弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人等の平分負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、本判決書末尾添付の、被告人Aの弁護人一ノ宮直次、被告
人Bの弁護人大橋正己各作成の控訴趣意書記載のとおりである。
 弁護人一宮直次の控訴趣意第一点及び弁護人大橋正己の控訴趣意中事実誤認を主
張する点について、
 弁護人一ノ宮直次の主張は、本件のCD工場と国鉄東海道線E駅との間約三・七
キロメートルに敷設している同会社専用側線の運転については、国鉄の構内運転方
式によるべきか車両の入換方式によるべきか明らかでないが、右車両入換方式によ
るときは貫通制動機能は停止していても差支えないことになつているので、これで
は千分の二十ないし二十五の急勾配の本側線で運転の安全を期し得ないところか
ら、前記会社の輸送係長Fは、「大体入換方式によるのだが、貫通制動だけは実施
する、しかし、本線運転の場合のような厳格な制動試験を行わせる必要もなく、ま
た、施設装置からいつてもできないので、一旦空気か貫通し、その事実を確認した
らそれ以上緊締緩解等の試験をしなくてもよい」との指示をなし本件事故発生まで
この変則方式によつて運転してきたのであつて、被告人Aは、連結掛か機関車を連
結し、エヤーホース(制動管)をつなぐや、いわゆる圧縮空気の「込め」を実施
し、その際機関車内に装置してある空気圧力計によつて貫通を確認しかつ操車掛代
務の相被告人Bから貫通の連絡を受け(被告人Bは列車の中程の位置に立つていて
シューという空気の通る音を聞いたと述べている)たので、制動試験を実施しない
で列車を運転発車しても被告人Aには過失の責任はない、本件の事故は、一旦空気
が貫通した後において客車の「ヒジコツク」が閉鎖されたか、前車両の脱線顛覆と
ともにエヤーホースが切断し後部全車両に空気制動がかかりよつて急停車したもの
と推察される、というのであり、弁護人大橋正己の主張は、本件専用側線は、C株
式会社D工場かE駅の構内の一部として線路を建設しこれを国鉄に提供して会社自
らの手で運転しているのであつて、私設鉄道や専用鉄道のように厳重な監督法規も
なく国鉄の運転規定そのままが適用されるのであつて、右国鉄の運転規定及び監督
官庁の指示項目以外は、会社において自ら運転規定を設けて差支えないところであ
るが、原判決が援用する「国鉄の職別運転取扱心得から抜萃された同工場の列車運
転取扱規定」(証第八号)なるものは本件事故発生当時はまだ草案程度であつて制
定に至らなかつたにかかわらず、原判決がこれを遡及適用して被告人の業務上注意
義務認定の根拠としたのは、採証の法則、法令の適用を誤つたものである。本件専
用側線の運転方式は、構内運転方式によるべきであるが、日本国有鉄道運輸総局制
定の運転取扱心得の第七十一条と第七十二条とを対比すれば、構内運転において貫
通制動機を使用することは強制されているけれども、列車か停車場外の本線に乗り
出して行く場合のほかは制動試験の実施を強制されていないことが明らかであり、
かつ、機関士は制動用の空気の「込め」を行う際制動用空気か貫通したがしないか
はゲージ(圧力計)を見れば判るし、連結掛が「ヒジコツク」を開披し操車掛及び
連結掛か部まで制動空気が貫通したか否かを確認すれば、制動試験を省略しても何
ら運転上の危険はないのみならず本件側線のダイヤは本線との接続関係から定時運
転を強要されているので積込作業との関係で時間的余裕のない場合が多く、従つて
被告人等の上司であるF輸送係長及びG構内主務から制動試験を行う必要がないと
指示されているのである、そして「ヒジコツク」の開披は連結掛のみの本務であつ
て、構内掛(操車掛)は連結掛とともに開披の確認義務を負うているに過ぎないと
ころ、被告人Bは制動空気が音を立てて後方に貫通したことを確認したと主張して
いるがこれを結果からみれば客軍一両に貫通しただけで後方貨車に及んでいなかつ
たのであるから、後方貨車への貫通確認を怠つたか否かに同被告人の過失責任の存
否がかかるのである、しかし国鉄においては下級職を代務することはあり得ないと
ころであつて、会社内においては左様に厳格ではなくても、代務とは有資格著で勤
務表にあらかじめ予定じ指示されている者にのみ言い得るのであるから、被告人B
