弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人佐藤軍七郎の上告理由第一点一乃至三、第二点について。
 原判決(第一審判決の理由を引用)の確定したところによれば、破産会社D(昭
和三〇年一月二七日破産宣告)は、上告会社(控訴人)との間に昭和二四、五年頃
から取引を続けており、加えて、両者間に融通手形を交換し合つて資金上の便宜を
図っていたが、昭和二七年頃から次第に営業状態が悪くなり、昭和二八年八月一五
日上告会社との間に、将来同会社からDに対して振出すべき融通手形の担保として、
本件借室権を、賃貸人の承諾のもとに、上告会社に譲渡する旨の契約を締結し、そ
の後、Dは、同年一一月三〇日支払を停止するに至り、同年一二月一〇日上告会社
に対して負担する売掛代金債務八六六、四五九円、約束手形金債務八四〇、〇〇〇
円合計一、七〇六、四五九円の代物弁済として、本件借室権(時価一、七二九、六
五五円)を一、三〇〇、〇〇〇円に、同借室備付の什器々具一切(時価二四、〇〇
〇円)を五〇、〇〇〇円に、及び電話加入権一口(時価二口で約一五〇、〇〇〇円)
を一〇〇、〇〇〇円に、それぞれ評価のうえ、譲渡した(なお、右借室権等は現在
上告会社より他に処分されている。)というのであるが、原判決は、本件代物弁済
契約は右のように借室権のみならず什器、電話加入権をも附加し、これをもって前
記譲渡担保契約の被担保債権とされていなかった売掛代金債権をも含めた一、七〇
六、四五九円の弁済方法としてなされたものであって、前記譲渡担保権の実行とし
てなされたものとは解し難く、また、譲渡担保権には別除権は認められず、しかも、
本件弁済契約がなされた前記経緯によれば、従前の譲渡担保契約は消滅に帰したと
みるのが相当であり、代物弁済契約が否認されたからといつて、一旦消滅に帰した
譲渡担保契約が復活すべき根拠はないとした後、本件代物弁済契約の成立により他
の破産債権者に対する弁済手段が減少し、破産債権者が損害を被る事情に在り、破
産会社D及び上告会社は右の事情を知りながら本件代物弁済契約を締結したもので
ある旨を認定し、上告会社の有していた本件譲渡担保権の存在は被上告人の本件代
物弁済契約に対する否認権行使の範囲に影響がないとの趣旨の見解の下にこれを考
慮することなく、上告会社に対し前記代物弁済に供された物件の代償として一、四
五〇、〇〇〇円の支払を求める被上告人の本訴請求を全部認容しているのである。
 しかしながら、本件譲渡担保契約そのものが否認さるべき場合は格別、上告人が、
従前本件譲渡担保権により担保されていた前記約束手形債権につき、右担保権の目
的である前記借室権をもって代物弁済を受けても、その弁済額の範囲内においては、
右の代物弁済は他の債権者を害するものでなく(もっとも、前記借室権の時価と右
弁済額との差額については他の債権者を害しないとはいえない。)、従って否認の
対象とはならない筋合である。
 しかるに、原判決は、前記のとおり、他に首肯するに足る理由を示すことなく、
本件譲渡担保権の存在を全く無視して被上告人の本訴請求の全額を認容しているの
であって、ひっきょう、法令の解釈を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を
犯しているものといわざるをえない。
 従って、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よって、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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