛同することはできない。
 したがって,原判示第4の犯行で得た現金のうち,費消した約18万円の弁償を
申し出ているほか,被害者の遺族に対して,被告人の両親から拠出される300万
円の支払いを申し出ていること,原判決後,被告人が謝罪文を作成して,被害者の
遺族にあてて送付を希望していること,前科前歴がないこと,その他,被告人のた
めに考慮すべき諸般の情状を勘案してみても,原判決の量刑が不当に重いとはいえ
ない。
論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審に
おける未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入して,主文のとおり判決する。
  平成17年5月17日
    広島高等裁判所第1部
        裁判長裁判官   大   渕   敏   和
           裁判官   森   脇   淳   一
           裁判官   芦   高       源

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