は右の代務に該当せず臨時に命ぜられた助手に過ぎないから貫通確認の義務もな
い、従つて同被告人には業務上過失の責任がない、というのである。
 よつて案ずるに、原判決の挙示する証拠及び当審証人Hの尋問調書、当審におけ
る検証調書の各記載を綜合すれば、被告人Aは、もと日本国有鉄道の機関士で、原
判示のC株式会社D工場に雇われ、倉庫課輸送係として、同工揚と国鉄東海道線E
駅との間約三、七キロメートルに敷設してある専用側線の列車機関士をしており被
告人Bは、もと国鉄の連結手で右同様向会社倉庫課運輸係所属の連結掛であるとこ
ろ、同側線の運転方式は、国鉄運輸総局制定の「運転取扱心得」に準ずるべきもの
であり、また上司からもその趣旨の命令を受けていたが、原判示の昭和二十七年十
一月九日は、同会社倉庫課輸送係所属の構内掛(国鉄の操車掛に当る)Gが早退し
たため、輸送係長F(本件の事故により死亡)から、被告人Bが構内掛代務を命ぜ
られ、同輸送係所属機関車技工たる原審相被告人Iが連結掛(国鉄の連結手に当
る)代務を命ぜられ、同日午後四時十分頃、前記工場の構内において、三名協力し
て同日午後五時十五分発E駅行列車の組成に着手し、客車一両(前記会社所有)、
貨車十一両(一貨車にセメント約十五屯積込)及び空貨車三両(以上の貨車は全部
国鉄所有)計十五両を右記載の順序に連結し、その客車の前にタンク機関車(同会
社所有)を連結して列車を組成したこと、前記専用側線の大部分は、工場からE駅
に向け、千分の二十ないし二十五の下り勾配になつているから、列車の進行につれ
て自然的に加速度を生ずる地形であり、かつ同駅までの間に国道と県道の踏切ほか
数ケ所の小踏切があること、及び本側線の列車には貫通制動機を使用するよう監督
官庁から指示されていたことを認め得られる。
 <要旨>元来、列車を運転するには機関車の制動機だけでは足りないから、貫通制
動機(列車を組成した車両の全部に制動管を貫通させて機関士の操作により
一斎に制動を行うことのできる装置)を使用することになつているが、その貫通制
動機に故障があるときは、運転上極めて危険であるから、列車の発車前に貫通制動
機の機能を確認するため制動試験を行わなければならないのであつて、まして本件
のように、約三・七キロメートルの下り勾配であり、かつ数ヶ所の踏切を通過する
ような線路を運転するとき、若し貫通制動機に故障があるときは、全区間を一挙に
暴走し重大な事故発生の原因となるおそれのあることは、容易に予想し得るところ
であるから、列車を組成したとき、機関士及び操車掛は、上司の指示や、会社の運
転内規の有無、または運転方式の種別のいかんにかかわらず、列車の発車前に貫通
制動機の制動試験を行つてその機能を確認しなければならないことは、むしろ多言
を要しないところである。日本国有鉄道運輸総局制定の「職別運転取扱心得、機関
士編、操車掛編」(前記運転取扱心得を職別に編さんしたもので、被告人等がFか
ら交付されたもの)によれば、列車を組成したとき、操車掛は車両間の制動管が連
結されたうえ「ヒジコツク」が開かれていることを確認し、機関士は直ちに制動管
の圧力が五キログラムに達するまで圧縮空気の「込め」を行い、操車掛は「制動機
を緊締せよ」との合図を行い、機関士は制動管の減圧を行つて制動機を緊締し同時
に制動管の漏えい状態を確め、操車掛は最後部の車両の制動機が緊締されたことを
確めてから、「制動機を緩解せよ」との合図を行い、機関士は制動機を緩解し、操
車掛は最後部車両の制動機が緩解されたことを確めて機関士に「制動試験終了」の
合図を行い、機関士の短急気笛一声の応答によつて制動試験を終了する方式によつ
て、制動試験を行わねばならないことになつているから、被告人等はこれに準じて
制動試験を実施するべき業務上の注意義務があるといわなければならない。所論の
「CJ工場専用側線運転内規」は、前記の証拠によると、同会社倉庫課長Kの命に
よりGが前記国鉄の「運転取扱心得」中から必要な個条を抜萃して起案したもので
あつて、その趣旨は各列車関係徒業員に示達せられていたが、まだ印刷配布せられ
ていなかつたものと認められる。しかし、かような内規の効力の有無を論議するま
でもなく、本件において被告人等が機関士として、また、構内掛として、列車の発
車前に制動試験を実施するべき義務を負うているといわなければならない。また、
被告人Aは圧縮空気の「込め」を行う際制動管のゲージ(圧力計)によつて空気の
貫通を確認したから制動試験実施の必要がないという所論は、制動管が閉塞してい
るときは貫通しているときに比して「込め」に要する時間が短いだけで圧力計の指
針の停止位置は同一であることが当審における検証の結果明らかであるから、制動
管の圧力計が所定の五キログラムを指したとしても空気が貫通しているかどうか判
明しない道理である(むしろ、圧力計の指針の動きを注視しておれば、車両数と制
動管、制動筒、補助空気溜に残留している圧縮空気の多寡とを比較し不貫通の事実
を発見し得るのであるから、同被告人は圧力計を注視していなかつたものと思われ
る)。被告人Bは列車の中程の地点で制動管を通過する圧縮空気の音を聞いてその
貫通を確認したから制動試験を行う必要がないとの所論も、その点に関する同被告
人の供述は信用できないものであるのみならず、かような方法は貫通確認方法とし
て不適当であるから、仮りに空気の通過音を聞いたとしても、それによつて制動試
験実施の義務を免れるものではない。
 前記の証拠によると、連結掛代務たる原審相被告人Iは、前記客車に直結する貨
車以下の各車両間の制動管を連結し、それらに附属している「ヒジコツク」を開披
したが、前記客車とこれに連結する貨車との間の制動管附属の「ヒジコツク」一個
は、被告人Bか開披したものと軽信してこれを開披することを怠り、被告人Bは、
前示業務上の注意義務を怠つて制動試験を実施せず、被告人Aも同様、単に圧縮空
気を込めただけで、それが連結された制動管全部に貫通したものと軽信して制動試
験を実施しなかつたため、前記客車と貨車との間の「ヒジコツク」一個が閉塞せら
れ、従つて制動用圧縮空気の流通が阻止せられて貫通制動機能が作用しなくなつた
のであるが、被告人等はこれに気付かないで列車の組成を終了したものとして列車
に乗り組み、右の客車に同工揚の工員を乗せ、前記Fの合図によつて定時に同工場
を発車し、工場から約二百メートルを隔てた地点において、被告人Aが下り勾配に
よる自然加速度を調節しようとして制動措置をとつたところ、貫通制動機が全く効
かないことを発見し、機関車用の制動機による非常制動操作をしたが効果がなく、
下り勾配による加速度のため列車が暴走し、同日午後五時二十五分頃、時速約三十
五キロでE駅構内に突進し、車止を突破して、機関車、客車各一両及び貨車五両
を、右車止を越えた線路下に脱線顛覆させて破壊し、右各車両の顛覆破壊による衝
撃圧迫等のため、あるいは右列車の暴走中避難しようとして車外に飛び降りたた
め、乗車していた前記工場の従業員等九名を死亡させ、八名に対して重軽傷を負わ
せたことを認め得られる。被告人Bは当日係長Fから構内掛代務を命ぜられたもの
であるが、代務たる以上本務者と同様の注意義務を負うことは当然であるのみなら
ず、同被告人の検察官に対する供述調書及び押収にかかる証第七号の「従業員勤欠
表」の各記載によつても、列車係従業員の数が少いため互に交替して職務を代行し
ていることを認め得られるから、同被告人が当時構内掛としての業務に従事し、従
つてそれに基く責任を負わなければならないことは明白である。また、空気貫通後
において何者かが制動管を閉塞したのではないかという所論は単なる憶説であつて
何らの根拠がない。原判決が被告人等に対して業務上過失致死傷罪に問擬したのは
正当であつて、記録を精査しても原判決に事実誤認その他所論のような違法はない
から、論旨は理由がない。
 弁護人一ノ宮直次の控訴趣意第二点及び弁護人大橋正己の控訴趣意中量刑不当を
主張する点について、
 本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、本件犯行の動機、態
様、被害の甚大であること、その他諸般の事情を考慮すると、原審の量刑は不当に
重いとは言えない。(原審がIに対して刑の執行を猶予したのは、同人が本来機関
車技工であつて操車に関係がないことを参酌したものと想像される)。論旨は理由
がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条第一項本文により主文のとお
り判決する。
 (裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)

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